Another Trainer   作:りんごうさぎ

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タマムシ脱出編
1.夢によばれて


 ――おいで――

 

 誰? 誰かに呼ばれている気がする。お前はいったい……?

 

 ――おもしろいトレーナー、みぃつけた――

 

 ぼんやりと見えるその人影はワンピースを着た青い髪の少女の後ろ姿。クスクスとこっちを振り返りながら笑っている。手招きするその輪郭はぼやけて見覚えのある別の姿にも見えるような……。

 

 ――おいで、私のハウスに――

 

 段々とその誰かの姿が遠のいていき、手を伸ばして後を追うが思うように体が動かない

 

 ――落ちて――

 

 え?

 

 混乱するうちに突然浮遊感に襲われ、強い衝撃と共に光が差し込んで目を覚ました

 

 ◆

 

 バタン!!

 

「いってぇ……ここはどこだ?」

 

 目が覚めると俺は知らない路地裏で倒れていた。どうしてこんなところにいる? 突然の異常事態に戸惑うが混乱していても仕方ない。まずは自分の現状を確認してみた。

 

 浮浪児のようなボロい恰好。全く知らない場所に手ぶらで寝っ転がっていて、しかもこころなしか背が縮んでいるような…………?

 

 そんな話も漫画ではあった気がするが現実とは考えにくい。夢でも見ているのか? そう思い立ち上がろうとすると体の節々から鈍い痛みが走った。

 

 この感覚……夢とは思えない。夢でも感覚がある場合もなくはないって聞くがリアル過ぎるし……ならどうしてこんな状況になった? そもそもここはどこだ?

 

 いや、考えても仕方ない。情報が無さ過ぎて推測しかできない。まずは誰か人から話を聞いて考えよう。前向きにそう思った時にはすでにさっき見た夢のことは頭から離れてしまい、深く考えることはなかった。

 

 歩き回ることしばらく、ようやく大通りが見えた。しかし無理に体を動かしたせいか体中の痛みがひどくなってきた。早く休みたい気持ちから俺は最後の力を振り絞り小走りで通りに出た。

 

 人がいた! ずいぶん久々に人と会った気分だ。とりあえず近くにいた人に声をかけた。

 

「すいません、尋ねたいことが……」

 

 ……あるのですが、と言い終わる前に怒声が上がった。

 

「貴様! 裏路地のクソガキがなにしにきよった!」

「またか?! 今度という今度は許さん! 徹底的に痛めつけて二度と悪さできないようにとっちめてやる」

 

 1人だけじゃない。突如周りにいた人達全員が呼応してドス黒い負の感情を抱えながら俺に近づいてきた。

 

 迫ってくる人だかりのうちの1人とたまたま目が合った。この目……まるで自分の心に直接作用してくるようだ。怒りや憎しみがなんの障害もなくまっすぐ自分の芯にまで流れ込んでくる。

 

 ……怖い。感じたのは純粋な恐怖。全く見ず知らずの者から向けられるまじりっけなしの憎しみに思わず体が竦んでしまった。相手は怯えた俺の隙を見逃さずに襲いかかってきた。

 

 まさかいきなり殴られるとは思わずとっさのことで反応できない。そのうえ体はすでにボロボロときている。モロに拳をもらってしまった。多勢に無勢で抵抗できず、終わらない痛みにのたうち回りうめき声をあげることしかできずいつの間にか意識を失っていた。

 

 めのまえが まっくらに なった……

 

 ◆

 

「痛っ! ここは……?」

 

 早くも今日2回目のお目覚め。辺りを見るにどうやら町の郊外に放り出されたらしい。憎らしいほどの大自然だ。もう日は沈みかけている。満身創痍の子供1人をこんなところに置いてきぼりとは容赦ない。

 

 くそっ、あいつらめ……! さっきのことを思い出して怒りが込み上げてきた。受けた仇は必ず返す。だが脳裏に蘇るのはあの目……思い出すだけでも身震いする。俺はこんなに臆病で弱かったのか? 信じられない……でも今は否定することもできそうにない。

 

「いや、弱気になってどうするっ! 一度でもあんな屈辱を受けたことは絶対に許さねぇ! どうしてあんなことをしたのかは知らない。だが俺にはそんなこと関係ねぇ! この借りはいつか10倍にして返してやる!!」

 

 覚えてろっ! 

 

 そう虚空に叫んで怒りを爆発させながら復讐を己に誓った。

 

 ガサガサ……

 

 近くの草むらから物音がした。思わず大声を上げたせいで野良犬でも寄ってきたか? 音のした方向の様子を見ていると予想の遥か外の生き物が出てきた。

 

「ポッポ」

「ポケモンッ!?!?」

 

 さらに驚く間もなくポッポの先制攻撃が飛び出し“たいあたり”をモロにくらってしまった。ここはゲームじゃないから戦闘開始の合図なんてあるわけないということか!

