ヤマブキへの道中、もう時刻は深夜という頃。居ても立っても居られず俺は夜も進んでいたが、ヤマブキの近くの発電所で騒ぎが起きていた。
事件が起これば9割方ロケット団の仕業という法則に基づき、俺は様子を見に行くことにした。聞けばどうもポケモンが停電を起こしているらしい。おそらく野生のでんきポケモンが発電所の電気に引かれて停電を起こしてしまったのだろうという見立てらしい。今回もロケット団の仕業ではなかったか。ボスゴドラ事件のときといい、この法則は案外役に立たないな。停電のせいで暗くて見つからないらしいが、サーチで探せる俺なら容易いこと。仕方ない、急いでるがほっとくわけにもいかないか。
発電所に行きサーチを使うとすぐに見つかった。しかし、そのポケモンは意外にも野生ではなく、努力値が入っている。さらに調べると持ち主がわかり、犯人はブルーのレアコイルと、レッドのピカチュウだった。その2体からは何が何でも俺を倒すという意志を感じる。どういうことだ?
一応イナズマを出して電気攻撃に備え、様子を見ながら話しかけた。
「おい、お前、もしかしてブルーのポケモンか?」
「!! ジリリ……」
「そう警戒するな。俺はそいつの知り合いだ。名前はレインというんだが、お前ら、なぜ…」
こんなところにいるのか、と聞く前にレアコイルがすごい勢いでこっちに近づいてきた。それを見て俺をかばうようにイナズマが前に出た。
「ダース!」
「待て、イナズマ! 大丈夫だ」
殺気はない。イナズマが攻撃しないように制して様子を見ると、思った通りレアコイルは襲っては来なかった。必死に俺に対して何かを伝えようとしている。ほんとにブルーのポケモンみたいだ。それに俺のことも知っているらしいな。
イナズマを介して事情を聞くと、こいつらはブルー達の潜入のためにシルフの電力を断つように言われたらしい。これには俺も感心した。見つからないようにする気だな。だが、同時にそれは今現在ブルーがおそらくレッドやグリーンと一緒に戦っているということでもある。
「なら猶予がない。あいつなら大丈夫だろうが、万一のことも考えないとな。そうだ、イナズマ、お前はここに残ってこいつらの手伝いをしろ。必ず迎えに来るから。ここの停電を維持できなきゃあいつらは終わりだ。重要な仕事になる。いけるか?」
「ダダーッス!」
「よし!」
どどーんと任せろという頼もしいその言葉だけ聞くと、俺はすぐにイナズマに手を振ってシルフへ向かった。もう悠長にはしていられない。グレンに乗って最高スピードで突き進んだ。
◆
ヤマブキが見えた。ゲートに入ると警備員に止められたがそれはユーレイの“さいみんじゅつ”で眠らせ、シルフの見張りは寝ていたのでそのまま中に潜入した。
中に入ったら最短で最上階を目指した。3Fからワープ。激戦の跡が残る7Fを経由して11Fに到着だ。一瞬で社長室の前まで来られた。
今どうなっている? そのまま考えなしに突っ込むのはさすがにマズイ。先に能力を上げておくか。アカサビは攻撃と素早さ6段階、グレンは素早さ6段階とスペシャルアップで特攻6段階、ユーレイはスペシャルアップで特攻6段階積めれば、準備万端だ。
一時的な能力アップアイテムはかなり強力だ。ルールでバトル中には使えない場合もありあんまりトレーナーの間では広まっていないが、そのおかげでよく使う俺としては意表はつける上安く手に入り万々歳だ
能力アップの間に俺は奥のポケモンを壁越しにサーチして状況把握に努めた。俺の能力は障害物を超えることができる。ブルーの他には、やはりレッドとグリーンがいて、3人はもうかなり追い詰められている。特性げきりゅうを使い1体倒したが、3人共おそらく今出しているポケモン、あれがラスト。その上この体力じゃ、もう限界か。
しかも相手のサカキ……ポケモンに道具を持たせているな。特にガラガラの“ふといホネ”。これは厄介だ。よく発見したな。“ふといホネ”の恐るべき特殊能力に気づく奴がいるとは。
“ふといホネ”はガラガラ専用道具。ガラガラが持つ時のみ効果を発揮する。攻撃力を倍にするという反則効果なので、実験すれば気づきやすいのは確かだろうが、それでもよく研究している。
そして、ドサイドンがやられた後、最後にこれまたすごいのが出て来たな。サイホーンレベル70。何をしたらこんなにレベルが上がるのか……ゲームでもそうだったが、進化させないことも謎としか言いようがない。もしサカキがふしぎなアメを持っていたら、最強ドサイドンの出来上がりだな。進化前だから能力がかなり低めなのは本当に助かった。
「メガホーン!」
あの野郎っ!! サカキがブルーを直接狙っている! ヤバイ!
