Another Trainer   作:りんごうさぎ

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5.届かぬ想いは両手に込めて

「さっすがシショーね。ホントに助かっちゃったわ。お母さん久しぶりでも容赦なさ過ぎよね」

「お前のそういうところ見ると心配になる気持ちもわかるな」

 

 説教攻撃から解き放たれて開口一番にこんなこと言うのは反省してない証だ。さっきはつい助けたがやっぱり反省させた方がいい気もしてきた。

 

「ちょ、ちょっと、シショーまで説教とかはやめてよ?」

「別にそんなことしない。好きにすればいいし。研究所は遠いのか?」

 

 俺からどうこう言うことはないが、次は助けないからな。

 

「いや、もうすぐよ。何しに行くの? また何か企んでるんでしょ? 絶対に目的がないと行かないもんね?」

「今すぐに帰ろうか?」

「ごめんなさい」

 

 素直でよろしい。研究所に着くとブルーの呼びかけに応じてオーキド博士が自ら出迎えてくれた。

 

「はーかせっ! わたしよー。今いるー?」

「おお、ブルーか。よく来たな。そろそろ来るんじゃないかと思って待っておったぞ。元気にしておったか?」

「えぇ、もっちろん。元気元気よ!」

「それは何よりじゃ。便りがないのは元気な証拠とは言うが、たまには元気な姿を見たいもんじゃからな」

「わたしも色々あったから遅くなっちゃって。あ、それでね、実は紹介したい人がいるの。わたしのシショーのレインよ。博士に会いたかったんですって」

 

 わざわざブルーのために待っていたということはここを留守にすることも多いのだろう。ジョウトでもけっこう見かけたし、ラジオ番組とかも持っていたから忙しそうだ。やっぱりブルーをつれてきて良かった。

 

「おお、君が噂のブルーの師匠か。話は聞いておるよ。ブルーが世話になっておるな」

「どうも初めまして。レインと言います。師匠と言っても一緒に旅をしているだけで大したことはしていません。オーキド博士の数々の功績は存じています。トレーナーとしてだけでなく研究者としても偉大な方に会えて感激です。ここへ来たのはポケモン研究の権威であるあなたとポケモンについて少しお話したいことがあったからなんです。オーキド博士の研究はどれも興味深いですから。よろしければお時間をとって頂けませんか?」

「おお、これは驚いた。師匠というにはずいぶん若いと思ったが、わしの研究に興味があるとはなかなか見どころがある。勉強熱心なのは感心じゃな。ブルーもこれぐらい人の話を聞いてくれれば良かったが……少しは見習ってほしいもんじゃな」

「えぇ……シショーがそこまで言うなんてどうしたの? なんか丁寧過ぎて怖い……博士ってそんなにすごいの? どう見ても普通のおじいちゃんにしか見えないけど。変な感じ」

「ブルー、お前仮にも基礎はオーキド博士から教わったんだろ。少しは敬意を持て」

「ブルーは昔からその調子なんじゃ。忘れずに顔見せに来ただけでも十分じゃろう」

 

 それもおそらく俺が言わなければ来てなかっただろうしな。うちでグータラする気だったのはバレバレだ。

 

「ブルーはこれからどうする?」

「わたしは庭の方で待ってるわ。帰ったらこってり絞られそうだし」

「ブルー! 帰ってきて間もないうちにまた怒られるようなことをしでかしたのか! 全く呆れ果てた奴じゃ。いつもわしの研究所を避難所代わりにしよって! どうせここにいるなら師匠さんに茶でも出してあげなさい。場所は覚えておるじゃろ?」

「げ、博士までわたしに雑用させる気!? あ、わたし用を思い出したから帰るわね」

「ブルー、寄り道したらお母さんにバラすからな」

「ぐっ!」

 

 いそいそと帰ろうとしたのでドアを閉める直前に声をかけた。これでここに留まることも道草して時間を潰すこともできない。反省するべし。ブルーもいなくなったわけだがこれで話もしやすくなった。

 

