アカサビの頭を撫でていると放送が入ってきてこれからなんやかんや始まるらしいことが告げられた。
興奮冷めやらぬ雰囲気の中、まず試合後のインタビューが始まった。勝利インタビューってやつね。会場のボルテージは最高潮。アカサビのアピールはいい感じ。
『いやぁ、すごかったですね。レイン選手、実に素晴らしい勝利でした。我々には圧勝したように思えましたが、実際どうだったんですか?』
何その引っかかる物言いは。ど、どう見ても圧勝に決まってるやろうに。こっちは作戦通りなわけやし。……麻痺とかはもう振り返りたくもないなぁ。触れないでおこう。
「今回はアカサ……ハッサムの力で圧勝しましたね。準決勝、決勝と強敵が続きましたが共にハッサムのおかげで勝てたのでもうハッサムには感謝しかないです。本当に強くていつも助けられています」
『最後はハッサムと抱擁を交わすシーンもありましたよね。これまでは淡々とクールに勝ち進んでいた印象だったんですが優勝して何かこみ上げてくるものがあったんですか』
「……あのときは思わず体が動きましたね。プライベートではいつもあんな感じですよ。別にクールな性格とかではないですし」
『意外な一面ですね。ハッサムと言えばカントーでは珍しいポケモンですがジョウト地方に行かれたことがあるんでしょうか』
「あれ、最近話題なのにご存じない? ハッサムはカントーで捕まえられるストライクから進化するんですよ。メタルコートを持たせて通信交換すると進化します」
『え!? ジョウトのポケモンに進化するんですか!? 初めて知りました。やはり日頃からポケモンのことには余念がないんですか』
「それはもう。ハッサムは捕獲が難しいですがストライクにメタルコートを持たせれば簡単に進化するんですから大変なことですよ。サファリゾーンに行くと簡単に両方手に入るそうですし、簡単に捕まえられて強力となればこれからハッサムを使うトレーナーは急増するかもしれませんね。ご覧のようにリーグであってもハッサム1体いるだけで6タテも狙えますから。尤も、マスターではこうはいかないでしょうね。そこでのバトルが本当の勝負になりますよ」
『というと、どういうことなんでしょうか?』
「今回は勝てましたが次にマスターで戦うときにはレッド、ブルー、グリーンは格段に強くなっているでしょうし、同じ手は二度と食わないはずです。次の対戦が楽しみですね」
『早くもマスターでのバトルについて考えているのですね。その意気込みはどうでしょうか』
「ルーキーの自分が勝つのは難しいでしょうし、先輩方にはお手柔らかにお願いしたいです……というのは建前で、俺相手にマスターのトレーナーがどれぐらいついてこられるのか、お手並み拝見というところでしょうか。まあ大した敵はいないでしょうが」
『え……あ、はい。それでは、今回の優勝について、今どんな気持ちでしょうか』
「ここまでは予想通りですね。なので特に思うことはないです。侮りはしませんでしたが、今の実力からいえば順当でしょうし。問題はマスターでどれくらいあの3人が強くなってくるか。それだけです」
『……マスターには四天王がいますが?』
「四天王の方は来年も同じ座についていたければ俺達4人のことはよく研究しておいた方がいい。軽い気持ちでいれば全員引きずり落とされるでしょうね」
『なんと大胆不敵! 早くも最強の四天王軍団に宣戦布告です! それでは、次はレッドさんにも話を伺いましょう。まず、今回の結果のついてはどうですか?』
「次は負けない。倒すべき敵の強さはもうわかった。マスターでは負けることはない」
『こちらもすでにマスターリーグにむけて闘志全開ですね。では四天王については』
「……まず倒すべきなのは今おれの横にいる奴。今日確信した。それさえ倒せれば最強に手が届く」
『……あ、ありがとうございました』
このインタビューは当然マスターの面々の耳にも入ることになり……。
◆
ポケモンリーグが終了して閉会式とやらも恙なく終わり、トロフィーやら賞金やらも進呈された。思ったより奮発されていたが、それだけこの大会が盛り上がっているということだろう。そして俺達は束の間の休息を迎えることになる。
閉会式の次の日、ポケモンを休めることも兼ねてこの日は1人でゆっくりセキエイ高原の周りを見ておこうと思い散歩していると、突然ブルーに呼ばれて祝勝会なるものに連れてこられた。すでに先客が待っているらしい。
