あけましておめでとうございます
今年もよろしくおねがいします
お正月なのでお年玉投稿ってやつですね
やってみたかったので作者は満足しています
……よく考えると毎日更新しているのでお年玉感ないですね
もっと言うと年始で忙しいので待つ人がいるかも怪しい
気にしても仕方ないですけどね
最後になりますが、皆さんよいお年を!
1.異郷の洗礼 怒髪衝天 奔る少女に勝利を!
―たすけてシショー―
―ここから出して!―
突然現れた幻のポケモンに為す術もなく囚われ、知らない土地に飛ばされた。いきなり体が捻じれるような感覚がして意識を失い、気がついたら周りは鬱蒼と木々が覆い茂るジャングル。見たこともない場所だった。
目が覚めて最初自分がどうしてこんなところにいるのかわからなくて戸惑うけど、すぐに状況を思い出し、同時に認めたくない、信じられないという思いが湧き上がってきた。
あの時最後に見たのは幻のポケモンの攻撃で無惨に力尽きたシショーの姿だった。声こそ聞こえなかったけどその光景はハッキリと思い出せた。
弟子になった日からシショーはいつだってわたしにとって憧れのヒーロー。負けることなんて絶対にない、いや、あるはずがないと信じていた。……こんなの夢か何かに決まっている。そんな気持ちが行動となって現れ、シショーを探して大きな声を上げた。
「シショーどこっ! どこにいるの!? すぐに返事してっ! お願いだから!!」
誰も答えない。躍起になって何度も大声で叫び続けた。するとガサガサと遠くの茂みが動いた。
「!!」
シショー? いや違う。ちょっと考えればわかる。こんなところにいるのは人間ではなく、十中八九ポケモンだ。なにより茂みにシショーが隠れているわけない。
事ここに至り、自分がどれだけ愚かなことをしたのかようやく悟った。ここでいくら呼んでもシショーが来るわけない。逆に自ら危険を招いてしまった。
身を固くしてその茂みの影の敵に備えていると、現れたのは大きくて毒々しい見た目のポケモン。今まで全く見たこともない。大きい上に強そう。レベルも測れない。未知の敵との遭遇はわたしにとって予想外のことで、一瞬頭が真っ白になってしまった。
「キシャアア!」
恐ろしい鳴き声でようやく我に返った。今臆したら負けてしまう。戦わないと!
「ひっっ! ま、負けない! 何もわからなくても、わたしの最強のパートナーなら勝てる! お願い、フーちゃん」
未知の強敵を前にし、わたしが選んだのは自分が最も信頼する相棒のフーちゃん。サカキのポケモンと戦ったこともあるんだ、こんな野生のポケモンに負けたりするわけない! 絶対に勝つ!
「バナーッ!!」
「いくわよ! ヘドロばくだん!」
「キシャーーー!」
「バナッ!?」
まずは遠距離攻撃で1番火力の高い“ヘドロばくだん”を使った。予備動作なしの素早い攻撃。完璧に決まったはずのその攻撃は、なんということか、一瞬の動きで躱され逆に反撃を受けた。
「早過ぎる! なんなの今の動きっ!? その上なんて威力なの! フーちゃんがあっさり体力を半分以上持っていかれた……」
「キシャアーー!」
「バナー! バナッ!」
フーちゃんから指示の催促をされた。そうだ、今は驚いている場合じゃない。まずは攻撃しつつ回復して体勢を立て直さないと。
「ギガドレイン!」
「キッッシャアア!!」
ウソでしょ?! ほとんど効いてない! そんな、ありえないわ!!
そのまま相手の攻撃を今度は至近距離からモロにくらい、急所にも当たったようで吹っ飛ばされて気絶してしまった。
こんなことありえるの? わたしはシショーについてきて強くなったはずよ。なのにこれはなんなの?
