Another Trainer   作:りんごうさぎ

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今回も設定に関わる話が多いです


謎の襲撃者編
1.常識を 叩いて壊して 投げ捨てろ


 いよいよこれからブルーの特訓が始まる。そのために俺達はニビの南の草むらの近くに来ていた。もう季節は夏。あの町を出た時に比べるとやはり暑くなってきたな。これだけ違ってくるなら、もしかすると季節によって技の威力に変化が出たりするのだろうか。真夏なら“ソーラービーム”打ち放題とかありえなくはない。

 

 いや、それよりも今はブルーの特訓だった。気になると余計なことまで考え出すのは悪いクセだ。その辺はおいおい検証すればいいか。

 

「それじゃあブルー、今からトレーナーとして最低限知っておくべきことを教えておく。知ってなきゃ話にならないことだから最初だけ丁寧に教えてやる。頑張れよ。これから覚えることも多いし、生半可な道のりじゃないけど、準備はいいな?」

「ハイ! 何でも来ていいわよ! 厳しいのは承知の上よ!」

 

 ほう、こいつえらく自信ありげだな。まずはブルーの力量を確認するか。

 

「お前、スクールには通ってたんだろ? 相性とかの基本はわかっているな?」

「わたしスクールには行ってないわ。でも基本はオーキド博士に教わったから全部ばっちりよ。これでもレッドとグリーンの2人より勉強は得意だったのよ」

 

 スクールにはやっぱり行ってないのか。聞いた話じゃそんなのは天才ぐらいだって誰かが言っていたが、こいつらが行ってないということはほんとに天才だけなんだな。だが教わったのがオーキド博士なら下手な奴に教わるよりしっかりしていそうに思える。しかも座学はけっこう得意みたいな雰囲気。意外と教えるのは楽かもしれない。

 

「わかった。お前はその辺はしっかりしてそうだから、知らないだろうと思うことだけしゃべる。が、その前に1つ断っておくことがある」

「えへへ……なになに?」

 

 こいつはほんとに褒められるとすぐに表情に出るな。落ち込むと逆に引きずりそうだし、褒めて伸ばすのが合っているタイプの典型だろう。実際はブルーじゃなくオーキド博士の指導力を信頼したんだが、言わぬが花だな。

 

「今からは己の常識を捨てろ。現在知られているポケモンの知識はまだまだ未完成。穴だらけで間違いもある。そして、俺の言うことを疑うな。それができなけりゃ、俺が何をしてもモノにはならないし、教えても意味はないだろう。いいな?」

「ゴクッ! わ……わかったわ。シショーの言うことなら太陽は西から上ってくるって言われても信じる! 約束するわ、絶対守る。続けて」

 

 さすがにそれは疑った方がいいが、好都合なので何も指摘しなかった。

 

「よし、いい子だな。じゃ、まずは技について。勘違いしていると一番致命的なミスになるからな。まず技は補助技と攻撃技の2種類があると教わったな?」

「ええ。それがどうかしたの?」

「その認識がそもそも間違い。致命的な誤解だ。実際には技の種類は3種類ある」

「うそぉ!? じゃあもう1種類新しい技があるの?!」

 

 そう来たか。たしかにこんな言い方ならそう思うのが自然か。あー、なんか教えるのって難しいな。相手のレベルに合わせないといけないから。特に自分が当たり前と思っていることはなおのこと教えにくい。

 

「違う。分類の仕方の問題だ。攻撃技として一括りにしている中には、実は全く別の2種類が混在している。例えばかえんぐるまとかえんほうしゃ、この2つは別の種類。それぞれ必要な能力が違う。俺は物理技、特殊技と呼んで区別している」

「何よそれ、そんな話聞いたことないわ。シショーが見つけたってこと?」

 

 ここだよな問題は。俺が見つけたと言うしかないんだろうな。この世界じゃ出所は俺だし。だが俺がなぜそれを知っているか本当のことを説明はできない。バレないことを祈るしかない。

 

「まあ、そんなところだ。重要なのは、この2つは必要な能力が違うということ。ゆえに、ポケモンによってはこの2つの扱いに決定的な差が生まれる。俺がこれに気づいたのは経験……いや、実験でこの差を感じ取れたから。抽象的でわかりにくいし、今実際にやってみせてやる。何事もやってみるのが手っ取り早いし。出てこい、イナズマ、グレン」

