Another Trainer   作:りんごうさぎ

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5.終わってそうで終わっていない 約束の地から決戦の舞台へ

 見事にわたし達はアジトを攻略し、パネルを壊し、ボスも追っ払って、カギも見つけた。ロケット団を倒したということでわたし達は一躍町のヒーロー。でも、まだこれで終わりじゃない。

 

「まだよ、これで終わりじゃない」

「そうだぜ、お礼はまだ早い。オレ達の仕事はまだ終わっていない。工場に乗り込んで、あのベトベター共にお返ししてやらないとオレの腹の虫が治まらねぇ!」

「回復もできた。さっそく向かおう」

 

 2人共まだやる気満々ね。今わたし達は勢いに乗っているし、このまま工場も一緒にパパッと攻略してしまうのも悪くないか。ベトベターもこれ以上増えたら大変だもんね。ジョーイさん達からお礼の言葉をもらうのもそこそこに工場へ向かった。

 

 ◆

 

 工場に着いたけど、周りにはベトベターがわんさかいる。グリーンの話で聞いた通りね。凶暴性はなくなっているはずだけど、ここはもうベトベターの縄張りだから勝手に入ればさすがに襲ってくるでしょうね。どうしたものか。

 

「しびれさせるしかねぇな。レッド、バタフリーだ。ブルーはフシギソウ。オレはユンゲラーで進路上の邪魔な奴をどかす」

「それが上策だな。行くぞ」

 

 グリーンの考えが上手くハマり、あっさりとベトベターの群れは突破して中に入れた。わたしが入れる向きを逆にしてカギがすぐに開かなかった時は迫るベトベターにちょっと焦った。レッドが冷静に逆だって気づかなかったらヤバかったわね。

 

 上手く侵入できて安心したのも束の間、中はロケット団らしき人間はおらず、むしろポケモンだけ、それも大量のコイルの巣窟と化していた。

 

「中に人間じゃなくてポケモンがいるなんて聞いてねーぞ、おい。さすがに密室でこの数相手は厳しいぞ。とにかく全員手持ち出しまくって総力戦だ。ここが山場だ、いいなっ!?」

「のっけから大ピンチ、か。おれ達らしいな」

「のんきなこと言ってないで、さっさと数減らしてよね、2人共!」

 

 数が尋常ではない。外のベトベターと同じぐらいだ。当然回復して蘇ったりしないがはがねタイプが入っていて戦いにくい。長期戦になるわね。でもわたしには秘策がある。

 

「ジジジジ!」

「一斉にでんきショックか。何回もされたらさすがに避け切れねぇな」

「何割かはピーちゃんに引きつけさせるから、気が逸れたところを一気に叩くわよ。ここで減らせなきゃ、わたし達の負けは確実……行くわよ!」

「大丈夫なのか? いや、今は考える暇はないか。グリーン」

「わーってるよ。みずのはどう連打だ!」

 

 全員で一斉攻撃。上手く決まって数は減らせた。周り全部敵だから、どこに技を撃っても当たるから外すわけないんだけどね。

 

「おい、ピジョンは大丈夫か?」

「平気よ。避け切ったわ。……いや、1発はもらったみたいね」

「あれをほぼ避けたのか」

「しかも食らってもピンピンしてないか? ブルーも育っているのはフシギソウだけじゃねぇってことか」

 

 驚いているけど、種は簡単。シショーみたいに先に“こうそくいどう”と“みがわり”を使っておいただけ。ピーちゃんは技のレパートリーが少ないから“みがわり”を覚えさせていた。とっておきだから教えないけどね。状況はさっきまでより格段に良くなった。でもまだはっきりとこっちの不利には違いない。

 

 さらにコイルの群れにかかりきりのわたし達に予想外のことが起きた。

 

「ジリリリリ」

「ジョッ!?」

 

 あれはレアコイル!? いきなり死角から“でんじほう”を撃ってきた。コイルの影に隠れて様子を見ていたのね。いくら速くても不意を突かれたら避けられない。ピーちゃんが突然現れた親玉っぽいレアコイルにやられた。残りはフーちゃんだけ。どうする?