幻のポケモンにはいいようにしてやられ2人して完敗。拉致されて連れてこられた先で今度はただの野生のポケモン相手にわたしの最強のポケモンで挑み真正面から負けた。速く重い一撃。かつフーちゃんの攻撃を物ともしない耐久力。
……こんなの、勝てるわけない。わたしはまだ弱いままだったということなの? シショーの近くにいて何となく強くなった気でいたのかもしれない。もうここで終わりなの? もう二度とシショーに会えずにこんなところで1人で終わってしまうの? こんなところじゃシルフの時みたいにシショーが助けてくれることもないだろう。この敵から逃れる術はない。
思い出されるのはあの屋敷での最後の光景。勝負に負けて幻のポケモンの攻撃を受け、力なく倒れたシショーの顔。わたしを見ながら事切れたように倒れた姿が脳裏に焼き付いて離れない。グルグルと頭の中で悪い考えが負のスパイラルにはまり、目の前が真っ暗になった。
「キシャーーッッ!」
「もうダメ。ごめんなさい。わたしはシショーの期待に応えられなかった。ここで終わりよ」
またこの光景だ。角を向けて相手のポケモンがわたしに突進してくる。明確な死が迫ってくる。前はサイホーンにやられたんだっけ。そういえばこの技は“メガホーン”だ。こんな最後の最後に思い出すなんて。じゃあこのポケモンは虫タイプだったのかな。……もうどうでもいいや。
「ラァァアアーーッッ!!」
ドォォォオオォン!!
どっしりと目の前に現れたのはわたしの1番の親友、ラーちゃん。恐ろしい威力の攻撃を見事に受け止めてわたしを助けてくれた。
「あっ! ラーちゃん!? また助けてくれたのっ!」
まただ。また守られてしまった。この前も、今も、いつもわたしは守られてばかり。成長したつもりだったけど、実際には何ひとつ変わってなかったんだ。
「ラアアアッッ!!」
すごい殺気! わたしまで緊張して震えてしまいそうになる。いつもはおだやかな性格のラーちゃんだけど、怒ったときは1番怖い。あのシショーよりも。研究員を氷漬けにした時みたいに瞳孔が小さく定まって敵を睨み付け、息を吐いた口から白い冷気が漏れている。相手のポケモンも、凄まじい気迫と殺気に当てられて少しひるんでいる。
「ラーーー!」
“あやしいひかり”ね! ラーちゃんの得意技! さらに間髪入れず混乱させたその隙に渾身の“れいとうビーム”を放った!
「ギシャアアッッ!」
「すごい、めっちゃ効いてる!」
相手のポケモンは敵わないと思ったのかそのまま逃げていった。わたしなんかよりよっぽど戦い上手だ。ラーちゃんのおかげでひとまずなんとか生き残った。もうダメかと……。
ペタンと力が抜けて座り込んだわたしに、ラーちゃんはさっきまでとは打って変わって優しい表情で寄り添ってくれた。
「ラーァァ……」
「ありがとうラーちゃん。助かったわ」
(いえ、ブルーが無事で良かった。心配させないでください。ブルーならきっと大丈夫です。あの程度のポケモンなら何度でも倒せます。諦めず一緒に頑張りましょう)
頑張ろう、そうラーちゃんは言うがそんなこと意味があるのだろうか。ここは未開のジャングル、見たことない上に恐ろしく強いポケモンがたくさんいる。こんなところをなんの助けもなく越えることなんて絶対できない。
よく見ればラーちゃんだって体の傷はかなり深い。相当なダメージだ。体もぐったりしている。今のバトル、ギリギリだったんだ。なのにわたしには疲れを悟られまいと気丈に振る舞い、精一杯微笑みかけてくれた。わたしのためにここまでしてくれる姿を見せられ、嬉しさと不甲斐なさで心の中がぐちゃぐちゃになり、死地を乗り越えて緊張が解けたこともあって涙が止め処なく溢れた。もう泣かないって心の中で決めていたのに、また泣いてしまった……。
