Another Trainer   作:りんごうさぎ

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息抜き編です
場面が飛んでいたり書き方が変わったりしています
この章は全部三人称です
要するに今までと毛色が違うので注意

内容も重たい展開の上恋愛要素しかないです
つまり“ヤ”から始まるあれですね
耐性がない場合は読まない方がいいでしょうね
一応この章だけ読まなくても差し障りはないです

わかりやすく言い直すとギアナ編よりも重症だから注意してね



みゅーのきもち編
1.夢幻の誘い


 気持ちのいい朝にはついついうたた寝をしてしまう。疲れてウトウトしていると、知らないうちにイタズラされて……。

 

 

 幻のポケモン、ミュウ。愛称はみゅーちゃん。エスパータイプのイタズラっ子。トレーナーのレインが大好きで、ずっと一緒に旅をしている。遊んであげたりけづくろいしてあげると目を輝かせて喜ぶ。レインが好き過ぎて寝ている間にこっそりイタズラすることもある。

 

 みゅーはエスパーだから何でもできる。心が読めたり、予知ができたり、へんしんして人間になったり……とにかく何でもできる。エスパーにできないことはない。想像できれば、願う気持ちがあれば、思うことでそれが現実になる。エスパーとは思いの力。だから不可能はない。

 

 でも、みゅーにも調子の悪い日もある。たまにはそれがずっと続くこともある。

 

 何でもできるけど、みゅーのこころはとっても繊細。ちょっとしたきっかけで脆く崩れてしまう。それは大きく運命を変えてしまう可能性を秘めている。

 

 ――おもしろいユメ、みぃつけた――

 

 これはみゅーとレインに起きた夢のようなもしものお話。

 

 ――落ちて……深い眠りへ――

 

 ◆

 

 ある時には落石に押しつぶされ……

 

「みゅぶっ!」

 

 またある時は泡に囚われ……

 

「ぶくぶく」

 

 時には火炎にも飲まれ……

 

「アツツ」

 

 またまたある時にはグルグルになる。

 

「みゅ~~?」

 

 フラフラと歩いた先にはお皿が山積みの食器棚。

 

 ガラガラガッシャン!!

 

「みゅぅぅーー!!??」

 

 こっくりこっくり……ウトウトとうたた寝していたレイン。耳をつんざく悲鳴とお皿の壊れる音で意識を覚醒させた。

 

「みゅーの声?」

 

 慌てて駆けつけるとみゅーが割れた食器と一緒に転がっていた。みゅーは完全に混乱状態で目を回している。ここはどこでこれはどういう状況なのか。

 

「あぁ、そうだ……」

 

 レインはゆっくりと自分のことを思い出した。

 

 地下の洞窟のようなこの場所はシンオウの秘密基地。長い旅を経てレインはシンオウに辿り着き、みゅーと一緒に2人旅をしていた。

 

 みゅーはいつも1人で勝手にドンチャン騒ぎ……この程度はいつものこと。おそらくみゅーがまた勝手に罠に触ってイタズラしたのだろう。

 

 人が気持ち良くうたた寝している時にイタズラなんて、ホントに困った奴だ。レインはそう思って慣れた手つきで後始末を始めた。

 

 まずはみゅーの救出。このままだと周りにお皿の破片が散らばっていて危ない。見たところケガはないようだ。レインはみゅーをこのままボールに戻しておくことにした。

 

「みゅー、戻っておとなしくしてて」

 

 カチッ!

 カタカタ……

 

 混乱は解けたのだろう。みゅーは外に出たいのかボールを揺らすが、今出てこられてもジャマになる。そのままボールごと出られないように小さなポシェットにしまった。ベルトに引っ掛けず物の中に入れると簡単には出てこれない。

 

 今、レインは初めての地下探検で模様替えの真っ最中。朝早くから1人で作業をしていたが、みゅーが起きてからは何度もじゃれついてきて思うようには進まない。

 

 ふとした時に一息ついてウトウトまどろむと、寝ている間に勝手に基地内を歩き回られ罠が作動し現在に至る。みゅーはイタズラするのが好きだからなんでもかんでもすぐに触ってしまう。

 

 これまでも何度もドジッ子を発動されて秘密基地をメチャクチャにされていた。少し目を離すと、すぐにみゅーはトラップを踏み抜き体を張って解除したあげく置物の類はことごとく破壊する。

 

 レインはうかつにもみゅーから目を離したことを反省するしかなかった。

 

 ようやく後始末を終える頃にはもうお昼時。何も食べさせないわけにもいかないのでみゅーもボールから出してあげた。

 