「やっと来たな。おせーよ、ブルー」
「……」
打ち上げをする店には先にあの2人、グリーンとレッドが来ていたようだ。俺達4人で祝勝会ってことか。それならマサラ3人組だけでやればいいのになぜ俺まで呼ばれた? 俺がいても邪魔にしかならない気がするがどういうつもりなんだ? ブルーに引っ張られて1番奥の席についた。
「仕方ないでしょ、こっちもシショー捕まえるの大変だったのよ。ちょっと目を離すとすぐにふらふらーっとどっかへいっちゃうから。じゃ、気を取り直して……えー、おほん! それじゃ、今日はわたし達同期が揃ってマスターランクに上がったお祝いとして、焼き肉パーティーを始めます。お代は全部シショー持ちだからじゃんじゃん食べていいわよ!」
「ちょ、おい! 聞いてな…」
「よっ、さすが太っ腹! 気前いいなー!」
「ごちになります」
「優勝賞金たんまりもらっておいて、まさかここにきてケチ臭いこと言わないでしょ?」
「はぁ~ホントに調子のいい奴らだなもうっ! しゃーないな。わかったよ、好きにしろ」
しょせん俺は財布目的か。最初からどうせそんなことだろうと思ってたよ、ブルーだし。
「やった! さすがね(ね、やっぱりチョロイでしょ?)」
「よっしゃ、今日は食うぜ!(だな。ずっと一緒だっただけあってよくわかってるぜ。さすがブルー)」
「……(ブルー、ナイス)」
こいつら、まさか3人でグルか……? 今の示し合わせたかのような表情、怪しい。ちなみに昇格メンバーの発表は閉会式で一緒に行われて、俺達4人全員が選ばれてマスターランクに昇格している。
選考理由はあのレッドとグリーンの激戦の高評価と、それぞれに勝った俺とブルーは評価に値するという判断からだった。あんまり内容を見てなさそうな理由で思うところはあるが、選出自体は妥当なところだし文句もない。
箸も進み、いったん休憩モードかという頃にブルーが真剣な表情で話を切り出した。
「さて、そろそろ本題に入るわ」
「本題?」
「そう。今日集まったのは祝勝目的もあるけど、1番はシショーに聞きたいことがあったからなの。それを聞けるまでは今日は帰さないわ」
ブルーのこういう発言は女の子的にはいいけど、ストーカー的には完全にアウトなんだよなぁ。
……まさか始めに奥の席に押し込まれたのもそこまで考えて……俺は出口に最も遠い場所。あらかじめ赤と緑の座っていた位置からしてもう作戦のうちか。この3人ムダに連携力高い。
「なるほど。全部3人で協力して事に当たっていたわけか。打ち上げに俺まで誘うなんて変だとは思ったが、やっぱりどこまで行ってもお前らはバトルのことしか考えてないんだな。聞きたいことってのは当然リーグ戦の内容についてなんだろ?」
「話が早くて助かるわ。今日はおいしいものでも食べながら感想戦をしようってことなの。ほら、将棋とか囲碁の試合だとよくやるじゃない?」
さすがに財布目的だけで人を呼ばないか。そこは安心した。しかし感想戦とはポケモンでは斬新だな。あんまりそういうことするのは聞かない。面白そうではあるが……。ただ問題はその提案を素直に受け取るかということだ。
「それは名案……とでも言うと思った? 俺にとっては特に得るものもなく、むしろ1番の強敵になるだろうお前達にむざむざ種明かしをするだけ。リーグ期間に限っては弟子のブルーの誘いでもお断りだな。このままいけば同じ手でまた6タテできるんだから、こんなに楽なことはない。だろ?」
思ったことをバカ正直に言ってみると、みるみるブルーの表情が変わった。
「な……なんですって!? シショーッ、見損なったわっ! わたし達がなんにもわかんないからって初見殺しみたいな勝ち方で何度も勝って嬉しいの? 自分の誇りは傷つかないの? ねぇどうなの?!」
「お前は俺が勝ち方に拘る人間に見える?」
「……見えないわね」
すぐに表情は元に戻ってしまった。自分に正直なブルー、キライじゃない。
「おい! そこはウソでも否定しとけよ! ……レイン、オレはあんたのことは一応尊敬していたのに、そんなしょーもないこと言うんじゃがっかりだぜっ!……レッド、お前も何か言え! とりあえずなんかよぉーっ!」
「心配いらない。この人はしゃべる気満々だ」
「え? レッド何言ってるのよ。今断るって言ったじゃない」
「レッド、あのな? お前は面白いこと言ったつもりなんだろうが、全くボケになってねーんだよ」
