周辺諸国最強のお嫁様   作:きりP

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もう本当に戦闘とか無理だとわかったんで色々すっとばしてますw すまんのw



6 夜の女王

 

 

 その日の朝は、なんだか身体がおかしかった。

 

 あれほど遅くまで起きていたと言うのに、日が昇る前に目が覚めてしまったのはなんなのだろう。寝る前に洗濯しておいた昨日も着ていたワンピースに着替えリビングへと上がっていく。

 ソーコも主人の行動に只ならぬものを感じたのか、深夜に渡され抱きしめたまま眠っていたワンピースをさっと着て同じように階上に上がってくる。

 傍目にはメイドの方が上質な生地を使っているように見えるのだが、デザイン的には似通っていて、二人が着るとまるで姉妹のように見えなくもない。

 

「なんだろう……首筋がチリチリする……」

 

 いや、背中の方だろうか。扉を開けて外に出て、やや白み始めてきた空を見上げながら周囲を警戒する。空を飛ぶには翼を出さなくてはならないが、村の中ではなるべく出さないようにと決めていた。

 

 <敵感知(センス・エネミー)>の反応なんだろうか。コンソールが見えないのでこれが明確な悪意なのかはわからないが、なにか……気持ちが悪い。

 

「どうしたのアイコさん? 顔が真っ青よ?」

「アイコおねぇちゃんだいじょうぶ?」

 

 気づけばいつの間にか目の前にはエモット姉妹が。

 

 首から背筋にかけて悪寒が走る、頭の中で警鐘が鳴り響いて止まらない。

 

「エンリちゃん達はすぐ私の家の中に入って! ソーコは広場中央の鐘を鳴らしてきて! なにか来る!」

「えぇえ!?」

「了解しました! アイコ様!」

 

 いきなりの展開に呆然とする姉妹を他所に、一切の疑問も反論も口にすることなく走り出すソーコの背中を見つめながら、昨日使用して自身のアイテムボックスに仕舞ったままだった杖を取り出し、ムーン・ウルフを召喚する。 数は限度数の四体だ。

 そして早くも中央広場を超えた遠くの方から村人の悲鳴が聞こえだす。馬のひづめの音もだ。

 

シャルティアマークツー(・・・・・・・・・・・)! 動けるなら村人と家の扉を守って! 村人が避難してきたら家にぶち込みなさい!」

 

 そう噴水上部に向かって叫ぶと、今まで身動きもしなかった彫像が滑らかに立ち上がり飛び降りる。こちらに一礼すると呆けている姉妹をつかみ家に投げ入れた。

 

「きゃぁあああ!?」

「わはぁあ!」

 

 もう少し優しく! と叫びながら続けてムーン・ウルフたちにも命令を出していく。その間にも身体が七色に輝き、自身に無詠唱で支援魔法を重ね掛けしていく。

 

「あなたたちもお願い! 村を守って!」

 

 何故か昨日と同じようなつながりをそのうちの二体に感じたのは、同じ個体なのだろうかと思いもしたが、低い唸り声を上げて四方に散っていくムーン・ウルフたち。

 激しい鐘の音が聞こえる。あんなに大きな声が出せたんだと思うほどのソーコの避難を促す叫び声が聞こえる。逃げてくださいと。水の出る家に逃げてくださいと。

 

 装備はこのままでいいの? 攻勢防壁は? もう、本当にバカだ……昨夜の自分を殴ってやりたい。

 すでに身体は一番近い悪意へとむけて走り出し即座に接触。なんだ!? 馬に乗った騎士? なんだよ、優しい世界じゃないの? 戦争しているとは聞いてはいたけど、こんな小さな村まで襲うの?

 転移してきてからの三日間の常識が覆されたようで、呆然と目を見開いて長剣を振り上げる騎士を見つめてしまう。

 

「うっは! 当たりだよ、こんな上玉がいるなんて!」

 

 うわぁ……一瞬でリアルの職場に飛ばされた思いだ。現場から遠のいたとはいえその表情には覚えがある。そんな下卑た視線を向けてくるお客様のね。

 馬の前方からふわっと跳躍すると、杖を騎士のヘルムに軽く当てる。枯れ木を殴るよりかは軽くたたいたつもりではあったが、ヘルムを四分の一ほどを歪ませて、馬から叩き落とされひっくり返る大柄な騎士。

 身体を震わせているところを見ると、生きてはいるのだろう。

 

「ありがとうございます、お客様も口が上手でございますね」

 

 十数年、繰り返し口に出してきた言葉はもはや作業のようで。

 ニコッとピンクの唇から真っ白な歯を覗かせ、首を絶妙な角度に傾けてあざとく微笑む。

 

 

 