「えっ、何をするのよ」

「今からイナズマに2つの技をグレンに打たせる。よく見ておけ」

 

 まずは“でんこうせっか”。動きは俊敏だがほとんどダメージはない。次に“でんきショック”。グレンの体勢が少し崩れた。この違いを見てブルーはあっ、と声を上げた。

 

「両方同じような威力の技、でもダメージは全然違う! 急所に当たった感じでもないのになんでなのシショー?」

「それはでんこうせっかは物理技だがでんきショックは特殊技だからだ。イナズマは物理技の攻撃力は極端に低いが、特殊技の攻撃力は高い。その上、グレンは物理の防御力は高いが特殊はやや低め。これにはポケモンの性格も関わっているが、その話はまたの機会だな。とにかくそういった理由でここまで極端に、素人目にもわかる程の差が出る。それに実践ならグレンは特性のいかくで物理技の攻撃力のみ下げることができるから、これ以上に差は顕著になる……イナズマ、グレン、おいで。ありがとう、ご苦労さん」

 

 イナズマは頭を撫でてあげて、グレンにはおいしいみずをあげて労ってからボールに戻した。

 

 もちろん技の威力も違うが、当然測定なんて出来ないのでこの世界の常識に技の威力なんてない。だいたいこの技は強い、弱いと経験でしか語れない。

 

 この場合タイプ不一致の“でんこうせっか”の威力がタイプ一致の“でんきショック”より低いのは説明上都合がいいので黙っておく。あくまで目的はブルーに理解させることで公平に比較することではない。だから平等な比較でなくても構わないというわけだ。同じ威力で“いかく”込みなら結局今の実験と全く一緒の状況になるからあながち間違いでもないし。

 

「物理の攻撃力とかっていうのは何なの? 物理技の上手さみたいなもの?」

「そうだ。そして守る方も物理攻撃のダメージの受けにくさというものはある。長くて言いにくいから、俺はこの4つ、物理攻撃、物理防御、特殊攻撃、特殊防御を順番にA,B,C,Dと略して話す。ここまでわかったか?」

「つまり、攻撃技には物理と特殊の2種類あって、そのダメージの大きさは物理はAB,特殊はCDの大小で決まる。だからさっきみたいに能力が高い方で相手の低い方をつけば、同じぐらいの威力の技でも大ダメージが狙えるってことね! すっごい、これを上手く活用できたらどんなポケモンも簡単に倒せちゃうわよ! タイプの弱点以外にも能力的な弱点まで活かそうなんて、やっぱりシショーは普通とは発想のレベルが全然違う」

 

 さっすが、ものすごく理解が速い。しかも、俺の説明よりすっきり整理されている……。その上この話の急所を、俺が指摘する前に気づきやがった。やはりただものじゃないのか。このまま俺の知識を与え続けたら……。

 

「お前……」

「あれ、シショー? もしかしてわたし何か間違ってた?」

「いや、その逆。よくわかっていて驚いた。ただ、事はそう簡単じゃない。お前の言うように、これは戦術として活用できればバトルの根底が覆る。なのに、なぜ誰もできないか。いや、厳密にいえばマスタークラスなら多少はこの理論を使っている。無意識にな。経験の豊富なトレーナーだと、どのポケモンにはこんな技が良く効く、なんてことがわかるって聞いたことはないか?」

 

 これは本で読んだ知識だ。専門書みたいなのに書いていた。最初の擦り合わせがここで活きてきたな。

 

「あっ、それ博士が言ってた。技の選択は経験によってできるようになるって。あれはただのホラ話だと思ってたけどホントなの!?」

 

 サラッと毒吐いたな。こいつ仮にもオーキド博士に基礎を教わったクセに、舐め腐っているな。人の話を聞いたりする態度はあんまり良くなさそうだ。とするとこうしてちゃんと聞いてるのは俺にはよっぽど心酔しているからだろうな、ポケモンバトルに関してだけは。

 

「個体差はあれど、ポケモンの種類ごとに大まかな傾向があり、基本的にはそれは覆ることはない。サンダースはAが低く、Cが高い、というようにな。イナズマはその中でもとびきりその傾向が顕著でACの差はかなり大きい。こんな感じだ。そして、こうした傾向を活用するにはポケモンごとの大まかな傾向、そして自分のポケモンの得手不得手をわかってやらないといけない。さらには、技ごとにどれが物理、どれが特殊ということを覚えておく必要もある。どうだ? 気の遠くなる話だろ?」

 

 個体値種族値という用語なしだと説明しにくい。おいおいこれも教えた方が手っ取り早いか?