グリーンは生暖かい目でレッドを見ているが俺には驚きだった。つい直接訳を聞きたくなった。
「ふーん、なんでそう思ったんだ?」
「見るからに話したそうにしている。あんたは強い相手と戦う時楽しそうなのが顔に出ている。つまらない相手だと興味もなさそうだから余計際立つ。そのあんたが今楽しそうに話している。今断って見せたのは建前……いや、ブルーをからかってみただけか。本当はバトルについてしゃべってみたいんじゃないか?」
「え……それマジ? というかわたしからかわれてるの?」
「お前、ボケじゃなかったのか……!?」
「ホント、かわいくねぇやつだな。ま、そこまで言うならそういうことにしてもいい。勝手にかけられた期待とはいえ失望されるのも心外だし。それじゃ、何を話す? 最初は俺とブルーの試合から検討するのか?」
「え、ホントにいいの? いやー、やっぱりシショーならそう言うと思ったわ。実は今日さっそく売り出されたBVを買ってきて用意してあるからこれを見ながらお互いの考えを確認してそれを全員で検討していきましょう。じゃあさっそく……まずは最初の選出ね。わたしはレーちゃんシショーがアカサビさんだったわね。あれはどういう意図なのかしら」
早口でまくしたてるように言い切り質問をぶつけてきた。急ぎ過ぎだろ、いくらなんでも。なんとしても俺から話を聞きたいんだろうな。
「そんなに焦らんでも急に気が変わったりしないって。あの試合はまず前提としてブルーと俺は互いに手持ちを熟知していた。だから俺は最初にフシギバナとラプラス、そしてソーナンスは絶対にないと思っていた。ハクリューも温存する可能性が高い。だから残り2匹に対応できるアカサビにした」
「なんでそいつらはないんだよ?」
すかさずグリーンが指摘してきた。この3人だとこういう役回りはだいたいグリーンだな。1番饒舌だし。
「こいつらは耐久力が取り柄。だから交換先に残したい。ブルーにとっては切り札的な3体でもある。ハクリューはお前がやられたように“りゅうのまい”からの突破力が凄まじいから、あわよくば俺から隙を作れた時のためにとっておきたい。天候変えたり“でんじは”まいたり何かと器用にこなせるし。あと、おそらくこれが最も大きかっただろうが、残りのピジョットとレアコイルは控えと交換できる“とんぼがえり”と“ボルトチェンジ”を各々使える。俺相手に不利になればすぐ逃げられる保険があるという安心感は捨て難いだろう。大事な試合なだけに余計な。もちろん俺がそう考えるのを見越して裏をかく可能性はあるが、大事な一戦だと思えば思う程、より無難で安全な選択肢を選びがちになる。ブルーはうかつな行為がどれだけ自分の首を絞めるかイヤと言う程わかっているからなおさらだ。だからピジョットかレアコイルのどちらかになるのは堅い」
「うう、全く以てその通りだわ。最後にそのどっちにするかで悩んだんだけど、ピーちゃんは練習でよく先頭にしたからやめたのよ。読まれそうな気がしたのよね。レーちゃんならいつも耐性を生かすために後ろにすることが多いし、ボルトチェンジの威力も高いから」
ブルーが渋い表情でそう言うと、ここでレッドが待ったをかけた。
「ちょっと待て。それならなぜレインは先頭をサンダースにしなかった? その方がピジョットとレアコイルの両方に相性はいいし、そもそもハッサムはいうほどその2体に相性がいいか?」
「……言われてみればたしかにそうだな。やいレインよぉ。まさかウソこいてオレらを攪乱する気じゃないだろうな? あんたならやりかねないよなぁ?」
鋭いな、レッド。大事なところは聞き逃さない。特に指摘されなければ言うつもりはなかったがちゃんと説明しておくか。グリーンも半眼で俺の方に疑いのまなざしを向けているし。
「くく、いやー悪い悪い。さすがに気づいたか。まぁその通りだな、サンダースの方がいい。だけど実際にはハッサムの方が俺にとってさらに有利になる。この辺が経験の浅いやつの考えなんだよな」
「ど、どういうことなのよ」
こういうのは実際にシュミレーションして見ればわかりやすいだろう。ブルーにどうなるか考えさせてみた。
「お前、最初にピジョット出して、俺がイナズマならどうするよ?」
「か、代えるわよ。んー、とんぼがえりで。最初が10まんボルトだったら痛いけど後ろを無償降臨できたら大きい。ピーちゃんは一発じゃやられないし」