 

 レアコイルが出てきてから一気に攻めづらくなった。どんどんこっちのポケモンがやられていく。2人の方もわたしと同じく残り1体になったみたい。4,5体やられたのを見たから、レッド達は最初から5,6体持っていた計算ね。私は2体だけなのに。

 

 

「おい、ブルー。まさかもう他に手持ちがないのか?」

「やけに控えを温存すると思っていたが……単にいないだけだった、ということか」

「ぐ、そうよ、悪い? むしろなんであんたらそんな何体も手持ちに持っているのよ。育てきれなくならないの?」

「オレは天才だしぃ? お前とはレベルが違うからなあ」

「言わせておけば!」

「それより、どうする? あれは厳しいぞ。レアコイルをなんとかしないと他の奴を倒すのも難しい。なんとかならないか?」

 

 言い返そうとしたらレッドに遮られた。もう、言われっぱなしは癪だっていうのに。もちろんそれどころじゃないのはわかるけどさぁ。

 

「レッド、お前相性いいんだからなんとかしろよ。けっこう削ったし、もうひと押しってところだろ」

「やっているが、あと少しってなった辺りから周りの奴がレアコイルを庇ってこっちの攻撃は通らず、逆に隙をついて反撃されてここまで追い詰められたんだ。先に取り巻きをなんとかするしかないが、そうすると今度はレアコイルが援護に回る。だから何か策はないか聞いている」

「それじゃ、お互いにカバーされて手が出せないってことじゃない。どうしろってのよ」

「あークソッ! もっと強力な技があれば庇おうとする気も失せたかも知れねぇのによ!」

 

 そんな都合のいい技なんてあるわけないでしょ! ムダなこと言ってないでなんか考え……あ、技じゃないけどあるにはあるんじゃない? これなら……!

 

「いいこと思いついたっ! 行けるわよ、あいつを封じる方法がある! 2人共同時にあいつの周りに攻撃して動きを制限して。コイルごとまとめてレアコイルをまひらせる」

「まひ? そんなんで大丈夫かよ。まぁいい。足止めならオレだけで十分。みずのはどうなら自由にコントロールできる。それぐらい朝飯前だ」

 

 言うや否やすぐに見事なコントロールでレアコイルの退路を断ってくれた。グリーン、けっこう役に立つじゃない。ありがたくこの隙に……。

 

「レアコイルがいる辺り一面にしびれごなよ」

 

 うまく巻き込んでしびれさせられた。これで準備は整ったわね。

 

「これならたしかにコイルは庇えないが、レアコイルの動きを止めても相手は遠距離攻撃が主体だから効果は薄いぞ」

「大丈夫、狙いはこの後よ。しびれたところを狙って、こうするのよっ!」

 

 投げたのはハイパーボール。これならコイルもわざわざ捕まりに来る真似はしない。

 

「その手があったか」

「あっ! てめっ、きたねーぞ!」

「早い者勝ちよ」

 

 シショーがいらないって言っていたハイパーボールもらっといて良かったわ。なんでかわからないけどハイパーなのにやけにあっさりくれたのよね。

 

 コロコロ……カチンッ!

 

 やった! レアコイルゲットよ! でもまだ戦闘中だから気は抜けない……と思ったけど、そんなこともないみたい。

 

「コイルの動きが止まった?」

「そうか、親玉がいなくなったから混乱しているんだな。おいレッド、今のうちにまとめてやっつけてやろうぜ」

「待って。この子を使えばその必要はないわ。出てきて」

「ジリリリ!」

 

 レアコイルにコイル達を説得させて攻撃を止めてもらった。おかげで簡単に廃液は止まり、ベトベターは勝手に散り散りになっていった。ここからさらにベトベターと戦うのはしんどいから、これは嬉しい誤算ね。ただ、工場内はもうコイル達の棲み家になっているようなので、取り壊しはやめて廃液だけを止めて発電機関は残しておくことにした。

 

「わかったでしょ? 時には力押しでなく、懐柔するのも手なのよ。頭を取れば手下もおとなしくなるんだから」

「お前、なんかそういうの手慣れてるよな。師匠さんの影響か?」

「手下を従える。やっぱり、悪の組織なのか」

 

 違うって言っていたでしょ。いや、これはわざと言っているんでしょうね。レッドが言うと無表情だから分かりにくいけど。

 

 何はともあれ無事に事件は解決。あとはバッジをゲットすればこれで胸を張ってヤマブキへ向かえる。お礼もたんまりありそうだし、これで一歩前進ね。

 

「たしかにブルーのおかげもあるけどな、オレのフォローも忘れるなよ? なのにお前だけゲットってのはズリーよな」

「だったらコイルがいたじゃない」

「手下に興味はねぇよ」

「まあまあ。ブルーは手持ちも少ないし、増やしておきたいところだったはずだ。丁度良かったと考えるべきだ」

「さっすが、レッドはよくわかってるわね。どっかのウニ頭と違って」

「てめっ、それ個人特定され過ぎじゃねぇか!」

「あら、自覚があったの?」

「このっ! いいぜ、今すぐバトルしろ!」

「望むところよ! 返り討ちだわ!」

「……はあ、どっちもポケモンは戦える状態じゃないだろ」

 