「レイン……ごめん」

「いいからさっさと食べて」

「……やっぱり怒ってる?」

 

 みゅーがこんなにドジなのは今に始まったことではない。昔は違ったが、最近は何をやらせてもヘマばかり。それなのに特にここ数日は妙になんでも自分でやろうとして、余計にやる気が空回りしている。

 

 レインが休んでいていいと言ったのも一度や二度ではないが、聞く耳を持たず勝手に動き回る。そして一度落ち着いたと思って油断したら今度は罠を片っ端から触って解除してしまう。なまじ悪気は全くないことがわかっているだけにレインも強く言えずにいた。

 

 そういうわけでレインとしてはもうこんなことは慣れたものだし、手がかかるのは仲間にした時からわかっていたのでいまさら怒るようなことではない。

 

「別に怒ってない」

「レイン……みゅぅぅ……」

「みゅー? どうした?」

 

 みゅーはいきなり泣き出してしまった。本心からの言葉だから怒っていないことは伝わったはずなのにだ。レインが目を合わせようとしてもみゅーは下を向いてレインを見ようとしない。

 

「レイン、ものすごく冷たくなった。昔はいっつもみゅーに優しかった。いっぱい頭撫でたり抱っこしたりしてくれた。でも最近は全然構ってくれない。そっけなくて、みゅーのことはもうどうでもいいみたい」

「いきなりそんな話してホントにどうした?」

「だって、この頃かわいいポケモンいっぱい増えて、みゅーよりその子達とばかり遊んでる。もうみゅーはレインの1番じゃないんでしょ? だからもうすぐレインは……こんなはずじゃなかったの。レインは約束したのに忘れてる。忘れちゃダメなのにっ」

「約束って何のことさ。それだけじゃわかるわけ……」

「やっぱりそうなんだ。もうみゅーのこと……。みゅぐっ。ぐひゅっ!」

「あっ、待って!……あっ!! そっちは本当にマズイからっ!!」

 

 大粒の涙を浮かべて勢いよくみゅーは外に飛び出した。だが外には防犯も兼ねてすでに張り直し終えた罠がズラリと並んでいる。みゅーはそれに吸い寄せられるかのように見事に踏み抜いた。

 

「アツッ! チメタッ! うみゅぅ、目が回る……あっ、地面が勝手にうごい……ぐへっ!」

 

 慌ててみゅーを止めに行ったが時すでに遅し。レインが見たのはみゅーが無惨に散る様子。炎に焼かれ、水に沈んで宙を舞い、グルグル回って岩の下敷き。ニョロトノの潰れるような音と共に気絶していた。気絶して罠は止まってしまったようだ。これを見てレインが考えたことは1つ。

 

「今度は気絶できないようにして嫌がらせ重視にしようかな」

 

 実験はやっぱり大切なのだった。

 

 ◆

 

 ベッドに運んだみゅーが目を覚ましたのは30分程してからだった。今し方我が身に降り注いだ災難を思い出し、みゅーはガタガタと体を震わせていた。

 

(いきなり罠、避けても罠、逃げても罠、安心したらまた罠、どこにいっても罠、全部周りは罠・罠・罠……レイン怖いぃぃ。こんな獲物をいたぶるような何重にも張り巡らせた罠、みゅーの逃げる心理を全部見抜いてる。最近レインは何考えてるかわからないの。怒らせたらやっぱり怖い……)

 

 みゅーはしっかりトラウマを刻まれていた。しかもさっきの罠解除は間違いなく失敗に分類される行為。レインに会ったら何をされるかわからない。恐怖ゆえに反射的にレインを探して周りをキョロキョロ見渡すと、すぐそばで椅子に腰かけるレインを見つけた。

 

「っゅ!」

 

 ドキッとして声が出そうになるがレインは目を閉じており、どうやら眠っているようだ。それを見てホッと胸をなでおろし、念のため恐る恐る声をかけた。

 

「みゅぅ……レイン、寝てるの?」

「起きてるよ」

「みゅっ!?」

 

 片目だけ開けてレインが答えると、驚きのあまり今度こそ声を上げてしまった。みゅーはすぐさま自分にかけられていた毛布の中に潜り頭を抱えて隠れた。

 

「人の顔見てその反応はヒドくない?」

「レイン……もう岩とか落とさない?」

 

 毛布の中からくぐもった声が聞こえる。レインは呆れながら答えた。

 

「あれはお前が勝手に罠の中に突っ込むからだろ。俺の意志じゃない。そもそも昔なら危険を察知して全部避けられたはずだよな? 好奇心で色々触っても危険予知ができたから失敗だけはしなかったのに……なんか最近ドジだけど調子悪いの? あの頃はトラップとか攻撃とか全部見切っていて頼りになったのになぁ」

