明けて翌日、エ・ランテルを出立した私たちは一路王都へと向かう。もう少しのんびりでもいいとは思うんだけど、いち早く王へ報告を済ませねばならないとのこと。なんとこの戦士団、王都からカルネ村まで、他の村々を回りつつ七日で到達したのだそうな。
村長宅で見た地図の縮尺が合っているなら、私たちがカルネ村からエ・ランテルまで到達するのに二日。そうするとその速度だとエ・ランテルから王都までは十日以上かかるはずなのだから、街道をショートカットしたりといかに急いで駆けつけてきてくれたのかが分かると言うもの。
だが今回の帰路は実質村を救った立役者の娘、
箱馬車の中で一人でそんなことを考えながらぼーっとする。失敗した……映画とかではよくあったように思うんだけど馬の二人乗りってダメなのね。
騎士たちを運んだ荷馬車は返却の趣を伝えていたので、私をどうやって王都に連れていくかの問題に、ガゼフの馬に乗せてもらえばという私の思惑は叶わなかった。そこらを軽く歩かせる程度でなら二人乗りも可能だが、重量やスペースの問題もあり、ガゼフが都市長に掛け合って箱馬車を用意してもらったのだ。
「ワンコたちの方が良かったけど馬が怯えるんだよね……」
空を飛ぶのは却下、シルバー・ウルフ程度で怯えるなら他の召喚もダメ。流されるままに乗ってしまったが……暇すぎる。ガゼフはこの馬車を操っているのだが、この箱の中からじゃ見えやしないし声も届かない。左右の小さな小窓から外の様子はうかがえるが、こう振動が激しすぎると景色を楽しむこともできない。
「シャルティア、もう街を出たから不可視化を解除しても大丈夫よ。馬車の受け渡しまでちょっとおしゃべりでもしましょうよ」
「そうでありんすか? では失礼して……改めましてお久しぶりでございます。先日の朝は大変すばらしいものを拝見させて頂いて、あまり言葉を交わせなかったのが惜しかったと思っていんした」
「う、うん。そうね」
シャルティアはあの荷馬車の返却要員だ。もう少し街から離れた街道でシャルティアに登場してもらい受け渡すことになっている。
つまりこの旅の間中、睡眠時などカルネ村に戻っている間は別ではあるが、移動時は護衛としてシャルティアがずっと付いていたのだ。
そんな大げさなとは思ったのだが、<
「うーん……それにしてもシャルティアって覚えてるのと違うんだよね。銀髪で……確か黒いドレスを着ていたような記憶があるんだけど」
「ええ、その通りでありんす。これはアインズ様の策で、なんでも『アイコさんがいた限り他のプレイヤーがいる信憑性がより高くなった。知られているであろう守護者達が外に出る場合は軽く変装をしてもらう』とのことでありんして」
「へー、なるほどねぇ。アインズさんもシャルティアを大事にしてるんだね」
アインズ・ウール・ゴウンを広めるなら矛盾した考えにも思えるけど、娘たちがその名前だけで傷つけられるかもしれないって考えたら、対策は取るよね。
1500人の大侵攻か……昼の部専門の私が知ったのは次の日だったけど、確か階層守護者は第七階層まで倒されてて顔バレもしてるんだったか。
現在のシャルティアは薄い金色の長い髪を高めの位置で編み込んでポニーテールにしている。なんというか気品があって可愛い。そして装備というか服は光沢のある真っ白なドレス。変装の定義を見失いそうになるが、どこぞのお姫様と言われても不思議ではない装いだ。
「これでもナザリックで一番の衣装持ちでありんす。ペロロンチーノ様曰く『同じジャンルばっかりやってたら飽きるからね』とのことで、今回の任務にふさわしい衣装を選ばせていただきんした」
「ふさわしいかどうかは別として可愛いなぁ。髪の毛はアインズさんにやってもらったの? あれ? 髪型って変えられるの!?」
「な、なにを驚いてるのかはわかりんせんが、これは
ユグドラシルで髪形を変えるとしたら外部ツールで外装を変更しないといけない。髪色は確か染料とかのゲーム内アイテムがあったけど、これも外部ツールでいじった方が複雑な色は指定しやすかった。まあ外装変更費用がかかるから一度決めたら髪形を変えるなんてしないんだけど、そうか出来るのか……考えてみればソーコもお風呂の時はポニーテールじゃなかったわ。
「んふふ~良いことを聴いたわ。今度ナザリックにいったら私もやってもらおうかなあ」
「なっ!? それでしたら私がやりたいでありんす!