 いつも通りのわたし達。わたしにグリーンがつっかかって、レッドが側で呆れて眺めている。逆に安心感のある日常ね。でも、これからはまた3人別々の道を行くのよね。ポケセンに戻るとアヤメさん達作戦メンバーに加え、和服姿の美人な女性……聞けばジムリーダーのエリカさんらしい、そんな人までいた。この人、たしか動けないみたいなこと言われてなかったっけ。

 

「あれ、大丈夫なんですか?」

「ええ、なんとか。どうやら上手くいったようですね」

「もうベトベターは自然に散っていった。これで事件は解決だ」

 

 レッドが宣言すると住民達から歓声が上がり、歓喜の渦に包まれた。わたし達も報酬をもらいニッコリ笑顔。予想以上の額に驚くと、町を救われたのだから当然だ、とジョーイさん達から笑われた。ホクホク気分でシショーみたいにパソコンでも買っちゃおうかなーとかこれを何に使うか考えていると、エリカさんに話しかけられた。

 

「あなた、ジム戦を希望しているらしいですわね」

「え、なんで知ってるんですか?」

「暴走族の男から聞きました。あなたは今回の事件で多大な功績を挙げました。なので、このバッジはあなたに差し上げますわ」

「え、いいんですか! ラッキー! ……はっ!? ダメダメ、ちゃんと勝負してください。わたし、ジム戦はランクを上げてポケモンを鍛えるって決めてあるんです。ランク7で勝負してください、お願いします」

「なんですってっ! しかもランク7に上げる!? なんでそんなことを言うの、どうして! こんなことあっていいわけ、あの子達がまたわたくしを……ううっ、胸が苦しい、頭も、気持ち悪い……」

 

 サボったのがバレたらシショーに何言われるかわからないからランク7の勝負をお願いしたら、エリカさんはいきなり大きな声を出して取り乱し、挙句に頭を抱えてうずくまってしまった。なんなのこれ、さすがに異常だわ。なんかヤバイんじゃないの!?

 

「エリカ様、大丈夫ですかっ! うう、凛々しい人だったのに、こんな風になっちゃって……なんでエリカ様がこんな目に遭わないといけないのよ」

 

 アヤメさんが肩を貸して少し落ち着いたみたい。やっばぁ……これ、わたしのせいなのかな。ただならぬ様子なので原因はわからないがとりあえず謝っておいた。

 

「ごめんなさい、なんか失礼なこと言ってしまったみたいで。悪気はなかったんです」

「構うこたぁねぇよ。こいつがだらしないってだけ。お前は悪くねーよ。ま、ランク7まで上げろってのは調子に乗り過ぎって気もするが」

 

 いきなりのグリーンのあんまりな言葉にさすがに聞き返さずにはいられなかった。

 

「グリーン、どういうことよ」

「こいつはジムリーダー失格だ。こんな一大事に引きこもって、終わった途端にのこのこ顔を出すのもそうだが、ジム戦の内容もひどかったぜ。全くポケモンに指示を出さねえんだ。自分は突っ立っているだけ。話になんねぇ」

「ホントなの、レッド?」

「ああ。控えめにいっても無能だな」

 

 グリーンは口が悪いから、レッドに聞いてみてもこの反応。無能って、あんたときどきびっくりするぐらい辛辣になるわよね。歯に衣着せぬというか。でもレッドをしてこの評価、かなりのもんね。シショーは特になんにも言ってなかったけど、どういうことなの?

 

「ごめんね、今はこんな状態だからバトルは無理よ。急ぎらしいし、ここはバッジだけで手を打って。私もね、もうこんな姿のエリカ様を見たくないの」

 

 そう言われるとこっちも言い返せない。シショーには手抜きがバレたら怒られそうだけど仕方ないわね。

 

「わかりました。変なこと言ってすみません。あの、私が言うのもなんですけど、早く良くなるように頑張ってください」

「ありがとう。あなたは町を救ってくれたし、ホントにいい子ね。あなたのことは責めてないわ。全部悪いのは、あの悪魔、孤児のレインのせいなのよ。だからあなたは気にしなくていいわ。ブルーちゃんも、これから頑張ってね。お師匠さんにもよろしくね」

