どっかの誰かのゲームの世界で   作:クリネックス

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day8  二年生 6月

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、大将。どうやったら彼女ってできるんだろうな」

「知らね」

 

 放課後の図書室の二階、洋書が並べられている棚と棚の間で自分と梅原は雑談していた。

 本来図書室での会話はご法度なのだが、このスペースは図書委員が座っている受付から遠く、なおかつ置いてある本が本だけに人気がほとんどない。

 なので、普通に会話する程度の声量なら人に聞かれる心配をしなくて済むのだ。

 

「冷たい反応だな……」

「いや、だってさ」

 

 何故わざわざ図書室を選んだかというと、特に理由があったわけではない。ホームルーム前にしていた会話の続きを何となく放課後まで引きずることになったのだが、今日はあまり関わりのない女子のグループが教室に残るようだったので、人気の少ないところを目指して適当に歩いていたら辿り着いたというわけだ。

 

「俺は16年陰キャ極めてたんだぞ。彼女なんかできたこともないし、作り方なんて想像もつかねぇって」

「……あー、大将? その…陰キャって、何だ?」

「陰気なキャラクターの略語」

 

 自分の返事に対し、梅原は形容しがたい表情を浮かべた。

 

「……橘って、たまに訳のわからない言葉を使うよな」

「時代の最先端を駆け抜けてんだよ」

「お、おう」

 

 若干引き気味に返事をする梅原。

 こっちは本気で、少なくとも10年は先を歩いている自覚があるのだが。

 前世の自分がいつ死んだかはイマイチ覚えていないのだが、記憶の断片から予測を立てると、恐らく2010年から2020年の間のはずだ。今年は1999年なので単純計算でそうなるだろう。

 前世では10年以上先の未来で高校生をやっていた自分だが、基本的にこっちの人生で不自由を感じることはない。しかし、今のような言葉使い的なことになると話は変わる。

 なんというか……前世のスラングは頭に染み付いてしまっているのだ。今の時代は存在していない言葉も、ふとした瞬間に口から出てしまうことが多々ある。

 自分にしか通じない言葉を話すというのは、外からしてみれば変人以外の何者でもない。今でこそ略語以外のものが口から出ることはほとんど無くなったが、幼い頃は記憶の混同も相重なって結構苦労したものだ。

 

「まあ、学校にエロ本持ち込んでる限りはできねぇだろうな」

「手厳しいな……」

「事実だろ。あんなん女子に見られたら人生終わるぞ」

 

 何たって内容がニッチすぎるのだ。「ローアングル探偵団」ってなんなんだ。タイトルで笑わせにきているとしか思えない。しかも、シリーズ化されているという事が余計謎だ。

 

「んじゃあよ、大将。どうやったら女の子と仲良くなれるんだ?」

「部活でもやれば?」

「それはもうやった」

 

 幽霊じゃなくて真面目にやるんだよ。

 思わずそうツッコミそうになったが、梅原も初めからやる気がなかったわけではない。男女混合の剣道部で、半年は真面目に部活をした上での経験談なのだろう。それなら今のは的外れな指摘になってしまう。

 

「なら、自分から話しかけるしかないんじゃね?」

「それができたら苦労しねぇよ……」

 

 梅原は困り顔でそう呟いた。

 まあ、その気持ちはわからないわけではない。前世の自分が同じことを言われていたら、きっと実行できなかっただろう。

 やはりこの年齢の男女にはそれなりに深い溝というものが存在している。今の自分がそれを気にしないでいられるのは、前世の経験を加算して、無駄に精神年齢が上がってしまっているからだろう。

 前向きに捉えれば大人びてると言えるが、自分としては枯れてしまっているようで少し寂しい。

 

 少し間が空いたことで気を取り直した梅原は、表情を変えるとこちらに話しかけて来た。

 

「てかよ、大将はなんでそんなに余裕があるんだ?」

「ん? なにが?」

「女子と話すことにだよ。俺は森島先輩相手に冷静でいられる気がしねぇんだが……」

「自分があの人の眼中にないのがわかってるからな。恋愛対象的な意味で」

「寂しいこと言うなぁ。んじゃ、絢辻さんとか棚町はどうなんだ?」

 

 絢辻と薫……。

 薫は中学からの付き合いという事で、距離感が近くてもドキドキするような間柄ではない。

 別の意味でドキドキすることはあるが。

 

「薫は友達じゃん。そもそも、お前も普通に話してるやんけ」

「まあ、そうだな。なら絢辻さんはどうなんだ? 確か1年の頃から仲良かっただろ?」

 

