Another Trainer   作:りんごうさぎ

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7.変わらないもの 変えられないもの

 ワープパネルを使って大急ぎで上の階を目指すと、7Fでは大激戦が繰り広げられていた。幹部級に捕まったみたいね。最後のワープの前に“せいちょう”を最大限使い、7Fに移動したらすぐにフーちゃんの“エナジーボール”で敵をレッド達から分断するように吹き飛ばして間を取った。

 

「ハーイ、レッド、グリーン。苦戦しているわね。手、貸しましょうか?」

「頼む」

「もうHPが残ってない。しばらく時間稼げるか?」

「4人ぐらいならわたしだけでも十分よ。あんた達はゆっくり回復してなさい」

 

 その余裕綽々の言葉に相手はキレて、まずは相手の内2人ががむしゃらに攻撃してきた。わざと煽っているのがわからないのかしら。怒っている相手はいなしやすい。もう散々思い知った。

 

「ゴルバット、エアカッター」

「サンドパン、きりさく」

「ラーちゃん、エアカッターごと吹き飛ばしてれいとうビーム。フーちゃんは近づいてきたところをサンドパンにギガドレイン」

 

 効果抜群。2匹ともノックアウト。ついでに相手の残り2人の方も“ねむりごな”と“あやしいひかり”で動けなくした。

 

 ボール越しにここにくるまでにテレパシーで聞いた話じゃ、わたしが首を絞められた時に使ったのがこの“あやしいひかり”なんだとか。わたしは目が霞んでいたから混乱せずに済んだのでしょうね。

 

 ラーちゃんは技の練度がかなり高いようで、上手に操って味方に効果が及ばないようにしている。この子めちゃめちゃ強い。

 

「ラプラスだと? いつの間に……」

「お前隠し玉なんか用意してたのかよ!」

「あら、あんた達はなんもなしにここに来たの? 全く、わたしがいないと締まらないわね。ここはわたしがなんとかしてあげるわよ」

 

 準備万端でやって来たわたしは幹部を圧倒し、時間稼ぎも十分にできて2人も加勢した。

 

「さぁ、ここからはオレ達も反撃開始だぜ」

「一気にいくぞ」

「同時攻撃よ」

 

 “かえんほうしゃ”

 “みずのはどう”

 “エナジーボール”

 

 わたし達の最も信頼するパートナーの最も得意とする技、それが最強でないはずがないわ。それぞれまとめて2匹ぐらいを吹っ飛ばして、3体同時に光り始めた。

 

 まばゆいひかりがあたりをてらす……

 

「これは!?」

「きたっ! この光はまちがいないぜっ!」

「進化の光よっ!!」

 

 リザード、カメール、フシギソウ、超進化ッッ!!

 

 光の中から現れたのは辿り着く進化の果て、リザードン、カメックス、フシギバナ。最終進化形態揃い踏みね。さすがに最終進化形が3体並ぶと迫力が違う。

 

「ひいい! こんなの相手にしてらんねえよ!」

 

 幹部たちはシッポ巻いて逃げて行っちゃったわね。

 

「まさか全員一緒に進化とはな。そろそろだとは思っていたから、オレが1番乗りして差をつけてやろうと思ってたのに、当てが外れたぜ」

「だが、これでこっちはかなりの戦力補強ができた。進化で勢いにも乗れる」

「そういうことね。ちょうどこの先のワープパネルは最上階に通じてるわ。一気にチェックメイトよ」

 

 幹部を倒したわたし達を止められる者はもういない。あっという間に社長室まで辿り着いた。本来社長が座るはずの席にはあの男がいた。グラスを傾けて、今シルフの社長室まで追い詰められているっていうのに、ワインなんか飲んでえらく余裕じゃない。ふざけた真似してくれるわね。

 

「もうここまで来たか。それもこんな夜更けに。私はたしかアジトで忠告してやったはずだが、どうやら聞いてなかったようだな。これじゃおちおちワインを嗜む時間もない」

 

 出たわね、サカキ。こんな非道な実験をさせる奴らの親玉である以上、ここでこいつを倒さないとまた不幸なポケモンを増やすことになる。絶対に負けられない。トレーナーとして、こいつのやっていることを認めるわけにはいかないわ!

