「とにかく次にいこう。丁度りゅうまいの話になったしブルーとグリーンの試合も見ておくか? 俺は関係ない試合だけど」
「わたしこの試合はめっちゃ調子良かったのよねー。すっごく冴えてた」
さっきまでとは表情が一転、笑顔がこぼれた。この試合は終始ブルーのペースだった。自分の力が最大限に発揮できていたし、実力そのものまで底上げされているように俺の目には見えた。バトルを通じて高みに昇っていくような感覚。自分にも心当たりはある。
BVを立ち上げるとレッドはじっくりと見ていた。俺はリアルタイムでも見ていたが、レッドは見てなかったのかもしれない。考えてみれば普通自分の決勝戦の前にのんびり他人の試合なんて見ないか。
「最初はどちらもピジョットか……」
「なんだ、レッドは見てなかったのかよ? オレはピジョットにはかなり自信があったからこいつで最初においかぜを使って最初から全力で畳み掛けるつもりだった。この場面なら同じピジョット同士なら素早くなれば確実に勝てるし、なおさらおいかぜを使おうと思ったわけだ。交代ばっかりされて結局おいかぜはあんまり意味なかったけどな」
「わたしは前の試合と同じね。この技、とんぼがえりですぐ逃げられてしかもピーちゃんはすっごく速いから先発にはピッタリなのよ。グリーンなら読まれないし。ピーちゃんはこんなところで体力ムダにできないから当然わたしはとんぼがえりで引いて圧倒的に有利なレーちゃんにチェンジね」
ブルーの思考が完全に役割意識だな。すっかりそういう考え方が染みついている。
役割というのが何かじっくりと考えてみよう。
ピジョットはむし・くさ・かくとうなどに有利で、ブルーの手持ちだとそいつらはピジョットで倒すことが前提になっている。だからその辺がいるかもしれないうちは有利でも不利でもない相手、いわゆる役割関係にない相手と不必要に戦って体力を浪費できない。
理由は簡単。仮にその役割のない相手、この場合だとグリーンのピジョットをブルーのピジョットで倒せたとしも、そこで体力を大幅に消耗してしまう。その結果本来倒せるはずだったむしタイプなどにピジョットが負けてしまうと、そのむしポケモンは残りのポケモンでは対処しにくくなってしまう。ブルーはバランスが良くてタイプとかのダブりがないから必然的にそうなる。
例えばグリーンはFRLGだとヘラクロスとか使っていたが、ピジョットが倒れるとブルーの残りの手持ちでは止められない。だからそういうことを最初から想定するとピジョットは温存、ひこうタイプはでんきタイプのレアコイルで勝負することになる。
これに則ればお互いに交換を繰り返すこととなり、その延長がよく言うサイクル戦になるわけだ。だから役割を意識すると必然的にサイクル戦になってしまう。
「2人の考え方の違いが出ているな……」
「グリーンは素早さ重視でとにかく目の前の敵をタイマンで倒すことが中心で、ブルーは交換で相性を活かして手持ち全員で戦うスタイルだな。対極といってもいい」
「交換なんて基本ムダだろ? タイプの弱点を技で補うことも多いから読まれたりすると1発余計に受けるだけになって不利なはずだぜ?」
「でもあんたこの試合ではどんどん不利になっていったじゃない。そういうのはトレーナーの腕次第なの」
「ぐ……たしかにそうだけどよぉ、なんかこの試合納得いかねーな」
ブルーとは打って変わってグリーンは不完全燃焼だな。ほとんど自分の思うようにいかず、実力を出し切る前にブルーに押し切られた形だ。モヤモヤするのはわかる。
「とにかく順番に見ていけばわかる。この後はどうだ?」
「オレは交代だ。さすがにレアコイルには何もできねーし」
「わたしは交代先にどの技使うかちょっと迷ったわ。ボルトチェンジを使いたいけどじめんタイプに止められて相性まで不利になったら最悪だから無効にされないラスターカノンを選んだの」
ブルーはたった1戦でホントに変わった。もし電気技を使っていれば負けたのはブルーだった可能性も高い。ここでミスしなかっただけでもブルーの実力の程がうかがえる。
俺は黙って聞きに回っていると3人でどんどん話を進めていった。
「ブルーの判断が良かったな。しかもこの技は大ダメージだったように見える。ドサイドンはかなり防御も高かった気がするが相性が大きいか」
