それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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時系列は本編32話と33話の間、作中時間で2017年10月下旬になります。


それぞれの憂鬱外伝
それぞれの憂鬱外伝1 鎮守府建造の一コマ


 2017年10月15日に実施された「提督分散配備計画」。本土へ攻撃を仕掛けて来る深海棲艦に対する効率的な防衛網の構築を目的としたこの計画に従い、提督とその配下の艦娘たちは予め決められていた赴任地へと送られる事となった。

 こうして各地に散っていった提督たちだが、そんな彼らが赴任地で最初に見た光景だが――、鎮守府施設など無く、大量の建築資材があるだけだった。要するに防衛省は提督の有する基地建設能力を当てにしていたのだ。傍目から見れば、この扱いはどうなのかと疑問を呈するだろうが、いくら日本が艦娘を重用するとは言え、何百と言う軍事基地を短期間で建築する事など出来ないのだから、仕方のない事だった。

 さて、そんな事情により、鎮守府を文字通り一から作る事になった提督たちだが、この施設建設においては、防衛省から条件が出されていた。

 

「艦隊運用のための必須設備の建設及び公序良俗に反しない事を基本条件とし、各提督は任務に必要とされる設備を建設せよ」

 

 随分と曖昧な指令だが、要するに「担当海域の防衛が出来るのならば、鎮守府設備については自由にしても良い」と言う事だった。これは建造される鎮守府が多すぎるため、施設建設に防衛省が一々口を出す事が出来なかった事、現時点では今までにない兵種である艦娘の運用を提督に一任した方が効率が良かった事が起因している。

 こうして提督と艦娘たちのセンスに一任された鎮守府作りが始まった。これにより、各地で個性豊かな外観を持つ鎮守府が幾つも建造された――訳ではない。

 何せ作るのは軍事基地なのだ。軍事行動に際して効率良く動ける設計にしなければならない。その関係で建物の作りや配置はある程度決まって来る。ならば外観に個性を出せるのかと言われればそうでもない。防衛省もそれを先読みして、指令書に赤字で「公序良俗に反しない事」とキッチリと書いておいたのだ。このような事情により各地に建造された鎮守府は、その土地に合わせて建物の配置が違ってくるものの、割と似通った外見ばかりとなっていた。

 では各地の鎮守府は何処も画一的なのか? そう問われたのならば、否である。外観こそ似通っているが、庁舎内部は個性が溢れ出た作りとなっていた。

 

 

 

「司令官。やっと海から出撃出来ますね」

「そうだな」

 

 鎮守府敷地内の埠頭で、秋山と今日の秘書艦である朝潮は哨戒任務のために出撃していく艦隊を見送っていた。横須賀にいた頃から見慣れた光景のはずだが、今回は何処か感慨深いものがある。

 

「やっぱり仮拠点からの出撃は違和感がありました」

「朝潮もか?」

「はい。やっぱり私たち艦娘の出撃は港からの方が自然ですね」

「まあ、これまで小学校の校舎から歩いて出撃だったしなぁ」

 

 秋山たちが伊豆諸島鎮守府に赴任して数日。彼らは小学校の校舎を仮拠点とし、担当する海域の防衛任務をこなしつつ、鎮守府の建設を行っていたのだが、本日、艦隊運用に必要な施設が完成したのだ。人間側すると驚異的な速度での建設だが、そこは妖精謹製の鎮守府であるため、問題は無い。現在、鎮守府完成に伴い、手すきの艦娘たちによる引っ越しが行われている最中だった。

 

「そう言えば、朝潮は何か欲しい設備とかないか?」

「設備、ですか?」

「要するに娯楽施設だな。変なものじゃない限り、何を作っても良いらしい」

 

 国防のための拠点である軍事基地だが、そこで働く者たちを喫茶店や売店などの娯楽を提供する施設がある事は極々普通の事だ。そこは通常の普通の兵士ではなく艦娘を運用する鎮守府においても変わらない。常に轟沈の可能性を持つ艦娘へ娯楽を提供し、メンタルケアを行う事は必要な事なのだ。

