Another Trainer   作:りんごうさぎ

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2.みゅーのきもち

 久方ぶりのみゅーの笑顔を見てレインは嬉しくなり、こんな笑顔を見たのはいつ以来かなと思い返していた。

 

「なんか懐かしいなぁ。昔に戻ったみたい。前はけづくろいとかするといつもこんな風になったよね。そうだっ! 久しぶりにけづくろいしてやろうか? 今日だけ特別にさ」

「けづくろいっ!! いいの!?」

「もちろん。あっち向いて座って」

 

 最近レインはみゅーにはけづくろいを全くしなくなった。レインはみゅーが人間姿をしていて成長もしているからだと説明したが、みゅーは内心納得していなかった。オーラに乱れはなくても、どうもはぐらかされている気がしていた。

 

 実際のところこの直感は正しかった。レインはある程度オーラをコントロールする術を会得し、それを利用してみゅーをわざと避けていた。これもみゅーの不安材料の1つ。レインもみゅーが不満を持っていることを薄々感じていたので、今回に限りけづくろいをしてあげた。みゅーは爛々と目を輝かせた。

 

「の・う・りょーっく、あ・が・るーっよ、ぜ・ん・ぶーっが、あ・が・るーっよ、ギ・ガ・ドーッレ、し・な・いーっで、ラ・グ・ラーッジ、し・ん・じゃーっう」

 

 やっぱりけづくろいは楽しい。知らず知らずのうちにレインもみゅーの気持ちに引っ張られていた。レインがゴキゲンで鼻歌交じりに髪をといているとみゅーがレインに話しかけた。

 

「ねぇレイン、さっきからとっても嬉しそう。なんで?」

「ん? そう?」

「だってずっとなんか歌ってるもん」

「そうだなー、たしかに嬉しいかもなー。さっきのみゅーはかわいかったから、ちょっとラッキーって思ったし」

「ん?! んみゅみゅ!! それ……みゅーが泣いてたから? それともまさか怖がってたから?! そんなところ見てかわいいと思ってたの!?」

「あー、どっちかなー(両方かわいかったとは言えない)」

 

 みゅ~と一声うなってからじたばたして、その後もブツブツ何か言って歩き回った後バンッとテーブルに手を置いて勢いよく言った

 

「ずるい! みゅーだけ恥ずかしいところ見られてふこーへーなの! みゅーにもレインの恥ずかしいところ見せて!」

「はっ!? いきなりむちゃくちゃ過ぎない? まさか俺に泣いて見せろとでも?」

「んー……それはかわいそうだから許してあげる。みゅみゅっ! じゃあその代わりみゅーの質問に答えるの。拒否は拒否するからね」

 

 首をかしげて悩んだ後、ポンと手を叩いて嬉しそうに宣言。とんでもないわがままっぷりにレインは呆れ顔で答えた。

 

「なんだそりゃ。わがまま姫様には敵わんなぁ。まぁいい、1回だけな」

「んみゅ、十分なの。じゃ、ゴホン! ズバリ、レインの好きな女の子のタイプを教えてほしいの」

「ぶっ!? ばっかっ!! なんでそんな脈絡のないことを……チェンジ!」

「ダメ。1回いいって言った」

「くっ、謀られた」

「さっ、はやく!」

 

 早くと言われても急にこんなことを答えられるわけがない。レインは少し考えてからぽつぽつとしゃべり始めた

 

「……仕方ないなぁ。んーそうだなぁ。やっぱり女の子と言えばアウトドアで明るく元気がいいかな。それで、ちょっとドジだけど目標に向かって真っ直ぐひたむきに頑張る……そんな感じの子がいいなぁ。目標が俺と同じチャンピオンになることならなおのこと良し」

「レイン、ウソついてるの」

「ぐっ!」

 

 久方ぶりに『ウソついてるの』を言われてレインは渋い表情。みゅーのお決まりのセリフだ。

 

「わざとなの。狙ったようにブルーの特徴ばっかり。みゅーじゃなかったら騙されたかもね。だけどいくら調子が悪くってもこれだけオーラが乱れたらバレバレなの」

 

 レインは動揺し過ぎてオーラをコントロールできていなかったようだ。

 

「そんなこといってもみゅーさんよぉ、下手なこと言ったらブルーに報告する気だろ? 無理言って引っぺがしたのに他に好きな人がいるみたいに捉えられたら殺される。間違って“おしとやかで上品で生け花とくさタイプが好きなお嬢様”……けっ! とかがいいって答えたら一体どうなるか」