「すまんな。ホントに君には苦労をかけとるじゃろう。今わしが茶を用意するから待っておってくれ」

「ああ、別にいいですよ。話をしていればどうせ飲むことも忘れるでしょうし、もったいないですよ」

「……それもそうじゃな。わしに話があると言ったが、何か聞きたいことがあるのかな? 最初にそれを聞いておこう」

「ええ。まず……」

 

 まず知りたかったのはここでの研究の進歩具合。そしてその速度。もちろん自分で軽く調べることはしたがその筋のトップに聞けるならその方がより正確に知れる。

 

 例えばポケモンの三値の部分。どこまで本質に近づいているか。その他に技の威力や経験値、進化のレベルなどがどれほど数値化されているか。もう数値化して研究する取り組みはあるようだがどうしても乱数がからむことなので正確な割り出しはできていないようだ。

 

 乱数自体にも乱数があるような感じだからな。ゲームなら乱数1、つまり1番ダメージが多い時を基準に威力を決められる。だがここではそれが1を超えて一定値にならず上限もない。上限がないのでは基準が定まらない。その他も数値化にもかなり時間がかかりそうだ。バトルに関わることは黙っているに限る。

 

 逆に生態系などについてはずいぶん進んでいるようだ。どんどん別の地方の新種も判明して詳細な図鑑のデータも集まりつつあるのだとか。生息地とか体重大きさなどのデータはすぐに調べられるからな。ただ研究が滞っているものもあった。

 

「進化についてはレベルで進化するポケモンはすでにほぼ全てはっきりしておる。だが、中にはどうしてもわからんものもある。例えばゴローニャはよくゴローンのいる山に一緒に生息しており、その進化先であることは疑いようがないとされておるが、どのような条件で進化するかは皆目見当がついておらん。レベルではなく、進化の石のような道具による進化でもない。まだトレーナーによって進化に成功したという例は報告されていないんじゃよ」

 

 これだ。実は最も聞きたかったのはこのことだった。昔橋の番人がぼっちパを使っていた時から違和感を持っていた。あれだけ実力があるトレーナーが進化方法を知らないから、もしやとは思っていたがやっぱりか。これなら売り込める。

 

「そうですか。もし私がそれを知っていると言ったらどうしますか?」

「ん? はっはっは! 面白いことを言うのう。そんなこと子供が知っていたら世間がひっくり返るぞ」

 

 やっぱりそうか。安易に通信進化について言うのではダメだな。慎重にいかないといけない。発見した経緯とか聞かれそうなことへの説明は考えて来てある。そしてこれは俺にとって非常に重要な仕事になる。心して挑まないと。

 

「偉大な発見というのは案外偶然で見つかることも多いものです。年齢は関係ないと思いますよ。そもそもあなた方は進化について重大な勘違いをしていませんか?」

「勘違い? ふむ、それこそまさかじゃな。長年研究してきていまさらそんなこと……」

「もちろんこれまで様々なポケモンの進化体系を築き上げた功績は重々理解していますが、少々それに囚われ過ぎています。これまで全く手掛かりも見つからなかったということは根本的に何か誤りがあるということ。ならば発想を変えなくてはいけません」

「ふむ。一理あるが、ではどう変えろと?」

「野生とトレーナーのポケモンでは条件が違う場合があるということです」

「!」

「これがどういうことかわかりますか?」

「……君は何か確信があって話を進めているのじゃろう。ならば先を教えてはくれまいか?」

 

 ちょっとこっちを信用し始めてくれたかな。ここはさっさと話しを進めた方がいい。

 

「フフッ、結論から言えということですか。回りくどいのは好きじゃないですしいいでしょう。私が言いたかったのは進化条件に極めて人工的な条件が関与しうるのではないかということです」

「なるほど……。ならば野生で進化する場合を想定していれば絶対にその進化方法に辿り着かない。ゆえに今まで見つかっていなかった、そう言いたいわけじゃな? だが人工的というのはいささか曖昧過ぎる」

「話が速くて助かります。今言ったのはあくまで一般論としてです。具体的な条件に関してもすでにわかっています。例えば先程挙げたゴローニャ。あれは通信交換で進化します」

