走って町の中を見て回るうちに、段々と町の中心から外れ、郊外の川辺に来てしまっていた。当然シショーは追って来てないし、もしかするとこれはまい…
「気のせいね。せっかくだしここで一息入れよっと。なんかきれいなお花もあるし、のどかでいいところね。ちょっと遠出し過ぎたけど、いいとこ見つけてむしろラッキーね」
ゆっくり景色を堪能していると頭上に影が差した。見上げるとわたしと同じぐらいの年のピクニックガールがいた。
「うふふ、こんにちは」
「あっ、こんにちは。こんなところにも人がいるんだ」
「それは私のセリフかな。ここまで来る人なんて珍しいから声かけちゃった。最近は1人ここに迷い込んできたトレーナーさんもいたけどね。ここは私の秘密の特訓場なのよ。あ、自己紹介がまだだったわね。私はコズエ。見ての通りのピクニックガール。あなたは?」
「わたし、ブルー。新米だけど一応トレーナーなんだ。今はちょっとここで気分転換してたけどね。いい景色だから思わず座りこんじゃって」
「ここって穴場だからね。いいところでしょ? そうだ、良かったらここで少しおしゃべりしない? 私あんまり年の近い子としゃべる機会がないからさ」
「あっ、いいわね。じゃ、わたしが旅の冒険譚をしゃべってあげるわ」
偶然出会ったわたし達はすっかり意気投合して、気づけばすごい仲良くなっていた。同じ女友達ってやっぱりいいものね。
「それでねー、結局最後は弟子入り成功でシショーに教えてもらうことになったのよ。でもそれまではぶっきらぼうだし怖いし、一度とんずらされて逃げられたりもしたし、ずーっとツンツンしてさぁ。ほんとに頑固で……」
「そのお師匠さんって意地悪なの?」
「いや、意地悪というか、それもあるかもしれないけど、自由人っていうのかな? でもすっごいトレーナーなんだから!」
「あはは、なによそれっ。結局その人のこと好きなのね」
「違う違う、そんなんじゃないから! もう、からかわないでよ!」
「ごめんごめん。それで、その人ってなんていう名前なの?」
「シショーの名前? 名前はね、えーっと。あー、あれ。うーん。あっ、あーーー!」
「えっ、どうしたの? もしかしてマズイこときいちゃった?」
「いや、それが…………名前、忘れちゃった」
「え? なにそれ、冗談で言ってるの?……って言いたいけど、その表情からするとマジなのね。これだけ語っておいて、名前の方は忘れてましたってどういうことなの?」
うう、コズエの視線が痛い。だって仕方ないじゃない! いっつもシショーとしか言わないんだもん。昔聞いたような気がしなくもないけど、もう忘却の彼方だし。
「……まぁでも、シショーはシショーだし、名前なんて飾りみたいなもんだから気にしなくていいわよ! あはははははははははっ!」
「……天然ねー」
「ぐうう。あ、ポケセン見えたわよ。そうだ、もしかしたら気を利かせて先に中で待ってるかも」
「名無しのお師匠さんが?」
「もしかしたらほんとに名無しだったりして」
「冗談キツイわよブルー。というか、ホントにいたらなんて言うの? 私に、『この人がシショーの……シショーよ』とか言ってごまかすつもりだったんじゃないでしょうね」
「あっはは、まっさかー」
まさかその通り、とは言えないわね。ホントにどうしよう。今さら悩むけど、もう目の前まで来てしまったので、とりあえず本人がいないことを祈って中に入った。素早く辺りを見渡すと、今は見つけたくなかった人と目が合ってしまった。
「げ、シッショーッ!!」
「ああっ、もしかしてレインさんじゃない!? なんでこんなところにっ!」
あれっ、と思って横を見るとコズエが手を振ってシショーの方へ駆け寄っていて……もしかしてあの2人知り合い? ハナダには一度行ったみたいだからその時に会ったのかも。で、さっき言ってたのって……
「ああっ! 思い出した!」
あの人の名前レインだった。久しぶりに聞いた気がする。
「ほう、思い出したってのは俺のことか、ブルー?」
うわ、いつの間にかコズエと一緒にこっちに移動してる。もしかして名前忘れてたのバレたの?!
