今回は直接的にはないですが、この先残酷な描写はほんとにあるので注意して下さい
冒頭でいきなり集団リンチから入って直後人間バトルが始まった時点でお察しですけどね
そういう内容も少なからずあるので抵抗がある方は本当に注意
雲一つない快晴のある日。春のうららかな陽気に包まれ、のんびりとした町。そこで俺は町の空気とは似つかわしくない物々しい集団を引き連れて堂々と天下の往来を闊歩していた。
機は熟した。必要な3つのうちもう2つは手に入った。あとはただ1つを残すのみ。俺はとうとう最後の関門、トレーナーカードの獲得へ乗り出した。
ザッザッザ
歩く一団はタマムシにいた暴走族ほぼ全員。皆上半身裸に袖のない上着を一枚着ているだけ。しかも前がはだけている。髪は当然リーゼント。かっちり決まっている。そういやなぜかスキンヘッドは見ないな。
俺もこの集団に溶け込むために同じ服装を用意してそれを着込んだ。とはいえ全く同じ外見は嫌だったので髪はソフトリーゼント。服もタンクトップを一枚着て上着は袖付きだ。サングラスは黒に変えた。
「レイン、お前案外その格好サマになってるぜ。今日からずっとそれにするってのはどうだ? なんなら暴走族になってもいいぜ?」
「はぁ? こっちが願い下げだ。そもそもこんな不良みたいな恰好はあんまし好かねぇな」
「それを俺らの前で言うか? お前本当に毒舌だよな」
もちろんゴウゾウも冗談で言ったのだろう。それ以上は何も言わない。けどこの恰好が似合っているなんて心外過ぎる。下っ端共にも性格的に暴走族をやっている方が合っているとか普段の恰好はしっくりこないなど好き勝手言われた。それは遠回しに言っているだけで俺の性格が悪いってことだよなぁ?
当然好き勝手言っていた下っ端はバトルでわからせたのでもう何も言うことはない。こんな口をまだ利けるのはゴウゾウだけだ。
どうせこんなコスプレみたいなことするなら別のトレーナーの恰好が良かった。FRLGだと他にどんな奴がいたっけ。子供っぽいのとむさいのと澄ましてるのはなんとなくイヤだな。“もうじゅうつかい”とかいいかも。アメをちらつかせながらムチでバシバシいわせたい。今度服とかムチを買い足そうかな。
バカなことを考えていると町の中心地、ポケセンのある場所に近づいてきたみたいだ。通行人も増えてきた。大きな町の中でもこの集団は目立ちに目立っていた。そもそも暴走族は町の鼻つまみ者。嫌悪感を隠そうともしない者が多い。だが面と向かって口出しする者はいない。それも当然のこと。この連中に喧嘩を売れば相当な数の暴走族を敵に回すことになる。誰だってこんな面倒な連中に目を付けられたくはない。
つまり、これまで変装を強いられて帽子とか被って行動し俺の方が恐れていたが、今は逆に町の連中が俺達を恐れているってわけだ。この上なく愉快。やっぱ数の力は正義なんだよなぁ。戦いは数だぜ。
「この様子を見るとお前んとこは本当にすごい連合だったらしいな」
「さすがにあんた程ぶっとんでねぇがな」
「俺は普通だろ。アウトローのお前らに比べればなおさらだ」
「そういう問題じゃねーよ。1番ヤベーのは俺達全員をバトルで倒したアンタだ。けんか売るだけでもたいがいなんだけどなぁ」
「みたいだな。あいつら全員縮こまって遠巻きに見ているだけだ。これ以上愉快なことはない」
「……マジでここの奴らがキライなんだな」
俺達一行は大通りを西から進み東の広場にあるポケセン前で止まった。野次馬共が見守る中、先頭を切って自動ドアへ足を踏み出した。ウィーン、という機械音がして自動ドアが開く。そのまま奥のカウンターの方へ眼を向けるとジョーイが口を開けて大きく目を見開いているのが視界に入った。
顔色を注視するとジョーイは心底驚いたって表情だ。ゴウゾウもさすがにポケセンまで乗り込んだことはなかったらしいから、突然の招かれざる客の来訪は寝耳に水。ジョーイはいよいよ来るところまで来たと思ったのか、一瞬覚悟を決めたような真剣な顔つきになる。別に一戦交えようってわけではないんだが、そんなこと向こうは知らないからな。
堂々と中へ入っていくと後ろに控えている下っ端もついてきた。大勢いるから迫力はあるだろう。俺達が受付に向かうと重々しくジョーイが口を開いた。