「本当かね!?」

「実際にその場面を目撃しているので間違いありません。きちんと再現性があることが証明できれば正式に学会でも認められるでしょうね。そしてこれは進化方法が未発見のポケモンについて同様に可能性がある。当然それは一通り調べてきました」

「で、その結果はどうだったんじゃ!?」

「博士、焦っちゃダメですよ。その前にお仕事の話です。この事実、公表すれば大発見になるでしょうが、実はこれを私と博士の共同での発見にして頂きたいんです」

「共同? 君個人ではなくか?」

「理由はあります。まずこれが最も大きいですが、はっきり言えば博士の名前を貸して頂きたいんです。私も実験などは入念にするので内容そのものには自信はありますが、無名の子供の発言など耳を貸す者はいない。そして半分あなたの手柄にすることで名前を借りる対価にして頂きたい。私はオーキド博士のことは人柄も見込んでお話しています。普通ならこんな発見誰かに言ったところで横取りされるのがオチですから、半分でも名前を出してもらえればそれで十分です。つまり私にとってはいわば保険。欲張って全部持っていかれるぐらいなら最初から半分渡しておこうというわけです。もちろん気休め以下の保険ですけどね」

「……君は15程に見えるが、子供とは思えんな。良くも悪くも大人びておる。そもそもこんなことただのトレーナーでは偶然見つけても正確な確証を得るまでは至らんはず。いったい何者なんじゃ?」

「これからはポケモン進化研究の末席にでも置いてもらえるといいんですがね。条件はどうですか? 口約束で十分なので了承してもらえれば他にも知っているものはすぐに教えさせて頂きますよ」

「口約束で十分ときたか。信用してないのかしてるのか。……よし、いいじゃろう。久々にいい話を聞かせてもらったし、ブルーの信頼する師匠じゃからな。その話乗った!」

「そうでなくっちゃ。じゃ、さっそく他にも挙げますよ。まず…」

 

 もちろんこの人の人柄は反則的な事情で知っている。だから無条件に信じられる。その上ブルーの口添えでここにきたし、横取りするようなマネをすればそれはマサラではみな知るところとなりここでは顔が立たなくなるだろう。

 

 また、当たり前だが本当に保険のつもりで半分手柄を差し出したわけではない。そんなこと考える人間がそれをベラベラとしゃべるわけないのは少し考えればわかる。これには色々理由がある。

 

 ひとつにはこれはアピールの意味がある。俺がバカな子供じゃないよと教えたかった。子供扱いされてそもそも話に取り合ってくれないという最悪のケースは避けたかった。なんも知らないと思われたら舐められるし、今後を踏まえてもよろしくない。

 

 そしてこの情報をこんなに安々とオーキド博士に叩き売りしたのにも理由がある。理由としてはこれが最も大きいが、正直発見した名誉とかその辺のことはどうでもいい。だから極端に言えば手柄は全部持っていかれたとしても構わない。

 

 もちろんあるに越したことはないが、本当の狙いは別にある。だが、あからさまに手柄はいらないという態度だと怪しまれる。だから半分は名前を残してほしいという姿勢は見せないといけない。いわばカモフラージュ。

 

「あと、特殊な通信交換の進化もあって、イワークとストライクはメタルコートを持たせると進化します」

「その2匹に進化先があるというのか!? いったいなんじゃ!?」

「片方はこいつです。出てこいアカサビ!」

「ッサム!」

「ハッサムか! なるほど、ジョウトのポケモンも可能性はゼロではなかったわけじゃな」

「そういうことです。もう1体はハガネール。これもジョウトですね。ここで最初の話に戻ります。野生では条件が別と言いましたが、おそらくそのポケモンが好んで生息する環境そのものが進化を促すのだと考えています。なのでハッサムの場合は野生ではジョウトでしか進化できないんでしょうね」

 

 これは推測でしかないがもちろん根拠はある。ジバコイルのようにこれに当てはまる、環境で進化する進化条件のポケモンは実際にいるからだ。そこまで教えるほどサービスする気はないけれど。