 

「それなら聞いてたぜ。でもよぉ、オレ達がおとなしく言う通りにしなきゃいけねぇ理由はないはずだ。だろ、レッド?」

「その通りだ。サカキ、覚悟しろ。もう逃がさない」

「あなたがいるとたくさんのポケモンが苦しむ。これ以上の好き勝手はさせない。ポケモンはあなたの道具じゃないのよ。これまでの数々の悪行、ここで悔い改めてもらう」

「くくく……好き勝手に言ってくれる。言うことは一人前だが、しょせんお前らはただの子供。我々の理念を理解できないばかりか、非力で、無力だ。お前達こそ、己の分をわきまえろっ!」

 

 ビリビリと空気が震える。そんなはずないのに、言いようのない圧迫感に押し潰されそうになる。これが殺気ってやつなのかしら。わたしの頭の中では警報がガンガンうるさく鳴り響いている。

 

 こいつはヤバイ。でも、だからって引くわけにはいかない。ここで一歩下がってしまったら、わたしは二度と前へ足を踏み出せない。自分の体を奮い立たせて、わたしは右足を大きく前に踏み出して、力強く宣言した。

 

「いいや言わせてもらうわ。絶対にあんたはここで倒す! そんなことあんたが決めることじゃない。わたし達は非力でも、無力でもない。わたし達3人がそろえば、不可能はないのよ。ロケット団なんて、片手で捻り潰してやるわ」

「よく言ったぜ、その通りだブルー。サカキッ! お前こそ、この前はアジトをぶっ潰されてノコノコ逃げ帰ったのを忘れたのかよ?」

「追い詰められているのはどっちか、立場をわきまえるのはあんたの方じゃないか?」

「フフフ……愚かな。あの時、私はその気になればお前達など簡単に倒せた。せっかく拾った命をむざむざ捨てに来るとは。お前達、そこまで正義に拘り我々の邪魔をするなら、その正義に心中する覚悟はあるのか? そのために死に、また屍を踏み越える覚悟が? 口だけの安い正義なら今すぐここから立ち去れ。これでも、まだお前らの覚悟は変わらないのか?」

 

 サカキの言葉に思わず考え込んでしまった。自分の死と、仲間の死について

 

 わたしが死ぬ。……またあの時のように、無に還る。怖い。慣れるなんてことはない。一度死の淵を見て、逆に恐怖を覚えた。知らない内は無謀に突っ走れたのに。死ぬことは恐ろしい。

 

 屍……もしこいつらが死んだら、ベトベターの時のように。もしラーちゃんが死んでしまったら、拷問され力尽きたときのように。そしたら……。

 

「……ッッ!!!」

 

 許せないっ! 許せない、許せない、絶対に許せないっ!! わたしは死んでも、わたしを支える人達を死なせることだけは絶対にダメ。こんな野郎に、そんなことさせない。怒りが、体の底から打算のない純粋な怒りが湧いてくる。

 

 今まで見てきた非道な実験の数々が蘇るっ。ポケモンの悲鳴が心を抉るっ!。わたしの正義が、悪を滅ぼせと叫んでいるっ!! そのためなら……命なんて惜しくない。屍を越える覚悟なんて必要ない。絶対にわたしがそんなことさせないから! もう恐怖はない。こいつを倒すことしか頭にない。そう、わたしの“変わらない”意志が悪を討つ!!