 

「娯楽施設ですか。それでしたら、みんなで楽しめる物の方が良いですね」

「よくあるのは喫茶店や売店だな」

「自衛隊の基地とかではよく見かける施設ですね」

「ああ、自衛隊の基地で標準的な物ならば経費が出るんだ」

「それ以外はどうなんですか?」

「審査が通れば補助金は出るし、物によっては経費で落ちるな。因みにこれは割と融通が効くらしい」

 

 これが基地防衛設備と並んで、鎮守府の色が出やすい項目だった。現在各鎮守府では、様々な理由を付けて補助金を得ようと提督と艦娘たちが頭を悩ませている真っ最中である。

 

「そうなんですか。うーん……」

 

 朝潮は腕を組み考え込む。暫く考えたのち、

 

「あっ、欲しい物がありました!」

 

 何か思いついたのか、満面の笑みを浮かべた。

 

「思いついたか。何が必要になるんだ?」

「えっと、スペースですけどそこまで大きくなくても良いです」

「それだったら、庁舎を大きく作ったからどこを使っても良いぞ」

「あ、でも出来ればお風呂が欲しいですね」

「風呂? 入渠施設じゃダメなのか?」

「はい。部屋と繋がっている物が必須です」

「まあ、そのくらいなら妖精さんに頼んで改装出来るな」

「それで一番大事な物ですが、大きいベッドが要ります」

「ベッド?」

「はい。出来れば回転するタイプをお願いします」

「……ん?」

 

 怪しいワードに不安を覚える秋山。そんな彼を気にも留めず、朝潮は続ける。

 

「後は道具を揃えれば完璧ですね」

「……なあ、道具って具体的にはなんだ?」

「色々ありますけど一番は――」

 

 一拍間を置き、朝潮は真剣な表情で続ける。

 

「コ○ドームですね」

「ラ○ホテルかよ」

 

 以前のやり取りを思い出し、秋山は思わず顔を手で覆ってしまう。秋山の下にいる朝潮は普段は真面目であるため頼りになるのだが、事が性事情になると暴走しやすいのだ。今回は娯楽施設の事で性事情に結びついてしまったらしい。

 

「料金は取らないので○ブホテルとは違いますね。○リ部屋です」

「なお悪い。却下だ却下」

 

 確かに軍隊の娯楽に性交渉はよくある事ではあるが、だからと言って表立ってそんなものを作った日には、防衛省の皆様が殴り込んで来るだろう。

 

「え? 司令官は自由にして良いとおっしゃいましたが?」

「流石に公序良俗の所に引っかかるのはマズいだろ」

「司令官」

 

 朝潮はグイッと顔を秋山に近づける。そして真剣な表情で口を開いた。

 

「バレなきゃいいんですよ」

「それ、前にも聞いた」

 

 相変わらず真面目な朝潮の言葉とは思えないセリフに、秋山は頭痛を覚える。

 

「ここは本土から離れてますし、ヤ○部屋位大丈夫です」

「いや、定期的に査察とか来るからな?」

 

 基本的に運用と人員の関係上、鎮守府には提督と艦娘しかいないが、だからと言って防衛省も彼らを野放しにするつもりはない。各地方隊が主体となり、定期的な査察が行われる事になっていた。少なくとも朝潮が望む物は確実にアウト判定である。

 

「なるほど」

 

 朝潮は納得したように頷く。その光景に秋山は安心する――訳ではなく、次の展開に身構えていた。

 

(絶対ここで終わらないだろうなぁ……)

 

 以前のやり取りの事を考えれば、確実に斜め方向の答えが出てくるのだ。半ば諦めの境地にある秋山だが、そんな彼に対して朝潮は真面目に、そして無慈悲に答えを導き出す。

 

「つまり、監査の時に見つからない所に作ればいいんですね!」

「やっぱり諦めないか……」

 

 思わずため息を吐く秋山。それに構わず、朝潮は続ける。

 