「そうだな。あるいは普通に入れかえてもいい。その後フシギバナなりが出て今度は俺が不利。後攻とんぼなら後続は無償降臨だから、なおさらどうしようもない。結果、形勢はまだイーブンに近い。これがもしアカサビならどうする?」
「メインの虫技は半減。相性は悪くない。最初はつばめがえしで様子見ね」
「だろうな。俺はバレットパンチ。お互い被弾するだろうが、体力が半分を割るのはそっちだけ。そして次の攻防でピジョットは倒れる。バレットパンチは先制技だから当然こっちは最初の1発しか受けない。この時点で俺は1つリード。しかも、次出すやつにはとんぼがえりを使う。アカサビの強力なとんぼがえりでダメージを与えながら、また有利な対面を作れる。この時点で形勢は俺が圧倒的に有利だと思わないか?」
ミソは後者のパターンでは相手のポケモンを倒せるところにある。単に受け回す立ち回りより倒せるなら倒せるところでそうできれば大きなアドバンテージになるということ。死に出しがないのがここで効いてくる。
ブルーはどの技をどれだけ受けたら倒れるか正確に把握できないのも重要だ。体力のゲージが半分を割るようなことがあれば必ず交代するだろうがここじゃそんなゲージは存在しない。まず間違いなく見誤ってピジョットはそのまま倒される。まさか先制技2回で倒れるとは普通思わない。
同じことをグリーンも思ったのか、2回で倒れると断言したことについて疑問を呈した。
「おいおい、ちょっと待て。たしかにその通りなら有利になりそうだが、そもそも本当に2発で倒せるのか? そんなことやってみないと……」
「必ずだ。必ず倒せる。俺は常に後どれほどでトドメを刺せるか注意して見ている。それを見ることがトレーナーの役割だと思っているから。今までこの目測を間違えたことはない。ましてやブルーの手持ちなら何度も対戦しているしバトルの前から十分わかっている」
「ま、マジかよ。じゃあ何か、あんたはポケモンの体力の残りとか正確にわかるのか」
「それだけでなくどの技がどれぐらいダメージを与えるのか、とかも全て。信じられないなら、なんなら今試すか?」
「いや、やめとくぜ。あんたやっぱり仙人じゃねえのか」
「そういう意味じゃ、あながちまちがってないかもな」
「え?」
グリーンは置いといてブルーが質問を続けてきた。
「シショー、肝心のレーちゃんの場合がまだよ」
「それなら説明するまでもないだろう。実際にやって見せたはずだ。最初にイナズマを出す時と比較すると、お前の初手がでんき技になることを読んでバトンタッチした方が“ちくでん”できる分優勢になる。あれは回復だけでなく調子を上げる効果もあるから」
「この映像か。これは技で交代しているのか……。バトンタッチはどんな技なんだ? 単に交代するだけなのか? それだとほとんど無意味な技に思えるが」
レッドが映像を見ながら尋ねてきた。確かにもっともな質問だし、一般の認識もそれに近いはず。本当にこの辺りは研究が遅れている。
「いや、その通りだぜ。オレは覚える奴がいて使ってみたことあるが全く使えない技だった。交代先にそのまま相手の攻撃が当たるから、1ターンムダにするのと同じだ」
「ま、お前ら含め、世間のトレーナーのレベルじゃそんなもんだろう。バトンタッチの真骨頂はそこじゃない。現に役に立っているし。最も大きいのはバトンタッチは能力変化を引き継ぐ効果がある点だ」
「能力変化?」
「シショーがたまにやっているやつね。素早さを上げたイナズマちゃんにバトンさせて後続のすばやさを上げるってやつ」
「それは面白い発見だな。でもそんなまわりくどいことしてもたいして意味ねえと思うがなぁ。直接交換先のポケモンが自分で能力を上げればいい話だろ」
言いたいことはわかる。だが、能力を上げやすい特性“かそく”持ちのバトンや、起点を作れるポケモンからのバトン、さらに言えば“かるわざ”で先制して“ちいさくなる”を何度も積むバトンを知ればそんなこと言えなくなるだろう。そもそも本来能力を上げられない強力なポケモンでも無理矢理上げられるから強いんだ。そこに気づくかだな。脱線するからこれ以上深入りしないが。
「まぁそれはおいておこう。それで、“ちくでん”したイナズマとレアコイルの対面だな。ブルーから見ると有効打は全くないからイナズマに面倒な補助技使われる前にさっさと交換の一択。ここからチェンジならフシギバナかハクリューが出て来るのは間違いないだろう。残りは出しても俺が有利だから考える必要もないし。当然俺としてはこの場面こおりタイプの技である“めざめるパワー”を選択するのがセオリーだが、フシギバナの場合俺にとってやや不満な形。だから1回“あくび”を挟んでハクリューを呼びこんだ。“あくび”ならブルーから見て俺が交換先を読み切れてないようにも見えるだろ?」
