それ逝けあんちんマン!   作:アビャア

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前回のあらすじ:安珍、鐘楼の中に閉じ込められ、カム着火インフェルノ。


1ヶ月以上遅れてしまってすみませんm(__)m

仕事のハードワークとぐだぐたイベントが重なり執筆が遅れてしまいました。

それでは本編どうぞ。









弐拾九鐘 それ行け安珍マン

炎に焼かれ青銅色の鐘が紅くなるほどに高熱を発している鐘楼の中、息をすれば熱気で肺が焼き爛れ、血液さえも沸騰するほどの灼熱地獄に、気絶したほぼ死に体の男一人と青く光る何かがいた。

気絶した男『安珍』は、目を醒ますとうつ伏せになったまま辺りを見渡す。

 

 

(ここはどこだ?息が少し苦しいし、外壁が赤熱している。もしかして、鐘楼の中に閉じ込められたのか?脱出しないと、身体は動けるか?...っ!無理か。あの一撃で完全に身体がイカれてやがる、例え立てたとしても一分足らずで倒れるなこりゃ。)

 

「...っ!ゴホッ!ゴホッ!」

 

(せめての救いは感覚もイカれたお陰で少しだけだけど熱いと感じられないことだな。まぁこのままだとヤバイし、密封空間だから息苦しくなっているけど。...しかし、)

 

この状態なら普通はパニックを起こすが安珍は数多くの修羅場を潜り抜けた歴戦の猛者、直ぐに心を落ち着かせて今の状況を即座に理解し、身体を動かそうとするが、激痛が走り顔を酷く歪め舌打ちをする。

只でさえボロボロだった身体に奥義の使用、追い討ちを掛ける形で龍になった清姫によって叩き込まれた一撃で瀕死の重傷を負っていた。

 

しかし、不幸中の幸いか、あの一撃で身体の感覚が一時的な麻痺を起こし、今の鐘楼の中は汗が一瞬で蒸発してしまう程の熱さだというのにあんまり感じられず、作戦を練れる位には冷静でいられた。

それでも安珍の感情は怒りで溢れていた。彼は咳き込みながらも、ある方向に向けて怒りの眼差しを向ける。

そこにいるのは、彼が死んだとしても一生忌み嫌う存在が空中に浮かぶ形で鎮座していた。

 

 

「....このっ、くそったれ野郎がっ。」

 

(この抑止力(糞野郎)がいるのは腹正しいな。)

 

その存在は人類の無意識下が生み出した世界の抑止力『アラヤ』が彼の目の前で青い光を放ちながら浮遊している。

この存在は人類を存続させる為の防衛プログラム的を成す存在。人を守るために人を縛る、人間の代表者であり最強の霊長であるが、人間としての感情はなく機械的、例え、万人を幸せにする行為にさえ人類の存在を脅かす行為なら、どんな手段を使っても阻止する冷酷無慈悲な存在なのだ。

 

 

(しかし、夢で見た光景と同じとは。皮肉にも何度も邪魔されたお陰で薄々分かってはいたが俺がこの世界に来た要因で尚且つ抑止力の奴隷に仕立てあげようとした張本人とこんな形で出くわすとはな。)

 

 

安珍は前世の記憶が甦り第二の生を送っていく中でアラヤによって何度も殺されかけた経験があり、今彼がこうなっている状況を作り出した張本人でもあった。

安珍は場所が違えど、何度も見た夢の光景と同じ酷似している為、彼は顔を歪ませながらある確信をした。

 

『彼』が彼になる前、両親を飢餓が失い心身共にボロボロだった『彼』に対し、アラヤは『抑止力の守護者』に仕立てあげようと強制的に契約してしたのだ。

 

何故このような事をしたのか、そして何故それが失敗したのか。その答えは彼が持つ日記と『破ァ!』が関係している事を安珍を知り、その経緯を纏めアラヤが何故、瀕死の彼の目の前に現れたのか、次に何をする行動を考え始めた。

 

