Another Trainer   作:りんごうさぎ

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分割回


4.致命の過失 目覚める資質 

 危ないトラップや数だけは多いロケット団の下っ端を潜り抜けたりぶち破ったりして、とにかく基地の中をあちこち歩き回るけどゴールが見えない。さすがにキリがないので何か手を考える必要があるわね。

 

「ねぇ、わたし達とりあえず1番奥に向かっているけど、一度工場のカギの在り処とか全部聞き出した方が良くない?」

「それもそうか」

「でもどうやって聞き出すんだよ。なんかいい方法でもあるのか?」

「それはわたしに任せて」

 

 さっそく近くにいた団員を拘束し、尋問を始めた。意外にも、あっさりと欲しい情報を全て吐いてくれた。根性ないわね。

 

「それはあっさりなのか?」

「……」

 

 若干わたしから離れながらグリーンが聞いてきた。レッドは無言で離れている。別に引くことないでしょうに。シショーに比べれば手心がある分マシよ。気絶させたりしてないもの。

 

「何よ、ちょっと首を絞めて負荷をかけただけじゃない。もちろん、本当に絞め殺したりする気はなかったわよ。相手にそう思わせるのが大事だから、ちょっとそういう演技をしただけ。わかった?」

「どこでそんなこと覚えたんだよ。昔は間違ってもそんなことやろうとはしなかっただろ、さすがに」

「もちろん、シショーの受け売りー」

「やっぱりギャングだったか」

「いつのまにか幼馴染がギャングになってたらどんな反応したらいいんだろうな」

 

 しっつれいね。2人には引かれたけど、これで必要なことはわかった。工場のカギは最下層、地下4Fにいる幹部が持っていて、しかもこのアジトから怪しい電波を出してポケモンを狂暴化させていたらしい。その電波のコントロールパネルは最奥にあるみたい。

 

 なら、幹部を見つけて鍵を奪って1番奥のコントロールパネルを壊したら、後はここからトンズラするだけね。工場に入れたら廃液を止めてベトベターを倒せるようになる。やっぱりここに来たのは正解だったわね。それにこのフロアには地下4Fに直通しているエレベーターがあることも聞きだせた。一気に奥に進めるわね。

 

「おい、あれじゃないのか、そのエレベーターって。ちょうどここに止まってるみたいだ。こりゃオレ達ツいてるぜ」

「やったわね。一気に地下4Fまで行けるわ」

 

 嬉々として中にわたしとグリーンは飛び乗ったけど、レッドは周りを見回して中に入ろうとしない。何しているのかしら。

 

「いや、待て。2人ともすぐにその中から出ろ!」

「ちょっと何すんのよ。いきなり引っ張らないでよっ」

「なんだよレッド、いきなりよぉ?」

 

 いったいなんなのよ。こんなに強引なことするなんてレッドらしくもない。どうしたの?

 

「上手く出来過ぎていると思わないのか? これは間違いなく罠だ。さっき中のカメラが動いていた。こっちを見ているぞ」

「なんだと! そうか、オレ達が中に入ったら閉じ込めるつもりだったのか。中からの脱出はほぼ不可能……あっぶねー」

 

 これはレッドのファインプレーね。いや、よく考えたらこんな便利なものがあるのに向こうが何の手も打たないわけないか。うっかりしていた。この場所が油断できないところだってことは最初からわかっていたのに。

 

 トントン拍子に行き過ぎてつい気が緩んでいたみたい。もっと慎重に行かないと。1回ミスしたら終わりなのにこんなことに気づかないなんて。わたし1人じゃなくてよかった。単独ならヤバかったわね。

 

「迂闊だったわ。サンキューレッド。それじゃ、地道にまた階段を探すしかないわね」

 

 結局かなり時間をかけて地下4Fにた辿り着き、ようやくカギを持っている幹部を見つけた。なんでこんなわっかりにくいところに下っ端と同じ格好でいるのよっ! 鍵持ってるならもっとそういうオーラを出しときなさいよ!

