Another Trainer   作:りんごうさぎ

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先に謝っておきますが……
全国数百万人のエリカさんファンの皆さん、ほんとにごめんなさいっ


若干指数計算の話があります
一応冒頭の「0.ぼうけんの じゅんびを しよう」でも説明はしています
簡単な実用例は後書きにもつけましたので合わせてどうぞ

アナライズ中の略称は

 個→個体値
 努→努力値
 実→実数値

の意味です(再確認)



8.憎しみの根は深く 復讐の蜜は甘い

「やったなレイン。あとはジム戦してとうとう出ていくのか。お前なら案外すぐにチャンピオンになれるかもな。今年のリーグ中継は楽しみだ」

「中継なんてあるのか。そういやジムにもややっこしいランクシステムがあるらしいな。ジョーイには説明放棄されたし教えてくれ」

「なんでそんな基本的なことを知らねぇんだ。知識に偏りあり過ぎだろ」

 

 そう言いつつもジムへ向かう道すがら、ゴウゾウは一から教えてくれた。なんだかんだこいつとも仲が良くなったな。橋から戻った後3人組からの信頼も上がっていたし、なんだかんだこの町にも縁はあったか。そう考えると悪いことばかりじゃなかったな。まあ出ていくことへの迷いはつゆ程もないが。

 

「っておいわかったのか?」

「簡潔にまとめろ。長ったらしい」

「かあーっ! 人が親切で教えてやってるのによ! まあ長ったらしくて面倒なのは同意するけどな」

 

 ……自分の理解をまとめて一度整理してみるか。

 

 ランクとは挑戦者のレベルに合わせジム側が手加減するための制度。勝てば挑戦者のランクが上がっていき、そのまま受けられる依頼の難易度の目安にも使われる。

 

 ジムリーダーはランクに合わせたくさんのポケモンを用意する必要があるため専門タイプを持つのが普通。ジムはポケモンの育成や弟子の育成のため国から援助を貰って経営されている。

 

 ポケモンを多く育てられることが強者の証と聞いていたが、そのトップがジムリーダーというわけか。そして初心者が本気のジムリーダーに勝てるわけがない以上ランク制度は当たり前といえば当たり前だ。ここはすんなり理解できる。

 

 ランクは、例えばバッジ4つならランク5、依頼もランク5まで受けられて、挑戦するジムのレベルもランク5になる。ズレてるのがややこしいが、バッジを持たない最初がランク1になるように調整したとか理由はあるらしい。

 

 また使用ポケモンはジムの経済状況(はっきり言うと貧乏なら少ないなど)やチャレンジャーとの戦闘でレベルが上がりポケモンの数が薄くなったなどの理由でジムごとに変動するらしい。ランクごとのジム側のレベル制限は統一されており、それが特定のランクの層が薄くなることに繋がる。

 

 レベルは判別する道具もあるがジムリーダークラスだと見ればレベルはわかるらしい。そこもジムリーダー選考の基準の目安になっているとか。ゲームの謎がいろいろ解けた気分になり、聞いていて割と面白かった。 

 

 実際、レベル一桁でジムリーダーやっていて本気ですとか言われたら任せた人間の方をまず疑う。……改造ピジョン使ってるお前のことだよ!                

 上限は次のようになっていて、4と5の間に隔たりがある。ランク8の45は目安で、実際は守るのが難しいなどの理由でバラバラらしい。

 

 RANK   1  2  3  4  5  6  7  8

 CEILING 10 15 20 25 35 38 41(45)

 

 この隔たりはゲームでいえばエリカとナツメ(あるいはキョウ)の境界線。ライバルも一気に強くなる大きな壁だ。こっちでも同じで、ここを超えられるかどうかがエリートトレーナーと副業トレーナーの差になるらしい。

 

 副業トレーナーというのは「釣り人」「格闘家」などの草トレーナーの総称らしい。つまりプロ志向かアマかの違い。しっかりしたトレーナーでなくても誰でもポケモンを1体は持つ程バトル人口は多いが、この壁を越える者は一握りらしい。だからゴウゾウが敵なしで、橋の番人が凄腕と言われていたってわけだ。

 

 実際レベル30で成長が頭打ちになるケースが多いらしく、格下では経験値がなかなか稼げないので格上に勝てないと伸び悩むらしい。エリートって本当にエリートなんだな。

 

 そんな中なんとかバッジを8つ集めるとリーグランクに上がり(つまりランク9は存在しない)以後ずっとリーグ参加資格を得る。毎年数人しか増えないが失効がないため蓄積するので結構ランカーはいるらしい。

 