 

 このメタルコートによる進化方法を公表すること、これが真の狙い。判明すればメタルコートの高騰不可避。オーキド博士が言えば間違いないのだから、メタルコートは急激に需要が増す。昔、ほのおのいしなどが高騰した時のことを調べたがえげつない跳ね上がり方だった。

 

 メタルコートを取り扱っているのはシルフだけでその在庫も以前全て買い占めたから今は極少。俺はほのおのいしの時を超えるような高騰を引き起こす気でいる。

 

 当然目的から考えれば言うべきはハッサムの進化方法だけで十分。それは承知だが、発見の過程としては先にゴローニャ達が来るのが自然な流れ。ならそっちも報告するしかない。そして1体でも教えれば残りのフーディンとか、メタルコートならハガネールのこともすぐに調べがついてしまう。だからキングドラやポリゴン2など他の特殊な道具が必要なポケモン以外は先に全て教えておいた。出し惜しみする意味がないから。

 

 そもそも、はっきり言ってこんな知識持っているだけでは何の価値もない。金になるならさっさと使ってしまうに限る。

 

 大事なのは俺がカントーにいる間に高騰してもらうこと。そのためにはとにかくオーキド博士の名前を借りることが最も重要。それさえクリアすれば後はどうでもいい。

 

「なるほど。そう考えると筋は通るわけじゃな。よし、至急今名前の出たポケモンを取り寄せて検証に入ろう。わしの方でも確認がとれたら論文をまとめて学会へ正式に提出しよう。おっとそうじゃ、君は連絡のとれるものはあるかな?」

「そういえば通信機器は持ってないですね。……携帯とかってあるんでしょうか?」

 

 携帯というもの自体がなかったら変な事言う人間になってしまうがそれは存在するみたいだった。

 

「そうじゃな。明日わしがそれも用意しておこう。それで何かあった場合は連絡をとって貰おう」

「わかりました。ありがとうございます。勝手がわからないので助かります。ただ、こちらもポケモンリーグに出るので論文をまとめるのは早めに済ませてくださいね。その前なら基本的にいつでも連絡はとれます」

「うむ、そうじゃな。よし、それを考慮して事にあたろう。君の功績は必ずわしが正当に評価されるように努力する。期待していてくれ」

「ありがとうございます。丸投げするような形になるのにそこまで言ってもらえるなんて感謝の至りです」

「いやぁ、なんのなんの。ブルーも世話になっておるし、これだけの発見を提供してもらえばお釣りが来るほどじゃ。この新たな切り口は後進の研究者にとっても大きな役割を果たすじゃろう。間違いなくこの分野の発展に大きく貢献できるはずじゃ」

 

 すごいな。何気なく言ってるがこの人は研究全体の利益を考えているんだな。このレベルの人になると個人の功績がどうこうという次元はすでに超えているのかも。俺にはわからない感覚だな。

 

 そして話は上手くまとまりいよいよ最後になった。

 

「ありがとうございました。また機会があればお話を伺いに来てもいいですか? 最先端の話が聞けて非常に勉強させて頂けるので」

「ははは! わしのような老いぼれの話で良ければいくらでも構わんぞ。君は本当に熱心じゃが、研究者になる気はないのか? トレーナーとしても優秀なのはバッジの数を考えれば十分わかるが、全く惜しいもんだのう」

「さすがに本職の人には勝てませんよ。やはり自分にはバトルの方が水が合います。また何か発見があれば伝えさせて頂きます。では今回の件、よろしくお願いしますね」

「たしかに任された。経過は追って連絡する。今年のポケモンリーグには出れそうなのじゃろう? リーグはわしも見ておるからしっかりと頑張りたまえ」

「もちろん。リーグはぶっちぎりで優勝しますよ」

 

 話もそこそこに研究所からブルーのうちに帰ってきた。うちに入るとみゅーが玄関で待ち構えていて、俺を見るとすぐに飛びついてきた。待ちきれなかったのか?