「見つからない様にとなると、やっぱり地下ですね。監査が来るようなときは擬装出来る様にすれば問題ありません」

「そもそも諦めてくれないかな?」

「それに地下なら後から拡張も出来ますしね。他にも特殊プレイ用の部屋も用意できます。具体的には――」

「オーケー、分かったから一旦止まれ」

 

 秋山は朝潮の口を塞ぎ、その先の言葉を遮る。流石にこれ以上はマズかった。朝潮はモゴモゴと何か喋っていたが、暫くすると諦めたのか静かになった。それを確認して、秋山も口から手を離す。

 

「司令官、よろしいでしょうか」

 

 落ち着いた口調の朝潮。その表情は真剣そのものだった。

 

「何故艦娘に手を出さないのですか?」

「え?」

「司令官が同性愛者でも不能でもない事は知っています。ちゃんと確認しました」

「……あれ? 俺って監視されてる?」

「この絶海の孤島で監視の目はありません。そしてこの鎮守府にいるのは艦娘しかいません。ここの艦娘であれば、仮に『夜戦』をしたとしても通報などしません。こちらもこの朝潮が全員に訊いて回りました」

「無駄にアクティブだなぁ……」

「改めてお尋ねします。何故艦娘に手を出さないのですか?」

「あー……」

 

 秋山は顔を顰めつつ、頭を掻く。そして一つ息を吐くと、彼は答えた。

 

「朝潮……。俺の股間がボイルされる可能性がある行為は、流石に勘弁して欲しいんだ」

 

 

 艦娘が出現して最初期から現在に至るまで艦娘保有国の最優先目標。それは提督の数を増やす事だ。これが成功すれば、確実に戦力の増強が出来るのだ。そのために各国では様々な研究がされている。

 その研究の過程で一部の国で行われたのが、艦娘と提督の交配だ。艦娘の血を引いた者が生まれたならば、艦娘若しくは提督の素質を持つ可能性があったのだ。この試みだが今のところ成果が出ていないが――同時にその過程で、ある事故が起こった。提督が艦娘と行為を始めた瞬間、陰茎部に重度の火傷を負ったとの報告が各国で確認されたのだ。その熱傷部は高温の水分による熱傷と酷似していたと言う。

 この事故をきっかけに研究者たちが原因究明に乗り出すが、人類にとって艦娘の存在が未だに謎である事もあり、原因は不明。それでも意地で研究を続けていった結果、この症状が現れる条件だけはある程度見えて来た。

 

1、艦娘の分泌液と提督の陰茎部が接触した際に、症状が生じる。

2、該当艦娘が所属していない提督が相手の場合、確実に発動する。

3、該当艦娘が所属している提督が相手でも、提督への好意がない場合は発動する。

 

 この情報は即座に全世界に共有され、そして多くの提督たちが恐れ戦く事となる。下手をすれば男として再起不能となるのだから当然の事である。秋山もこの例に漏れず、艦娘には手を出すまいと誓っていた。余談だが、この事が日本の男性提督を国家公認の風俗店に走らせた一因であるかは不明とされている。

 

 「夜戦」への恐怖を語る秋山。だが、

 

「嘘ですね」

 

 朝潮はあっさりと切り捨てた。

 

「確かに『夜戦』についての情報は、この朝潮も聞き及んでいます」

「なら――」

「しかし逆に言えば、好意があれば例の事例の様な事にはなりません。司令官は私や叢雲、金剛さんとなら、『夜戦』が出来る事は分かっているはずです」

「……」

「それにも関わらず、司令官は私たちに手を出しません。これは司令官の説明と矛盾します」

「……」

「司令官、本当の理由を答えて下さい」

 

 沈黙する秋山。その様子をじっと見つめる朝潮。そんな光景が数分続いた頃、秋山は重い口を開いた。

 

「……下手に俺が艦隊の誰かに手を出したら、この鎮守府は滅茶苦茶になるぞ?」 

 

