荷物を確認、体調も万全、心の準備もオッケー! ミュウちゃんが道中回復させてくれて、かつ休める場所も教えてくれるそうなので、この拠点から旅立ち本当にジャングルを進んでいくことにした。それにちょうど今日は曇り。ジャングルを進むにはうってつけのいい天気ね。
「チラー!」
「あれはチラチーノっていうの。ノーマルタイプだからこうやってかくとう技で攻めるの」
「チラァ……」
「うわ、躱しても追尾して当たるなんてすごっ! 今のはなんて技なの?」
「はどうだん。波動を使うからみゅーの得意技。必中技で威力も高いから強力で使いやすいの」
ミュウちゃんがいるのはかなり大きい。迷うこともなくスイスイと歩みを進められた。知らないポケモンもすぐにタイプを教えてくれるし全く苦労しない。最初からわかっているとこんなに楽なんだなと改めて痛感した。ポケモンの勉強って大事なのね。
1日でどれほど進んだのだろうか。だいたいこの辺りのポケモンについては全部聞けたので、途中からリューちゃんに乗って移動速度重視に切り替えてかなりの速さで進んだ。おかげでいつもよりだいぶいいペースね。倒した野生ポケモンの数も桁違い。
日が暮れて来た頃になるとミュウちゃんが今夜休めそうなところに案内してくれた。
「今日はここで休もう。川があるから体を洗っていくといいの。もう何日もそのままでしょ?」
まさか川つきの場所を教えてくれるなんてっ! ミュウちゃんの案内はバッチリね。女の子のことをよくわかっているわ。
「ホントに川があるのっ!? やったー! 実はずっと気になっていたのよ。助かるわ。やっぱりこういうとき女の子同士だといいわよね。シショーはあんまりこういうところは気を遣ってくれないもん。わたしが女の子だってこといっつも忘れてる!」
(そんなことまで少年に考えろという方が酷です。それに水浴びは私がさせてあげていたじゃないですか)
「それでもよ。さ、早いところ旅のホコリを落としておきましょう。しっかり洗っておかないと次洗えるのがいつになるかもわからないし。ラーちゃん達も一緒に洗いましょうね」
「じゃ、みゅーも」
「うわ! 服が一瞬で消えた! なんなの今のっ!」
ミュウちゃんは初めて会った時からずっと同じ服装で人間の女の子姿だった。そのミュウちゃんの服がまばたきの間にパッと消えて、最初から何も着ていなかったかのようにそこに立っていた。驚くわたしにミュウちゃんは淡々と説明した。
「服はへんしんでつくった偽物みたいなものだからいつでも消せるの」
「服まで作れるんだ、すごいわね。……人間の体も本物同然ね。そういえば洗う時に元の姿には戻らなくても大丈夫なの? そのままでいいの?」
「みゅーの本当の姿に戻らないのかって? あなたはへんしん解いたところを見てみたいの?」
あれ、ちょっと警戒されている気がする。何かマズイことを聞いてしまったのかもしれないわね。
「いや、別にそういうわけじゃないけど、へんしんした姿で水浴びって、なんか変だなって。ちゃんと元の姿がキレイにならないんじゃないかなって思ったの」
「この姿もちゃんとみゅーの体。キレイになれば元の姿にも反映されるの」
「へー、そうなんだ。へんしんも奥が深いのね」
よくわからないがそういうものらしい。感心していると、わたしの瞳の奥を覗き込むかのようにしてじっと目を合わせながらさらにわたしに尋ねてきた。
「あなたはみゅーがどんなポケモンか興味あるの?」
「……もちろん、あるわよ。幻のポケモンですもの。でも、ラーちゃんが言ってたけど、珍しいポケモンは自分の秘密を簡単に明かせないんでしょ? だったら仕方ないわよ。それに、わたしはこうしてポケモンとおしゃべりできるのが楽しいのよ。だからそれで満足かな」
まるで自分の心の中まで完全に見透かされているような気がして、とりあえず思ったままのことを答えた。少し緊張して反応を見ていると、ミュウちゃんはフッと目線を外してさらに質問を続けた。
「そう。じゃ、みゅーのことどう思っているの?」
