レミリア「気を練るとね、出てくるのよ。ほら――」
ほあああああああああ!!!
本編は台本形式ではないです。ご注意を。
あと、気も練ったりしません
違います。
ここは悪魔の館、紅魔館。
紅魔館には悪魔だけでなく、妖怪や妖精、果ては人間までもが住んでいる。
来客もまた様々で、元(?)月人や神までも訪れるなんとも奇異な館である。
これは当主のレミリア・スカーレットの性格が実によく表れた結果であった。
面白ければ、全てOK。
紅魔館の秩序はそれが重要だった。
妖精メイドがさぼろうが、門番がシエスタしてようが、なかなか役に立たない魔女がいようが関係ない。
そんな紅魔館の地下にある図書館に、一人の魔法使いが鼻歌混じりでやってきた。
「よーっす」
図書館の主と目が合うと、魔法使いはお目当てのものを探し始めた。
名は霧雨魔理沙。
普通の魔法使いである。
「お、新しいの来てるな」
にやりと嬉しそうに、図書館の新刊コーナーに目を走らせる魔理沙。
そこには図書館に新たに加わった本が置いてある。
新しく発行されたのではなく、新しく加わった本という意味での新刊。
「――そこのやつ、持っていかないでよ」
少し遠くから、あまり大きくない声が聞こえてきた。
先ほど目が合った図書館の主、パチュリー・ノーレッジである。
「なんだ、まだ読んでなかったのか」
「よく見なさい。巻数が抜けてるでしょ?」
「あぁ、だから後回しにたってことか」
パチュリーは、順序良く読まないと気が済まない性質である。ちなみに魔理沙は飛び飛びでもあまり気にしないタイプ。
「……外の本だから、取り寄せるまで少し時間かかるのよ」
「なるほど」
話は分かったが、魔理沙には気になることがあった。
今初めて気になったことではないく、前々から少し気になっていたことであった。
「そういえば、ここの外の本でどっから手に入れてるんだ? 前からあるやつはともかく、新しく加わるのはどういうことなんだ? 香霖堂とかか?」
「――違うわ」
パチュリーは短く否定した。
「なら、どこからだ?」
「……さぁ」
「んだよ」
言い渋るパチュリー。
「私も利用させてもらってる身だ。別に、先行して奪い取ってしまおうと思ってるわけじゃない。ただ好奇心として気になっただけだ。年季は違うが、同じ魔法使いだ。好奇心に対する気持ちは分かるだろう?」
パチュリーは本を閉じ、息を吐いた。
魔理沙の言う事は、その通りとしか言えないものだった。
好奇心には抗えない。
魔法使いというのはそういう生き物だった。
気持ちは分かりすぎる程分かった。
だから、言わざるを得なかった。
「……レミィにでも聞きなさい」
それでも最低限にとどめた。
そしてこのヒントは、おそらく解決にはつながらないことも知っていた。
狡猾でないと務まらないのも、魔法使いである。
「んー、レミリアにかぁ」
特に用はない。
用は無くても会って話したりもする仲ではあるが、今はその気にはならなかった。
「――え、呼んだ?」
そんな時、ちょーどよくやってきた。
「私、参上!」
ドヤ顔で衣玖さんポーズを決めると、嬉しそうに二人の間に入ってきた。
「で、なになに? 私のこと話してたでしょ?」
知らないとこで自分の噂がされていて、何故か上機嫌である。
ぐいぐい食いつてきた。
「まぁ、ちょっとなぁ……」
「ほら、早く言いなさいよ」
別にためらう必要もなかった。
魔理沙は聞いた。
「じゃあ聞くが、ここの新しく増える外の本はどっから仕入れてるんだ? パチュリーに聞いても、お前に聞けって言うからさ――」
魔理沙はぎょっとした。
今の今まであれだけご機嫌だったレミリアが、この一瞬で真顔になっていたからだ。
「な、なんだ――?」