「レイン……やっぱりみゅーのこと足手まといだと思ってるのね」

 

 ひょっこり毛布から顔を半分だけ出しながらみゅーは言った。

 

「あっ、ごめん。そんなつもりではなかったんだけど……」

「いいの。みゅーだってわかってるの。だんだんみゅーはおかしくなってるってわかってる。みゅーだって以前みたいに頼られたくて頑張ってたの。でも上手くいかない。前はこんなに思う通りにいかないこと絶対なかったのに……」

「……」

 

 みゅーも苦しんでいる。こういう時に最も辛くもどかしいのは本人なのだ。レインにはそれがはっきりわかり言葉が詰まってしまった。

 

「ねぇ、みゅーはジャマ?」

「ジャマって……いきなりどうしたの?」

「お願い、本当のことを言って。レインにとってみゅーはジャマなの? いな……」

 

 “いない方がマシ?”……そこまではとても言えなかった。言えば自分で自分を否定することになる、そう思えたからだ。

 

 みゅーのらしくもない弱々しい尋ね方にレインは疑問を持った。最近のパターンではこういう時感情を爆発させて怒ったり飛び出したりしてまたドジをやらかす。そんなみゅーが今日、珍しくネガティブになって弱みを見せている。

 

「不安なの?」

「えっ」

「みゅー、何かあった?」

「みゅぅぅー……」

 

 レインはみゅーが本気で何か悩んでいるのは察せられた。直接聞いてもみゅーは黙ったまま。口にも出せないようだ。レインは自分で答えを考えた。今までのみゅーの行動、その全てがこれに繋がっている気がした。

 

 みゅーは無性に役に立ちたがっている。最近は無理にでも何でも手伝おうとするし、レインに必要以上に絡む。これは間違いないと思えた。今日は2回も大失敗してさすがに落ち込んで自信をなくしたのかもしれない。そういえば以前もこんなことがあった。仲間になってすぐの頃、まだ“へんしん”にも慣れていなかった時、バトル中無理に続投して負けたことがあった。あの時に似ている。

 

「ねぇレイン、やっぱりみゅーのことジャマなの? みゅうみゅぅー」

「あぁ、ごめん。そういやお前が聞いていたのか」

 

 考え込んでいたのでみゅーの不安を煽ったようだ。毛布に隠れていたみゅーが身を乗り出してきた。こういう場合悩むのはいい返事ではないからと考えれば不安になるのは当然だった。みゅーは伏し目がちにゆっくりと話した。

 

「レインッ。もし、もしもみゅーがジャマなら、みゅーのこと無理に連れて行かなくてもいいの。ボックス……とかに預けても構わないから。だから本当のこと教えてほしいの」

 

 これにはレインも驚いた。これまで長く旅をしてきたが、みゅーが自分からボックス送りを認めたのは初めてだ。いつもならそれを匂わせただけでもすぐに涙目になって縋り付いてきた。そうなったら安心させるまで絶対に体から離れなかった。そのみゅーが、今ボックスでもいいと言ったのだ。これは何かある、レインの直感がそう告げていた。

 

(こんな突然の心変わりには理由がある。ボックスに行きたい? 何かメリットがある? ただ俺に迷惑をかけたくないだけ? そもそもみゅーは今失敗続きで弱気になっている。弱気になれば考えることは単純、逃げ腰一辺倒。なら、これは最悪を見据えての……保険? そうか、ボックス行きは迷惑かけないための譲歩ではなく保険。今まではボックス送りが最悪だと思っていた。でも今は違う。今のみゅーにとっての最悪はそう、捨てられること。それが最悪だと思っている)

 

「レイン、なんでなんにも言わないの? なんでもいいからしゃべってよ」

「なんでかなーって考えてたんだよ。みゅーがこんなこと言うなんてらしくないから。でもわかったよ、お前の考えてること」

「えっ! べ、別にみゅーは何も……」

「要するに、愛想付かされるのが怖かったんだろ?」

「んみゅっ!?」

 

 ひょっこり出ていた首筋に手を添えながら言うとビクッと体が跳ねた。瞳孔が揺れ、脈も速い。図星だとすぐにわかった。

 

「よっぽど心配だったんだな、捨てられるんじゃないかって」

「あ……ダメ……」

「譲歩したように見せかけて、実は保険を打っていたわけだ。最悪でもボックス行きで済むように、これ以上悪くなる前にそこに逃げようって思ったんだろ?」

「そんなことは……」

 