 ここではリーグはトーナメント式で上位何名か(毎年変わり、審査員の絶対評価で決まるらしい)がマスターランクに昇格する。そして今度はマスターズリーグなるものに参加できるようになるらしい。そこに四天王とかはいるようだ。ジムリーダーもマスターランクの者から選ばれているようだ。

 

 ずいぶん長い話だが結局やることは同じ。バッジ集めてリーグをクリアすればいいだけ。話は軽く流して目の前のジム戦に意識を切り替えた。

 

 ◆

 

 話を聞く間にジムには着いた。このジムは入ることがある意味最大の難関だった。もしものために顔の利くゴウゾウを呼んだから今度は大丈夫と思いたいが果たしてどうなるか。

 

「おい、誰か出てこい、ジムへの挑戦だ」

 

 声をかけるとしばらくしてミニスカートが出てきた。

 

「あーっ! あんたまた来たのっ! トレーナーカードがなけりゃダメって……ゲッ、暴走族!」

「それならある、この通りな。こいつは気が短い。機嫌を損ねると手が付けれねぇ。待たせないでおとなしくそこを通した方が賢明だと思うがどうする?」

「え、エリカ様ァ!」

 

 叫びながら奥に逃げ帰った。勝手に入らせてもらうか。ゴウゾウがデタラメ言うなって目でこっち見ているが無視した。でも今の慌てっぷりは傑作だったな。ふと横に目をやると、ジムの看板が目についた。

 

「ジムリーダーエリカ 自然を愛するお嬢様、か。笑わせる。この町じゃ自然より廃液とベトベターがお似合いだ」

「言うことは尤もだがよく知ってるな。町の奴らはほとんど知らねぇのに」

 

 やっぱり認識あるのだな。ベトベターしかでない水面はゲームにもあった。つくづく碌なところじゃないな、タマムシは。

 

「情報操作か? ここは碌なことしてないな。エリカも、こんな植物育てる暇があるなら生きている人間の方にもっと気を配ってほしいもんだ。犬公方じゃないんだから」

「……? ジムリーダーはジムの経営が楽じゃねぇから副業持ちがほとんどって話だ。人によってはリーグにも出ないとか。普通のマスターランクの奴らはほとんどポケモンバトル専門で稼いでいるらしい」

「ふーん。そんなもんなのか。ん? 受付に誰もいない。奥にいったあいつが受付だったのか?」

 

 奥に進むとフィールドがあり、そこに眠そうなエリカがいた。

 

「あらあら、もう来ましたか。ごめんあそばせ。わたくしったらどうやらぐっすり眠っていたみたいで、あなた方がいらしていることに気づきませんでしたわ。わたくし、良いお天気の日はお昼寝すると決めているものですから」

「!!?」

 

 なんなんだこのふざけた発言は? 挑戦者をなんだと思っている? なめてんのか? おいリーグ運営! ここに職務怠慢がいるぞ! こいつのふざけた日課のせいで俺は今まで入れなかったのか! 許すまじ……!

 

 俺が視線で人を殺せたらエリカは死んでいただろうが、そんな俺の殺気には気づく素振りすらない。さらにあろうことか見当違いな発言をした。

 

「あら、あなたもお眠いのですか? 目が細くなっていますわ。本当に今日はよいお天気ですわねぇ」

「てめぇ……!」

 

 それはあんたを睨んでいるからだこの船漕ぎ女! いちいち癪に障る奴だ。 

 

「お、落ち着けレイン!」

 

 ゴウゾウの取り成しで引き下がったがこいつには目にもの見せてやる。気づけばミニスカートはトンズラしていなくなっていた。

 

「それで、ジム戦に来たんですわね?」

 

「ああ、最初にそう言ったはずだ。今はどっかに行ってしまったミニスカにな」

「ジム戦……いいですわ。ただし!」

「な、なんだ?」

 

 それまでぽわぽわしていた奴が急にはっきりした口調になるので何か大事なことがあるのかと身構えたがその内容に拍子抜けした。

 

「わたくし、負けませんわよ。全力でお相手しますわ」

 

 今のは少し、いや結構、むしろかなりイラっと来た。こいつ、「ジムリーダーの役割わかってんのか?」と小一時間問い詰めてやりたい。あんたは勝ち負けじゃなく相手の実力を見極めるのが仕事なのにどうしてこんな発言が出てくる? バカだな、こいつは。1番周りに害をなすタイプのバカ。

 

 それに……こいつとは会った時からずっと体の奥から負の感情が抑えきれずにこみあげてくる。それも自分の意思などとは無関係に。

 

 最近どうもおかしい。自分の体なのに自分のものではないみたいだ。厳密にいえば自分のものではないしあながち間違っていないが……。おかしな感覚が徐々に自分自身をむしばんでいって、時折鋭い痛みが走る。拒絶反応という言葉が何となく脳裏に浮かんだ。もう何がなんだか……。