「い、いやーそれはそのー」
「てっきり俺のことなんか忘れてさっさと次の街に行ったのかと思ったぞ?」
へ? ああ、シショーを置いてって勝手に走り回ってたことを言ってるのね。早とちりしちゃった。助かったわ。
「あ、そっちか」
「は? そっち? 他に何かあるのか?」
「あはは、あのねレインさん、この子ったらむぎゅう!」
とっさにコズエの口に指を突っ込んで強制的に会話をシャットダウン。なんとかこの危険な話題からは離れないと。
「何やってんだ、お前……」
「えへへーなにやってるのかなー」
ごめん、もうどうにでもなーれ。
「変な奴だな。まあいい。それより、お前ら仲いいみたいだが友達か?」
「いやー、さっきばったり会ってから意気投合して打ち解けちゃって」
「むごごご!」
コズエが何か言いたそうだけど今は黙っててちょうだい。
「いい加減離してやれ。ということは、お前川辺までブラブラしていたのか。そりゃ遅くもなるわな」
「なんでわかったの!?」
ホントに鋭いわね。名前のことまでバレそうでヒヤヒヤする。あ、驚いてつい口から手を離しちゃった!
「ぶはあっ! ブルー容赦なさ過ぎ! レインさんがわかったのはね、最近迷い込んだ人がいるってさっき言っていたのがレインさん本人だからよ」
コズエから睨まれたが視線に気づかないフリをしてごまかした。
「へー、そうだったんだ。それで2人とも顔見知りなんだ。ハッ!? もしかして、あそこは人気が少ないし、シショーまたなんかヒドイことしたり……」
実際にやりかねないしさっさと話を変えないとね。あの暴走族に対しての狼藉の数々はまだ記憶に新しい。やるときは容赦ない苛烈な人だからね。
「バカ、だったらこんな和気藹々とするかよ」
「ん? あー、レインさんってバトルだと容赦ないもんね。そういやブルーのシショーなんでしょ? 意外よねぇ。レインさんそんなことするガラじゃなさそうなのにさ。年も近いし。私はもっとダンディーでカッコいいおじさまかと思ってた」
「悪かったな、ダサい子供で! 俺だって最初はつっぱねたが、こいつがストーカーみたいにべったりついて来て、なし崩しでこうなったんだよ。一度完全に撒いたのに次の日宿の部屋の真ん前で待ち伏せして、一日中張り込みしていたのを見た時は背筋に冷たいものが流れたな。ちょっとしたホラーだぞあれは」
「え、ちょっとブルー話が違うわよ? そういや一度逃げられたって言ってたけど、確かにおかしいわよね。足取りなんて簡単には……」
げ、この流れはマズイ! わたしはストーカーじゃないのに! みんな大袈裟に考え過ぎなのよ!
「だーっ! シショー誤解を招くようなことはやめて! わたしはストーカーじゃないから! 純粋にシショーのすごさに憧れて必死だっただけなの! こんなところで立ち話もなんだし、とにかく一度座りましょ! あーわたしそういえばおなかへったかもー」
全く、なんで話を変えたのにまたアウトな話題になるの! これ以上は限界よ!
「そうだな、いったん腰を降ろすか。ブルーはお腹減ったらしいしな」
「そうね、それになんだか疲れているみたいだし、場所を変えたいんでしょうね」
ううっ、この2人には完全にわたしの浅い考えは読み切られている。2人して結託して……なんか悔しい。いつか絶対にギャフンと言わせてやる!
