Another Trainer   作:りんごうさぎ

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9.未知の導き 少女の笑貌(しょうぼう) ひみつのへやは運命の始まり

 ここはポケモン屋敷。ゲームでは半壊しておりポケモンも住み着いていたが外から見る限りは思ったより綺麗な建物だ。まだ人の手入れが行き届いている。

 

 おそらくジムの仕掛けに使っているからジムの関係者がきちんと管理しているのだろう。あるいはカツラが研究について知っているとすれば、資料などを管理する意味もあるのかも。ただし綺麗といってもなんとなく薄気味悪いというか、窓から中を窺っても暗く見える。ブルーも同感のようだ。

 

 屋敷が持ち主に放棄された直後、一時はポケモンも居着いてしまい荒れ放題で、それが由来でポケモン屋敷などと呼ばれるようになった。だが今はポケモンもおらず中を見て回る最中襲われることもないらしい。

 

「うう、なんかこの建物ちょっと怖いわね」

「ジムの仕掛けだから、おそらくわざとそう思うように造ってあるんだろ。入るぞ」

 

 ブルーが恐る恐る後ろについてきたのを見てから俺はゆっくりとドアを開けた。

 

 ギィィィィ

 

 ドアの立て付けが悪いのか、開けただけで甲高い音が鳴る。屋敷の雰囲気と合わせてけっこう様になっている。

 

 キィーーッッ……バタン!

 

 完全に中に入ると、触ってないはずのドアが勝手にしまった。

 

「シショー、今ドアが勝手に!」

 

 ビューーー!! ガタガタガタガタ!

 

 突然窓も開いていないのに突風が巻き起こった。窓がガタガタと揺れ、本棚の本もカタカタとこちらを嘲笑うかのような音を立てる。さらに館の中にいくつかあった壁に掛かった燭台のろうそく、その炎が一斉にかき消されるようにしてフッと消えてしまった。

 

 辺りが一気に暗くなり緊張が走る。なぜ誰もいないのにろうそくの明かりが最初からついていたんだ? 窓から差し込む光があるので全く周りが見えない程暗くはない。ろうそくは必要ない気はするが……考えてもわからない。だが突然の異常事態に否が応にも警戒心は高まっていく。

 

「なんだこれは。明らかに何かいるぞっ」

「ここって今はポケモンもいないんでしょ? なんなの!?」

 

 ここに住み着いているポケモンがいないなら考えられる原因は……。

 

 ガシャン!

 

 今度は近くにあった花瓶が落ちて割れた。大きな音に気を取られて俺が横を向いた瞬間、反対側から耳元で誰かが囁いた。

 

「早くおいで。みゅーのハウスに」

 

 ビクッとして振り向くともういない。鳥肌が立ってイヤな汗が噴き出て来た。今のはテレパシーではない。もう直に近くまで迫っている……! やっぱり正体はミュウで間違いない。なんで最初にみずタイプだなんて思ったんだ!

 

「こわいいい! シショー助けてぇ!」

 

 この状態じゃブルーの救援は望めない。俺1人で倒すしかない。ここで仕留めてやる!

 

 幸いにも今はあのとき程調子が悪くない。これならサーチに集中できる。こっちはジム戦のつもりでポケモンも体力満タンだし、正面きって戦えば勝てるはずだ。

 

 サーチ!

 

 周囲を万遍なく探ると、ミュウは真後ろにいた。振り返らずにアカサビを出しながら指示を出した。

 

「6時。1」

 

 あえて後ろとは言わずに“バレットパンチ”を打たせるが、アカサビが出た瞬間にはもうミュウは消えていた。これだけ最善を尽くし不意をついてもなお届かないのか。

 

 ……テレポートか! 今の一瞬の移動、そうとしか説明できない。しかもかなりの熟練度。最悪だ。これではまともには捕まらない。今までもこうして人間の目を掻い潜って来たのか。

 

「チッ、逃げられた」

「やっと収まったの? もう、ここ怖い! なんなのあのジム!? 絶対文句言ってやる!」

「違う。今のはジムの仕掛けじゃない。ミュウの仕業だ」

「え、また来てるの!?」

「安心しろ、もう近くにはいない」

 

 ジムへ悪態をついていたブルーはようやく本当のピンチに直面していたことに気づき震え始めた。

 

「本当に大丈夫?」

「ああ、とりあえず今のところは。あちらさんもさっきのアカサビの奇襲で警戒しているようだな。近くに気配はない。……ブルー、ジムは後回しだ。先にあのポケモンをなんとかしないとそれどころじゃない。これは命に関わる」