今までの練習ではブルーの行動が読めている時には明確な有効打を打つようにしていた。だが本当に読めている人間には読めてないように見せることもできる。余裕があるからな。
「そんなことまであの状況で考えてたのかよ」
「にわかには信じがたいな……」
「でも実際その通りね。いけそうだと思って安易にリューちゃんを出したらまんまとめざ氷を受けちゃった」
「めざ氷?」
グリーンがなぜか俺の方を見て聞いてきた。俺はわざとわかりにくい言い方は避けていたがブルーはそういうことまで気にしないからな。
「こおりタイプのめざめるパワーのことだ。俺がいつもそうやって言うからブルーもマネしてそう言うんだよ」
「えへへ……何かいいじゃない、このめざ氷って響き」
「めざめるパワーを略して言うのかあんたらは……」
「使い慣れている……!」
グリーンには呆れられ、レッドからは鋭い眼差しを向けられた。レッドは露骨に警戒心を出しているな。どのタイプになるかわからないような技を日頃から使っているなんてレッドやグリーンの感性でいえば変人の類なのかもしれない。
……話を戻そうか。
「このとき、ハクリューへの交換を読んでいたのはもちろん、俺はハクリューの方ならめざパ2発で倒せると踏んでいた。だからここでまたブルーは縛られる。早々にハクリューを諦めるわけにはいかない。倒れても交代でも同じだから諦めてくれるなら俺はむしろ歓迎だが、さすがにこの場面ブルーなら交換しようとする。ブルーはまた交代を強いられる。しかも“あくび”を考慮するとまた安易にフシギバナを出せばいいという考えはできない。ブルーも何か考えて来ると思った。正直ここはどうくるか予想がつかなかったから、とりあえず“ボルトチェンジ”を使うことにした。何が来ても絶対に有利な対面を維持できるから」
「それであくびやめざ氷じゃなかったのね。別にそれでいいじゃないっ!」
ブルーもその辺の技はやはり意識していたのだろう。表情を見るとよくわかる。もどかしくて悔しい感じが見て取れる。
「ま、お前がそうしてほしかった時点で最善ではないな、その辺の技は。そうするだろう、そうなればいいと思うんじゃなくて、最悪を想定して立ち回らないとな」
「そんな細かいこと試合中の短い時間で考えるのはレインだけじゃないか? 選択や交換は基本的にノータイムで行うはず」
「だよな。やっぱりレッドでもそうか。もしかしたらなんかオレがおかしいのかと思ったぜ」
もちろんこの全てをあの時考えていたわけではない。ブルーは手持ちが分かっている上、努力値の配分まで俺が手伝ったんだ。戦う前にあらゆる状況を想定してかつ最善手の模索まで済ませていた。事前に研究済みということだ。ここまでは想定していた。
「で、わたしはソーちゃんを出したんだけど、あれはあくびのループを切りたかったの。しんぴのまもりでそれさえ阻止すれば交代でフーちゃんを出せば何とかできるから」
「なるほど。ラプラスもできるが電気が抜群だからそっちにしたのか。なかなか冴えている作戦だな。ただ“あくび”を意識し過ぎた。むろん俺がそう仕向けたんだが、1つに意識し過ぎると他の行動への対処が疎かになる」
相手の行動の誘導だ。今回はあまりに“ボルトチェンジ”が刺さっていたから思考停止気味にそれを使ったがその前にまず“あくび”を意識させて相手の行動を曲げたわけだ。
「んなこといってもこれは仕方ねーだろ。あくびはほっとくと眠るんだろ?」
「よく知っているな。ブルーから教わったのか? まぁこの場合悪いのは判断というよりブルーの手持ちの構成だな。そもそもブルーは全員イナズマみたいなでんきタイプとか催眠技持ちに弱過ぎる。だからそれを意識せざるを得なくなる。レッドならサンダースはカビゴンで簡単に倒せる。グリーンならサイドン。ブルーにはフシギバナがいるがあくびを踏まえるとやや分が悪い。交代時に“ボルトチェンジ”と“あくび”どっちも受けたらアウトだからだ。“あくび”は仕方ないとしても、せめて片方、でんき技だけでも無効にして消せるやつがいるとこっちも迂闊な行動はできないから五分の読みあいに持ち込めるがこれでは勝負にもならない」
