それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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時系列は本編49話か50話辺りになります。今回はかなり短いです。



それぞれの憂鬱外伝9 彼氏彼女の事情

「提督になった人って、付き合ってる人と別れる事が多いみたいね」

「いきなりなんだよ。てか、別れ話?」

 

 突然切り出した話題に首を傾げつつ聞き返す秋山。叢雲小さく頷いた。

 

「そ、別れ話。ちょっと、気になる事があったから調べてみたのよ」

「へえ、それは知らなかった」

「アンタ、割と余所の提督とは交流はあるのに、そう言うのは知らないのね」

「人の別れ話とか、流石に聴きにくいだろ」

「それもそうね」

 

 いくら仲が良くとも、踏み込みにくいプライベートな領域はあるのだ。特にネガティブな事となると尚更である。

 

「因みに原因は?」

「『いつ自分が戦死するか解らないから』っていうのが、言い分みたいね」

「ほー」

 

 この言い分は実際間違いではないだろう。いささか特殊な立場であるものの自衛官である提督には、戦死のリスクが付きまとう。鎮守府での勤務がメインとは言え、鎮守府が沿岸部にあるという事もあり深海棲艦の攻撃に晒される可能性はあるし、一度遠征に駆り出されれば、艦娘に乗艦して前線で戦う事になり、艦娘と共に戦場で散るかもしれないのだ。常に深海棲艦との戦いの最前線で戦う提督は、平時に限れば通常の自衛官よりも死亡リスクは高い。

 そんな背景もあり、自身の戦死を理由に付き合っている相手に別れ話を切り出すのは、世間的に見てそこまで可笑しくはない。だが、

 

「で、実際の所は?」

「艦娘に鞍替えしたのが大半ね」

「だろうな」

 

 その実態は色々と生臭い物であった。戦死云々は艦娘に浮気した提督が体の良い言い訳として使っているだけだった。とは言え、提督側にも多少の余地はある。

 その業務の関係上、提督は地元から離れた地に赴任される上に、鎮守府に缶詰めにされるのが普通なのだ。この状態では通信機器が充実していても、相手に直接会う機会が激減してしまうため、どうしても疎遠になってしまうのだ。また浮気相手である艦娘の容姿は、そこら辺のモデルが裸足で逃げ出すような美少女及び美女であり、更に提督への好意がありアピールもして来る。提督の周囲の環境は、艦娘に浮気にしてしまう要素が多分にあるのだ。

 もっとも、いくら言い訳をした所で、浮気した時点でアウトであるが。

 

「で、ここからが本題だけど」

「ん?」

「アンタ、付き合ってる人とかいるの?」

「……」

 

 この質問に、秋山は思わず黙り込んだ。暫しの沈黙の後、口を開く。

 

「いないな」

「でしょうね」

 

 何処か呆れたような叢雲。叢雲が秋山の下に現れて約1年。彼女の知る限り、秋山が同年代の女性と話している、若しくは連絡を取っている姿を見たことが無いのだ。この答えは容易に予想出来ていた。

 

「因みにいるって答えたら?」

「相手に殴らせに行かせるわ」

 

 まあ、仮に秋山に彼女がいたとしても、この場合1年も連絡も無しにほったらかしという事になるので、別の問題が起きているという事になるのだが。

 

「と、言うかだな……」

 

 秋山はため息を吐きながら、叢雲に向き直った。

 

「この状況で、そう言うの訊くか?」

「それもそうね」

 

 二人がいるのは、秋山の私室のベッドの上。格好はお互い素っ裸。そして今の状況は――ヤルことをやった直後である。とあるコスプレを披露した叢雲を色々と溜まっていた秋山が押し倒した結果だった。対テロ対策兼秋山攻略のための徹底護衛が始まってから約1ヵ月後の事である。

 

「それにしても良く今まで我慢できたわね。2週間目で落ちると思ってたわ」

「仕掛けて来た側がそれを訊いてくるか……」

「あら、ちゃんと気づいてたのね?」

「あそこまで露骨にされたらなぁ」

 

 秋山も艦娘による護衛と称した一連の露骨なアピール合戦を前に、裏の意図をおぼろげながら察していた。

 

