「────下がれ!」
モードレッドはベディヴィエールを押し退け前に出る。そして幽香が振るう傘を受け止める。モードレッドは幽香の膂力に押されながらも受け止める
「あら、以外とやるのね貴女」
「テメェこそ・・・傘の癖に・・・丈夫すぎンだろォ!」
モードレッドは無理矢理傘をかち上げ、幽香に切りかかるがあっさりと躱される。幽香は剣を躱され、無防備になったモードレッドに傘を振るう。モードレッドは後ろに飛んで躱し、それを追いかけてきた幽香が振るう傘を受け止める。
「モードレッド卿!」
ベディヴィエールが援護に入ろうとするが、
「邪魔すんな!オレだけで充分だ!」
モードレッドは叫んでベディヴィエールを制止する。
────負けられない
彼女の中にはその想いがあった。円卓の騎士として、アーサー王の息子として目の前の女に負ける訳にはいかない。他者の力を借りるなどもってのほかだ。何より〝その剣〟に二度と敗北する訳にはいかない。
「うっ、らァアアアアアアアア!!!」
モードレッドは幽香を押し返した。その光景に幽香は驚き、一瞬力が緩んだ。その瞬間をモードレッドが逃すはずも無く、
「ハッ!」
紅雷を纏った燦然と輝く王剣で幽香の傘を切り飛ばした。幽香は舌打ちし、転輪する勝利の剣の所まで下がる。
「あら、お気に入りの傘だったのだけれど」
「・・・ハッ!テメェの得物を破壊されておいて随分と余裕だなぁ?」
「あら、余裕が無い訳じゃ無いのよ?」
幽香はクスリと笑い────聖剣に手を伸ばす。
「ッ!?待────」
ベディヴィエールが制止の声を上げるが既に遅く、幽香は聖剣を地面より引き抜く。────瞬間、彼女の存在が急激に膨れ上がった様な錯覚────否、まさに幽香の力が膨れ上がっている。太陽の聖剣の加護が彼女に力を与えているのだろう。花妖怪という特性も相まって、並の英霊以上の雰囲気を発している。
「────ふふっ、先程の様には行かないわよ?」
「ッ!!」
モードレッドは剣を構え、切りかかる。が、あっさりと受け止めれる。
「なっ!?」
「・・・少し場所を変えましょうか?」
「ッ!?」
咄嗟に身体の前に剣を構え────そこに転輪する勝利の剣が直撃する。しまったと思った時には既に遅く、彼女は吹き飛ばされていた。モードレッドが飛んでいった方向に幽香も飛んでいく。ベディヴィエールは慌てて彼女らを追いかけた。
「ぐっ、ぅうううう・・・ッ!」
モードレッドは吹き飛ばされ、地面にしたたかに体を打ち付けていた。何とか立ち上がるもダメージが抜けきっていない事がわかる。そこに幽香が飛んでくる。
「あら、もう終わり?存外大した事ないのね」
「言ってろ・・・クソがッ!」
モードレッドは剣を支えにし、立ち上がる。
「丈夫ね貴女。まぁ、すぐに関係無くなるけれど」
そう言って幽香は殺気を放ち始める。確実にモードレッドを殺す気の様だ。それを見てモードレッドはベディヴィエールの〝言い付けを破る〟。
「あら?」
「ッ!ハァアアアアアアアアア!!!」
モードレッドの全身から赤黒い魔力が迸り彼女を治癒、強化していく。その力は先程とは比べ物にならない程強大である。
「悪ぃな・・・こっからは本気だ!!」
「あぁ・・・イイわねぇ・・・そそるわァ・・・」
恍惚の笑みを浮かべ剣を構える幽香。彼女は強者との戦いを好む生粋の戦闘狂でもある。
「そんな顔してられるのも今の内だっ!」
モードレッドは袈裟懸けに切りかかる。幽香はそれを受け止め、お返しとばかりに突きを放つ。モードレッドは紅雷を纏った手刀でそれを弾き、切り上げる。それは幽香の頬を浅く切り裂き、後退させる。
「ッ!やるわね・・・何故最初から本気で来なかったのかしら?」
「めんどくせぇ事に・・・アイツに言われてたんでな!」
モードレッドは紅雷を纏った剣で薙ぎ払う。それを飛び上がって避けた幽香は弾幕を飛ばし、モードレッドから距離をとる。モードレッドは無駄とばかりに弾幕を切り裂き、幽香に切りかかる。かろうじて受け止めた幽香だが、鍔迫り合いに持ち込まれてしまう。モードレッドの力は先程とは比べ物にならないほど大きくなっていた。徐々に押されていく幽香だが、足元の植物を操り、モードレッドに向かって槍の様にして放つ。それに気づいたモードレッドは間一髪でそれを躱す。胸当てに掠るが直接的なダメージは皆無だ。
「ハァ・・・ハァ・・・」