(多分だがこの世界の『俺』は一生目覚める事はない"力"があった。その後に両親が飢餓が死んで、心身共に傷付いて何もかも絶望した『俺』に対しアラヤは抑止力に組み込む為、強制的な契約した。)

 

 

(だがそれが早計だった。『俺』は突然の事に恐怖してそれに抵抗する為に何を思ったのか手に持っていた日記『カレイドレポート』を突き出した瞬間、その日記が触媒になり抑止力を通して別の平行世界で死んだ俺の魂を呼び起こした。)

 

(多分、その影響で日記が俺の身体と融合して変質し、アラヤは平行世界の召喚の負荷に耐えきれず光が逆流し半端な契約でいう形で失敗、俺の魂が心が完全に死んだ『俺』に融合して俺が甦ったわけか。

まぁその影響で、嘗ての名前が忘れてしまったり精神が不安定になってそのストレスで髪が全部抜け落ちたけど。)

 

 

(そして、中途半端に契約して故にアラヤの繋がりが残っていて封印の際に俺の力が弱まった故にその繋がりを通して焔紡ぎの強制停止が出来た訳か。)

 

 

 

 

「全く、本当にっ....くそっ....たれがっ!!」

 

安珍は何故アラヤがやった芸当が出来た事を知り、怒りの余り吐き捨てるかのように叫びそのまま咳き込む。

 

安珍が名無しだった頃、目を醒めてからさ迷い続け最終的に住職に拾われ『安珍』と名付けられるまでの間、彼はこの世の地獄を見てきた。

 

心臓発作により二十代後半という若さで死んだと思ったら、記憶を保持したまま魂が平行世界の心が完全に壊れ"死んだ"『彼』と融合し、名前を忘れ八歳の子供の姿になって蘇った。

 

しかし、時代は治安が人の命が簡単に散る平安初期で、妖怪が跋扈するオマケつきだった。

飢餓によって両親含む村が滅び帰る家もなく、空腹に耐えながらも、生きるために悪行に手を染め、人間の負の側面、膨大過ぎて腐り堕ちた欲望を嫌になるほどに見続けた。

容姿が少し良いだけで人拐いや男色家の貴族に付け狙われ、夜も眠れない程に怯え隠れながら逃げ続けながら、明日生きているかどうか分からない日々を過ごしてきた。

その結果、安珍は『人』という存在に絶望し、善悪の区別が分からなくなる程に心は壊れ表情すらも死んでしまったのだ。

 

安珍にとってアラヤは、彼等の全てを奪っていった憎むべき存在なのだ。そして、最愛の人すらも奪おうとしている為、安珍は歯を噛みしめ血が出るほどに拳を握り締めながらアラヤを睨み付ける。

 

しかし、アラヤは人ではなくある種のプログラム。安珍が向ける感情をものともせず、彼と契約するという目標の為だけに今にも溶けそうな鐘楼の中に結界を展開して溶けないように維持し、安珍の答えを待つかのように佇んでいた。

 

(抵抗しようにも身体が動かないっ。まさにじり貧だな。契約したら力が貰えて彼女が救える。その代わりに死んだら反逆出来ないように確実に俺の自我を消される。このまま死んでも半端に契約されてるから前者と同じ道を辿る。仮に契約したとして力を手に入れて彼女を救っても俺は確実に抑止力に殺される。)

 

契約すればアラヤによるバックアップにより力を与えられ、清姫を救うことが出来るだろう。しかし、それは死んだ後に抑止力に一生組み込まれる事を意味でもあった。

しかし、この契約自体詐欺そのものだ。仮に契約して力を貰い清姫を救ったとしても何度も殺そうとしてきたアラヤのことだ。二人の幸せとか関係なしに何らかの方法で彼を殺した後、反逆出来ないように記憶を消して抑止力に組み込む。このまま死んでも結果として同じだ。

 

安珍はこの二択に苦しみながら、残された僅かな時間で必死に第三の答えを必死に探す。しかし、その答えは見つからずただ時間が過ぎ酸素が無くなってきたのか頭が回らなくなり意識が朦朧とし始め、彼の身体は少しずつ力が抜けていった。

