毎度ちょこちょこ視点が変わるのは申し訳ない。なんか主人公視点だと内面の感情とかも透けちゃって可愛く見えないのよw
「予想より早くエ・ランテルに着きそうだな。アイコ殿のおかげで助かった。礼を言う」
「い、いえこれはお父様が運んでくださったので礼なら、あ……会うの大変ですよね」
「あはは、あの森に踏み入るわけだからな。礼をするのに一軍が必要かもしれんな」
昨日の会話の中で一番の問題だったのだが、10人ほどいる捕縛された騎士の運搬方法だ。村には多少大きな荷車もあったが、とても大の男10人を運べるものではなかったため、アインズに連絡を取り大きな馬車を用意してもらい、その荷台部分をシャルティアに運んでもらったのだ。
『馬はすいません、ちょっと現実的にまともなのがいなくてですね、そちらの捕えた馬を使ってくれればと。それで申し訳ないんですが返却時に馬を頂けませんかね? こっちでも使おうかなーって』
アインズもこの世界でのまともな移動手段を手にする必要があると感じたのだろう。アイコも快く了承し今に至るというわけだ。
「それにしても転移とは便利なものだ。昨夜はゆっくり休めましたかな?」
「ええ、でもソーコが。毎食会えるし、夜も一緒なのにグズっちゃって大変でしたよ」
「あ、ああ。ソーコ殿だな……そ、それはすごく愛されているのだろうな」
そして私たちはすでにカルネ村を出立して一晩を越えている。昼前にはエ・ランテルに到達できるだろうとのことだ。
村では現在復興計画が相談されている。幸いなことに村に一人の死者も出なかったのだが、近隣の村がモンスターではなく人間によって全滅したとあっては、森の拳王の恩恵に胡坐をかいてはいられない。
私も何か役に立ちたいとは思ったのだがこんな状況。夕方から明け方にかけては自宅にいるので、治療などが必要になったら遠慮せずに扉を叩いてくださいと告げ。『水の女神』の指揮権をソーコにも渡し、強さも証明されているソーコに手伝いを一任している。
「わぁ! 見えてきましたね!」
「あれが城塞都市エ・ランテルです」
こうやって御者席に二人で並んで座っているのも嬉しいのだけど、せっかくの異世界なんだ。中世っぽい街並みの観光も楽しまなくちゃね。手綱を握るガゼフの横顔をチラリチラリと見つめながら、(手綱をパァン! ってやって「ハァッ!」とか言ってくれないかな)なんて思いつつ、一行はエ・ランテルに到着するのだった。
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「ぷひー。ぶじでかえってきてくれてなによりだよ。ストロノーフくん。それとちょっとおどろきすぎてあやうく素にもどるところだったよ」
「出立時には挨拶もしませんで。誠に申し訳ございませんでした」
現在私とアイコは街のお役所。その最高責任者である都市長の私室に赴いている。此度の任務は王命であるが故秘匿されていたものだが、都市長には内々に情報が通っていたのだろう。
そして私たちがここに訪れたのは罪人の受け渡しだ。騎士たちを最終的には王都まで輸送させるわけにはなるが、それを私たちがする必要はない。副長の言葉ではないが、彼の者たちが貴族派閥の誰かに繋がっていない保証もなく、初期段階での審問は王の直轄地たるエ・ランテル。その信頼厚いパナソレイ・グルーゼ・デイ・レッテンマイア都市長にお任せしようと考えていたからだ。
素に戻るとは……まあこの少女のことだろうが、こうやってドレスに着飾るとますますラナー王女に似通って見える。早着替え……アレも魔法の一種なのだろうか。少々サイズが合っておらず色々見えてしまいそうで危険だったワンピースから一瞬で蒼いドレスに替わったのには驚いたものだ。
「ようけんはりょうしょうした。しかし……ストロノーフくんにもようやく春がきたのか。ぷひー。かわいらしいかたではないか」
「なっ!? いやこれはアイコ殿が手を放してくれなくてですな、そろそろ手を離してはくれないか?」
「んふー。イヤですが分かりました。都市長様初めまして、アイコ・ウール・ゴウンと申します。頑張ってご期待に応えますからねっ!」
「はっはっは! いやこれは一本取られた! 変なしゃべり方をして済まなかったな。その若さで回復魔法の使い手とはさぞかし才能がおありなんだろう。これは王が涙を流して喜ばれるな。」
この都市長は所謂やり手だ。頭も切れるし駆け引きもうまい。それをしてアイコが間諜の類ではなく本気で自身を慕っているのを見抜いたのだろう。
馬車で散々彼女から告白めいたものを聴かされているし、馬車を下りるときに差し伸べた手はついぞ離されることは無かったのだ。私だってそれは無いと確信できてしまう。
いや違うそんな話ではなくてだな。いかんこの娘にペースを乱されまくりだ。