 簡単に死んでしまわないでよ、血の一滴まで吸い上げてやるんだから。

 

 

 

 アーコロジー富裕層の歓楽街。その中でも高級と呼ばれるクラブの元ホステス。一時期はその歓楽街の頂点で輝き、女王とさえ呼ばれていたのは御免被る話であろうか。

 汚い世界の中でもさらに汚い人間の欲望を見続けてきた彼女にとって、この程度で頭に血を登らせ叩き殺してしまうなどありえない。

 

 ただ、この世界で気づいてしまったのは、逆に善意にはめちゃくちゃ弱いなってことだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……祭りか?」

 

 そろそろ外が明るくなるかなという頃合いから、延々と遠隔視の鏡の使い方に四苦八苦していたモモンガであったが、ようやく画面の動かし方が分かった。

 上空からの俯瞰画像を広げ、ナザリックから10kmくらい離れた場所に村らしき集落を見つけたのだが。

 

「いえ、これは違います。ん? ムーン・ウルフですか」

 

 村人たちを追い掛け回す騎士風の姿の男たち。いやその騎士たちを弾き飛ばしていく銀色の毛並みのオオカミは、先日自分も召喚したものなのでよく覚えている。

 一方的な殺戮ショーかと思いきや、四方に散らばるムーン・ウルフたちが騎士を次々と跳ね上げていく。だが騎士の方が数が上。別の場所で剣を村人に振りかぶった騎士は……なぜか振りかぶったままの状態で倒れ伏し、喉元を押さえて身悶える。

 

「魔法かな? <溺死(ドラウンド)>っぽいけど違うな、って!? アイコさんいたぁあ!」

「!?」

 

 突然絶叫を上げる御方に多少驚くも、セバスもその少女を発見する。長い金髪をなびかせ、縦横無尽に走り回り次々と騎士たちを行動不能にしていく白いワンピースの少女。時折消えるのは転移も混じっているのだろう。まるでどこに悪意があるのかがわかるかのように騎士たちが倒れ伏していく。

 

 だが圧倒的ではあるのだが、散開した騎士は村を囲うように展開されていたようで、中央広場を囲うように出来た集落の反対方面にはどうしても対応が出来ない。手勢が足りないこともあるのだが、少女は時折倒れ伏した村人を見つけると、回復に支援魔法をかけたりと動きを止められてしまう。

 

 先にアイコに連絡を取りたいところではあるが、戦闘中の<伝言(メッセージ)>は危険と判断し、単独で……いや彼女の望むように介入しようと思い立つモモンガ。

 セバスを見つめながら、困っている人がいたら助けるのは当たり前なのだから! と自身に言い聞かせる。

 

「セバス出るぞ! <伝言(メッセージ)>アルベド聞こえるか、アイコさんたっての希望だ……デートとしゃれこもうじゃないか。30秒で支度してここまで来い」

『クフゥゥウウウ!?』

「森方面に逃げている子供たちがおります。モモンガ様」

「あちらまでアイコさんの手が回らないか……よし、あそこに繋ぐ、セバスは残って一応ナザリックの警備レベルを一段階上げるように皆に指示しろ。ん? 早いな……仮面よし、ガントレットよし。では……<転移門(ゲート)>」

 

 魔法を唱える前に扉のノック音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇえ!? アンデッド反応!? でも敵対的じゃないな……」

 

 動死体に対しての反応がモモンガ並みに優れているアイコには感知できてしまう。見過ごすことも出来ないけれど、それどころでもない。一人の騎士を蹴り上げたところで、遠くの櫓の上にいるソーコに複数の矢が飛んでいくのが見えた。もう逃げてもいいのに、必死で鐘を鳴らしながら声を枯らして避難を叫び続けている。

 一瞬の転移で櫓まで飛ぶも、目の前でソーコの身体に複数の矢が穿たれる。

 

「いたっ。にげでぐだざーい! 水の出る家のほうににげでぐだざーい!」

 

 あ、結構大丈夫そう。アダマンタイト繊維も貫けないのは良かったけど……ソーコに支援もかけず放り出し、ウルフたちには範囲支援すら効果範囲が分からずかけられなかった。失態だ……

 

「あ、アイゴざま!」

「本当にゴメン今までありがとう。一旦家まで飛ぶよ! <次元扉(ディメンション・ドア)>」

 

 ディレイ(遅延)やその他もろもろを考慮して発動する、とある信仰系クラスの低位階転移魔法。ソーコを抱きしめると少し遠くに見える我が家の入口まで転移する。

 

「ソーコ疲れてるところ悪いけど家の中を、怪我している人がいたら頼むわよ、お願いね!」

「はい! 大盤振る舞いです!」

 

