ドロホフ君とゆかいな仲間たち   作:ピューリタン

31 / 95
逆転時計

 オスカー達はレイブンクロー生のコンパートメントに戻ったレアと別れ、セストラルの馬車で城へと向かった。

五人の話題は今年の闇の魔術に対する防衛術の先生は果たして見つかったのか否かということだった。

 

「スネイプ先生は闇の魔術に対する防衛術をやりたがってるんじゃなかったか?」

「そうですね、自分の寮に露骨な依怙贔屓をして、シャンプーをする術を知らない先生は、あの授業をやりたいらしいって聞きますね」

 

 クラーナのスネイプ先生に対する評価は辛らつだった。確かにスネイプ先生はスリザリンを依怙贔屓するし、シャンプーの仕方を知っているかは怪しかった。

 

「もう…… そんなにスネイプ先生は悪い人じゃないはずなの」

「エストやオスカー達には優しいけどね、クィディッチ場の予約とかでも中々凄い手を使ってくるから、僕も擁護できないかな」

 

 グリフィンドールからの評価は最低の様だった。スネイプ先生はまさにスリザリンの教授という感じではあるとオスカーは思った。

 

「まあ私はママがいなくなってほっとしてるけどね、去年は授業中ずっと怒られっぱなしだったわ」

「それは貴方がドジをしまくるからでしょう、グリンデローを教室から逃がして大騒動になってたじゃないですか」

 

 オスカーはトンクスと一緒に闇の魔術に対する防衛術や魔法薬学の授業を受けたくないなと思った。体がいくつあっても足りなさそうだからだ。

 

「ダンブルドア先生は一杯魔法使いの知り合いがいるだろうし、大丈夫なんじゃないかな? エストもなれるんだったら、ホグワーツの先生になってみたいの」

「エストが先生だと変身術が似合いそうね」

 

 確かにエストのイメージは変身術の授業での活躍が大きい気がオスカーもした。マクゴナガル先生は授業での依怙贔屓など絶対にしないだろう先生だが、授業でエストを褒めない日などないからだ。

 

「うーん、変身術はマクゴナガル先生のイメージがあるからね、なんかエストだと厳格なイメージがないからちょっとイメージできないかも」

「確かにあの授業はマクゴナガル先生の前はダンブルドア先生が教えてたらしいですから、グリフィンドールのイメージがありますね」

 

 グリフィンドールの二人はあの授業はグリフィンドールの授業というイメージがあるようだ。オスカーもあんまりエストとマクゴナガル先生を重ねてみるのは難しかった。

 

「変身術はグリフィンドールで、魔法薬学はスリザリン? スネイプ先生の前の先生もスリザリンの寮監だったって聞いたことがあるの」

 

 寮監のイメージがその授業と寮を結び付けている気はオスカーもしていた。変身術はグリフィンドール、魔法薬学はスリザリン、薬草学はハッフルパフ、呪文学はレイブンクローという感じだ。

 

「そう言えば闇の魔術に対する防衛術の先生はスリザリンでその前はグリフィンドールね、じゃあ今年はその二つの寮以外か、またグリフィンドールなのかしら?」

「まず見つけることが重要だと思うけどな」

 

 オスカー達は闇の魔術に対する防衛術の先生が見つかったことを祈りながら、大広間へと向かった。

 

 

 

 大広間にオスカー達が入ろうとすると、マクゴナガル先生が待ち受けていたかのようにオスカー達の前に現れた。

 

「プルウェット、少し来てもらえますか? 少し授業の時間割のことでお話があります」

「マクゴナガル先生? えーっと、わかりました、オスカーちゃんとエストの分の料理をとって置いてなの」

 

 そう言ってエストとマクゴナガル先生は恐らくマクゴナガル先生の部屋の方へと消えていった。

 

「授業の時間割? エストは全部とるとか言ってたけどそのせいなのかしらね?」

「まあそうじゃないか? だって普通に時間割を組むと絶対全部受けられないからな」

 

 四人はそれぞれのテーブルへと向かって行った。

 スリザリンのテーブルについて、オスカーは一応同級生や寮の同室のメンバーに挨拶をされたが、オスカーが血みどろ男爵の傍に座ると誰も寄ってはこなかった。

 

「少年、姫はどうしたのだ? 一緒ではないのか?」

 

 血みどろ男爵が相変わらず銀色の血まみれの青白い顔でオスカーに聞いた。血みどろ男爵は髪飾りの騒動の後、エストとオスカーに優しくなったとオスカーは思っていた。エストには元から優しかった気がしたが。

 

