姉妹艦のいない島風に一日お姉さん体験をさせてあげようと心優しい提督がサプライズで擬似姉妹艦を用意するも、その提督はちょっと勘違いが甚だしい人で……。
ここは日本のとある鎮守府。
今日も海の平和を守る為、提督や鎮守府職員、それに最前線で戦う艦娘達は、深海棲艦との飽くなき戦いに奔走しているのである。
しかし、そんな戦いの申し子達にも休暇は与えられる。
そして今日は、そんな戦いに明け暮れる日々の中に訪れた、貴重な休暇日であった。
「やっぱり目覚めの一杯はブラックに限るのです」
「ハラショー! これは眠気が吹き飛ぶね」
「い、一人前のれでぃーですもの、ブラック位のめ……」
「暁、全部飲めなくてもいいのよ?」
口元から苦いコーヒーを垂れ流している暁を心配しそうに介護する雷。そんな二人を他所に、響と電はもう一杯おかわりするのであった。
第六駆逐隊の面々がそんな朝のひと時を駆逐艦寮の共有スペースで堪能しているのを、一人、羨ましそうに横目で見つめていた艦娘がいた。
しかし彼女は、第六駆逐隊の面々に気づかれる前に、共有スペースを後にするのであった。
「や、夜戦だー!!」
「姉さん、何言ってるんですか!? まだ夜じゃなくて朝ですよ!」
「え~、だって南アフリカ的にはこの時間は夜中でしょ……。南アフリカは同じ空の下にあるんだから、つまりは今は夜でもあるんだよ!! だから夜戦だぁぁーーーっ!!」
「姉さん! そんな屁理屈聞いたことありません!!」
「川内ちゃんは相変わらず夜戦が好きだね~」
駆逐艦寮を後に鎮守府内を歩いていた彼女は、川内型軽巡洋艦三姉妹とすれ違い、朝からハイテンションな長女川内の夜戦馬鹿っぷりに眉をひそめながらも。
何処か、羨ましそうに三姉妹を見つめるのであった。
「はい摩耶ちゃん、パンパカパーン! 任務ご苦労様!」
「ちょ、愛宕姉(ねぇ)! 恥ずかしいじゃねぇかよ、やめよろ!」
「扶桑姉さま、ご苦労様です」
「あら、山城、わざわざありがとう」
「大変じゃありませんでした? 扶桑姉さま?」
「名神高速道路でちょっとした通行止めはあったけど、概ね順調だったわ。これも提督が用意してくださったスーパーグレード仕様のお陰ね」
「うひひぃ~、今日は休日、なら、飲むしかないです!!」
「ひゃっはー! 休みだ! 酒だ!」
「いよちゃん音頭でかんぱーい!!」
「こらポーラ!!」
「隼鷹! 貴女また朝から一升瓶持ち出して!!」
「い、イヨちゃん、朝からそんなに、その、飲むのは、身体によくないよ……」
更に道中、様々な艦種の姉妹達とすれ違いそれらを横目にしながら、彼女は内に秘めた感情を唇を噛み締める事によって耐え忍ぶのであった。
そんな彼女の姿を、司令部の一室から見つめる者がいた。
第2種軍装をきっちりと着こなしたその者は、この鎮守府の最高責任者にして艦娘の上官でもある提督その人であった。
「島風は相変わらず一人で寂しそうだな……」
「提督、何か言いましたか?」
自身の執務室の窓から、一人寂しそうに鎮守府内を歩く艦娘の姿、島風型一番艦は島風の姿を眺めていた提督は独りごちる。
そんな提督の独り言を、秘書である大淀は再度聞き取ろうとする。
「島風はひとりぼっちで寂しそうだなと思って」
「あぁ、島風ですか? ……一応、任務に関しては他の艦娘(こ)達と特にトラブル等はなく、問題行動も報告されていませんが?」
「任務の間は特に問題なくても、やはりプライベートでは寂しそうに思えるが」
「そうですか? この間、間宮さんの店の前で長波とアイオワさんの三人でどの羊羹を買うかで悩んでいるのを見かけましたけど?」
「交友関係、でもないんだ。俺が言いたいのは、どうでもいいような事で笑ったり泣いたり真剣に考えてくれたりしてくれる身近な、そう、姉妹の存在がいなくて寂しそうだなと言うことだ」
「姉妹、ですか……」
島風型駆逐艦は計画では十六隻もの建造が計画されていた。だが、建造の手間や戦局並びに基本戦術の変更等により、結局竣工したのは島風ただ一隻だけであった。
そしてそれは、艦娘となっても変わらず。彼女は姉妹が多数いる駆逐艦達の中でも、姉妹のいない数少ない一人なのだ。
なお、姉妹のいないと言う身の上ならば大淀も同じである。