ブルーは読み間違いが即負けになるからかなり不利だ。イナズマに対してソーナンスでは対面からでも“バトンタッチ”から“ちょうはつ”持ちにチェンジで負け。ピジョットとレアコイルは論外。ハクリューはめざパで確2。フシギバナはめざパなら受かるが“ボルチェン”と“あくび”がきつい。ラプラスもめざパなら受かるが10まんボルトとボルチェンとあくびがきつい。
あくびで対面操作して抜群技を当てるだけで簡単に全員確2圏内に持ち込んで射程に入る。これではさすがになぁ。
「……つまりどうころんでも“ボルトチェンジ”で簡単に有利な対面にされるし、“あくび”も止められないから厳しいってことね。じゃあ“ボルトチェンジ”を意識すると手持ちに1体はでんきタイプを無効にできるじめんタイプとかがいないとダメなんだ」
「おお、理解できたのか。そういうことだな」
「……もう何を言ってるかオレにはわからねぇんだが……」
「……」
グリーンは渋顔だな。レッドは恐ろしいまでに無表情。
「それじゃ、ソーちゃんとアカサビさんの対面でなぜいきなり“とんぼがえり”をしたの? まぁわたしの考えは素直に“ちょうはつ”は何となくなさそうな気がして、少し様子を見てたんだけど」
「その勘の通りだな。ちょうはつがソーナンスには強烈に刺さっているし、“とんぼがえり”があるから交代もしにくい。だからソーナンスとしては“しんぴのまもり”をするぐらいしかない。それを読んで“とんぼがえり”をしてみたんだよ。あんまりわかりやすい行動ばかりだと俺の行動もブルーに読まれるから一度裏をかいてみたわけだ。こういう行動を挟むと後々の読みを複雑にするし、万一カウンターをされてもダメージは回避できる算段があった」
そう言うと急にブルーが身を乗り出して俺に問い詰めて来た。俺の方は逃げ場ないんだぞ、こっちは角だから。
「それよ! それがわたしのどうしてもわかんなかったことの1つ! せっかくあの時は裏の裏をかく形になったのにどうしてカウンターがユーレイに効かなかったのよ! シショーをギャフンと言わせられそうだったのに! “とんぼがえり”は物理技だし“カウンター”できるわよね? できないの? 今この映像を見返すとカウンターの技そのものは出ているみたいだけど」
「何を言っている? “カウンター”はかくとうタイプの技だからユーレイに効くわけないだろ。相性の基本だ」
「え、ええっ!? それホントなの?! 知らないわよそんなの!! そもそも“カウンター”ってタイプとかそういう問題なのっ!? 攻撃技だけど、タイプとかそういうのはないものだと思っていたわ」
「オレも技については詳しいつもりだったが初めて知ったな」
「……そもそもゴーストタイプに“カウンター”を使う状況がなかなかない。これは仕方ない。知っているやつがおかしい」
レッド、それは遠回しに俺がおかしいって言いたいんだよな? 言ってることは正論だけどさぁ、あんまりな物言いだな。
「それじゃ次にいこう」
「そうね。ここでにっくきユーレイが出て来て恐怖の催眠地獄が始まったのよね。シショーって催眠かける時に獲物をじわじわいたぶるのを楽しんでる感じがしてほんっとヤダ」
「はぁ? 別に楽しんではない。ここで聞きたいのは体力が減っていった技の事だろ?」
「そうよ。あれ何?」
ものすごく不機嫌な声色でブルーが言った。散々苦しめられたしユーレイだけ呼び捨てな辺り本当にユーレイのことは畜生認定してそう。
「あれは“のろい”と言う技で、自分の体力を半分削る代わりに時間経過と共に相手の体力を減らしていく技。ゴーストタイプ以外だと効果は似ても似つかぬものになるが、今そのことはいいだろう。要するに“のろい”を受けた後4回程攻撃すれば体力満タンからでも倒れてしまう。リスクはかなり大きいがリターンも絶大。ただし交代すると効果が切れるという致命的な弱点がある」
「そんな技あるんだ。ゴーストタイプってとんでもない技使うわよね。交代で解除できるのは途中で気づいたけどホントに初見殺しよ! ラーちゃんなんにもできなかったってショック受けてたんだからっ!」
「それは悪かったな。後でラプラスには教えてあげなよ。何でも知っていそうなあのポケモンにもわからないことってあるんだな」
「いやいや待てよ! おかしいだろ! なんで半分も体力が減る技を3回も使ってるんだ?!」
何を言っているんだ? 本当にわからないのか?