ガゼフの知らぬところではあるが、現在この都市庁舎は騒然としている。曰く『あの黄金の姫が頬を染め、王国戦士長の手をつかみ、まるで恋人のように親し気に』といったとんでもない誤報が乱れかっているのだ。何気にこの噂が王都に届くのが先かガゼフたちが先に到着するのか。いろんな意味で王が涙を流すピンチかもしれない。
「今日はこの街に泊っていくのだろう? 私が最高の宿を手配しておこう」
「いやっ!? それは……」
「ありがとうございます。でも私は戦士団の方と一緒にこちらに泊めていただけるだけでよろしいのですが……宿代がもったいないですし」
もったいないというか、転移されるのだから必要が無いのだろう。
「ますます出来たお嬢さんじゃないか。ストロノーフ君も大切にするのだよ。それなら良い部屋を用意しておこうか。是非我が街も見学して行ってくれ」
「はい、ありがとうございます。んふふーガゼフ様、案内よろしくお願いしますね」
「あ、あぁ」
いろいろ突っ込みどころがあるのだが、自身もその予定であったので、都市長に礼を言い再び手を取られて退出するのだった。
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「住民登録も済んで良かったです。ソーコも家にいて助かったわ」
「そろそろアイコ様が戻られると思い木材の切り出し作業から抜けさせていただきました。まあこのゴリラが付いているのは残念ですが」
「ごっ、ゴリ!? いやしかし本当にカルネ村から連れてきたのだな……転移とは違うのか。なるほど確かに秘密の魔法とは納得だ」
泊まる予定の都市庁舎の一室を借り、カルネ村からソーコを<
私は別に自身が使える力を出し惜しみするつもりも無いが、それで面倒事になるのは避けたい。<
ガゼフから冒険者登録をするという手段もあると教えられたが、長く依頼を受けなかったり、失敗が続いたりすると登録を剥奪されるのだそうだ。それはそうだろう、戦争に出なくてもいいみたいだし、それなら国中の民がこぞって冒険者登録をしてしまう。
先日の夜の情報交換でどうやらモモンガちゃんは本日にも冒険者になるとのこと。危ないからやめなよとは言ったけど、『息抜きが……息抜きがしたいんです……』という悲痛な声に、あーそういう理由かと納得もした。
冒険者と聞いて私の頭によぎったのはラノベでよくある『ゴブリン討伐』と『薬草採取』。多分mobを倒しても光になって消えるとか無いわよね……鈍器でぶちゅってなるのよね……だめだわそれ。薬草はソーコは採れそうだけど私は多分ダメな気がする。そんな思いもあり普通に住民登録をさせてもらったわけだ。
「それで昼食はどうなされるのですか?」
「都市長様から美味しい料理を出すお店を紹介されたの。ホントは遠慮したかったんだけど、いろいろ断りすぎてもなんだと思って。ガゼフ様、ソーコもいいですよね?」
「あぁ、もちろんだ。私も以前料理を堪能させてもらったしな」
お代は任せろと言うガゼフだったが、店の食材をソーコに食いつくされても何なので携帯食料を今のうちにモグモグさせておくのは忘れない。
…………
……
…
さて、何故この千載一遇のデートのチャンスを潰したのかには訳がある。一つはやっとお買い物が出来るからだ。都市長から食事代として金貨を一枚貰っているのだが、村長に聞いた貨幣価値を考えるととんでもない額だ。所謂討伐報酬を管轄都市から出せない心苦しさからだから遠慮なくと言われて受け取ってしまったわけだが、考えてみたらこの国の貨幣を得る方法が今のところ無いわけで、ありがたく頂くことにしたのだ。
ガゼフにも許可を取ってあり食事の後に私とソーコの生活雑貨を見て回ろうと思っている。あと下着も。
そしてもう一つがこの都市の門をくぐってしばらくたった頃、悪意の視線を感じたからだ。視線は最初は荷台に乗せられている騎士に注ぎ、次いでガゼフに。最後には私に注がれ悪意の感情が大きくなるのが分かった。
最初は路地から。次いで通りの脇の商店の屋上から。なかなかに機敏な動きで、私たちが都市庁舎に入るのを見送っていた。
もちろん魔法で視線を飛ばし容姿も確認している。そしてあの表情には見覚えがある。狂喜、嫉妬、歓喜とでも言うのだろうか。いつかはそんなことも起こるんじゃないかとは思ってはいたのだ。
確実にガゼフに好意を寄せている女性。もしかしたら昔付き合っていた女性なのかもしれない……怖くて尋ねることも出来なくてずっと手を握っていたのは、そんな理由もあったからだ。
なごやかな昼食を終え、三人で生活雑貨を買いあさった後再度その視線を感じる。女性用の服飾専門店を見つけ、ガゼフには店の前で少し待っていてもらい、ソーコと一緒に店内に。引き留めようとするソーコを説得して私は裏口から店外の裏路地へ。女の戦いを挑むために声をかけるのだった。
「わかっています! あなたもガゼフ様を好きなんだって!」