 

 思い出せば、最初の頃は人の目を見ただけで悪感情に押しつぶされそうになったり、肩をつかまれただけで気分が悪くなったりして体がおかしかったが、ここまで心がざわつくのはそれ以来だ。しばらく忘れていたイヤな感覚だ。

 

「ぐぅぅぅ、苦しい……」

「おい、お前大丈夫か?」

「早くトレーナーカードをお出しになって」

「くぅ……わかってる。ほらよ、トレーナーカード」

 

 体調は最悪だが根性で耐えながらトレーナーカードを出した。ああもう、さっさと仕事しろ! いちいち優雅に振る舞おうとしなくていい! 時間のムダでしかない! こっちは頭おかしくなりそうなほど苦しんでいるんだよ。少しでも早く動け!

 

「……あら、ここが初めてのようですわね。ではランク1でお相手致しますわ」

「ちょっと待て、俺はランクの引き上げを希望する。上げるのは構わないだろ?」

「確かにそうですが、あなた最初の挑戦でいきなり上げるなんて変わっていますわねぇ。ランクひとつ上げるだけで一気に難しくなりますわ。本当に上げてしまっても大丈夫でしょうか」

 

 のほほんとした声にイライラする。いちいち言葉を絞り出すのも億劫だ。

 

「勘違いするな。俺はランク2なんかじゃ歯ごたえがなさ過ぎて満足できねぇ。MAXまであげてもらう。ランク8を用意しろ」

「ええっ?! 何を言ってますの、ランク8はわたくしの全力ですわ! 意味がわかって言ってますのっ!? そもそも規定でランクは上げても7までと決まってますし、どちらにせよ認められません」

「7まで? 全力の相手は最後だけってことか。ゴウゾウ聞いてないぞ、ちゃんと言え」

 

 早くここを出たくてイライラしていた俺はやつあたり気味にゴウゾウのせいにするが、ゴウゾウには逆にたしなめられた。

 

「こっちも聞いてねぇよっ! いきなりランク8からとか何考えてんだあんたっ!? さすがに少しは自重しろ! 負けたら意味ないだろうが!」

「あなた、なぜこんなことをするのです?」

「さすがに駆け出し相手にレベルが上のポケモンで負けたら堪えるだろ? あんたを叩き潰してやれば、少しは今までの恨みも晴れようってもんだ」

「恨み? あなた誰ですの? わたくし何かしましたか?」

「何も知らないことこそ1番の罪。無知こそ最も重い大罪なんだ。俺はあんたらが何もしてくれなかったせいで保護もされず路地裏へ捨てられた孤児さ」

「え……まさか、あなたがあの時の。……わたくし、手が回らなくて心配してましたが無事みたいでなによりですわ」

「無事? 無事だと? ふざけるなよ。こっちはゴミだめみたいな腐った場所で、この町の影を今まで見続けてきたんだ。表面上はきれいだが、中はベトベターと廃液まみれ、町には怪しい組織の影も見え隠れしている。もう限界まで来てるぜ、この町は。いまにも淀みが溢れてくる。そんな場所で俺はまともな扱いじゃなかった。記憶も過度の暴力で失った。全て俺は失い一度死んだようなもの。無事なわけねぇだろっ……!」

 

 気づいたら言葉が堰を切ったように溢れ出して止まらなかった。憎しみが膨れ上がり俺の背中を押す。まるで自分じゃない誰かが俺の口を借りて訴えかけているようだ。恐ろしい感覚だな。……だが、完全に頭に血がのぼり苦しさを忘れることができた。そして苦しさが消えたことに気分を良くしていた。

 

「あなた、あることないこと好き勝手に言ってくれますわね。でも、わたくしはあなたのことなんて知りませんわ。勝負は手加減しませんわよ」

「上等だ。手加減したなんて言い訳されたくないからな。お前がどの程度の実力か試してやる。がっかりさせるなよ」

「本気でランク7に勝つつもりですの? まあいいですわ、一度身の程を教えて差し上げましょう。初心者を導くのもわたくしの務めですから」

「今のうちにほざいてな。さっさとポケモンを用意しろ」

「いいでしょう。審判はアヤメが務めますわ。使用ポケモンは3体。チャレンジャーのみ交代が認められます」

 

 さっきのミニスカか。いつの間にか戻ってきているな。まともなジャッジできるのか、こいつに。ポケモンは3体必要であることはわかっていたので、一応足りない分はゴウゾウに借りている。

 

 こいつがこの町の諸悪の根源なのはさっきのやりとりで確認できた。カントーではジムリーダーが町の中心人物らしい。この町がロケット団の根城になるのは確実にこいつのせいだ。もう我慢できない。絶対に心がへし折れるまで徹底的に潰す。無能の輩などいない方がいい……このとき、自分のものでない怒りが、紛れもなく俺自身のものに変わった。

 

「両者ボールを構えて……開始」

「頼みましたわ、モンジャラ!」

「こい、グレン」

 

 アナライズ!