「そ、そうね。でも何をするの?」

「まずはここの本を全て調べる。こっちから探すことはできないし、今できることはあれについての情報を集めるぐらいだからな。お前も手伝え」

「え、ここの本全部?! 無理よ!」

「何も中身を全て読めとはいってない。本を見て何を書いてるか、何ならタイトルだけでもいいからそこだけ見て回れ。お前の判断でいいから、もし気になる本を見つけるか、後は日記みたいなのがあったら中断して俺に見せに来てくれ」

「わかった。わたしも頑張るわ」

 

 ここから長い作業が始まった。日を跨いでの作業になり、その間ずっと警戒していたがミュウの襲撃はなかった。あれは歓迎の挨拶ってところか。あるいは攻撃しないのは余裕の現れなのか。腹は立つが好都合だ。

 

 意外と本は整理されていた。科学者が出入りしているとかいう話だったし、しっかり管理されているのは間違いないな。屋敷のフロアは3Fまであり、地下はないようだ。1Fから3Fまで順に見ていくことにした。

 

 1Fはポケモンの生態、分布、能力などの資料。対象のポケモンは適当で、片っ端から調べてみたという感じだった。

 

 2Fはポケモンの筋力や脳のメカニズムなど生体に関する資料。日付は下のフロアよりも新しい。この時点ですでにイヤな予感がし始めた。

 

 そして3F。予想通り、ヤバめの生体実験などのデータがぎっしり。

 

 誰でも入れる割においてあるものはけっこう危険だ。間違いなく下の階の研究は全て上の階の研究のための下準備。ここに来る科学者ってのも、おそらく人工ポケモンのポリゴンを作ったシルフの社員とかだろう。

 

「ねぇシショー、結局3Fまで来たけどシショーが言ってた日記みたいなのはなかったわよ。それにここの研究ってだいぶ昔のやつだし、今じゃもう時代遅れで見ても仕方ないんじゃない? 変な実験ばっかりだし」

「……いや、ここの実験はおそらく全てはっきりした意味がある。一見バラバラに意味のないことをしているように見えるが、全てある目的のためだと考えると筋が通る」

「な、なんなのその目的って」

「人工的に強いポケモンを作ることだ」

「ええっ!? ポケモンを作るなんてそんなことできるの?! ……いや、そういえばポリゴンがいたわね」

「おそらくあれもここの研究データを使っているのだろうな。そしてこの実験は一応成功している。結果、最強の遺伝子ポケモンが誕生した」

「え、どんなポケモンなの?」

「それならお前の後ろにいるじゃないか」

「ひっ!? ううう、うそ、し、シショー、た、たすけてぇ」

 

 冗談で言ったんだが本気にしたようで、腰を抜かしてヘナヘナと座り込んでしまった。

 

「ビビり過ぎだ。さすがに本物じゃない。銅像だ」

「なんだーもうっ。びっくりしたっ! あー良かった。幻のポケモンがいるのかと思ったじゃない。銅像ってこれね。うわ、こわそーなポケモンね」

 

 振り返って安心して、俺に文句を言うのも忘れるところに恐怖の本気具合を感じる。この前のミュウの歓迎はブルーにも堪えているみたいだ。さすがに今のは悪いことをしたかも。

 

「その銅像はミュウツー。幻の方はミュウ。追ってきている奴とは別だ」

「ふーん。あれ、ツーってつまり2ってこと? なんでなの? 151番目がミュウなのに150番目の方に2がつくなんておかしいわよ」

「キョウみたいなリーグ関係者も口を閉ざしていることだ。それなりのわけはある。いずれわかるだろう。それよりその像をよく調べてみろ。なんかないか?」

「え、これ? 特には何も?」

「本当に?……あった。ここ見てみろ。ここだけホコリを被っていないだろ。これがスイッチになっている。押してみろ」

「ここね。ポチッと」

 

 カチッ ピカッ ゴゴゴゴゴゴゴ

 

 銅像の目が光って、近くにあったシャッターが上がり奥へ行けるようになった。

 

「ひみつのカギはここにあるみたいだな」

「すっごい、忍者屋敷みたい! 隠し扉みたいね。シショーってこういうのホント得意よね。ってこの像の目光ってるじゃない! こわっ! なんか威圧されてるみたいな気がする」

「本物よりはマシだろ。いくぞ」

 

 隠し扉の先にあったのはゲームだとジムの中にあったクイズマシーン。起動するとカツラの声で音声が流れた。

 

「うおおーす、チャレンジャーの諸君。よくぞこの場所を見つけた。ひみつのカギがほしくば、わしのだす〇×問題に全て正解してみよ! では、第一問! キャタピーは進化するとトランセルになる?」

「〇だな」

「正解だー! この調子で次の問題……」

 

 順調に進めて第五問

 

「わざマシン28はしねしねこうせんである?」

「×」

「正解。素晴らしい。優秀な諸君にはこれを渡そう。ジムで挑戦を待っているぞー」

 

 ガタン!