 

 ブルーはくっついてくるのを無理やり引き離して今がある。みゅーなら一瞬で連絡をとれそうなだけにレインも下手なこと言えない。

 

「みゅ。とりあえずそういうのがキライなのはわかったの。でもね、みゅーはブルーに告げ口とかしないから。むしろそんな邪推するなんてレインの神経を疑うの」

 

 これにはレイン、何も言えない。結局レインの性格の悪さが露呈しただけだった。

 

「わかったよ。降参降参。でも急にそんなこと聞かれてもなんて答えるべきかわからないし」

「今は関係ないこと考えないでとにかく本心で言って。別に本当は恥ずかしい思いをさせたいわけじゃないし」

「え、話が違わない? じゃあなんでなんだ?」

「みゅーのこと大事にするって言ったけど、でもやっぱり心配だし、もっとみゅーのこと見てほしいし、どんな子がいいか聞けば少しは……ゴニョゴニョ」

「え……マジ?」

 

 悪意100%だと思っていた質問は好意100%でレインは面食らってしまった。

 

「んー、いいから早く答えて!」

 

 この気持ちには真摯に答えてあげよう。そう思うだけで自然とレインはスラスラ答えられた。

 

「俺はさ、別に傾国美人とか、才色兼備とか、そういうのがいいとは思ってないんだ。むしろちょっと抜けてたり、世話が焼けるぐらいの方がかわいくて好き。今まで旅した経験から言うと、クールで美人って感じよりも、親しみやすくてかわいい女の子の方が肩肘張らないし楽しいと思うんだよな。昔は真逆だったし、他人の面倒見るなんてまっぴら御免って感じだったけど、誰かさん達のせいですっかり変わってしまった」

「ドジだったら嫌われそうなのに……ヘンなの」

「たしかにヘンかもな。でもそれが嘘偽りのない本心だから。やっぱりさ、俺はみゅーみたいな子が1番好きなんだよ。油断してると本気で惚れちゃいそう」

「ふみゅっ!!?」

「もちろん、お前が人間だったら……の話だけど。みゅーのそういう反応するところもいいと思うよ?」

「んんーーっ!! みゅーのことからかわないで! 今のもぜったいう……」

 

 絶対ウソなの、と続けようとして固まってしまった。みゅーには視えてしまっていた。さっきまでグチャグチャに乱れていたはずのオーラが見たことがないぐらいキレイな形になっていた。その上、ほんの僅かながらレインの気持ちの一端を感じられた。

 

 みゅーは思わずまじまじとレインの瞳を凝視していた。

 

「さ、もうけづくろいはおしまい。それだけ元気にはしゃぎ回るならもう十分だろ。さーて、俺は罠を補充するためにまた交換用のタマ集めをしてこないと。みゅー、今の話はブルーには内緒にしとけよ」

 

 後ろを向いてさっさと基地から出て行ったレイン。みゅーからは見えなかったがその顔は真っ赤になっていた。

 

 レインがいなくなって1人になったみゅーは大騒ぎだった。

 

「好きって言われた! 好きって言われた! それに寝起きのも合わせて正面から2回も! しかも本気! 冗談めかした雰囲気だったけど、あれは照れ隠しね。オーラはウソついてなかった! みゅっふー!! 人の心が視えてイヤなことばっかりだったけど、やっぱりエスパーで良かったの。きっと今日このためにエスパーとして生まれたのね……」

 

 誰も話す相手がおらずみゅーの考えは加速する。

 

「お互い好き同士ならホントのキスしたいなぁ。まだほっぺ止まり……。人間はキスしたらケッコンできる……レインもきっと望んでる。んみゅ、もしかしたらずっと待っているの? そういえばみゅーが泣いた時や悲しい時、いつも撫でたり抱っこしたり……ブルーにはあんまりしないのにみゅーには……。ずっと昔からみゅーのこと好きだったんだ。そうとしか思えないの。最近ドジばかりだったけど、実は前よりもっとかわいいと思われてたのかな。さっき見たレインはとっても照れているみたいだった。今までも照れていただけなのかも。みゅぅぅぅ、良かったぁ。みゅーみゅふみゅふーっ!」

 

 みゅーは随分長いこと1人で盛り上がっていたのでレインが帰ってきてしまった。元々大した用もなかったのですぐ帰ったのは必然だった。

 