 

 

 

_くそぉ......っ!このまま何も出来ずに死んでいくのか?いやだ、清姫を救えず死んでアラヤによって記憶を消されるのはいやだ。_

 

 

周囲の音が段段と聞こえなくなり、目がぼやけ見えなくなっていく。次第に身体の端から冷え自我を失っていくが彼の意思は消えず、無意識の内に魔力が流れ僅かな炎を灯した。

 

 

 

_やっと、やっと忘れていた『愛』を知れたのに壊れた自分と向き合う決意をしたのにそれを一生失うのはいやだ!

やっと見つけたんだ、心を満たしてくれた人を失いたくないしこれ以上悲しませるのも御免だ。_

 

 

その炎は摩りきれた魔術回路を起動させ、黒ずんだ歌舞伎模様が入った褐色肌の左腕を灯し始める。

 

 

 

_こんな心が壊れた俺と向き合ってくれた人達を忘れるのは嫌だ!天空寺の人達に会いたいっ!安部夫婦と清姫の両親にに結婚したと伝えたいっ!_

 

 

 

_そして、そしてっ!清姫と一緒に故郷に戻りたい!!故郷で帰りを待つ、加賀さんに会いたいっ!俺は生きたい、生きたいんだっ!_

 

 

 

 

 

 

やがて、黒ずんだ歌舞伎模様の色が揺らめく炎のように赤く光り、死体のように冷えきった身体が炎を灯し始める。

左腕の中に封じたある少女の"願いと力"。それが安珍の生きた成し遂げたいという"願い"が繋がり、燃え尽き灰になった魂に再び薪をくべ『火』を灯したのだ。

 

それ故に、安珍の思いが強くなる程に()は激しく燃え、その熱が身体中に周り停止した身体の機能を甦らせていき、ゆっくりとだが安珍は少しずつ身体を立ち上がらせていく。

 

 

 

_確かに俺は多くのモノを喪った。けどっ!その分色んな人から貰ってきた。だから今の"俺達"がいて此処まで生き抜けてきた!だから、終わりたくないっ、これ以上、今まで奪ってきたコイツに俺の全てを奪われてたまるかっ!!_

 

 

 

身体が軋む、魔術回路と変異回路が魔力と闘気が循環する度に悲鳴を上げる。しかし、彼はそれを気にせず立ち上がる。人類存続という使命の為に人の運命を狂わせ平然と命を切り捨てる心も分からない存在にやっと取り戻したこの感情を奪われる訳にはいかなかった。

 

それは......

 

 

 

 

 

_俺はっ、俺は!清姫と添い遂げたい!『愛』を手に入れたいんだ!!_

 

 

 

『愛』だ。

 

 

 

 

彼は『彼』と融合してしまった際に消滅し、今までなかった感情であり、例え誰かを慈しんでもその感情は感じた直後に失い、誰かにその感情を向けられても理解出来ず逆にその感情によって苦しめられてきた。

 

しかし、修行する為に故郷を離れ京に向かっている最中、白河で妖怪退治の際にまだ八歳だった清姫に出会って以降、彼女の文通を読んだり彼女と話している間だけ空いた心の隙間が埋まったのだ。

彼女が彼に向ける感情が眩しくて心が満たされる。しかし、彼の心は継ぎ接ぎだらけで善悪のブレーキが壊れ区別がつける事が出来ない狂人。

 

彼女が向ける純粋無垢で眩しい『愛』に彼の心はこんな壊れた自分を愛さないでくれ、という恐怖の感情が生まれ畏れるようになった。

年を重ねていくうちにその恐怖の感情が強くなり、無意識に彼女との距離を離してしまった結果、あのような悲劇が起きてしまった。

 

だからこそ、今度は恐れずに真正面に向き合い受け止めたい。『愛』を忘れ『人』に憧れた彼に『愛』を教えてくれたたった一人の愛すべき少女の為に。

 

 

 

 

 

 

 

