もう、シショーのわからずや! あーあ、冗談抜きでわたしもポケモンが良かったかも。イナズマちゃんには毎日しびれるのも構わず抱っこしたりするくせに、わたしに対してはいつも厳しい。もう少しポケモンに向けているものをわたしの方にも分けてほしい。
なんとなくあの場を離れて自分の部屋にこもってしまった。今日はもうシショーの顔は見たくない。
「ホントにもう! 毎日ちょっと髪をといてくれるぐらい別にいいじゃない! なんでダメなのよ! しかもしてほしいことをわかっていて先回りして断るなんて、性格悪過ぎよ! ありえないわ!」
(ブルー、気を静めて。私で良ければ一緒にいますよ)
わたしの言葉に反応してボールからラーちゃんが出てきてくれた。自分から慰めようとしてくれるなんて、あの人とは大違いね。ラーちゃんはいつもわたしのことを最優先で気にかけてくれている。
「ラーちゃんっ! ありがと、やっぱりわたしの味方はあなただけよ。あのオタンコナスとは大違いだわっ! ラーちゃんも、あの人はわからずやのけちんぼだからそこには気を付けてね。けっこうお金稼ぎとかには目聡くて妥協しないし、守銭奴よ、あれは」
(ブルー、本人がいないところではズバズバとものを言うのですね)
「いいのよ、本当のことだもん。それはそうと、この前は社長さんへのアピール手伝ってくれてありがとね。一時はどうなるかと思ったけどちゃんとお許しが出て良かったわ。ラーちゃん迫真の演技で社長さんも1発オーケーだもんね。びっくりしちゃった」
自分の欲しいものにラプラスを挙げた際、社長さんは最初悩んでいた。けどラーちゃんが機転を利かせてボールから出てきてわたしに必死に抱きつき、かなり懐いているところを見せるとすぐに快諾してくれた。賢いラーちゃんだからこそのファインプレー。感心しちゃった。
(いいえ。お礼を言うのは私の方ですよ。ブルーには私が頼んだのですから、この程度の協力は当然のことです。それにあなたを慕っているのはお芝居じゃありません。あの時の行動はあなたと別れたくない一心でしたこと。紛れもない私の本心。社長さんはそのことに気づいていたからこそすぐに了承して下さったのですよ)
そう言ってまた抱き着いてきた。ホントにわたしのこと好きなんだ。もちろん最初に会った時もそのことは感じていたし、わかっているつもりだったけど、こうして言葉にされるとやっぱりものすごく嬉しい。シショーもこれぐらいわかりやすければなぁ。
わたしはそのまましっかり抱きしめたままラーちゃんと色々しゃべりこんでしまった。ヒンヤリして気持ちいいのでついつい頬ずりしてしまう。ポケモンとしゃべれることも新鮮でやめられない。
「他の仲間とは上手くやれそう?」
(フーちゃん達とは話をしました。皆主人思いの良い方です。ブルーの話もたくさん聞けて楽しかったですよ。仲良くできそうで安心しました)
「え、ポケモン同士ってどんなこと話すのっ!? 気になるっ!」
(別に大したことじゃないですよ。私がブルーのことを教えてほしいと言ったのであなたの話ばかりです。ブルーは全員からこの上なく慕われているので、私の方まで幸せな気持ちになりました。ブルーのことは思いやりがあって優しいだけでなく、最近は頼もしくなってきたと口をそろえて皆さんおっしゃっていました。皆あなたを信頼しています。もちろん私も含めて、ですが)
うわぁ、ポケモンから直接こんなこと言ってもらえるなんて夢みたい。今まで大変なこともあったけど頑張って育ててきて本当に良かった。きっと世界でわたしだけでしょうね、ポケモンからこんなこと言われるなんて。ものすごく幸せ。……やっぱりわたしトレーナーで良かったぁ。これからも今まで以上に頑張ってラーちゃん達に好きになってもらおう。
「ほんとにっ! ありがとぉ。よかったぁ。やっぱり気になるもんね。なんか陰口とか言われてたらヤだし……あはは」
(何を言っているんですかっ。ブルー程素晴らしいトレーナーは他にいませんよ!)