 

「なめんじゃねえ! オレ達は最初から命捨ててきてるんだよ! くだらねぇこといってんじゃねぇ! あんたこそ、ここで負けて死ぬことになってもいいんだな?」

「そうよ。わたし達はポケモンのために命を懸けてる。ここで悪の芽を断つことができるなら、わたしは命も惜しくない。憂いは断たなければいけない。そのために死ねれば本望! わたし達の意志、それは絶対に“変わらない”! 変わることはないのよ!!」

「ああ。小動(こゆるぎ)もしない」

「……いいだろう。お前達には俺と、いや、この俺様と戦う資格がある。躾のなっていない子供に、カントー最強のトレーナーが誰か冥土の土産に教えてやろう。どれほど力の差があるか、その身で以て思い知れっ!!」

 

 スッと軽い動作で投げられたボールから、その仕草とは似つかわしくないとんでもないポケモンが飛び出してきた。

 

 ……見たことないポケモンね。サイドンに似ている。レベルは50以上はあるわね。わたしの手持ちは最高でもラーちゃんとフーちゃんの36。さすがに強い。本気じゃないってあの時はそう言っていたけど、まさかここまでとは。

 

「面倒なのが出てきたな。こいつはドサイドン、サイドンの進化形だ。かなり強いぜ」

 

 グリーンが教えてくれた。種類とかに関しては昔から詳しいのよね。助かるわ。

 

「おっと、まさかこれだけだとは思うなよ?」

 

 続いて出てきたのはニドキングとダグトリオ。何よこれ、こいつら全部50台の後半じゃないのっ?! これじゃ、マスタークラスの実力じゃないの! どうなってんのよっ!

 

「本気じゃないというのはハッタリではなかったのか。だが……これは予想外過ぎる。あんた、名の知れたトレーナーなのか」

「フン、名が通っていなくても強い奴は強い。レベル30そこそこでいい気になっているようじゃ、まだまだヒヨっ子というわけだ」

「へっ、ちょうどいい。ここまで歯ごたえがなさ過ぎてつまらねぇと思っていたところだ。進化したオレ達の肩慣らしぐらいにはなるかもな」

「そうね。メインのポケモンの相性は有利だし、勝てるわ」

 

 狭いから、わたし達は1体ずつが限度ね。向こうも3体。持久戦に持ち込んで勝つ。

わたしはピーちゃんを、レッドとグリーンはバタフリーとラッタをくりだした。

 

 サカキ  ドサイドン ダグトリオ ニドキング ひんし0

 赤青緑  バタフリー ピジョン  ラッタ   ひんし0

 

「しびれごな」

「いかりのまえば」

「すなかけ」

 

 まずは様子を見て出方をうかがう。2人もそのつもりのようね。さすがにこれだけレベルの差があると無茶はできない。当然の判断ね。

 

「くく、甘い。ふぶき、あなをほる、ふぶき」

 

 なんですって! こっちの攻撃が通らないどころか、全部跳ね返ってきた! ここまで力に差があるなんて信じられない。様子見ですらぬるかったというの?!

 

「2体やられたがラッタは耐えた! いけ、いかりのまえばだ!」

 

 あと少しでドサイドンに届くというところで、地中に身を潜めていたダグトリオの“あなをほる”が当たり戦闘不能になった。惜しい……そう思いたかったし、以前なら思っただろう。でも、今ならはっきりわかる。あと1歩。だけどこの1歩は果てしなく遠い。

 

「くぅぅ! ラッタ……くそっ、戻れ!」

「甘いな。この俺がそいつだけを見逃すとでも思ったのか?」

「全て計算ずくか。ポケモンのレベルだけでなく、戦闘経験も格上だな」

「大丈夫よ、対策はある。ラーちゃん」

「ホントだろうな? ナッシー!」

「ニョロボン!」

 

 サカキ  ドサイドン ダグトリオ ニドキング ひんし0

 赤青緑  ニョロボン ラプラス  ナッシー  ひんし3

 

 口ではそう言うけど、どっちも相性のいいポケモンを出す辺り信頼されているようね。悠長にしているとどんどん押されて不利になる。こっちから勝負を仕掛けるしかなくなった。余裕のない状況。お願いだから変なことしないでよ!

