それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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とりあえずE-3まではクリア。ここからが本番です。


海を征く者たち92話 基隆防衛戦

 スエズでの戦いが人類側の敗北で終わった頃、極東でも台湾を攻略すべく上陸した第一任務艦隊と、敵を撃退しようとする深海棲艦との一大決戦が始まろうとしていた。

 決戦の地は台湾北部、基隆。第一任務艦隊が最初に上陸した場所であり、台湾最後の拠点である。

 

「今は何とか耐えるしかない」

 

 南沙諸島からの敵援軍が到達して以来、押され続けている第一任務艦隊だが、そう易々とは台湾から追い出されるつもりは無かった。既に基隆は艦娘用の装備などで要塞化されており、そこに詰めている約8000名の艦娘たちは、迫り来る深海棲艦を迎え撃たんとしていた。

 戦況から考えれば、連戦連敗により追い詰められた形だ。だが要塞に詰めている艦娘たちの士気は決して低くは無かった。

 

「援軍が来れば、逆転できる!」

 

 彼女らの希望となっているのは、佐世保からの援軍の存在だった。既に援軍は出発しており、既に台湾の近くまで来ているのだ。彼らの存在が艦娘たちの士気を保っていた。

 

――援軍到達前に、何としてでも落とす。

 

 対する深海棲艦は、敵の援軍が到達する前に基隆港を攻め落とそうと考えていた。援軍到達により再度攻勢を掛けられる可能性があるのだから、当然とも言える選択だった。

 しかし基隆は短期間での急造とは言え要塞化されている上、近隣の海上が機雷で埋め尽くされている関係で侵攻ルートが地上に固定されている事から、戦力11000と数で勝るとはいえ容易には攻め落とせないだろう。更には敵の援軍がすぐ近くまで迫っている事から、タイムリミットは近い。

 これまでの連戦連勝故に士気については高さを維持しているのだが、艦隊を指揮する立場にある姫級の多くは、要塞攻略失敗から来る泥沼の戦いを覚悟していた。

援軍到達まで拠点を守ろうとする艦娘と時間制限の中で敵を撃破しようとする深海棲艦。奇しくもスエズで見られた状況が、台湾の地で攻守逆転した形で表れていた。

 

 2月10日明朝。最初の戦いは深海棲艦との大規模戦闘のセオリー通り空戦から始まった。台湾での航空優勢を確保すべく沖縄から飛来した空自のF-35やF-2が、台湾南部から来たフリントと激突する。

 

《Green-1、FOX-3》

《Orange-2、FOX-3!》

 

 遥か上空で、お互いが敵を撃破すべく激しい空戦が繰り広げられる。数の上では深海棲艦たちが優位であるが、その数の差を人類側は質で埋める事により互角の戦いを見せていた。

 そして同時刻ジェット機同士が戦うその下でも、空戦が始まっていた。

 

“突撃ー!”

“ぶっとばせ!”

 

 空母艦娘から発艦した航空隊、そして基隆に備え付けられた滑走路から飛び立った基地航空隊が、深海棲艦の小型機の群れにとびかかる。双方万単位の航空機がぶつかり、空の青色が見えなく成る程である。

 上空で行われる二つの空戦。それらは双方とも互角の戦いが繰り広げられていた。人類も深海棲艦も航空優勢の確保が、戦いを優位に進められる要因である事を理解している故に全力を出しており、それ故に拮抗状態が保たれていた。

 それ故に基隆を巡る戦いは、地上という平面的での戦いで雌雄を決する事となる。

 

「敵艦が射程に入りました」

「砲撃開始」

 

 海上より幾分も遅い速度で迫る深海棲艦に対して、号令と共に艦娘及び要塞砲から打ち出された砲弾の雨が降り注ぐ。最低でも10cm、最大となると46cmという通常の陸戦ではあり得ない程の火力により、深海棲艦を次々と吹き飛ばしていく。

 しかしその程度で勢いに乗っている深海棲艦が止まるはずもない。

 

――突っ込むわよ!