 どうなんだろう。というか、絢辻とは本当に仲が良いのだろうか。

 確かに1年の時から話をすることは比較的多かった。趣味が合うということで、向こうから話しかけられることも度々あった。

 だが、仲がいいのかと言われれば少し返事に詰まる。

 別に喧嘩をしたとかいうわけではない。なんというか、これは二人で話すようになってから気がついたのだが、彼女と話をしていると妙な壁のようなものを感じるのだ。

 ただまあ、具体的にどういうものかというと言葉にできないのだが。あくまでこちらの感性の問題だ。

 

 あとこれは別の話なのだが、絢辻との会話で三回話がスベると、親の仇を見るような目で見つめられることがある。彼女はすぐに表情を戻すのだが、やはり裏では嫌われているんじゃないかと怖くなってしまう。

 

「絢辻も話しやすい部類だろ? だからクラスで慕われてんだろうが」

「まあ、そうか……」

「多分、梅原は色々考えすぎなんだろ。仲良くなるために話しかけるんじゃなくてさ、話した結果仲良くなれるんだって思えば、ちょっとは気が楽になるかもよ」

「そんなもんか?」

「そんなもんだろ」

 

 会話はそこで途切れてしまった。梅原は何か考えに耽っているようだ。

 こいつも目線を自分の周りに向ければ、彼女くらいすぐにできる気がする。ノリもいいし、性格もいい。スポーツもできる。勉強はそこまでできないが、実家の寿司屋を継ぐと言っているし問題ないのだろう。

 なんというか、俗に言う「ワンチャン」が存在しない人に固執しているのが、彼の恋愛のハードルを上げている原因なのだろう。1年以上同じ相手を思い続けているのは一途だと言えなくはないが、自分としてはさっさと諦めて他に行けと思わないわけではない。

 

 少し時間が経ったが未だ梅原は自分の世界に入っており、このままでは黙ったままでいそうなので話しかけることにした。

 

「ま、あれだ。数打ちゃ当たるって言うじゃん? 恋愛できるかどうかは別にしてさ、とりあえず色んな女の子と話してみれば?」

「ん? んー……例えば?」

「うちのクラスでも話しやすそうで可愛い子は多いだろ? 絢辻とか、田中さんとか。あとは、あの……ポニーテールの子……とか」

「北川さんな。いい加減クラスメイトの名前くらい覚えろよ……」

 

 梅原は呆れ顔で苗字を教えてくれた。

 

 勘違いしないで欲しいのだが、クラスメイトの名前を覚えていないと言われれば多少語弊がある。

 北川さんは基本的に「やよいちゃん」と名前で呼ばれており、それはきちんと把握している。ただ、自分はほとんど会話したことがなかったので、会話の中でとは言え名前を呼ぶのは何かチャラそうで嫌だったのだ。

 

「うーん。田中さんはまだしも、絢辻さんはハードル高いな……」

「なんで?」

「なんでって……美人だろ? それに勉強もスポーツもできるし、いざ楽しくお話しようとなると尻込んじまうって」

「そうか?」

 

 確かに絢辻のスペックは高い。だが、近づきにくいタイプではないはずだ。一度話をしてみれば、よっぽどなことがない限りは普通に会話できるだろう。

 ……と、言う意味で疑問を口にしたのだが、梅原には別の意味に聞こえたようだ。ものすごい剣幕で言葉をまくしたててきた。

 

「なんだ大将!? お前は絢辻さんじゃ物足りないって言うのか!?」

「ちょ、落ち着けって……」

「いいや! 落ち着いてなんかいられねーな! いいか大将? お前はもうちょっと立場っつーもんを自覚するべきだ」

「わかった! わかったから、な? このパターン前にもやったから……」

 

 いきり立つ梅原をなんとかなだめる。彼は冷静さを取り戻したものの、こちらに対してはまだ納得できていないようだった。

 どうやら弁解の言葉を述べる必要があるようだ。

 

「……絢辻は結構話しやすい奴だって言おうと思ったんだよ。早とちりすんなって」

「そうか? 大将の理想って、実はめちゃくちゃ高いんじゃないのか?」

「ちげーよ! わかった。絢辻は完璧美少女だ。お前が話しかけづらいのもしゃーない」

「そうだよな! やっぱり絢辻さんほどになると、話しかけるのにも躊躇っちまうよな!」

 

「私がどうかしたの?」

 

「ん?」

「えっ」

 

 突如近くから声をかけられ、自分たちの動きが固まる。

 恐る恐る目線を声の発せられた方向に向けると、そこには分厚い洋書を一冊胸元に抱えてこちらを見つめる絢辻の姿があった。

 