 

 取り出し口にカギが出て来た。全部こちらの回答は音声で拾っていたようだが、この声本人が今しゃべっているのか? クイズマシーンはよくわからん。

 

「あ、出て来たわね。ここを見つけるのは大変だったけど問題は簡単過ぎない? こんなの普通はどれも間違えないわよ。“しねしねこうせん”とか聞いたこともないわ」

 

 問題は聞いたことあるようなものばかりだったからたぶん同じはずだが、たしかに冷静に考えたらおかしいよな。いつものことながら難易度がガバガバ過ぎる。

 

「あえて理由を考えればランク1のトレーナーも来るから手加減しているんだろ。けど、本題は終わっていない。まだこの屋敷の探索が終わってないからな。この屋敷にはまだ隠されたエリアがある」

「え、ホント? なんか忍者屋敷みたいになってきたわね。隠されたひみつのへや探しかぁ。ジムの仕掛けじゃないと思うとなんかちょっとワクワクするかも。それってどこにあるか見当ついてるの?」

 

 このクイズマシーンを見つけた時に確信した。見当はついている。

 

 そもそもこの屋敷はゲームと同じで3Fまであるが、全く同じなら地下もフロアがあるはずなんだ。しかも本来カギは地下にあった。それがなぜか3Fに変わっている。

 

 そして本の配置が下ほど古く並び替えられていることも気になる。この屋敷を綺麗に管理しているのは本の並び替えを不自然にしないためのように思えてならない。本だけ並び替えれば目立つからな。

 

 ではなぜそんなことをしたのか。わざわざ本が整理されているのはこの3Fの資料が研究の終着点であるかのように思わせるためなのでは? だが俺は知っている。ここにはまだあるはずなんだ、ミュウツーへ繋がるその先の資料が。それがない。だから何らかの手段でそれは隠されている。この並び替えが意図的ならその秘匿された資料を悟られないためのカモフラージュと考えられる。

 

 もしかするとこのクイズマシーンも3Fがゴール、つまり終着点だと思わせるトリックなのかもしれない。そして出入り自由の屋敷の中に平然と危険な資料が置かれていること。これはさらに危険な資料を嗅ぎつけられないためのエサなのだとしたら。

 

 ……俺の探しているものはここの地下にある!

 

「この屋敷の中全てが俺達の意識を上へ上へと向けている。なら、本当に隠したいものはその逆の下、つまり地下に隠していると考えるのが自然だろう。ひみつのへやは地下にある」

「はえーすっごい。もうわかっちゃってるのね。じゃあその地下ってどうやって行くの?」

「それなら簡単だ。場所がわかっているなら壁抜けすればいい。出番だ、ユーレイ!」

「なるほど、その手があったわね。ちょっとズルイ気がするけどシショーだし仕方ない。あっという間に秘密を暴いちゃった!」

 

 あっさりと地下への道は拓かれたと思った。しかし思わぬハプニングが起きた。

 

「ゲエエエ!?」

 

 ユーレイさん、毎回のことだがその鳴き声は何とかならないのか。

 

「どうした?」

「ゲエエン、ガー」

「ウソだろ? 壁抜けできないのか? 他の壁はできるのに? うーん、これは……」

「そんなことあるの?! もしかして振り出し?」

「いや、逆に言えばどうやったのかはわからないが壁抜け対策までしている以上、相当な代物が地下にあるのは間違いないと見ていいだろう。これで地下にあることはハッキリした。あとは1Fを隈なく調べるだけだ。下に降りるぞ」

「そうこなくっちゃ! 絶対見つけましょう!」

 

 地下への通路探しは難航するかと思われたが、必ずあるとわかっている心理的な余裕が功を奏したのか案外すぐに見つかった。

 

「シショーなんか見つけたの?」

「ああ。ここ叩いてみろよ。音が他と違うだろ?」

「ん? ……んー? うーん、違うと言われれば違う気もするけど、あんまりよくわかんないかも。これがなんなの?」

「音が違うのはこの中が空洞になっているからだ」

「え、それじゃ柱の意味がないんじゃないの?」

「そもそも、位置的にみてこの柱は不要だ。ここだけ不自然なんだよ。だから調べて見たんだが、おそらくここが入口。ここが空洞なんだから、仕掛けとしてはこの辺が動いて……」

 

 ゴゴゴゴゴゴ!!