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――ねぇえええよ!! ぶぁあああか!!――
そう言ってやりたい、ぶん殴ってやりたい気持ちを寸での処で抑えることが出来たのは奇跡としか言いようがない。
スレイン法国から至宝をちょろまかした後まっすぐエランテルに。しかしてこの至宝も使い道がなかったなと考える。これのせいで風花聖典の追手が無い訳がなく、まずはとエ・ランテルの地理の把握や退路の確保などに奔走していたのだが、その際やたらと目立つ馬車と騎馬の一団を発見してしまう。
なんだろう罪人の護送か? 荷台を見ると一人見知った人物が。確かペリュースとかいう金持ちボンボンに付いてたやたらと糞真面目な……名前は知らないが間違いないだろう。
どういう状況だかさっぱり飲み込めず、御者席を見ると資料では見たことがある存在ガゼフ・ストロノーフが。もしかして法国の何らかの作戦……端的に見たらガゼフ暗殺などだろうが失敗しちゃったのかな? なんて考えて愉悦に浸る。
もう少しはっきり見て見たいと先回りして屋根に上り確認すると、その隣には田舎臭い服装をしながらも顔立ちの整った少女が。そしてこれも資料上でだけだが知っている存在『黄金のラナー』ではないのかと思われるのだが、その服装とその状況がそれを否定する。
こうなってくると訳が分からないが、あの王女様っぽい娘をぶっころしちゃったら護衛であろうガゼフはどんな顔をするだろうと想像し、思わず笑みがこぼれてしまう。
都市庁舎に入るのを確認後、さてどうしてやろうかなんて考えるも手を出すことなどはしない。負けるとは露ほども思わないが、自分と互角の戦いが出来る数少ない一人であるガゼフを敵に回すのはこの現状避けるべきであるからだ。
そうなると今後のガゼフの動向次第ではズーラーノーン幹部カジットの策にも、また自身の逃走にも問題が生じるわけで、庁舎から出てきたドレスに着替えた少女と何故かメイドを引き連れた三人を尾行していたはずなのだが。
「わかっています! あなたもガゼフ様を好きなんだって!」
「くっ!? ぐぅっ!?」
まさかそいつが背後から現れて自身を指さし、頭おかしいことをのたまうとはだれが想像できるだろうか。お前通路を挟んで反対側の店に入っただろうが。
「やっぱり……綺麗……それに多分戦士なんだ……やっぱり隣にいるにはそういう娘の方がいいのかな……」
「……」
どうしよう……隙とかそんなもんじゃねーぞ。無防備すぎるだろう……このクレマンティーヌ様が路地裏で少女を刺殺した? ガゼフの動揺は見て見たくもあるがそれはねーよ。
「でもね……私の初恋なのよ! 言っても分からないでしょうけどクソみたいな世界で生きてきて、この年になって初めて好きになっちゃった人なのよ! 私を殺したくなるのもわかるよ……でもまだやっと手を握ることが出来たくらいの仲なんだ……あなたが思ってるような関係じゃないの」
「……」
もう殺しちゃってもいいんじゃないかな。違う意味でぶち殺したくなってきたが待て、ここはどうにでも出来る。とにかくこいつらの動向さえわかればいいんだと、一度大きく息を吐きだす。
「い、いいんじゃないかな~? 私は、ほら、あれよ、恋人? とかじゃないからどうでもいいのよ。あなたたちは、お、お似合いだと思うよ? それであなたたちはこれからどうするの?」
瞬間、タッタッタと駆けてきたかと思うと、瞳を覗かれる。すごい近いんだけど。
「ヒッ!?」
「ほんとぉ? 私たちは明日にでも王都に出立するの。良かった~私他にも第三王女とかいうのも怪しいって踏んでるんだぁ……なんか戦士団のみんなが王女がどうこういいながら私を見てくるから」
こいつ警戒心とかいうものが無いのか? 思わず変な声が漏れ、冷や汗が流れる。しかしながら目的も達成できたことだし、次いで言うならこいつを殺す理由がなくなった。こいつ多分王都でなんかやらかすこと間違いない。
トラブルの芽をつぶしてしまうのは惜しくもあるし、早々に退散するか……さて私がガゼフの過去の愛人かなんかだと勘違いしてたんだろうが冗談じゃない……うん。
「それじゃ、あなたもあの人に壊されないように気を付けてねぇ~。聞いた話だとあいつのスゴイデカイらしいから、じゃぁねぇ~」
途端どさっと膝をついて崩れる少女。ぶつぶつと「マジで!? そうよね外人っぽいものね……」とか聞こえるが知ったこっちゃない。多少の鬱憤は晴れたと近くの壁を蹴り屋根に上って逃走を図るのだった。
その後、ガゼフとソーコに散々説教を受けることになるのだが、「アイコー! どこだー!」と自身を探す叫び声を思い返し、終始ニコニコ顔のアイコさんであった。
どんどん増える文字数。途中『夜の武技!』とか下ネタをノリノリで書いていたのですが、一晩置いて冷静になって全部消しましたw