照れちゃってこんなことを言ってもラーちゃんは本気でわたしを褒めてくれる。でもわたしの方がラーちゃんに助けられているからむずがゆい。
「でもさ、わたしってずっと頼りなかったから皆にはずっと迷惑ばっかりかけているし、この前だってあなた達に何度もかばわれて……」
(私は嬉しかったですよ、あなたのために戦うことができて。それにほらっ、あの時のキズはこの通り、もう完全に治っています。あなたが気にすることではありません。あなたの堂々とした戦いぶりには私も惚れ惚れしました)
「えへへ、そうだった? じつはわたしもようやく実力がついて皆をちゃんとリードしてあげられるようになれて本当に嬉しくてすごく楽しいの。まぁ、ほとんどシショーのおかげだけどね」
ラーちゃんを撫でながら言うと、シショーという言葉に反応した。
(あのレインという人ですね。その話もフーちゃん達から聞きました。一度コテンパンにされたあと師事したとか。ブルーはかなり恩を感じているようですが、あれには気を付けた方が良いです。平然と人を騙すようなことを言い、腹の中では何を考えているかわかったものではありません。先日の件もマスターボールはいらないと言いながら、あれは本当は機があればかっさらう魂胆でしたよ。油断ならない悪の手先です)
「よく見ているわね。たしかにそれはわたしも思ったし、昔もっとひどいことをしているのも何度も見聞きしたわ。でもね、あなたは心配し過ぎよ。わたしには甘いし、基本はいい人だから。いっつも厳しいけど、わたしが……その、ちょっと泣いたりするとすぐに優しくなるの。実はちょっと嬉しくてそれですぐに泣いちゃってたところもあるんだけどね、えへへ。だから大丈夫よ。涙は女の武器だから。あなたって心配性過ぎるのよ」
シショー嫌われてるなぁ。むしろラーちゃんはわたしのことを心配し過ぎて嫌いになっているのかな。泣いちゃうのは今はもうマシだけど、どうしても気づいたら涙が出てしまうのよね。そのあと我慢すれば声は抑えられるけどいつも甘えてシショーにそのまま泣きついてしまう。今思い出すとものすごく恥ずかしい。
(ブルーを泣かせたら誰であろうと氷漬けにします。私のような人前にあまり出ない種族のポケモンは総じて警戒心が高いものです。私だけに限ったことではありません。それに私は人の悪しき部分を今まで何度も見てきた。だからああいうことを平気でする手合いは信用できない。ブルーもいつかひどい目に合うかもしれない)
うわぁ、ラーちゃん目が本気だ。いつかシショーがあの研究員みたいに氷の彫像にされそうでシャレになんないわ。一応そんなことしないように釘をさしておかないと。イメージ通りラーちゃんって用心深いのね。
「わたしが困るからシショーは氷漬けにしないでね。その点に関しては大丈夫よ。むしろ、わたしは一度体を張ってシショーに助けられているから。あの時シショーは死んでも助けるって言って本当に死にかけたんだから。それに人見知りなのかわからないけど、初対面にはキツイ対応をする反面、身内にはだだ甘だから。なにより手持ちのポケモンからは絶大な信頼を寄せられているわ。こっちが羨ましくなるぐらいなの。きっとグレンちゃん達と話せば考えも変わるわよ。ほら、よく言うでしょ? 人を見るにはポケモンを見よ、さすれば汝の
(わかりました。そこでレインの心根が曲がっていないか見極めます)
なぜかシショーの調査をするという結論でおしゃべりは終わった。それに最初はわたしがシショーの文句を言い始めてそれをラーちゃんが聞いていたのに、なぜか最終的にはわたしの方がシショーの弁護をしていた。まさか、ラーちゃんがわざとそうなるように仕向けた? いや、本気で毛嫌いしているように見えるしそれはないか。お気に召さなかったら明日本当に氷漬けにしそうで怖い。お願いだからシショー、もう悪いこと考えたりしないでよ?
◆
次の日、予想通り顔見せしたいと言うとすぐに了解してくれた。シショーも一度わたしの追加メンバーをちゃんと見ておきたかったらしい。
「まさかお互い一気に手持ちが増えるとはな。やっぱ1人旅じゃないと捕まえる暇も機会もないのかな。特にお前の場合手持ちが著しくレベルアップしている。そして新入りはすでにかなり懐いている。普通じゃありえないからな?」
グレンちゃんにブラシをかけながらそう言った。普通じゃないって言うけどそれってほとんどブーメランじゃないの? シショーの方こそ自覚なさそう。
「わたし達はいっぺんに何十匹も相手するような状況ばっかりだったからねー。イヤでも強くなるわよ。むしろシショーの方がどうやってレベル上げてきたのかフシギー。わたしよりもよっぽどレベル高くなってない?」
「聞きたいのはわかるがこっちのことは置いておこう。それよりもお前の新入りの2体、そいつらが懐いているのはやっぱり気になる。レアコイルは無機質系だから懐かせるのは大変そうに思えるんだがものすごく忠誠心が高いし、なによりそのラプラス。シルフの社員にもらったわけじゃないなら人間のことはかなり警戒心が高いはずだろうし、実際さっきから俺のことはかなりピリピリ警戒している。なのになんでお前にはそんなに懐くんだ? なんかあったのか?」
(鋭い。警戒心は表にしないように気を付けていたのに)
「あはは、なんでだろう。わたしってどうしてか懐かれやすいもんね」
「ほんとにお前が羨ましいな。俺なんかなんにもしていないのに娘をとられた母親みたいな目つきで睨まれるし。おいイナズマ、なんで嫌われているか聞いてくれないか?」
(ラーちゃん、そんな気持ちでシショーのこと見てたの!?)
