書きたいネタは多々あるけど、それをやっちゃうと本筋が進まない……オリ主よりソーコさんのお話が書きたいw
確定情報は少ないが、見えてくるものはある。昨日夜のガゼフの報告で、一人メイドの少女が加わったものの、より軽視できない存在になったというだけで、対応は変わらない。
ただ表立って出てきた四人の……いえ五人の思考の方向性が一致していない点が気になるところだろうか。
まず父親である
そしてガゼフへの尋問で二人目の妻がいることが分かったものの、その遭遇場所がおかしい。次いでに言うなら王都にはアイコと言う名の少女しかおらずメイドはエ・ランテルから着いてきてはいないという。
この不可思議な話にガゼフが何も疑うことなく真実を話しているという体で言葉を紡ぐのだ。父王は頭の中で適当な整合性を付けてでもいたのだろうか。
(もう少し魔法の勉強もしておくべきだったわ)
魔法は使えないけれども、そこらの魔法詠唱者と比べられない程の知識は持っている。それでも限度を超えた情報は持ち合わせてはいなかった。そもそも魔法詠唱者の扱いが低い王国で、それだけの情報を有している自分以上に知識があるのは、現役でトップクラスの冒険者くらいだろう。
『転移魔法』というのがあるのは知識の上では知っているが、どこまでの事が出来るのかどの程度の制限があるのかは分からない。ただ確実にこの五人のうちの複数人が転移魔法を使えることになる。それほどの実力者の集団という事であり、一人として侮っていい存在はおらず、下手を打てば国がひっくり返る事態にもなりかねない。
それはそれでどうでもいいのだけれど、道連れは御免だ。
「ラナーにしては考え込むのね? 確かにガガーランがうちに引き込もうとか言ってたけど……」
ラキュースから最低でもアイアンクラスの筋力はあるんじゃないかという話も、考えてみれば少々おかしい。この集団は力を隠そうとしてるようでいて、その実透けているのだ。
そもそも前提として全員を……いや、それ以上いるであろう者たちを取り込もうと考えること自体間違っている。対するはアイコと言う名の少女だけでいいのだ。手駒としてラキュースより優秀なのは確実。透けている実力の理由が馬鹿であるからならまだしも、力の加減が分かっていないなどという神の視点にある物なのか。どちらでもかまわないが、頭の悪い者でないことを願いたい。
「とにかく……うん? 来たみたいね。ラナーも驚くわよ?」
「うふふ、楽しみだわ。クライムったらノックなんかして……いいって言ったのに」
「それは……相変わらずクライムも大変そうね」
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部屋の中からの声にクライムが扉を開け、彼に続いて入室する。それほど大きくもない居室の小さなテーブルに、二人の女性がいるのを見とめ、先ほどと同じように礼の姿勢を取り言葉を待つ。
砕けた態度で構わないのではないかと言われもしたが、それはそれ。表情まで変えてはいないが、王女様が相手では失礼な態度はとれない。
「もうクライムったら、ちゃんとお話はしたの? アイコ様、どうぞお立ちになって下さい」
「その手慣れた跪礼はなんなのよ。ふふっ、あなた平民を偽る気がさらさらないわよね」
ゆっくりと立ち上がりいたずらっ子のようにニコっと微笑む。
「はじめまして王女様、アイコ・ウール・ゴウンと申します。ラキュースさんのようにアイコと呼んで頂ければ。それと私は平民ですからね? 冒険者やってる元貴族も平民じゃないのって突っ込みをしてもいいのですよ」
「ふっふっふっ。残念ながら冒険者は平民じゃないのよ。税の形態から特別枠に当たるわね」
「昨日初めて会ったと聞かされた割には随分と仲が良いのですね。ごめんなさい、様式を守って下さっていたのにアイコさんに先に名乗らせてしまって。私がラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフです。私もラナーと呼んでくだされば嬉しいです。あの……近くに寄ってもよろしいですか?」
「えっ、ええ。構いませんが」
さも嬉しそうに「ありがとうございます!」と言いながらアイコに近寄っていくラナー。若干面喰いながらもラナーの姿を改めて瞳に映し、あぁ戦士団が噂をしていたのはそういうことかと、今更ながらに気付く。確かに自身が創ったキャラに似ているかもしれないと。散々噂されていたというのにこの瞬間までそれに気づかなかったアイコであった。
「どうクライム、似ているかしら? 私はアイコさんの方がお綺麗だと思うのだけど」
「もう……クライムをいじめるのはよしなさいよラナー。でもあなたたち姉妹みたいね、ふふっ、垂れ目がそっくりだわ」
垂れ目いいじゃない。リアルの私は結構きつい目をしてたから、優しい目っていうか垂れ目な子に憧れてたのよね。
「……お並びになられると、やはり身長が違いますね。アイコ様の方が背が高くていらっしゃる。髪色と瞳の色が酷似している事と目の形でしょうか。パッと見の印象として似ていると取られてもおかしくはないと思いますが……私はラナー様が……いえ、ラナー様もアイコ様もお綺麗であると思います」