 

 だが地面に倒れるまでの刹那の間、宙にふっとばされながら周りの景色がスローモーションで流れるような感覚を味わった。それと共にこの瞬間全てを悟った。

 

 ここはポケモンの世界で、俺は何の因果かここに迷い込んでしまった。そう、あの夢の誰かに呼ばれて……。

 

 そしてここは夢なんかじゃない。それはこの痛みが、怒りが、俺の本能がはっきりと教えてくれる。

 

 だとすると今のこの状況……かなりマズイ。俺の体はすでに危険な状態にある。今ここで負ければこの世界での人生は終わってしまうだろう。敗北は死、負けは許されない。ならば何としてでも勝つ! たとえ手持ちも道具もなく、この身1つだけであっても勝ってみせる!

 

 体の奥底から生への強い渇望と復讐を望む堅い意志が沸々と湧きあがり、痛む自分の体を強引に突き動かした。

 

「この程度の攻撃……!」

 

 思考は一瞬。意識が現実に舞い戻る。今俺の体は宙にあって身動きはできない。なら逆らわず流れに身を任せる。

 

 改めて絶対に負けない決意を胸に固め、受け身を取りながら起き上がって後ろへステップ。いったん敵と距離を取った。幸いにもポケモン勝負は得意分野。もちろん面と向かって自分が戦ったことはないが必要なことは全て知っている。

 

 ずっとこのゲームをやりこんでいた俺には自然と脳内で懐かしい音楽が思い返された。最初に草むらでポケモンに出会ったあの時のメロディだ! 人生最大のピンチでありながらどこか楽しむ余裕すらあった。

 

「フルッフー」

 

 戦闘体勢をとった俺を見てポッポも警戒を強めた。むやみには突っ込んで来ないか。さっき受けた技のダメージ的に大したレベルではないはず。だが野生なだけあって獲物に容赦はないらしい。本気でこっちを倒す気なのが伝わってくる。そこまで甘い相手ではないようだ。

 

「何か突破口はないか?」

 

 なんでもいい……なんでもいいからとにかく戦略の起点になる取っ掛かりが欲しい。じっと目を凝らしてポッポを観察していると、フッと頭に見たことのない映像が浮かんできた。

 

 ポッポ♂ Lv15 おだやか

 実数値 38-17-17-17-18-23

 個体値 10-04-02-12-15-14

 努力値 00-00-00-00-00-00

 

 これは……このポッポのデータか? 何かが自分の中に流れ込んで来るような初めての感覚と共になぜか急に頭に浮かんできた。視界に映っているが視界を妨げてはいない。よくわからんな。なんだこれ……さすがに精神異常による幻覚とかではないと思いたいがこんなの普通じゃない。もう何がどうなっているんだっ!

 

「ポッポッ!」

「これはかぜおこし……! よけるっ、よけるしかない!」

 

 悩んでいても相手は待ってくれない。遠距離攻撃にはこっちが素手である以上突っ込んでも意味がない。ここは逃げの一手。だがいつまでも遠距離から狙われ続けたらヤバい。一度相手の使える技を確認したいな。

 

 ……技は見えないのか! そう念じると技も同じく浮かび上がってきた。

 

 

 たいあたり でんこうせっか かぜおこし すなかけ エアカッター ……

 

 これは便利だ。今は緊急事態、この際訳も理由も後回しでいい。使えるものは有難く使わせてもらう! ポッポがこの程度の技だけならなんとかなりそうだ。

 

 技を躱した後、“かぜおこし”を連打されるのを防ぐため一気に近づいて接近戦に持ち込んだ。相手も“たいあたり”で迎え撃って来たのでぶつかる直前を見極めて回避し、後ろを取ったところに回転で勢いをつけた蹴りをお見舞いした。

 

「ポッ!?」

 

 10削った。HPは全部で38……ダメージは約4分の1ってところか。その後苦し紛れに撃ってきた“すなかけ”を腕で目を守ってやり過ごし、再びの“たいあたり”には同じように対応して蹴り飛ばした。さすがに人間よりは知能が低いらしい。弱い技ばかり使うのは不幸中の幸いだな。

 

 コツを掴んだのでその後も1番弱い技の“たいあたり”に狙いを絞ってカウンターを繰り返した。但し相手も躱す、避けるは当然のように行ってくるのでさっきみたいに何度もクリーンヒットさせるのは難しい。

 

 そんな中でもジリジリと削っていき、時間をかけて残りHP5まで追い詰めた。そこで急に今までと違う動きをして突っ込んできた。まだ見ていない攻撃は限られている。

 

