それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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折角なので加筆修正。


鎮守府編(番外編)
鎮守府編1話 提督と瑞鶴と陣形


 資源

 この名は主に燃料・弾薬・鋼材・ボーキサイトの総称として使われるが、これらは鎮守府運営に深く関わる存在である。艦娘の出撃、修理は当然の事、基地航空隊の運用、演習、艦娘の建造、装備の開発、一部鎮守府では施設自体の建設、運営にも使われている。

 当然の事ではあるが資源の備蓄は鎮守府運営に置いての至上命題である。備蓄がなければ安定した艦隊運用が出来ないし、大規模作戦の遂行も儘ならない。本土から遠く離れた鎮守府においては、鎮守府自体の存続にも関わることもある。過去には備蓄を怠っていた鎮守府が大規模編成の深海棲艦に襲撃され、防衛戦を行うも資源が尽きたために壊滅した事件すらあった。

 

「資源を見れば、提督、司令官の大体の能力がわかる」

 

 あるベテラン提督の言葉であるが、的を射たものである。実際、提督や司令官に対する評価項目には『資源管理』の欄があり、重要な指標の一つとされている。

 資源を大量に消費することは、提督、司令官に取って出来るだけ避けるものであり、もし思わぬ形で大量消費をしてしまった場合、彼らはその消費量に頭を抱えてしまうだろう。

 つまり何が言いたいのかというと、

 

「ヒデェ消費量だ」

 

 彼が先日の演習での資源消費量に頭を抱えるのは当然ということ、ということだ。

 

「輪形陣の艦隊に航空攻撃をしたんだから当然じゃない」

 

 本日の秘書艦である瑞鶴が呆れ顔をしつつ提督にお茶を出す。好みの問題なのか、彼女が秘書艦の時に出される飲み物は緑茶が多い。

 

「ある程度の消費は覚悟していたけど、ここまで効果が出るとは思わなかったんだよ」

 

 ため息を吐きつつ提督は受け取った茶をすすった。程よい苦みが口の中に広がる。

 

「でもなんでこんな演習やったの?」

 

 秘書艦席に戻った瑞鶴が、報告書のコピーを手に尋ねる。報告書の表題には『特殊輪形陣実験演習』と書かれていた。

 

「まあ、戦術的に有効だしな」

 

 特殊輪形陣実験演習

 新型の輪形陣の効力を見るために実施された演習だった。内容は正規空母6隻から来る航空攻撃を、連合艦隊で出撃した正規空母2隻軽空母2隻編成の空母機動部隊が防ぐというもの。そのため防御側が攻撃側艦娘に攻撃をすることは禁止されていた。

 それぞれの編成であるが、攻撃側は赤城を旗艦とし随伴を加賀、蒼龍、飛龍、雲竜、天城で固めるという通常出撃では早々見ることのない編成であるが、防御側からの反撃はないというルールであったため問題はなかった。装備はそれぞれ艦隊攻撃用の流星改に彗星一二型、攻撃隊の護衛のための烈風と、上位兵装で固められていた。

 対する防御側は第一艦隊が旗艦の翔鶴、随伴として瑞鶴、千歳、千代田、金剛、摩耶。第二艦隊が旗艦を利根、随伴艦が五十鈴、浦風、磯風、浜風、谷風。装備は旗艦の翔鶴には14号対空電探が装備されており、空母陣には防空用の烈風が多めであったが、攻撃隊として流星改も編成されていた。また随伴艦は摩耶、五十鈴、利根といった対空能力の高い艦はいるものの、第17駆逐隊は対空に関する能力は平均的なものであった。そして防御側唯一の戦艦である金剛は三式弾は装備しておらず、代わりに14号対空電探を装備していた。

 このまま演習した場合航空均等状態となり、防御側は打撃を受けることになると予測されていた。だが――

 

「攻撃隊がほぼ全滅したため防御側の実質勝利。よく加賀と張り合ってるお前にとっては良かったんじゃないのか?」

「確かに演習が終わって一航戦の二人がへこんでたけど、私としては複雑かなー」

「そうか?お前、勝った側だろ」

「そうだけどさー」

 