「……ラーちゃん、ごめんね。こんなダメなトレーナーで。ラーちゃん、ありがとう。わたしのせいでこんなになったのに、励ましてくれて。ホントはわたしが頑張んなきゃいけないのに、シショーのことばっか考えて、1人だとなんにもできなくて、いっつも助けられてばっかりで、うう……」
(ブルー……。大丈夫ですよ。何度だって言いますが、ブルーは素晴らしいトレーナーです。落ち込まないで)
「ううん、そんなことない。わたしもう自信ない。こんなことになるなんて思わなくて、もう何を信じていればいいかもわからないの。もうダメ。わたしはもうここでおしまいなのよ。ラーちゃんは励まして頑張ってくれたのに、わたしもう戦えない。こんなことに巻き込んじゃって、こんなに傷つけちゃって、ごめんなさい。許して」
どうしようもなく心が弱気になってしまい、普段なら絶対に言わないようなこと口に出してしまった。トレーナーが諦めたらポケモンは戦えない。それはポケモンを裏切る最低の行為。だけど、わかっていても……わかっているのに、もう自分ではどうすることもできなかった。こんなことを言ったら、きっとラーちゃんにも見放されるだろう。それはとっても怖い。でも、壊れた心は簡単には戻らず、弱気な言葉が堰を切ったように次々と口をついて出てきてしまった。
もうラーちゃんと目を合わせることもできない。怖くて顔も上げられない。震えるだけのわたしにヒンヤリとしたものが擦り寄って来た。……ラーちゃんなの? 恐る恐る横目に見たラーちゃんはさっきと同じ優しい瞳をしていた。
(いいですよ。じゃあ、怖いこと不安なこと全部私に話してください。私はずっとブルーの味方です。ブルーはいつもたった1人で頑張ろうとして、私達には苦労をかけまいとして、全部抱え込んで頑張り過ぎてしまう。だから本当に辛い時、私には苦しいことや弱いところ、全部吐き出してさらけ出していいんですよ。絶対に全部受け止めてあげます)
その言葉でわたしの中で抑え込んでいた感情が溢れ出した。気づいたら辛いこと苦しいこと寂しいこと怖いこと自信をなくしたこと、何もかも全てを話していた。どれぐらいの時間しゃべったのだろうか。
「ごめん、なんか気づいたらものすごくしゃべっちゃった」
わたしのみっともない感情の吐露をラーちゃんは全て黙って受け止めてくれた。話始めてからどれだけ時間が経ったかもわからない。気づいたら夢中になっていた。恥ずかしいことに途中から泣きついて体ごと抱きしめられたまま話していたので、気持ちが落ち着いてから我に返って慌てて距離を置いた。
(謝らなくていいですよ。いつもブルーのおかげで救われているのは私の方なんです。だからもっと力になりたいと思っていました。あなたのためならどんなことでもいくらでも聞いてあげられます。私はブルーの役に立てましたか?)
ラーちゃんは嬉しそうにいう。まるでそれこそが最大の喜びであるかのように。本当にわたしはいい仲間に恵まれているんだってしみじみと感じた。
「うん。スッキリした」
(それは良かった。これでここから脱出してお師匠様の元へ帰る覚悟は決まりましたね)
その言葉でドキッとした。わたしはどうして自分がこんな目に遭うのかとか、泣き言しか言ってないのに、ラーちゃんはお見通しだったんだ。わたしがこんなに弱気になったのはそもそもここから帰れないという絶望のせい。ここを乗り越えて行く覚悟がなかったからだ。そこまでわかっていたんだ。その上でわたしが立ち直るためにここまでしてくれたんだ。
「ラーちゃんは全部お見通しか。はぁーー……これだけ泣き言いっていまさらだけど、わたしってみっともないわね。森の中じゃなかったら転げ回りたいぐらいよ」
でも、おかげでもう気持ちは吹っ切れた。シショーは確かにもういない。でもわたしにはまだポケモン達がいる。まだまだなんとかなる! ラーちゃんにこれだけしてもらっているのに諦めてはダメだ。ラーちゃんがこんなに頑張っているのに、わたしはまだ何もしていない!