そう心の中で叫ぶんだ瞬間、それに呼応するかのように彼の左腕に炎が発し燃え始め安珍は再び立ち上がる。

左腕が燃えているのに不思議と熱く感じない。むしろ心地よい暖かさだ。

彼は息を立ち上がった際に荒くなってしまった息を整えると、覚悟を決めたのか空中で制止する抑止力に対し重い唇を上げ抑止力に対し話し始める。

 

 

 

 

 

 

「なぁ、抑止力、お前と契約したなら、彼女を救えるのだな?」

 

 

それは彼と契約するという内容だった。抑止力は光を強く放つと安珍に力を与える為、彼と再び接続する。

 

 

 

 

 

「その光と繋がった感じからして肯定と云うわけか。よしっ、腹を括ったぞ俺は。」

 

抑止力と繋がったことを安珍は確認すると、左腕を握ったり開いたりして確認し再び深呼吸をして()()()()()()()()()

 

 

 

「俺は.....安珍はアンタに忠誠を誓い、死んだ後も人類を守るために抑止力の歯車に.....」

 

 

次第に光に溢れ、彼の霊基が改造される瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なると思っているなら大間違いだ糞野郎!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

見事な全力の『破ァ!』を込めたアッパーカットを放ち抑止力に殴り付けた。

 

 

まさか繋がっている状況を利用して殴られるとは思ってもいなったのだろう。殴られた影響か安珍との繋がりが少しずつ切れていく。

 

此が安珍の狙いだった。繋がった際に生じる僅かな隙を狙い全力の突きを抑止力に放って殴り付け、そのまま繋がりを絶ちきりそのままお帰り頂こうという作戦。

本来なら抑止力を殴り付けるのは不可能なのだが安珍の場合は特殊、彼はアラヤによって中途半端に改造された人間、抑止力との繋がりとアラヤに対する耐性が人一倍強い。それ故にこのような荒業が可能なのだ。

 

 

 

 

安珍はアラヤを殴り付けた時に身体が悲鳴を上げ始め、アラヤとの繋がりを断ち切っていく度に負荷が生じ魔術回路が次々と焼き切れ、身体中の皮膚が裂け血が流れ始める。

それでも彼は諦める事はなかった。左肘に右腕を添え地面に根を張るように力強く踏み締め陥没を作りひたすら自分を鼓舞し耐え続ける。

 

「あっ.....がっ!、ぐぅっ!」

 

(耐えろ!俺!俺は誰だ!『安珍』だろ!今までどんな理不尽を拳と『破ァ!』と武術と魔術、誰も予想だにもしなかった斜め上な方法で解決してきて魑魅魍魎から色んな意味で畏れられたとんでも僧侶『安珍』だろ!)

 

「....ぐっ...俺はっ!」

 

(色々と濃い人達と出逢いと別れを通して成長して、池が出来るぐらい血反吐を吐いて鍛練、大怪我を負ってもへらへらと笑いながら自分で治療する変人『安珍』だろ!)

 

そう、自分は『安珍』。もう壊れた心を隠す為に作り出した虚像ではない、例え偽善と言われても狂人と言われても構わない。もう既に答えを得ていたのだから。

 

 

「俺は絶望的な理不尽をっ!.....ひっくり返す逆転野郎っ!誰も止めることは出来ないっ!それにっ...!」

 

(そんな俺を愛してくれた人達がいる!なら、俺はそんな人達の為に戦う!人類の抑止力なんて興味はないっ!ましてやお前にこの思いを止めることは出来ない!

何故なら俺は!心火を燃やして人の愛と勇気を護る男!!)