「オレはこの後が全然わかんねぇ。お前なんでいきなりピジョットに入れ替えた? ドサイドンに相性最悪じゃねーか」
「あんたが何にも考えずにじしんを使ってくると思ったから入れ替えたのよ。ダメージゼロなら時間だけ稼げるでしょ?」
「そりゃたしかに時間は稼げるがリスクがデカ過ぎだろ!」
「それだけ自信があったんだろ。この後のまもるとかもおいかぜが切れるのを待っているのか?」
映像を見ながらレッドが尋ねるとブルーは得意げに答えた。
「そうよ。わたし効果が持続する技の継続時間は感覚でわかるのよね。だから“おいかぜ”がなくなる瞬間を狙って逆襲してやろうと思って狙っていたのよ。まもるでタイミングを調整して効果が切れる瞬間にレーちゃんと鉢合わせるようにしたのよ」
「ブルーがそこまで考えてたのか!? うっそだろおい……ホントは偶然だったんじゃねーのか?」
グリーンはブルーがそこまでしたのが信じられないのか疑わし気だが、注意してブルーを見ていればイヤでも気づくことはある。
「それはない。まず偶然なら魔法が解けるとか言わないし……自信たっぷりの表情から見ても狙っていたのは間違いない。それにラスターカノンを使った後わざと声に出して“もう一押し”なんて言っておいて、しゃあしゃあと自分はすぐに交代している。明らかにじしんを誘った上で安全に交代しようとしている。その後のまもるは焦りを誘ったり時間稼ぎ目的もあるだろうが、グリーンの様子見も兼ねていたはずだ。一度裏をかかれると次から変にその裏をかこうとする奴もいるからな。相手の性格を分析してグリーンの行動を読み切った上で交代に踏み切っている。これはただ危ない橋を渡っているのではなく、最大限勝つ可能性を高めた上での賭けだ」
「あーあ、全部お見通しか。シショーにはかなわないなぁ。なんでわたしの考えがそこまでわかるの?」
「……ブルーは自覚ないのか?」
「どういうこと?」
やり口というか、性格的な部分でもどことなくブルーは俺に似てきている。自分ならどうするか考えればそれがそのままブルーの考えることになる。一応シショーだし目標になるのはいいけど、この感じだとブルーの性格まで変わりそうで微妙な気分になる。自覚はないみたいだから余計染まりやすそう。
「魔法が解けるっていうのはなんのことだ?」
「え? あー、それは今度シショーに聞いて。次はわたしがボルトチェンジで逃げてまた有利な対面になったわね」
「このボルトチェンジとかとんぼがえりってのは威力は大したことねーがチョロチョロ手持ちに戻って交換されるのがウザ過ぎるんだよ! オレだけ一方的に不利なままじゃねーか! どうしたら良かったんだよっ!」
話が変わって今度はグリーンが“ボルトチェンジ”へ文句を言った。まぁじめんタイプがいないと対処しにくいよな。今回はともかく、この技は読みで相手の交換先に合わせて行動できさえすれば基本的には互角以上に戦える。ただし“ボルトチェンジ”自体に火力がないし、交換は強制だから下手に使うと後続が攻撃を受けきれないこともありえる。思考停止で使える程甘い技ではないし、結局なんとかしたければ読みのレベルを上げるしかない。
「さぁねー。どうしようもないんじゃない? この後はラーちゃんが出てきてグリーンは渋々交代ね」
「……なんだこれは。一撃必殺を連発してないか?」
ポチポチ早送りをしながらレッドは先を見ている。常に倍速で試合を見ているがそれで内容が頭に入るのか?
「どう思うレッド? こいつふざけてるとしか思えねーよなっ! こんなむちゃくちゃな戦法が許されていいのかよ?!」
「……なまじブルーが強運なだけに始末に悪い」
「ちょっと! これは運任せじゃないわよ!」
「ホントかよ?」
「……これはひどい」
「シショーッ!」
2人から責められて黙っていた俺の方に助けを求めてきた。自分で説明すればいいだろ。別にいいけどさ。
「俺が説明するのか? まずブルーがグリーンの出すポケモンを正確に見切っていたのは間違いないだろう。くさタイプが来ることを読んで最初は効果抜群のれいとうビームで削り、次にグリーンが苦しくなってやむを得ずカメックスを使おうとすればブルーはそこへ付け込むようにぜったいれいどに切り替えている。完全にカメックスが出て来るタイミングを見計らっている」
「そうそう! そういうこと!」
「……容赦ないな」