「うん…………ん?」
「アルベドから聴いておりんす。なのでこれも持ってきたでありんす」
シャルティアが中空から取り出したのはあの『天使セット』の翼だ。いや、ちょっと待てよと装備するシャルティアの翼を見ると自分の持ってるやつと微妙に違う。
「あーそれ値段が高い方の翼だ! いいなあそれ動くんだよねぇ」
「そ、そうなのでありんすか? 私の鎧についているアクセサリーでして、今回の為にこれだけ離しておいたでありんす」
「う、うん。もうなんとなくわかった」
鎧というのが何なのか知らないけど、たぶんメインの戦闘装備みたいのがあるのだろう。
そしてアルベドから聴いたというのはあの『夫婦設定』のことで間違いないだろう。モモンガちゃんが『ほうれんそう』を徹底しようとか言ってたし、アルベドも嬉々としてシャルティアに語ったのは間違いない。
「アイコ様の生みの親としてふさわしい恰好にさせていただきんした」
「あー、生んじゃったかぁ」
それは予想外だったわ。つまりアルベドさんの方が義母になるわけなのね。妹とかじゃダメなのか……ダメなんだろうなあ。いろいろと無理があるとは思うのだけど、確かテーブルトークRPGをやっていたゲーム内の知人が『キャラクターの裏設定なんて言ったもん勝ち』とか言ってた気がする。
「うん、よし、それでいってみましょうか。ゴウン家複雑になってきたけど」
「やった! これでアルベドに追いついたでありんす!」
愛憎渦巻くゴウン家を想像し、あと何人か家族が出来そうだなーなんて思いつつ、まあモモンガちゃんも喜ぶだろうしそれでいいかとぶん投げる。
ガゼフについては「人間でありんすか?」「じゃぁアインズさん」「お似合いでありんす!」コンボが決まったので大丈夫かな。頼むわよ。
なお馬車の受け渡しは、街道先に転移してスタンバっていたシャルティアにより予定通り行われたのだが、何故か手を組み跪く戦士団。服装は違うけど顔はそのまんまだから分るよねぇ……そういえば出立の時も旅の安全をとあの像に祈りを捧げていたっけか。王都にまで変な宗教が蔓延したりしないわよね……
ガゼフも少々呆けていたが私の説明により納得したのかしていないのか。妻が二人いたり彫像の製作者がモモンガちゃんになってしまったりしたがしょうがない。
「な、なるほど……ゴウン殿は……すごいのだな」
「ああ、うん、はい」
何気に一番のとばっちりはアインズ・ウール・ゴウンその人だった。
●
エ・ランテルを出立してから三日目。連日馬車の中で、王都までは護衛をさせていただきますと言うシャルティアとおしゃべりをしているだけなのだが、昼過ぎにモモンガちゃんから連絡があり、トブの大森林で『森の拳王』を見つけたとの報告が。
『もうほんと……ガッカリしないでくださいよ』とのことだったが、支配下におさめカルネ村にいるとのことなので、いつもの夕暮れ一時帰宅時に会わせてもらうことに。
「うわぁ! かわいい!」
「かわいいでござるか? それは照れるというか複雑でござるが……それがしは森の賢王。新たに殿にお仕えすることになったので、よろしく頼むでござるよ」
「良かった……俺の感覚間違ってないよな……アイコさんまですごい威圧感だとか言い出したらどうしようかと」
自宅の噴水前で紹介されたこのでかいハムスターが森の拳王だとのこと。なんだかモモンガちゃんもいろいろあったみたいだが、見覚えのない女性もいたので紹介してもらう。
「こちらが今回の旅の相方のナーベです」
「ユリ姉さんからお噂はお伺いしております。プレアデスのナーベラル・ガンマと申します、どうぞよしなに」
「そっか、ユリの妹さんの一人なのね。あなたも綺麗ねぇ……とにかくよろしくね!」
彼女とも話してみたいが今はアレをもふりたくてたまらない。だがモモンガちゃんが何か話があるそうで、まずはそれを聴くことにする。
