周辺諸国最強のお嫁様   作:きりP

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作者が残念だと頭のいいキャラも残念になる。いいね。




18 メイドは寂しいと死んじゃうらしい

「アイコ様が仮にお強いなら問題などないのですが……」

「強い……うーん……」

「ガガーランも言ってたんだけどあなた結構戦えるんじゃない? 見た目からは全然想像もつかないんだけれど……」

 

 この世界の基準で言えば強いのだとは思う。カルネ村での戦闘のように必要に駆られれば闘いもするし、ノリで毛玉に軽いパンチをくれてやるくらいなら出来る。だけども『強い』と聞かれるとどうしてもそうとは思えない自分がいるのだ。ただユグドラシルのステータスを受け継いだ、戦闘とは無縁の一般人なのだから。

 

「確かにガゼフ様に守られなければならない程弱くはありませんが……それを証明する手立てもありませんし」

「……例えばクライムが剣で切りかかってきたらどうなされますか?」

「なっ、ラナー様!」

「クライム君がガゼフ様クラスで、その剣が普通の剣だったらなにもしないかなぁ? あーそうなのよ、王子に助けられたのよね」

「え?」

 

 あの時もし自身の指を切れと言われた場合……切れないよね……ワンコたちですら無理だったのに。あの場にある刃物で自分を傷付けることが出来たものは無いだろう。

 クライム君もワンコっぽいけどうちのワンコより強いかどうかは……うーん。

 

「……なるほど、大体わかりました。例えばクライムと戦って見てくださいとお願いしても、お受けしては頂けないのですよね」

「そうね、対人はほんと勘弁だわ……」

「なにがわかったのよ? 私にはさっぱりだわ」

 

 ラキュースにしてみたら王子に助けられたというところから訳が分からないのだが。

 

「つまり意識の違いって言うのかしらね。戦力的な強さを問うのはやめた方がよいというのがわかりました。たぶんクライムや……ラキュースでもアイコ様を傷付けられないのですよね?」

「ちょっとそれは!?」

「そうだとは思うのですが、試してみたくもありません。ごめんなさいね」

 

 もう私の頭の中ではこの世界は完全に現実なのだ。このリアルの世界で剣を振りかぶって来る相手がいたら逃げの一手は当然だろう。守る物があったり必要に駆られなければ戦おうという意思はない。

 

「このお城を更地にしろと言うなら簡単なのですが」

「は?」

「え?」

「……ものすごくよくわかりましたから、絶対にしないでくださいね」

 

 対物やモンスター相手なら戦わないでもない。ぶちゅってなるのはアレだが。そもそも私には相手の強さを見分けるすべがないのだから、手加減の程が分からない。あの騎士たちで手加減を学んだとはいえ、個人差がどれだけあるのか。

 完全に舐めプ的な考えで申し訳ないのだが、知り合いをパンチして腕が吹っ飛んだとかなって笑える人がいるだろうか。たとえ治療出来たり生き返らせたりできたとしてもだ。

 

 

『あ、やっと繋がりました。申し訳ありませんアイコ様。ソーコさんが倒れました』

 

 

「げふっ!? ちょっとゴメン緊急事態」

「なっ、なに!?」

「アイコ様!?」

 

 この声は確かナーベちゃんだ。すぐさま立ち上がり早着替え用のアイテムでフル装備に換装。羽を広げて魔法を唱える。

 

「<転移門(ゲート)>!」

「!?」

「!?」

「空間に穴が……開きましたね……」

 

 

 

 

…………

 

……

 

 

 

 

 

「ごめんなさい、この子私が昼に帰ると思って朝ごはん我慢してたらしいの……お友達との稽古中にお腹が空いて倒れちゃったみたいなのよね。ちょっと目を離したくないから連れてきちゃったんだけど大丈夫かなあ?」

「アイコ様と一緒だと、んぐっ、はぐっ、やっぱり美味しいですね!」

「もう喉詰まっちゃうから……たしかオレンジジュースのやつがあったような……お、あったあった、ほらこれ飲んでソーコ」

「ありがとうございますアイコ様!」

 

 再び目の前に現れた穴から神々しいドレスを着たアイコとメイド服の少女がテーブルと椅子を持って出現。メイドが空間から大量のバゲットと果物を取り出し、アイコも空間からティーポットらしきものとカップを取り出しオレンジ色の液体を注いでいる。

