もう嫌になる・・・。
「ぐ・・・うぅあ・・・」
「お嬢様!!っぐあ!?」
「美鈴っ!?」
迷いの竹林の一角。そこではたった一人による〝蹂躙〟が繰り広げられていた。〝戦闘〟では無い、〝蹂躙〟である。紅魔館の当主であり、幻想郷でもかなりの上位実力者であるレミリア・スカーレット。普段は怠け者の門番だが、その実力は事実上の〝紅魔館最強〟である紅美鈴。その二人がなすすべなく、〝たった一人の少女〟に叩きのめされているのである。彼女らを知る者にとっては悪夢とも言える光景であった。美鈴を吹き飛ばした少女────セイバーはつまらなそうに吐き捨てる。
「つまらんな。我の力が必要な程の事態だと期待してみれば・・・。フンッ、此度の現界は外れだな」
心底残念でならないと言った風に呟くセイバー。どうやら彼女もまた強者を求める類の人種の様だ。セイバーの傲慢なもの言いにレミリアは苛立つ。彼女もまた強者、それと同時に人の上に立つ者である。目の前の矮小な、礼儀を知らぬ下等な〝人間〟如きにこれ程の屈辱を味合わされたのだ。誇り高い彼女にとって許容できる事では無かった。
「・・・ッ!下等な人間ごときがァ・・・!突然襲い掛かってきて何のつもりだ!」
「我は我を呼び出した・・・一応だがマスターに『この先に敵意を持って侵入する者を排除しろ』と言われただけなのでな。だから貴様らを排除したのみ。そして────」
セイバーは一旦言葉を切る。そして────
「────我を〝人間〟如きと一緒にするなよ羽虫が」
「ッ!?う・・・うぁ・・・」
セイバーの体から放たれた強烈な威圧感に声すら出せなくなる。体が酸素を求め呼吸を行おうとするが喉すらも動かない。レミリアはたまらず地面に倒れ込み、とうとう威圧感に屈し、そのまま意識を失った。
「フン・・・ようやく倒れたか・・・」
セイバーは倒れ込んだレミリアを見てようやく威圧を止める。セイバーの威圧が解けた瞬間────
「キッサマァ!」
────倒れていた美鈴がセイバーに殴りかかるが、
「フッ!」
「がっ!?」
セイバーが剣を一振りした瞬間、美鈴は吹き飛んで地面に叩き付けられる。
「ぐぅぅぅうう・・・!」
「しぶといな。まぁ、先程の羽虫よりはマシか」
「ッ!お嬢様を・・・侮辱ッ・・・するなぁ!!」
「五月蝿い」
「ごっ!?」
再び飛びかかるもあっさりと叩き伏せられる。セイバーは美鈴など眼中に無い様にそこから去ろうとするが、突然明後日の方向を向く。
「────出てこい」
口から発せられたのは命令。そこには何人たりとも逆らえない強制力があった。やがて竹林の間から一人の少女が何かを肩に担ぎながら出てくる。彼女の頭部からは兎の耳が生えている。
「何者だ」
セイバーの威圧に大分気圧されながらも問いに答える。
「わ、私は鈴仙・優曇華院・イナバです・・・。師匠の命で侵入者を排除していました・・・」
そう言って肩に担いだもの────気絶している妖夢をセイバーに見せる。美鈴はそれを見て確然とする。妖夢はけして弱い訳では無い。それがやられたという事は目の前の兎女はそれ以上の実力、更にその口ぶりからすると更に上がいる様だ。美鈴はあまりの戦力差に絶望する。敵はこれ程までに強いのかと────
「成程。マスターの従者か」
「そのマスターって言う人が誰だか知りませんけど・・・貴女が師匠が言ってた助っ人ですか?」
「恐らくそうだろうな」
「恐らくって・・・」
「文句ならマスターに言え。我を呼び出したかと思えばいきなり侵入者を排除しろときた。随分と人使いの荒いマスターだ・・・」
「だからマスターって誰何ですか・・・。と、ところでそこの人、まだ意識があるみたいですけど?」
「む?あぁ、そう言えばいたな・・・」
「忘れてたんですか・・・。まぁ、意識があるなら好都合です。〝コレ〟でやっちゃいましょうか」
そう言って鈴仙は怪しい色の液体が入った注射器を取り出す。
「なんだそれは?」
「〝コレ〟は師匠が調合した薬で意識を混濁させる効果があるものです。〝コレ〟で意識を朦朧とさせてから私の能力で意識を操る事が出来るんですよ。もう既に二人程操ってますし」
説明しながら鈴仙が近付いてくる。
「ま・・・て・・・」
「待ちませんよ」
そう言って鈴仙は美鈴の首筋に注射器の針を近付ける。
「(申し訳ありません・・・お嬢様・・・咲夜さん・・・)」
「諦めました?じゃあさっさと終わらせますね」
針が美鈴の肌に触れる。
「(ごめんなさい・・・皆さん)」