 

「ドサイドン戻れ、出ろゴローニャ」

「何っ!? ここで引っ込めやがった!」

「驚いている暇があるのか? ゴローニャ、やれ!」

「!!」

 

 この構え、まさか……“だいばくはつ”?! もう、変なことしないでって言ったでしょ! なんでこう1番こっちがイヤなところでやるのよ!!

 

「ヤバイ、後ろのわたし達もタダじゃ…」

 

 ドカーーーンッッ!!!

 

 目を開けるとわたしの前にはラーちゃんがいて、そのまま倒れてしまった。わたしはなんともない。庇われたんだ……!

 

「ラーちゃん! わたしを庇ったのねっ! まだ傷は完治していないのに、無茶して!」

「すまねぇ、ブルーまでリフレクターが間に合わなかった」

 

 ナッシーとニョロボンはやられたみたいだけど、グリーンとレッドは大丈夫そうね。

 

「そっちもなんとか生きているみたいね。ポケモンはお互い3体失った。わたし達も痛いけど、総数はこっちが上だからかなり優位になったわ」

「それはどうかな? こっちは1体しか減っていないぞ?」

「バカな、そんなわけ……なっ!?」

 

 見るとダグトリオとニドキングはピンピンしている。どうして?

 

「取り乱すな、落ち着けブルー。以前にお前がやったのと同じ。“まもる”を使ったんだ」

「ご名答、赤い坊主。あれが見えていたのか」

「そうか……技の指示がないから気づかなかったが、あらかじめ爆発するときは連携をとっているのか。戦術もマジもんじゃねーか」

 

 この連携力、シショー以上の使い手かも。指示なしでここまでポケモンを操れる人がシショー以外にいるとは思わなかった。なんて奴なの。

 

「さて、どうする? これでお前達は大きく手持ちをロスしたが」

「その手には乗らない。おれ達の動揺を誘うためにやったんだろうが、実際には3:1で減っても五分にしかならない」

「違うな。俺が失ったのは最もレベルの低いポケモン。対してお前らは俺の“ふぶき”対策を失った。果たしてこれが本当に五分と言えるのか?」

 

 その言葉にレッドも反論できず渋い顔になる。が、ここで気力を尽くしてラーちゃんが起き上がった。

 

「ラァァアアアッッ!!」

「ラーちゃん!? ダメ、無理しないで!」

「ほう、意地でも立ち上がるか。大した根性だ。しかし、それを悠長に待つ気はない。出ろ、ドサイドン!」

「ヤバイ、こっちも次のポケモンだ! ユンゲラー!」

「エーフィ!」

 

 サカキ ドサイドン ダグトリオ ニドキング ひんし1

 赤青緑 エーフィー ラプラス  ユンゲラー ひんし5

 

 三者が次のポケモンを繰り出し、矢継ぎ早に指示が飛ぶ。

 

「ふぶき、あなをほる」

「ごめんラーちゃん、お願いっ! がんばってっ! こっちもふぶき!」

「「サイコキネシス!!」」

 

 ラプラスの渾身の一撃は見事に相手2体の攻撃を相殺して、その隙に2人が“サイコキネシス”を決めた。

 

「よし、ニドキングは倒した」

「甘い!」

「しまった、耐えろユンゲラー!」

 

 しかしユンゲラーも“あなをほる”でダウン。“リフレクター”込みでもダメなんて。それに今の時間でその壁も消えた。範囲を広げた分早く消滅したってところかしら。そしてグリーンはウインディ。サカキはガラガラを繰り出した。

 

 サカキ ドサイドン ダグトリオ ガラガラ  ひんし2

 赤青緑 エーフィー ラプラス  ウインディ ひんし6

 

「今度は大したことないな。ガラガラなら恐れることないぜ」

「それはどうかな? すなじごく、ホネブーメラン、まもる」

「かえんぐるま」

「サイコキネシス」

「れいとうビーム」

 