 

 モンジャラ Lv39 のうてんき

 個 10-24-28-20-7-19

 努 43-111-159-55-55-87

 実 107-67-132-95-39-67

 技 どくのこな

   しびれごな

   ねむりごな

   ギガドレイン

   ソーラービーム

    ……

 

 グレン Lv27

実 92-89-54-64-47-89

 技 1かえんほうしゃ

   2かえんぐるま 

   3しんそく 

   4ひのこ 

   5まもる 

   6みがわり    

   7おにび    

   8オーバーヒート

 

 これはやりやすい。振り分けはムダだらけでダメダメ、性格も悪い。やはりこの程度か。

 

「まぁ、あなたのウインディ、新米とは思えない程レベルが高いですわね。27、28というところ。ですがランク7には早過ぎますわ」

「それは俺に土をつけてから言いな。そいつじゃ相手にならねぇよ。防御面が弱過ぎる」

「あらあら、困った方ですわ。このモンジャラは鉄壁。防御力の高さにこそ自信がありますのに。どうやらわかってないようですわね」

「さて、それなら試してやるよ、6,1」

「草ポケモンの強さ、思い知らせてあげます、どくのこな!」

 

 やはり状態異常狙いか。こいつも一応ジムリーダー。技構成を見た時点で先に状態異常かましてくると思っていたぜ。“みがわり”を先に張ったので“どくのこな”は通らずにこちらの“かえんほうしゃ”のみが成功。

 

 当初の予定では今回も番人と戦ったとき同様“オーバーヒート”の使い回しを考えていて、そのために手持ちも借りていたがあえてそれをやめたのには理由がある。

 

 その理由は指数計算。概算でもおそらく中乱数1発辺りというのはすぐにわかる。そのうえ、技が失敗して動揺したタイミングを狙えば乱数は高くなる。十分“かえんほうしゃ”でこと足りるだろう。必要ないなら“オーバーヒート”を使うまでもない。“いかく”もくさタイプには絶対ではないが刺さりにくいしグレンを連戦でやらせてみるか。

 

 相手の“どくのこな”の狙いはおそらく防御力を活かして持久戦に持ち込み毒のダメージを稼ぐこと。エリカがモンジャラでよく狙う作戦なのだろう。ジムリーダーらしく少しは戦略ってもんがあるらしいが、まだまだ考えが浅はか過ぎる。

 

「モンジャラッ! い、一撃!? しかもどうして毒状態にならないんですの!?」

「いきなり戦闘不能だな。ジャッジ、コールしろよ」

「あ、モンジャラ、戦闘不能!」

 

 エリカは呆然として動かないし審判も固まったまま。だらしないな。

 

「二流……いや三流か。まずジムリーダーならいちいちこの程度でおたおたするな。相手を見極めるのが仕事なのに、その相手に振り回されてどうする? しかも育て方も悪い。トレーナーなら、自分のポケモンの能力ぐらい正しく把握しておくもんだ。なにが鉄壁だ。紙くずがいいところ。レベルは12も上なのに、一撃でやられているのがいい証拠だ」

「ぐっ……た、たまたまですわ。“きゅうしょにあたった”に違いありません」

「自分の無能を棚に上げてポケモンのせいか。最低だな。わかるまでやってやるから次を出せよ」

「1匹倒したぐらいで調子に乗らないことです。ここからは本気でいきます……ウツボット! 出てきなさい!」

 

 アナライズ!

 

 ウツボット Lv40 いじっぱり

 実 122-104-65-74-72-73

 技 ヘドロばくだん

   しびれごな

   ギガドレイン

   ソーラービーム

   はっぱカッター

    …………

 

 これはひどい。物理寄りなのに覚えているのは特殊ばっかりだ。区別がはっきりしてないからやむを得ない部分はあるが、ポケモン自身が何も感じていないはずはないんだ。押しつけがましい技構成に怒りすら湧く。

 

 あーもう、これじゃこっちがバカバカしくなってきた。ジム戦だからどんなポケモンが来るかと思って、ダメージ計算も慎重にして完璧な立ち回りを目指そうと思い気合いを入れていたが、そんなことまで考える必要すらないな。まるで期待外れ。お遊びにしかならない。どうせなら少しちょっかいかけて盤外で遊んでやろうか。