 

「本棚が動いた! 柱にスッポリ入ったわね。この本棚って固定されてなかったんだ」

「周りに人はいないな。中に入るぞ。ちゃんと入ったら閉めとけよ」

「軽いわね、これ。裏側はご丁寧に取っ手もあるし。スライドしやすく作ってるのね。最初だけ固くてロックされているけど」

「簡単に動いたら何かの弾みでズレてしまうからな。ポケモンを追い出したのもここがバレないようにするためだろうよ」

 

 とうとう地下への階段に辿り着いた。だが、ここに入った時からイヤな胸騒ぎがし始めた。それに進めば進むほど心のざわつきが大きくなる。俺の異常な精神の乱れはやはりあのミュウが関係している。今ならそんな気がする。

 

 階段の奥に進むと小部屋があるだけで行き止まり。あるのは真ん中にポツンと佇むミュウツーの像のみ。これが先へ進むためのスイッチなのだろうな。

 

「今度は見た感じ全部ホコリを被っているな。単にここまで人が来ないからなのか、あるいは……」

「この手の裏側にあったりして……あっ、ここ押せる! ポチッと」

 

 また目が光ってシャッターが開いた。

 

「お手柄だなブルー。探しているものはこの先にある。いくぞ」

「うん。なんかトレジャーハンターみたいで楽しいわね」

 

 暗い廊下が続き、燭台のろうそくには火がついていない。真っ暗だ。グレンを出して火をつけながら先に進んだ。

 

「ねぇっ! この廊下の上に貼ってあるの、あれなんなの?! なんか不気味っ」

「あれは……きよめのおふだ? のろいのおふだも少しあるな。まさかあれのせいですり抜けできなかったのか? きよめのおふだ……初めて見るがすり抜けを遮断するほど強力なアイテムだったのか? のろいのおふだに至ってはゴーストタイプにとっては好アイテムのはずだが、不思議なもんだな。ゴーストはゴーストに弱いし、そういう理屈なのかもしれない。とりあえず1枚ずつ頂いておくとしよう」

「えぇ、なによそれ。ホントなの? というか勝手に持ち帰っていいの?」

「別に構わないだろ。ここは放棄された場所だし」

 

 さらに進むといくつかの部屋があった。本が置かれた部屋や、実験場のような部屋もある。どうやらここは実験が行われていた秘密の研究所だったらしいな。ならそのデータを上に建てた屋敷に置いておくのは理に適っている。ひとまず散策してみた。

 

「うわー、すっごい。ここシルフ以上に色々そろっているわ。すごい実験してそう」

「してそうじゃなくて実際にやってたんだよ。ここでポケモンの生体実験とかを主にやっていたのだろうさ。シルフでロケット団のやっていた実験を見たのなら、どういうことをしていたのか想像はつくだろ」

「まさか、あの虐待みたいなことをここでもしていたの!」

「おそらく。そもそも元祖がここの実験だからシルフの実験はこれをマネしたものだろうし。チラッとここにあった資料を調べてみたが、えげつない内容のものばかり。おそらく、命を命と思わないような非道な実験がここで繰り返されていたんだろう。そして最悪のポケモンが生まれた。見てみろ、この部分を」

「これはシショーが言っていた日記ね。ミュウツー? ……このポケモンは つよすぎる ダメだ わたしのてにはおえない なんかどっかで聞いたセリフね。つまり、強いポケモンを作ったのはいいけど、強過ぎて持て余したってこと?」

 

 聞いたのはナツメの親父さんからだな。まあ先に出たのはこっちなんだが。

 

「そうだ。今は人の手を離れてどこかでひっそりと生きているだろう。そして問題なのはそのミュウツーがどうやって生まれたのか。これによればミュウツーはあるポケモンをベースとして生まれたらしい。そのオリジナルこそが……ミュウ」

「だからなんだ。ツーにはそういう意味があったのね。……ってことは、ここでミュウツーの研究をしていたならミュウについても何かわかるかもってことね!」

「そういうこと。ここで話がグルっと繋がるわけだ。ミュウを最初に見つけたのがこの研究を始めた人物、初代総長。今は行方不明ということになっていて、この屋敷の持ち主でもある。研究は現在秘匿され、こうして隠されたまま月日だけが経過した」

「ふーん、そうなんだ……。ねぇ、じゃあミュウについて何か手掛かりとかあった?」

「いや、資料とかはないし、研究していた人達も始めから大したことはわかってなかったのだろうな。あるのはミュウを見つけた時の日記だけ」

「え、じゃあなんでここに来たの?」

「その日記に書いてあるはずだからだ。どこで捕まえたのか、そしてどうやって捕まえたのかを」

 

 場所は確かギアナだった気がするが、正確に覚えているわけじゃないからこれも確認しておく方がいい。

 