 しかし攻撃が通らない。“すなじごく”でウインディは動けず、残りの攻撃はドサイドンへの攻撃を読まれ“まもる”で両方まとめてガードされた。さらに“ホネブーメラン”で体力満タンだった2体が一気にまとめてひんしにされてしまった。

 

「ウソでしょ!」

「こんなの聞いてねーぞ、なんて攻撃力だ! ホネブーメランは1発だけならそこまで威力は高くないはずだっ」

「おかしい、何かカラクリがあるぞ」

「フハハハッッ!! お前達ではこの俺様には勝てん、決してな」

 

 その後もポケモンを出すが、この3体のコンビネーションを崩せない。全員がものすごく厄介だわ。ダグトリオが速さにものをいわせて先制して足止め役。そこにドサイドンとガラガラがバカみたいな攻撃力で襲い掛かってくる。集中狙いしても“まもる”を当てられるし、1回や2回の攻撃じゃレベルが違い過ぎてびくともしない。あの男のズバ抜けた読みの深さも相まって1匹も倒せず攻めあぐねているうちに、わたしのラプラス、レッドのカビゴン、グリーンのピジョンがやられて、とうとう全員最後の1匹になった。

 

 サカキ ドサイドン ダグトリオ ガラガラ  ひんし2

 赤青緑 リザードン フシギバナ カメックス ひんし11(4+2+5)

 

「リザードン、カメックス、フシギバナ。あの時のポケモンが進化したか。どうやらそれが最後のようだな。俺はまだ4匹いる。勝負あったな」

「なめるなよっ。オレ達はピンチでこそ本当の実力を発揮する! いけ、みずのはどう!」

「ドサイッ?!」

「何ィ? ドサイドンがやられるとは。そうか……“げきりゅう”か。うっかりしていた。あまり遊びが過ぎると、この俺様といえどさすがに危ないというわけか」

 

 そうよ、わたし達はいつもピンチこそチャンスなのよ! この3体の特性と同じ! 勝負はここから、まだまだ戦えるわ!

 

「へっ、どうだ! 今までのお返しだぜ」

「ナイスグリーン! 一番ヤバイのはやっつけられたわね。後はよくわからないガラガラとすばしっこいダグトリオさえやっつけたら終わりね」

「おっと、勘違いしているようだな。お前達はまだこのサカキの真の実力を理解してはいない。俺様の切り札はまだ出していないのだからな」

「なっ、ここに来てハッタリこいてんじゃねーよっ! そんなのあるならなんでさっさと使わないんだっての!」

「君らと同じだ。1番強いのは最後に取っておく主義でね」

 

 その言葉と共にボールから出てきたのは、たねポケモンのサイホーン。でもレベルが桁違い。

 

「な、70!? バカな! こんなの……こんなこと、チャンピオンでもありえねーよっ!!」

「おれ達の倍……!」

「そんな……」

 

 サカキ サイホーン ダグトリオ ガラガラ  ひんし3

 赤青緑 リザードン フシギバナ カメックス ひんし11(4+2+5)

 

 待っていたのは絶望。一瞬だけ、頭が真っ白になって、何も考えられなくなって、わたしは今自分が勝負の最中であることを忘れてしまった。

 

「メガホーン!」

「ひうっ!」

 

 気づいたら“メガホーン”がこっちに向かってきていた。直接わたしを狙い撃っている! あんなのくらったらわたしなんか文句なしに死んでしまう。また無に還ってしまうっ! 死の恐怖が蘇り体は固まってしまい動けない。どうしてよ、さっきまでちゃんと動いたのに、ウソでしょ……? パニックでもう何もできない。どうしよう、どうしようっ!

 

「バナァッッ!」

 

 ドッシィィッンン!