まずいことを聞いてしまったのだろうか、魔理沙はそう思うも、元はと言えばパチュリーが聞けと言ったのだ。恨まれでもしてない限り、地雷を踏ませるようなことはしないはず。恨まれてさえいなければ。
「聞いたらまずかったのか?」
おずおずと言う魔理沙。
「……そうね。その質問に答えることは出来ないわ」
そのレミリアの表情はあまり見ないものであった。
機嫌が悪いというよりは、深刻な感じの表情。
「そ、そうか。なんか悪かったな」
「気にしないでいいわ。ちょっと色々あるだけだから」
「お、おう」
ぶっちゃけ気になって仕方ない魔理沙だった。
だがこれ以上ここにいると、好奇心に負けてまた聞いてしまうかもしれない。そう思った魔理沙は行動を開始した。
「じゃ、じゃあ私はフランにでも会いにいってくるかな。最近会ってなかっ――」
言い切る前に、
「駄目よ」
止められた。
「今日は、その、あの子、機嫌悪いから、どうなっても知らないわよ」
「……そうなのか? あいつ、わりと普通だと思うけどな」
「普通なら、ずっと引きこもってないでしょう」
「お前が閉じ込めてるんじゃなかったか?」
「……あぁ、そうね。それもあったわね」
「今日は何か変だぜ」
「そういう日もあるのよ。……来てもらってるとこ悪いけど、今日はもう帰ってちょうだい」
なんだかばつが悪いレミリア。
「……そうするか。たしかに、今日はなんか日が悪いみたいだ」
不穏な気を感じた魔理沙は、言葉通りに帰ることに決めた。
――その時。
「たっだいまー!」
図書館に元気な声で入ってくる者が。
レミリアが石のように固まり、パチュリーが頭を押さえた。
「おねーさまが催促してた最新刊売り切れてたから、わざわざ本屋六件くらい回ってきたー。いやー気づかれないようにするのも一苦労でさー」
幽閉されてるとか、情緒不安定だとか、なんとかで引きこもってるはずの悪魔の妹、フランドール・スカーレットが、魔理沙には見慣れないガサガサと音がするビニール袋を持って登場した。
「ふ、ふらん?」
魔理沙は目を疑った。
「あ」
とだけ、フランは短く言葉を発した。
「……これはどういうことなんだぜ?」
魔理沙はレミリアを見た。
顔を逸らされた。
パチュリーを見た。
逸らされた。
「…………」
フランを――。
逸らされた。
「おい……」
空気がなんか濁った。
「……なんてタイミングで帰ってくるのよ」
レミリアはぼやいた。
「あ、そんなこと言う? じゃあ、コレはお預けね」
「あ、それはやめて」
フランはビニール袋を掲げると、レミリアは即座に降参した。
マンガがカリスマ当主に読まれるのを待っている。
「で、これはどういうことなんだぜ?」
「……見ての通りよ」
引きこもり()の妹が、仕入れてきていました。
「いや、分からん。誰が仕入れたのかは分かったが、『どこから』仕入れてるのかがまだ判明していないぞ」
「っち」
レミリアは舌打ちして黙った。
代わりにパチュリーが口を開く。
「好奇心は猫をも殺す、よ」
そこから推測できることは、
「……なるほどな。本当に隠したかったのは、そこか」
そういうことは滅法知恵が働くのが霧雨魔理沙である。
盗賊は隠してるものを見つけるのが上手いとか誰か言ってた。
「ってことは、順当にいけば香霖堂なわけだが、だとしたらわざわざ隠す必要はないな。もう一つ考えられるなら、紫だろうが、それもまた隠す必要がない」
魔理沙は鋭かった。
「――ん? 待てよ、さっき本屋を回ったとか言ってたな。ってことは、外の世界に行ってたてことだ。それで、それを隠したがるということは、無許可でやってるということになる。フランの能力かなんかかは分からんが、とにかくそういうことだな?」
合っていた。
完膚なきまでに合っていた。
魔理沙は各々の表情から、それを悟った。
「なるほど、なるほど」
にやり、悪い笑みを浮かべた。
「これを紫、……いや、霊夢に言ったらどうなるかな?」