「何か御用でしょうか」
“何か”だって? “何の”の間違いだろ。ジョーイの奴め、よっぽど俺達に来てほしくないらしい。
ジョーイは内心まだ驚きが収まらず、恐怖すらあったかもしれない。だが最初に表情を変えた以外はそんなそぶりは一切見せず、黙したまま集団の出方をじっと待つ対応を見せた。ひとまずここは合格ってところだな。
下手に騒いで俺達を刺激すればどうなるかわからない。こっちがまだ動かないうちはジョーイに許されるのは待つことだけ。受付としては逃げたくなるのも助けを呼びたくなるのもこらえて我慢するしかない。とりあえずは無難な対応。だが所詮は無駄なこと。さて、どうやって遊んでやろうかな。
「悪いなぁ、ジョーイさん。えらく驚かせたみたいでごめんねー。オメメまん丸になってたよ? 別に驚かす気はなかったんだけど、友達がついてくるってきかなくてさー。どうしても仕方なかったんだよ。そう、仕方なくね」
ジョーイはウソをつくな、と言わんばかりに表情をゆがませた。もう動揺を隠せないと思って諦めたのか表情を取り繕うのもやめたな。下手なことを言わずにこらえるので精一杯か。
「では、用件はあなたお一人ですか」
「まぁねー。ところでやけにさっきから俺に対して丁寧な物言いだけどさ、どうしたの? なんか全然感じが違うなぁ。らしくないねー。もしかしていつもはこんな風なのかな」
「え、ここに来たこと……」
「お客の顔忘れるなんて二流だよ、接客の基本でしょ。それとも、思った以上にお友達のことが気になってるの?」
「別に……いや、それよりあなた誰なの…ああっ!!」
周りの暴走族と同じようにかけていたサングラスを外すと、ジョーイは俺の正体にすぐ気づいた。
「髪型変えるだけじゃやっぱダメか。無駄だったなぁ。顔つきぐらいはさすがに覚えているんだね。このリーゼントダサいし後で戻そっと」
「お前…いだっ!」
ゴウゾウが何か言おうとしたのでひじで小突いて黙らせた。それを見ていたジョーイは声でゴウゾウの正体にも気づいたようで、俺がいきなり出てきたのにも驚くがそれ以上にゴウゾウを下につけていることに戦慄し、やや取り乱した。
「あなたは裏路地の浮浪児ね! いまさら何だっていうのっ?! それにこれ、どういうこと!? あなたこのゴロツキ共といったい何の繋がりが……ひぅぅ!」
ゴロツキ呼ばわりの上詮索を始めたので黙っていた暴走族達が動いた。全員で睨みを利かせてジョーイに無言で圧力をかけて黙らせた。ジョーイにしゃしゃられるとうっとうしいからな。話をスムーズにするためにもこいつらがいて助かった。
この暴走族の役割はもうひとつある。ジョーイに対し圧力をかけるだけではなく、周りの客に俺の正体が伝わらないようにカウンターの周りを囲わせバリケードにする役目だ。物理的にこっちの様子を見えなくしているのだ。強引な取引をするかもしれないし、人目には触れない方が何かと都合がいい。
「余計なことは言わないでね、ジョーイさん。お友達が黙ってないよ」
「あなた、通報しますよ」
ジョーイのあがき。しかしムダだ。
「通報? ジュンサーさんにかい? 残念だけど今日は忙しいと思うからムダだと思うけどなぁ。お前らもそう思わないか?」
暴走族に話を振ると全員ニヤニヤと笑い、それを見てジョーイが事態を悟り、ヒステリックに声を上げた。
「ジュンサーさんにまで手を回していたのっ!? どこまで卑怯な真似を!!」
「別に忙しいと思うって言っただけなのに、何をそんなに叫ぶわけ? ヒステリー女は嫌われるよ? やっぱりこじつけは良くないよね。うん、良くない良くない」
俺がそういうと周りの暴走族もそれに合わせて深々と相槌を打った。よくわかってやがる。ヒステリー呼ばわりされたジョーイは顔を真っ赤にさせた。
「白々しいことを……」
暴走族が近くにたくさんいる町なだけあり、ジョーイはこの手の類の相手にも慣れていたのですぐに手回しを考えた。だがこれは俺の仕組んだ罠。実は本当に手回しなどしていない。ゴウゾウらにとってはジュンサーを足止めするぐらい造作もないことだが、わざわざそこまでする必要はない。そう思わせるだけで十分だと俺自らが言ったのだ。