「速い!」

 

 これは“でんこうせっか”……! 技を確認した時から想定していたのでとっさのガードが間に合ったが、もし完全に不意を突かれていたらヤバかったであろう攻撃だ。

 

「こん畜生めっ!」

 

 “でんこうせっか”を使用した後なぜか動かないポッポに拳で連続で殴りかかり、なんとか体力を0にした。ポケモンの技でいえば“れんぞくパンチ”ってところか。スーッと体が軽くなる感覚と共に、自分も力を使い果たして倒れた。

 

「ッッシャアア! 俺の勝ちじゃーっっ!!」

 

 勝利の雄叫び。しかしまだ意識を手放すわけにはいかない。幸いと言っていいかわからないがアドレナリンが切れたのか体中に痛みが戻り、そのおかげでまだ意識はしっかりとしている。食料と安全な寝床を確保しないとここで気絶するのは絶対にダメだ。また襲われないとも限らないわけだし。

 

 無い力を振り絞りきのみのなる木を探し当て、ようやく食事にありつけた。きのみはさっきの力の適用外らしくポケモンのようには探せずに少々時間がかかってしまった。もうとっくに日は沈んでいる。

 

 木に登り手頃なきのみを1つもぎ取ってそのままかじりついた。

 

「これは“オレンのみ”か。体力を消耗しているから丁度いいな。……んっ!? ポケモンの食べるものかと思いきやおいしい……! しかも目に見えて体が癒えてくる!?」

 

 トンデモきのみだ。痛みが引いていく。まるでゲームそのままの効果。そういえばポッポの能力は数値化して“視る”ことができた。ならここはゲームに近い世界なのだろうか。だが戦闘中にポケモンがこちらの様子を見るような仕草をするリアルな部分もあった。

 

 だとするとベースはゲーム寄りだがそれを元にリアルっぽくした感じ……ということなのか? これはおいおい確かめていくしかないし、あの不可思議な相手の能力がわかる力もどういうものか検証しないとな。

 

 とりあえず元の世界とは全く別のところに来てしまったのは間違いない。未だにわけがわからない状態だが今はとにかく休んで明日に備えよう。疲れが限界を迎え、思考もそこそこに眠りについた。

 

 ◆

 

 夜間は木の上で眠ったので襲われることも特になく無事に朝を迎えられた。寝心地の悪さであまり眠れなかった以外は問題ない。空が明け始めていて、木のてっぺんから周りを見渡せば近くに昨日いたのだろう町が見えた。そして改めて今後どうするかを考えた。

 

 もう二度とあの町には近づきたくないほどひどい目にあったが、今の俺はこの世界について一切の情報を持ち合わせていない。こんな町の外うろついていたらどんな目に合うかわからない。

 

 冷静に考えると今の俺は知らない土地に着の身着のままで放り出されたような状態だ。しかもポケモンとかいう人を襲う凶暴な生き物までいるのだからさらに状況は悪いと言える。……そもそもよく考えたら初の戦闘が自分の肉体でのタイマン勝負とか、ちょっとこのゲーム壊れてないか……?

 

 バグか……これはバグなのか! あの時は勝つのに必死で何も思わなかったが、まさかこれからずっとこんな『せんとう、俺!』なバトルが続くのか……。思わずため息が出てしまう。リアル過ぎて夢もファンタジーも感じられない。

 

 ともあれ今はあの町に戻るしかないのだろう。何の手立てもなしに別の町を探して草むらに入れば下手すると死ぬリスクを伴う。地図もないから別の町に辿り着くことすら困難だろうし。

 

 チッ! 背に腹は代えられない。もうこの際手段なんぞ選ばない。こんな世界にいきなり放り出されてなりふり構う余裕なんてない。生きるためなら何でもしてやる。

 

 そうと決まれば行動あるのみ。こっそりとまだ朝早い今のうちに町へ忍び込み、最初にいたあの路地裏で適当な奴から情報を絞るとしよう。まともに話の通じる人間はあの町にいないだろうし無理やり聞き出すしかない。先に喧嘩売られた以上仕方ないだろう。そうなると目立ちにくい早朝に目が覚めたのはラッキーだったか。

 

 今はまだこの場所に甘んじて留まっておいてやる。だが今に見てろ……俺はさっさとこんな場所おさらばして自由になってやる。この程度の理不尽に屈しはしない。五連麻痺の屈辱を、三連流星外しの絶望を思い出せ……。それに比べればこの程度何でもないはずだ。目にもの見せたるからなぁ。

 

 元々こんな性格じゃなかったはずだが、気がついたら頭の中は真っ黒な思考に染まっていた。

 




せんぶんのいちはダメだと思います
ボルトロスを許すな(本編に関係ない)



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