 

「……え?」

「……は?」

「完全に読み違えました……予想通りではあるのですが、想像以上でしたね」

 

 理解が追い付かない二人に、追いついてなお上をいかれたことに感心するラナー、ただもしかしてこの少女は馬鹿なんじゃないだろうかと若干不安にもなっていたのは表情には現れていなかった。

 

 

 

 

…………

 

……

 

 

 

 

 

 お昼まであと数十分ほど。スケジュール的にはやはり田舎の小娘を交えての食事会などは当然無く、王の取り計らいでラナーの私室で食事をしてもらい、その後に褒章式が行われる予定だそうで、そろそろ給仕のメイドが食事を持って現れるらしい。

 今更ながらソーコがいて大丈夫かと思いラナーに視線を送ると、すべて了解したと言わんばかりの笑顔で隣室へ。どうやら隣の部屋は侍従の待機部屋のようで、ほんの数十秒で戻ってくる。

 

「お食事はアイコ様が緊張して喉を通らないということでお断りしてまいりましたがよろしかったですか?」

「察しが良すぎて怖いくらいです。ふふっ、色々驚かせちゃったし謝罪ってわけじゃないけどこちらで食事を用意させていただきますね。ソーコ、あと何が出せそう?」

 

 すでに驚くべき速さで食事を終えたソーコは、アイコの斜め後ろで居住まいを正し控えている。もう色々と台無しではないかと思うのだが、出来るメイドの表情で答えていく。

 

「料理をしないとなると、先ほどの物以外ではイベントアイテムが大量にございますね」

「あーイベント系か……集めたなぁバレンタインチョコとかハロウィンクッキーとか。うーん……じゃぁバゲットとスープをメインであとは適当にお願いね」

「かしこまりました。それではみなさんこちらの席へ」

 

 ニコニコと若干ワクワクとすぐさま席に着くラナー。呆然としていたがその行動に気づき、さっとラナーの後ろに移動するクライム。いろいろ言いたいことがありすぎるのだが、諦めたように溜息を吐き席に着くラキュース。

 

「クライム君も座ってね、給仕はソーコがするから」

「クライム、これは命令です。普段なら頑なに遠慮するのでしょうが、今回ばかりは折れてね。一緒に食事をいただきましょう」

 

 アイコやラナー、それにラキュースの着席を促す視線に躊躇しながらも、失礼な話だが毒味役にもならなければならないかと、席に着くクライム。いつの間に現れたのやら車輪付きの配膳台の上に次々と料理や食器類を取り出し始め、テーブルに座る者たちに給仕し始める。

 

「……なんでこのパン焼き立ての匂いがするのよとかは聞いちゃいけないのよね」

「はい! 焼き立てですよ!」

「いや、そうじゃなくって……」

 

「ラナー様、飲み物はなんにする? オレンジジュースでいいかな?」

「先ほど拝見させていただいて興味があったのです、是非それで! クライムもそれでいいわよね?」

「はっ、はい!」

 

 クライムは意識を釘付けにしていた目の前のパンとスープから目を離し、ラナーに向き直る。正直頭が追い付かないと。ほんの数分の間に次々と不可思議な事態が起こっているのだ、平静でいられないのも仕方がないところではあるが、さすがはラナー様は落ち着いていらっしゃると、自身の主を頼もしく思う。

 いやいや、違うだろう。主を守るのが自身の務めであり、現に堂々とアイコ様以外の第三者がこの部屋にいるのを追求しなくていいのかとも思うのだが……さすがにこの事態は自身の手に負えるものではないと悟らざるを得ない。

 

「マナーは気にしないでいいわよね? それじゃいただきましょうか」

 

 まずは率先してバゲットを手づかみして頬張るアイコ。それはありがたいと思うクライムであったが、貴族も斯くやといった彼女が、食事のマナーを知らない等という事はあり得ない。これは気を使われているのだろうかと考えるが、そんなことを考えている間にラナーとラキュースの歓喜の声が聞こえる。

 

「うわぁ……やっぱり焼き立てだわこれ。ものすごく美味しい!」

「香りが違うのですね……外はパリッとしていますが、中がもちもちで。これ自体が高級でもあるのでしょうが、焼き立てのパンというのは初めてです。とても美味しいわ!」

 