(ご、誤解です。それより、なんでこの者はイナズマさんにこんなことを聞くんですか?)
(自分のポケモンならだいたい言いたいことがわかるらしいわ)
(本当に? では波長が合っているのですね。懐かれているのは本当のようです)
波長ってなんのことだろう。そういえば最初に会った時もそんなことをラーちゃんが言っていた気がする。ちょっと気になるなー。
「ほう、人を騙したりするロケット団のような悪人は嫌いだ、と言っていたのか。まさかそいつロケット団に密漁されたのか? それを助けたからブルーは好きだと。しかも俺にそういう評価ってことはボールからずっと俺を見て観察していたことになる。もしかして俺が思っていた数倍賢いんじゃないか? その上でブルーのために悪人と判断した俺を警戒している、と。それなら警戒心MAXなのも納得だな。やっぱりここまで警戒するには訳があるよなぁ」
ラーちゃんなんでそんなことしゃべっちゃってるのよ! ラーちゃんに聞くとさっきすでにしゃべってしまっていたらしい。間が悪い。
「ほ、ほんとにラーちゃんはシショーのこと警戒しているの? そうは見えないわよ?」
「表面上はな。だけど顔を見ればなんとなくわかるんだよ。なぁブルー。このラプラスを見ていて、何かいつもと変わったこととかなかったか? なんか聞こえたとか」
「……別に、特にないわよ?」
「本当に? これだけ懐かれていれば何かあっても良さそうだが。おい、ラプラス、お前本当になんにもしていないのか?」
「……ラー」
わたしがとぼけてみてもブレない。ラーちゃんにまで確認しているし、何か確信があるのね。なんでこういう妙なところで異様に鋭いのかしら。
「そうか。……今はまだわからないか。じゃ、ラプラスにこれだけは言っておく。俺はブルーに危害を加えるようなことは絶対にしないから、今はいったん俺を信じてくれ。それでいいか?」
「ラー」
「ありがとう。じゃ、仲直りの印にこれをやるよ。食べてみろ、おいしいから」
あれは高級きのみ! ラーちゃんちょっと嬉しそうに食べている。若干警戒が薄れている気がする。息を吐くようにして好感度を上げにきたわね。改めてそのポケモンを手懐ける手腕には感心させられる。やっぱりシショーはワルね。あれは悪の手口だわ。
食べ終わってからテレパシーでシショーには聞こえないようにして餌付けされていることをラーちゃんに伝えた。テレパシーはラーちゃんの力でわたしの方から送ることもできるし、対象を特定することもできる。
(ラーちゃん、さりげなく餌付けされているわよ)
(はっ!? 私としたことが。あれがあの男の手口なのですね。気を取り直して、続けてグレンさん達に聞き込みを始めます)
(あ、どんな話をしたか後でわたしにも聞かせてね)
(わかりました。楽しみにしていてください)
ラーちゃんのおかげで色々聞けそうね。これは楽しみが増えた。それに久々にシショーとずっと一緒にいられるし、もう言うことなしね。なんだかんだ久々にこうして会えたのだし、嬉しいことには変わりない。
「じゃ、シショー今日はどうするの? もう技の練習とかも終わったんでしょ? わたしは早いところジム戦をしてあいつらに追いつきたいんだけど」
「まぁ待て。先に街を回って、そのあとジムだな」
「仕方ないわね。付き合ってあげるわよ」
シショーといられるならゆっくり町を見て回るのもいいわね。ボールの中からでもラーちゃんの声は聞こえるし、いっぺんに楽しい仲間が周りに増えてこれからも楽しい旅になりそうね。
タイトルのやつは勝手に作りました
この世界だけの故事成語みたいなイメージです
こういう言葉があってもおかしくはないですよね
意味の予測はつくでしょうがちゃんとそのうち本編で説明されます