 日記を広げて読んでいった。要所要所で見覚えのある記述が散見された。

 

 7がつ5か

 ここはギアナ ジャングルの奥地で新種のポケモンを発見 見たことのないを能力を保持 これを捕獲すればあの実験も……

 

 7がつ10か

 新発見のポケモンを私はミュウと名づけた このポケモンを使えば実験は成功するだろう 悲願達成の時は近い

 

 2がつ6か

 とうとう実験に成功 生まれたばかりのジュニアをミュウツーと呼ぶことに 我々の理論は間違っていなかった 私は最高の栄誉を手に入れるだろう

 

 9がつ1にち

 このポケモンは強すぎる ダメだ…… 私の手には負えない! どうしてこんなことに……

 

 当然ちゃんとした日記だから記録が一言で終わることはなく、もっと長いものだが、大事なところはこの辺りだったはずだ。後ろにこんなコメントがあったとは思わなかったが。

 

「ねぇ、もっと私にもちゃんと見せて。どれどれ……うわぁ、これ典型的なマッドサイエンティストじゃない。きっとこれを書いた人は碌な人間じゃないわね。かなりヤバイ性格に違いないわ」

 

 それが普通の反応なんだろうな。まさかこの人が後のフジ老人だとは思うまい。直接会った自分でも信じられないし。もっとも、ブルーはシオンに連れて行ってないから面識はないが。

 

「もういいだろ。この日記だけではまだ肝心の情報がない。もう少し他の場所を見て回ろう。まだなんかあるかもしれないし」

 

 この日記にはなぜか捕獲に関することが記述されていない。ただ発見した、とあるだけ。普通捕獲と発見はイコールにはならず、特に相手があんなバケモンなら多大な苦労を伴うはず。なのにあっさり捕獲できたようで不自然だ。ゲーム中でも記述はなかったと言えばそれまでだが。

 

 再び探索を始めるとブルーがまた隠し扉を見つけた。研究所内にもあるのか?

 

「ねぇシショー、ここ良く見たらちょっと他の壁と比べて色が違うわよね。ここにくぼみがあるし何か仕掛けがあるんじゃないかしら」

「なるほど、本当だな。隠し扉かと思ったが、たぶんノブが抜けているだけだな。さすがにここにカラクリを用意するのはおかしいし間違いないだろう。ノブはその辺に転がっているかもしれない。探そう」

 

 ノブを探すと、またブルーが見事に見つけてきた。こいつもけっこうセンスあるな。

 

「これじゃない? 入れてみるわね」

 

 ガチャ

 

「当たりだ。よくやったブルー。またまたお手柄だ」

「えへへ、わたしもトレジャーハンターになれそうね。この中にすっごいものがあったらどうしましょ。それっ」

 

 扉を開けばそこは今までの実験施設とは打って変わって青とピンク基調の子供の遊び部屋のような場所だった。おもちゃやポスターが並べられている。今までの部屋と比較してひどく場違いな光景だ。

 

「なんでこんなとこに子供部屋があるんだ?」

「シショーどういうことなの?」

 

 俺が知る由もない。ブルーにそう言おうとする前に知らない声が背後から聞こえた。

 

「みゅみゅみゅ。ここはみゅーのお部屋なの。ひみつのお部屋」

 

 背筋がゾクッとするような声。この感じ……聞き覚えがある! 

 

 サッと振り返れば予想していたポケモンの姿はなく、代わりに小さな女の子が立っていた。青い髪でピンクのワンピースを着た普通の女の子に見えるが、どこか違和感がある。それになんでこんなところに子供がいるんだ?

 

「あれ、あなたいつの間にそこにいたの? わたしよりも小さい子みたいだけど、それじゃここはあなたの部屋なのね。なんでこんなところに?」

「みゅみゅっ。ここはみんなが用意してくれたの。遊び道具もたくさんくれたの」

「みんな? みんなって誰? もしかして、あなたってこの屋敷に住んでいたお嬢さんだったり? もしかしてわたし達が勝手にここに入ってるのを見つけて怒りにきたとかなのかしら……ごめんなさい、悪気はなくて……」

「みゅみゅみゅ。やっと来てくれた。ずっと待ってたの。きっと来ると思ってた。みゅーのお部屋に外から人が来るなんて初めて。……お客さん」

 

 クルッと一回転してから裾を上げて優雅にお辞儀した。神秘的な雰囲気に包まれた人形のように整った顔立ちが一瞬で愛らしくかわいい笑顔に変わり、そのギャップが見ているものを引きつける。

 

 親しみやすそうな笑顔はそれだけ見ればこちらに対して友好的であるようにも見える。流れるような所作にも気品があり、思わず感心しそうになったが、本当に摩擦を感じないかのような滑らかな動きを見てまた違和感を覚えた。

 

「うわぁ、ホントにお嬢様なんだぁ。かっわいい~! 歓迎してくれるのね、ありがとう!」

 

 いや待て! そんなはずはない! ここはもう何年も前に放棄されている。その時に子供だったら今はもう大人になっているはず。この少女も只者じゃない。やっぱりナニカがおかしい。一体何者なんだ? 