 

「そんな! いや、でもカントーのポケモンは150、進化前は進化後がわかれば推測できるから覚えなくてもいいし、技もよく使うものから覚えていけばそこまで大変じゃないはず! シショー、わたしを脅かそうとしてもムダよっ」

 

 ドヤッと胸を張って鼻を鳴らす姿は子供らしい。でも言っていることはその通りで、ほんとにブルーは聡い。とはいえこの返しは予想の内、まだ肝心なことがわかってない。

 

「そいつは失礼した。たしかに、覚えること自体はそこまで苦労しないかもな。お前の言うことも一理ある。やっぱり賢いじゃないか」

「でしょっ! んもう、人が悪いんだからー」

「でもな、お前何か勘違いしていないか? 本当に大変なのはなんなのかわかっているのか? たしかに覚える量は案外知れているが、お前はそれをどうやって知るつもりだ? どこかの本に書いてあるのか?」

 

 サーッと顔から血の気が引いた。気づいたな。

 

「っっ!! そうだったわ! そもそもこんな分類ないんだから、知りようがない! じゃあ、ほんとに経験を積みながら何となくこうだろうという感覚を身につけるしかないの? さすがに技とポケモンの組み合わせってなったら膨大過ぎる。あっ、だから誰も使わない……いいえ違う、調べようがないからわからないのね。そもそも技に2種類あるという前提が鬼門。攻撃技は1種類という偏見があると靄がかかって、ケースごとにあのとき同じ技はよく効いた、というような経験則しか得られない! ウソでしょ、こんなのわかりっこないじゃない!」

 

 そう、だからこの世界じゃ物理と特殊の違いの認識はない。もちろん今やってみせたように簡単な実験はできる。しかし、肝心の測定手段がない以上どうしても経験則の域を超えられない。種族値や個体値も同様だ。しかも努力値は荒唐無稽だから、仮説を立てることも厳しいだろう。相性特性種族値個体値、複雑に絡まり過ぎてこの糸は誰にも解けない。

 

 ゲームじゃ当たり前に知られている相性の倍率だって、きっちり2倍ということは知られていない。ケース毎に効き具合が違うように見えるからだ。イワークに“かわらわり”はあまり効かないがラッキーにはかなり効く。同じ「こうかはばつぐんだ」であっても倍率が1.1と10ぐらいで変わっているように見えて誤解すると、今度は種族値も誤解することになる。

 

 結局、考える拠り所、たしかな足場が用意されて、実験を行うための測定技術が生まれないと、ポケモンの研究は進まない。最前線のトッププレイヤーは、効率よくレベルを上げることと、効果的な技の使い方の研究に没頭しているらしいし、向こう100年ぐらい進歩はなさそうだな。

 

 実際、リーグというのはレベルの高いポケモンが正義という風潮がある。それを否定する気はない。チャンピオンというのは負けが許されない。なら、必ず勝つには相手より強力なポケモンで圧勝しないといけない。急所一発痺れ一回で負けるような接戦をした時点で負け。ならレベルを徹底的に上げることが1番の解決策になる。だから同じレベルでも強く育つ方法など論じる価値もない。そんな暇があるならレベルを上げろとなるわけだ。だから何も進まない。

 

 使うポケモンも分かりやすい強さが求められ、技もいかに威力の高い技を覚えるかに注力される。“しんかのきせき”で悪魔と化したラッキーも、パルシェンを本気にさせてしまった“からをやぶる”の恐ろしさも、ここの住人は知らない。もっとも、それが幸か不幸かはわからないがな。

 

「ブルー、座学は3人で1番だったというのはウソじゃなさそうだ。よくわかっているじゃないか?」

「……シショー、あなたはわかっているのよね? 今見せたあの2匹についてだけわかっているわけじゃない。ジム戦も依頼も、攻撃はよく効いていた。しかも、あの依頼に至ってはこの地方のポケモンじゃないわ。あのときの魔法の一部が今垣間見えた。バトルの指示の1つ1つに、膨大な知識が背景として存在しているのね。どうやってそんな……こんなの一生かかっても調べきれるかどうか。本当に可能なの? シショーはいったいどうやって……」