 しまったと、自身もあわてて手を伸ばしパンをかじる。ついいつもの固パンのように思い切り噛んでしまったが、その柔らかさに驚き、美味しさに言葉が出てこない。

 

「バターとジャムもありますのでお好みでどうぞ。私とアイコ様はスープに付けて食べちゃいますけど」

「んふふ、そうね。バゲットもスープもソーコが作ってくれたのよ。あ、今更だけど紹介するね。あー……妹のように大事なメイド(・・・・・・・・・・・)のソーコです」

 

 そういえば妹がいるって言っちゃったけど、王女はガゼフに聞かされてるみたいだし隠す必要もないかと、ぶっちゃける。何故かソーコが感涙しているが、ラキュースさんも気にしていないみたいだし構わないだろう。

 

「アイコ? 突っ込みどころが多くて何も言わないだけだからね? 今度時間があるときに説明してもらうんだから」

「そうですね……次回のお茶会(・・・・・・)ではアイコ様のお話を伺いたいわ。うふふ、お約束(・・・)してもよろしいですか?」

「そうね、うちにも遊びに呼びたいわね。今回は手持ちの料理になっちゃったけど、ソーコの自慢の料理も食べに来てもらいたいし」

 

 よし、まずは次に繋がった。今までの一連の会話や出来事で、利で動く方ではないというのがわかった。次いで言うなら私に対しての危険人物ではないことも。することは無いが、不快な思いをさせても直情的に殺されるという事はまず無いと踏んでいい。

 だが逆に義憤に駆られてなど、八本指の話をしようとも興味を持たれないだろうという事もわかる。力がありながらその行使を良しとしないのだ。面倒くさがられたら逃げられるまでありえそうだ。だからこの話は出さない。

 そしてこの繋がりはガゼフ・ストロノーフがいなければ始まらない。こちらからの連絡手段は皆無と言っていいのだ。なんとしても繋げて見せると意気込む。

 

「ジュース美味しいでしょ? 私も初めて飲んだ時涙が出るほどだったわ」

「これはずるいです……」

 

 ついでに言うならこのオレンジジュースとやらを大変気に入ってしまった……もうこの縁を逃してやることは絶対に出来ない。

 ラナーの頭の中ではアイコよりジュースの比重が高くなるほどに美味であったのだ。その後に出てきた大量の菓子類にも目を奪われそうになるが、頭を切り替える。

 

「じ、時間もありません。食事をしながら先ほどの話の続きをしましょうアイコ様」

 

 それでも限られた時間は残り一時間もないのだ。

 

「あれ? 何の話だったっけ?」

「……」

 

 我慢よ、我慢よラナー。

 

「強さとかは置いといてちょっと不安だったのよ私。あなたどうやって村まで帰るんだろうって」

「あー……それは……冒険者を雇って……とか?」

「戦士長様も転移が可能なことを知っておられたのですね。帰路の話が一切出ないことを不思議に思っていましたもの」

「もう本当に内緒だからね。宅配便にでもされたら面倒くさいもの」

 

 あなたの容姿なら市街に出て物の数分で質の悪い連中やらティアやらに狙われそうだものと独り言ちるラキュース。それを優しい瞳で見つめるアイコ。どうやらこの二人は良好な関係を築いているようだと安堵するラナー。アイコが蒼の薔薇に入っても面白いかもしれない。

 

「なかなか良い食べっぷりですねぇ。騎士様」

「んぐっ!? す、すみません!」

「そんなに急がなくても作り置きはまだまだありますから。んふふ、ゴリラよりよっぽど可愛いわ」

「なっ!? うっ!? このジュースも……スゴイ」

 

 ちょ、ちょっとあっちも気になるけれども。あのメイドを殺せるとも思えない。とにかくガゼフとアイコを繋げる算段を整えないと。

 

「それで強さをみせつけるには……例えば試合などどうでしょう。あぁ……でもアイコ様はそういうのはお嫌いなのでしたね。これなら戦士長様も憂いがなくなり、すぐさまお二人は結ばれると思ったのですが……」

 