「エストはなんか授業の時間割のことでマクゴナガル先生に呼ばれていったんだけど」

「ああ、なるほど、姫は優秀であるからな、少年、できるだけ姫と同じ時間を過ごすのだぞ」

 

 血みどろ男爵は勝手に納得して、オスカーに忠告した。オスカーは千年の間、ヘレナ・レイブンクローにしでかしたことを悔い続けている血みどろ男爵が時間と言うと、なにやら重く聞こえた気がした。

 そうこうしている間に大広間の中心に組み分け帽子が置かれ、組み分けが始まろうとしていた。

 いつもマクゴナガル先生が組み分けをする一年生を呼んでいたと思ったのだが、今年はフリットウィック先生だった。

 幾人かの新入生がフリットウィック先生のキーキー声で呼ばれて、組み分けされていった。

 今年の新入生は去年度と同じく、オスカーの年のエストのような長いこと組み分けがされない新入生はいなかった。

 

「ああ!! 組み分けに間に合わなかったの、ちょっと男爵詰めて欲しいの」

 

 後ろからエストの声が聞えた。エストはなにやら走ってきたようで、男爵を押しのけて(ゴーストを押しのけることができるかどうかは難しいが)オスカーの隣に座った。

 組み分けが終わり、ダンブルドア先生がたち上がって、話を始めた。

 相変わらずダンブルドア先生の顔は慈悲深い笑顔で覆われていたが、オスカーは去年度感じたダンブルドア先生のあのとんでもないエネルギーをどこか感じる気がした。

 ダンブルドア先生を見ることでオスカーはホグワーツに帰ってきたことを実感した。

 

「おめでとう! 新学期おめでとう! 新入生の皆はようこそホグワーツへ! そして在校生の皆はおかえりじゃ、今年もホグワーツでの一年が始まる」

 

 オスカーはダンブルドア先生の隣に見たことがない人物がいることに気付いた。ダンブルドア先生やミュリエルおばさんと同じくらい年を取っている人物に見える。

 エストもその人物に気付いたようだった。

 

「また今学期、新しい先生を迎えることになった。闇の魔術に対する防衛術の先生を見つけることは年々難しくなっておるから、ありがたいことじゃ」

 

 そうダンブルドア先生が言うと、その人物が立ち上がった。長身のダンブルドア先生よりも背が低く、白髪が頭の周りを取り囲んでおり、まるでタンポポの綿毛のようだった。

 

「わしの旧友でもある。エルファイアス・ドージ先生じゃ」

 

 オスカーはその名前に憶えがあった。ミュリエルおばさんがダンブルドア先生にとって、唯一ともだちと呼べるだろうと言っていた人物だ。

 

「ミュリエルおばさんの話によくでてくる人なの、おばさんはクラーナがトンクスにドジとかアホとか言うのと同じくらい、あの人のことをドジのドージって呼んでたの」

 

 やはりオスカーの記憶には間違いがないようだ。オスカーはちょっとだけトンクスが闇の魔術に対する防衛術の先生をやっているのを想像し、人狼を檻から逃がすトンクスの姿が頭の中に浮かんだので、考えるのを辞めた。

 

「ああ、この度は私のような人物を迎えていただきありがとう。どうか一年間よろしく」

 

 ドージ先生は、ゼイゼイとした高い声でダンブルドア先生からの紹介に答えた。

 グリフィンドールからひと際大きな拍手が上がったようだ。

 

「さあ、これでお話は終わりじゃ、宴の始まりじゃ」

 

 ダンブルドア先生がそう言うと、金の皿とゴブレットに食べ物と飲み物が一杯になった。

 オスカーはお腹が減っていたことに気付いた。

 

「エスト、マクゴナガル先生との話は大丈夫だったのか?」

「うん、大丈夫だよ、授業を全部取るにはちょっとだけ魔法が必要なんだけどね、成績は大丈夫だろうけど、クィディッチチームをやりながらやるのは大丈夫? ってマクゴナガル先生が心配してたの」

「結構きついんじゃないのか?」

 

 確かにエストはスリザリンクィディッチチームのシーカーなので、ただでさえ負担が多いのだ。

 

「多分大丈夫なの、マクゴナガル先生に特別措置っていうのを貰ったし、それに昔スリザリン生でクィディッチチームをやりながら、イモリ試験で全部の最高成績を取った人がいたんだって」

「特別措置?」

 

 そんな超人がスリザリンにいたのなら、魔法省の高官か闇払いにでもなっているのだろうか? それにオスカーはエストの言う特別措置が少し気になった。エストは首から下げてあり、制服の胸のところに隠れて見えない何かを触った。