「ブルー!!」

「っ!」

 

 言えば言うほど墓穴だな。ここまで頭が回るとごまかしきれない。強引だが話を変えるか。俺のことには触れさせないように。

 

「約束……だったな。詮索はしないと。結論から言えば俺は全国のポケモンの有名どころの能力の傾向は把握している。ただし、正確にはわからない、当然な。だから俺はポケモンを見たり捕まえたりする度にそのデータを採ってパソコンにデータをまとめている。普通はポケモンを見ても能力が高いか低いかなんてわからないが俺はわかるんだよ。原因は俺ですらわからないが。だから能力の傾向を覚えてその隙を突くような芸当できるのは世界で唯一人俺だけということだ。どうだ、すごいだろ?」

 

 わざと茶化して言ったが、ブルーの耳には冗談には聞こえなかったのかいつもと比べて真剣な表情。むしろこんな顔初めて見るな。さすがにいきなりサービスし過ぎたか。これは加減が難しいな。ブルーは黙ったまま考え込んでいるのか反応がないし、先に進めるか。

 

「ブルー、技の説明はもういいだろ。おいおい技の種類と、ブルーの手持ちの能力ぐらいは教えてやる。その前に先に、というより最初にお前にはやってもらうことがある。そのためにこんなとこまで来たんだからな」

「最初にここでやること……バトルの話とか?」

「いい線いってるが違う。ポケモンをどう育てるか、についてだ。まず育てることからしないとバトルもクソもないからな。面倒だから結論だけ簡潔にいう。細かいことが気になるなら自分でなんとかしろ」

「えーっ! 何よそれ、雑過ぎない? 1番大事なことじゃないの? ポケモンのことならなおさらちゃんと教えてほしい!」

 

 ポケモンを大事にしているからこその発言だな。気持ちはわかるがどうしようもないしなぁ。なんせ説明できないから。努力値は本当に意味不明過ぎる。現実的な解釈が不可能なレベル。

 

 一度振ったら固定され、能力の伸びしろには制限。お薬で増やせる。きのみで減る。……やっぱり意味わかんねーよ。筋トレはしたらいくらでも伸びるし、腹筋鍛え過ぎて背筋を鍛えられなくなったりしない。でもサボれば筋力は落ちる。きのみ食って筋力落ちたりしない。ドーピングはできるけど。一番おかしいのは増える条件が野生ポケモンとの戦闘ということか。なぜか相手の得意な能力が上がるし。防御高いの倒したら攻撃上がれよ。……まあそれは置いといて。

 

「ん? お前、連れていくだけでもいいとか言ってなかったっけ? これでもサービスし過ぎだと思っているんだが」

「うぐっ、そ、それはその……」

 

 ブルーには悪いが強引に行くしかない。なんせ言えるわけないんだ。このリアルで、現実の中で、努力値なんていう意味不明な概念がある、などというのは狂人の妄言。個体値、種族値はまだ説明がつくが、一度振ったら以後変わらず、なぜか上限があり、トレーナーしか伸ばせない謎のパラメーターなんておかしい。ブルーなら信じそうだが、それが他の奴の耳に入ることになればかなりヤバイことになるのは想像に難くない。だが、どう説得するか……。

 

「はぁ~。ブルー、これは別に意地悪で言ってるわけじゃないんだ。わかってくれ」

「えっ、どういうこと?」

 

  その顔は単なる嫌がらせと思っていましたってツラだな。微妙に失礼な奴だな。

 

「今、お前の目標はなんだ? 直接はっきり聞いたことはないが、おそらくあの2人に追いつくことじゃないのか?」

「!」

 

 何も言わないことが肯定の証。そのまま話を続けた。

 

「そして、そのためには……とてつもない速さでどんどん前に進んでいくあいつらに追いつくには、自分はもっと早く前に進むしかない。そういう思いがブルーを前へ前へと駆り立てている。見てりゃわかる。だから、俺もそれを手伝ってやりたいんだ。だから……」

「そのためにはいちいち説明する暇がないってこと?」

 