 中空から複数のポーションを取り出す。よし、覚えてるみたいね。

 

「行ってくる!」

「ご武運を!」

 

 短いやり取りだがなんだろう、すごく嬉しい。

 中央広場にウルフたちが悪意を追い立てているのが分かる。いや、もう悪意は感じられないのでウルフたちの反応が移動しているのが分かる。中央は彼らに任して撃ち漏らしをつぶすか。

 考える前に足は悪意のある反応に向かって走りだしていた。 

 

 

 

 

…………

 

……

 

 

 

 

 

 あらかた片付け終わったが、負傷した村人がまだどこかにいるかもしれない。それに中央広場の様子も気になる。先ほど現れたアンデッドの反応がまっすぐ中央広場に向かっているのが分かるのだ。とにかく広場に向かってムーンウルフと合流。捜索はワンコたちに任せて私はアンデッド退治かな?

 近くの家に飛び上がり広場を目視。魔法を発動して転移する。

 

 広場の中央には十人に満たないほどの騎士たちが四方からワンコに追い立てられて立ち往生している。若干名ではあるが村長を含めた村人と子供たちが櫓の裏に退避しているのが見え、すぐさま駆け寄る。

 

「みんな大丈夫? 怪我はしてない?」

「おお!? アイコさん! いや、あのウルフたちのおかげで助かったよ」

 

 ざっと見まわすが、顔色は悪いものの子供たちを含めて怪我をしている者はいなさそうだ。

 ん? 視線を騎士たちに戻すとものすごい勢いでデスナイトが走りこんでくるのが見えたのだが、そんなザコ(・・)より遠くの方に浮かんでいる二人の人物の方が気になった。

 

 あれ、モモンガちゃんだよね? それと隣でモモンガちゃんにしなだれかかってるのは……アルベドだったかな? スゴイな……あっという間に私を見つけてくれたのか。

 

「うぐわぁあああ!!」

「ひぃ!? た、たすけっ!」

「おがね! おがねあげまちゅから!」

 

 あ……まっ、まぁいいか、あれモモンガちゃんが出した奴だろうし。騎士たちはデスナイトに上げよう。私も無理して戦いたいわけじゃないし、村人の方が大事だ。すぐさまムーン・ウルフを呼びつける。

 

「ワンコたちお願い! もしかしたら村のどこかで動けない村人たちがいるかもしれないの。騎士はほっといていいから、捜索をお願い。見つけたら……感覚でわかるかな? 一応大声で鳴いてくれる?」

 

 またしても了承したとばかりに頷き、四方に散っていくウルフたち。出来れば死人が出ていないと良いのだけど……

 

「そこまでだデスナイトよ! と言ってもそれほど残ってはいないな」

 

 空から漆黒のローブを纏った奇妙な仮面の男と、真っ白な服に腰から黒い翼をはやした絶世の美女が腕を組んだまま降りてくる。

 うん、まあ色々と突っ込みたいところはあるんだけど、さてどうしよう。私を助けに来てくれたのは嬉しいのだが、村長を含めた数人の村人がいるこの状況。

 私たちの関係性を決めておくのをすっかり忘れていたので、どう声をかけたものかと悩んでしまう。

 

「あー……その……」

 

 モモンガもそのことに気づいたのか、見つめあってお互いに言葉が出てこない。 村人の認識としては私は『天使貴族お嬢様』だから、知り合いってことになるとモモンガも貴族ってことになるのかな。

 

「あの翼……もしや、アイコさんのご家族なので?」

 

 あーまあ対極なんだけどそれでいいかな? 村長の言葉に軽くうなずき、モモンガたちに向かってよろよろと歩き出す。

 

「お、お父様! お母様!」

「!? ……アイ、コ。 やっと会えたな! 嬉しいぞ!」

「クフッ!?」

 

 あれ? 別に友人とかでも良かったんじゃないかと思いもしたが、まああれだ、仲良く腕組んで降りてきたのが悪いのだ。べ、べつにいいもん、私ソーコがいるし!

 

 何故か対抗心を燃やし、私の子供だって可愛いんだからとニマニマとした表情をするアイコ。

 

 アイコさん裾が破れてパンツ見えちゃってるのはどう注意したらいいのかと悩むモモンガ。

 

 なんだかわからない展開だが夫婦設定にご満悦のアルベド。

 

 転移四日目の邂逅は、助かった事への喜びの涙と、アイコの感動の再会を見守る優し気な村人の視線の中、運良く生き残っちゃった騎士をほっぽらかしにして行われていくのであった。

 

 





一応タイトル回収です。最初期のタイトルは、この小説の目的である、とある人の救済を目的にしたタイトルだったのですが、一話投下直前に変更w あんまりインパクトの無いタイトルだよねw
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