 

 警戒を強め油断なく少女を見据えていると、その本人と目が合った。自分の中の全てが見透かされているような錯覚さえ受ける。どんどん感覚が狂い、その瞳の奥の深淵に引き込まれ、足元が崩れ落ちるような気分を味わった。もう何がどうなっているのかわからなくなり、軽い混乱状態に陥った。

 

「みゅみゅみゅ。おいで、みゅーのハウスに」

「!!」

 

 驚いて、驚き過ぎてもう声も出ない。バクバクと心臓が早鐘のように鳴る。驚いたショックで逆に混乱が少し収まり、通常の思考が戻って来た。

 

 ……きっとこいつなんだ。始めからこいつこそが探していたポケモン、ミュウだったんだ! あの日記の見たこともない能力とはこのことかっ! 普通の“へんしん”はポケモンにしか化けられない。明らかにこれは普通の技とは違う! 

 

 改めて視野を広げてみれば、少女の足元はわずかに浮き上がっている。道理で摩擦を感じない滑らかな動きだったわけだ。本当に摩擦を受けていないのだから。こんなことに気づかないなんて! 完全に不覚を取った。まさか人間の姿に扮して現れるとは思ってもみなかった。

 

「ん? シショー、どうしたのそんなにまじまじとその子を見て。……ねぇ、ホントに大丈夫なの? ちょっとっ! 顔真っ青じゃない! かなり苦しそうだけどまた調子がおかしいの?」

「は、離れろ」

「え、なんて?」

「今すぐその子供から離れろ!」

「えっ!? どうしたのよ急に」

「みゅみゅみゅ、みゅーはもっとおしゃべりしたかったのに……もうおしまい?」

 

 こいつ……! 余裕かましやがって。この状況で笑ってやがる! 正体がバレたとわかっているはずなのにこの態度。おそらく挑発だろうとわかっていても心が乱される。

 

「てめぇ、やっぱりあの……!」

「やっと気づいたの? 意外と鈍いところもあるの。みゅみゅみゅ」

 

 クスクスと笑うミュウとは対照的に俺はまたどんどん気分が悪くなる。ミュウがいるだけで体のもとっこが狂わされる感覚。こんな大事な時になんでこうなるんだ!

 

「ええっ、なんなのっ、どういうことなのっ?」

「いいから、早くこっちに来い! そいつこそが日記にあった新種、幻のポケモンのミュウだ!!」

「冗談でしょ?! どう見ても人間の女の子じゃない!!」

「擬態……ポケモン的にいうなら“へんしん”でも使ったんだろ。そいつ、よく見たら足元が浮いている。少なくともただの人間じゃない」

「ホントにポケモンなの!?」

 

 そうだ、俺は何をしてるんだ。せっかくこうして目の前にいるんだ。今のうちにゆっくり能力を視ておかないと。

 

 アナライズ!

 

 ミュウ Lv50 きまぐれ

 個 31-31-31-31-31-31

 実 175-120-120-120-120-120

 

 そんなバカな!? なんだこの能力はっ!! ありえない、ありえないぞこれは!!!

 

「6Vだと!? バカな!! こんな能力ありえない!! 存在するわけが……10おくぶんのいちだぞ? 夢でも見ているのか?」

「シショーどうするの? 戦うの? ラーちゃんの技で仕留める?」

「あ……この感じ! レインー、みゅーのこと調べてるの? 恥ずかしいけどちょっと嬉しい……やっぱりレインも波動が使える……みゅーと同じ……。思った通り、やっぱりおもしろいの。ずっと待ってて良かった。これでみゅーだけの……」

 

 ブルーの言葉は今のミュウの発言で吹っ飛んでしまった。こいつは聞き捨てならないことを言った。俺のアナライズに気づいて、しかも波動といったのか? 波動ってなんだ? それにこの前サーチして捉えた時は気づいた様子はなかったはず。

 