 仰々しく頷いてみせ、さらに話を続けた。半分ウソでごまかしているような状態だが、ここまで言われたら疑わないだろう。

 

「いちいち仕組みを説明するのは難しいし、理解しがたいこともあるだろう。別にお前を侮っているわけじゃない。むしろ、わかるとすればお前しか……いや、何でもない。とにかく、すぐに最善の結果を求めるなら、今は黙って俺の言うことを聞いてもらうしかない。わかってくれ。先日の依頼の件も、訳も分からずついてきただろうが、結果的にレベルが上がり、最短で結果はついてきただろ? とにかく今はすぐに強くなれるようにやるべきことを教えてやる。その上で知るべきことは惜しまず教えてやる。絶対俺が目指す理想のトレーナーになれるように手ほどきしてやるから信じていてくれ」

 

 正直なところ、“いや、なんでもない”とか実際に言ってみると恥かしさで悶絶しそうだし、演技下手過ぎ!と心の中で自分に叫んでいたが、驚くべきことにブルーには効果てきめんだった。

 

「そこまでわたしのことを……。じゃあ、弟子入りしてすぐのあの時から、そのことをわかっていて、わたしのためにレベル上げをさせたのね。最初からあいつらを追いかけていたわたしの考えはお見通しだったんだ。ずっとわたしのために考えてくれていたんだ……シショー!」

 

 顔を上げてまた抱き着いてきた。ものすごくキラキラした目でこっちを見ている。だいぶいい方向に解釈してくれたみたいだ。けどあの時は単に、ブルーのポテンシャルの高さを考慮して行けそうな気がしたからついでにレベル上げさせとくか、程度のノリだったんだよな。色々考えたりもしているが基本的には即断即決だった。口に出してそんなこと言ったらややこしいことになるし黙っとこう。知らぬが仏ってやつだ。

 

「ま、まぁそういうことだ」

「ありがとシショー。なんだかんだ最後には結局優しいのがシショーよね。でも、そこまで言われると、さすがにちょっとプレッシャーかも」

 

 顔をうずめながら少しおどけた雰囲気でそう言うが、実際には結構マジなのか、つかんでいる手が震えている。わかりやすいなぁ。

 

「心配するな。お前には才能だけはあるんだから、本当にダメだったら全部俺の責任だ。もしチャンピオンになれなくてもお前は悪くないし、いらんことで気を病む必要なんてない」

「ちょっと、シッショーッ! 褒め過ぎよっ。んもうっ、ズルイんだから……わかったわよ。もう教えてくれとか文句言ったりしないわ。シショーはわたしのシショーだもんね」

 

 パッと離れて後ろを向いて、背中で手を組みながら言うブルーの仕草からは照れ隠ししているのがまるわかりだった。褒め殺しされていることには気づいているみたいだが、それでも照れてしまうものらしい。簡単に抱き着いてくるところといい、子供っぽいけどそこがかわいい。

 

「理解してくれたようで助かる。じゃ、さっそく始めようか。ポケモン育成其の一、努力値振りを!」

「ええ、やってやるわ! まずどうすればいいの? なんでも言ってちょうだい」

「じゃ……まずは200万ほど金を出してもらおうか」

「よっし、わかったわ、200万ぐらいすぐに……うえっっ?! えぇーー?!」

 

 キラキラした瞳は一瞬で消え去り、ブルーの絶叫がこだました。このリアクション、なかなか筋がよろしい。ジョウトでも通用する……というのはふざけ過ぎか。

 

「実は、今からやることには莫大なお金がかかる。とあるきのみと、ドーピングアイテムのタウリンとかを1体につき50ずつ程。各々ひとつ10,000円ってところだ」

「え、マジなの!? 結論だけってたしかに言ったけどさぁ、お金だけ出せってそれ簡潔過ぎよ! これ詐欺じゃないの!? だいたいそんなお金あるわけないじゃない! まさかこれから依頼こなしてわたしに稼げっていうのぉ?! はぁ、なんか別の方法ないのー?」

「きのみは絶対必須だが、ドーピングは使わない手もある。その代わりお前が今までこなしたポケモンとの戦闘回数以上の戦闘を今からこなすことになるが、そんな悠長なことをするつもりか?」

 

 さすがに苦虫を噛み潰したような顔になり、うんうん唸った後、今度は怒りだした。

 