理由はあとで勘違いしたことをジョーイに知らしめて悔しがらせてやりたいから。ただそれだけ。絶対に引っかかると思っていたし、そもそもムダなことはしない主義だ。
嫌がらせのようにこんなことするのにはわけがある。最初から俺が村八分のようになっていたことにはこのジョーイとジムリーダーが深く関与していることをゴウゾウから聞いていたのだ。「ああ、孤児ってあの騒動のときの奴だったのか、ああ、お前さんが」といって孤児である身の上を説明した時にこのことをゴウゾウから聞き、嫌がらせをすることを即決した。
「そう冷たくしないでよ。こっちは話し合いに来てるだけ。安心していいよ。そっちから話をややこしくするような真似をしなけりゃ、こっちも何もしないさ」
当然これは脅し。ジョーイの耳には要求を飲まなければ暴力も辞さないとはっきり聞こえたことだろう。ジョーイの声は震えていた。
「まずはその用件を言いなさい。話はそれからです」
「おお、そうだった。忘れてた忘れてた。ごめんねーうっかりしてたよ。でもそんなに急かさないでよ、別に急ぐこともないでしょ? せっかちさんは嫌われるよー」
ただでさえこんな浮浪児の子供に何度もコケにされて頭にきている上、呆けた態度を続けられて我慢の限界が来たのか、普段は温厚なジョーイもプッツンキレた。
「いつまでふざけているつもり、いい加減さっさと……ひぃっ!」
だがそれも一瞬のこと。暴走族の一睨みですぐに縮こまってしまった。
「ごめん、よく聞こえなかったんだけど。さっさとなんだって?」
「だ、だから……さっさと話しをしてすぐに帰れって、んんっ?! それは、うそぉ……冗談でしょぉぉ。今何もしないって……」
あーあー。ビビってるなぁ。おもむろに下っ端共が腰ベルトのボールに手をかけたのを見てまた声が出なくなった。最後はかすれかすれの蚊の鳴くような声。
今ジョーイは窮地にいる。頼みのジュンサーもダメ。周りは暴走族に包囲されて今にもカウンターの奥までなだれ込んできそうな勢い。もうポケセン内にいた他の客は危ない空気を感じたのか触らぬ神に何とやらで早々に退散していた。孤立無援。まさに四面楚歌の項羽さながら。自害まで秒読み待ったなし。最悪の展開が脳裏をよぎったのかみるみる泣き顔に変わった。
「何、怖いの? もしかして泣いてる? ねぇ泣いてるの? なっさけないなぁ」
「だ、誰があなたの前で泣くもんですか。1人だったら何にもできなくて、ろくでなしの親すらいなくなったみなしごのクセに!……図に乗るなぁ!」
「……」
せめてもの意地なのか、ジョーイは今までで1番はっきりと強い口調で言い切った。俺にとっては何の意味もない言葉、そのはずだった。だがこの体は違う。俺が来る前のことも、その記憶はしっかりと刻み付けられている。
「そう。簡単に折れてしまったら面白くないもんね。でもさぁ、あんたのその顔見てるとどうにも抑えがさぁ……」
「え……」
「おいレイン、どうした? 何かヘンだぞ?」
この感じ、いったいなんなんだろう。さっさと話をまとめて退散しないと騒ぎを見つけてジュンサーが来るかもしれないっていうのに、このまま感情任せに暴走族のポケモンをけしかけて、本気でこのジョーイをポケモンのえさにしてやりたいと思ってしまった。体の奥の方がぞわぞわして自分のものではないかのように心が落ち着かない。
「いま……らみ……らせて……いっそ…………とおもいにっ!」
「レイン、正気か!?」
「ちょっと、なに真に受けているのっ!? その目はしゃれにならない……」
カタカタッ
ん!? 今のはグレン? ボールが動いた。気がそがれて、さっきまでの変な感じが消えた。こっくりして頭をぶつけて急に眠気がなくなったみたいな感じ。本当にきれいさっぱりだ。俺は何事もなかったかのように言葉を続けた。
「なーんてね。さすがにいじめ過ぎたかな。今本気でビビってなりふり構わず逃げようって思ったでしょ? ねぇ図星でしょ?」
「なっ! さっきのも私をからかっていたの!? ぐぐぅぅ、くぅぅーっっ!」
ここで逃げられたら元も子もない。こいつは妙に意地張ってるところがあるし先にこう言われたらみっともなく逃げ出すことなんてできやしないだろう。
「レイン、もういいんじゃねーか?」