「波動だと……どういうことだ?」

「……? ホントにわからないみたいね。知らないの? それとも自覚がないの? でも、素質はたしかにあるの。今もみゅーに酔ってるみたいだし。みゅふふ」

「はぁ? 何を言ってるかさっぱりだ。いや、それよりも先に聞いておかないといけないことがある」

「みゅ? なぁに?」

「シショーッ、そんなことよりも早く指示をして! ヤバイんじゃないの!? どうするの? 戦わないのっ!?」

「黙ってろブルー!! どうしても、聞かないといけないんだっ。ミュウ、はっきりと答えろ! 俺を……この俺を、こっちへ呼んだのはお前なのか? なぁ、お前なんだろう?」

「……みゅー? なんのことかわかんないの」

 

 こいつ、わざとはぐらかしているのか。いかにも自分は知っていると言わんばかりの対応。やはりこいつが全ての元凶で間違いないんだ。

 

「とぼけるなっ! お前だろ……お前にしかできないだろうがっ! 俺をあの掃きだめのような場所へ落としたのは、間違いなくお前だっ!!」

「……みゅみゅっ? 知らないものは知らないの。何度言われても同じ。いくら言ってもムダなの」

「ふざけるなっ!!」

「シショー、落ち着いて、冷静にならないとダメよ」

「みゅーみゅー。いいの。だったら……そんなに知りたければ、レインらしくみゅーとバトルしてみる? 欲しいものは勝って手に入れる。いつもそうやってきたんでしょ? みゅーもバトルは好き。さぁ、一緒に遊んで? 1番大事なものを賭けて勝負しましょう? その方がおもしろいもん。負けたら終わりの真剣勝負……ゾクゾクするの」

「その言葉……後悔させてやる! ユーレイ1、アカサビ3」

「わたしも加勢するわ!」

「させないの。せっかく2人で遊べるのに、邪魔しないで!」

 

 突如バリアのようなものがブルーの周りを球状に覆って身動きできなくした。その間にボールから飛び出した2体の“むしくい”と“シャドーボール”を無防備に受けるがミュウは平然としてやがる。ダメージは合わせてもわずかに60程。どういうことだ?

 

 アナライズ!

 

 BCD+6

 

「ッッ!?」

 

 こいつ、能力が上がっている! BCDが6ランク。この3つは実質480ってことか。あらかじめ能力を上げてから姿を現したことになる。野生のポケモンにこんな知性があるなんてありえない! その偏見と、個体値のぶっ飛び加減で能力変化を見落としてしまっていた。

 

「――!」

 

 ドンドン!

 

 ブルーが何かしゃべっているが全く聞こえない。手で指さしている。……後ろ?

 

「みゅみゅ」

「しまった! テレポートか!」

 

 俺が驚いて一瞬目線を切った隙に後ろに回り込んで“かえんほうしゃ”を使ってきた。アカサビがやられた……クソッ!

 

「4! グレン7,9」

「みゅ!? ううーん、それはズルイの……」

 

 よし、眠った! “さいみんじゅつ”が当たった。さらに“オーバーヒート”と“フレアドライブ”を連続で使いグレンで一気に削りにいった。続けてイナズマも出して全員で総攻撃を仕掛けた。相手のBDの能力上昇が切れ始めている。割と効いている。90程与えて、残り24、約1/7だ。後一押し!

 

「……ZZZ!!」

 

 カランカラン!

 

 なんだこれは? スズ? スズの音? 技なのか? ……まさかっ!

 

 慌てて技を確認すると“ねごと”さらに“いやしのすず”を見つけた。

 

「ユーレイ、もっぺん4」

「もう起きたの。させない」

 

 早い! こっちの行動を見透かしていたかのようにテレポートで逃げられた。アナライズしていたせいでサーチが遅れ、死角から不意を突かれまず“サイコキネシス”でユーレイがやられた。ユーレイが先に狙われるとは、かなり厳しい。危険度を理解して先に狙われたのか?

 

 これで拘束するのは厳しくなったし、火力も相性がいい2体がいなくなって厳しい。残りHPが削れて、能力上昇の効果も切れてきているのが救いか。“フレアドライブ”と“10まんボルト”を当てればギリギリ仕留められるか。もう油断しない。この狭い空間なら俺が注意していればまず外すことはない。

 

「クスクス。何を考えているのかわかるの。もうみゅーは弱っているから勝てると思ってるのね。でも、おもしろいのはここから……おいで」

「――!」

「しまった! ブルーごと連れて逃げる気か!」

 

 相手が出入り口側にいたのが裏目に出た。だがここは不幸中の幸いか、壁から通り抜けができない。なら、おそらくテレポートでも脱出はできないんじゃないか? それに相手の位置は俺ならわかるからドア越しでも待ち伏せを食らう心配もない。

 

「そこか! もう逃がさないぞ、観念しろ!」

「追いかけっこはもう終わり。楽しかったの。みゅみゅみゅ」

「……何を企んでいる?」

 

 イヤな感じだ。この余裕……何か仕掛ける気か。まさかここまで誘い出されたのか!? クソ、罠か!