 

 ええ!? 今、なんて言ったのっ!? たしかにレインって聞こえたけど……。

 

「あのっ!」

 

 思わぬ言葉に我を失い、気がついて声をかけた時にはアヤメさん達はジムに帰った後だった。せっかく事件も丸く解決して万々歳のはずが、何かスッキリしない。こんなモヤモヤしたままじゃ、ヤマブキに行けない。

 

「さて、これでお前もバッジは4つ。ここでちょっと話があるんだが……」

「ごめん急用ができた。あなた達は先に行って。わたし達、また別々になることはわかってたわ。また次はさらにお互い強くなって会いましょう。じゃ!」

「あ、おい、待てよ!」

 

 グリーンの声を無視して再びゴウゾウのいるアジトへ向かった。そして当人を見つけるとすぐにさっきのことを激しく問いただした。

 

「まさか最後にここへ来た要件がそれとはな。あのアホ余計な事まで口を滑らしやがって」

「やっぱり知っているのね。ねぇどういうことなの、教えて!」

「気持ちはわかるが、レインが言わなかったってことはお前には教えたくなかったってことだ。それを勝手に俺が教えたらマズイんじゃないか? 最悪俺まで何されるかわからねぇ。あいつヤバイ金にも手を出している雰囲気だったし、マジで何するかわからねぇところもあるからな。あんまり軽々しく詮索しない方がいいぞ」

「あ、そういえば……」

 

 詮索はするなって言われていたんだった。やったらヤバイことになるとかなんとか。でも知りたい、でも怖い、うううー!

 

「じゃ、エリカさんとの関係だけ教えてくれない? あなた訳知り顔だし、何か知ってるんでしょ?」

「まぁそれぐらいならいいか。単純に言えば、レインがバトルでエリカをボコボコに潰した、ってところか」

「相手はランク7で、それでボコボコにしたの?」

「実は、俺はそのバトル直に見ていたんだが、ランク7相手に一方的に勝ってしまってな。しかも1匹で。とんでもねぇ強さだ。しかもその倒し方がえげつなくてな。ただ負けるだけならあそこまで病んだりしない。あのバトルでエリカはトレーナーとしてのプライドをズタボロにされた」

「ど、どんなふうに?」

「……精神的な揺さぶりをかけて、相手のポケモンを寝返らせたんだ。最終的に3匹のうち2匹がレインの言葉を信用して造反。最後の1匹に至ってはエリカに攻撃を始める始末。あれじゃ自信も失くす。トレーナー失格を言い渡され、それを真に受けていた。それからは指示をしても言うことを聞かなくなるのが怖くなって何も言わなくなってしまったのさ。ああなったらおしまいだ」

 

 う……そ……。あのシショーがそんなヒドイことするなんてショック……いや、フーちゃんも一度殺されかけたし、むしろやりかねない。よく考えてみたらいつも通りね。身内には甘いけど、敵には容赦しない。やっぱりそういう性格なのね。

 

「なんでそんなことしたの? 他のジムではそんなことしてなかった。エリカさんがひどいトレーナーなの?」

「あれがひどいってんなら、俺はそれ以下だ。ほんとにダメだからじゃねぇ。その気になれば、俺や、他のジムリーダーにも同じことができるだろうぜ。やったのはエリカ個人にあいつが恨みを持っていたからだ。孤児になって町から疎まれた原因がエリカだからな」

「そんな、あの人がシショーの……」

「これで話は終わりだ。最後に忠告しとく。この話はレインから聞かされるまでこれ以上深入りするな。あと、レインはタマムシとかエリカとかの話をかなり嫌う。その単語を言うだけでもな。機嫌を損ねたくなかったら言わない方がいい。ああ、あと草ポケモンも嫌ってるから気をつけろ。下手したらエリカみたいにされかねないからな、冗談抜きに」

 

 ひぃぃぃぃ、やっぱり聞かなきゃよかった! 怖過ぎぃ! フーちゃんってもしかしなくてもそのとばっちり!?

 

 さすがにこれ以上聞くのは本気で命の危機を感じる。バレたら何されるか……私は神妙にうなずいてこの人の言うことに従うことにした。

 

「ねぇ、逆にエリカさんにシショーの話をしたらどうなるの? 一応今回の功労者の1人だし、少しは……」

「間違ってもするな。親の仇より憎いと思われてるんだ。お前まで火だるまだ」

 

 あぶなっ! うっかり漏らしていたらわたしゲームオーバーだったの!? シショーもそんなにヤバイなら一言ぐらい注意してよ! 忠告もしたくない程タマムシの話題はイヤなの!?