「なんだ知らないのか? それは“いたみわけ”の効果で相手から体力を奪ったからだ。ほら、ここ見ろ。“いたみわけ”は使うと相手と自分の体力を同じになるようにやりとりする。要するに自分の体力が少ないほど多く体力を奪えるわけだ。“のろい”で自傷した直後や、“のろい”の体力が足りないときはその前に使っている」
「たしかにゲンガーが相手に触って何かしているな……。ゲンガーってそんないくつもヤバイ技覚えるのか。そもそもゴースト使いでもなきゃこんなの知りようがねぇしきたねーよ」
たしかに使用者が限られるポケモンの技だから知る機会は自ずと限定される。“あくび”を知っていて“いたみわけ”を知らないのはどうかとも思うが。
「大事なのは相手の体力は増やせないが自分の体力なら能動的に減らせる点。だから“いたみわけ”は自ら体力を削る技と相性がいい。“みがわり”や“のろい”で体力が1/4以下になるように調整して催眠で時間を稼ぐ間に“いたみわけ”も使い体力回復。一度“のろいが決まれば相手は勝手に倒れるから自分は地中に隠れるだけでいい。交換されたらまた繰り出し際に“あやしいひかりを当て確実に催眠を決めて同じループに入る。相手が一度も自傷せず2ターンで起きなければ延々とループが続く。ブルーはあっさりと破ってしまったが普通は抜け出せないだろう」
「ま、運も実力のうちだから。シショーはその辺が甘いのよねー。とにかく運の絡む要素に持ち込めればなんとかなること多いし」
それが必死こいて「起きてー!」を連呼していた人間の言葉か? 涼しい顔で得意げに言っているがブルーだって内心は穏やかではなかったはずだ。あんなにおっきな叫び声ずっと一緒にいた俺でも初めて聞いたし。
「ま、お前の数少ない取り柄の1つなのは確かだな。オレん時もドラゴンフィールドじゃなきゃわかんなかったし」
「あれは実力ですぅー! 勝手なこと言わないでっ!」
グリーンとブルーのいがみ合いが始まった。隙あらば喧嘩始めるよな。ホントに仲がいい。
「それより今はこの試合の検討だ。このループを脱出したのはいいがおれにはあっさりし過ぎているようにも見える。その後の展開も踏まえるとゲンガーには実は最初から別の狙いがあったんじゃないか? ブルーはこのとき難敵のゲンガーを倒して浮かれているがあんたの方はうっすら笑ってないか?」
「ここか……あっ!……これが裏の顔か。本性現したな」
「え……うわ、ホントだっ!? これまさに“計画通り!”って思ってる時のシショーの顔だ。どういうこと、ユーレイのループで全抜き狙いじゃなかったの?」
こいつら……。
「お前ら真顔で好き勝手言うな! まぁ確かに狙いはあったさ。最初から俺はアカサビの先制技の圏内まで手持ち全ての体力を削るのが目的だった。そもそも先制技で倒せるなら無傷で勝てるわけだから始めから体力をゼロにしなきゃいけない理由はない。そう考えるとユーレイでブルーの手持ちを万遍なく削り切った時点で勝ちは決まっていた。あの時俺が警戒していたのは唯一体力が丸々残っていた“フシギバナ”だけ。体力が残っているあいつにアカサビが負けることだけ危惧していた」
「ウソつけ! あんたフシギバナと対峙してラッキーって言ってるじゃねぇか!」
「そもそもなんでサンダースからハッサムへ交代した?」
矢継ぎ早の質問攻勢だな。ツッコミの速さが尋常じゃない。対戦相手だったわけでもないのによく見ている。
「1つずつ順番に答えよう。まずアカサビへの交代はダメージの負担をなくすため。序盤はイナズマでの全抜きとか色々バリエーションがあるから違うが、この時点だとアカサビがほとんど全員を射程圏内に入れているからこいつの体力温存は重要度がかなり高くなる。怖いのは不意の“きゅうしょ”とかでいきなり倒れてしまうことだけだから当然だろ? そして1体倒すことさえできれば後続はさらに倒しやすくなる。もし出て来たポケモンに素早さが負けていても先制技でトドメを刺せるから。あるいは隙を見て交代際につるぎのまいを使って攻撃を上げることもできる。上手くいけば倒す度にどんどん攻撃力が増していく。これがどれだけ恐ろしいかわかる?」
「能力変化って上限ないのか?!」
「上限はあるがお前らが思っているよりもっと上だ。そしてこの場合大事なのは最初の1体を倒すこと。なので最初は体力の少ないやつが来てほしかった。だからフシギバナが来た時内心は運がないと思っていたわけだ。だけどブルーから見ると話は違う。俺はずっとブルーには有利な相手と戦うようにすることが大事だと散々教えたし、そのことを十分理解している。だからこのときもそれに従って交換してしまった。普通ならフシギバナはハッサムに対して圧倒的に不利だから。実はこれは明確なミス。この時はフシギバナは突っ張ってアカサビを倒しにいかないといけない。もちろんダメ元には違いないが確率がゼロか低いかの問題だから」
結局こっちがしているのは負け筋を1つずつ消す作業。最初に大幅にリードしたから中盤ですでに大勢は決していた。このときブルーは数少ない勝ち筋を取りこぼしたわけだ。