まだこっちは能力を上げ切れていない。あとはアカサビの素早さだけだが、4段階で妥協するべきなのか……もう猶予はない。
「バナァッッ!」
なんとか防いだか。だがもう見てられない。ヒヤヒヤする。ポケモンもさすがに限界だ。俺が行かないとブルーはやられる。まだ積み切ってないが手遅れになっては意味がない。そしてブルーに直接手を出した以上、サカキはタダでは済まさない。一足早く解散になろうが構わない。その後ロケット団の動きがどう変わるか全く予想がつかなくなるが、ブルーの方が大事に決まっている。
ユーレイを下から先行させておき、だだっ広い社長室に突入した。
「シショー……レイン……さよなら」
「ブルー、逃げろ!」
「何してんだ! 動けよ、急げっ!」
「メガホーンだ!」
さよならって……諦めるんじゃねぇよ! 俺はここにいる! こんなところで終わらせない! お前には俺を超えてもらわないといけないんだ!
「グレン、全力のオーバーヒート見せてやれ!」
「ヴォウゥゥ!!」
最大火力の“オーバーヒート”は体重100kg以上のサイホーンを派手に吹っ飛ばした。今特攻はいつもの4倍。それを横からもろに受ければただでは済まない。
グレンの攻撃の余波で辺りに炎塵が舞い、一筋の道を作る。俺はその中をゆっくりと進み、ブルーの傍に立った。
「なんだ今のは! 何者だ!」
「どうなったの……? サイホーンはどこにいったの?」
今まで目をつぶっていたのか? バトル中に目をつぶるなんて……いや、ほんとに崖っぷちだし、これに説教はさすがに酷か。いっつもこいつは危なっかしいバトルばっかりして、心配ばかりかけさせる。だが、ブルーはここまで頑張って自力で来れたのだし、こうして無事な姿を見て安心できた。大した時間も経っていないのに、懐かしくすら思えるその顔を見て、自然と笑みがこぼれた。
「それならあそこだ。ブルー、ずいぶん苦戦していたみたいだな。俺がかわろうか?」
「えっ! あなたは……もしかして!」
「待たせたみたいだな。ここまでよくやった。俺が来たからもう大丈夫」
きっともうギリギリだったのだろう。ブルーは座り込んだまま力が抜けている。ここからは俺の出番だな。いつものように頭を撫でて安心させてから、気を引き締め直してロケット団のボス、サカキに向かい合った。
「お前、何者だ? どうやってここに?」
「そんなこと聞いてどうするんだ? それに、俺を倒すのが先じゃないのかい?」
「力ずくで聞けということか。面白い。まぐれは一度きりだ。お前のポケモンもレベルは30そこそこ。この俺様の敵ではない。サイホーン、すてみタックル。きりさく、ホネブーメラン」
「気をつけろ、ガラガラはっ…」
グリーンが叫ぶが言い終わる前に俺は手で制した。3人はかなり手こずったみたいだが、俺はあいにく種を知っているんでね。対策済みだ。アカサビとグレンは“みがわり”を先に張ってある。
「攻撃力だろ。見ればわかる。アカサビはダグトリオ、グレンはガラガラ、ユーレイはサイホーン」
ダグトリオの速さはそれよりも速いアカサビの一撃で。ガラガラは“オーバーヒート”で一発計算だから“みがわり”を盾にしながらグレンに突っ張らせる。サイホーンの能力は大したことないからユーレイに適当にやらしとけばいい。
「バカな! 俺様の最強のフォーメーションが、こんなガキにやられただと!」
「井の中の蛙大海を知らずって言葉知らないか? あんたがその蛙だったのさ。ロケット団のボスっていっても、案外大したことねぇな」
もちろんこの世界でのすごさはよくわかっている。だが、俺にとっては、これもある意味正直な感想でもある。下手な小細工レベルでしかない、とも感じられるからだ。洗練された強さはない。
「いけっ、ドサイドン!」
「はぁっ?! あいつなんでまだポケモン持ってんだ!? あれ7体目だぞっ!」
挑発を混ぜながら次の出方をうかがうと、今度はきっちり最終進化しているドサイドンが出てきた。能力的にも、真の切り札はこいつか。奥の手のさらに奥の手ってところか。
グリーンの言葉も気になる。サカキはもう3匹は先に使っていたのか。なんか違法臭いことをやっていそうだな。一応悪の組織だし、こうなるともうなんでもありか。一応後続を警戒しといて良かった。
「レベル65か。ほんとにそれが最後みたいだな。もう少し遊んでやるよ」
「ほざけ。じしん!」
むちゃくちゃするな。これまでは“じしん”を使っている様子はなかった。使えばこのビルごと揺れていただろうからな。ここに来ていったいどういうつもりだ? ヤケになったようにも見えるが……。