(いいんです。私には弱い所を見せても。私達はお互いに支えあうべきなんです。ポケモンとトレーナーは対等でなければいけないんですから)
「あっ、その言葉! もしかしてわたしが言ったこと、ずっと覚えていたの?」
(もちろん! この言葉をブルーに言われた時は私も認められたような気がして嬉しかったのをハッキリと覚えています。ブルーも覚えていてくれて嬉しい……どんなことがあっても、私にとって1番のトレーナーはブルーです。お師匠様より、チャンピオンより、ずっとずっとブルーの方が素敵です。ブルーがいるから私も頑張れるんです。だから私に……ブルーがここから脱出して、あの不届きな幻のポケモンも華麗に倒してしまうところを見せてください)
面と向かってこんなこと言われるなんて。今自分が苦境に立たされているだけに、この言葉はわたしの中で一際輝いて見えた。嬉しくて、今吹っ切れて頑張ろうって思ったばっかりなのに、また泣きそうになっちゃうじゃない! こんなの反則よ!
「ラーちゃんっ!! うう、もうっ、大好き! だいだい大好きっ!! ありがとう、もう迷わない! 絶対ここから脱出して、また一緒に冒険しましょ! わたしとラーちゃんはずっと一緒よ!」
言わずにはいられなくなり、今までで1番強く抱きしめた。わたしの気持ちはラーちゃんにも伝わったみたい。
「キュウウーーー!!」
たっぷりと抱擁を交わして、顔を合わせて笑いあった。
(幸せ……)
「え?」
(はっ!? 何でもないです。それより、一旦この場所を離れましょう。まずは休める場所に行って体を休めるべきです。ここを突破するには私もフーちゃんも万全の状態にした方がいい。もちろんいざとなれば私はこの身を賭してあなたを助けますが、どうしてもできることの限度というものはあります。それに今後どうするか方針を立てないと)
いきなりキリッと真面目な顔に戻ったラーちゃん。切り替えも速い。もうちょっとさっきのままでいたかったのに。わたしはちょっと未練が残ったまま答えた。
「いまさら過ぎるけど、わたしこんなジャングルのド真ん中でずっと何してたんだろう。野生のポケモンに見つかったらヤバかったわね。たしかに、ここは離れた方がいいわね」
(心配ありません。私が注意していました。向こうからくる分にはあやしいひかりで追い返せましたし)
「そうだったの。ラーちゃんはさすがね。頼りっぱなしになるけど、やっぱり助かるわ。これからもお願いね」
(任せてください。ではとりあえず、洞窟のような場所を探しましょう。あるいは崖を探してあなをほるを使う手もあります)
「そうね。ピーちゃん! 出て来て! この辺りに休めそうな洞窟や、基地が作れそうな崖とか、何かないか周りを見渡して!」
「ジョット!」
(空から探すのですね。賢明です)
上空を旋回して徐々に遠くへ行くピーちゃん。うまく見つけてくれたらいいけど、どこにもなかったりしたらどうしよう。そんな心配をしていると突然鋭い悲鳴が木霊した。ピーちゃんに何かあった?!
「リューちゃん、何があったのか教えて!」
高く上がったリューちゃんはすぐに戻ってきた。聞けばピーちゃんは大量の未知のポケモンに襲われているらしい。自分も危なそうだったのですぐに戻ったようだ。パニックになったわたしは慌てて教えてもらった方角へ走り出した。
(待って! 1人で先に行っては危ないですっ)
「急がないと、助けないと!」
頭が一杯になっていてラーちゃんに言われたことが頭に入っていなかった。全速力で駆け続けると、木の枝に引っかかってぐったりしているピーちゃんを見つけた。
恐るべきことに翼の一部が凍っていた。そのせいで墜落したんだとすぐわかった。まさかフリーザーみたいなのがこの辺にはウヨウヨいるってこと?! さすがにこの辺りのポケモンの生態系はヤバ過ぎる気がしてきた。
「ピーちゃん戻って!」
とりあえずこれで今以上酷くはならないので一安心。治療のためにも早く安全な場所を見つけないと。
でも一難去ってまた一難。安息の暇もなく次なる障害が現れた。
「ゴアア!」
「イヤァァ!! また強そうなのが出て来た! 羽みたいなのがある……ひこうタイプかしら、ここはレアちゃんお願い!」
さっきはおそらく相性も悪かったんだと思う。冷静になって振り返れば状況が見えてなかったことに気づく。もう二の轍は踏まない。まずは様子見がてらの“10まんボルト”。でもこうかはいまひとつみたい。どういうこと?