 

 

その思いが強くなり左腕を通して安珍の身体に蒼い焔が燃え上がる。焔に包まれているのに不思議と熱い感覚はない。それもその筈、この焔は闘気と『破ァ!』そして、彼女(安珍)の想いで発現しているのだから。

彼はその想いと共に力を込めると、アラヤの身体に皹が入り悲鳴のような音を上げる。しかし、安珍はそれを無視し拳を握ったまま地面を強く蹴った。

 

 

 

 

 

 

「運命だろうが抑止力だろうが心火を燃やしてぶっ潰す!本当の愛を知った今の俺は、全っ然!負ける気がしねぇ!!」

 

 

 

 

 

その瞬間、彼は蒼い焔で形作られた龍に変貌し、その巨大な顎でアラヤに噛みつき咥えるとそのまま鐘楼を突き破り外の世界に繰り出した。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

「ぐっあの安珍殿さえもあの白蛇を止められぬのか。すまない安珍殿っ!」

 

「!?見てください住職!鐘楼に異変が!!」

 

「何!?まさか......!!」

 

 

 

 

 

『......?...ーーッ!!』

 

 

『■■■■■■■■■■■■!!』

 

 

『.....!?』

 

 

 

 

 

 

 

「おおぉぉぉっ!?」

 

「逃げろぉぉ!?」

 

「何かが鐘楼から突き破って来たぞ!?」

 

「あの大蛇を仰け反らせるとはっ!」

 

「皆の者、空に何かが浮かんでいるぞ!」

 

 

それは突然の出来事だった。安珍が鐘楼に閉じ込められながら炎に焼かれ30分、例え人間の領域の限界の領域に達している安珍でさえも耐えきれず鐘楼の中で焼け死んだと絶望する中、突如鐘楼から蒼い龍が突き破る形で現れた。

 

突然の事に白蛇は対応を遅れ、突き破った蒼い龍に下から頭突きを喰らってしまい身体の半分を離し仰向けになって倒れる。

 

 

 

「まさかあの龍は。」

 

<アンチン?アンチンサマダ!

 

「おおぉ!鳥達がご乱心になっているぞ!どうなっている!」

 

<アンチンサマダッ!アンチンサマダッ!

<サスガワレラノアンチンサマダッ!

 

「やはり安珍殿か。まさか焔の鎧を纏った龍に姿を変えるとは。...。」

 

「まっまさか本物の龍を二度も見れるなんて。」

 

「何て神々しくも荒々しいお姿なんだ.....。」

 

『シュゥゥゥ.....。』

 

「大蛇が起き上がるぞ!皆離れろ!!」

 

 

 

あれは何だ?と僧侶達は驚く最中、雀二匹と大鷹の式神達はある名前を連呼し興奮していた。その名前は『安珍』、そう鐘楼の中に閉じ込められていた安珍であった。

 

『■■■■■■■...。』

 

『....ッ!ーーーーーーーー!!』

 

 

寺を見渡す位の高さに昇ると静止し青白い眼で白蛇を見下ろす形で立ち止まっていた。

その姿は蒼い焔が作りだした龍、身体全体が藍色の炎で形作られ外側が揺らめき身体全体に歌舞伎模様が描かれている、ひび割れた青い球体?を咥えていた。

 

 

『ーーーーーーー_____ーーー!!』

 

『■■■■■■■■■■!!!』バキャァ!

 

 

仰向けになった白蛇が起き上がり上空にいる蒼い焔の龍に向けて怒りの咆哮を上げながら空に飛翔する。焔の龍もひび割れた球体を噛み砕くと急激に降下し白蛇と激突する。

 

それはこの時代ですら滅多に見ることが出来ない幻想種同士の戦いであった。炎を吐き、高速で何度も身体でぶつけ時にはお互いの身体を絡ませ零距離で炎を喰らわせたり噛みついたりする。

その戦いは荒々しくも神々しさがあり物語や絵で描かれるような激闘が道明寺上空で繰り広げていた。

 

 

 

『ーーーーー_ーーーーー_____!』

 

『■■■■■■!』

 

『ーーーーーー__ー!?!?!?』

 

 

 

最初は白蛇の方が上手だったが、次第に焔の龍の動きが機敏になり相手に着実にダメージを喰らわせていき白蛇の身体は一部が黒く焦げ鱗が所々剥がれ動きが鈍くなる。

一方焔の龍の身体は、焔で形成されている為か傷を負っても直ぐに元の形になる上、相手に触れたり、巻き付けば焔の身体で相手を攻撃出来る棘の鎧、着実に相手にダメージを負わせていた。

