────幻想郷にあるとある庵────
「ふふっ、私が眠っている間に随分面白い事になってるわねぇ藍?」
「はっ・・・」
そこに居たのは二人の美女であった。金色の長髪に、紫の道士服を着た女性、同じく道士服を着ていて、不自然な盛り上がりのある帽子をかぶった女性。後者の背後には狐の尻尾が幾本も蠢いている。藍と呼ばれた女性は畏まりながら話し始める。
「数週間前の事です。幻想郷に正体不明の銀星が落下し、それと同時に一人の外来人の男の出現が確認されています。男の名はベディヴィエール、更に男の知り合いらしきモードレッドと言う女、更に太陽の花畑周辺に〝夜が訪れない〟現象が発生。原因は花畑周辺に〝謎の剣〟を発見しましたのでそれが原因かと」
「ふぅん・・・続けて」
「はっ・・・、モードレッドは霊夢、七色、メイド、庭師の四人と交戦し、少なくとも霊夢を追い詰めています。ベディヴィエールは紅魔館の悪魔の妹を凌駕する実力の持ち主・・・正直、白玉楼の先代の庭師の魂魄妖忌以上の技量の持ち主かと」
「彼よりも?それほどの実力者が・・・何故?忘れ去られた訳でも無いでしょうに」
「結界に異常はありませんでした。恐らく何者かが転移系の術式を使って送り込んだのかと思われます」
「・・・外部の人間が幻想郷の事を?」
「恐らくは。それとベディヴィエールとモードレッドという名前ですが・・・外の世界の書物に同じ名前が乗っていました。しかし・・・」
「何かあったの?」
「はっ・・・、その・・・書物によると彼らが存在したのは今から一五〇〇年程以前の〝ぶりてん〟という国で、しかも彼らは〝存在しない可能性が高い〟人物なのです。」
「・・・つまり私達妖怪に近い側の存在という事?」
「かと思われます。しかし、謎なのがモードレッドの方は書物と性別が違うのです。ベディヴィエールに至っては聖遺物クラスと思われるものを材料にして造った義手を装着しています。いったい何処で手に入れたのか・・・」
「そう・・・ますます怪しいわね・・・、仕方ない、か・・・」
そう言うと女性は立ち上がる。
「・・・どちらへ?」
「決まっているでしょう?彼らの所よ」
「ッ!?危険すぎます!」
「直接見なければ分からないこともあるでしょう?万が一、危険だと判断すれば消えてもらうわ」
「・・・わかりました。しかし、その前にこれを」
そう言って藍は一冊の本を差し出す。
「これは?」
「彼らが載っていた書物です。題名は────」
「────アーサー王物語、と言うようです」
紅魔館での出来事から二週間程が経過した。現在、ベディヴィエールとモードレッドは霊夢達の紹介を受け、人里の守護者、上白沢慧音の家で暮らしている。何故慧音の家なのかというと、ベディヴィエールが慧音が営んでいる寺子屋の教師を務めているからだ。何故こうなったのかというと、霊夢達と人里を訪れた日に、丁度人里を妖怪が襲撃してきたのだが、襲ってきた妖怪達をベディヴィエールとモードレッドの二人があっさりと殲滅してみせたのが理由であった。その事で里の人間から好感を持たれ、更に知識も豊富な事に気づいた慧音が彼を誘ったのだ。ちなみに、妖怪を倒したことにより男の子からは憧れを、その見た目から彼は寺子屋の女の子達に絶大な人気を誇る。教え方も上手く、慧音よりも好評なので慧音自身は複雑な心境である。なお、先日の文々。新聞に載っていた『外来人の男、霧雨魔理沙を調教!?』という記事について子供達に散々問い詰められたのは別の話。モードレッドは寺子屋の生徒の一人であるミスティア・ローレライの経営する居酒屋で看板娘として働いている。モードレッド自身も教養はあるのだが、本人いわく、
「体を動かす方が性に合ってる」
との事だ。その快活な見た目と男勝りな性格から男性客にも女性客にも人気は高い。セクハラ行為を働いた不届き者は問答無用で鉄拳制裁を食らっていたが。
「────ベディ先生さようならー!」
「さようなら。気をつけて帰りなさい」
ベディヴィエールは授業を終えた生徒達を送り出す。子供達は元気に手を振って帰って行った。
「本当にベディは人気だな。私よりも評判いいんじゃないか?」
同じように授業を終えた慧音が話しかけてくる。
「そのような事はありませんよ慧音。慧音だって子供達に慕われてるでしょう?」
「お前程人気では無いけどな・・・。それにしても本当に助かったよ。お前みたいな優秀な教師役何て滅多に居ないからな」
「そう言ってもらえると有難いです」
ベディヴィエールは苦笑する。本当に大した事はしていないと本人は思っている様だが、慧音の負担を大幅に肩代わりしてくれたりなど、こちらの事を気遣いながら自身の仕事を完璧にこなすなど普通は出来ない。慧音はこのままここで教師として暮らして欲しいと本気で思っていた。
「────やっほー、慧音いるー?」
玄関の方から声が聞こえてくる。そのままドタドタと上がり込んでくる。来ていたのは白髪に赤いもんぺの少女────藤原妹紅であった。彼女は不老不死の薬を飲んで不死になった〝蓬莱人〟である。ベディヴィエール程では無いが長い時を生きている。彼女は慧音と同じように親しくなった者の一人であった。