 

「冗談だろ? そいついったいどんな育て方をしている? 攻撃技が酷い、酷過ぎる。ヘドロばくだん、ギガドレイン……どれもそいつには向いてない。お前、ちゃんとポケモンと向かいあって、そいつの力を見極めようとしたことがないのか。俺ならパワーウィップやたたきつけるのような物理的に攻撃する技を覚えさせるが」

「なっ! 一度見ただけで勝手なことを。このウツボットはわたくしが大切に育てて強くしたのですから、そんなことあるわけないですわ。いい加減なことを……」

「そいつに聞いたことあるのか? 無理やりそんな技ばかり覚えさせたんだろ? おい、ウツボット。お前程のレベルなら自分自身が1番よく感じているはずだ。ギガドレインは上手くいかないが、はっぱカッターとかは得意だって思っているだろ? いっつももどかしいんじゃないか?」

「!!」

「えっ! ウツボット?!」

 

 するとウツボットは首を何度も縦にふった。エリカが驚いて声を上げるとそれに気づいてウツボットは申し訳なさそうに首をすくめた。

 

「お前最低だな。本当にポケモンを見ようともしないで自分の考えを押しつけてたのか。あげくにポケモンの方に気を使わせるなんて。そもそもこんなのはトレーナーが気を配るべきこと。もうジムリーダー失格だな。かわいそうに、このウツボットは一生弱いまま。いや待て……もしかしてジム用のポケモンだから手加減のために育てる時点から手抜きなのか。ありえるよなぁ? あーあ、ウツボット、お前ツいてねぇなぁ……一生ジム戦の道具として終わるなんて。普通のトレーナーならきちんと育ててくれただろうに」

 

 これにはものすごくショックを受けたようで、さっきまで気を使っていたエリカに懐疑的な眼差しを向けている。

 

「ち、違いますわっ! ウツボット、わたくしはあなたを大切に育てましたわ」

「でもっ!……知らなかったんだろ、ウツボットの気持ちは。だろ? それがウツボットにとっての真実。言ったよな、無知こそ最も罪深いと。これでわかっただろ? そのウツボットじゃ、もうお前を信用することはできない」

「いいえ、そんなことはありません。わたくしはポケモンと長い時間をかけて共に戦ってきた。それが簡単になくなりはしない。これ以上わたくしのポケモンに妙なことを吹き込まないで。アヤメ! 早く始めてしまいなさい」

「わかりましたエリカ様ッ。か、開始!」

「ヘドロばくだん!」

「右へ躱せ」

 

 余裕だな。躱すだけならほとんど苦労しない。最初は相手の出方を見ながら回避に徹するか。最初から“みがわり”があるから無理に攻める必要はない。まずは敵の自滅を待つ。

 

 何度かウツボットが技を繰り出すがグレンは全て簡単に躱した。これにエリカはしびれを切らして攻め方を変えてきた。

 

「くっ、速い。やはり動きを止めないと……しびれごなです!」

「あーあ、学ばない奴……無意味だ。1」

「そんなっ! これも効かないなんて……ありえない!!」

 

 “しびれごな”はさっき張っていた“みがわり”で不発。狙い通りだ。驚き無防備なウツボットに“かえんほうしゃ”が決まった。ウツボットのHPは残り僅かとなった。

 

「懲りないな。何回やってもエリカの指示じゃ攻撃を当てることも出来ねぇよ。そんな自分勝手なトレーナーの言うことなんか聞いているから技が失敗するんだ。こいつはお前に勝ってほしくないんだよ。ウツボット、まだ気づかないのか。主人同様、お前もバカな奴だ。得意な攻撃をしてればこうはならなかったのに。お前らって、見ていて実に、実に滑稽だなぁ。ウツボットは強そうで厄介かと思ったが、エリカのおかげで案外楽に勝てそうで助かった」

「ふざけないで、まだ負けてませんわ。勝負は最後までわかりません! ウツボット、ギガドレインで回復ですわ」

「キシャー!」

 

 しかしウツボットはその命令に迷いを見せた。そして考えた挙句“ギガドレイン”でなく“はっぱカッター”を出した。完全にエリカを裏切った。もうエリカのことをトレーナーとして認めてない証だ。

 

 しかも、俺が言ったことに従い、自分の得意な“はっぱカッター”を使った。もしなつき度合いが見られたら、きっと普通以下にまで下がっているだろう。ジムリーダーが試合中にポケモンの信頼を失うなんてとんでもないな。こいつはもう……。

 