「ゴアアア!」
「ジリリッ?!」
うそっ!? 今のは“ほのおのキバ”! たしかに顔赤いけどこのポケモンまさかほのおタイプなの?!
電気技の効き具合からしてひこうタイプはなさそうだし相性最悪じゃない!
「戻って! いくのよソーちゃん!」
「ゴアアッ!」
こんどは“かみくだく”!? なんでこう裏目になるのっ! でも物理攻撃ばっかりだから“カウンター”は決まりそうね。
「カウンター!」
「ゴアアッッ?!」
また“かみくだく”ね。ソーちゃんはしっかり耐えてくれてカウンターで倍返し。相手は1発で倒れたわね。
「うわ! すっごい経験値ね。レベルアップした。やっぱりここのポケモンは強いんだ」
(ブルー、大丈夫ですか!)
丁度ラーちゃんも追いついてきた。来た道には氷の跡がある。地面を凍らせて移動して来たのね。すごいことを当たり前のようにするわね。
「もっちろん。バッチリ勝ったわよ」
今は勝てた自分が誇らしく、嬉しくなり笑顔で答えた。これでラーちゃんにも胸を張って顔を合わせられる。
(ああ、良かった。でも気を抜いてはダメです。早く場所を移りましょう。私の氷を他のポケモンにつけられるかもしれませんし。ピーちゃんは話せる状態ですか? なんとか何か見つけてくれていれば助かるのですが)
そうだった。出してみると体力は残っているようで、墜落したものの洞窟は見つけたらしく、教えてくれた場所へひとまず向かうことにした。ピーちゃんは傷ついても使命を全うするため探すことを優先させてくれたのね。ホントにこの子達皆なんていい子なの! 道中ポケモンは出て来たけど、その都度“あやしいひかり”で上手く逃げてなんとか洞窟に辿り着いた。
「中に何かいる?」
(わからないですね。慎重に進みましょう)
結論から言えば何事もなかった。でも、こんなところでもいつもどれだけシショーに助けられていたのか思い知らされた。草むらではいつポケモンが飛び出してくるかわからない。でもシショーにはどんな時も全てわかっているようだった。わたしもそのことに慣れてしまっていた。
「いっつも野宿する時には安全なところを見つけてくれたし、ポケモンが来ても全部勝手に追い払ってくれたもんなぁ。ホントになんでもできてそれが当たり前だと思ってたけど、こんなに大変なことだなんて思わなかった」
(ブルー)
「あっ……ごめん。つい口に出してたわ。別にクヨクヨしているわけじゃないの。ちょっと思い出してしまっただけ」
(わかっています。ブルーは強い子です。でも休むことも大事。まずは休めるうちに休んでおきましょう)
ラーちゃんの言う通りね。まずは皆を出して休むことにした。キズぐすりを出してラーちゃんに使おうとすると止められてしまった。どういうことか視線で問うと、ラーちゃんはゆっくりと答えた。
(ブルー、キズぐすりというのはいくらでも使えるのですか? この先どれほどこうした状況が続くかわからないのですから、安易に消耗してはいけません)
「でも、皆ひどいケガよ。今使わなくてどうするの!」
(ブルー、よく考えなさい。私達は今孤立無援。帰る目途も立っていない。もしかすると何年もここにいる羽目になってもおかしくはない。そんな時にキズぐすりが尽きて、誰かが今よりもひどい傷を負うことになれば、あの時使わなければ良かったと後悔することになります。極力使用は連戦で危険な場合などやむを得ない場合に留め、今のように休めるうちは自然回復に任せた方が良いです。私はこの程度なら1日眠れば治ります。わかりますね?)