 報告書を机に置き、自分用に切り分けた羊羹を竹串でつつく瑞鶴。因みにその羊羹は提督が執務室にいつもストックしている間宮羊羹だ。たまにこの間宮羊羹目的で秘書艦に立候補する艦もいたりする。

 

「私がコテンパンにされた戦術だしねー」

 

 演習で使われた特殊輪形陣はマリアナ沖海戦――つまり軍艦時代の瑞鶴が参加し敗北した際のアメリカ軍側の輪形陣を出来る限り再現したものだった。

 

 マリアナ沖海戦で猛威を振るったのが、戦闘機で空中哨戒をする「CAP」、艦隊の前方に展開しレーダーで索敵を行い艦隊に通報した「ピケット艦」、自艦のレーダー情報だけでなく僚艦からの情報が伝えられ、それを元に戦闘指揮を行う「CIC」である。

 ちなみに「VT信管」も有名であるが、マリアナ沖海戦当時はVT信管の製造が間に合っておらず全高角砲弾の内の20%であったし、有効性もアメリカ側の公刊戦史では千発撃って一機撃破とされており過信するようなものではなかった。

 

「でも提督さんもかなり無茶なことしたよね」

「何がだ?」

「輪形陣の再現のこと」

「まあな……」

 

 アメリカ海軍の輪形陣を再現することにおいて様々な問題があった。

 まずピケット艦についてだが、今回の特例として防御側に連合艦隊とは別に第四駆逐隊にピケット艦役で参加してもらった。対深海棲艦では艦隊航行の関係でまず出来ないことではあるし、当然攻撃側からも文句が出たが、実験ということとピケット艦は対空攻撃をしないということで押し切ることとなる。

 また艦隊の装備についてだが、現装備ではレーダー管制射撃が出来ないため、当時のアメリカ海軍の様な濃密な対空砲火が出来なかったし、電探の性能もお粗末なものだった。これらの問題に対してはアメリカ艦娘の装備がほとんど手に入らないため、仕方ないものと割り切った。

 

 最大の問題となったのはCICだった。CICで戦闘機隊に戦闘指揮を行うことになるのは旗艦である翔鶴の役目となるのだが、

 

「艦隊指揮で手が一杯です」

 

 と言われてしまった。自艦レーダー情報、僚艦からの情報をまとめ上げ、戦闘機隊に迎撃指示を行う、という仕事は、戦闘及び艦隊指揮を行いながらでは無理があった。

 とは言え今回の陣形の要となるシステムであるCICを諦めるわけにはいかない。なんとかならないかと考えた提督は、あくまで実験ということであり得ない命令を出す。

 

「流石にCICを鳳翔さんがするとは思わなかったわ」

「無茶が過ぎることは解ってる」

 

 このことを演習メンバーに発表した時には、全員が驚きの声を上げることとなり、CIC役の鳳翔も苦笑していた。

 

 ともかくかなり強引に再現されたマリアナ海戦時のアメリカ海軍輪形陣だが、演習が始まるとその威力を発揮することとなる。

 

「あれをやられた経験者からすると、複雑な気持ちになるわ」

「翔鶴も同じことを言ってたぞ」

 

 艦隊前方で警戒していたピケット艦役の嵐の持つ電探が、攻撃側から発艦した多数の航空機を探知、嵐から報告を受け翔鶴は防衛用の戦闘機を発艦させた。戦闘機隊は艦隊前方に進出し、上空で待機。

 対する攻撃側も、防御側が電探を多数装備していることから、攻撃機隊は電探補足されないよう低空を飛行していた。しかし艦隊に近づくにつれて電探に見つかることになる。各艦からの情報を得たCIC役の鳳翔は各戦闘機隊に対し、効率よく迎撃を指示した。

 そこからは蹂躙劇だった。

攻撃機隊の直上から烈風の編隊が急降下、攻撃機隊が気付いた時にはすでに手遅れであり、攻撃機隊は護衛戦闘機も含めて次々に撃墜判定を受けていく。そのような光景が空の各所で見られた。