 

「みゅーみゅー!」

「おっと! どうした? まさかずっとここで待ってたのか?」

「気配がしたからここに来たの。外に出たらダメだからここで……」

「あー……そうか。かわいいとこあるじゃん。いいつけ守って偉くなったな。ご褒美に今からけづくろいしてあげようか?」

「みゅ!? うんうん!!」

「みゅーちゃん……またあれやってぇ……たんないのぉ……」

「いっ!?」

 

 突然奥からフラフラしながらヤバイ状態のブルーが現れた。何があったらこんな短時間でここまで様変わりするんだ。しゃべってる内容も何かヤバくない?

 

「んみゅ? またー? 仕方ないの……こっちきて。じゃあ入れるからね。みゅみゅっと!」

「んんー!! キタキタキター!! ブルーちゃん復活ッ! 体力満タン! ゲンキハツラツ!」

 

 それだけ言うとすぐに戻っていった。なんだったんだ……。

 

「ブルーは家事の手伝いですぐにあんなふうにぐったりしちゃうからみゅーがいたみわけで体力入れてあげて何回も元気にしてあげたの」

「みゅーってホント便利だよな」

 

 様子を覗くと掃除洗濯などを徹底的にやらされていた。ブルーはムダに動きがせわしない。目をグルグルさせて、あれじゃすぐバテるな。

 

「ねーねー、みゅーおなかもすいたの」

「あっ、そうだな。じゃ何か俺が…」

「待ってください。それなら今日は私がごちそうしますよ。レインさんはゆっくり寛いでいってください。ブルー、あんたは一緒に来て手伝いなさい」

 

 話を聞いていたようだ。戻って来たことを伝えてなかったので軽く会釈してから答えた。

 

「いいんですか? じゃあお言葉に甘えて、その間みゅーのけづくろいしてようか」

「みゅふーっ!」

「いいなー。わたしは手伝いなのに」

 

 しばらくするとぐったりしたブルーが呼びに来て、晩御飯を御馳走になった。団らんなんてこっちに来てから初めてのことで、料理のおいしさ以上に心が温まった。ところどころ変な形の具材があったのはご愛敬。

 

「みゅー、ご馳走様。とってもおいしかったの。ありがとう」

「はい、お粗末さま。みゅーちゃんはお行儀が良くて偉いわね」

「みゅみゅ。全部レインが教えてくれたの。もうお箸も使えるの」

「みゅーちゃんは幸せ者ね。さて、レインさん、お風呂はどうしますか。もうわかしてありますが」

「みゅー! お風呂いきたい! レイン、早くいこうよ!」

「あら、ふたりは一緒に入るの?」

「そ、そうしてもらえるとありがたいです」

「じゃあ私達はその後にしましょう。ゆっくりしてくださいね」

 

 微笑ましい、という感じで見送ってもらえたがまぁギリギリだな……。みゅーも早く一人立ちさせないと。風呂から上がってブルー達のところに行くと、親子2人で何かしゃべっていた。

 

「お、噂をすれば。どう、湯加減は大丈夫でしたか?」

「いい湯加減でした。な、みゅー」

「うん。気持ち良かった」

「ブルー、次お前も入ってこいよ、旅の疲れが癒されるぞ」

「うん……」

 

 どうしたんだ? 俺の方を見て急に顔真っ赤にして。俺は当然もう服も着ているし、赤くなる理由がないんだが。

 

「気にしないで。良かったらブルーが入っている間、旅のことを教えてもらえないかしら」

「ええ、まぁいいですけど」

 

 この人ブルーが変な理由なんか知っているな。でも聞き出すのも面倒だし、ブルーがおかしいのはいつもだから気にすることでもないか。

 

 その後は旅の話のはずがなぜか俺がブルーをどう思っているかとかブルーはどこがいいとかやはりブルーの親だからなのかブルー絡みの話に何度も脱線した。ちなみにみゅーはまたジュースをおいしそうに飲んでいた。

 

「あーさっぱりした。お母さん、あがったわよ」

「じゃ、あとは3人でね」

 