「みゅー、何はしゃいでんの?」

「みゅがっ!? んっ、レインっ!? い、いつからそこにっ!」

「いつって別に今帰って来たんだけど何してたの? えらく楽しそうだけど」

「レインは気にしなくていいの!」

 

 みゅーにとっては好きな者同士ならすぐにケッコンするのが当然のこと。何も知らないみゅーは昔レインから聞いた話を鵜呑みにしてキスがその条件だと信じ切っており、この日以来昼夜問わずレインにキスすることだけを考えるようになった。

 

「みゅー、おやすみー」

「あっ、レイン! あの、今日はみゅーも一緒がいい」

 

 疲れたレインはあくびをしながらさっさと横になるが、みゅーが待ったをかけた。

 

「え? 珍しいな。昔は一緒だったこともあるけど、みゅーさん寂しくなったとか?」

「……う、うん。そうなの」

「本当はもうダメなんだけどな……。みゅーは本当に甘えん坊になってしまったよなぁ。仕方ない奴だ」

 

 言葉とは裏腹にレインの表情は僅かに緩んでいる。注意深く観察していたみゅーはそのことに気づいた。やはりレインの言葉は本当だったと確信した。みゅーが気づいてなかっただけで今までもずっとそうだったのかもしれない。みゅーは内心でガッツポーズをして喜んだ。あとはどうやって本題を切り出すかだけ。

 

「ほら、ここに寝て。こうやってゆっくり頭を撫でてやるから目をつむって早く寝てしまえよ」

「んみゅ? いや、ちょっとまっ…」

「先に寝ていいから遠慮しないで。なんならマッサージもつけようか? ん、お客さん凝ってますねー」

「ううーー、みゅぅぅぅーー」

「どう? 効くでしょ?」

「ふーーっ、ふみゅぅぅ」

 

 強弱をつけて体をほぐされ、今までのストレスや疲れが抜けて気持ち良くなりすぐにぐっすりと眠ってしまった。

 

 ―みゅー、好きだよ―

 ―みゅーも、みゅーもなの!―

 ―じゃあ、誓いのキスを―

 ―んーー!!―

 

「んみゅぅぅっっ!! んはっ!? はぁ……あれ? レインは? そんな……夢だったの? みゅー寝ちゃったんだ……」

 

 しょんぼりしたままみゅーはご飯を食べに行った。

 

「みゅーどうした? なんか元気ないな。昨日寝心地悪くて寝れなかった?」

 

 ご飯の時はいつも勢いよくおいしそうに食べるので気になってレインが声をかけた。

 

「ちがうのっ! マッサージ良かったの!」

「そう。じゃあまた怖い夢でも見た?」

「ぐっ! うみゅぅぅ、違うから! もう気にしないで! はむはむ、むしゃむしゃ!!」

「しょんぼりしたり元気になったり忙しいなぁ」

 

 みゅーにはすでにレインの声は聞こえてない。次の作戦のことを必死で考えていた。

 

(さすがに手強いの。こうなったらこっそり練習していたあの技を使うしかないみたいね。みゅみゅ……楽しみ)

 

 その夜、意を決してみゅーは行動に出た。

 

「ねぇレイン」

「なに? 今日は1人で寝ろよ」

「寝る前にお願い……」

「お願い? まぁいいけどさ」

 

 ゆっくり間をおいてから小さな声で、しかしはっきりとみゅーは言い切った

 

「みゅーとキスして」

「キッ……! 待って、なんでそうなる?」

「レイン、みゅーのこと好きなんでしょ? みゅーもレインが好きなんだよ。だから、ね? どっちも好きだからいいでしょ? レインとずっと一緒になりたい……!」

(こいつ、本気か! 目を見ればわかる! いくらへっぽこエスパーの俺でもわかる! あぁ、もちろん本当はわかってた。みゅーの考えてることぐらいわからない俺じゃない。昔からみゅーの気持ちが本気なことは知っていた。目を背けていただけ。仲良くし過ぎてこうなるのが怖かったんだ……!)

