それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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再投稿です。

2018年12月19日。少し手直ししました。


艦これZERO(前日譚)
艦これZERO1話 遭遇 会議


《何が起こった!?》

《船体下部で爆発です! 浸水発生!》

《浸水を止め……っ何だ!?》

《今度は甲板で爆発! どうなってんだ!》

《おい、あれ!》

《なんだありゃ?》

《火を吹いた? ……いや、発砲炎だ!》

《砲撃だと!?》

《何なんだこれは!》

《俺が知るか!》

《っマズイ! 船長、船が傾き始めている! このままじゃ沈むぞ!》

《クソ! 総員退艦!》

 

 

 

2013年4月

大西洋でアメリカに航行中だった一隻の貨物船が消息を絶った。

 この事に対し、当時のアメリカは遭難事件と判断。最後に連絡があった地点がアメリカ領海の近辺であり、また貨物船がアメリカ船籍であったことから、航空機を中心とした捜索隊が編成、派遣されることとなった。

 当初、捜索を指揮する者たちや民衆は、すぐに貨物船は見つかるだろうと考えていた。遭難したと思われる海域は波が穏やかな場所であり、ここ数日の天候も好天に恵まれていたからだった。

 

 だが事態は思わぬ方向に向かっていく。

 捜索隊、消息を絶つ。

 貨物船を捜索のために出発した捜索隊も、該当海域で定時連絡を最後に、連絡が取れなくなったのだ。この情報が流れると、人々は動揺し始める。インターネット上ではこの事件に、『ある国の陰謀』『エイリアン』『海のモンスター』と様々な憶測が飛び交っていた。

 

 

 

「どうだ」

「駄目ですね、貨物船なんて影も形もありません」

 

 マリンプロテクター型沿岸警備艇の艦橋で艦長が、双眼鏡を手に海を眺めている副長に声を掛ける。

 貨物船が遭難してから3日。即座に捜索隊が編成され遭難が予想される海域に派遣されていた。彼らが乗る警備艇もその一隻だった。

 

「ここまで探しても見つからないなら、沈んでいるってことですかね」

「どうだろうな」

 

 副長の軽口に適当に答えながら彼も海を眺める。外は雲こそ出ているが海は穏やかで、遠くを見渡すことが出来た。相変わらず海以外は何も見えない。しばらく眺めていると、外に出ていた部下が駆け込んできた。

 

「艦長、変です」

「どうした?」

「風が強いのに海が凪いでいます」

「……なんだと?」

 

 改めて海に目を向ける。先ほどと変わらず海は凪いでいる。だが先程は気付かなかったが、耳を澄ませば風切り音が艦橋に響いている。

 

「どういうことだ……」

 

 艦長は思わずつぶやく。ここは大西洋だ。沿岸と比べれば波は高いし、このくらいの風であれば海は荒れてくる。それにも関わらず、波はほとんど無いのだ。

 考え込む艦長に、操舵主から報告が入る

 

「艦長。レーダーの不調です。これでは使い物になりません」

「なに?」

「通信機も駄目です。ノイズしか流れません」

 

 次々に起こる想定外の案件に、艦長はしばらく考え、口を開く。

 

「仕方ない、帰還するぞ」

「了解」

 

 艦長の指示に従い、操舵主が舵を切った瞬間――

 

 轟音と共に、警備艇の真横に巨大な水柱ができ、船を大きく揺らした。

 

「なんだ!?」

 

 艦橋にいる全員が混乱しているところに、海を見ていた副長が声をあげる。

 

「あれだ!」

 

 指さした先に目をやる。そこには黒くて細長い何か――強いて言えば光る緑色の目をしたクジラの様なモノが、口の様なところから筒の様なモノをこちらに向けていた。

 

「ボートか?」

 

 目測だが警備艇よりも遥かに小さく、その身体からは金属の様な光沢が放たれていたため、艦長は直感的に装甲で覆われたボートか何かと判断していた。

 艦長が観察しようとしている所で、筒が光ったと思うと、先程と同じく警備艇の真横に水柱が上がる。

 

「砲撃だと!?」

「艦長、どうします!」

「応戦開始だ!船はジグザグ運動で回避!」

 

 即座に艦長は反撃の指示を出した。

 マリンプロテクター型沿岸警備艇にはブローニングM2が搭載されている。有効射程外ではあるものの、十分弾が届く距離だった。また、敵対しているボートの大きさはかなり小さい。装甲が覆われているとはいえ、重機関銃の弾を弾くほどの装甲を施すことが出来るとは思えない。

 

「撃て!」

 

 銃口が瞬き、大量の12.7mm弾がクジラの様な何かに襲い掛かる。回避運動のため狙いが定めにくいものの、そこは連射で補う。だが――

 

「嘘だろ……」

 

 副長の唖然とした声が耳に入る。

 放たれた銃弾は確かに目標に命中した。相手は精々ボート程度だ。あれが何であろうと12.7mm弾ならハチの巣にできるはずだった。

しかし現実は、相手はまるで堪えた様子もなく、お返しとばかりに砲撃を続けてきていた。

 

「何なんだアイツ!」

「知るか!」

 

 パニック状態になる艦橋内部で、艦長は怒鳴り声をあげる。

 

「いいから撃ち続けろ!機関一杯、機関部が壊れてもいい!全力で逃げるぞ!」

 

 警備艇は至近弾によって船体や船員が傷つきながらも、必死にクジラの様なモノから逃げていき――奇跡的に振り切り、港へと帰還することになる。

 

 

 