幽香は肩で息をしているが、モードレッドは涼しい顔だ。モードレッドは目にも止まらぬ連撃を幽香に叩き込む。幽香はそれを全て剣で受ける。彼女らの間に無数の剣閃が閃き、一つ閃く事に幽香の傷が増えていく。
「ハッ!どうしたどうしたァ!!」
「ッ!」
既に形勢は逆転している。モードレッドが剣を振るうたびに幽香の傷は増えていく。幽香の剣は掠りもしない。もはや勝敗は明らかであった。
「なぁ、さっさとそいつを渡してくれよ。もうお前はオレには勝てねぇぞ」
「ッ!それは・・・どうかし、っら!」
幽香は剣を振るい、それをモードレッドは受け止める。その反動を利用して幽香は下がる。
「これでも・・・喰らいなさい!」
転輪する勝利の剣に妖力が集中し、力が強まっていく。モードレッドは相手が奥の手を出してきた事を理解した。
「ハッ!上等ォ!」
モードレッドは燦然と輝く王剣を構える。〝宝具〟を解放しようとしているのだ。
「『この剣は、我が父を滅ぼし邪剣』!!」
「『マスタースパーク』!!!」
一足早く幽香がカラフルな光線を放つ。その規模は本来幽香が放つもの以上であったが、
「『
燦然と輝く王剣より放たれし、破滅の紅雷に幽香ごと飲み込まれ消滅した。そのまま幽香は吹き飛ばされる。後に残ったのは抉られた地面となぎ倒された木々のみであった。モードレッドは幽香が吹き飛ばされた方向に歩いていった。
「うぅ・・・」
「見つけたぜ・・・」
モードレッドは倒れている幽香に近づく、その姿は戦場での雰囲気を纏い、普段とは別人の様だった。対して幽香は重症。ボロボロで全身から血を流していて、所々に火傷も負っている。更に気絶しているようだ。モードレッドは幽香にトドメを刺そうと剣を振り上げ────
────一気に振り下ろした所で銀腕に受け止められた。
「なっ!?オイベディ!何で邪魔する!」
それは彼女らを追いかけてきたベディヴィエールであった。宝具の発動を感知した彼はその方向に向かった。その途中で幽香にトドメを刺そうとするモードレッドを見つけたのである。
「モードレッド卿!彼女はもう戦えない!トドメを刺す必要は────」
「────甘い事言ってんじゃねぇぞ!こいつは殺す気で向かって来たんだぞ!?殺されても文句は言えねぇだろ!」
「それでも!無抵抗の人間を殺すなど!それでも貴女は騎士かッ!」
「ッチ!分かったよ・・・」
モードレッドはようやく剣を下ろす。ベディヴィエールは宝具の使用について話を聞こうとし────
────プツン
────た所でモードレッドの胸当てが二つに割れ、硬直する。彼女の小ぶりだが形の良い乳房、その小さな桜色の突起があらわになり、それを目に収めた所で────
「────キャアアアアアアアアアア!!!!!」
────何とも女性らしい悲鳴を上げたモードレッドにより殴り飛ばされ、意識を失った。
「・・・うっ、ここ・・・は?」
幽香は目を覚ました時、そこは外ではなく家であった。しかも、
「(ここは・・・私の家?)」
そう、幽香は彼女の自宅で目を覚ましていた。何故と幽香の頭を疑問が埋め尽くしていると、
「────目が覚めましたか」
「ッ!?」
声がした方向には銀髪黒服の美青年が立っていた。手にはティーカップがのったお盆を持っている。
「申し訳ない、僭越ながら貴女の自宅と思われたこの家に運ばせて頂きました。この紅茶もこの家にあった物ですが・・・どうぞ」
「えっ、えぇ・・・頂くわ」
幽香は茶を受け取りながら周囲を確認すると少し離れた椅子に顰めっ面をして目に見えて不機嫌な少女────モードレッドが座っていた。目の前の青年────ベティヴィエールにも見覚えがある。幽香は青年が差し出した茶を飲み(「美味っ!」)、何故こんな事になっているのか聞きたかったのだが寝起きで混乱していて的外れ事を聞いてしまう。
「その・・・私を運んだってどんな風に?(って何を聞いてるの私は!?)」
「・・・?横抱きですが何か?」
その言葉を聞いて幽香は暫し思考する。
横抱き=お姫様抱っこ+目の前の美青年=気絶した自分を抱える美青年
「〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!?」