 残念なことにこの王女。特殊な性癖を純愛と信じて憚らない程に、恋愛に対してはポンコツであったのだが、言葉巧みにアイコをその気にさせていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして迎えた褒章式。思えばここまで長かった……部屋に迎えが来る前にソーコを返し、例の通信装備制作の準備をお願いした。ガゼフにも渡せたら良いなと思うが……

 再び頂いたドレスに着替えた際、「そうだ! 私もご一緒したら面白そうかも!」とかいうラナーと手を繋ぎ、玉座の間なのか式典場なのかわからない場所に放り込まれている。

 周りを貴族たちに囲まれ、珍獣のように見つめられるのはたまらないが、一段高い場所に座っている王を見る。いやまて、どうすればいいの? 跪けばいいんだろうがなんでこの娘は手を放してくれないのやら。

 

「あはは! そのままで構わんぞ、こうして並ぶとまるで姉妹のようよな。もっと近くに寄るがよい」

 

 王様機嫌良すぎだろう。まあ周りの貴族が黙り込んでしまうのも分かる。ラナーが何を思ったのか私と同じようなタイプの白いドレスに着替えていたのは、外野を黙らせる策だったのかそれともただの遊び心だったのか。

 

「なるほど、どうだ戦士長よ。どちらがお前の好みであるのだ?」

 

 おい、王様なに言っちゃってんのと思いもしたが、それはそれで聞いてみたい……

 

「……王やラナー殿下には申し訳ありませんが、アイコが一番でございます」

「わははは! お前も吹っ切れたようだな、いや悪くないぞ」

 

 え? なにこれドッキリ? あれ、これどうすればいいの? ね、ねぇラナー、さっきの作戦だか何だかわからないけど、この場でガゼフに試合を申し込む話はどうすればいいの?

 思わず蕩けた瞳で見つめていたガゼフから、ラナーに視線を移すが朗らかに微笑んでいるだけ……

 

 勿論ラナーにしてもナニコレである。ほんの数時間で何かが変わったのであろうが、作戦変更である。話をややこしくさせるよりガゼフに賭けた方が賢明かもしれないと。

 

「そうだな、まずは式典を終わらせるべきよな。アイコ・ウール・ゴウン殿」

「はっ、はい!」

 

 対応力に関しては自身があったが、頭が追い付かなくなるのは久しぶりだ。すぐさま跪いて首を垂れる。

 

「此度の働きまことに見事であった。いや、そなたたち家族にとっては国の為にと働いたわけではないのであろう。だがこの戦士長をはじめ戦士団が戻ってこれたのは、そなたらの働きが少なくない程であったと聞き及んでいる。……私の最も忠実な側近を救ってくれて感謝する。ありがとう」

 

 一国の王としては異例の発言ではあるが、王の気質というのだろうか。良い人なんだなというのとガゼフが慕うのも理解できた。ざわつく貴族を見れば大変そうだなあとも思うが。

 

「報奨金はガゼフに持たせておる。ああ……忘れておった。バルブロが何か用があるのだったか?」

 

 眼光鋭く自身の息子を見つめる王。

 

「いっ!? いえ! 用は……ございません」

 

 王のみならず、ガゼフからも鋭い視線を向けられる。ついでにラナーからも。こちらに引き入れる予定のラナーにまで反感を買われたら王の椅子が遠のく。ラナーの手はいまだアイコの手を握っているのだから。

 

「ふむ。それでは此度の式典は終わりだ……アイコ殿、そなたからは何かあるかね?」

「あ……その……ガゼフ様をボコボコに」

「アイコ様! ふふっ緊張してらっしゃるのね! お父様それでは戦士長様と一緒に私もお見送りさせてもらうわ! あ、でもお邪魔かもしれないから途中までですけど!」

「あ、あぁ、うむ? 珍しいなラナー。お前もアイコ殿を気に入ったのか」

「ええ!」

 

 王に礼をし、そそくさと退場するラナーとアイコ。ガゼフの命の恩人が誰であったのかは明白だったが、それをそそのかしたのも彼女だったりするのだが。

 




ナーベちゃんはモモンさんがいなかったので、とりあえずアイコに連絡しようとしたけど繋がらないので、姉に連絡を取ってみて本名を知ったって感じです。本文に入れる間が無かったw

狂気的なラナーの内面とか無理というより構成が下手ですまん。オチを前提に書いてたら矛盾するわ馬鹿になるわで本当にスマンw
たぶん次回で完結です。

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