 捜索隊交信途絶から2日。捜索隊として出港した一隻の艦船が帰還した。

 情報を得ようとする政府関係者やマスコミは港に向かったが、そこにあったのは想像していたものとはかけ離れていた。

 穴だらけになり、今にも沈没しそうな警備艇。船員は死亡者も出ており、生き残った船員も誰もが大小の怪我を負っていた。

 重傷者はすぐさま救急搬送さられ、マスコミはこのボロボロの船についてセンセーショナルに情報を流した。そのためアメリカ国内だけでなく、全世界にもニュースが駆け巡ることとなった。

 

 

 

「……では、始めてくれ」

 

 アメリカ合衆国ワシントンDC、ホワイトハウスの一室には大統領を初めとした、アメリカを動かしている人物たちが一堂に会していた。議題は当然、警備艇が遭遇した正体不明の敵についてだ。

 

「今回警備艇が遭遇した未確認物体は、無警告で攻撃を受けたことから少なくとも敵対的な存在であると判断できます」

「待ってくれ、未確認物体?私は武装ボートによる襲撃と聞いたが?」

「詳細については今から説明させていただきます。まず、未確認物体の形態ですがお手元の資料をどうぞ」

 

 促される形で参加者全員に事前に配布されていた資料をめくる。警備艇から撮影された写真には小さいながらも、その未確認物体がしっかりと映り込んでいた。

 

「武装ボートにしてはずいぶん小さいな」

「推定ですが縦横9フィート(約2.7m)、全長19フィート(約5.7m)。おおよそM4シャーマンと同じくらいです」

 

 彼はそこで一度区切り、会議室にいる全員を見渡す。

 

「我々がこれを未確認物体と報告した根拠には、まずサイズに対してあり得ない程の武装が施されているためです。まず火器についてですが着弾した際の水柱からの推測ですが、武装は5インチ(12.7cm)相当。それを50発以上砲撃しています。防御力は重機関銃弾を弾く程度にはあります。これは19フィートの船体に施される装甲としては異常です。またこれは憶測になりますがジャミング装置が搭載されている可能性もあります」

「……現実味がない事と分かって言ってみるが、昔の潜水艦みたいな砲撃潜水艦の可能性は?」

「我々もその可能性を考えましたが、各地の造船所に確認しましたが潜水艦が製造された記録はありません。また速度が最低でも30ノットはあったと報告されています。この速度は潜水艦には難しいでしょう」

「……まあ、そうだろうな」

「そして、未確認物体と判断した最大の要因ですが、遭遇当時、波が出る気象条件であったにも関わらず、海面が凪いでいたためです。これは現代の科学技術では不可能です」

「その未確認生物との関連性は?」

「状況証拠のみですが、会敵時は凪いでいましたが、逃げ切った際、波は当時の気象条件に発生するものと一致しています。そのため、原因はその未確認物体によるものだと判断しています」

 

 この報告に会議室がにわかにざわつく。ここにいる全員が戸惑っていたのだ。

 

「……とりあえず、相手の正体については置いておこう。今回の件についての犯行声明はあるか?」

 

 報告を聞くのが先だと、大統領は先を促す。

 

「現在、イスラム過激派から貨物船遭難の件も含めての犯行声明が出ていますが、便乗によるものだと判断しています」

「当然だな。あいつらにそのような技術はない」

「いつもの事だ無視してもいい」

 

 大きな事件があると何かと便乗しようとする過激派には、会議室にいる全員が辟易していた。

 

「国民の反応は?」

「現在、マスメディアでは大規模な海賊による襲撃事件として報道されています。インターネット上では陰謀論が出ていますが、無視しても大丈夫でしょう」

「よろしい、このまま世間に公表しても混乱を招くだけだ。海賊による襲撃と公表しよう」

「しかしロイズが海賊事件が発生したとして、早くも大西洋航路の保険料を上げてきました。また海運関係の株価も下落しています」

「経済への影響は?」

「今のところは影響は小規模です。しかし事態が長引けば合衆国経済全体に悪影響が出る可能性があります」

「早急に解決する必要があるか」

 

 会議室にいるほぼ全員がある人物に注目する。その人物もわかっていたのか頷いて見せる。

 

「海軍長官。作戦立案は出来ているか?」

「水上戦闘群を編成し、これを持って敵の殲滅を図ります」

 

 海軍長官の言葉に、一時会議室がざわつく。

 水上戦闘群はアメリカ海軍のタスクフォースの一種であり、通常はミサイル巡洋艦を中核とした三隻の水上戦闘艦で編成されるものだ。確認されている敵の戦力に対して明らかに過剰な対応だった。

 

「流石に過剰戦力じゃないのか?」

「未確認物体の正確な戦力は確認されておりません。また、現在確認されている敵は一体だけですが、他にも複数体いる可能性があります」

「現在、今回の事件は海賊の襲撃とされている。あまり規模が大きすぎると国民から批判が出るぞ」

「ソマリア海賊の例があります。水上戦闘群の編成も問題ないと思われます」

「水上戦闘群だと、かなりの出費になる」

「大西洋航路の不安による経済損失と比べれば、はるかに小さいものです」

 

 矢継ぎ早に飛んでくる質問に、海軍長官は淀みなく答えていく。その様子を見ていた大統領は口を開いた。

 

「それで解決出来るんだな?」

「確実に」

 

 海軍長官は力強く答える。その様子に大統領は問題ないと判断した。

 

「よろしい。すぐに事件への対処に当たりたまえ」

 

 こうしてアメリカは事件への対応をしていくのだった。

 

 




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