「なんでオレのカメックスはいつも一撃必殺ばかり受けるんだよ!」
「耐久力が高いポケモンは一撃必殺とか補助技を絡めて倒すのがセオリー。まともに正面から攻撃して崩そうとはしない。逆にそうした手段で崩されるのは目に見えているわけだからそれらへの対策をグリーンも用意しておくべきだな。ちなみに“みがわり”なら両方対策できる。回復技がないのがネックだけど」
「みがわり……?」
「あっ、たしかにそうね。そう考えると案外便利ねー。ラーちゃんにも覚えさせよっかなー」
その感想を持つのはずいぶんと遅過ぎない? 今まで俺と一緒にいてブルーは何を見ていたのやら。散々何度も見てきたはずなんだけど。
「……その後は?」
「その次、フーディンまでぜったいれいどでいったのは調子に乗ったようにも見えるが、ラプラスがぜったいれいどの調子がいいと判断して上手くリードしているともとれる。一撃必殺は使う回数が重要だからラプラスとはマッチしているし悪くない戦術ではある」
「やっぱシショーはわかってるわね」
ブルーはうんうんと頷いているがここからはダメ出しもあるからな。
「ただし、この後フーディンのトリックを受けてオロオロしていたのはいただけないな。たしかセキチク辺りで俺が教えたはずだが」
「それは……ちょっとドわすれしてたのよ」
「お前はヤドンなのか?」
「ぶーっ! シショーひっどーい! だってあんな重くていらない道具押し付けるような使い方初めて見たんだもん!」
“くろいてっきゅう”は投げつけてくる奴は見たことある気がするが“トリック”するのは意外と見ないな。デメリットが重いから仕方ないが。補助技なら割と素早さ関係なくすぐ使えるこっちの世界ではマッチしているのかもしれない。
「くろいてっきゅう、か」
「オレが考えた戦法なんだぜ? けっこう効果的だろ? 相手の動きを半減させつつ道具も取れるから一石二鳥なんだなこれが」
「それもいいが、よくあるのは拘り系の道具のトリック。あれは同じ技しか出せなくなるから持っていると基本的に攻撃技しか使えなくなる。補助技メインのポケモンなどに押し付ければメリットは生かせず重い枷だけ残る。トリックしなくてもフーディンならこだわりメガネを持たせれば恩恵を受けることもできるから無理にトリックを最初に狙わなくてもいいという利点もある」
「ああっ! こだわりスカーフとか色々あるあれのことか。たしかにデメリットはポケモンによってはかなり重くなるが自分はメリットだけを活かせる……なるほどなぁ」
グリーンは今の説明でわかったのか。理解するのが速いなぁ。道具や技の使い方は3人の中でグリーンが1番上手い。
「……他には?」
「かえんだまとかを押し付けるのも面白い。カントーにはいないが、ほのおタイプでトリックを覚える場合、自分はやけどにならず相手だけトリックしてやけどにできる。おにびと違い確実に当てられるのがいい。あるいはわざと自らやけどになることでまひやねむりにならないようにすることもできる。フーディンならやけどしてもほぼデメリットはない。逆にやけどになればねむりごなを恐れずフシギバナとかを倒せる」
「ああっ!」
「……他には?」
「特性が“ぶきよう”だと道具の効果を一切受けない。最初に補助技を使った後こだわりスカーフなどを相手に押し付ければ意表をつくことができ、そこからバトンタッチ等につなげれば相手の対応が遅れて一気に有利になるかもしれない」
「はぁっ!? なんだそりゃ!? つか、そんなことできるポケモンいるのか?」
「知ってる範囲だとシンオウにはいたな。あと国外にもいる」
ミミロップが“すりかえ”を覚えるんだよな。ここなら技の上限はない。“こうそくいどう”で先手を取れるようにしてからタイミングを見計らって相手の技を固定し、“コスモパワー”や“みがわり”を“バトンタッチ”すればいい。
イッシュではココロモリが“トリック”を使えて“おいかぜ”もある。最初に“おいかぜ”で素早さを上げ、同様に“トリック”を使った直後に相手の攻撃で倒れたら理想的な展開だな。
「なんで他の地方のポケモンのことまで知ってるんだ?」
「あれ? そういえばシショーってたしか……」
「……他には?」
レッド、さっきから合いの手ばかり入れてくるが言ったら言っただけ俺が答えると思ってないよな?