彼女も、計画では二番艦の仁淀が建造される予定ではあったが、結局仁淀は建造されることなく大淀型軽巡洋艦は大淀ただ一隻が竣工した。
「成る程、確かに幾ら仲の良いといっても姉妹と親友とでは精神的な安心感が違いますからね」
「何とかしてやりたいが、流石にこればかりはな……」
「それでしたら提督。本当の姉妹は無理でも、擬似体験として姉妹と言うものを島風に体験してもらうと言うのはどうでしょうか?」
「疑似体験か……。成る程、それはいいな!」
大淀の提案に提督は乗り気を見せると、早速実行に移すべく大淀に指示を飛ばす。
「こう言ったものはサプライズにして更に嬉しさ倍増にするといいかも知れないな。よし、大淀、早速今から言うメンツを集めてくれないか?」
「分かりました」
提督から招集する面々の名を聞き、早速呼びに向かう大淀。
大淀が執務室を出て行き、一人残った提督は、更に疑似体験の内容を煮詰めていくのであった。
「名前が島風、だから、姉妹だと何とか風になるのか……、ん~、あ! そうだ!! よし、これでいこう!!」
考え付いた内容をメモ用紙に書き込みながら、提督は島風が喜ぶ姿を想像するのであった。
それから数時間後。
食堂で昼食を食べてまた一人のんびりと過ごしていた島風。
そんな彼女のもとに、提督が近づき声をかける。
「島風、休日満喫しているか?」
「あ、提督。……うん、満喫している」
「そっか、それはよかった」
「……」
「そうだ島風。実はな、日頃頑張ってる島風に今日はちょっとしたサプライズがあるんだ」
「サプライズ?」
「ちょっと俺の執務室まで一緒に来てくれるか?」
「うん、分かった」
言われた通り提督の後に付いて行く島風。
やがて、通いなれた提督の執務室の前までやって来ると、不意に提督が一歩足を引いた。
「島風、扉を開けてごらん」
「う、うん」
提督に言われた通りに扉のノブに手をかけると、ゆっくりと執務室の扉を開ける。
すると、室内に数人の人影がいる事に気がつく。
「あ……」
そして、完全に扉を開け切ると、室内にいた人たちの鮮明な姿が島風の目に飛び込んでくる。
「じ、じま゛がぜ、型、ズズズズッ! に、に゛ばん艦、ズズ……ゴッ! の、鼻風、です」
「ウエッホ! ぢぢまがぜがた、ヴェホ!! ざ、ざんばんがん、ン゛ンッン゛ッ!!! の喉風、でずっぼい゛」
「あ~、くらくらする~。島風型……、四、番、艦……。あ~、熱風、で~……す」
そこにいたのは、何故か島風と同じ服装を身に纏った阿武隈、夕立、皐月の三人であった。
ただ、三人ともマスクをつけ、その顔色はあまり優れているようには見えない。
「お、おぅっ!?」
「どうだ島風? 俺が用意したサプライズ企画、その名も『島風一日お姉ちゃん体験』に協力してくれる擬似妹の三人だぞ」
「て、提督、これどういうこと?」
「だから、姉妹のいない島風に一日だけでも姉妹と言うものを体験して欲しくて用意したんだ。ほら、妹の鼻風・喉風・熱風の三人だぞ。島風の姉妹だから、それぞれ風って名をつけたんだ。それに、島風は綺麗な金髪してるから、三人も綺麗な金髪の子を選りすぐった!」
「提督……、これは、『風』じゃなくて『風邪』だよ……」
「ん? 嬉しかったか?」
「もぉぉぉっ!!! こんなの嬉しい訳ないでしょ!!!!! しんどい皆に無理させて!!」
「おうっ!?」
その後、擬似姉妹に仕立て上げられていた阿武隈、夕立、皐月の三人は、これ以上悪化しないように各々の個室で絶対安静となり。
とんだ内容で島風の怒りを買う事になった提督は、お仕置きとしてお尻にアイオワの二十一万馬力タイキックを喰らう羽目となった。
なお、本来であればストッパーの役割を果たす筈が、長年秘書として提督の傍にいた為に感覚が麻痺し、結果共犯となった大淀には、『MG42』を持って前線出撃のお仕置きが執行された。
「ちょ! ちょっと待ってください!! これ『WG42』じゃなくて電ノコの方じゃないですか!!」
因みに、大淀が出撃した同海域ではその日、機関銃を片手に派手に暴れまわる筋肉モリモリマッチョウーマンの淑女(変態)さんの姿が目撃されたとかされなかったとか。
風邪を拗らせた時に思いついたので書いた、後悔はしていないが公開はしている。