◆
全く、ブルーの奴め。散々待たせておいて帰って来たら来たで挙動不審だし、いったい何しでかしたんだ? 疑いの眼差しを夕食中これでもかという程続けたが、ブルーは確固とした意志でスルーし続けた。仕方ないから追及はしないが、気になるな。
「で、たまたまレインさんを町で見かけたからカスミに言ったらすぐに岬の方に行って、そこでイーブイと一緒にいたレインさんを見たのよ」
「じゃあ、それが今のイナズマちゃんなんだ。ほへー」
「まぁそんな感じだ」
今の話……何となく変というか、違和感を覚えたが、あんまり深くは気にしなかった。しっかし、コズエといきなり再会したのは驚いた。なんかこの町に来たら最初にコズエが出てくるのがお決まりみたいになってきたな。そのコズエはジムで寝泊まりしているらしく、ブルーのことはカスミに伝えておいてくれるそうだ。おかげで翌日ジム戦は待つこともなくすぐにできた。
「久しぶり、という程でもないか。ずいぶん早く会うことになったわね」
「こっちも色々あってな」
「大体の話はコズエから聞いたわ。その子があなたの自慢のお弟子さんかしら? 早く会ってみたくて待ちくたびれたわよ。よろしくね。一応名乗っておくけど、私はこのジムのジムリーダー、カスミ。みずポケモンのエキスパートよ」
「わたしはマサラタウンのブルーよ。あの、さすがにシショー程の期待をされても困るんだけど……」
「わかってるわよ。で、ランクはいくつかしら?」
「あ、ここは聞いてくれるんだ。6でお願いします」
「バカ、普通なら聞くわけないだろうが。俺がいるから聞いてるんだよ」
「あ、そういうことか」
「あっはっはっは! やっぱり、そんなことだろうとは思ったけど、ホントにあなたも上げるのね。レインらしいけど、ちょっとスパルタ過ぎなんじゃない、お師匠さん?」
「茶化すな。7じゃないだけマシだろ」
「それを本気で言っているところがあんたのヤバイところよね。その感覚にブルーちゃんも毒されていくのかぁ」
失礼するな、このおてんばは。別にスパルタとかじゃなくて、経験値稼ぎでやらせているだけなのに。説明できないから何も言い返せないが。
「シショーってここも7で?」
「ここどころか、最初も7でやったって言ってなかった?」
「ああ、そうだな」
「うそぉ……そんなのありえないでしょ……。だからわたしにも厳しいの? はぁ……」
厳しいのは承知の上とか言ってなかったか? さすがに覚えてないか。俺はバトルしないので観客席へ移り、今回は見学だけさせてもらう。
「おい、ブルーしっかりしろ。集中しないと勝てないぞ」
「そうね、今はこのバトルに勝つ! それだけよ」
「では、バトルを開始します。3,2,1,はじめっ!」
審判はコズエ。その掛け声で両者ボールを放つ。最初は誰で来るのか、お手並み拝見。
「ヤヤァ」
「フシッ」
ヤドラン Lv37 ずぶとい 126-62-104-87-73-36
ブルーの奴相変わらずツいているな。タイプは無論、能力の相性もバッチリ。ヤドランは防御力が高い物理受けだから特殊技はよく効く。ここで消耗するなよ。
「だいもんじ」
「右へ、やどりぎのタネ!」
「厄介な技を仕掛けるわね。サイコキネシス」
「エナジーボール」
上手いな。ヤドランは遅いから“やどりぎのタネ”は躱せない。相手のヤバイ攻撃は特攻の高さを生かして相殺して処理。様になっている。
「よし、いいわよ、もう1回エナジーボール!」
「だいもんじで焼き払って!」
「しまった! 大丈夫っ!?」
調子に乗ったな。相手が遅いから図に乗って先に技を出したのが裏目。後出しでも相性の悪い“だいもんじ”を受けたらさすがに相殺できない。まだ詰めが甘いか。やっぱり“あれ”はブルーには早いのか……。
「れいとうビームよ」
「……つっこんでギガドレインよ。なんとか耐えて!」
「トレーナーが自棄になったらおしまいよ。バカね、そのままトドメのサイコキネシス!」
しかし、その言葉がヤドランに届くことはなかった。
「ヤドラン戦闘不能!」
「そんな! こんなにあっさりやられちゃうなんて、どうして……」
無論俺には理由はわかった。だが、それでもかなり驚かされた。
今のは特性の“しんりょく”を使ったんだ。あえて攻撃を受けて体力を減らし威力を高めた。しかも威力が上がった分回復量も増す。攻防一体のナイスプレーだ。
いや、それだけじゃない。今の判断はかなり難しい。特性や状況判断に加え、ポケモンの体力の減り具合も把握してないといけない。それも相手と味方の両方正確にわかっていないと一撃では倒せない。
俺だからこそ簡単に分かったが、自分の目で判断するしかないブルーがここまでのことをやってのけるのは称賛に値する。今のは間違いなく狙ってやっている。まぐれだけの前回とは違う。やっぱりこいつは天才…
「イエーイ、シショー見たー? びっくりしたでしょー?」