「あ、あああああ絢辻さん!? どうしてここに!?」

「えーっと、英語の斎藤先生に本を探しておいて欲しいって頼まれてて。そしたら、私の名前が聞こえたから……驚かせちゃったかな?」

「い、いや! そんなことは無いんだけどさ! そ、それよりもだな……」

 

 面白いほど動揺する梅原。

 その姿を見た絢辻は苦笑いを浮かべており、その様子から色々と察せられる。

 

「落ち着け梅原。このパターンだと話は全部聞かれてただろうよ」

「ちょ! なお落ち着けねぇじゃねぇか! あ、絢辻さん? 本当に今の話聞いてた……?」

「あはは……盗み聞きするつもりは無かったんだけど……」

 

 間接的に肯定の意思表示をする絢辻。

 それを察した梅原は、コロコロと顔色を変えながら絶句した。

 

「ま、全部聞かれてたなら話は早いじゃん」

「……何がだよ」

「完璧美少女絢辻さんに、どうやったら女の子とお近づきになれるか教えて貰おうぜ」

 

 こういう時に変に誤魔化すのは悪手だ。

 矛盾するようだが、恥ずかしさというものは恥ずかしいと思うから感じてしまうのだ。要は、開き直って仕舞えばいい。

 梅原も納得したのか、気を取り直してすがるような目で絢辻を見つめ始めた。

 

「ということで絢辻さん。モテない哀れな男子高校生に一言、助言をいただけませんかね?」

「えっ? あの……」

「頼む絢辻さん! あんただけが頼みなんだ!」

「う、うん。それじゃあ……」

 

 突然のことに困惑していた絢辻だが、こちら側のテンションに押し切られたのか了承してくれた。

 少しの間アドバイスを考えていた彼女だが、やがて顔を上げると、躊躇いがちに口を開いた。

 

「えっと……女の子と話す時のアドバイスでいいのよね?」

「ああ! 頼む!」

「それなら、一つ気にして欲しいとすれば目線かな」

「目線?」

 

 絢辻の言葉に対し、梅原は不思議そうな顔を浮かべる。

 

「うん。変に意識しないできちんと目を合わせてコミュニケーションを取ることが、やっぱり一番大切だと思うな」

「お、おお。なるほど……」

「それと、女の子って視線には敏感だから。そこで変なところを見なければ、逆に誠実さのアピールになるかも」

 

 これでいいのかな、と絢辻は笑みを浮かべながら尋ねてきた。

 急に話を振ったのにも関わらずキチンと相談に乗ってくれるあたり、彼女の人の良さが見て取れる。自分だったら適当に済ませていたはずだ。

 梅原も感激したようで、勢いよく感謝の言葉を発してきた。

 

「ありがとう絢辻さん! 流石、大将と違って頼りになるぜ!」

「は?」

「ふふっ、お役に立てたなら良かったわ」

 

 そう言うと、絢辻は一言挨拶を残してその場を去って行った。

 なんだかんだで上手く場を収められたようだ。いや、そもそもやましい話をしていたわけではないので、慌てる必要は無かったのだが。

 助言自体もとても有用なものであったし、梅原も満足そうな表情を浮かべている。

 

「すっげぇよな、絢辻さんは。誰にでも優しいし、惚れちまいそうだぜ……」

「倍率高ぇぞ」

「だよなぁ……ま、とりあえずは教えてもらったことを実践してみるか」

 

 とりとめのない雑談であったが、話のまとめまで到達したと言うことで、その場はお開きという空気が漂い始めた。

 思えば結構話し込んでいたのだろう。ここに来てから凡そ1時間は経過していた。

 

「ん? もうこんな時間か。どうする大将? 俺は帰るけど、ゲーセンでも寄ってくか?」

「あー……今日はいいや。せっかく図書室来てるし、ちょっと本見てから帰るわ」

「そうか? んじゃ、また明日な!」

「おう」

 

 そう言って梅原とその場で別れた自分は適当に文庫本の立ち読みをして、30分ほど遅れて学校を出るのであった。

 

 

 

 ♢♦︎♢

 

 

 

「にぃにー! 入るよー!」

 

 夕食後、自室で漫画を読んでいると突如妹に部屋の扉をノックされた。

 この時間は妹のお気に入りのテレビ番組がやっているはずなので、戸惑ってしまい、返事が遅れてしまった。

 家族と話すには少し間が空きすぎてしまったか、美也はこちらが返事を返すよりも先に扉を開いて部屋へと入って来た。

 