 

「いったん引いて……」

「させない! みゅ!」

 

 周囲から突然謎の煙があがって周囲を覆った。全方位からきているので避けられない。これはマズイ! とっさに2体を手持ちに戻すが、自分はどうしようもない。モロに吸いこんでしまった。ミュウはまたバリアのようなものを使い回避したようだ。

 

「……動けない。神経毒か何かか。よくも……!」

「クスクス。当たり。これでみゅーの勝ち! ちょっとヒヤッとしたけど、なんとか勝てたの。レインも負けることがあるのね。次はもっと楽しいバトルをさせてね」

「お前に次はない……やれ!」

「ヴォウ!」

「シャアア!」

 

 2体がタイミングよく飛び出し各々の得意技を繰り出す。だが真っ向から“サイコキネシス”を受けて2体合わせても火力負け……一撃で両方倒された。手持ちが尽きて完全に万策尽きた。

 

「強い! こんなバカなっ! 俺が負けるなんて……お前はなんなんだっ! 野生のポケモンがなぜここまで……」

「みゅーはみゅーだよ? みゅーは強いでしょ? みゅみゅみゅっ。あ、レインが負けたんだから、さっき言ったように1番大事なものをもらうの。レインはこの女の子が大事なんでしょ? いっつも大事そうにしてるの。だからみゅーがもらう。この女の子がいたらみゅーと遊んでくれないもん」

「お前、最初からブルーを人質にするつもりで……今まで襲ってきた時も俺の反応を試していたのか! ふざけたマネを……!!」

「みゅー、なんで怒るの? みゅーは遊んでほしいだけ。そんなにこの女の子が大事なら、もう一度バトルしましょう。場所はみゅーの故郷。もう一度みゅーとバトルして勝てたら返してあげる。ただし、それまで女の子がギブアップしなければだけど。1人でジャングルの中を生きていけるか、見物なの」

「なんで、なんでそんなにブルーに拘る? 連れていくなら俺にしろ!!」

「ダメッ! 自分で来て。そのことに意味があるの。レインには直接来てほしい。自分で選んでみゅーを探しに来て! でないと……この女の子がどうなっても知らない。来れば返してあげる。みゅーは待ってるから、必ず来て」

「それでも断る、といったら?」

「……あなたは必ず来ることになる。みゅみゅみゅ。みゅーとレインは必ずひかれあう。逃れることはできないの。これは運命だから」

 

 ビュウウウウ!!

 

「ぐっ、ねっぷう……!」

 

 ミュウが軽く手を振るだけで強烈な“ねっぷう”が発生する。それを生身でまともに受け、力尽きてしまった。俺にとって初めて味わう完全な敗北。意識を失う瞬間、目にしたのは俺を見下ろす瞳と涙するブルーの姿。完膚なきまでに打ちのめされ、深い絶望の中でゆっくりと意識を手放した。

 




とうとう実力行使
エスパーを本気にさせたらダメですね
サーチできないとテレポート連打でほぼ詰むので強過ぎです
ブルーを故郷に連れて行くようですが、故郷ってどこなんでしょうね(すっとぼけ)


今回も例によって設定変更たくさんあります
まずポケモン屋敷
さすがにポケモンいるのはおかしいでしょう
しかもよりによって炎タイプ
燃える物には事欠かない場所でバトルなんかしようものならどうなるか
ポケモンに荒らされるので資料の置き場としても最悪ですし何の手も打たないのはさすがに不自然かと
ゲームはカギがポケモンいるとこに無造作におかれてることといいおかしなことが多過ぎますよ
絶対入手前にカギ紛失から攻略不可能になるパターン

研究所が地下にあるのはミュウツーを作った場所がどこかにあるはずという考えからです
外の研究所は系譜は繋がっているにせよヤバイ実験していたのとは明らかに別でしょうし

3Fからダイブは狂気過ぎるので他の変更と合わせてまとめて没に

おふだは組み合わせて使うことですりぬけ防止できることにしました
同じ効果の道具との差別化です
基本は壁の中に埋められています
ろうかのやつは例外です
実験室の天井にもおふだびっしりということはないです

日記は遊び心で少し書き足し、逆に一部は削除している箇所も
イッシュなアメリカのところと、ミュウが子供を産むの件
タマゴグループ不明と矛盾しますよね
タマゴ発見に成功したのなら不明じゃなくて発見済みですから
あと子供っていう表現はないと思います
タマゴならわかりますが

ミュウツーはあくまで実験で生み出されたコピーという解釈
見ての通り設定変更はだいたい不満の現れが原因なことが多いですね
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