魔理沙は皮算用を始めた。
「揺するつもりかしら?」
「いやいや、私はただ幻想郷の一員としてだな?」
「…………」
レミリアは言葉を発せなかった。
パチュリーが助け舟を出した。
「もしその時は、この図書館に足を踏み入らせないけど、それでもいいなら言うといいわ。少なくとも、外の本を読みたいのは一緒なはず」
魔理沙は考えた。
確かに、本を求めに来るたびに門番と戦闘して図書館でも戦闘してとなれば、非常に効率が悪くなる。
――ここが引き際か。
一応弱みは握れた。
戦果はそれで充分。
魔理沙は決めた。
「――分かった。誰にも言わない。今までどおり、それでいいだろう?」
「賢明な判断ね」
空気が少し緩まった。
フランが冗談めかして、言う。
「あー良かった。私の右手がちょっとアレするとこだった」
魔理沙の口元が引きつった。
それにより、紅魔館勢はちゃんと釘を刺せたことを確認できた。
いくらか日が経ち、そんな事があったことも忘れかけてきた頃。
「今宵、このような所に来たのには理由があります。さて、わざわざ理由を申し上げる必要があるか、実に怪しいところでですが、一応言わなくてはいけないでしょう」
慇懃な態度ではあるが、どこか圧を感じさせる態度で話す金髪の女性。
「……挨拶もなしに、ぶしつけではないか? 礼というものを尊重する意識にスキマでも空いているのではないかと疑ってしまうところだ」
レミリア・スカーレットは、夜を支配する吸血鬼に相応しいオーラで、自身の館にやってきたスキマ妖怪八雲紫に接していた。
レミリアは、後ろめたいことがあると尊大になって誤魔化そうとするタイプだった。
「挨拶もなし、とはこちらの台詞ですわ。言いたいことはお分かりでしょう?」
さっさと察しろ。
そう言わんばかりの目つき。
「さて、分からんな。細かいことには気づかないタチでね」
「では直接言う事にしましょう」
八雲紫は扇子を広げ、その上から見える切れ目は険しく細まっていた。
「貴女の妹さん、外に出ているでしょう?」
「おや、妖怪の賢者ともあろう者がうちの妹のことも知らないとは驚きだ。アレは不安定でな。外には出さないようにしている」
「へぇ? これを見てもそう言えるのなら、大したものね」
紫は懐から一枚の紙を取り出した。
「……それは?」
写真、のようだった。
「ブロマイドというのよ」
「……それがどうかしたのか?」
「これに映ってる子のに見覚えはないかしら?」
紫がふわりとブロマイドを投げると、それは蝶が空を行くようにレミリアの元へと向かっていった。
「――っな!」
受け取ったレミリアは目を見開き、驚きの声を発した。
「……これは、一体、どういうことだ?」
「それを聞きに来たのです」
本当に知らない様子のレミリアに、紫は自身の推測が違っていたことを知った。だが、全く何もしらないということはないだろうとも思っている。
「幻想郷と外とを自由に行き来できるようなのは、そう多くはないはず。さて、これは外の世界で手に入れたもの。――理由をお聞きしても?」
レミリアは困惑した。
「……知らん」
本当に知らなかった。
そして、そんなことよりも気になることがあった。
「他にも、あったりするのか?」
「えぇ。一応」
レミリアはガタリと立ち上がった。
無意識。
反射的なことだった。
自分の状態に気づくと、すぐに座りなおした。
「……質問に答えるには、もう少し情報がいる」
要は。
「他にも見たいと?」
レミリアは返事をしなかった。
しかし、この沈黙が肯定てあることは明らかだった。
「お見せするには、条件があります」
「……聞こう」
「妹さんに会わせてもらう」
「……出来ない」
「なぜ?」
「さっきも言ったはずだ。不安定だと」
「偽りは通じませんわよ」
「……うぅむ」
ちょっと白状することにした。