「今はもう思いつかないな。ねらいのまとやきょうせいギブスなど露骨にデメリットだけの道具はいくらでもあるが、トリックできなかった場合を想定すると積極的に持たせたくはない。自分が持つとメリットにできて相手にはデメリットを押し付けられるのが理想だな」
「あー、そういえばそんなことを昔ポケセンでシショーから聞いたかも」
「ブルー、よくこんなこと聞いて忘れてたな。オレならすぐに試してみたくなるぜ、こんな面白い話聞いたらよぉ」
「……馬の耳に念仏」
ヤドンじゃなくてポニータなのか。レッドって意外と毒舌なところがある気がする。一言で急所を突くから怖い。
「ぐぅぅ……仕方ないじゃない。それより、その次の技は何? なんで急に技が出なくなったの?」
「これは“かなしばり”っていうれっきとしたポケモンの技の効果だぜ? 直前に相手が出した技を出せなくするんだよ。1つしか封じられないから使いにくそうに思えるが、使いようによっちゃけっこういけてるんだなぁ、これが。ま、オレぐらいの天才じゃねーと使いこなせねーが……」
「あ! そういえばシショーがユーレイに使わせていたわね。あれかぁ」
「……ブルー、また忘れてたのか」
「別に大した戦術でもないと思うけど」
レッドと俺はつい思ったままを口に出してしまった。
「……」
「……」
グリーンとブルーが意気消沈。
「ブルーはもう少しお勉強した方がいいな」
「は……反省してます。でも、その次にソーちゃんでナッシーをキャッチしたところは上手かったでしょ?」
「たしかにあれは俺から見ても惚れ惚れする手際だった」
「あれはいったいなんていうポケモンなんだ? オレは見たことなかったんだが」
「……おれもない」
「無理もないな。使われること自体ほとんどないだろうし、まともな育て方しているやつに至ってはブルーぐらいのはずだ。全国的に見てもな」
「ブルーってけっこう育成も上手いんだな。意外だぜ」
グリーンの感心した声に気を良くしてブルーは自慢げな表情に変わった。
「まーねー。ソーちゃんはね、攻撃技を覚えなくてカウンターとか攻撃を跳ね返す技で相手を倒すポケモンなの。そのために技を固定するアンコールとかも覚えるのよ。特性のかげふみで交換できなくするから決まれば確実に相手を倒せるわ」
「おいおいっ! 今サラッと言ったが交換できないってマジか!? やべーだろ! だいたい知らないとわかんねーし!」
やけに驚いているがさっきの検討でソーナンスが出た時は話を理解してなかったのか?
「耐久力もありそうだし厄介だな。鉢合わせた時点で逃れる術ナシか」
「それが案外そうでもない。攻撃技がないからちょうはつで何もできなくなるし、攻撃しなければ反射もできないから絶対にダメージを受けない」
「あーっ!! 勝手に弱点バラさないでよ! 次も同じ手で罠に嵌めようと思ってたのに!」
さすがにこの発言には耳を疑った。あのさぁ……。
「お前、ついさっき俺に対して自分が言ったこと忘れたのか?」
「そうだぜブルー。そもそも今は検討する時間なんだから弱点も考える必要があるだろ」
「あんたは都合いいからって便乗すんな!」
「それはいいが、まだ疑問がある。なんでブルーはすぐにカウンターを使わなかった?」
言いたいことはわかるがそこは“ミラーコート”ね。物理技とかの認識がないと大変だな。むしろカウンターとミラーコートを使えば簡単に物理と特殊の分別ができるのか。研究が進んで学術的に定義をはっきりさせるようになればその定義に使われそうだな。『物理技:カウンターが適用される技の総称』みたいな感じになるのだろうか。
「あ、リーフストームはカウンターじゃなくてミラーコートじゃないと反射できないわよ」
「お前、使い分けとかしてるのか。使い分けがあることも驚きだが」
「当然でしょ。で、わたしがそのミラーコートを使わなかった理由だけど、それは簡単。せっかく自分から能力を下げてくれているのだから、倒さずに生かしておいてりゅうまいを積む時間を稼ぐ方がわたしにとってプラスでしょ? ナッシー1体倒すことよりリューちゃんの能力を上げて一気に全員倒す方がいいもの」
“アンコール”まで使いこなせるのは現時点では間違いなくブルーだけだろう。起点にできたらとことん付け込んでいじめ倒すのはトレーナーなら当然のことだ。
「生かさず殺さずか……」
「こりゃ完全に悪の手口だな。たしかに言われてみればそうかもしれねーが、そんな考え方することがもう悪の組織の一員だよな。普通は目の前の敵を早く倒すことしか考えられないぜ? とんでもないワルの発想だな」
「えーーっっ!? 違う違うっ! わたしまでシショーと一緒にしないでよ!」
「……」
必死に首振ってそんなにイヤなのかよ。俺が悪の組織なのは大前提なんだな。これに関しては相手のミスや隙は見逃さないというだけのこと。むろん悪の手口とかは全く関係ない。言ったら余計何か言い返されそうだから黙っているが。
「こん時のりゅうまいしてるお前の顔、バトル中は気づかなかったが活き活きとしてるよな。これは完全にレインと同じだな」
「……すでに染まっている」
「冗談よね!?」
もう俺にもどこまで冗談なのかわからない。
この前実際にミミロップにとつげきチョッキを渡されてびっくりしました
“すりかえ”自体が補助技やないかいっ!
一見矛盾しているので驚きますよ
ゴツメカバで受けに行って見事に嵌りました
ちなみにヤドンは“ドわすれ”を覚えます