続くかは不明。
「そういえば今日は11月22日だったっすね」
今日は良い夫婦の日なんですよねといつもよりテンションの高い母の声を思い出しながら、おいらはただ遠くを見てたっす。
「気が付けば見知らぬ土地に放り出されてるってのは前にも夢で見たっすけど……」
たしかあの時はモンスターを従えパレードを作って行軍するゲームで仲間にした面々と別の世界に居て、そのうえ、その世界の侵略に乗り出した大魔王の部下とことを構えたりしはしたが、現地の人を助けたことで何とか居場所は確保して、こう、「おいら達の冒険はこれからだ」的な流れで終わっていたと思うんすよ。
「つまり、夢。あんなことが現実にあるはずがないんすよ。たしかにおいらの家は片親が外国人だし、兄弟姉妹はやたら多くて、『お前ん家ファンタジーだな』とか『お姉さんを僕に下さい』とか言われはしたっすけど――」
おいらは、ごく普通の男子中学生の筈。ちなみに後者のたわごとの方はそういうのは当人同士の問題なんでって投げたら言ってたやつが姉に告白して玉砕してたっすけど、それはそれ。
「いつもだったらそろそろ『礼人、朝』とか『礼兄、ねぼー』とか乱入してきた家族が起こしに来てくれるはずなんすけどねー」
いっこうに目が覚めないのは不思議でしょうがない。
「広がる平野、青く高い空。足元に生えてる草、なんか見たことない形の葉っぱなんすけど」
やたらリアルなくせに見覚えのない造形ってのはどういうことなんすかね。
「おいらの想像力ってこんなに凄かったっすけ?」
「知らぬな。余はお前と知り合ってから日が浅い」
とか独り言に応じてくれる大魔王がすぐそばに立ってるのはいったいどうしてなんすか。
「いや、確かにあの後ダイの大冒険コラボで大魔王バーンを仲間に出来る僥倖には恵まれたっすけど」
ふと気が付いて隣に老人姿の大魔王が居たときのおいらが現実逃避したのも仕方ないと思う。
「あー、いい夫婦の日っていえば……」
仲の良い両親においら達兄弟で危惧してることが一つあった。また弟や妹が増えるのではないかと言うものだ。
「『ボク一人っ子でさみしかったし、アリ……あっちでは七人八人兄弟とか普通でしたよ?』だったっすかね……」
母と父のやり取りを兄弟の一人が聞いてうすうす感づいてたもののおいら達は確信したっす。母の常識は何か違うと。
「と言うか、もう八人超えてる気がするんすけど、おいらの気のせいっすかね?」
さみしいどころかすでに兄弟げんかとかでよく大変なんだと訴えてみても無理なんだろうなとも思う。
「未だ聞いてる方が口から砂糖履きそうなほど仲いいっすからねぇ……わが両親ながら」
なぜっすかね、現実逃避の筈なのにそれでも目は遠くを見る。後ろは振り向けない。そこにはおいら達に襲ってきて周囲の草を道連れに焼き尽くされた異形のなれの果てが転がっているから。
「やー、生カイザーフェニックスが見られるなんて異世界トリップはしてみるもんっすねぇ」
なんて軽口はとてもではないが出てこない。そのあと話してみたところ、隣の大魔王はおいらがゲットした大魔王バーン当人に間違いないようであり、おまえよびではあるものの、おいらを一応主人とは認めてくれてるみたいっす。
「となると、呼称についてはなつき度の関係っすかね? って、ゲームの話を持ち出すとか……」
まるでゲーム脳じゃないっすかとまで考えて被りを振り、顔を上げた。
「しっかし、ホントよくできた夢っすねぇ」
チートな仲間と一緒でもおいらはただの男子中学生、出来れば夢ははやく覚めてほしかった。
いい夫婦の日と聞いて、両親二人のエピソードを書こうかとも思ったのですが、構想の段階で砂糖をのどに詰まらせてしまったので予定を変更してこんな話を書いてみました。
べ、別に全年齢向けの話にならなかったから急遽このお話をでっちあげたとかじゃないんだからねっ。