「レイン、いいでしょ? いいよね?」

 

 レインは真剣に考えこんでしまった。歓喜と後悔が渦のようになってレインの心の中で交互に暴れ回っていた。

 

(みゅーは本気だったからこそ、俺のことを極端に意識して普段から何もかもおかしくなっていたのかも。この前相談された変な夢も好きな気持ち故、かな。不安にさせたくなくて無理させないためにも本人を前にして好きだなんて言ってしまったけど、やっぱり黙っていた方が良かった。嬉しかったのは事実。でもなんであんなこと言ったんだっ! どうかしていた……もう二度と言わない。言えば毒になる。毒にしかならないとわかっていたのに、なのにあの時はつい嬉しくて……。すぐに顔を背けたのにバッチリオーラまで見られていたのか……)

 

「レインー。黙ってないで何か言ってよぉ……。んみゅぅぅ、んー! んーー!!」

「みゅー、いいかよく聞いて! お前は勘違いしている。そもそも愛してるのと好きなのは全く違う。俺とお前はあくまでポケモンとトレーナー、パートナー同士に過ぎない。わかるな?」

「だったらみゅー生涯のパートナーになる! それならいいでしょ?」

「なっ! このバカ……! なにが『いいでしょ?』だ! いいわけないでしょ! 俺は絶対認めないから!」

「みゅっ!? なんで、なんでそんなこというの? みゅーはレインを好きになっちゃダメなの?」

「ダメだ!」

「!!」

「人とポケモンは言うなれば水と油。全然違う者同士、決して交わることはない。いい加減理解して。ホウエンにいた頃にも何度か教えたでしょ! どうしても相手がほしいならちゃんとポケモンの相手を探してあげる。だから俺の言うことは聞いてくれ。いいな?」

「わかった。……諦める」

「ふぅ」

 

 一安心、と思ってレインが油断したのがいけなかった。みゅーがそう簡単に考えを改めるわけがない。その思いは本物なのだから。

 

「この技を使わないことを、諦めるの!」

「!? お前何する気ッ!?」

「ごめんね……レイン、メロメロ!」

「んっ! んはぁ……くぅ、待って」

「んっみゅぅぅ、さすが波動使い、簡単には堕ちないの。ならもう一度、メロメロ!」

「これ以上はホントにやめっ、んっ!?」

「メロメロ! メロメロ! メロメロ!……はぁ、はぁ」

 

 連続で技を使い、さすがに疲れて息を荒げるみゅー。うつむきじっとして急に動かなくなったレインに恐る恐る近づき、下から顔を覗き込んだ。口が開いたままで目の焦点は合っておらず正気には見えない。しかしみゅーにはどういう状態かわかってなかった。

 

「あれ、おかしいの。これしたらすぐみゅーが好きになってキスしたくなるはずなのに。レインー? レインメロメロになったー? みゅー? ちゃんとかかってるの? も、もし失敗してても急に怒ったりしないでね。レイン、ねぇなんか言って? ううみゅ、やっぱりなんにも言わなくていいからみゅーとキスして!」

「はぁー、はぁー」

 

 息を荒げるだけで身動き1つせず全くみゅーには反応しない。しびれを切らし、みゅーは顔をつかんで強引に唇を奪おうとした。

 

「何にも言わないなら勝手にするからね。いいよね? イヤなら抵抗すればいいの。……しないってことは……みゅへへ、やっぱり。そのままじっとしてて。さぁ、顔上げて……」

「ああっっ!! みゅー!!!」

「ふぎゅ!?」

 

 みゅーの手が触れた瞬間、レインは突然大声を上げた。みゅーが驚く間もなく、レインはみゅーを乱暴に抱き寄せて強引に口づけをした。みゅーにとって直接口づけを交わすのは初めてのことだった。わけもわからないまま、みゅーは幸福感に包まれて意識が溶けそうになっていた。

 

「みゅみゅ~~??」

「ぷはぁ」

 

 あまりの衝撃でみゅーはこんらん状態に陥り、そのままわけもわからず気絶してしまった。同時に、ようやく“メロメロ”の効果が切れてレインは正気に戻った。

 

「しまった! 最初は何も考えないようにして耐えていたが触られてオーラを感じた瞬間理性が飛んでいた! みゅー、大丈夫?!」

 

 床に倒れるみゅーを起こして持ち上げるがぐったりして死んだように動かない。まさかと思い慌ててアナライズするとHPが0になっていた。体力が尽きているだけのようだ。

 

「……なんかごめん」

 

 これを境にみゅーのきもちは大きく揺れ動き始めた。

 




レイン“メロメロ”暴走回
“メロメロ”ってそういう技じゃねーからっていうのは目をつぶって下さい
みゅーが改造したんです

みゅーのきもちがテーマなのにレインがヒロインに見えてくる……
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