 

「くそっ。まさかこんな子供にここまで侵入を許すとは。あの役立たず共め、後で罰を与えないとな」

 

 役立たずって……あなたそれ、ものすごいブーメランになるわよ。いや、むしろすでに後頭部に突き刺さっているわ。

 

「だったら自分もここで役立たずの仲間入りをするんだから、お前も罰を受けないとな」

 

 グリーンにも言われているし。

 

「抜かせ! 子供でもここまで舐めた真似をした以上ただじゃおかねえ。大人の怖さを思い知らせてやる」

 

 言うことは一人前だけど、敵の前でしゃべり過ぎなのよね。うかつにわたし達の方に気を取られていると……。

 

「ねむりごな」

「しまった、そこは勇敢に俺に対して立ち向かってくるとかじゃないのか! まだ、俺の出番……ガクッ」

 

 ロケット団って、けっこうおまぬけというか、悪役っぽくない人が多いわね。幹部は後ろからレッドのバタフリーにねむらされ、戦うこともなく楽に勝った。

 

「あったぜ、これが鍵だ。後はコントロールパネルだな」

「急ぎましょう」

 

 ようやくというべきかしら。先へ進むと、とうとういかにも、という扉があって幹部らしき人がその脇に2人いた。さしずめこいつらが扉の門番ってところでしょうね。

 

「相手が2人か」

「だったら決まってるわね」

「……全員で、すぐに倒す」

「「なんだと!?」」

 

 見事にハモったわね。2人だからこっちも2人で相手すると思った? 残念、あんたら相手に正々堂々なんてするわけないでしょ!

 

「こいつら、微塵も迷いがないぞ」

「子供のクセになんて奴らだ」

「それはあんたらのおかげだっつーの。カメール、みずのはどう!」

「エナジーボール」

「かえんほうしゃ」

 

 今まで数に任せて散々手を煩わせてくれたけど、今回はこっちが多いから意趣返しになったわね。集中攻撃で1人ずつ仕留めて結局あっさり倒せちゃった。やっぱりロケット団って大した敵じゃないわね。無理やり扉をぶっ壊して、中に入った。

 

「よく来たな、ご苦労」

 

 部屋には高そうな椅子に座った人がいて、なんかヤバそうなオーラを放っていた。しゃべり方にも余裕が感じられる。……格上かも。

 

「ああ? まだ団員が残っていたのか。こいつもさっさとやっつけるか」

「いや待て。こいつ、さっきまでの奴らとは違う」

「それに……見た目からして、なんかボスっぽくない?」

「こ、こいつがロケット団のボス?! なんでこんなとこにいるんだよっ! まさかここって重要な拠点だったりしたのか!」

 

 グリーン、いまさら何言っているのよ。手紙にもボスがいるかもしれないって書いてあったでしょうが。

 

「察しがいいな。そうだ、私がボスのサカキ。ここにいたのはたまたまだがな。部下では実力不足のようなので、仕方なく私自ら手を下すためここで待っていた、というわけだ。私が相手になることを光栄に思うがいい」

「へっ、こんな雑魚共のお山の大将していても、怖くもなんともないぜ。一気に行くぞ!」

 

 “みずのはどう”“エナジーボール”“かえんほうしゃ”……グリーンの声に合わせてわたし達の攻撃を合わせた。それぞれの今出せる最高の攻撃。さすがにこれならいけるはず!

 

「まもる。つのドリル、ストーンエッジ、れいとうビーム」

「しまった、ヤバイ! 避けて!」

 

 3体で一点集中したのが裏目に出た! 素早く相手は4体もポケモンを展開し、わたし達の攻撃は全て“まもる”でいなされてさらに技を出した隙を突いて他のポケモンが弱点を突いてきた。

 

 カメールは耐久力が高いけど一撃必殺は耐えられない。リザードは抜群の上急所。フーちゃんは技の隙が少なくて、相手の攻撃が他の攻撃より比較的遅かったからギリ避けられたけど、これで一気に形勢が傾いてしまった。……わたし達にとって最悪の方へと。こいつ、ボール捌きも、指示の出し方も洗練されている。イヤでも自分達との格の違いを痛感させられる。

 

「所詮子供。攻撃パターンが単調で読みやすいことこの上ない」

 

 わたし達が得意技で一点集中することは読まれていたってこと? その一言にレッドが反応した。

 