 

「うーんとね、オスカーにも秘密なの、マクゴナガル先生に言っちゃダメって言われたから」

「まあマクゴナガル先生が言うんなら言わない方がいいんだろうな」

 

 マクゴナガル先生は少なくとも生徒にウソを言う先生ではないし、生徒達のことを考えてくれる先生だ。オスカーは去年の経験からそう思っていた。

 

「新しい授業もあるし、みんなで魔法の練習をするっていうのはけっこう難しいかもな」

「確かに難しいの、クィディッチの練習も授業も寮が違うと時間も違うの、うーん皆が特別措置をして貰えれば簡単に合わせれるのに……」

 

 エストはまた胸元の何かを掴んで考え込んでいるという顔だ。

 

「それに時間を決めるのもみんなで集まらないといけないから難しいね、何か方法を考えようかな?」

「方法?」

 

 オスカーも毎回練習の時間を決めるために集まったり、一回目以降は練習の後に時間を決めたとしても、誰かが何かの理由でこれなくなった場合にそれを確認するのは難儀なことだと思っていた。

 

「うん、忍び地図の時に変幻自在呪文のことを話してたよね?」

「死喰い人の闇の印がどうのこうのとか、ロウェナ・レイブンクローが創ったとかなんとかだったか?」

「そうなの、あの呪文をかけた何かと忍び地図があれば簡単に集まれると思うの」

 

 確かにあの闇の印は人を集める方法としては非常に優秀な様に思えた。少なくとも持ち物の検査をしたりしても分からないし、誰かが見てもどこに集まるかだとか、いつ集まるのかが分からないからだ。

 しかし、オスカー達は別に非合法な活動や、校則に反することをやろうとしているわけではないので、そこまで高度な方法で集める時刻や場所を伝えるものが必要なのかとオスカーは思った。

 

「よくわからないけど、そんなに大層なものが必要なのか?」

「もう…… オスカーはわかってないの、エストはああいう魔法の道具とかを作ってみたいの、あと忍び地図も卒業までにちょっといじってみたいと思ってたの」

 

 確かにエストが色んな魔法をかけられている道具が好きなことは嫌なほどオスカーは知っていた。去年度はそれが高じてとんでもないことになったのだから。

 

「だからね、何か時間を表わせるものに変幻自在呪文をかければいいと思うの、そしたらだれかの時間に合わせてみんなの時間が変化するの」

 

 オスカーはエストがそう言うのを聞いて、さっき血みどろ男爵が言っていたことを思い出した。エストとできるだけ同じ時間を過ごせと男爵は言っていたのだった。

 エストはできるだけみんなの時間を取りたいのだろう。オスカーはそう思うと何かアイデアを出したくなった。

 

「呪文をかけるんなら、生徒が持っててもおかしくないものがいいだろうな、大鍋、教科書、羽ペン、お金、杖……」

 

 オスカーはホグワーツ入学時のふくろう便に書かれていた物品を思い出した。これらのどれかなら闇の印と同じく検査されても問題ないだろうからだ。

 

「ガリオン金貨なら時間は数字で表示できるけど、場所が難しいの……」

 

 オスカーにはガリオン金貨が良い案に思えたのだが、確かに場所の表示は難しいだろう。

 

「じゃあやっぱり忍び地図みたいに普段は羊皮紙とかの方が良いんだろうな、文字でいくらでも伝えられるわけだし」

 

 忍び地図の隠匿性はオスカーからみても完璧に思えた。正直、どうやってフィルチが悪戯仕掛人たちからこれを取り上げたのか想像がつかなかったからだ。

 

「確かに羊皮紙…… あっ!! 教科書の一ページを忍び地図の写しに変えればいいの!!」

「忍び地図の写し? そんなことができるのか?」

 

 そんなことができればすごく便利だとオスカーは思った。忍び地図があれば先生やフィルチを避けることができ、夜中まで外にでていても捕まる心配がないし、だれかに会いにいくときも凄く便利だからだ。これも去年、オスカーは身に染みるほど味わっていた。

 

「できるはずなの、変幻自在呪文を使えば元の何かに合わせて他の何かを変化させれるはずなの」

「それなら遅くまで練習してもフィルチに捕まらなくてすむな、トンクスがドジをやらかしても大丈夫だ」

 

 オスカーはフィルチの部屋に入るのはもう御免だった。

 

「守護霊の呪文も面白そうだし、今年も色々楽しそうなの」

 

 オスカーはそう言って夕食を頬張るエストを見ながら、去年度のような大騒動にならないことを祈った。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。