 

 ちょっと、いや結構、ううん、大分ショッキングな話を聞いたけど、気を取り直してヤマブキへ向かおう。なんかシショーに早く会いたかったのに、今の話であんまり会いたくなくなったかも。

 

 この町にいるのも最後なので、ラストにデパートに少しだけ寄ってからヤマブキを目指して東のゲートに向かった。わたしはそこで見覚えのある顔を見つけた。

 

「ボンジュール! ブルー、偶然だなぁ。案外すぐに会えたな」

「本当はここを通るのを見越して待ってたんだけどな」

「ばっ、言うんじゃねーよ!」

 

 グリーンにレッド、まだいたの? いっつもどんどん先に行っちゃうのに何していたのよ。考えられるのはわたしに大事な用でもあったってことかしら。

 

「どういうつもり? 何か用?」

「お前、そりゃねぇだろ。人の話も聞かずにさっさと行っちまってよ。すっぽかしたのはお前の方だぜ?……ブルー、これはマジな話だ。結論から先にはっきり言うぜ。オレ達の使命は終わってそうで終わっていない。ヤマブキにいるロケット団を倒すってミッションが残ってる。サカキの目的地だ」

「そのためにブルーの持っている手紙がヒントになるはずだ」

 

 いきなり本題か。回りくどいのがキライなグリーンらしい。しかもどえらいこと言い始めたわね。でも正直、驚いてはいない。なんとなくそんな気はしていたし、まだ何も終わってないこともわかっていた。でも、私は少し目を逸らしていたのかもしれない。

 

「仕方ないか。たしかに出来過ぎよね。あのサカキが残した言葉……ヤマブキへ行くつもりみたいだった。ヤマブキはわたしの目指すところでもある。それにこの手紙。3枚目はヤマブキに着いたら見ろって言われていたの。この手紙そのものがロケット団との接触に備えて渡されたものみたいだし、そうだとしたらこれも奴らの手がかりになるかもしれないわね」

 

 もしかすると、ヤマブキを約束の地に選んだのはサカキとの決戦を見据えていたのかしら。そこが決戦の舞台になるとわかっていたから。シショーにはいったいどんな景色が見えているのだろう。わたしなんかじゃ推し量ることもできない。

 

「そういうことだ。オレはあいつ、サカキにやられっぱなしじゃ納得いかないんだよ」

「おれもだ。それに、あいつらはほっとくわけにもいかない」

「そうね。いいわよ。じゃ、ここで見ちゃいましょ、3枚目」

「いいのか? 着いてから見るように言われたんだろ?」

 

 レッドはそう言うけど、頭が固いのよ。もう見るのは決まっているのだから遅いか早いかの違いだけ。なら早い方がいいに決まっている。

 

「いいわよ、どうせ見るなら先に見ても問題ないわ。その方が合理的よ」

「その通りだな。奴らの出方を先に知れば対策も先に打てる。たまにはいいこと言うじゃねぇか。オレもそう思ってたんだ。さっそく読んでみようぜ」

 

 レッドはなぜかちょっと気が進まないみたいだけど、わたしは気になってすぐに開けてしまった。最初の言葉を見た瞬間、びっくりして心臓が跳ね上がった。

 

『まず、これをまだタマムシに着いてもないのに勝手に読んでいるなら、今すぐやめろ。今なら勝手に読んだことは多目に見てやる。だが、ここまでしてまだ俺の言うことを聞く気がないならお前の面倒はもう見ない。信用がなければ付き合いきれない』

 

「……」

「これはどういうことだ?」

「気にしないで、先を見ましょう」

 

 内心、シショーのこの言葉には感心していた。こう言われてしまえば、もし軽い気持ちで盗み見をしていたならすぐにやめているだろう。こんなことで縁を切りたくはない。そして3枚目にこのトラップを仕込んでいたのは、やるなら最後から見ると読み切られていたのだろう。その予想も当たっている。驚く程わたしの性格を理解している。もっとも、この場合は理解されても全く嬉しくないけど。

 

『さて、本題の前に今お前はどこにいる? 実はタマムシでフライングしていないか?』

 

「ぎくぅうう!」

「やっぱり。読まれているな」

「お前はわかりやすい性格だしなぁ。はーはっはっは!」

「笑うな! あんたも一緒のこと考えてたでしょうが!」

 