「……どこにいるか分からない」
「どういうこと?」
「いつの間にかどっかに出かけている」
「それは、外の世界ということで?」
「…………」
再びの沈黙。
つまりの是。
「なるほど。外に行っていることは分かっても、どこへ行ってるかまでは分からないと」
「……まぁ、そうなる」
「では、本題に入りましょうか」
大事な事、それは――。
「どうやって結界を超えたのか」
知らなければいけないことだった。
「……言えない」
「なぜ?」
「…………」
今度の沈黙はすこし違った。
知ってはいるが、言う事が出来ない。そんな意があった。
紫はそれをすぐに看破した。
あとはどうやってこれを突破するか。
突破口は向こうから示してきた。
「全部とは言わずとも、多少は喋ったんだ。見返りがあってもいんじゃないか?」
レミリアの欲しているもの。
視線が分かりやすく『それ』に向かっている。
交渉のカードは紫にあった。
紫は目標が達成されることを覚った。
「えぇ、じつは他にも――」
紫はスキマに手を入れると、中からキーホルダーやらTシャツやらなにやら取り出した。
「っな!」
普段見ないような笑みを浮かべる妹フランドールに、レミリアは身を乗り出した。
あわあわと口を動かし、うめく。
「ふらんちゃんがひとり……、ふらんちゃんがふたり……」
ゾンビのように、フランちゃんグッズによたよた近づく。
「うわぁ……」
それを陰で見ている者がいた。
これまた都合よく帰って来てしまっていたフランちゃんその人である。
見たくなかった姉の姿にドン引きしている。
思わず発した一言で、見ていたのがバレた。
「っは! ふ、フランちゃん? か、帰ってたの?」
「うん、帰ってこなければよかったって今真に思ってる」
「そんなことはいいわ! ちょっと! なんなのよこれは!」
レミリアは素早く紫の持つフランちゃんグッズをひったくって、フランに見せた。
「お金稼ぎ」
「お金って、そんなの館からもってけばよかったでしょ?」
「使えないんだもん」
「だからって――」
レミリアはちらっと手に持ったフランちゃんグッズを見て、そのままふところへなおした。
「とにかく! こんなの姉的に許さないわ!」
「じゃあどうやって買い物するの? まさか今まで盗って来てるとでも思ってた?」
「え?」
「おねーさまがそう来るなら、こっちにも考えがあるけどいいの?」
「考えって?」
「おねーさまが、今、そこのスキマ妖怪に隠していることをバラすよ」
紫は、ぱちりとまばたきした。
ラッキー。
「あら、良い話じゃない」
「うっさい。お前は黙ってろ」
「交換条件として、私を外の世界にある程度自由に行き来させてくれるなら、だけどね」
「そこでやることは、買い物とアイドル活動だけというのならいいでしょう」
「よっしゃ」
「ちょ」
一気に話から置いてかれるレミリア。
「というか、買い物出来ればよかったんだけど、なんか無表情な男にアイドルに興味ありませんかとか笑顔がなんとか言われて小遣い稼ぎにやってみただけだし。そしたら思いのほか、がっぽがっぽ」
「……それで?」
紫は早く答えが知りたい。
「ああ、結界のことね」
「ちょ。待って、待ってふらんちゃん! この間こっそりふらんちゃんのおやつ食べたの謝るから!」
「ふぁっく。――霊夢にはした金渡して、バレないように結界緩めてもらってた」
「……なるほど、分かりました」
外への行き方が思いのほか平和的で、対処しやすいものだったので紫は安心した。
同時にちょっとお灸をすえてやらねばならないとも思った。
レミリアは焦った。
「ちょっと! 霊夢に何も言わないでよ! 口きいてくれなくなっちゃうじゃない!」
紫はにっこりほほ笑んだ。
――知ったことか。
しかしそれは、レミリアとしては超が付くほどの重大なことであった。