 秋山は静かに、だが確固たる意志で言い切った。

 秋山としても建造した艦娘たちが、程度の違いこそあるものの誰もが自身に対して好意を抱いている事を感じ取っているし、事実その通りである。状況だけ見れば、下手なゲームやラノベ顔負けのハーレムものだ。しかしこの世界は、物語ではなく現実なのだ。一時的な衝動に任せれば、その反動は返ってくる。

 

 秋山は艦娘に手を出した場合、確実に艦娘間で問題が発生すると考えていた。

 

 恋愛感情のある相手との性交渉と言う事実は大きい。他の艦娘へのアドバンテージとなる事は確実だろう。そうなれば性交渉をした者としていない者で、一定の不和が生じる事は簡単に想像できる。また秋山が複数人に手を出していた場合は、経験済み同士での不和も加わる。

 その果てにあるのは、昼ドラも真っ青なドロドロの惨劇である。下手をすれば深海棲艦を相手にする前に、内乱で鎮守府が壊滅、秋山も艦娘に撃たれて不名誉な戦死となりかねない。

 ならば提督側が全ての艦娘に手を出した上で平等に扱う事でをコントロール下に置けばいい、との案もあるが、それも現実的ではない。相手が3、4人なら秋山も何とかなったのかもしれないが、現時点でも彼の下には10名を超える艦娘がいるのだ。更に今後の建造によりドンドンと増えていく事は確実で、最終的には400名以上となるだろう。全員相手にするなど、不可能だった。

 では適当な人数の艦娘との肉体関係を持った状態で、鎮守府内での軋轢を緩和するにはどうすれば良いのか、と問われた場合、提督が中心となって艦娘間の仲を調節する事が最善なのだろうが、それをこなすには卓越を通り越して常軌を逸したコミュニケーション能力とバランス感覚が必要になるだろう。では、その様な才能が自身にあるかと言えば、秋山は無いと言い切っていた。いや、仮にあったとしても、そのうちストレスで胃に穴が開く事は想像がついた。

 ならば現実的な提案として、相手を一人に決めて周囲にも周知、更に相手を提督の下で完全に保護する、と言う案があるのだが――、対象とならなかった艦娘たちが、簡単に諦めるかどうかという問題が出て来る。秋山には、彼女らがそう易々と身を引くとは思えなかった。また可能性としては僅かであるが、提督とその伴侶VS選ばれなかった大多数の艦娘の対立構造が発生するかもしれない。

 以上の様な思考実験の末、秋山はある結論に至った。

 

「原因を発生させなければ良い」

 

 要するに、艦娘との関係を一定ラインから超えない様にしたのだ。傍目から見れば「ヘタレか!」と突っ込まれるだろうが、本人は真剣である。ドロドロの恋愛模様の末に、自身の生命の危機だけでなく、国防にも悪影響を及ぼすなど、悪夢でしかなかった。

 

「司令官はそこまで思い悩んでいたのですね」

 

 朝潮は深く頷いた。そこには先程までの険しさは無く、どこか優し気な雰囲気を纏っている。

 

「大丈夫です。そんなことは絶対にさせません」

「……」

「司令官が誰を選んだとしても、この朝潮は司令官の味方です。ですので安心して下さい」

「ありがとう、朝潮」

 

 その言葉に心に温かい物を感じる秋山。それを見た朝潮は再度頷くと、

 

「なので愛人枠でも構いません。ヤ○部屋を作って、夜戦に突入しても大丈夫です」

「そこに持っていくのは止めない?」

 

 色々と雰囲気をぶち壊していった。

 

 その後も作る作らないの押し問答は止まらず、最終的に様子を見に来た叢雲によって強制終了されるまで続いた。なお朝潮の希望は流石に通らなかった。

 




要するに

艦娘×他の提督=ボイル、艦娘×好感度が足りない提督=ボイル 

です。安全に夜戦に突入するには、好感度管理は必須になります。
余談ですが、建造直後ならヤレなくもなかったりします。
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