幽香は顔を真っ赤に染める。自分は何て恥ずかしい事を!?とパニックになっている。対してベディヴィエールは何故幽香が顔を赤くしているのか分からない。モードレッドにぶっ飛ばされて意識を失い、ようやく起きた後、傷ついた幽香を彼女の家と思わしきこの家にモードレッドと共に辿り着いた。幽香を横抱きに抱えている間、モードレッドは何故か不機嫌だったが今はいい。幽香が起き、何故か自身を運んだ方法について問われたので答えたら彼女が真っ赤になった────何故?ベディヴィエールは何処か悪いのかと幽香の額と自身の額をくっつけ、熱を測る。幽香は一層顔を真っ赤にし、ベディヴィエールは「やはり体調が・・・?」と的外れな事を呟いている。そんな彼を見てモードレッドが益々機嫌を悪くするが気付かない。
「どうやら体調が良くない様ですね。さ、横になって休んで」
「ッ!?いやっ、大丈夫!大丈夫だから!」
「いやしかし」
「大丈夫だから!!」
「?わかりました・・・!」
ベディヴィエールが離れると幽香はようやく平常心を取り戻す。ベディヴィエールは幽香を見て大丈夫そうだなと判断し、当初の目的について話しかける。
「それで・・・ミス・風見。転輪する勝利の剣についてですが・・・」
「・・・」
幽香は無言になる。自分を助けてくれた人物とはいえ、花達に活力を与えるあの剣を渡す事は出来ない。あれがあれば例え冬だろうとその命を枯らさずに花達は生きる事が出来る。だから渡せない────そう応えようとした所で、突如、モードレッドが口を開く。
「言っとくがあの剣を使うのは辞めとけ。あのままじゃ花も耐えられない」
「・・・それはどういう意味?」
「決まってる。普通の花が長時間聖剣の力を受け続けてる時点で奇跡だ。あれ以上受け続けたら全て枯れ果てるぞ」
「なっ!?」
幽香は驚愕する。花達を害していたのが自分だったなんて────
「────そしてそれはお前にも言えることだ」
「・・・私に?」
「あぁ。確かにお前は並の妖怪よりゃ強えよ。お前の妖気に当てられ続けたのが花達にも良かったんだろうな、だから聖剣の力に耐えられた。だけどお前は直接聖剣の力を引き出しやがった。あれ以上続けてたらお前の体は文字通り〝弾け飛んでいた〟ぞ」
「ッ!?」
幽香は自信がとてつもなく危ない橋を渡っていた事を理解する。モードレッドに助けられた事も。
「・・・感謝するわ。私を、花達を救ってくれてありがとう」
「・・・気にすんな」
幽香が礼を言うと、照れたのか顔を赤くしながらモードレッドは顔を逸らす。そんな姿をかわいいと幽香は思った。
「それでは・・・聖剣はこちらで回収させて頂きますがよろしいですか?」
「構わないわ・・・あぁそう、貴方達の名前を聞いていなかったわね」
「これは失礼を・・・ベディヴィエールと申します」
「モードレッドだ」
「そう・・・お二人共、またいらっしゃい。歓迎するわ。それとベディヴィエールさん。この紅茶とても美味しかったわ。また入れてくださる?」
「ありがとうございます。それならば次の機会にでも」
「えぇ、楽しみにしてるわ」
ベディヴィエールと幽香が笑い合う。モードレッドはそれを見て不機嫌そうに、
「・・・オイ、人里に戻るぞ!慧音達にも報告しなけりゃならないんだ!オレは店があるしな!ほら、帰るぞ!」
「えっ、えぇ、それではミス・風見────」
「────幽香」
「えっ?」
「幽香と読んで頂戴。私もベディって呼ぶから」
そう言って可愛らしく微笑む幽香。ベディヴィエールも同じ様に微笑み、
「えぇ────それではまた、幽香」
そう言ってモードレッドと共に去っていった。なお、最後のやり取りがモードレッドを更に不機嫌にしたのは言うまでもない。幽香は微笑んでいた────少しだけ頬を赤く染めて────
────幻想郷のとある竹林の中
そこの名は『永遠亭』。幻想郷の迷いの竹林と呼ばれる場所にある屋敷。そこの縁側に黒髪で薄桃色の着物を着た少女と銀髪で真ん中で赤と青に別れた変わった服装の女性が月を見上げて佇んでいる。
「────いよいよね永琳」
黒髪の少女が銀髪の女性に話しかける。永琳と呼ばれた女性は「そうですね」と返答する。
「性懲りもなく私達を連れ戻そうと言うのだから・・・。向こうも暇な事ね」
「ですが厄介な事に変わりは無い・・・一週間後の満月ですか・・・」
「えぇそうよ。満月さえ乗り切れば・・・」
そう言葉を切り、月を見上げる少女。
「────誰が帰るものですか」
月を見上げる瞳は強烈な意思を宿していた────