「ぐうう! でも、だからって依頼でお金稼ぐのも変わらないじゃない! どうしろってのよ!」

 

 そこで精一杯のスマイルでかねてから考えていた提案をした。

 

「フッ、安心しろ。金を出せと言ったのは冗談だ。今すぐお前が用意できないのは重々承知。急いでいるのもわかる。幸いなことに俺にはかなり資産がある。だから立て替えてやるよ」

「えっ、シショーがくれるの! やったやった!」

「おまっ、違うわ! 立て替えだ、た・て・か・え! 当然借金に決まってるだろ。なんとしても強くなりたいブルーさんなら、当然手段は選ばない。……だよな?」

 

 ニッコリスマイルで言うとブルーはさっき文句を言わないと言った舌の根も乾かないうちにブーブー言い出した。

 

「借金って、わたしのこと経済的に殺す気?! 信じるとは言ったけどさすがにこれは露骨に悪どいわよ! ほんとに金取るの!?」

「まぁ待て。慌てるな慌てるな。お前が文無しなのは俺が1番よくわかってる。だから、そう、出世払い。お前がマスターランクになって仕事もできれば200万ぐらいすぐだ。その時に全て払ってもらう。まぁ余裕があれば少しでも旅の間に返済して欲しいところだが、そうもいかんだろうし、無理はさせたくない。全て将来まで待ってやる」

「そんな、でもっ」

「安心しろ、大丈夫利子は取らない。値段もまとめて買って普通よりは安く仕入れてるし、きのみの方はよく見ると50個もいらなさそうだ。実際には200万もいかない。ちょっと脅かしただけだ」

「そんなことじゃないわよ。もう腹は括ったわ。シショーが必要というならもう疑ったりしないわよ。なんか今までのこと全部この大金をふんだくるための罠だったみたいに見えなくもないけど、そんな性格じゃないのはわかってる。タウリンが10,000円ぐらいだったのは知ってるし、そのきのみも特別なものなんだってわかる。でもね、もしも、もしもよ? わたしが全然ダメで、そんなお金返せなかったらどうするのよ。絶対なんて保障ないじゃないっ。違う?」

 

 こいつ信じたのか。俺ならこんな胡散臭い話絶対信じないし、こいつの言うように今までの全てがこのぼったくりのための伏線に見えただろうが、ほんとに掛け値なしに俺を信じてくれているな。その期待には応えてやろうかね。

 

「その通り、絶対なんてことはない。じゃ、もしお前が出世しなかったら、その金はチャラにしてやるよ。これなら安心だろ?」

「えっ、チャラ!? タダってこと!? そんなあっさり決めていいの!?」

「さっきも言っただろ。ブルーは絶対強くなれる。それが俺の見立て。もしダメなら俺の教え方が悪かったとしか思えない。なら、お金はそのツケだ。構わない」

「ほ、本気で言ってたのっ! わたしを励ましてたんじゃ……」

「てっきり嬉しくて照れているのかと思っていたが、案外信じてなかったのか? 女は見かけによらないもんだな。怖い怖い」

 

 おどけて言うが、ブルーは真剣そのものな表情で問い返してきた。

 

「それはっ、だってそうでしょっ! 本気で真に受けたりするわけないじゃないっ! でも、それじゃほんとにほんとなの?」

「バカだなぁ。俺がつまらん世辞を言うような人間に見えるのか? 意図的に褒めた部分はたしかにあるが、思ってもないことを言ったりはしない。ダメなところははっきりダメと言うし、いいところははっきりいいと言ってやる。俺はそういう性格だ」

「シショー……」

 

 こいつは変に賢い分わかりやすく言葉にして伝えておかないと変なところで曲解しかねないな。言葉の裏を読み合う駆け引きはキライじゃないが、教えるときは邪魔なだけだ。

 

「ん、どうした、顔が赤くないか?」

 

 蛇足なのはわかっているがこの顔を見るとちょっといじめたくなる。

 

「気のせいでしょ……変なこと言ってないで、早く育成其の一のなんとかっていうのをやりましょうよ……何よーっ、その顔はーっ!」

 

 照れてるなー。3人組の中でもいじられキャラだったに違いない。この反応は絶対にいじめたくなる。

 

「わかったわかった。まずはきのみから始めよう」

 