なんでもこの『森の拳王』を支配下に置いたせいで森の生態系が狂うのだそうな。いやそれ以前に狂い始めていたらしい。そしてモモンガちゃんに付いていくという事なので庇護下にあったカルネ村が危なくなるかもしれないとのこと。それは困ると言おうとしたがモモンガちゃんに優しく肩を叩かれる。
「よろしく頼むぞ。二代目拳王」
「ふぇっ!?」
「頼むぞ? シャルティアの娘」
「……」
二言目にぼそっと耳元でささやかれた言葉に何も言えなくなる……あれ? ちょっと怒ってる? ナザリックでなんかあったのかな? うん、なんか大変そうね。まあこの村は守りたいけど今はちょっと厳しいのはモモンガちゃんも知ってるよね? うーん……
「わかりました引き受けましょう……その代わり依頼を受けてもらえないかな?」
「依頼ですか?」
「昼からいるならわかるかもだけど、カルネ村は復興作業で人手が足りないの。期間は私が王都から戻るまで。報酬は国から貰えるらしい報酬からになるけど、どう?」
もちろんあの戦闘の報酬は半分こで渡す予定だったから、それとは別にだよと言っておく。うんうん唸っていたアインズであったが、「あれ? 息抜きじゃないの?」と聞いた途端今思い出したかのように「あ!」と呟き、同意してくれた。
なお薬草採取の依頼主と同行の冒険者がいるので、彼らと相談してからということに。ただンフィーレア・バレアレという少年がエンリの幼馴染らしく、アインズが街で使った赤いポーションとソーコが使っていたポーションの色を覚えていたエンリの話から何か繋がりがあるんじゃないかと考え、エンリの父や村長から『アルベド』の名前を知り。旅の途中うっかり口を滑らしたナーベラルの言葉から、現在冒険者のモモンと名乗る男がアインズであると知られてしまったそうな。
うーん、アイコ・ザ・ダークウォーリアーか……いや、ちがうちがう。娘とバレようがそれ自体が虚偽情報だし問題ないとは思うが、ポーションの色にタレントか……私も情報不足が否めないな。
「何やら話が進んでいるようでござるが、ちょっと待ってほしいでござるよ殿」
「ん? なんだ?」
何やら困ったように首を傾けるハムスター。かわいい。
「いくら殿の娘とはいえ、強そうには見えないのでござるよ。とても森を支配できるようには……」
「黙りなさい! 虫けらの分際で!」
「あぁよい、ナーベラルよ。見た目では無理もない事だ。アイコさん?」
「え? ああ、じゃぁちょっとだけ」
息をスーッと吐きだし斜に構え拳を突き出しハムスターに対峙する。
「よしっ……うぬが森の拳王だと? 笑止! 我が拳をもって本物の「あ、アイコさんそういうのいいです」はい」
「それがしとやりあうつもりでござるか? ふっふっふっ、殿には後れを取ったでござるがこのような幼子に負けることは無いでござるよ!」
「うん、わかったから、全力防御してね。いくよ? パンチ!」
「うぐぉぉうわらばぁ!?」
瞬間大砲を撃ったような「ドグォオオオン!!」とか言う低い打撃音がさく裂し大きな毛玉がものすごい速度で森の方に転がっていく。
「結構固いわね、お腹に穴が開かなくてよかったわ」
「手加減したんですよねえ? 別に魔法とか見せればそれでよかったのに」
「ゆ、ユリ姉さまより過激な……いえ、さすがアインズ様の御友人であらせられますね」
とにかくもふりに、じゃなくて助けに行かなきゃと結構な数の木をなぎ倒した先にいた毛玉に回復をかけ、かついで家の庭まで運ぶ。翌朝目を覚ましたハムスターに直々に『二代目森の拳王』あらため『森の女王』の称号を勝手につけられ平伏されるのだった。なお倒した木々は村の柵の材料になったようである。
ンフィー君たちの説得まで書こうと思ったけどきりがいいのでここまで。
いやあれですね、このお話の中ではエンリがアルベドの名前を知らないだろうからンフィー君はどう考えるだろうって色々考えてたんですが、こんな形に落ち着きました。
年末年始はお仕事忙しいので次回は一月四日以降になると思います。すまんのw