「妹紅か。いらっしゃい」
「こんにちは妹紅」
「慧音。ベディもいたのか。こんにちは」
彼女の態度を最初こそ注意していたベティヴィエールであったが、何度言っても聞かないので既に諦めていた。
「暇だから遊びに来たよ〜」
「全く・・・、少しは他に趣味を見つけたらどうだ?」
「粗方の事はやり尽してるからここに来てんの。慧音といると退屈しないしね」
「それはどうも」
「所でベディ、教師生活はどう?」
「そうですね・・・、随分と充実していますよ。それこそここに来る以前には考えられない程」
「それはよかった。私もここは大好きだからね。所で二人共・・・、このあと、どう?」
右手でお猪口を摘むような仕草をしながら妹紅がニシシと笑いかけてくる。
「そうだな・・・私はいいぞ。ベディはどうする?」
「折角ですので私も」
「よし来た!ならミスティアの店で────」
「────その話、少し待って頂けないかしら?」
突如として謎の裂け目が虚空に開き、そこから一人の女性が生えてくる。
「────初めましてベディヴィエールさん?私は八雲紫。幻想郷の管理者であり、妖怪を統括する立場の者でもあるわ」
「・・・私に何か?」
ベディヴィエールは訝しむ。なぜ今更になって自分の目の前に彼女は現れたのか。そして何が目的なのか。ベディヴィエールの視線に気付いた紫はクスリと笑う。
「ごめんなさいね、最近まで冬眠していたものだから貴方の所に来るまでに時間がかかったのよ」
「・・・妖怪も冬眠をするのですね」
ベディヴィエールは警戒を緩めない。目の前の胡散臭い女妖怪が全く信用できると思えない。
「あら、そんな目で見ないで頂戴?ゆかりん傷付いちゃう♪」
・・・無駄にキャピキャピした言動に気が抜けてしまいそうになる。ベディヴィエールは慧音と妹紅に何時もこんな感じなのかという視線を送るが、返ってきたのは諦めろといった感じの眼差しだった。
「────さて、冗談はこれくらいにして本題に入らせてもらうわ」
途端に真剣な表情になる紫。その身体からは、妖怪の賢者の名に相応しい風格が漂っている。
「貴方ともう一人────モードレッドと言ったかしら?貴方達は何が目的で、どうやって幻想郷に入り込んだのかしら?」
「・・・それはどういう意味で?」
「幻想郷は〝忘れ去られた者〟が辿り着く理想郷。貴方達の様に知名度の高い者達が入り込むことは無い。にも関わらず、貴方達は幻想入りして尚且つ、幻想郷を覆う結界には侵入した形跡が微塵も残っていない・・・、何かあると思うのは当然でしょう?私には幻想郷を守る義務がある。何かあれば貴方達を〝消す〟事も視野に入れています」
「成程・・・どうやらこちらの事も調べられている様ですね・・・」
自分達が円卓の騎士である事、既に死亡している筈の人間だということ、更に存在すらも危ぶまれる人間だということも。ベディヴィエールは嘆息し、今現在でわかっている事を話す。
────青年説明中────
「────つまり何故幻想郷にいるのかもわからず、原因と思われる者は基本接触は不可能だと言うの?」
「はい」
ベディヴィエールは特異点の事や、サーヴァント、自身らが幻想入りした原因であろう花の魔術師について紫に話した。紫は訝しみながらもそれを受け入れた。到底信じきれることでは無いが、少なくとも彼の目は真剣だった。そこだけは信用してもいいと思った。
「・・・わかったわ。とりあえずは貴方を信用しましょう。しかし貴方達が幻想郷に仇なす存在ならば────私が貴方達を殺す。それだけは覚悟しておきなさい」
「わかりました────我々もただやられるつもりは毛頭ありませんが」
「そう・・・なら精々頑張りなさい」
そう言って紫は空間の裂け目────スキマを開き、そこに入ろうとしたところで思い出した様にベディヴィエールの方を向く。
「あぁそうそう、一つ言い忘れていたけど・・・、太陽の花畑と呼ばれる場所なのだけれどね?〝日が沈まない〟のよ。確か貴方達のお仲間にそんな能力を持った人がいたはずだけれど?」
「ッ!?まさか・・・」
日が沈まない────それで思い起こされるのは特異点にて獅子心王のギフトをその身に刻まれた太陽の騎士────ガウェイン。
「まさか・・・彼が?」
「さあ?花畑周辺には〝謎の剣〟が突きたっていたらしいけれど・・・、とにかく貴方達が原因かも知れないから何とかしてちょうだい。彼処に住んでいる妖怪の怒りを買う前にね」
そう言って紫はスキマに入り、帰っていった。
「・・・何か凄いことになっちゃったね」
「そうだな・・・、ベティ。大丈夫か?」
「えぇ、何とか・・・」
「ま、気にしても始まんないしさ、飲みに行こう!」
「お前は・・・全く。まぁ、確かに妹紅の言う事にも一理ある。今は忘れろ」
「そうします・・・」
ベディヴィエールは慧音達と共に家を出る。その間も彼の疑念は晴れなかった。