「そうか、ここでずっと見ていたのか。そしてわざとおれ達をここまで泳がしていた……違うか?」

「なんだと! じゃあオレ達はこいつの掌の上で踊らされてたってのか!?」

「そういうことだ。君らの手の内はもう十分見た。その上ここに用意しているポケモンは本気のものではないが、それでもレベルは40以上。君達は30ちょい。悪いが何匹束になっても勝てはせんよ」

 

 サカキが勝ち誇った顔で宣言した。実際にレベルはそれぐらいある。ヤバイ。しかもさっき渾身の一撃をあっさり躱されたのも痛い。かなり堪えている。上手く進んでいたことも相手にそう仕向けられただけだとこのタイミングで知らされたのもキツイ。

 

 はっきりいって状況は最悪ね。

 

「こっちのレベルもわかるのか。使い手だな」

「くそっ! カメールがやられたんじゃ、どうしようもねえ」

 

 2人ともレベルの差にも気落ちしている。たしかに勝つのは厳しいけど、こんなので諦めたらダメよ。レベルの差なんて簡単にひっくり返る。わたしはそんなところを今まで何度だって見てきた。だから諦めることが1番ダメだってよくわかる。そうよ、今のわたしなら勝てる、勝てるはずなのよ。シショー、どうか見ていて……! わたしに力を貸して!

 

「諦めないで!」

「ほう? まだ向かってくるか?」

「ブルー、なんか勝機があるのか?」

 

 グリーンはもう戦意をなくしている。その言葉には覇気がない。レッドも表情には出にくいけど、もう折れかけている。このままではダメだ。わたしが2人を立ち直らせるしかない。最後まであがき続けてやる。

 

「そんなのわかんない。でも、あんたは勝てる見込みがないと戦わないの?」

「!」

 

 やっと俯いていた顔を上げたわね。あと一押しってところね。

 

「レベルなんて関係ない。そんなものバトルでは簡単にひっくり返るのよ。だから簡単に諦めないで。それが今できるベストでしょ? トレーナーなら、最後までベストを尽くしてよ。あんた達が諦めたら、ポケモン達は何を信じるっていうの!!」

「ブルー……」

「……」

 

 2人は目が覚めたみたいね。身に覚えがあるからこそ、その効果はよくわかる。身近な人に言われるとけっこう効くのよ。

 

「だったら行動で見せてみろ。ダグトリオすなじごく、ゴローニャすてみタックル」

 

 さすがに2人が立ち直るのを黙って待ってはくれないか。でも負けない! 素早くピーちゃんをボールから出した。

 

「速い! ダグトリオの攻撃は避けられないぞ!」

「動きを止めてすてみタックルを当てるのが狙いだ、まもるを使え!」

 

 この2人はやっぱりこんな時でも相手の考えが見えている。でも、その対応じゃきっとダメ。直感でわかる。普通の立ち回りではこの男には読まれてしまう。その先の先を考えた立ち回りが必要。狙いを読んで“まもる”を使えば、きっとその後の隙を見て残りの2体が黙っていないはず。だからこそあの2体は後ろに控えている。そうなれば手痛い攻撃を無防備に受けることになる。だから……わたしは更にその上を行く。

 

「ううん、ゴローニャにフェザーダンス、ダグトリオにエナジーボール」

 

 まずフーちゃんが“すなじごく”を受けながらもダグトリオには“エナジーボール”を当てた。予想通りHPの低い分1発で倒しきった。あなたが体力ないのは“ディグダのあな”でよーくわかっているのよ。さらに“フェザーダンス”で攻撃を下げたおかげで“すてみタックル”までも耐えきってくれた。火力と耐久両方自慢のフーちゃんなら出来ると思ったわ。ここまで計算通り。

 

「何っ!? 受け切っただとっ!」

「ゴロッ?!」

「よくやったわ! ついでにそいつからたんまりかっさらっちゃいなさい! ギガドレイン!」

「ここでギガドレインか! あっちの作戦もなかなかだが、それを見事に利用してやがる。ブルーも負けてねぇ!」

「これは避けられない。それに他のポケモンも動けないゴローニャが邪魔で手が出せない。ブルー、上手いぞ」

 

 こうかはばつぐん、ゴローニャも倒しきって失った以上に回復もできた。相性はいいのだから、まだまだやれるわね。

 