「……特性使っただけで、バトル中にいばるな」
「ぶぅー、いじわるっ」
軽く試してみたんだが、やっぱり意図的にしたと見て間違いない。成長したな。口には出さなかったが。
「特性? そうか、しんりょくね。あんまり見ない特性だからすっかり忘れてた。やっぱり侮れないわね。だったら今度は……行くわよ、ラプラス」
「ラーァァ!」
ラプラス Lv38 おくびょう 157-71-76-79-87-67
「えっ! 話が違うわよ! しかもめっちゃ強そうっ」
「あら、もしかして下調べしてたの? 悪いわね。あなたができそうだったらこの子を試してみようと思っていたの。普通のチャレンジャーにはちょっと強過ぎると思って予備で置いていたんだけど、あなたなら大丈夫でしょ?」
「ごめんブルー、私も知らなかったのっ」
小声でコズエが謝るのがここでも辛うじて聞こえた。カスミは反応なしだが。
「ううー!」
そうか、情報源はコズエか。確かに一番手っ取り早いし信用できるな。昨日俺にみずポケモンの特徴いっぺんに聞いて全部覚えるとか言っていたが、本当はコズエから聞いていたポケモンだけ覚えていたのか。無茶すると思ったが、あいつそういう要領かますのはホントに天才的だな。しかも傍目には全部覚えていたように見えるから、俺を驚かせられるって寸法か。だが、そのおかげで昨日ラプラスについてもしゃべっている。本当に全て聞いていたのなら……。
「間もなく始めます。3,2,1,開始!」
「れいとうビーム」
「躱してやどりぎのタネ」
「潜るのよ」
ラプラスなら“やどりぎのタネ”を食らうかもと思ったが意外と素早い。おくびょうな性格が生きているな。
「同じ手は食わないわ。みずのはどう」
水中のあちこちから波動が変幻自在に飛び出し、少しずつフシギソウの体力を奪っていった。
「しっかりして、こうごうせい!」
「甘い、狙い撃ちよ!」
集中攻撃を受けかえって傷を負い、慌ててブルーはポケモンをチェンジした。
「今のはいい交代ね。でも私のラプラスを水中から引きずり出さないと勝機はないわよ」
「くぅっ! もう、なんでこんなフィールドなのよ! バカッ! ピーちゃん、頼んだわよ」
「この地形も試練なのよ。れいとうビーム」
「こうそくいどう」
素早さを上げて徹底的に回避に徹する気か。狙いは敵の釣り出しかな。根比べになるな。普通は下策だが、相手がジムリーダーなら敢えて誘いに乗ってくれる可能性は高いか。
「やっぱり当たらないか。じゃあみずのはどう」
「避け続けるわよ! 上、右、次は前!」
やはりというべきか、ずっとブルーが避け続けて状況が膠着したな。どうなるか。
「速いわね、仕方ない。水から出て狙いをつけて」
動いた。さぁここからどうする、狙いはなんだ?
「今よ、とんぼがえり!」
「とんぼがえり? その技は……」
ピジョンが戻り、代わりに控えが出てくる。なら当然狙いは……
「エナジーボール!」
「フッシーーッ!!」
「ラアァァッッ!?」
「ラプラス?!」
不意を突いたおかげか急所を乗せやがった。これはすごい。一致新緑抜群急所。メンタンピンドラ1。満貫だな。相手はとんだ。俺も下に降りるか。
「や、やた、やったー!!」
「すごいっ! 勝者、マサラタウンのブルー!」
満面の笑みで俺の方に駆けてきた。よっぽど嬉しかったらしい。渾身の賭けに勝ったんだから当然か。
「ねぇ見たでしょ? 今のは……ちょっとすごくない?」
その割には控えめに聞いてくるブルー。さっき厳しく言ったからだろうな。
「そんなにビビらなくても、勝ったのに怒ったりしないって。よくやったな。さすがブルー、俺の見込んだ通りだ」
ポンポンと頭を叩くと嬉しそうに笑った。今、ブルーはバトルに勝ったことを純粋に喜んでいるだろうが、この勝負、俺にとってはブルーの実力を見極める試金石でもあった。俺としてもこの結果には助かったという気持ちが1番だな。
「油断したわ。まさかあの使いにくい技、とんぼがえりをあんな使い方で活かすなんてね。それに私のラプラスを一撃で倒すなんてそうできることじゃないわ。あなたやっぱりすごい。これだとレインもうかうかしてられないんじゃない?」
「そんなこと、最初からわかってる」
ぽつり、と言うと聞こえていたらしい。
「え? わかってるって、じゃあ……」
聞かれる前に話を終わらせた。
「さ、それじゃあ俺達は用があるからもう行くぞ。それとも、今この前のリベンジをするか?」
「……いいわ。受けて立つ。あの後ずっとどうやったら勝てたか考えていたから、次こそは勝ってやるわ! この前と同じメンバーでリベンジよ! 今度は簡単には行かないんだから!」
「え、どういう流れなのこれ。コズエわかる?」
「えっとねぇ」
その後のバトルはアカサビをおとりにしてイナズマが1体で6タテして勝利した。相性いいし、多少はね?
