それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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イベントが始まりましたね。何とか執筆時間を捻出しないと……(イベント優先の人)


海を征く者たち91話 スエズ攻防戦

 2020年2月9日。スペイン海軍所属の強襲揚陸艦フアン・カルロス1世を旗艦としたスエズ攻略艦隊は、深海棲艦が占拠するスエズに対して総攻撃を仕掛けようとしていた。

 強襲揚陸艦と軽空母、そしてクレタ島から飛び立ったF-35たちが空に控え、更に空母艦娘たちが発艦させた航空機たちが空を埋め尽くす。海では各艦娘母艦から出撃した艦娘たちが艦隊の前方に展開し、誰もが緊張した面持ちで前を見据えている。もしも何も知らない一般人がこの光景を見れば、その陣容に勝利を確信するかもしれないだろう。

しかしその内実は、見た目ほど良くは無かった。

 戦力面で言えば通常艦艇戦力こそ、軽空母、強襲揚陸艦を確保でき、最小限の戦力現状で済んでいる。

 だが問題は、主力である艦娘戦力に合った。本来であれば12000名もの艦娘戦力で押しつぶす予定であったにも関わらず、リスボンに戦力を取られてしまったせいで、その戦力が激減してしまったのだ。勿論周辺国から急遽援軍が送られてきたものの、艦隊側が希望したレベルには届いていなかった。勿論計8000名と大戦力であるため、多少の敵であれば問題ないのだが、生憎と攻め込む先のスエズは敵にとっても重要拠点だ。

 総兵力は推定5000隻。重要拠点故に防壁や塹壕といった防衛設備が確認されており、容易に攻略出来ない事が予想されている。いくら事前の作戦で敵側の物資を削っているとは言え、苦戦は免れない。

 また敵の援軍がすぐそこまで来ている事から、スエズ攻略艦隊はその援軍が到達する前にスエズを攻め落とさなければならない、という時間的制約すら課せられており、艦隊は苦しい立場にあった。

 

『これで勝てるのか?』

 

 そんな状況故に、作戦に参加している艦娘と提督の士気は、とても高いとは言えなかった。前線で戦う側からすれば簡単であった筈の任務が、数日にして激戦が免れない状況になってしまったのだ。彼女たちも戦争が水物である事は理解しているが、それでも精神面でのショックは隠しきれない。一部の艦娘の間では、スエズ攻略組にいる自分たちは不運だったと自嘲する程だ。

 

「この戦いにはヨーロッパの未来が掛かっている!」

 

 勿論この士気の低下は艦隊上層部も理解しており、演説を始めあらゆる手段を講じて士気を維持しようとはしているが、それらも芳しくは無かった。根本的な問題が解決できない以上、上層部がいくら努力しようとも、一定以上に士気を上げる事が出来なかったのだ。

 そんなスエズ攻略艦隊と相対するスエズ拠点の深海棲艦だが、艦娘たちと違いその士気は高かった。

 確かに兵力は劣り、拠点内の物資も心もとないが、スエズが戦略的にも重要な要地である事から防衛設備には多大な力を入れており、総合的な戦力は額面以上の物がある。8000名の艦娘部隊を相手にしても十分戦えると目していた。

 また、士気の上がる要因はこれだけではない。

 

――救援艦隊が来るまで、何としてでも守り切るわよ!

 

 スエズに籠る深海棲艦たちが気炎を挙げる。インド洋から派遣された救援艦隊の存在が、スエズの深海棲艦たちに自分達が孤立無援ではない事を知らしめたのだ。自分たちは見捨てられていない。この認識が一時的にだが、士気を大きく高める事となる。

 

 二つの勢力が衝突したのは明朝、スエズ攻略艦隊による航空攻撃から始まった。艦隊はF-35やタイフーンといったジェット戦闘機と艦娘の航空隊により、スエズ周辺の航空優勢を確保、しかる後に拠点に対して空からの攻撃を仕掛けた。

対するスエズ拠点は、大きな動きは見せなかった。拠点に駐留させている大型機を迎撃に出すことは無く赤色結界を展開、小型機は発進させているが、どれも結界の外には出ようとしなかった。

 

「面倒な事をする……」

 

 この深海棲艦の動きに、スエズ攻略艦隊は思わず舌打ちした。赤色結界を通り抜ける事が出来るのは、艦娘に関わる物だけだ。現状、通常兵器による結界の破壊若しくは突破に成功した例は無い。敵が結界内に引きこもるとなると、折角掻き集めた艦隊と航空兵力の神通力が無効化されてしまうのだ。つまるところ、以降は攻略艦隊は純粋な艦娘戦力のみでスエズを攻略しなければならない事を意味していた。

 そしてその縛りは、結界内で戦う航空隊の苦戦に直結する。

 

“対空砲火が邪魔をしてくる! あれを先に潰さない?”

“それやろうとすると、敵機に食われるよ!?”