 今度はいつもと同じ、ブルーと3人か。ゆっくり顔を合わせて喋る機会は意外と少ない。たいてい喋るのは歩きながらだし食べている時はみゅーに気配りしている。

 

「あの、シショー、ちょっと話があるんだけど」

「なんだ? あっ、みゅー! ストローでブクブクするな! 行儀悪い!」

「だって、おもしろいもん」

「あの、ちょっと聞いてよ!」

「あ、悪い悪い。で、何?」

 

  ストローを摘まむとそのままぷっくりとほっぺが膨らみ不満顔になるが、ストロー遊びを諦めてまた勝手におかわりを入れておいしそうに飲み始めた。

 

 ブルーは大事なことなのか真剣そうな顔をしている。改めて言うとややしゃべりにくそうにしていた。なんかごめん。ちょっとはフォローしてあげよう。

 

「ぐっ。いや、それはその、つまり……わたしってほらっ、一応弟子だし、感謝してて、尊敬とかしてるから……シショーのこと好き、なの。だから…」

「改まって、いきなりどうしたんだ? そんなの知ってるって」

「えっ! ウソでしょ!?」

「みゅー。みゅーもレイン好きー」

「ん、ありがと。俺もだからね」

「あ、そういう。そうじゃなくて、だから……」

「わかってる。ブルーが俺に対して言葉にしなくても感謝していることも、尊敬してくれていることも。今日料理とかして苦労して思い知らされて、さっきお母さんにお礼を言えとでも言われたんだろ。どうせそんなところだろ? 様子変だったし。別にいいよ。これからもちゃんと何でもしてやるから。無理して手伝いまでしようとしなくていい。それに、感謝しているのは俺もだから」

「え? なんで?」

 

 これは本心だ。ブルーには感謝している。感謝っていうのは理屈じゃないって今まで生きて来て初めてわかった。いっつも散々苦労させられて、振り回されっぱなしだけど、それでも一緒にいるだけで嬉しい。

 

 それにブルーの気持ちもわからなくはない。感謝はしていても、それを当たり前に受けて生きていると、改めてお礼を言うのはとても難しい。頭でわかっていても出来ないことってやっぱりある。こうして口にしてくれるだけでも俺には十分だ。

 

 それに、恩義を感じているなら俺ではなく別の誰かに返してほしい。ブルーにもきっと導いてあげるべき誰かがいるはずだから。

 

「俺もブルーがいて毎日楽しいから。こうしてしゃべることも、色んなことを教えるのも、バトルすることも、冒険することも、全部が俺にとってかけがえのない思い出。最初は独りで生きようって思っていたのに、今じゃ考えられない。ありきたりな言葉だけど、本当にありがとう。これからもよろしくな」

「あ……あうぅ。これからも、す、末永く、よろしくおねがいしましゅ」

「みゅーも!」

「はいはい、ホントにかわいいなーもう」

 

 ブルーは耳まで真っ赤だ。ちょっと最後に噛んじゃったからかな。こんなに人って赤くなるのか。

 

「ねぇ、本当に……ずっとそばにいてほしい。ずっと……どこにもいかないで」

「……」

 

 たった一言、どこにもいくなと言われただけで、それまでの幸せな気分はしぼんでいき、先への憂いが心の中を支配して熱を失った。どうしようもなく今朝海辺で蘇ってきた昔の事を思い出してしまった。ついさっきまでここからいなくなることを考えていたなんてとてもじゃないが言えない。ブルーの言葉に対しはっきりと答えることはできず、ただ沈黙することしかできなかった。

 

 俺が急に黙ってしまい不思議そうなブルーに精一杯の作り笑いで応え、ポンポン、と頭を叩いて離れた。

 

「みゅー、レイン? どうしたの、急に冷たい…」

「さ、今日はもう寝て、明日からまたジム巡りだ。しっかり休んどかないとな」

 

 それ以上言われるのがイヤで強引に話を打ち切った。……俺はブルー達とは住んでいた世界が違う。最初からずっと一緒なんてことはありえない。

 

