周辺諸国最強のお嫁様   作:きりP

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サブタイトルって考えるの難しいねw



2 天使で貴族でお嬢様

 

 

 村の女たちにとって早朝の水汲みは大切な仕事だ。村娘エンリ・エモットも、日の出と共に起き上がり日課の水汲みへと家の程近くの共用井戸に向かう。家の水がめを満タンにするには三往復程。それでも一時間近くかかるのは、村に一つしかない井戸でもあり、釣瓶を落としてくみ上げるのにも時間がかかるからだ。

 

 そんないつもの井戸端会議場には先客がちらほらと見えたのだが、全員が手持ちの桶を落として呆けていた。いや、エンリも家を出た瞬間から「あれ?」っと思ってはいたのだが、近づくにつれてその異常事態に気づいていく。

 

 井戸がなくなっていた。いや、井戸が家になっていたのだ。

 

 丸太を組んで創り上げたであろう簡素な家は、自宅よりちょっと大きいかなと思えるほど。幸いなことに家の周囲を跨いで越えれる程のおざなりな柵で囲われた敷地の中には、上部の人型の彫像の足元より滾々と流れる水であふれた、丸い木枠の池のようなものが見える。

 

「とっ、とにかく水はあるわね……」

 

 そう言葉を漏らした村長の奥さんの言葉にエンリも我に返っていく。なにがなんだかわからないが、とにかく水はあるのだという安心感から一つ息を吐いた瞬間、扉がゆっくりと開かれていく。

 

 家屋から出ようとした絶世の金髪美少女と背中に見える大きくて真っ白な翼に驚いたものの、その翼が扉の枠に引っ掛かり、盛大に後ろにひっくり返って真っ白なパンツを晒す金髪少女に、何とも言えない気持ちになっていくエンリたちであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『こういうのを幻肢痛って言うんですかね? 胃が無いのに痛いんですよ』

「なんかそっちの方が大変そうで安心したわ」

 

 とにかく知人がいたことに喜び合い、お互いに情報を交換していく。NPCが意志を持って動いている事。魔法が使えること。ナザリックの周辺状況とこちらの窓の外に広がる家々の事。

 二人して何時間も考察を議論しあうが、あまりに突拍子のない事で答えが出ることもない。

 

『合流したいのは山々ですが方法が無いんですよ。<物体発見(ロケート・オブジェクト)>も出来ないし、出来たとしてダンチ……アイコさんの攻勢防壁怖いし、だからと言って裸(装備や魔法的防御のない素の状態)になってて下さいとはその状況下では言えないですしね』

「私もナザリック相手に占術は使いたくないなぁ。モモンガちゃんはしばらくはナザリック内の事に気を使ってた方がいいよ。やること多くて大変そうだもん」

 

 正直こっちにかまけてモモンガちゃんになにかあったら居た堪れない。忠誠心はあるそうだが相手のレベルもわかっている目に見える脅威だ。あの広いナザリック内の現状把握に努めてほしい。

 そしてなにかあったら連絡すること。なにもなくても一日一度は連絡を取り合うことを約束しあう。

 

「外が白み始めてるってソーコが……少なくともコッチはヘルヘイムじゃないみたい」

『無茶はしないでくださいよ、不安だなあ……』

 

 悪の組織の魔王らしからぬ心配げな声に「大丈夫だから、私の<敵感知(センス・エネミー)>はパッシブだって言ったでしょ」と返事をして<伝言(センディング)>を切る。

 やっぱり可愛いな、モモンガちゃん。中の人が女の子だってバレバレだぞと思いながら、ソーコのもとへと歩き出す。

 とあるゴーレムクラフターの数ある冗談ネタの内、なぜかそれだけは信じてしまっていたアイコであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在天使とメイドは村長宅へと通されている。フル装備は失礼になるかもと胸当てとガントレットは外し、パールホワイトのオペラグローブ(二の腕まで覆われた手袋)を装備していた。勿論翼と天使の輪も消している。

 ソーコは家に残しておきたかったのだが、「わだじがっ! わだじが守りまずがらっ!!」とガン泣きする彼女に渋々折れた感じだ。

 

 そもそもあのファーストコンタクトにより村人たちの警戒心を解くことが出来たのは良かったのだが、ソーコに心配をかけすぎてしまった。

 「私が先に」と扉を開けようとしたソーコを制しておいてあのザマは無いだろう……恥ずかしすぎる……

 普段なら通れたはずなのに当たり判定もリアルになっていたのか、翼が絡まった時点で想定しておくべきだったかもしれない。

 