「100点だわクライム君! こう一見私も同様に持ち上げようとして見せて『私はラナー様一択ですから!』っていう意思がありありと伝わるもの! 爆発しろ!」
「なっ!? なにをおっしゃるのですかアイコ様!?」
「クライム……なぜかアイコさんと仲良くなりすぎているような気がするのですけど……」
「ちがっ!? ラナー様! 誤解です!」
「あははは! もう、ラナーもアイコもそのくらいにしておきなさいよ。お茶会なんでしょ? 演芸会場じゃないんだから」
焦るクライムを見て思わず吹き出すラキュースであったが、二人の少女にとっては小さなミスがあった。
アイコにとっては相手を楽しませる話題の提供に若干失敗してしまったこと。ラナーにとっては冗談ぽく吐いた言葉であったはずなのに、ちょっとだけ本当に仲が良さそうだなと思ってしまった事を悟られたこと。
方や人外の頭脳を持つ『黄金の王女』。方やサービストーク百戦錬磨の『夜の女王』。
もしこれから国を賭けるような対談でもあったのなら、この先さぞや白熱したものになったのであろうが……
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未だ会議は続いているが、内容など覚えてはいない。いつものおべんちゃらであるのだろうが、王も自身に問いかけてくることも無かったのは幸いだった。今一度先ほどの光景を思い返す。
アイコが王子の手を優しくつかみ、身体を密着させて魔法を発動させる。
正直アイコが指を切るような展開にならずほっとしていたものの、その光景にやりきれないものを感じていた。こちらからアイコの表情は窺えないものの、王子の肉欲を抑えきれていない笑みにゾッとする……いや勝手に頭の中でそんな風に解釈しているのかもしれないのだが。
怪我が治り驚嘆の声を上げる王子。いや、それは怪我が治った事への驚きであったのだろうか。教会の治療魔法を受けたことがある者たちにとってはありふれた光景であったのだろう。他の貴族からは特に驚きの声があがるということもなく、逆にあからさまに残念な表情や舌打ちまで聞こえる。
彼女は今どのような感情を抱いているのだろうか。ころころと表情が変わる喜怒哀楽のはげしい娘だ、嫌悪の表情を浮かべていてもおかしくは無いだろう。
「お前……ふん、アイコと言ったか。魔法は本物のようだな。そうだな褒章式があるのだったか……そのあとに私の部屋に来い。あー……治療してもらいたい侍従がいるのでな」
「!?」
「はい、承りました」
「クッ……」
涼やかな声音で一拍置き、了承の言葉を返すアイコ。王子のニンマリとした表情に背筋が凍り、割って入り叫びだしたい気持ちをギリギリで抑え込む。
バレバレな嘘ではあるが、糾弾することも出来ない。食いつきでもすれば貴族派閥の恰好の的だ。私は一体どうすればいいのだ……
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「馬鹿! なにあっさり同意してるのよ!? あぁ……もぅ……」
「上のお兄様ですか……本当に余計なことをしてくれますね……」
「あ、この紅茶美味しい……ねぇ、おかわり貰っていい?」
「まあ! 気に入ってくれて嬉しいです。とっておきを出したのですよ」
「ちょっと! なに和んでんのよ!?」
それで議会はどうだったのというラキュースの質問に、紅茶を頂きながら答えを返したのだが、お気に召してはくれなかったようだ。ラナーの後ろに侍っているクライムも驚愕に目を見開いている。
「ああそうか……貞操の危機になるのよね」
「あたりまえでしょう……それ以外ないじゃない……」
そういえばこの身体的には処女にでもなるのだろうか。一回抱かれてやれば、逃げ出しても距離的に追いかけてはこないだろうと考えていた。
完全に毒された思考だとは理解してはいるが、あの世界でそうやって生きてきたのだ。
あぁ違う……馬鹿だ……なに仕事のような感覚で対応してしまったんだろう。完全に脳が切り替わっていたと言ってしまえばそうなのだが、こんな思考を持っていたなんてガゼフに申し訳が立たない……それならどうすればよかったのだろうか。いや、この後どうすれば良いのだろうか。
暴力的な解決方法ならいくらでもある。すぐさま逃げ出すことだって。
「ずいぶん考え込んでいらっしゃいますが、何か思惑などがあったのでしょうか?」
「うーん、あの場でお断りした場合、やはり一悶着あるでしょう? ガゼフ様が間に入ってくることもあったかもしれませんし……」
「それでいいじゃ……いえ、ダメなのね?」
ガゼフにあの場が納められるとは思わない。最悪貶められるかもしれない。
とにかくあの王子の発言で、私の行動が制限されてしまった。綺麗にお別れをしたかったのだけれど、それも叶わないかもしれないのが残念だ。
「アイコさんは……諦めてしまっているのですか?」
「そうよ! まだ答えも聞いてないんでしょう?」