 

 すさまじい音がしてサイホーンが止まった。フーちゃん? まさか、またっ!? またわたしはかばわれたの? フーちゃんは気力を尽くしてくれたのだろう。今はぐったりと倒れている。

 

「ブルー、大丈夫か!」

「ハハハ! いまさら卑怯などと言うなよ。お前達も俺の部下に散々してきたことだからな。まずは1匹か。厄介なのは消せた。残るは2匹、それもひんし寸前だ」

「てめぇ、許さねぇ!」

「姑息な真似を」

「どう許さないんだ? お前達にこのサイホーンに立ち向かう勇気があるのか?」

 

 無理だ。70なんて強過ぎる。こんなの無茶苦茶だ。2人もわたしがやられて怒っていても、勝てるなんて思ってない。もうどうすることもできないのよ。

 

「なんだ、かかってこないのか。面白くもない。なら今度こそ始末してやるとするか。我々の秘密を知った以上、生かしてはおけないからな」

「ヤバイ、カメックス、ブルーを助けろ」

「リザードン、お前もだ」

「邪魔だ。お前達、足止めしろ」

 

 “すなじごく”と“がんせきふうじ”。こんな小技まできっちり決めてくる。隙がない。わたし達の負けね。敗者を待つのは死のみ。

 

 でも、これまでわたしは自分の心に正直に進んできた。もう悔いは……ああ、でも、最後にもう1回、シショーに会いたかったなぁ。よく顔も見ずに飛び出したあの時が最後になるなんて。こんなことなら、あの場所で言っておけば良かった。

 

「シショー……レイン……さよなら」

「ブルー、逃げろ!」

「何してんだ! 動けよ、急げっ!」

「メガホーンだ!」

 

 目を閉じて静かにその時を待った。痛いのは一瞬。もう覚悟はできたわ。

 

 次の瞬間、爆音が響き体中に大熱波が叩きつけられる。でも、感じるはずの痛みはない。何がどうなっているの? 混乱の渦中にありながら、また助かったことは理解できた。どうもわたしは悪運だけは強いらしい。

 

「なんだ今のは! 何者だ!」

「どうなったの……? サイホーンはどこにいったの?」

 

 閉じた目を開いて周りを見渡した。状況は一変している。どうしたわけかサイホーンはいなくなっていた。呆然とするわたしに、誰かが声をかけた。

 

「それならあそこだ。ブルー、ずいぶん苦戦してたみたいだな。俺がかわろうか?」

 

 その声は……レッドでもグリーンでも、ましてやサカキでもない。死の間際で最も強く願った、わたしの聞きたかった声。わたしが最も尊敬するあの人の声が聞こえた。

 

「えっ! あなたは……もしかして!」

「待たせたみたいだな。ここまでよくやった。俺が来たからもう大丈夫」

 

 シショー! 来てくれたのね! ヤマブキにいないみたいだったからまだ来ないと思っていたのに。まるで神様がわたしの最後の願いを聞き届けてくれたみたい。信じられない。でも、夢じゃないっ!

 

 わたしを安心させるように笑いながら頭を撫でてくれる。そうだ、わたしはいつもこんな表情のシショーを見て憧れていたんだ。どんな強い奴が相手でも、笑って安心させてくれる。本物のヒーローみたいな姿に。

 

 シショーは鋭く真剣な表情に戻って、サカキと向かい合った

 

「お前、何者だ? どうやってここに?」

「そんなこと聞いてどうするんだ? それに、俺を倒すのが先じゃないのかい?」

「力ずくで聞けということか。面白い。まぐれは一度きりだ。お前のポケモンもレベルは30そこそこ。この俺様の敵ではない。サイホーン、すてみタックル。きりさく、ホネブーメラン」

「気をつけろ、ガラガラはっ…」

 

 グリーンが叫んだけど言い終わる前にシショーは手で制した。

 

「攻撃力だろ。見ればわかる。アカサビはダグトリオ、グレンはガラガラ、ユーレイはサイホーン」

 

 まずは高速で接近するダグトリオをそれ以上の速さで翻弄して一撃で倒した。あれは必中の“つばめがえし”ね。

 

 さらにガラガラに対してはブーメランを一度避けるも二度目が当たり、やられたかと思いきや、平然と耐えて逆にオーバーヒートで一発K.O.