 とにかく言葉が通じたのは良かった。勿論不毛な考察などはしない。深夜に散々語り合って出た二人の結論というかスローガンは『わからないことを悩む暇があったらとりあえず受け入れよう』だったからだ。

 

「それで……家ごと転移してしまったということですか……」

「はい……多分……」

 

 空から落ちてきたとでも天使ジョークをかました方が良いのかとも思ったが、正直に答えることにする。初期段階での情報伝達の齟齬は拙い。転移と言う言葉から何かが分かるかもしれないのだ。

 現在この家には朴訥な村長と奥さん。それから私の家に一番近い家の者ということでエモットさんという髭のダンディな男性がいる。正直好みのタイプではあるが、あの場にいたエンリちゃんという娘のお父さんだそうだ。

 

「わかりました。というかわかってはいないのですが……とにかく水の事だけはお願いします。あなたのせいではないのはわかりましたが、こちらとしても水は生命線なのです。今後も継続的に利用させていただくということで」

「あぁ! それについては本当に申し訳ないことになってしまったと。いつでもいくらでも汲んでいってください」

 

 転移した場所が村唯一の井戸だったとは。他にも井戸があったのだが枯れてしまって、どうにかしなければならないとは考えていたらしいのだが、そこまでのお金が回らなかったのだそうだ。そこへ『あの家』である。

 正直、日の出と共にワラワラと自宅に集まってくる人間種に怖いものを感じていたのだが、理由を聞けば納得である。

 実際にはすでに不安になっていたのは男たちだけであり、逆に村の女性たちにとっては喜ぶべきサプライズであった。村長宅へ伺う前にこの件は集まった女性たちに伝えてあり、今頃はすでに水汲みを終えている頃だろう。直径5m程の噴水なら、待つこともなく、汲み上げることも容易いのだから。

 水にしても飲んでみたところ問題は無かった。というかリアルの水より美味しかった。村の女性たちにも飲ませたところ好評であり、そしてこの水が枯れることは無いとも思う。確か無限の水差しかなんかの強力版だったような、一定の水位を保つように出来ていたはずである。

 

「ふぅ……それは良かった。いろいろ考えることもあるだろうけど、村に徴税吏が来るまでは何か月かある。見た目的にもそれほど目立つ家でもないし、それまでに対策を取れれば問題ないでしょう」

「でも、あの、私……えっと、大丈夫ですか?」

 

 ちょっとおおらかすぎるのではと思われる村長の言葉に、思わず奥さんの方を見つめてしまう。

 

「なーに、あの翼のことかい? 確かに私たちとは違うんだろうけど、今はどっから見ても私たちとおんなじだしねぇ。それに、ぷっ……ひっくり返ったあんたと、必死になってたそちらのお嬢ちゃんを見せられた後じゃぁ、どうやっても悪い娘たちには見えないわよ」

「……」

 

 そう言って笑う村長の奥さんと、つられたようにして微笑む男性二人。顔を真っ赤にして俯く以外取れる行動が無かった。

 

 

 

 

…………

 

……

 

 

 

 

 

 エモットさんの案内で私とソーコは村の家々を回っていく。所謂『顔見せ』というやつである。いきなり村の一員となってしまったことに思うところが無いわけではないが、それは村人にとっても同じことだろう。村の中に住んでおいて『あっ、私は村人じゃないんで』というわけにもいかないわけだ。

 

 人口はおおよそ120人。25世帯ほどだと聞かされたこの村の名は『カルネ村』と言うらしい。リ・エスティーゼ王国の辺境の村。トブの大森林。近くにはエ・ランテルという城塞都市があるなどと聞かされては、もう腹をくくるしかない。完全に異世界転移だ。だってそんな名前ユグドラシルで聴いたことも無いもの。

 

 私への態度もそうなのだが、男性陣には特にソーコへの反応が良かった。胸か……あの胸がいいのかとも思ったが、ソーコの顔以外の体形は自分のリアルの物をトレースしている。まあ若かりし頃のだが……それで食ってきたのだと思えばやっかみもない。

 それに彼女はカルマ値+300ということと『温厚でほわっとした性格』と自身が設定したことも影響しているのか人当りも良い。あー私のカルマ値は……まあそんな事はいいか。

 

「ここが私の家ですね。そろそろ畑の方に出なくては妻にどやされてしまいます。娘たちを紹介しますので、また昼にお会いしましょう」

 

 あぁ、いいわあ……ってそうじゃない。リアルでは私の方が年上かもしれないが、今はあの家の前で待っているエンリちゃんと変わらないような見た目の年齢だ。いや、もう少し私の方が年上に見えるかもしれない。