「ったく、あぶねぇな。ヤケになったか?」
「くそ、やれたのは雑魚だけか。まもるが使えるとは」
探りを入れてみたが、この反応じゃ本当にやけくそだったように思える。だが、“じしん”は範囲攻撃だが比較的躱しやすい。じめん技だからだ。それをじめんタイプの専門家がわからないわけじゃあるまい。特にこいつの場合、この技を最も極めているはずだからな。これはなんか怪しいな。
「ユーレイ、さいみんじゅつ」
これは避けるはずだ。本当は黙って眠らせたいのは山々だが、こいつは急いできたせいでまだ技の練習もままならない状態だ。狙っても上手く決まるか不安が残る。割り振りはドーピングで終えているが、今は戦力にはしにくい。だからあえて“さいみんじゅつ”をおとりに使う。これでまずは窓際へ追い込む。
「離れて躱せ、ストライクにストーンエッジ」
「つっこんで3。グレンもっかい」
「しまった、外に出てしまったか、戻れ!」
「さて、これであんたは丸腰だな。ここからどうする?」
この高さから落ちればタダでは済まない。いったんポケモンは戻すしかない。そうなれば今度は俺が再び場に出すのを黙って見過ごしたりはしない。その隙にサカキを窓から叩き落してやる。それぐらいのことはこの男もわかっているはず。さぁ、ここからどうする?
やけにあっさりと誘導に乗ったことにイヤな感じはするが、この状況でできることなど限られている。俺の勝ちは揺るがない。
勝利を確信しサカキを見れば、いきなり不気味に笑い始めた。何を企んでいる?
「くくく、お前は私を追い詰めた気でいるようだが、それは違う。我々は不滅だ。今回は……確かに遅れをとった。だが、私は何度でも立ち上がり、野望を果たす。それまで、君達とはしばしの別れだ」
「何をする気だ? ……まさか!」
投身自殺からの死体は見つからないパターンに移行したのか! それは面倒だから何としても阻止しないと!
慌てて駆け寄ると思った通りサカキは窓から勢いよく飛び降りた!
「うそっ!!」
「自害したか……」
「ヤケになったんじゃねぇの?」
しかし、俺の予想を裏切りまさかのヘリ生還ルートだった。どうやってヘリコプターのはしごにつかまったんだ? ヘリコプターはそこまでビルに近づけないはず。飛び乗るなんて不可能だ。何かポケモンでも使ったのか? 信じがたいことが目の前で起きたな。
「こんな手まで用意してたのか」
「クレイジー過ぎるだろっ!」
「シショーなんとかなんないのっ」
こいつらも驚いている。これは予測しておけと言う方が無理だ。ブルーはなんとかあいつを捕まえたいようだが、こうなるともう手の打ちようがない。あの男がどこまで手を打っているかわからないし、何をしてくるか全く読めない。そもそも俺自身空中戦はあまり得意ではない。ここはリスクを冒して追撃するより、おとなしく見逃すべきだな。
……俺のポケモンの技構成は見直した方がいいのかもしれない。対空戦用の技を増やしておくか。
「……ムダだろうな。これだけ周到な奴のことだ。深追いすれば逆にこっちがやられる可能性が高い。まさかこんな手で脱出するとは思いもしなかった。これもやはり決まっていたのか。結果オーライといえばそうだが杞憂だったな。一足早い解散になるかと思えば、しょせん俺1人の働きじゃ変えられないものもある、ということか」
簡単に変わることはないのかもしれない。だが、ここが現実である限りこの世に絶対に変えられないものはない。今回はたまたま相手が1枚上手だったというだけのこと。構わず俺は自分の道を進む。……ブルーだけは絶対に強くしてやる。これだけは意地でも変えて見せる。
意識を窓の外に向ければ下からサイレンの音がする。逃げた社員辺りが通報したんだろうな。ジュンサーにいまさら来てもらってもなぁ。一足遅い。
「せめて後始末ぐらいはあいつらに任せるとするか」
ブルー達をまずゆっくりと休ませてやらないとな。こいつらは戦い詰めで疲労はピークのはず。疲労困憊の3人をグレンに乗せて運び、こっそりとシルフを出てポケモンセンターに連れて行った。真夜中ということもあり、道中で3人ともグレンの背中でぐっすりと眠ってしまった。
サカキを倒して、これでようやくいい夢が見られるだろうな。
いっつもヒーローって最後の最後にタイミング良く来ますよね
やっぱりそれは偶然では無理だと思うんですよ
なのでレインさんにはタイミングを見計ってもらいました
夢を壊してごめんなさい