“ともかく、先に敵機を追い払うんだ! あと、間違っても敵機を艦娘に近づけるなよ!?”

 

 クレタ島からの基地航空隊と空母艦娘が放った機体の合計により、規模で言えばスエズ拠点の小型機を上回っているものの、地上からの対空砲火により数の優位を埋められてしまっていたのだ。全体的に見れば航空優勢は艦娘側にあるものの、自由に航空攻撃が出来る程ではなかった。

 通常兵器による支援不能、航空支援の制限。主力である艦娘部隊はこの不穏な状況下で、戦闘を余儀なくされてしまう。

とは言え、敵の援軍到達まで時間が無い以上、ここで止まる訳には行かなかった。

 

《艦娘部隊に通達、前進せよ》

 

 司令部の通信とともに艦娘たちが次々と結界に突入、スエズ拠点に対して順次攻撃を始めていく。攻撃の中心となるのはアメリカ系艦娘であり、特に16インチクラスの砲を持つ戦艦群は、その強大な破壊力故に攻撃の要とされていた。

 そんな艦娘部隊に対し、守るスエズ側は徹底している。

 

――拠点施設を徹底的に利用して、敵にダメージを与えなさい。

 

 戦艦仏棲姫は迫り来る艦娘たちを前に、無理に迎撃部隊を出そうとはしなかった。深海棲艦たちは拠点内に作られた塹壕を始めとした防御施設を利用し、艦娘たちを迎え撃った。砲火力に劣る駆逐艦クラスすら防御に回す徹底振りであり、戦艦仏棲姫は部隊の消耗を徹底的に抑え、持久戦の構えを取っていた。

 また深海棲艦は応戦の際にも、ある傾向を見せていた。

 

「っ、リベが大破しました! 速度が低下しています!」

『マエストラーレはリベを連れて後方に下がるんだ!』

「はい! リベ、大丈夫!?」

 

 敵の攻撃により大破した艦娘が僚艦に連れられて、後方に下がっていく。この光景は大規模な海戦が起れば珍しい物ではない。陸戦で言えば負傷した兵を周囲の仲間が後方に連れていく事と同じなのだ。問題は連れていかれる艦種に偏りがある事だ。

 

「艦娘部隊の消耗が想定以上に速い? スペックの低い艦娘が狙われたか?」

「いえ、どうやら深海棲艦はフリゲートや駆逐艦に攻撃を集中させているようです」

「……装甲の薄い艦娘を狙ってきたか」

 

 激戦が続くスエズの後方、指揮を続けえる艦隊司令部の面々は、上げられてきた報告を前に顔を顰めていた。深海棲艦は装甲の薄い艦娘に攻撃を集中させる事で、着実に艦娘部隊の戦力を削る事に専念しているのだ。この戦法は艦隊の構成国の関係上、小型艦が多いスエズ攻略艦隊には有効な手段であった。

 とは言え、司令部としてもこの弱点に対して現状で対策する事は出来ない。数的優位が有効な間に、何とか攻め落とすしかなかった。またこの状況は悪い事ばかりではない。深海棲艦の狙いが小型艦に向かっている事から、主力艦が自由に動ける事を意味していた。

 

「突撃するわ!」

 

 アメリカ、イギリス、イタリア、フランス、ドイツ。各国の超弩級戦艦たちを始めとした打撃部隊が、その火力を持って防御陣地ごと深海棲艦を粉砕し、スエズの防御陣地に穴を開けていく。そして隙を突くように、足の速い高速戦艦たちが開けられた穴に突撃していった。途中で機雷源に阻まれるも、彼女らは足を止める事なく進撃。そして、

 

「取り付いたわ!」

『突っ込め!』

 

 自国にして正午。ついに先頭を切って突き進んでいた戦艦アイオワがスエズの地に足を踏み入れた。間もなく後続の部隊も上陸していき、スエズでの戦いは本格的に陸上戦に移行する事となる。

 次々と上陸する艦娘たち。この状況に対して、戦艦仏棲姫は未だに冷静だった。

 

――第一部隊は後方に下がり、第二部隊と合流。無理に応戦しようとしないこと。

 

 水際防御には失敗したものの、スエズ拠点には防御陣地は幾重にも張り巡らされている。命令を受けた部隊は即座に陣地間に張り巡らされた水路を利用して素早く後退、更に水路を爆破し使用不能にしつつ抵抗を続けていく事となる。

 対する艦娘部隊だが、こちらも次の段階に移行しようとしている。上陸した艦娘たちは、そのまま敵陣地の攻略に向かおうとはせず、敵の使っていた塹壕やトーチカを利用して体制を整えていた。

 スエズ攻略艦隊としても最終的に陸上戦となる事は事前に予想しており、艦娘部隊も今回の戦いを想定した訓練を受けている。彼女たちも事前の作戦通りにスエズを攻略しようとしていた。そして、

 

「総員、攻撃開始」

 

 スエズ拠点を巡る戦いが第二段階に入った。敵陣地の守りの薄い地点を探し出し突破しようとする艦娘部隊。それに対して深海棲艦は防御陣地を駆使して迫り来る艦娘たちを打ち倒そうとする。その様子はまさに一進一退だった。

 だがその様な戦いが延々と続くことは無い。異変は深海棲艦側に起こった。 

 防御陣地に立てこもっている深海棲艦たちの砲撃が、時間が経つにつれて徐々に、だが確実に弱まり始めたのだ。

 

――っ! どうなっているの!?