 こいつさっきは同調して開けようとしたクセに! レッドがなんか考えていたのはきっとこれを予期していたのね。教えてよ! 恨みがましくレッドを見ると笑っていた。

 

「だが、今回は悪いことじゃなかったみたいだぞ?」

「どういうことよ」

 

 レッドに目で先を促されたので続きを読んでみた。何々……。

 

『結論から言えばお前は最善の行動に出たことになる。タマムシで見ているならロケット団は倒した後だな。ならこれを見ても構わない。実はヤマブキへ行く前に用意しておくべきものがある。今、ヤマブキのゲートは通行規制が入っている。通るにはブツが必要だ。といっても金は用意できんだろ。

 そこで、代わりにお茶を用意しろ。それもかなり熱めの奴をな。その辺で買ってもいいが、できたらその町のばあさんからわけてもらえ。どこにいるかは聞き込みすればわかる。

 もしこれをゲートで読んでいるなら、ご愁傷様。おとなしく取りに帰れ。期限を多めに取っていたのはこの往復の時間を考慮していたからだ。とはいえ俺の予想じゃ8割方そんなことにはなっていないだろうが』

 

「なるほど。行動を読まれていたが、結局ベストならいいじゃねぇか」

「むしろ、ブルーの性格を踏まえてベストになるように調整されていたように思えるが」

「とにかく、お茶が要るのがよくわからないけど、最後まで先に見ときましょう」

 

『ヤマブキに入ったら、中は奴らのテリトリーだ。気を抜くな。ボスはシルフにいる。奴らの目的はシルフの乗っ取り、そして開発中のマスターボールの確保。野望を止めるにはシルフに乗り込んでボスのサカキを倒すしかない。タマムシで一度退けているとはいっても、奴はまだ本気じゃない。シルフでは桁違いの強さでくる。覚悟しとけ。

 それに、中には社員が人質になっているだろう。そいつらを解放しつつ、集結した団員を全部相手にしていたらキリがない。かなり大変になるだろう。それでも行くなら止めはしない。お前ならなんだかんだ生きて帰って来られるだろうしな。

 少しだけ助言しておくと、まずシルフに潜入するときに気を付けるべきことはワープパネルが大量にあることだ。うろ覚えだが中のマップを書いておいた、参考にしてくれ。あと、助けるのはシルフの社員だけにしろ。中にはロケット団に魂を売った悪の科学者も混じっている。油断していると背後を突かれるぞ。最後に、入り口の見張りは、眠らせたら簡単に中に侵入できる。なんとか頑張れよ。俺はいつもブルーの無事を祈っている

 正直、ロケット団相手にお前を戦わせるのは不安だったが、ゲームコーナーのアジトで一度勝っているなら大丈夫だ。お前はいいトレーナーになったと思う。自信持てよ。ヤマブキで先に待っていてくれ』

 

 はい、家宝決定ね。絶対に期待には応えてやるわ。

 

「あんた達、こうしちゃいられないわ。急いでサカキをぶっとばしに行くわよ!」

「……なるほど、ブルーって思っていた以上に人に乗せられやすいんだな」

「それよりよぉ、まずいくつもツッコミどころがあるだろ! ボスの名前とかシルフの内部機密のワープルートとかなんでこんなに知ってんだぁ?」

「そりゃシショーだもん」

「まさかのスパイ説浮上か」

「お前らふざけてんのか? それとも本気なのか?」

 

 本気に決まってるでしょ。シショーはだいたいなんでもできるから。レッドは真顔でふざけているけど。

 

 シショー、ヤマブキに着いたらわたしがロケット団を倒して強くなったところ見せつけてびっくりさせてあげるわ! あんまり遅いと置いていっちゃうからね!

 




お助け袋でワープルートが書かれているところがありましたが、あれは実際にシルフに行ったときにいくつかだけ試して、それで自分の知ってる通りだったので残りは記憶を頼りに書いた、と思ってください。大事なところだけ手紙にメモっておいたんでしょう
この時点でレインさんはストーリーのやりこみ度合いもヤバイのが確定ですね

お茶についてはレインはそのばあさまに直接会っています
怪しい工場とかも含めて1章の伏線がようやく回収されたわけです

本編関係ないですが、本作の閲覧数とかが伸び始めたのはこの話を投稿した頃でした
その節はたくさんの高評価ありがとうございました
だいぶ後になってから評価が入ると日間ランキングに乗ったりして閲覧数が伸びることに気づきました
気づくまでは唐突なバブルの原因究明のため、謎仮説を乱立させていましたね

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