 言葉とは裏腹に口が大きく開いて息遣いは荒く、顔色もどんどん悪くなっている。

 

「ごまかしてもわかる。みゅーの考えはオミトオシ。何年一緒にいると思ってるんだ?」

「みゅぐぅぅ、ごめんっ、なんでもするの。なんでもするから、捨てるのはやめてほしいの。見捨てないで……」

 

 しまった、とレインが思った時にはみゅーは泣いてしまっていた。余程別れが怖いのか体は震え、後悔・恐怖・絶望、様々な感情がごちゃ混ぜになり酷い精神状態になっていた。レインは思ったことをそのまま口にしただけだったが言い方が悪く、追い詰めるような形になってしまった。

 

「みゅー、聞いて」

「ひっ!」

 

 触れただけでも過剰に驚いてしまうみゅーをゆっくり抱き留め、みゅーがしゃべれないようにして顔を抱き寄せてからレインは言いたいことを全て言い切った。

 

「安心して。みゅーのこと捨てないし、この先もずっと一緒。昔の約束、ちゃんと覚えてる。ずっと大事にしてあげる。みゅーは手のかかるところも含めてかわいくて好きだから」

「うみゅっ?! 覚えてたんだ……」

 

 やっぱりか、とレインは内心安堵した。みゅーが執心した約束を考えて会った時のことを思い出した。まだこんなことを覚えているということは、みゅーにとってはよほど大切なことだったのだろう。

 

「ごめんな。こんなに思い詰めているとは思わなかった。別に怖がらせようと思ってるわけじゃないんだ。ただね、最近やっぱり変だからみゅーは何かあったんじゃないかと思ってさ。それで……良かったら1人で抱え込まないで俺にも教えてくれない?」

「レインありがとう、嬉しい。でもね……やっぱり言うのは怖いの」

 

 何か捨てられると思う程の出来事があったに違いない。昔の約束にすがらないと不安になるほどみゅーを追い詰める何かがあったんだ。レインはそう考え、安心させるためにみゅーを後押しした。

 

「大丈夫。ずっと一緒だから。俺の事信じられない?」

「……ううん、信じてる。みゅぅ、わかった。話してみるの。あのね、実はね、少し前からみゅーはイヤな夢を見るの」

「夢?」

「うん。みゅーがひとりぼっちになって、知らないところで……その……怖いことしてる夢」

「怖いこと? 怖いことってどんなこと?」

「そ、それは……聞かないで」

 

 レインは要領を得ない話に困惑するが、続きを促した。

 

「まぁいいけど、それで?」

「それで、みゅーはもうすぐひとりぼっちになる気がして、怖くて、離れたくなくて、それでレインにもっと好きになってほしくて……」

 

 重苦しい声色で絞り出すようにみゅーは胸の内を語った。みゅーが本気で夢の事を気にしているのはレインにも感じられた。みゅーにとっては重要なことなのだろう。だが、レインにとっては夢はしょせん夢でしかない。だから夢なんて意味のないものだと思って軽く答えた。

 

「そんなのただの夢、幻みたいなもんだから気にすることないよ。みゅーとはずっと一緒だし、いい子のお前が悪いことなんかするわけないだろ?」

「そうかな……」

「そうだって。心配せんでいい。そういうのは意識してそうなるそうなると思い込むから本当にそうなるんだ。気にしなければ何も起きない」

「ふーん、そうなんだ。みゅふっ、良かった。みゅーはね、しゃべっちゃったらホントになりそうな気がして怖くて言えなかったの」

「そっか。ずっと気づいてやれなくてごめんな。みゅーだって大切な仲間だから」

「みゅー、あったかい。……んみゅぅ、レインー、レインー……みゅーー!! みゅーー!!」

 

 みゅーが飛び出す前に言っていたことを思い出し、レインが抱っこしながら頭を撫でてあげるとみゅーは甲高い声を上げてよろこんだ。最近みゅーは話に出てきた夢のせいか暗い顔のことが多かった。だから笑顔を見るのはとても久しぶりに思えた。

 

 しかし、このときレインはエスパーについて何も理解できていなかった。エスパーとは思いの力。思うことで現実となる。夢とは思いの見せる幻。決して例外ではない。

 




※みゅーのきもち編が終了してからこの後書きを書き直しています

この章はあまり伝えたいことが伝わっていないように感じました
なので解釈の説明をここでしようと思ったのですが……それってものすごく野暮ですよね
小説の面白さを損なう気がしたのでやめます
そもそも最近作者が後書きでいらんことをしゃべりすぎかなと思い始めました
沈黙は金って言いますし、寡黙な人間になります……できるだけ

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