「ここか。つまり、あんたにとっては唯一負ける可能性があるやつが出て来たが有利なフリをした……ブルーは完全に乗せられていたのか。ホントにくえねぇなぁ。こんときもわりぃ顔してるぜ」
「あの白々しいセリフがハッタリだったの!? 演技上手過ぎ……」
「これが人を騙すときの表情か」
「さっきから冗談か本気かわかりにくいコメントをするな。特に赤と緑。とにかく、ここでアカサビがレアコイルを倒した時点で勝負アリだ」
「でもこんときまだワンチャンはあったでしょ!? ここなんで最初“みがわり”なのよ!」
お前は実際に“でんじは”を使っていたんだから自分が1番よくわかっているだろ。まさにそれを危惧していたんだよ。
「説明いるか? 逆に俺がここから負けるとすれば攻撃技より先に使えて状態異常にできる“でんじは”を受ける以外にある? お前のレアコイルが“でんじは”を覚えているのは最初に見た時からわかっていた。ちなみにフシギバナへの“つばめがえし”は他の奴はもう簡単に倒せたから考慮する必要がなかっただけ。読みとかじゃない。さて、これでもう聞きたいことはないだろ?」
「あ、そっか……。聞きたいことはまだあるわ。なんでこことかこのときとか何回もフライングして指示をしたのよ? わたしはだいぶ助かった面もあるからいいけど、それでもちょっと屈辱的よ」
フライング? 言われてBVを見ればブルーがポケモンを出す前にユーレイへ同じ指示をしたり出すのに合わせて行う技を先に指示して使わせたりしたところを指していた。
「これも1つずつ見よう。最初のこれ、ずっと同じパターンのみがわりとあやしいひかりから入っていたのはバレていても特に問題はないから。ユーレイの行動が早ければ早い程いいのでそれを優先したまでのこと。実際お前はわかっていてもどうしようもなかったろう?」
「たしかにそうね。逆に焦ったり腹が立ったりしたかも。どうせそういうのも織り込み済みなんでしょ?」
「そういうこと。で、レアコイルを出す前にみがわり以外の技を相手の繰り出しに合わせて使うように言ったこの場面。そもそも、レアコイルを出す前お前はフシギバナかレアコイルかで迷っていただろ?」
「んー……あっ、そうね。この時はもう体力が残っていて攻撃を2回耐えられるのはその2体だけだった。シショーならいきなり“きあいだま”とかも使ってきそうで怖いから迷ったのよ。出した直後は避けにくいからシショーは出し際にきあいだま当てるのすっごく好きだし」
“きあいだま”は命中に難アリだからな。できるだけ当てやすい場面で使いたくなる。そこまで考えていたのか。慎重になっているブルーなら催眠ループ中でもゲンガーの攻撃技まで気を配るとは思っていたが、俺のクセまで考慮しているとは思わなかったな。こっちも読まれないように気をつけないと。
「ここで俺はレアコイルの方を出してほしかった。アカサビで全員倒すことを考えた時、より厄介なのはレアコイルの方だ。だからそっちを出したくなるようにわざと先に指示を出した。これできあいだまの可能性は消える。フシギバナは有効打がないので出しにくいから喜んでレアコイルを選ぶはずだ」
「レーちゃんを出すように仕向けられていたなんて……」
「このときにはもうすでにハッサムで全抜きする展開を見越していたのか。なんでそんな先のことまで考えてるんだよ……」
「……計画的犯行」
レッド、ボソッと言っても俺には聞こえているからな。いや、わざと聞こえるように言っている気もする。
「結局わたしはなんにもわからないままずっといいようにされっぱなしだったのね。頭ではそうなんだろうなって思っていたけど、全部はっきり言われるとちょっと堪えるかも」
「それじゃ、とにもかくにも、全部ブルーが甘かったから負けたってことか。ちゃんと全部読み切っていれば案外簡単に勝てたんじゃねぇの?」
「はぁーっ!? 無茶言わないでよ! ここまで徹底して負け筋消してくる人をどうやって欺けってのよ! だいたいあんたはわたし相手に簡単にりゅうまい決められて全抜きされたくせに、りゅうまいされたあんたにだけは言われたくないわよ! わたしはシショーとの試合では能力変化はずっと警戒してたんだからっ! 実際最後以外はされてないし。あっさりりゅうまいのあんたとは違うのよっ!」
「うっせーっ!! 黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって! りゅうまいりゅうまい言うな!」
「りゅうまいりゅうまいりゅうまいっ!!」
子供かよお前は……そういえば立派な子供だった。じゃ仕方ないな。
なんだかんだと付け足したりしているうちに長くなって分割しました
最近だいぶ間隔が空いているので察しているかもしれませんが、今後はかなり遅くなりそうな気がします
次話はともかくとして、次の章は始めるのが半年後とかになりそうな気も……(弱気)