 勿論攻撃側もただ攻撃されるだけではない。護衛戦闘機は必死に迎撃機を防ぎ、攻撃機を守ろうと奮闘する。マリアナ沖海戦の様に戦闘機の性能に違いはない。抵抗は可能だった。攻撃機も分散しなんとか艦隊にたどり着こうと分散する。

 だが迎撃機はCICによる的確な指示の元、攻撃をしてくるのだ。どれもが電探に捕らえられ迎撃機を差し向けられやられていく。

 その様な惨劇の中、辛うじて戦闘機隊の迎撃を掻い潜った攻撃機隊が艦隊に迫る。敗北はほぼ確定していたが一矢報いようと突撃する彼らに待っていたのは、手ぐすねを引いて待っている護衛艦隊だった。

 レーダー管制こそないが金剛指揮の下で一斉に放たれた対空砲火は、本家アメリカ海軍には劣るものの濃厚な弾幕を形成し攻撃機を次々に撃破。最後の一機が何とか千歳に雷撃を成功させるも、回避された挙句に弾幕に絡め取られて撃墜判定となった。

 

「まあ、今回の演習でアメリカ式輪形陣が有効で、再現もできることが分かった。後はどうやって実戦で使えるようにするかだ」

「ふーん。……でもさ」

「ん?」

「防空に関しては自衛隊に任せた方が早いんじゃ?」

「それを言ってしまったお終いだろ……」

 

 人類が作った兵器類は深海棲艦に対して効果は薄い。深海棲艦が元となった艦のスペックをそのまま発揮している事も理由の一つだが、深海棲艦が常時展開しているバリアの様なものが主な要因である。このバリアをある程度無効化して攻撃することが出来るのが艦娘だけであるために、現在では基本的に対深海棲艦において艦船での戦闘は行われていない。

 しかし、現代兵器の役目が終わったわけではなく、現在も戦場で活躍を続けている。

その活躍分野の一つが防空分野である。深海棲艦の放つ艦載機には、本体の様にバリアは使われておらず、現代兵器でもその効果は有効だった。当初こそ、中型の鳥類と同等という小ささで苦戦していたが、対抗兵器が開発され戦場で活躍することとなる。

 自衛隊と艦娘の共同戦闘においては、制空分野をある程度戦闘艦に任せることも多かった。

 

「まあ毎回自衛隊と共同作戦をするわけでもないし、研究しておいて損はないだろ」

「そっか。ところでその輪形陣について赤城さんから意見書が出てるみたい」

「意見書?」

「はいこれ」

 

 書類を受け取り、読み進めていく。しばらくすると提督の顔は苦り切ったものとなっていく。

 

「どうしたの?」

「オブラートに包んでいるが、要するに『もう一回演習をやろう』だとさ」

「で、やるの?」

「やるわけがない」

 

 肩をすくめつつ、意見書を机に放り投げる。あのような演習を何度もするほど鎮守府に余裕があるわけではない。

 

「でも却下したところで、また意見書が出るかも」

 

 瑞鶴の言葉もあり得ることだった。赤城はかなり負けず嫌いである。最悪本人が直接乗り込んで来るかもしれない。

 

「……なんとか説得してくる」

「頑張ってね」

 

 赤城への心を込めた説得(買収含む)の結果、夕食を奢ることで何とか提案は取り下げてもらえた。しかしこのことを聞いた演習での攻撃側メンバーが来襲。結局、全員に奢ることになり、提督の財布に多大なるダメージを与えることとなった。

 




提督の財布へのダメージ判定:71
十万単位で消えたな(確信)

 演習判定のログが消えた……
 仕方ないのでチラリと出てきた深海棲艦の艦載機に対する対抗兵器を紹介。

30式艦対空誘導弾。
 対艦載機兵器である「16式艦対空誘導弾」の後継。16式のコンセプトである「大量にやってくる艦載機を大規模爆発で一気に撃墜する」を受け継ぎ、より高性能化している。16式で使われていたサーモバリック爆薬を強化しており、爆発効果範囲が拡大した。現在、16式と置き換わる形で配備されている。
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