諦めようとした彼女の脳裏に様々な人々が浮かび上がる。主人にその妹、同僚達。最後に浮かび上がったのは────
────銀色の騎士の姿であった。
「ッ!」
鈴仙が指に力を込める。
「(嫌だ・・・)」
針が肌を突き破る。
「(嫌だ・・・ッ!)」
鈴仙が更に指に力を込める。
「( 助けて・・・
ベティさんっ!!!)」
「セヤッ!」
「うわっ!?」
風を切る音がして慌てて鈴仙が飛び退く。代わりに美鈴の傍に立ったのは────
「ご無事ですか、美鈴殿」
「ベティ・・・さぁん・・・ッ!!」
────悠然と佇む銀の騎士。それを見て彼女は意識を失った。
時は少し遡る。ベティヴィエールと妹紅は咲夜とアリスを抱え、竹林の中を歩いていた。その足取りは先ほどよりも速い。原因は謎の紅い輝き。突如発生した光に胸騒ぎを覚えた二人は目的地へ進む速度を早めていた。(ちなみに、妹紅は先程のやり取りがあってから、ベティヴィエールのマントを纏って身体を隠している)
「しっかし・・・何なんだろな、あの光」
「わかりません・・・。しかしあまり良くないものでしょう」
「確かに何か禍々しい感じがしたからなぁ」
「いずれにせよ放っておく訳にも・・・ッ!?」
「なぁっ!?これ・・・は・・・」
彼らを貫く強烈な威圧感。ベティヴィエールは驚愕のあまり崩れ落ちかける。
「(ありえない・・・ッ!これは・・・〝英霊の気配〟ッ!)」
その威圧感はまさに英霊達が発する威圧感に酷似している。これ程の威圧感を感じたのは風見幽香以来である。だがアレは所詮紛い物。借り物の力を振りかざしていただけである。しかし、今度のものは文字通り〝桁が違った〟。そのまま二人が動けないでいるとやがて威圧感は消え去る。
「今の・・・なに?」
「・・・ッ!」
ベティヴィエールは妹紅の問に答えず、彼女に咲夜を渡して走り出す。
「え!?ちょ、ベティ!?」
ベティヴィエールはそのまま威圧感の発生源に向かい走る。数分後、彼が見たのは倒れ伏しているレミリアと美鈴。その近くで佇む少女。そして美鈴に何かを打ち込もうとする兎耳の少女。ベティヴィエールは咄嗟に剣を振るって美鈴から兎耳の少女────鈴仙を離す。
「セヤッ!」
「うわっ!?」
すぐさま美鈴と鈴仙の間に入る。
「ご無事ですか、美鈴殿」
「ベティ・・・さぁん・・・ッ!」
そう言って美鈴は気を失う。無事を確認したいが黒髪の少女から発せられる威圧感がそれを許さない。ベティヴィエールは先程の威圧感も彼女が発生源だろうと当たりをつける。
「ベティ!」
ベティヴィエールに遅れて妹紅がやって来る。妹紅が抱えている咲夜達を見て鈴仙が焦った様な声を上げる。
「嘘っ!?もうやられちゃったの!?」
ベティヴィエールはそれを聞いて鈴仙を睨みつける。
「────一つ聞く。彼女らを操っていたのは貴様か?」
ベティヴィエールの口から普段の彼からは考えられない程の怒りが含まれた言葉が飛び出す。口調も怒りの余り変わっている。鈴仙は気圧されながらも答える。
「・・・そうだけど。それが何か?」
「そしてそれを美鈴殿にも施そうとしていたと言う訳か」
ベティヴィエールは美鈴を見ながら言う。彼の怒りに恐怖し、体が震えだす。鈴仙はそれを抑えながら精一杯の虚勢を張る。
「だ、だから何だって言うの!?敵に容赦する必要何て無いじゃない!」
「そうか・・・ならば────」
ベティヴィエールは鈴仙に剣の切っ先を向ける。
「────貴様の様な外道を斬るのにも容赦などいるまい?」
ベティヴィエールから殺気が放たれる。鈴仙だけでなく傍にいただけの妹紅にも明確に感じ取れる程の殺意。それだけ彼は憤怒していた。
「────待て」
と、ここで今まで何も言わなかったセイバーが動く。鈴仙とベティヴィエールの間に入った彼女は獰猛な笑みを浮かべていた。
「退け。貴様に用は無い」
「それは無理な相談だ。ようやく見つけた〝獲物〟を誰が逃がすと思う?」
「・・・チッ。妹紅あの外道を逃がさないようにしておいて下さい」
「わ、わかったよ。ベティは?」
「私は────」
ベティヴィエールは剣を構える。彼に合わせる様にセイバーも剣を構える。
「ちょ、セイバーさん!?」
「黙っとれい兎。我は────」
「────この獣を仕留めてから行く」
「────この獲物を仕留めてから行く」
────異界の地にて英霊同士が激突する。それは、外の世界は愚か幻想郷の常識すら覆す人知を超えた戦いである事を幻想郷の住民達は知る事となる────