「え、いきなりストレートな質問ね。うーん、そうねぇ……最初は怖かったけど、今はわたし達に協力してくれるし、今までのことも悪気はなかったみたいだから、もう友達みたいな感覚かな」
言葉にしなきゃ伝わらないこともあるし、せっかくこうして聞いてくれているんだから、はっきり言っておこうと思い友達だと伝えてみた。喜んでくれるか心配だったけど、表情は少しさっきよりも柔らかくなった。
「友達……。みゅーも、あなたのことは最初あんまり好きじゃなかったけど、今はちょっと好きかも。ちょっとだけど」
「あれ、ちょっとだけなの? じゃ、もっと好きになるようにしないとね。ほらほらうりうり!」
「え、あ、ちょっと、やめてっ! 感覚は人間と同じなんだから、直にそんなところ……みゅうう!!」
ラーちゃんとじゃれている時のようにちょっとくすぐりをして笑わせてあげた。ばしゃばしゃ水を飛ばしながら割と本気で遊んでしまった。ミュウちゃんは意外とわたしのくすぐりには弱いみたいで笑い転げながらギブギブと手を叩いた。
ちょっぴりミュウちゃんとも仲良くなれたかな。それはミュウちゃんも同じだったのか、ミュウちゃんの方から呼び方を変えるように言われた。
「ねー、これからはみゅーのことはみゅーって呼んで」
「みゅー? ミュウじゃないの? まあそんなに変わんないけど」
「それは変な人間に勝手につけられたの。ほんとはみゅーはみゅーっていうの」
本気で言っているみたいね。名前ってやっぱり勝手に付けられたものなんだ。だったらたしかに拘るのもわかる。
「いいわよ。わたしはブルーでいいわ。みんなそう呼んでるから。よろしくね、みゅーちゃん」
「みゅみゅ」
がっしりと握手して笑いあった。みゅーちゃんとなら、わたしは仲良くなれるかもしれない。
◆
それからさらに幾日が過ぎ、こっちに来て10日目、ついにツリーに到着した。驚くほど巨大で、樹齢は何千年というレベルなんじゃないだろうか。てっぺんが下からは全く見えない程だ。
「これがあなたのハウスなの? とんでもない大きさね」
「みゅみゅ、すごいでしょ? これはみゅーが育てたの。……ちょっとだけ手伝ってもらったりもしたけど。世界の中心に大樹を育てるのが今までのみゅーの生きがいだったの。この木はみゅーの人生そのものね」
え? どういうこと? みゅーが育てた? 世界の中心? 人生そのもの?
「みゅーちゃんが育てた……っていっても、この木はだいぶ昔から元々ここにあったんじゃないの?」
「ううん、違うの。みゅーが植えて、ここまで大きくしたの」
「……あなた、ずっとわたしより年下かと思ってたんだけど、ホントは何歳なの?」
みゅーちゃんは茶目っ気たっぷりに笑っていった。
「幻のポケモンだから、秘密なの!」
「あーーっ! それはずるーい! この木の樹齢からして千年は年いってるでしょ!」
「この木は科学力とみゅーの力でかなり大きくしたの。だからブルーの思う程時間は経っていないの。植えたのは割と最近だから」
「本当? ラーちゃんどう思う?」
(幻のポケモンの最近程当てにならないものはないでしょう。つい最近という話が本当だとしても、最近と感じられる程なら植えた時点でかなり生きていることになりますし、年齢は想像して余りあるかと)
「じゃあみゅーちゃんってすっごいおばあちゃんなの!? みゅーちゃん仙人説?!」
(ブルー、なんでもかんでも仙人にし過ぎです)
「ぶぅー!! おばあちゃんじゃない! みゅーは年とかとらないの! 人間とは全然違う! おんなじように考えないで!」
「えええ!!?? それ、いくらなんでもすご過ぎない?! ヤバ過ぎてもう頭ついていかないわよ?!」
「あ……。ブルー、これは内緒ね? 言い触らしたらダメ。特にレインには絶対。おばあちゃんとか勘違いされたら嫌われるの」
「わ、わかりました」
コクコクと頷いておいた。ポケモンの秘密はお口にチャックしておくに限る。みゅーちゃんは怒らせたらシャレにならないし。
この木、大きいから登るのも一苦労ね。ほどほどに木を登って広い空間を見つけ、そこを拠点にすることにした。ゴロンと横になると解放的ですっごくいい気分。