「ん? なんだ、起きてたなら返事してよ!」

「お、おう。悪りぃ、ぼーっとしちゃってた」

「まーいいけど。って、にぃに? またそのおかしなビーバーの漫画読んでたの?」

 

 こちらの手に持つ漫画の表紙を眺めた美也は、呆れ顔でそう言ってきた。

 自分が今読んでいた漫画は「ビーバー三国志」という少年漫画だ。

 内容は三国志の登場人物を皆ビーバーに置き換えて、ストーリーを軽くしてギャグを付け足したといった感じだ。

 小学生向けの漫画雑誌で連載されているこの漫画だが、自分が小学生の頃から連載が続いており、月刊誌故の単行本の発刊スピードもあって今でも惰性で買い続けている。

 正直、年齢が上がるにつれて感性が変わっていき、今ではそこまでギャグでも笑えなくなってしまったのだが、読めばなんとなく懐かしさに浸れて楽しい気持ちになれるため、読み返すことは多い。

 

「いいじゃん。少年の心を忘れたくないんだよ」

「オヤジ臭いよ、にぃに……」

「高2なんてもうジジイみたいなもんだって。ってかそれより、何しに来たんだ? いつもはテレビ見てんじゃん」

 

 そうだった、と目的を思い出した美也は、ベッドに腰掛けると少し間を空けて話しかけて来た。

 

「にぃにってさ、逢ちゃんのこと知ってる?」

「ん? 逢ちゃんって……」

「美也のクラスメイト。ショートカットでクールな感じの子」

 

 自分の知り合いでその条件に当てはまるのは一人しかいない。

 知り合ったばかりで名前に慣れていなかったため即答はできなかったが、心当たりがあったのでそれを話すために口を開いた。

 

「それって、七咲のこと?」

「そそ! やっぱり知り合いだったんだ」

「ほとんど話ししたことないけどな。それがどうしたんだ?」

 

 自分が尋ねると、美也は質問の意図を説明してくれた。

 入学してすぐは美也と七咲に接点は無かったそうなのだが、今日行われた席替えによって席が隣になったことで話すようになったそうだ。

 その時に会話の流れで兄弟がいると伝えると、それは兄なのではないかと当てられ、そこで少々疑問を抱いたらしい。

 

「で、にぃにはどこで逢ちゃんと知り合ったの?」

「あー、それは……」

 

 どう説明したものだろうか。別に馬鹿正直に出会いについて話すことはないのだろうが、中途半端に嘘をつくと経験上見抜かれてしまうことがわかっている。

 だとしたら変にウソを吐くよりも、幾つか事情を省いて正直に話した方がいいだろう。

 

 そう思った自分は顔を上げると、何故かジト目でこちらを見つめる美也にたじろぎつつも話し始めた。

 

「あー、女子水泳部の部長と仲良くてさ。そんでちょうど七咲が先輩と部活の話をしてる場にたまたま通りかかって。んで、挨拶だけ済ませてたってわけ」

「……なんでにぃにが女子水泳部の先輩と仲良いの?」

「知らね。覚えてねぇや」

 

 そういうわけではないのだが、普通は人との出会いを覚えていることは少ないだろう。それが一年以上前のこととなるとなおさら。

 妹はこちらの言葉にイマイチ納得していないようだが、ツッコむアラは無いので黙っている。

 

 このままじゃ変に空気が悪いままなので、話題を変えるためにも話しかけることにした。

 

「ま、俺もそこまで七咲と話ししたことあるわけじゃ無いんだけどさ。無愛想に見えて結構いい奴じゃない?」

「あ、うん。初めはちょっと怖いかなーって思ってたけど、話してみると全然そんなこと無かったよ!」

「そっか。妹の人間関係に口出すつもりは無いけどさ、せっかくだし仲よくなってみれば?」

「うん……そうだね! 明日お昼ご飯一緒に食べないか誘ってみる!」

「おう、がんばれな」

 

 今のやりとりで満足したのか、美也はじゃあねと大きな声で挨拶をすると勢い良く部屋を飛び出して行った。

 騒がしい出来事だったが、どうやら妹も学校で上手くやれているようで少し安心できた。どうなるかはわからないが、七咲と友達になるのならそれはそれで喜ばしいことなのだろう。

 

 美也の学生生活について兄として少々感傷に浸っていた自分だが、気を取り直すと再び手に持つ漫画へと意識を戻すのであった。

 

 

 

 

 




後輩達は仲良くなるとそのままルートに入りそうなので、共通ルートでの出番は少なめです。

そういう共通ルートもあと少しで終わらせられそうです。修学旅行や体育祭といったイベントをすっ飛ばしてますが、必要になったら番外編ででもやるかも。
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