 

 サイホーンはいきなり床から現れたゲンガーのシャドーボールをモロに受けてあっさりと倒れた。

 

 それに……よく考えると技の指示が全くない。合図すらなしでもこの程度の連携は当たり前だっていうの? 本当に……こういうのを次元が違うと言うのでしょうね。サカキですらわたしには遠く感じたばかりなのに、シショーはそれをも軽々と超えていく。

 

「バカな! 俺様の最強のフォーメーションが、こんなガキにやられただと!」

「井の中の蛙大海を知らずって言葉知らないか? あんたがその蛙だったのさ。ロケット団のボスっていっても、案外大したことねぇな」

 

 “名が通っていなくても強い奴は強い”って言葉はサカキ自身が言ったことだけど、それをこんな形で我が身で思い知らされることになるなんてとんだ皮肉ね。わたし達は知らないだけで、世界にはこんな強いトレーナーがたくさんいるのかしら。

 

「ウソだろ、あいつ何モンだよ。レベル70のサイホーンを簡単にやっつけたぞ」

「ほう、あれは70もあったのか? その辺の野生のポケモンと変わらない強さなんで気がつかなかったなぁ。もしかして、あれがお前の切り札だったのか?」

「貴様ァ、よくもぬけぬけと……許さんぞ」

「いいぜ、来いよ! いくらでも相手になってやる。まだ終わりじゃないだろ?」

「いけっ、ドサイドン!」

「はぁっ?! あいつなんでまだポケモン持ってんだ!? あれ7体目だぞっ!」

「レベル65か。ほんとにそれが最後みたいだな。もう少し遊んでやるよ」

「ほざけ。じしん!」

 

 こいつ、ここどこだと思ってんのよ! ビルごと壊す気!? 窓も割れて中はめちゃくちゃ。ポケモンもヤバイ!

 

「ったく、あぶねぇな。ヤケになったか?」

「くそ、やれたのは雑魚だけか。まもるが使えるとは」

 

 地面にいたリザードンとカメックスがやられたけど、グレンちゃんは“まもる”、あとは浮いてかわしたわね。シショーはやっぱり冷静ね。大技が来てもしっかり躱し方を心得ている。

 

「ユーレイ、さいみんじゅつ」

「離れて躱せ、ストライクにストーンエッジ」

「つっこんで3。グレンもっかい」

 

 “ストーンエッジ”をもろともせずにつっこんで、力任せにドサイドンに攻撃した。あれは“むしくい”かしら? ドサイドンが衝撃で宙に浮いたところへグレンちゃんの“オーバーヒート”が炸裂、ドサイドンごと壁を突き破った。

 

「しまった、外に出てしまったか! 戻れ!」

「さて、これであんたは丸腰だな。ここからどうする?」

 

 そうか! “さいみんじゅつ”は避けさせるためのおとりね。あれで窓際へ追い立てたんだ。だから技名を言ったのね。わざと避けさせるためにこんなことまで戦術に生かすなんてすごい。

 

「くくく、お前は私を追い詰めた気でいるようだが、それは違う。我々は不滅だ。今回は……確かに遅れをとった。だが、私は何度でも立ち上がり、野望を果たす。それまで君達とはしばしの別れだ」

「何をする気だ? ……まさか!」

 

 シショーが何か悟ってサカキに駆け寄った。でもそれより早くサカキは窓に走り出して……そのまま飛び降りた!?