「お前、ジムリーダー以前にトレーナー失格なんじゃない? やめたら、トレーナー? 植物とたわむれる方がお似合いだ。たしかご趣味は生け花じゃなかったっけ?」

「そ、んな……ウツボット、なんで?」

「当たり前だろ、最後まで苦手な技ばかり指示されて、しかも技が不発になって、これでトレーナーを信用しろという方が酷だ。お前みたいなのがポケモンに偉そうに命令する資格はない。調子に乗っているのはお前の方なんだよ」

「う、ウツボット! お願いわたくしを信じて、まずは回復よ! もうかなり傷ついています。無理はダメですわ」

 

 しかしウツボットは頑なに“はっぱカッター”を続け、グレンも避け続けている。

 

「むだむだぁ。そいつは意地っ張りな性格。一度やったらすぐには曲げないさ」

「な、なんで性格なんかわかるんですの! そもそも覚えてる技も、どうして!」

「一流は見ればすぐにわかるんだよ、覚えときな。わからないのはお前みたいな二流以下だけ。ウツボットも、拾われたのが三流トレーナーじゃなくて俺だったらもっと強くなれたのに。いいところを目一杯伸ばしてやれたのに……残念だなぁ」

 

 ピクッとウツボットの動きが止まった。やっぱり話をよく聞いて理解している。ここまで言われたら俺の方が信憑性は高いだろうし気になっても仕方ない。それが命取りなんだけど。

 

「グレン、トドメを刺して楽にさせてやれ、3」

 

 “しんそく”が決まりウツボットは倒れた。

 

「ウツボット、大丈夫ですか?」

「キシャー!!」

 

 近寄るな、とばかりにエリカをふりほどいた。これは見ものだな。

 

「あーあー、嫌われちゃって。ウツボット、そいつがイヤなら俺のとこに来てもいいぜ? お前は見どころがある。俺が言うんだ、間違いない。そいつなんかより大切にしてあげるけどなぁ」

「な、何言ってますの! そんなこと許しませ……ウツボットッ、何してるのっ?! ダメッ!!」

 

 あろうことかウツボットは瀕死の体で地面を這いつくばりながら俺の方に来ようとしてきた。エリカが無理やりボールに戻して弟子の1人に運ばせたが、あれじゃこの先が思いやられるな。

 

「ウツボットはまんざらでもなかったのに、最後くらいポケモンの意思を尊重してあげたらどうだ? どうせそんなんじゃ逃げられるのがオチだしな」

「最後じゃないですわ! もう何も言わないでっ。どうしてこんなことするの!」

「なんでか? 最初に言わなかったっけ。俺はお前が憎くて仕方ない。町へ出れば周りから常にあの目で……憎しみのこもった目でみられる。その根本の原因であるお前にも、同じ目に合わせてやろうかと思っただけ」

 

 また言葉が溢れてくる。負の感情が溢れて止まらない。こいつの顔を見ているだけで怒りが湧き上がる。平常心を保てない。

 

「ッ!」

 

 下唇をかんで……ようやく自分のやったことに気がついたって表情だな。いまさら後悔しても遅い。あいつはここまでしないとわからないような人間だ。徹底的にしないとすぐに忘れるだろう。容赦はいらないな。

 

「どうした? まさか、いまさら後悔するようなタマじゃないだろ? まだ試合中だ。早く次を出しなよ」

「わ、わかってますわよ。ラフレシア、出てきて。ここから逆転します」

「ラァ……」

 

 アナライズ!

 

 ラフレシア Lv41 おだやか

 

 ラフレシアも不安そうにエリカを振り返った。どうやらバトル中だから外の様子を見ていたらしいな。エリカは今にも泣きだしそうな顔をしている。

 

「あなたも疑ってるの!? う、ウソでしょ?!」

「こりゃホントに傑作だな。ウソかどうかは見ればわかるだろ、三流トレーナーさん」

「ラフレシア、お願い! 絶対に勝つから、わたくしを信じて」

「ラアッ!」

 

 ほう、持ち直したか。こいつからはかなり信頼されているみたいだな。その信頼関係も今ズタボロにしてやる。

 

「あ、ありがとうラフレシア。絶対に勝ちますわ。まずはヘドロばくだん」

「躱せ! 最初は相手の攻撃後の隙を探れ」

 

 さっきと同じ。“みがわり”があるうちは徹底的に回避だ。攻撃をグレンによく見せておけばグレンなら動きのパターンを覚えられる。相手が自滅して補助技に走ればそれでよし。膠着してもじっくり隙をうかがえばこちらの優位は動かない。グレンは回避に関しては絶対の信頼がある。

 

「このウインディ、攻撃をしっかり見切っていますわね。しかもラフレシアよりかなり速い。なかなか技が当たらない……。やはりここは……。ラフレシア、一面にねむりごな!」

「2、1」

 