――弾切れよ! 今回の戦闘で消耗し過ぎたわ!

――そんな!?

 

 集積地棲姫の報告に絶句する戦艦仏棲姫。唯でさえヨーロッパ各国が行ってきた執拗なハラスメント攻撃と紅海の海上封鎖により、スエズ拠点の備蓄している資源は危険域にあったのだ。その様な状況で大規模会戦など行えば、弾薬不足となるのも当然だった。

 そして艦娘たちがこの隙を見逃す筈もなかった。

 

『チャンスだ、一気に押し込め!』

 

 攻勢を強める艦娘部隊。資源不足で苦しむスエズ拠点と違い、後方の艦隊には十分な物資が集められており、更に後方艦隊と前線部隊を結ぶ補給部隊もしっかりと用意させているのだ。

 弾切れを気にする事無く砲撃し、そして深海棲艦を押し込んでいく艦娘たち。対する深海棲艦も弾薬が不足する中にありながら必至に抵抗するも、砲火力の投射能力の差により次々と撃破されていく。

 だが深海棲艦もタダで倒されるつもりもない。艦娘たちがスエズ拠点の約60%を攻略し、誰もがこのまま決着がつくと考え始めた時だった。

 深海棲艦たちが突如として残されている火力を、突出していた少数の艦娘部隊に叩きつけた。この思わぬ反撃により一時的にだが、その艦娘たちは足を止められる事になる。

 そして短い砲撃の後、それは起こった。

 

――突撃!

 

 舞い上がった土煙から深海棲艦、それも戦艦棲姫や空母棲姫といった姫級たち約50隻が艦娘たちに踊り掛かったのだ。

 

『ヤバい! 応戦しろ!』

「駄目です、戦艦砲じゃないと――」

 

 艦娘たちも応戦するも、圧倒的な防御力と火力を持つ姫級を簡単に止める事など出来ない。姫級たちは砲撃を最小限に艦娘たちを次々と打ち倒していく。

 これを機に戦場のあちらこちらで白兵戦が開始され、一時的にであるが艦娘たちの進行は停滞する事となる。

 

『落ち着け! 白兵戦なんて苦し紛れに過ぎないんだ! 火力を集中させれば十分に対応は可能だ!』

 

 一部の艦娘たちが混乱する中、ある提督が叫んだ。実際、彼の言葉は的を射ており、白兵戦を仕掛けようとする深海棲艦の多くが、冷静になった艦娘たちによる砲火力で、撃ち倒されていった。例外は姫級や装甲の厚い戦艦クラスだが、彼女らでも火砲の嵐の前では、決定的な敗北を先送りにするための時間稼ぎしか出来なかった。

 

 だが――そのわずかな時間稼ぎが、運命を味方に付けることとなる。

 

 午後5時33分。スエズの南東から深海棲艦の小型機の編隊が襲来、艦娘たちに襲い掛かったのだ。この襲撃自体は、この時には航空優勢を確保していた妖精たちの航空隊により、直ぐに応戦が始まったため艦娘への被害は殆どなかった。問題はスエズの深海棲艦以外から攻撃を受けたと言う事実にあった。

 イラストリアスからF-35が緊急発進し、小型機編隊の出撃箇所と思われる紅海に急行。偵察の結果、スエズから約50㎞の海域を高速で航行する深海棲艦の大艦隊を発見したのだ。

 この情報に艦隊司令部は騒然とし、そして今後の方針について意見が真っ二つに割れた。

 一つは継戦派。スエズ占領まであと少しであり、敵の援軍が到達しても十分に戦えるといったもの。もう一つは撤退派で、スエズ拠点での戦いで艦娘部隊の損害は大きい物であり、援軍を相手にした場合、敗北する可能性が高いと主張していた。

 敵の援軍が迫る中、参謀たちによる短時間ながらも喧々諤々な議論が繰り広げられ――そして艦隊司令官は決断を下した。

 

「……撤退する」

 

 この時、艦隊司令官は苦々し気な表情を隠す事が出来なかった。この指令はすぐさま全部隊に通達され、艦隊はクレタ島に帰投する事となる。

 こうしてスエズを巡る戦いは、人類の敗北という形で幕を閉じた。

 




スエズ攻防戦判定。事前の嫌がらせを考慮して、人類に10のボーナス、深海棲艦に20のマイナス。

人類:31+86+47(+10)=174
深海棲艦:94+89+18(-20)=181

……うん!
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