ゴウゾウが心配そうに声をかけてきた。別に時間ならまだ大丈夫だろ。まぁ失敗したらややこしくなるし早めに済ませるに越したことはないか。
「しゃーねぇ。もう少し遊んでやりたいがそろそろ本題に入ってやるよ。用件は別に大したことじゃない。俺がトレーナーになろうと思ったんで、ちょいと書類仕事をしてもらいたいのさ」
「あなた口調が……それより、ふざけないでっ! あなたのような人間がそんな資格あるわけないでしょう! 戸籍も実力もなんにもないのに!」
「友達ならたくさんいるけどね」
「くっ、やはりそういうことね。でも、いくら私を脅してもちゃんとした戸籍のないあなたじゃスクールには通えない。誰かに推薦状でも貰わないとトレーナーカードの許可は降りないわ」
水を得た魚だな。侮っているからこそ、俺じゃトレーナーなんて無理だと思っているのだろう。さっきまでとは違ってえらく強気なこと。
「じゃ、その推薦状があれば作ってもらえるんだな?」
「で、でも、この町であんたにそんなもの書く人なんかいやしないわ。諦めることね」
「それはどうかなぁ。実は持ってんだよな、推薦状。ほらよ」
推薦状を投げて寄越すとジョーイは驚きの声を上げた。
「これは……! 鉄橋のおじいさん!? 確かにあの人は町の功労者で推薦資格を持っている。でもあの人は頑固で簡単にこんなもの書かないし暴走族も毛嫌いしていたはずなのに、何がどうしてこんなこと……」
「そんなことは本人に聞きなよ。ずっと橋にいることだしな。それより言質は取ってんだ、いいからとっとと書類を作れ。それがあれば出身とかは適当に作っとけばいけるはずだ」
悔しそうな顔をするが、さっきのことは相当な恐怖だったのか、こちらの様子をチラチラ何度も見ながら渋々書類を取りに行った。
「レイン、お前さっきのはなんだったんだよ。本気で
「ゴウゾウ、ちゃんと事前に話をしておいただろ。問題起こすとまた橋を締め出されたりするから脅すだけにすると言っておいたはずだ。お前まであの泣き虫と同じように俺に騙されてどうすんだよ」
「あ、あれはマジで演技だったのか!? やっぱりあんた人を騙す天才だな」
「お前程の奴に言われるとは光栄だな。あの見栄っ張りをいじめた甲斐があった」
適当にごまかしつつムダ話をしながらジョーイをけなしていると本人が戻ってきた。
「リーグ登録の許可は降りました。ですがトレーナーへの優遇措置のいくつかは制限されます。回復や依頼の引き受けは利用できますが宿泊施設その他付属のフリーサービスは一切利用できません。それでも本当によろしいんですか?」
ジョーイにとっては最後の抵抗。みなしごの浮浪児と思ってずっと侮ってきた俺への嫌悪感からどうしても認めたくないわけだ。ここまでくるとむしろ大したものだ。よっぽど認めたくないのだろう。「よろしいですか」とは言わず、わざわざ「よろしい
「それならやっぱりやめとこうかな……とでもいうと思ったか! バーカ、このトレーナーカードさえありゃこっちのもんだ。すぐにチャンピオンにでもなってこの町が俺にした今までの仕打ち全て後悔させてやる」
「どこまでも反抗的ね。いいわ、勝手に出ていきなさいっ。せいせいするわ! 用が済んだなら早くここから出て行って!」
カードを投げて寄越し奥へ逃げるように去っていった。それを指で挟んで受け取り一言。
「トレーナーカード……ゲット」
これで3つ。俺の前に立ちはだかる全ての障害が取り除かれた。俺をこんな目に合わせた元凶はあと1人。そいつに片を付ければこんなところはさっさとおさらばできる。もうあと少し。あと少しで全て終わる。
着せ替えはUSUMをやりながら考えました
これを書き始めてからUSUMをやり始めちゃいまして……
ずっと読み進めると後書きの方で作者がいつUSUMに憑りつかれたかわかります
着せ替え要素はその後に書き直した形になります
ただ服装の描写に関してはファッションに疎いのでどうしても雑です
項羽は漢文やると必ず出てくるので有名ですよね
敵になった旧友に首を差し出して自害する奴です
つまり投了待ったなしをちょっと四面楚歌になぞらえただけです
ブチギレて小声になったときに言っていた内容は
「いまならうらみをはらせてしまう。いっそ……ここでひとおもいにっ!」
まるで人が変わったようですね