「しまった! 回復までされたか。しかも2匹ともやられるとは。同士討ちを避けて2匹だけで攻めたのが裏目に……いや、最初に狙う順番を間違えたか」

「ばっちりね。これでまだまだいける。わざわざ回復させてくれてありがとうね。おかげで楽になったわ、おじさん?」

 

 ホントは気持ち的に余裕なんて全くない。相手の威圧感に圧倒されてギリギリいっぱいだけど、いつものシショーの姿と言葉を思い出して、わざと余裕を見せた態度をとった。苦しい時ほど笑って見せ、不安な時ほど堂々と胸を張る。それが相手の動きを鈍らせ、味方を鼓舞するのだから。

 

「くくく、ははははは! 私相手におじさん呼ばわりか。面白い子供だ。いいだろう、今回のところは見逃してやる。そろそろヤマブキで大事なビジネスの時間だ。それさえ上手くいけばこんなところは用済みだからな。だが、もし次に会うことがあれば今度は手加減なしだ。本気でお前達を潰させてもらう。二度とバトルなどしたくないと思う程にな」

 

 効いたの? わかんないけど、なんでもやってみるものね。今まで暴走族とか、アジトの場所とか、この超やっばい奴とか、苦しい場面でいつもシショーが、その教えが助けてくれた。離れていても、まるで傍にいるみたいな安心感。ありがとシショー。

 

「なっ、てめぇ逃げる気か! だが扉は通さねぇぞ」

「それに出入り口は町の者が固めている。簡単には逃がさないぞ」

「フフフ、まだまだ青いな。私がそんな袋小路を自分のアジトに作ると思うのか? 3人だけで無謀にもここに飛び込んできたのかと思っていたが、外を固めようと思う程度にはお利口だったのは褒めてやる。だが、まだまだ詰めが甘い。その程度の浅知恵で私を捕まえることは無理だ」

 

 パチン、と指を鳴らすとサカキの座っていた椅子が上の階へ移動した。もしかして別の出入り口があったの?!

 

「逃がすもんですか!」

「いや待て、深追いは禁物だ。また罠があるかもしれねぇ。あいつ用心深そうだしな。追っ払っただけで上出来だ。正直、さっきのブルーには救われたぜ。悔しいが完全に戦意をなくしちまってた。なっさけねぇ」

「グリーンの言う通りだ。ブルーは良くやったし、引き際は心得ておくべきだな。まずはコントロールパネルを壊そう」

 

 そうね。ちょっと熱くなり過ぎていたかも。窮鼠猫を噛む、戦いは五分の勝ちを上とするっていうしね。今はあの男を追い詰めるときではない。でも、いつかは必ず……。

 




今回の見どころはやっぱりブルー対サカキのバトルですね
つばさでうつ連打するだけだった頃に比べるとまさに別人
毎日甘い行動をするとすぐにシショーに咎められるので立ち回りが慎重になり、格上相手は読みのレベルも裏の裏を考えるのが当たり前という感覚になっています
手持ちが不十分ながら、この辺の駆け引きはブルーがレッドとグリーンに一歩リードというところ

この世界はひっさつの「よけろ!」が使えるので確実に当てるコンボはダブルの基本
さらにじばく技、ため技などの大技の存在価値を地に落とした悪の技「まもる」もあるのでそれを見越した波状攻撃も大事
今回のように後続を残したり、いつぞやの大爆発→起死回生とかですね
ちなみに「こらきし」ならぬ「こらばく」はじばく技が弱過ぎるが故の調整という面もありました

「まもる」は優先度の関係で相手の指示を聞いてから後出しジャンケンできるのでほんとにインチキ、それをわかってるのでレインは「つばめがえし」や「むしくい」より優先して「まもる」と「みがわり」をアカサビに覚えさせたんですけどね
ただし連続だと失敗しやすい効果を受け継いで、技の使用後次の行動までラグができるという設定で考えています
破壊光線とかの反動ほど大きなものでなく、僅かではありますが

最後のサカキ大脱出は作者が思ったことをそのままサカキにしゃべってもらいました
自分の城に袋小路作ってそこに待機する殿様がいたら間違いなくバカ殿でしょう
ボス部屋からは逃げられないって言っておいて自分が逃げれなかったらそれこそじばくですよ
サカキさんに限ってそんなミスするわけないでしょう、そうですよね(ニッコリ)

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