 

 砲弾の雨の中、姫級たちの号令と共に深海棲艦たちは応戦しつつも突き進んでいき、そして防御陣地を突破しようと取り付いていく。

 まさに先日のスエズでの攻防戦と同じシチュエーションであるが、スエズの時とは違う要素もあった。

 

『弾薬なんて幾らでもあるんだ! ガンガン撃ち込んでやれ!』

 

 艦隊の指揮を執っているとある提督が叫んだ。

本土から持ち込まれた豊富な資源。この事実がスエズとの違いであり、そして大きな差異だった。

 スエズ攻防戦で戦況が動いた切っ掛けは、防御側の弾薬欠乏から来る攻撃力の低下だ。これがあったからこそ、スエズ攻略艦隊は比較的短期間でスエズ制圧寸前まで持ち込めたのだ。逆に言えば弾薬欠乏の心配がない基隆での攻防戦では、スエズの様な光景は見られない事が確定しているのだ。

 では深海棲艦側に全く勝機は無いのかと問われると、それについても否である。

 

――敵の防御陣地の耐久力は高くはない。我々の火力でも十分切り崩せる。

 

 後方で指揮を執る硫黄棲姫が激を飛ばし、戦艦クラスを中心に艦娘たちが立てこもる防御陣地群に砲弾を浴びせていく。

 入念に作られた防御陣地という物は、相手が大口径の砲を持つ艦艇群からの艦砲射撃であっても、その防御力を遺憾なく発揮する事は、太平洋戦争時の硫黄島を巡る戦いを始めとした戦訓が残されている。第一任務艦隊もスエズの深海棲艦も防御陣地の有用性を理解しているからこそ、わざわざ要地を要塞化したのだ。

 基隆とスエズ。双方とも巨大な防御陣地を構築し、敵の攻撃に備えている。この条件だけ見れば、双方とも変わりはないと見える。が、実の所、防御陣地の質についてはスエズ側が圧倒的に上だった。

 

「トーチカごと吹き飛ばされる!」

『やっぱり急ごしらえじゃ、限度があるか』

 

 何せ防御陣地に攻撃を仕掛けてくるのは、WW2時の砲火力と同等の火力を持つ存在であり、それが何千、時には万の単位に届くほどに数を揃えて来るのだ。並大抵の防御陣地では吹き飛ばされてしまう。

 その様な要因も有り、防御陣地構築にはそれなり以上の時間を掛けなければならないのだが――、年単位で要塞化出来たスエズと違い、今月上陸し急ピッチで要塞化された基隆の場合、外見こそ立派だが深海棲艦の火力と比べてその防御力は低かったのだ。

それ故に徐々に、だが確実に押し込まれていく艦娘たち。しかしそのような戦況を前にしても、艦娘たちに大きな戦意低下は無かった。

 

『援軍がもう近くまで来ているんだ! このまま守りに徹していれば勝てるぞ!』

 

 提督たちがそう気炎を挙げ、そして釣られるように艦娘たちも士気を上げていく。確かに防御陣地の不備により、彼女たちは深海棲艦に圧されている。このまま長時間戦う事となれば敗北は必至だろう。

 だが基隆は別に敵勢力圏内で孤立している訳では無いのだ。既に佐世保からの援軍は目と鼻の先まで来ているという事実は、艦娘たちに勇気を与えていた。

 それ故に誰もが敵の猛攻を前に怯む事無く戦い、そして、

 

《待たせたな、第一任務艦隊。これより我が部隊は貴艦隊を援護する》

 

 午後2時25分。基隆で戦う艦娘たち全員の耳に無線が響くと同時に、佐世保地方隊から急遽掻き集められた艦娘戦力2000名が基隆に到着。基隆を巡る攻防戦に躍り出た。

 これまででも優勢だったとはいえ圧勝レベルではなかった上に、8時間近くの戦闘によりそれなりの損害を受けている深海棲艦側にとって、ここで無傷の艦娘部隊の合流は致命的だった。

 戦況が逆転し、徐々に押され始めていく深海棲艦。このまま戦っても敗北するだけ。多くの艦たちの頭にその様な思考が過り始めていた。

 だが――台湾を治めている硫黄棲姫の士気は未だに衰えてはいなかった。

 

――例の部隊を出す。

――あれは錬成中よ?