なるほど、ラーちゃんの言いたいことはわかった。ラーちゃんもシショーと同じ、現実をよく見ている。わたしみたいに希望を見るだけじゃなく、常に最悪の可能性を考えているんだ。きっと体中痛いはずなのに、我慢してわたしのためを思って言ってくれているのが伝わった。
「わかったわ。確かにそうね。こんなわけのわからないところだと何が起きるかわからないし。ありがとうラーちゃん。じゃあ治すのはピーちゃんの凍った場所だけにするわ。そのぶん今日はゆっくりやすんで」
こおり状態は自然回復しないから、これだけは治してあげないと。
(それがいいです。でも休みながら時間のあるうちに全員で今後のことも考えましょう。ここはどこなのか、どうやって戦っていくか、どうやって帰るのか。まずはブルー、ここがどこなのか心当たりはないですか?)
やっぱり避けては通れないか。今考えるしかないわね。
「そうね。そういえばここってジャングルみたいだけど、確か地下室で見た日記にミュウもこんなジャングルで捕まえたって書いていたわね。私のハウスに来てって言ってたし、あの子が連れてきたんだからここがミュウの故郷なのかも」
(それは可能性が高そうです。では、そのジャングルがどこのものか日記には書いてなかったですか?)
「えっと、どこだっけ。そういえば……あっ、ギアナって書いていた気がするわ」
それを聞いてラーちゃんは驚いて大きな声を上げた。テレパシーだからイメージだけど。
(ギアナですって!? そんなっ!! ブルー、あなたはギアナがどこか知っているのですか?!)
「え、わかんない。カントー地方ではなさそうね。ジョウトの方なの?」
(ホントに知らないんですね。ギアナは国内ではありません。外国です。見たことのないポケモンばかりなのも納得がいきました)
う……そ……。外国? わたし、いつの間にかそんな遠くに飛ばされていたの?
「で、でも、外国といっても近くならなんとか」
(ブルー……ギアナはほぼ地球の裏側。1番遠い場所です)
何を言われたのかわからなかった。いや、わかりたくなかった。うつむいて、体が震えて、涙が出そうになるが、グッとこらえた。今はフーちゃん達も皆見ている。わたしが諦めたら、この子達はどうなるの! もうみっともないマネはしない。精一杯の笑顔を作って顔を上げた。
「わかったわ。だったらなおさらのこと、もうシショーを当てにはできない。わたし達で頑張るのよ」
(ブルーッ! そう、その通りです! 遠いといっても、船ならすぐです。カントーにはクチバという大きな港があります。まずは人がいる街を探せば帰る道筋もわかるはず。ひとまずは人がいるところを目指してこの森を抜けることを目標にしましょう)
わたしが諦めないことが嬉しいのか、目を輝かせてまくし立てるようにラーちゃんが考えを述べた。まず卑近なところに目標を置いて、わたし達を導いてくれている。やっぱり頼りになる。
「そうね。さっきピーちゃんがやられたから、空から抜けるのは危ないとわかったし、仕方ないから地道にこのジャングルを突破しましょう」
「ジョット!」
(この森は果てが見えないほど広大だそうです。簡単には超えられないですね。こうなると私達は長い時間をかけて計画的に動く必要がありそうです。もしかすると、まずはこの辺りのポケモンに力負けしないように全員のレベルを上げることが1番の近道かもしれません)
気の長くなる話だけど、ホントにそれが最善かもしれない。
「そうなんだ。じゃ、まずは全員のレベルを上げつつ、この辺りのポケモンの情報を集めた方がいいわね。最初に見つけたポケモン、さっきは気が動転していて気づかなかったけど、きっとフーちゃんが負けたのは相性のせいだと思うの。だからタイプだけでも把握しておくことはきっと重要になると思うの」
「バーナー」
(戦いにくさは感じていたようですし、苦手なタイプで間違いないですね。見た目と、メガホーンを多用したところからしておそらくむしタイプ。色からすればどくタイプもあったかもしれない。虫と毒はよくある組み合わせです)
なるほど、複合タイプの可能性も考えないとダメなのね。タイプの予測だけでも結構難しいものね。