 そういえばあの『永遠の17歳☆ミ』とか書いてしまったプロフも影響あるのだろうか……結構初心(うぶ)になっているような自覚はある。あの当時はホント不器用だったからなぁと思いを馳せるが、現実に目を向けよう。……なにが現実なんですかね。

 

「天使様、私がエンリ・エモットです。お水ありがとうございます」

「ネムです! お姉ちゃんたちが天使さまなの?」

 

 髭のダンディジェントルマンを見送って、二人の少女に向き合う。一応自身の種族は伝えてはいたのだが、村人には『天使』という概念が無いのかまったく伝わらず『あ、羽の生えた人って認識でいいです』とぶん投げた。 

 挨拶の代わりにと二対四枚の羽根をスポン! と生やそうとも思ったのだが、キラキラとした結晶が集まるように羽が再構成される。うん、なんかカッコいいね。

 それを見て瞳をキラキラとさせ「うわぁ! うわぁ!」と声を上げるネムちゃんの腰に手をまわし、抱え上げて数m程浮いてみせる。

 

「はじめまして、ネムちゃん、エンリちゃん。コンゴトモヨロシク」

 

 なぜかお約束のように最後は片言にしながら挨拶を告げる。

 そしてチラリと自身の翼を見ながら、別に翼をはためかせて飛ぶわけではないんだなあ、翼自体が<飛行(フライ)>の永続的な媒介になっているのかな、なんて考えも浮かぶが封殺する。

 

 『わからないことを悩む暇があったらとりあえず受け入れよう』

 

 あー良いスローガンだわ。こんなことがこれからしばらく続くんだから、もっと建設的なことを考えていこうと心に誓うアイコであった。

 

 

 

 

…………

 

……

 

 

 

 

 

「ソーコおねえちゃんスゴーイ! すごいおいしい!」

「んふふー。おかわりもありますからねぇ、たっぷり食べてくださいね」

 

 あれ? これ完全にソーコ勝ち組じゃないかと思いつつ、フォークで刺したハンバーグを口に入れ涙する。ユグドラシルで覚えているのはこれが筋力upの低級バフ料理であるということだけ。

 なんなんですか低級って……高級とかどうなっちゃうんですかとその料理の旨さに涙する。

 ええ、私手伝うことも出来ませんでしたとも。野菜すら切れないってなんなの? 野菜は最強の防具なのんと考えるが……受け入れる。今のところは『私は調理が出来ないらしい』ということで置いておこう。

 

「だっ、大丈夫ですか!? アイコさん!」

「私は大丈夫ですから、どうぞエンリちゃんも食事を堪能してください……」

 

「でも本当に美味しいわね! なんだか力が漲ってくるようで」

「うむ……不思議な料理ですな。いや、そんなこと関係なくものすごく美味しいですよソーコさん。ありがとうございます」

 

 昼時になって畑から戻ってきたエモット夫妻と、エンリちゃん、ネムちゃんを我が家に招待することにした。すごいですね腹筋割れてますね、なんて言葉が喉から出てきそうだったが、エモット夫人はエンリの姉かと思えるくらい若々しくて、美人であった。

 異世界NTR物語は出来なさそうである。いや、しないけどね!

 

「素敵なお家だけど、あまり生活感は感じられないというか……ごめんね、ちょっと不思議で」

「あー……何も無いですものね」

 

 シャンデリアを見上げながらそう言葉を漏らす奥さんになんと言ったらいいのかわからない。キッチン・テーブル・椅子 以上である。

 暖炉と揺り椅子もあるけど、トイレも寝室も無い。地下を見せるわけにもいかないのでこう答えるしかないわけで。

 

「うーんと、家と言うか別荘なんですよ。その別荘の……(はなれ)だけが転移しちゃったみたいで」

「うわー! やっぱり貴族の……あれ? 天使の貴族のお嬢様なんですね!」

 

 なんなの『天使貴族お嬢様』って……エンリちゃんちょっと……っていうかそこの家族四人! その期待を込めたキラキラした瞳で見つめてくるのはやめなさい!

 

「はい! アイコ様は天使で神聖高貴なお嬢様でございます!」

「うわー! アイコさんすごーい!!」

 

 思わぬ伏兵のダメ押しで確定しちゃったみたいなんだが……もう放っておこう。

 

  




多分やろうと思えば魔法なりニグレドなりで合流できるんだろうけど、そこはご都合主義でw
モモンガさんには原作通り介入してもらおうかと思ってます。
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