木といっても高層マンションのようになっていて平らなスペースがけっこうあり、住み家としてはとっても居心地がいい。秘密基地にしたらサイコーだろうと断言できる。快適ハウスを満喫していると寝転んでいるわたしの顔の上からラーちゃんが覗き込んでテレパシーしてきた。
(ブルー、これからどうしますか? ここでのんびり待っているのですか? 7日で着くならみゅーさんの話では今日がその7日目ですし、お師匠様をここでゆっくり待っているのも手ですが)
「そうね。そうしましょう。というか、ラーちゃんずっとみゅーちゃんにさん付けしていたのは年上ってわかってたからなの?」
今はフーちゃん達も含めて皆仲良しでみゅーちゃんって呼んでいる。でもラーちゃんだけみゅーさんだった。前もミュウさんだったし。
(まぁ薄々は。技の練度やバラエティーの年季が私などとは比べ物にもなりませんから。ポケモンはあまり見かけで判断しない方が良いです。ほとんど見た目は当てになりません。もっとも、みゅーさんは実年齢ほど精神年齢が高いというわけではなさそうです。おそらく、本当に年をあまりとらず、成長も緩やかなのでしょう)
そういうものなのだろうか。人間にはわからない世界ね。
久々にゆっくりできるので、今日はまだ昼間だけどこのままゆっくりゴロゴロしながらシショーを待っていることにした。こんなにわたしがのんびりしているところ見たらシショーなんて言うかなぁ。暇だし予想してみよ。
本命は拍子抜けして呆れ顔になってから「焦って損した」とかかな。うわ、めっちゃ言いそう! いかにもシショーらしいセリフね。 完璧に想像できる。ものすごく急いでここまで来てくれているだろうし、こんなにのんびりしていたら言いたくなるでしょうね。大本命ね。
それとも真っ先に無事を喜んで抱きしめられたりするのかな。そこから耳元で「お前が心配で夜も眠れなかったぜ」……いくらなんでもこれはないわね。シショーがこんなこと言ったらむしろ気持ち悪いし。
逆に短く「会いたかった!」とかだったりして。そんなこと言われたら照れちゃうかも~。……ま、あのシショーだから絶対ないでしょうけど。
感激してシショーの方が泣いちゃったりして。やっぱりそれはないかなぁ。その反対で明るく「待った?」とか。シルフの時のこと踏まえるとありそうかも。こんな感じだったし。これは大穴であるわね。
そういえば、ビーチでわたしを見つけた時、シショーはわたしに約束してくれた。地球の裏側に行っても、どんなに遠くに離れていても、“必ず見つけてやる”ってあの時は言ってくれた。もしそのことを覚えていてくれたら……きっとこう言うんじゃないかしら。「“必ず見つけてやる”って言っただろ。俺はお前のシショーなんだから」……ホントにここまで探しに来てそんなこと言われたら嬉し過ぎてどうにかなっちゃうかも。
シショーは変なところで意地っ張りで、一度決めたら曲げない性格。そのせいで弟子入りの時は大変だったし、わたしが弟子になってからは真剣にわたしのこと強くする気でいる。そんな人だから、わたしとの軽い口約束でも本気で守ってくれそうな気がする。
もちろん、こんなこと覚えてない可能性の方が高いとは思う。わたしは嬉しくてはっきり覚えていたけど、シショーにとっては取るに足らない記憶だろうし。
結局、予想しようとは言ってみても、結果を見れば本命以外はわたしの希望を並べただけね。現実的なシショーとは正反対で、わたしはいっつも理想ばかり追いかけてしまう。なんでかなぁ。夢を見過ぎだとわかっていてもどうしても期待はしてしまう。
「そんなに待ち遠しいの?」
声の方を見ればみゅーちゃんがいた。全く気配がなかった。いつも突然現れるからびっくりする。これにはなかなか慣れないわね。
「みゅーちゃんっ。いきなり来たらびっくりするじゃない。待ち遠しいかと聞かれたら、まぁそうね。とっても待ち遠しくて、それしか考えられないぐらい」
「みゅみゅ。なら良かったね。もう来たみたいなの。見て、シンボラー達がざわめいている。侵入者が来た証」