「そうか、どくタイプもあったのか。じゃあ相性最悪ね。シショーはタイプ不利1つで半分が目安って言ってたから、全部1/4しか効いてなかったのか。その上相手はタイプ一致。シショーは1.5倍ぐらい違うっていってた。これじゃ、攻撃も耐久も強く感じるわけね。ホントにすごかったのは素早さだけだったんだ」
(ブルー、やっぱりあなたは弱くなんかない。ただ運が悪かっただけなんですよ)
「えへへ、そうみたい。なんか元気出て来た。じゃあ、あの赤い顔のポケモンは何タイプだったんだろう。カウンターで倒したからわかんないなぁ。今度からは様子を見る攻撃もしないとダメね」
「ジリリッ!」
考えているとレーちゃんが助け舟を出してくれた。そういえば1回攻撃はしたんだっけ。
(え、10まんボルトがいまひとつだったのですか? ではタイプはかなり絞れるはずです)
「あ、そっか。でんきが効かないのはくさ、でんき、じめん……」
(じめんは全く効果がないので違うでしょう。それに、あとドラゴンタイプもあります)
それを聞いてピンと来た。
「あっ、そうか! あれはドラゴンタイプだったんだ! だから羽みたいなのもあったのね。じゃあレーちゃん出したのは間違ってはなかったんだ。ほのおのキバ食らったけど」
(ドラゴンタイプはそういう技を覚えても不思議はないですね。ほぼ間違いないでしょう)
「すごい、あっという間に全部わかってきちゃった。でも、さすがにどの能力が高いかとか、そういうことはわからないわね。むしポケモンが速くて、ドラゴンが攻撃力高いのはわかるけど、シショーはどうしてか防御と特防の差とかもわかっていたわよね。こうして未知のポケモンに遭遇すると、とんでもないことなんだって痛感するわね」
(おそらくお師匠様は別格です。ポケモン同士でもそんなことは普通わかりません。才能なんでしょう。ブルーはブルーにできることをやりましょう)
1人になると、いつもシショーとの力の差をイヤという程痛感させられる。傍にいる方がその戦い様をよく見られるのに、普段は全然気づいていなかったということだ。きっとわたしが未熟なのも原因だとは思うけど、シショーが悟らせないように振舞っているような気もする。悟られないようにするのも才能なのでしょうね。あーあ、なんか皮肉よねぇ。思わずため息が出た。
「はぁー、そうね。あー、いっぱい考えて疲れちゃった。日も傾いてきたし、もう今日は寝ちゃって、明日夜明けとともに調査を始めましょう。まずはこの辺りを、そして少しずつここを拠点にして範囲を広げましょう」
「リューリュー!」
(リューちゃんが疲れてないので見張りをしてくれるそうです。確かに誰か見張りをしないと安心して眠ることもできないでしょう。ここはリューちゃんにお願いしてしっかり休みましょう)
「そっか、ここも夜になったらポケモンが来るかもしれないもんね。ありがとリューちゃん」
(今後も常に最低1匹は温存し、完全に休ませた方が良さそうですね。全員疲れたままでいるといざという時に誰も戦えなくなってしまう)
「そうね。気をつけるわ。じゃあ、おやすみ」
(あっ、ブルー……もう寝ちゃった。よっぽど疲れていたんですね。私達で毛布を出して寝かせてあげましょう)
……夢の中、わたしはずっとシショーがどこかへいってしまう悪夢にうなされていた。
「シショー、行かないで……1人にしないで……」
(ブルー……。やはり、気丈に振舞っていたのは無理をしていたのですね。ギアナの場所を聞いた際、ショックを受けていたことは皆気づいていました。何も考えずあのような伝え方をしたことを許して、ブルー。……あなたにはいつも私がついているから安心して。あなたは必ずお師匠様の元に送り届けてみせます)
覚めない悪夢はない。明日はギアナ2日目。ここからが本番だ。
だ~れだ?
3匹未知のポケモンが出ました
ギアナは南アメリカということでこの章ではイッシュのポケモンしか出ません
特徴は出揃っているのでシルエットはなしでもわかりますね?
空中で襲ってきたポケモンは縄張りへの侵入者に問答無用で攻撃したのがヒントです
図鑑説明を参考にしています