 “ねむりごな”は効かないのでそのままつっこませ、予想外のことにラフレシアは対応できず“かえんぐるま”が直撃。そのまま馬乗りになり、“かえんほうしゃ”を至近距離で放った。ラフレシアはなんとか頭でガードして低乱で抑えたがもうひんし寸前だった。

 

 あきれたなぁ。初見殺しであるのは間違いないが、同じ手に二度三度と引っかかるのは下の下だ。タネに気づくまで何回でも負けるつもりか? ジムリーダーってのはしょせんこの程度なのか。

 

「ラフレシア、お前の目は節穴か? さっきの様子を見ていただろう。そいつの言うことなんか聞いていたら犬死するのが関の山だってわかっただろ? レベルはお前が遥かに上なのにこんなにボロボロになって、いったい誰のせいだと思うんだ?」

「ラッフゥ!」

 

 グレンを押しのけ、バッと振り返り、怒ったラフレシアはなんとエリカに“ヘドロばくだん”を放った。間一髪でエリカはこれを躱すがラフレシアの怒りが収まる気配はない。

 

「ハッハッハ!! おいおい、トレーナーが攻撃されるなんて聞いたことないぞ。おかしくって腹痛いわ~。エリカ、面白い奴だなお前」

「え、エリカ様、危ないです。下がってください、ここは私が……キャアッ!?」

 

 弟子にも攻撃を始め、手が付けられなくなっていたのでトドメをさすことにした。

 

「仕方ないな。8、動けなくしてやれ」

「ヴォウ」

 

 ラフレシアは“オーバーヒート”の勢いのまま壁にたたきつけられ完全に気絶した。

 

「今の技、なんて威力なの。あれなら最初から一撃で倒せたんじゃ……」

「最初から実力の差を見せたら面白くないだろうが。レベルで判断して驕っているところを倒してこそ面白い。珍しいものも見られたし。最初っからお前は俺に遊ばれてたんだよ。バトルに夢中で気がつかなかっただろ? お前が遊ばれてるとも知らず本気になって、ポケモンにまで愛想つかされて……笑いをこらえるのが大変で……楽しかったぜ、お前とのバトルごっこ!」

 

 驚いたままエリカは何の反応もない。ただ茫然とラフレシアをながめ、静かに涙を流していた。

 

「エリカ様、そんな……! うう、あんたっ! よくもこんなこと! エリカ様はね、毎日忙しい中一生懸命ポケモンを育てて、私達にも笑顔で指導してくれるような素敵な人なのに、そんなエリカ様を泣かせるなんて、許さない!」

「今の全部俺のせいだって言いたいのか? ポケモンをないがしろにしていたのは事実だろ? ポケモンが感じていた不満やもどかしさは元々あった。こんな独りよがりな育て方なら当然。ポケモンは意思のない道具じゃない。俺はそれを教えてやっただけ。むしろ感謝して欲しいぐらいだ。ま、愛想つかしたのがお前にとって替えが利くポケモンで良かったな。ランク8ならどうなっていたか。手持ちまで愛想つかされる前にさっさとジムリーダーなんざやめちまえ。エリカじゃジムリーダーには力不足だ」

「あんたなんてこと言うの……! くぅ、覚えてなさいっ! 絶対に許さない! これ持ってさっさと出ていって!」

 

 パシッ!

 

 投げて寄越してきたものを左手で掴んだ。ここのバッジか。よっぽど俺が嫌いらしいな。一刻も早くここから追い出したいのだろう。アヤメはバッジを投げた後、すぐにエリカに肩を貸しながら下がっていった。

 

 ◆

 

 さて、とりあえず目的は果たしたな。経験値も入ったし満足だ。このジムもこれだけやればなくなるかもしれないな。一刻も早く消えてなくなれ。そう思いながらジムを出るとゴウゾウが話しかけてきた。

 

「レイン、お前怖過ぎるだろ。容赦とか慈悲とかいう言葉を知らないのか」

 

 いたんだな、そういえば。今回は説明をした以外完全に空気だったな。

 

「お前まで冗談言うなよ。ところで、俺はもうここに用はないから旅に出る。ここからだとどこに行くのがいいか、何か案はないか?」

「もうさっさといっちまうのか。行動がはえーなぁ。あの3人組とはいいのか?」

「もう別れは済ましてる。おたくの子分らにはお前からよろしく言っといてくれ。俺がいなくなってからもあんまり好き勝手するなよ。やり過ぎれば己の身を滅ぼす。今回の締め出しでもう十分わかっただろうけど」