「え! まさかシショー空から来てたの! でも、あのポケモンってピーちゃんがやられたヤバイ奴じゃないの!? これじゃシショー危ない、助けに行かないと!」
来てくれて嬉しくってはしゃぎたくなったけど、シンボラーを見て血の気が引いた。
「やめた方がいいの。ブルーでは足手まといにしかならない。それに、ここまできてるならすでにかなりの数と戦って来ているはず。おそらく問題ないの」
確かにそうだ。あれはジャングルのどこから上にいっても出てくる。でも1体ずつがかなり強いのにあんなにたくさんを相手にしてどうやって倒しているのだろう。空中では使えるポケモンも技も限られるのに。
どんどん近づいて来てわたしも直接姿を確認できた。ものすごい速さでこっちに接近している。ピーちゃんよりも速そうだ。
「あ、わたしも見えた! やっと来た! ホントの、本物のシショーだ! うはー!! あれはプテラ? プテラが電撃出してる! どうなってるの?!」
プテラはきっとあの化石のやつでしょうね。あのコハクとかいう化石のことは今の今まで忘れていた。化石ポケモンに乗ってくるなんて思いもしなかったわよ。しかもすごい技覚えてきてそう。
「みゅー。なるほどなの」
「あれは“ほうでん”かしら? しかもすごい威力ね。どうなっているの?」
ぐんぐん近づいてきて、あっという間にそのシルエットは大きくなった。
「あ、危ない!」
シンボラーの1体がプテラに急接近している。体が光っていてなんかヤバそうな技に見える。当たれば乗っているシショーが墜落してしまう! それに気づいてプテラも何か技を使った。
「あれはストーンエッジなの。グレン島で練習していたのは少し見ていたけど、もう完璧に使いこなしてる。さすがなの。シンボラーの技はゴッドバード。ためがいるけど威力はかなり高いの」
石の礫を体の周りにまとい、“ゴッドバード”中のシンボラーはモロにそれに当たり墜落した。“ストーンエッジ”はまとえば攻防一体の鎧になるってことか。
「ブルーーッッ!!」
シショーが呼んでる! 手を振って応えた!
「シショー! ここよここ!」
ぴょんぴょん飛び跳ねて必死に自分の姿をアピールした。プテラはここに降りるようだ。でもなんかおかしい。スピードが緩まない。このままだとこのツリーに激突しちゃう! 何考えてるの!?
「つばめがえし!」
距離を詰めて勢いそのままこっちに攻撃してきた。あまりの速さの上、“つばめがえし”は必中攻撃。みゅーちゃんといえど避けきれずに当たってしまった。正確に近くにいるわたしには当てずにみゅーちゃんにだけ攻撃するなんて凄い。それでも風圧がすごくてわたしも思わず帽子を押さえて顔を伏せる程だ。
あ!! みゅーちゃんに攻撃したので思い出した! このまま戦闘になるのはマズイわよ! シショーはみゅーちゃんのことをよく知らない。だからきっと本気で倒すつもりだ。慌ててわたしは目の前に降りたシショーを止めに入った。
「待って、実はみゅーちゃんは……」
「プテラブルーを! イナズマ!」
「ダーッス!」
プテラからイナズマちゃんが降りてきた。もしかしてさっきのはイナズマちゃんの技?と思っているうちにプテラにがっしり掴まれてツリーの上の方へ連れ去られてしまった。ちょっと待ってよ! せっかく会えたのにまた離されるの!? 最初にどんな反応するか色々予想したのに、何も言わずにわたしだけ即隔離が答えってどういうこと?!
離れ際、空中からさっきまでよく見えていなかったシショーの顔が見えた。それを見て言葉が詰まってしまった。この表情は見たことがある。ラーちゃんが本気で怒ったときの表情と同じだ。心の底からの純粋な怒り。自分の命を投げ捨ててでも報復することしか考えていない者の目だ! みゅーちゃんが危ない……!
ようやく役者が揃いましたね
この後はだいぶ大変なことになります
……大変なことになります
次の話では“みねうち”とモンスターボールが活躍します
両方考えた人間の神経疑うような使い方されます
こんなこと思いつくなんてシショーの鬼、悪魔、外道!!
やっぱりシショーの闇人格は怖いなぁ(すっとぼけ)