 

 

 

 

『■■■■■■■!』

 

『ッ!?』

 

『■■■■■■■■■■■ッ!!』

 

 

『ーーーー__!?___!?__ーーー__!?』

 

 

 

 

「噛みついたまま近くの湖に落ちていくぞ!」

 

「っ!何を見とれておる!皆の者、急いで向かうぞ!」

 

「「「「はっはい!」」」」

 

激闘を重ねている間に日が昇り太陽が顔を出し始めると、焔の龍は動きが鈍くなった白蛇に向けて突撃し胴体に食らい付くとそのまま勢いを殺さず近くにある湖に向けて急降下を始める。白蛇は火を焔の龍の顔面に吐いたり、絞め殺そうとするが効果がなくそのまま五キロ先にある巨大な湖に向けて落下していく。

 

『ーーーーーーー!ーーーーーーーーー!!』

 

『■■■■!■■■■■■!!』

 

『ーーーーーーーーーーー!!!』

 

『■■■■■■■■■■■■■■■!!!』

 

 

 

 

 

激しい抵抗を防ぎ切りそのまま湖に落ちると急激の温度の上昇によって水蒸気爆発が起こる。衝撃で木が揺れ、巨大な水飛沫が起こり膨大な水が気化した為か天気雨が降り注ぎ始めた。

 

『______。__ーーーーー____。』

 

『■■■、■■■■■。』

 

『___、_____........。』

 

『■■■■■、........ゴホォッ!」

 

二匹はそのまま沈没していき焔の龍の形が崩れていく。形が崩れていく内に白蛇は開放されるが力無く沈み始め、焔の龍もまた段々と焔の勢いが消えていき人間の姿に戻っていく。

 

「......っ!」

 

『............。』

 

「......ッ!『破ァ!』」

 

人間の姿に戻り炎によって服が焼かれ上半身裸になった安珍は水中を強く蹴り白蛇に近付く。頭部の所に到達すると安珍は未だ歌舞伎模様が紅く光っている左腕を確認すると白蛇の頭を優しく撫でるかのように触れ『破ァ!』を放ちながら再び封印を開始する。

 

「ッ!!グオォォォォ!」

 

『...........。』

 

「オォォ!オオオォォォ!!」

 

『...........。」

 

 

「ァァァァァア!!!!」

 

「.............。」

 

 

白蛇の身体から黒い靄が現れ安珍の左腕に再び集まり始める。再び激痛が身体全体に走り、内側から焼けるような感覚に襲われる。それでも彼は今度こそ彼女を救うためひたすら耐え続ける。

次第に白蛇の姿から綺麗な白髪の少女へと戻っていき最後の靄を吸いきると少女の姿に戻っていた。

 

「....ゴボォッ!」

 

「.........。」

 

「.....ッ!オボォリャァァァ!!」

 

 

ブクブク......バシャァ!

 

 

「......ッ!ハァっ!ハァッ!」

「........。」

 

「ッ!清姫!目を開けてくれ!清姫!くそ!安全な場所に移動しないと。」

 

目を瞑ったまま動かない清姫を抱き抱えると一気に上昇する。その勢いはお前大怪我しているよな?と疑問に思う程に速く浮上すると未だに目を開けない清姫に焦りを覚え安珍は背中に清姫を抱え雨が降り注ぎ雨粒に打たれながらも陸地を目指し必死に泳ぎ始める。

五分掛けて陸地まで泳ぎきり地面に清姫を降ろすと腕や首の脈を測り息をしているか確認をする。

 

「ハァっ、ハァっ。」

 

(脈はまだある!けど、息をしてない!このままだと彼女の命が!死なせてたまるかっ!)