「そりゃお世話様。にしても準備がいいな。最初から勝つ気満々だったんだな……しかもランク8に。行き先は色々考えられるが、そういえば面白い話をついこの間に聞いたな。北にある町で虫取り大会があるんだが、そこでとんでもなく強いポケモンが出るらしい。最近のことだからまだいるんじゃないか? 興味があればその大会に行ってみたらどうだ?」

 

 面白い情報が出てきた。こいつ案外有能だな。あんまり期待はしていなかったのに。

 

「たしかにそれは面白そうだな。特に当てもないし、ひとまずそこへ向かうか。お前意外と情報通だな」

「ここら全体を締めてるからな。下っ端共からいろんな話を聞くんだよ。くだらない噂から耳寄りな情報までな。俺よりツウな奴はそういないぜ。これからも何かあればいくらでも協力する。困ったことがあればいつでも俺らを頼れよ」

「律儀な奴だ。ま、機会があったらな」

 

 頼れる仲間ができたのは悪くない。ここに来ることはもうほぼないとは思うが、何があるかはわからないのは散々思い知らされたしな。

 

 久々にちゃんとタマムシのゲートをくぐり、ようやく俺は自由を得てレインとしての旅立ちの第一歩を踏み出した。あの日、路地裏から始まった数奇な第二の人生はまだ始まったばかり。これから俺はどう進んでいくか、何も決まっちゃいないがあせる旅路でもない。ゆっくり進もうか。

 




弁明させてもらいますが別に自分はエリカアンチとかではないですよ
こうなったのは主人公のスタート地点としてベトベターやロケット団など闇が深そうなタマムシが選ばれたからです
本人は関係ないです、強いて言えば草タイプ使っていたぐらい
だからエリカさんは嫌いではないです、本当です、信じてくださいっ(フェアリーのようなつぶらな瞳)
……エリカさんから恨み節が聞こえるのでもうやめましょう


補足すべきはランクの話でしょうか
まずジムリーダーさんの威厳と、賞金システムで金品奪って生活する盗賊みたいなトレーナーさんを何とかしたいので、ジムリーダーは手加減、トレーナーはちゃんと働いて生産的な活動をしてもらうことに

このランクシステムとか依頼とかはポケダン空の探検隊を参考にさせて頂いてます
ストーリーは全然違いますが同じポケモンジャンルなので設定面で参考にしたり、アイデア面でも似たようなところはややありますし今後も出てきそう
最初によーわからん能力があるけど後で理由やらが明らかに……みたいなところとかいきなり似てる
言われなきゃ誰も何も気づかないでしょうけどね
サーチやアナライズは一応後半秘密が明らかになります、少し
いきなり物語冒頭で湧いて出てきましたが一応設定もあるということで

やたらポケダン意識なのはやっぱあれに受けた影響が大きかったからですね
ほんとにいい作品でした



指数計算の簡単な紹介

実用的にはレベル50の時のみで十分なので、その場合計算がどうなるか紹介します
当然種族値からスタートして計算しますのでそこは暗記している必要があります
レートで概算できると持ち物確定させたり後出しできるか計算したりできるので一応便利

鉢巻いじガブのげきりん二発でH振りハッサム落とせた気がしたので(つまり後出しが厳しかったはずなので)、その例でどんな感じで使えるか試してみましょう。

レベル50の時の比例定数は0.44です
乱数込みで低めにキリよく0.4で考えると暗算はかなり楽です
電卓ある時は作者は0.44で計算していました
むしろ対戦時は必ず電卓用意していました(真顔)
ちなみにガブとハッサムにしたのは数値がキレイで暗算が非常にしやすいからです。


ガブはA130族なのでMAX200(52足して1.1倍)、鉢巻で300
逆鱗は一致技、威力120の1.5倍で180
300*180で指数54000

ハッサムはH70族なのでMAX177(107足せばいい)ですが、16n―1なら175でキリよく計算しやすいしその個体も多いのでそれで計算
B100族なので無振り120(20足せばいい)
4振りはめんどいので無視
175*120は120=4*30と考えてまず4かけて700、次に30かけて21000と暗算できます。

これは54000に0.4かけたのとほぼおなじ(五万の四割は二万)であり、逆鱗は半減なのでだいたい全体の半分、つまり50%ぐらいのダメージ。だから二発ぐらいで倒せるのが概算できます。(途中計算は端数全て無視してるので暗算は難しくないのがわかると思います)

実際にダメージ計算ツールでも上の実数値入れるとダメージ84~100で乱2と出るのでだいたい合っています
かなりアバウトなので細かい確率とかは無理です
電卓使えば乱数いくつ引いたとかけっこう正確にパッと計算できますが

上の計算の結論としては、相手が鉢巻なら後出しできない、逆にハッサムが体力半分もっていかれたら相手は特化鉢巻とわかります
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