◆
カスミを倒した後、マサキの家に寄ってから大事な話があると言ってブルーとハナダの岬に来ていた。ブルーは有名な観光スポットに来れて嬉しそうだが、今からする話をしたらどんな顔をするのか……。
「ねぇ、大事な話があるって言ってたけどなんなの? そんなに改まって」
なんかやけに機嫌がいいな。バッジ1つでこんなに浮かれる性格じゃなかったはずだが。褒められたのが嬉しかったのか?
「いいか、これから俺が何を言っても、絶対に取り乱すなよ」
「わ、わかったから早く言ってよ」
それに妙にそわそわしている。もしかして俺の話が何か察しているのか? 大きく息を吸ってから一息に言い切った。
「じゃあ言うぞ。……これからブルーとは別行動を取るからお前は1人でタマムシへ行け」
「え……な、なんて言ったの?」
「俺と別れてお前はタマムシへ行け」
「え……あ……ええー!!!!」
ブルーの声がハナダの岬にこだました。さすがにこれは予想外だったらしい。そりゃそうだろうな。でもはっきり言っておかないといけない。
「落ち着け!」
「ここでっ、別れ話ってことは、普通に考えて、わたしのこと捨てる気なのね! 薄情者! 外道! 鬼! わたしまだダメダメなのに。シショーがいなくなったら死んじゃうんだからー!!」
死んじゃうってのはダメ過ぎて死ぬのか後追いする的な死ぬなのかどっちだ。あの世までストーカーする的な意味と考えるとさすがに怖い。声が完全に裏返っていて、泣きが入っている。またあんな顔になる前に先に弁明をした。
「今外道とかは関係ないだろ。それに捨てるとかじゃない。一時的に別行動するだけだ。まずは話を黙って最後まで聞け」
「ぐす……でも、納得しなかったら意地でもくっついていってやるから」
「泣いていてもそれ言うのか。やっぱり根はスト……いや、先に説明だな。まず理由だが、俺はタマムシには絶対に行きたくない。俺はあの町と住人をこの世で1番憎んでいる。目が合ったら殺したいぐらいな。向こうも俺を見ればどんな反応するかわかったもんじゃないし。だから絶対行かない。だがお前はバッジのために一度必ず行かないといけない。だからいずれ一度は必ず別れることになる。要するにタイミングの問題。遅いか早いかの違いだけだ」
「に、憎いって、なんでなのよ」
「ほう、お前、聞きたいのか?」
「シショー、目のハイライト消えてる! 聞かないからっ! 聞かないから続きを!」
もちろんこいつに聞かせる気はない。こういう反応をすると思ったから言ったんだ。
「で、問題はいつにするかだったんだが、1つは今。もう1つはこのまま俺と一緒にシオンタウンを経由してヤマブキに行き、その後分かれてセキチクで落ち合うという案。ヤマブキからセキチクは遠いし、長いことほったらかしになるからできたら今の方がいいと思ったが、まだブルーを1人にするのは心配でな。1人だと危ないことしそうだし、意外と打たれ弱いし、すぐ泣くし、お調子者だし……今日まで迷っていたんだが、お前のジム戦を見て決めたよ。お前は俺が思ってる以上に伸びてる。なら、崖から突き落とす気持ちで1人で行かせるのもアリかなって」
本当に崖から突き落とすような事態になる可能性があるし、かなり危険かもしれないのは確かだ。だが、ブルーはそういう状況でこそ最も成長できる人間であることも事実。簡単には負けないだろうし、ブルーの素質に賭けることにした。
「シショー、それはふつうにしんじゃうとおもうの。それにわたしのことそんな風に思っていたことに対して二言三言物申したいけど……でもそこまで考えてくれてるなら、わたしはもうわがまま言わない。がんばってみるわ」
「よし。そう言ってくれると思っていた。合流はヤマブキ。期間は1ヶ月ぐらいと見ているが、たぶん俺が先に着くだろうし、お前のことは待っていてやるから、焦らず慎重に行動しろ。最近きな臭い動きも出てきているからな。お前なら大丈夫だとは思うが念のため言っておく」
ホントに気をつけてほしいし、大事なことなのだが、ブルーはそうは思っていないようで軽く聞き流された。
「任せてよ。パパッと華麗にジム戦に勝って、シショーより早く着いてやるんだから!」