 

「清姫....、すまない!スッー....ハァー。」

 

「........。」

 

「.......、.....ッ!!」

 

 

息をしていない清姫を救うため安珍は一言謝ると彼女の着物の上半身だけをはだけさせる。そのまま深呼吸をし、清姫の唇に自分の唇をくっ付け肺に空気を送り込む。

送り込んだ後に、彼女の胸の中心に右手を左手の上に乗せると一定のリズムで胸を押し続けてのサイクルをし続けるこの時代にはまだ完全な確立をしていない心肺蘇生法を始めた。

 

「頼む!頼むから目を開けてくれ!」

 

「......。」

 

「死ぬな!死なないでくれ!頼む!」

 

「.....ごほっ!」

 

「清姫っ!」

 

雨でずぶ濡れになりながらも安珍は意識のない清姫に必死に声をかけ心臓マッサージを行う姿は、人間の皮を被った機械的な彼ではなく、弱々しく必死に何かを掴もうとする一人の人間としての姿がそこにあった。

安珍は今にも泣きそうな顔で大切な人を失いたくない一心で必死に心臓マッサージをする。すると、清姫は空気を無理矢理吐き出すかのように咳をし始め安珍は彼女の両肩を掴み彼女の名前を叫んだ。

 

 

「あ....んちん...さま?」

 

「あぁ、そうだ、安珍だ!身体は無事か!?」

 

「ええ、無事....です。」

 

「.....よかった。」

 

 

「安珍様?」

 

「よがっだ、本当に生きででよがっだっ!」

 

 

「何故泣いて?...それに身体が傷だらけ....ッ!!あぁ、アアァ。」

 

 

 

「清姫?」

 

 

 

 

「あぁぁ、私は、私は安珍様を!アァ...アァァァァァ!」

 

 

目は朧気でぼんやりとした表情で彼の名前を言うと彼は清姫を抱き締めて彼女が息を吹き返した事に喜び涙を流す。そのときの安珍の表情は、何時ものの仏頂面ではなく顔面が崩壊する程に泣きじゃくっていた。

泣いている安珍に清姫は意識を段々と思いだし、自分が何をしたのか鮮明に思い出す。

 

「安珍様はおろか、私はお父様やお母様、色んな人達を傷付けたっ!私は、私は.....!取り返しのつかない事をしてしまった!」

 

 

「私はっ....!力を欲する余り、力に溺れて安珍様を、あぁぁ、ああぁぁぁぁっ!!」

 

 

「......清姫。」

 

 

「ひっ!」

 

「............。」

 

「あっ、あっ、ひぃっ!」

 

 

彼女は愛する安珍を守りたいと願い手に入れた力に溺れ多くの人に迷惑をかけ、あまつさえ安珍を自分の手で殺そうとしたのだ。それは絶対にしてはいけないこと、彼女は後悔に押し潰され錯乱状態に陥り安珍から声を掛けられ悲鳴を上げてしまう。

 

「ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっごめんなさいっ!ごめんなさいっ!」

 

「.......。」

 

「ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんな.....んんっ!?」

 

 

安珍に対し壊れた機械のように謝り続けていた女だったがその言葉は彼のある行動によって遮られた。

それは唇を唇で塞ぐ『愛』の象徴ともいえる行為、接吻であった。

 

「......。」

 

「んっ!?んんっ!!んんんんんんっ!?」

 

「............。」

 

「んんっ!んんんっ!!」

 

「.....っ!」

 

 

 

「あっ、安珍様!なっ何を!私には、私にはこんな資格は....ムグゥ!?」

 

情熱に燃える激しい接吻ではない優しい接吻だったが、突然の行動に驚き清姫は彼を突き放してしまう。しかし安珍は無言で彼女の言葉を遮り接吻を再開する。

 

「んんっ!んんんんんっ!んっ!んっ!」

 

「.........。」

 

「んんん、んんん.......んっ......。」

 

彼を殺そうとした自分にそんな資格はないと清姫は引き剥がそうとするが、13歳のか弱い少女の力では叶うはずもなく、接吻の最中で頭を優しく撫でられたことで段々落ち着いていき彼女は次第に抵抗しなくなっいし三分後、短いようで長く感じられた接吻が終わり唇同士から透明な糸が伸びながら離れていった。清姫の顔は赤くなり対する安珍もうっすらと顔が赤くなっていた。