「うーん……どうなのかなあ? 思い出とこのドレスだけでも私にはもったいないくらいですし」
この状況でガゼフの枷になるなど冗談ではない。そんなことになるくらいだったら諦めてもいいと思っている。
「お兄様の方は私にお任せください。私もご一緒しますから」
「いいわねラナー。ついでだから一発殴ってきなさいよ!」
冗談ではないのはラナーの方だ。自身が含まれた王家を悪し者に見られ、このまま帰られたりされたら堪ったものではない。ストロノーフと結ばれることは前提で、それから駒として活用するのだから。
「いいこと? アイコ様。戦士長様は、アイコ様を好きでいらしゃるわ。昨日聞かされた話から分かりましたが、どうにも手元に置いて守り切れないと判断して踏み出せないのだと思います」
「そう……なの?」
「アイコ様が仮にお強いなら問題などないのですが……」
●
会議が終わり、王に従いつつ退出しようとする足を、その声が止めてしまった。
「殿下、どういうお心積もりですか?」
「あぁ、あの娘のことか? 能力は本物であるし器量も良い。手元に置いておけば薬箱以上に役に立つだろう……まぁ後でいろいろと確かめてみるつもりだがな……ふふっ」
はらわたが煮えくり返る。いや……村娘として過酷な寒村で一生を終えるより、王族の妾など玉の輿にも……そんなわけあるか!! 少しでも冷静を保とうと無理やりな理由を模索しようとするが、正気でいられない。
歯を食いしばり拳を握り締める自身に王から声がかからなければ、なにをしていたかわからない程に。
「戦士長……なにをしておる?」
「……はっ、今すぐ」
「そうではない……それは親愛の情などではないと気づけ。手を出すことは許さんが、存分に口に出してみろ。我はゆっくりと歩いておる……なあに、お前がいない間この騎士たちが付いていたのだ、問題はない」
振り返らずそんな言葉を残しガゼフを置いて歩き出す王。
ああそうか、もっと単純な話だったのだ。これはただの嫉妬ではないか。
すぐさま振り向き王子のもとまで歩き出し膝魔づく。
「バルブロ殿下」
「なんだ貴様! いきなり失礼であろう!」
「まぁ良い。なんだ戦士長、何か問題でもあったのか?」
止めに入る貴族たちだったが、王子はさも不思議そうに首をかしげる。それはそうだろう、何も知らないのだから。
「アイコ殿は……いえ、私はアイコを愛しております。それをご承知いただきたい」
「なっ!?」
あまりにも突拍子もないことで思わず言葉を詰まらせるバルブロと貴族たち。しかし徐々にその言葉の意味が理解できてくると、ざわついていた周囲に嘲笑が混じりだす。
しかしながら『あんな女など』と一蹴もできないのは容姿が優れすぎていたためだろう。まわりまわって自国の王女を馬鹿にしていると取られてもおかしくはないのだ。
「それは脅迫か? ガゼフ・ストロノーフ」
「そうでございますな……村で畑を耕すのも悪くはないと思っております」
再びざわめき立つ貴族たち。中には罵声を浴びせる者たちも多くいるが、ガゼフの瞳は裂帛の気合をもってバルブロを見つめ続ける。本気だと。本物の思いだとありありとわかる程に。
「これは反逆罪ですぞ!」
「まぁ待てボウロロープ侯。そんな話でも無かろう。ふはははは。わかった、わかったぞ戦士長よ。そんな怖い目で睨むんじゃない。だがあの娘は了承したのだ。お前の思いは一方通行ではないのか?」
「いえ、そんなことはありません」
「ふん、まぁいい。問えばわかることだ。それではまたな」
バルブロとしてはこの言動でガゼフを糾弾するつもりはない。いずれ王になればガゼフは戦力的に必要な駒だ。こんな他愛のない事で捨てていい戦力ではないのだ。ただしそれはバルブロ本人の思いである。
バルブロは貴族派閥のトップ。六大貴族ボウロロープ侯の娘を娶っている。侯としては王派閥の目の上のたん瘤を取り除く機会だったのだが、義理の息子に邪魔をされる。どうにも傀儡としての教育はできていなかったのだろう。
ここまで……ここまでか。自身の回らない口に嫌気がさす。だがギリギリであった。捕えられてもおかしくはないと。王に背中を押されたのだ、その信頼を裏切るわけにはいかない。ただ殿下は理解してくれたのであろうか……それだけが気がかりであるのだが……
なおバルブロもギリギリであった。近隣諸国最強の戦士の眼光に直近で晒されたのだ。自身も多少は戦士としての腕があるがゆえにその恐ろしさは相当であり、片手で心臓を押さえ「殺されるかと思った……」という小声は、周りの貴族たちには聞こえてはいなかった。
あの場でお茶を濁していなければどうなっていたかと冷や汗が止まらないバルブロであった。
ついでに後日「お兄様は私を愛しているみたいなの……どうすればいいと思う?」などと侍従にのたまったラナーによって、あらぬ噂話が駆け巡り、一層肩身の狭い思いをすることになるのは余談である。
愛してると言わせるのにどんだけかかったのやら。どうにかくっ付ける算段は整ったものの、「あれ? これラナーいらなかったな」なんて思ったりw
そろそろお話を畳めそうかなーと思うんだけど、どうかなー?