「シショー……そうね。今日は早く寝ましょうか」

「みゅー」

 

 幸いにもブルーにそれ以上は追及されなかった。潮の香りを思い出しながら、夢の間だけでもその記憶に浸れるように祈りながら眠りについた。

 

 ◆

 

 次の日、3人で一緒のベッドにすし詰めだった上、みゅーの寝相が悪かったりしたせいで起きたら体勢がすごいことになっていた。

 

 真ん中にいたはずのみゅーは俺の上に乗り上げていて、絶対逃がさないと言わんばかりに俺の顔を抱え込むようにして覆い被さっていた。息苦しくなかったのが不思議な状態だ。客観的に見て窒息死を免れたのは奇跡だろう。それぐらいガッチリつかまれていた。

 

 ブルーは俺の心臓の辺りに顔をうずめてぴったりとくっついていた。しかも左手が……恐らく掴みやすいところにあったからだろう……いつぞやのように首をつかんでおり、右手に至っては体の下に回り込み、心臓辺りを背中から鷲掴みしているように思えて、文字通り心臓がドキッとした……ストーカーに心臓握られて身動き出来なくなるのを連想してしまった。こいつらくっつき方が怖過ぎる。昨日あんなことを言われているし。

 

 恐る恐る2人を起こし、いつもしているけづくろいをしてみゅーの髪をといてきれいにし終わると、ブルーのお母さんに呼ばれて朝食を食べた。

 

「ねぇ、みゅーちゃん朝からものすごくきれいねぇ。その髪よくお手入れされているみたいだけど、自分でやってるの?」

「んみゅ。んっ。レインが」

「え、レインさんがしているの?」

「いつもポケモンの毛並みを整えたりするので慣れてますから。とっても喜んでくれるのできれいにしてあげるのが好きなんですよ。さすがにブルーにはしてないですけど」

「どうりで、ブルーがボサボサでこの子がサラサラなわけね。ブルー、あなたこれを見て何も思わないの?」

 

  みゅーの髪を褒められて嬉しくなった。自分が褒められたような気分だ。

 

「だって、めんどくさいし、わかんないもん。仕方ないでしょ」

「もう……ホントにあんたは! 女の子とは思えないわね。教えてもらえばいいじゃない」

「……」

「教えてもこればっかりは……」

「はぁ……もう~全くっ! でもみゅーちゃんはいいわね。こんなにきれいにセットしてくれる人がいて。服とかもオシャレしたらもっとかわいくなるんじゃないかしら。良かったらブルーのお古あげましょうか?」

「みゅー? お洋服くれるの?」

「……あ! それいい! ぜひください!」

 

 服を貰った後、雑談もそこそこにそろそろお暇することにした。ずっとお世話になりっぱなしというわけにもいかないし、まだ先は残っている。

 

「本当にもう行ってしまうのね。ゆっくりしてもいいのに。あなた達、気をつけて……無事に帰ってきてね」

「わかってるわよ。大丈夫だって! 次帰ったらわたしはチャンピオンになってるから楽しみにしていてっ!」

 

 善は急げ。心配そうに見送るブルーのお母さんに別れを告げた。ブルーはチャンピオンになると大言をはいたが、それは以前の空元気とは違う。実力に裏打ちされた自信に満ちた表情をしている。もう笑われることもなく、しっかり応援するからね、と言われて逆にブルーの方が目を潤ませていた。ブルーは頑張らなくちゃいけなくなったな。

 




いいこと言うときとわるいことするときの落差がすごい

メタルコートに関してはやってることが畜生なのはもはやいまさらですよね

野生だと進化条件が違う説は突拍子もないようで実はこれしかありえないんじゃないかと思っています
まあ“つうしんケーブル”を与えると進化するとかも考えましたが野にケーブルだけ落ちてるのも変ですしやめました
実際の設定もレインの予想と同じにするつもりです

(国外なので)どうでもいいですがマーイーカってどうやって進化させるんでしょうね
野生云々抜きで不可能な気が
どうするんでしょうか
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