 

「うそっ!!」

「自害したか……」

「ヤケになったんじゃねぇの?」

 

 あんたらあっさり言うわね! しかし、激しいプロペラ音と共に、ヘリのはしごにつかまったサカキが高笑いするのが見えた。

 

「こんな手まで用意していたのか」

「クレイジー過ぎるだろっ! それにいつヘリなんか用意したんだ? そもそもついさっきまでずっとあいつが優勢だったはずだ。今呼んですぐに来たっていうのか?」

「シショーなんとかなんないのっ。あいつが生きていたらまた悪さするわよ!」

「……ムダだろうな。これだけ周到な奴のことだ、深追いすれば逆にこっちがやられる可能性が高い。まさかこんな手で脱出するとは思いもしなかった。これもやはり決まっていたのか。結果オーライといえばそうだが杞憂だったな。一足早い解散になるかと思えば、しょせん俺1人の働きじゃ変えられないものもある、ということか」

 

 最後の言葉の意味はわたしにはわからなかったけど、なんとなく忘れてはいけない気がした。変わらないものと変えられないもの……忘れぬ様に心に刻む。

 




手持ち一覧(レベル割愛)

レッド   ブルー   グリーン  サカキ
バタフリー ピジョン  ラッタ   ゴローニャ
ニョロボン ラプラス  ナッシー  ニドキング
エーフィー フシギバナ ユンゲラー ドサイドン
カビゴン  レアコイル ウインディ ダグトリオ
リザードン       ピジョン  ガラガラ
ピカチュウ       カメックス サイホーン
                  ドサイドン

※シルフカンパニーは丈夫です
 カビゴン460㎏ ゴローニャ300㎏

※ピカチュウとレアコイルは別任務

「カントー最強」発言はゲームのセリフで似たようなことをいっていたのが由来です
実際に実力的にも本作ではワタルといい勝負すると思います。シングルなら互角、ダブルかトリプルなら圧勝するでしょう

サカキは無名を装っていますがもちろんジムリーダーしていますから有名です
ただ、ロケット団としてのサカキは世に知られておらず、マスターランカーとして世間で知られる実力(サカキの昔の実力)より数段強くなっています
ジムリーダーがサカキだと知って驚くのはもっと先ですね

マサラ組の戦闘配置は緑赤青の並びです
語感で表記では赤青緑にしてますが実際の戦闘中の並びとは異なるので注意

サカキはやりこみ半端ないです
ガラガラはお察しの通り“ふといホネ”持ち
この道具の有用性に気づいたのはこの人だけです
他は“やわらかいすな”持ちです

サイホーンはまさかの進化キャンセルです
進化キャンセルすれば経験値割り増しなのでレベル格上がいなくても限界の壁を超えられます
だからこそのLv70
倍率はゲームでは1.2倍らしいですが、本作はもっとあると思ってください
これもサカキだけです、シショーも知らない
FRLGだと切り札がサイホーンLv50なので、なんで進化してないのかなーと考えてこんな感じに

手持ち7体は完全に違法行為です
ロケット団による違法改造
しかも7体で終わりでなくサカキはもっと持っている設定です
悪の組織だからこのぐらいはできるでしょう
むしろルールなんか守る意味がない
一応普通はシステム的に無理という設定です

ヘリコプターの件は、まず呼んだのは「じしん」を使った時です
あれは助けを呼ぶために撃ちました。避けられたみたいな雰囲気は演技で、サイホーンら3匹がやられた時点で逃げることを考えていました
「じしん」の波をコントロールして下にいる部下に緊急手段による脱出の指令を命じたわけです
研究すれば技はいかようにも使えます
そして常に先を見越して逃げる準備の用意も怠りません
どんなに自分が優位で作戦がうまくいっていても流れが不利になったと感じたら即撤退
これが長く捕まらずにいる秘訣ですよ

で、サカキは技を使った後追い込まれたフリをしながら窓際へ行き、かすかなプロペラ音がしたら一転余裕の笑みを浮かべます。一人称が私に戻った辺りですね。

ヘリコプターにつかまった手段は、ロケット団印の小型ロケットを背中に装備して飛びました。いつぞやの自転車のように小型ロケットをモンスターボールの技術で圧縮して持ち歩き、飛び降りた瞬間装備、飛行してヘリコプターのはしごにつかまったらブルー達のいる方を向いて高笑いです
ロケットはまた圧縮

これこそロケット団のロケット団たる所以です()
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