 努力値振りは順調に進み、同時に俺がきのみをあげることで2体から悪の大魔王のように思われていたのをなついていると言えるところまで持ち直すことにも成功した。このきのみはなつき具合を上げる効果もあるからな。……作戦通り。

 

 ちなみに草むらに来たのは努力値の端数を戦闘で稼ぐため。節約だ。ちょっとだけバトルさせたことにブルーは訝しげだったが黙殺した。その後も技のことやらを色々教え、あっという間に夜になった。

 

「ぷはー、トレーニング後の一杯は格別ねー。これホントサイコー!」

「ブルー、お前はおっさんか。あー、お前また溢して! 服も顔も汚し放題……だらしないなぁ。いい加減なんとかしろよ。ほらこっち向け、顔拭いてやるから」

「ちょっともうっ! やめてよ! そんなの自分で拭くから! 恥ずかしいでしょ!」

「そう言ってずっとほったらかしだよな。そもそも自炊も片付けもできないし、自分のことなんもできないじゃないか。だから何から何まで面倒見てやってるんだろ」

「そ、それは言いっこなしでしょ!」

「お前自分が言ったことなんも覚えてないのな。雑用でもなんでもするって言ってたから信用して任せてみればてんでダメ。むしろ尻拭いさせられて余計手間がかかった。お前が何もできないもんだから、結局逆に俺が面倒見る羽目になるし、よくそれで両親は旅に出してくれたな」

「うぐぐ……シショーの意地悪ー!」

 

 そういって空になったグラスを机に置いて先にブルーは部屋に戻っていった。ここはポケセン内のレストラン。ここも仮手帳で使えるようになり、手帳の有難みを実感していた。

 

 これで、もうさしあたって大きな障害はない。ロケット団は首を突っ込まなきゃそのうち勝手に消えるだろうし、ブルーの扱いも慣れてきた。手のかかる奴だが、その成長ぶりは見ていて楽しいし、案外弟子がいるのも悪くないと思い始めていた。ブルーが年下だからポケモンの世話をする感覚で楽しいからな。こっちの世界に来るまで、まさかこんなになにかを育てたりものを教えたりするのが性に合うとは思わなかったが、人生何があるかわからない。

 

「そんじゃ、俺も部屋に戻るとするか」

 

 これからの旅のルート決め、新しくわかったデータのまとめ、道具の整理、やることはいくらでもある。グレンたちのけづくろいもしないと。部屋で忙しく作業をしていると誰かがドアをノックした。出てみるとそこにいたのは……。

 

「ストーカー!」

「しっつれいね、ストーカーじゃないって何回も言ったでしょ! 絶対違うわよ!」

「で、なんの用?」

「流さないでよ! フン、やっぱり気が変わった。かえるー!」

「冷やかしかよ。お前もけづくろいでもしてやったらどうだ? こんなことしている暇があるならさ。けっこう喜ぶぞ、ポケモンは」

「……ふーん、そうなの。じゃあそれ教えてー」

 

 軽く教えるつもりがブルーの絶妙な合いの手で結局長くしゃべることになり、日付をまたごうかという時間になった。

 

「なんかこうしてると林間学校とか思い出すな。よく友達とこんな風に駄弁ったりしてたなぁ」

「友達かぁ……」

「なんか言ったか?」

「別に。もう遅くなったから戻るわね。……ねぇ、さっきはごめんね。わたしついあんなこと」

「ん?……さっきって晩飯の時か? 別に気にしてないし、今日は楽しかった。しゃべりたければいつでも来いよ。ポケモンのことでもなんでも教えてやるから」

「シショー……! うん、絶対また来るから」

 

 そう言い残して笑顔で出ていった。さっぱりしているなぁ。会ったときとは印象が違う気がする。まさか狙ってやって……ま、そんなわけないな。あのブルーだし。

 




ポケモンの研究が現実になった世界でどれぐらい進んでるかというのは大事なポイントになると思います
色々考えましたが、やはり実験が難しいのはかなり痛手だと考えました
数学はともかく、自然科学はトライアンドエラーで進歩するものですしポケモンもそんなに変わらないでしょう

きのみがやたら高いですがホウエン地方限定なので輸送費やらで高くなってる、元々高級きのみ、などの理由です、両方ゲームにない設定ですが
ホウエンに行けば安く手に入りそうです
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