この発言にはさすがに頭が痛くなる。悪気とかはないんだろうなぁ。話の内容を理解してくれ。
ブルーはタマムシで何が起こるか知らないとはいえ、このままだと危機感が薄過ぎる。やっぱりあれを用意しといてよかった。
「お前、俺の話全然聞いてないな。やっぱりこれを用意しておいて良かった。心配で仕方なくなった」
「全く、変なところで神経質ね。何これ? 袋? 3つもあるの?」
「これは言わばお助け袋。しばらくなんの助言もしてやれないから、俺の代わりにお前の助けになるように中に困った時の対処方法を紙に書いて入れておいた」
携帯みたいなものがあれば良かったがそういうものはあんまり見ない。俺が偶然見ないだけなのか単に普及していないだけなのかは定かではないが。
「へー、面白そう。じゃあさっそく開けるわね」
「バカッ! 今開けたら意味ないだろ! 何のために口じゃなく紙に書いたと思ってるんだ。それに、俺と別れた後もこれの中身は見るな」
「えーそれじゃ意味がないじゃないっ」
意味ない合戦になっているぞ。まずは話を聞け。
「この中身は本当に困った時にだけ開けろ。それ以外では決して開けるな。だが、逆に困ったら必ず開けろ。絶対に助けてやる。いいな?」
「別にいいけど、わたしが勝手に開けたりするかもよ?」
「困ってもないのに開けたらちゃんとわかるように工夫してある。お前ごときが俺を欺けると思うのか?」
「……軽率でした」
「素直でよろしい。あと、それには順番がある。絶対に数字の順番に開けろ。あと、2つ目はタマムシ、3つ目はヤマブキにいる時だけ開けていい。1つ目は困ってなくてもタマムシに着いたら開けてもいい。覚えたか?」
これだけはきっちり守ってもらわないとな。いらんことまで知る必要はない。本当はブルーには危険な目には合ってほしくないから。
「わかった。これはシショー自身だと思って大切にするわ」
「本当にそうしてくれ。大体伝えたし、俺からはこんなもんか。お前から聞いておきたいことは?」
「別にないわよ。でも、やっぱりいざ別れるとなると寂しいかも」
「すぐに会えるだろ?」
「それはそうだけど……」
ブルーもそんなことはわかってるって顔だな。それでもってことは……本当に俺のことを慕ってくれているんだな。いつもはなんやかんやとうるさい奴なのに、こんなときだけしんみりするんだから困ったなぁ。
「ブルー、こっち見ろ」
「何? ひゃあ!」
ブルーを抱き寄せていつものように頭を撫でてやった。いつもはどこか恥ずかしそうなところもあるが、今は会えない寂しさが勝ったのか、逆に体を預けてきた。
「シショーォ」
「こんなことしかできないけど、また会ったらいっぱい褒めてやるから。がんばれブルー! 元気がお前の取り柄だろ!」
「わかってるわよ! 今の言葉、絶対忘れないから、絶対忘れちゃダメだからね!」
それだけ言うと急に俺から離れてものすごい速さで駆け出してあっという間に視界から消えてしまった。いきなり行ってしまったな。ここカントー最北端の岬だし、今日ぐらいはゆっくりして心の整理をさせてから明日送り出そうと思っていたのに。多分ノリで飛び出してしまったんだろうな。
それじゃ、仕方ないし俺も1日早いが出発するか。目的地は伝説の三鳥が一体、雷の神サンダーの眠る“むじんはつでんしょ”だ。せっかく居場所が割れているんだから、捕まえに行かないわけがない。育てるのが大変そうだが、些細な問題だ。ハナダでスプレーを補充して、東へ向かった。
ここでこの章は終わりで、ここから別行動になります
ブルーはバイバイでしばらく出番なし……と見せかけて、次の章は全てブルーサイドの話です
外伝っぽく済ますだけのつもりが長くなって本編にすることに
この地方ではブルーが真の主人公なので仕方ないですね
今回の内容ではまずコズエの無実が判明しました
レインの中ではストーカー疑惑が一時出てましたが冤罪です
あとお助け袋に関しては、なんじゃこれ、という反応が大半でしょうが元ネタがあります
孔明の罠でお馴染み孔明さんです
演義で劉備が呉に向かう時お供の趙雲に渡した三つの錦の袋が由来
1回やってみたかったんですよね、リアル孔明
レインさんはしばらく活躍の機会なしです
しばしお待ちを