――ここで死蔵しても意味は無い。

――……了解。

 

 硫黄棲姫が決定を下した直後、彼女たちの本拠地である高雄がにわかに慌ただしくなり、そして滑走路からとある大型機が2機飛び立ち激戦地に向かっていく。

 

《なんだ?》

 

 午後3時40分。南から飛来するそれを見つけたのはF-35を操る空自のパイロットだった。

 彼にとってそれは見慣れた機体だった。太い胴体に主輪を収納できそうなバルジ、主翼は高翼式で片側2発、計四発のプロペラ機。色合いこそ見たことが無い黒色に塗装されているが、それはまさしくC-130 ハーキュリーズだった。

 

《C-130? 何処の所属だ?》

《いや、そもそもC-130の投入予定なんて無かったはずだぞ》

 

 パイロットたちが戸惑っている間にも、2機の黒いC-130は未だに妖精と小型機の空戦が続く空域に突入していく。そして要塞と化した基隆に到達すると、黒いC-130は後部ハッチから次々と何かを投下していった。それは暫くの自由落下の後、傘の様な物を展開しゆっくりと降りていく。

 その光景に誰もが顔を真っ青にさせた。

 

《空挺降下だと!?》

 

 誰かの悲鳴のような声が無線に響いた。そうしている間にも、落下傘で基隆に降り立った深海棲艦たちは存分に攻撃を始める。この事態に目の前の深海棲艦との戦いに集中していた艦娘部隊は混乱に陥る事となる。

 

『迎撃!』

 

 近場の防御陣地に潜んでいた部隊が深海棲艦の空挺部隊を排除しようと乗り出す。敵の数は120。敵は少数であり、彼の提督は近場の部隊でも対応は可能だと考えた。だが、深海棲艦もそう甘くはない。

 

――存分に暴れなさい!

 

 数こそ120隻と少数だが、その編成は凶悪だった。通常型だけでもル級といった戦艦、それも強力なフラグシップ級が多数おり、更には戦艦棲姫を始めとした高い戦闘能力を持つ姫級まで編成に加わっているのだ。生半可な戦力では対応出来るはずもない。

 また防御側にとって場所も悪かった。陸地故に魚雷が使えないのだ。駆逐、軽巡、重巡程度では止められるはずもなく、次々と撃ち倒されていく。唯一対抗できるであろう戦艦たちでは、数的不利により苦しい戦いを強いられてしまう。

 周辺部隊から撃たれつつも、敵の防御陣地内で縦横無尽に暴れ回る空挺部隊。そして、

 

「このままでは抑えきれません!」

『救援要請!』

「駄目です、何処も手が一杯で――っ、突破されました!」

 

 基隆の防御陣地の一角が崩れた。この機を逃さんとばかりに、反撃、浸透していく深海棲艦たち。

 この危機的状況に艦娘たちも、何とか対処しようと必死に戦うも、押し返す事が出来ずに損害だけが増えていく。

 

「……負けだな。これ以上の戦闘は無意味だ。撤退する」

 

 第一任務艦隊司令部からの撤退指示が全艦娘に通達され、艦娘たちは基隆を放棄し撤退を開始した。台湾での一連の会戦、そして基隆での敗北により第一任務艦隊は大きな損害を受けており、艦娘出現以降、連戦連勝だった日本にとって手痛い敗北だった。

 

――勝ったが損害が激しいな。……追撃は不要だ。

 

 対する敵を台湾から追い落とした深海棲艦も、相応の損害を受けており、撤退する艦娘たちに追撃が出来ないレベルにまで消耗していた。第一任務艦隊はこの深海棲艦側の事情により、生き延びたとも言っても良い。

 

 双方が相応の被害を受けたが、最終的に台湾を巡る戦いは深海棲艦の勝利と言う形で幕を閉じた。

 




台湾攻略戦判定
日本:89+41+55=185
深海棲艦:56+91+39=186

何という接戦……。

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