 

「はぁ、はぁ......////。」

 

「....落ち着いたか。」

 

「......何故なのですか。何故私を救ったのですか安珍様!!」

 

安珍は涙で腫れた顔で真正面に清姫を見つめ、対する彼女は顔を髪で隠す形でうつむき彼に何故助けたのか自暴自棄になりその疑問を問い掛ける。

 

「私はっ!貴方を殺そうとしたのですよ!?貴方の言葉を無視して自分の考えを押し付けて例え安珍様の話を全く聞かない所か、勝手な理由でこじつけて正当化する最低な女ですよっ!」

 

「........。」

 

「貴方に殺されても可笑しくない事をやったのに何で、何で貴方は傷だらけになってまでこの阿波擦れを助けようとしたのですかっ!」

 

「....君は阿波擦れなんかじゃない。」

 

「!?わっ私は!!」

 

「.........清姫。」

 

「.....あっ安珍様?」

 

彼女の悲痛な叫びに安珍は優しく抱き締め、右手で彼女の白い髪を撫でる形でどけ、不器用ながらも優しく頬に添えると顔を上げさせる。清姫の顔は今でもダムが崩壊するかのように紅くなった瞳に涙を限界まで貯め続けているのか、涙が水滴溢れ落ち頬を伝った後が残っていた。安珍はそんな彼女の頬を撫でると言葉を紡ぎ始める。

 

 

「五年間、ずっとこの気持ちを伝えたくて我慢して来たのだろう?だから、俺の胸の中で思いっきり泣いてその思いを吐き出してくれ、俺が全部受け止めてやる。」

 

 

 

「.......っ!...ひぐっ、安珍..様ぁ...!!」

 

 

 

「君は取り返しのつかない罪を犯した。それは、俺も同じ。こうなった元凶は俺にもある、だから一緒にこの罪を償おう。」

 

「なっなんでっ、なんでっ....こんなっ私に対して、そこまで....してくれのっ....ですかっ?」

 

「簡単なことだ、それは君を伴侶として添い遂げたい程に君が大好きだからさ。」

 

「....っ!?...こんな、こんなっわたしでもっいいのです....かっ?」

 

 

「そうだよ清姫。答えが遅れて済まなかった、結婚しよう清姫。」

 

「うわ"ぁ...!あ"あ"っ!あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁんっ!!」

 

彼はそう伝えると、あまり使わない表情筋でくしゃっと不器用な笑いかたをして両手を広げる。清姫は結婚出来る年齢とはいえまだ13歳の少女、彼の言葉にたちまち涙腺が崩壊し清姫は大粒の涙を流しながら安珍に抱き付くと、彼の胸の中で年相応の少女のように泣き始めた。

 

「安珍様ぁっ!安珍様ぁっ!」

 

「答えが遅れてごめんね清姫。」

 

「良いのですっ!やっと思いが伝わったのだからそれだけで充分なのですっ!」

 

 

紅い瞳を濡らしながら大声で貯め続けた思いを吐き出すように泣き続ける清姫に安珍は、そんな彼女に優しく右手で頭を撫で左手で背中を擦り続け彼は上空を見上げる。

彼女が泣き始めた頃には天気雨が止み朝日が昇り快晴の中、彼等を祝福するかのように綺麗な二重虹が朝日に照らされているのを見て安珍は表現を綻ばせる。

 

 

(師匠、あの世で見ていますか?俺やっと本当の笑顔を取り戻せた気がします。それに何時もは直ぐ感じられなくなる暖かい気持ちがまだ残っている。あぁこの感覚.....懐かしい。)

 

 

 

 

「....この気持ちになるのは久々だな。」

 

 

 

 

この異世界に来て始めて満たされたかもしれない幸福を噛み締めながら安珍は最愛の女性、清姫を抱き締めながら晴天の空に向かって笑顔を作りポツリと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





次回、生前編最終回&安珍マンの史実編です。

まだ仕事が忙しいから更新が遅れますご了承下さい

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