「それで、どうなの?」

「どんな羞恥プレイだ、これ。……基本、ひたすら我慢してた。唯一一人になれる、トイレの時間ですら、ずっと話しかけられてて抜く暇もなかったんだぞ?」

 

 もっとも、意図を察したとしても、逃げ道を塞がれていればどうする事も出来ないのだが。

 閑話休題。

 

「ま、アンタが彼女持ちじゃなくて良かったわ。必要になる工程が一つ減ったし」

「工程が一つ減ったって……、まだ何かあるのかよ」

 

 ともかく、叢雲の企んだ通り秋山が艦娘に手を出したのだ。後は、

 

「後はアンタが私以外の艦娘、出来れば全員に手を出せば万事解決よ」

「『夜戦』直後でその発言とか、お前凄いな」

 

 叢雲の提案に、頭痛を覚える秋山。要するに「艦娘ハーレム作れ」と艦娘側が要求して来ているのである。普通の感性を持つ秋山からすれば、ツッコミの一つも入れたくなる。

 

「あら。ハーレムものは男のロマンっていうじゃない?」

「あれって少し考えれば分かるけど、当事者は滅茶苦茶大変らしいからな?」

 

 良い例では一夫多妻制を取るイスラム教国だろう。「夫は妻たちを完全に平等に扱わなければならない」とされている事もあり、当事者はそれに複数人妻をめとる事で生じる様々な苦労をしていた、と言われている。富裕層では一夫一妻が多かったというのも、子供の教育費問題もあっただろうが、それらの苦労を負いたくない、という事情もあるのだ。

 

「てか、普通に一人と――叢雲と付き合うのは駄目なのか?」

 

 そんな背景もあり、常識的な方向で決着を着けようと画策する秋山。やらかしてしまった以上、一定の度合いで腹は決まったのだが、だからと言って面倒事を拡大させるつもりは無かった。

 だが叢雲は呆れたように小さく鼻を鳴らす。

 

「他の娘たちがそう簡単に諦めると思う?」

「……いやこう、全員の前で宣言すれば」

「愛人枠狙ってくる娘が確実に出るわよ。心当たりあるでしょ?」

「……」

 

 この反論には、秋山も沈黙するしかなかった。仮にこのまま叢雲と恋愛関係となっても、構わずアプローチを掛けて来そうな艦娘は簡単に何人も思いつく。そしてその様な誘惑に勝てると、秋山は無責任に言い切れなかった。もしもその様な状況となれば、

 

「ハーレム作るよりも、確実に面倒な事になるわよ」

 

 昼ドラも真っ青な愛憎劇が繰り広げられるだろう。それこそ秋山が最も恐れるシナリオ一直線である。

 思わず沈黙する秋山。そんな司令官の様子に叢雲は苦笑する。

 

「安心しなさい、ちゃんとこじれない様に協力するわ。最悪、艦娘側で調整すればいいし」

「それって、俺が艦娘の共有財産になってないか?」

「そこは諦めなさい」

 

 実際、ハーレムもので上手く行くケースは、男性が女性の共有財産と化している場合だったりするので、叢雲の提案は理に適っている。秋山の意思が介在できないという欠点を除けば、だが。

 

「いや、でもなぁ……」

 

 渋る秋山。確かに既に叢雲に手を出してしまった以上、叢雲の提案に乗るのも一つの案だろう。しかしだからと言って、艦娘の共有財産になれと言われて素直に頷けるかと問われれば、断りたい所だった。

 そんな選択肢が一つしかないのに、イマイチ煮え切らない司令官の姿を前に、

 

「はー、仕方ないわね」

 

 叢雲は一つため息を吐くと、もぞもぞと秋山の背後に回り込み、

 

「よいしょっと」

 

 秋山を羽交い絞めにした。しかも丁寧にも足も使って、秋山がこの場から動けない様にすると言う徹底振りである。

 

「いや何やってんだよ」

「もう面倒だし、実力行使する事にしたわ」

「実力行使って、まさか……」

 

 彼女の意図を察し、顔を青くさせる秋山。そんな司令官を前に、叢雲は彼を安心させるように微笑む。

 

「今、他の娘も呼んだから、その娘と『夜戦』しなさい。というか、アンタの意思関係なくさせるわ」

「おい!?」

 

 堂々の逆○宣言に、秋山は悲鳴を上げた。叢雲も最初は秋山が艦娘に不信感を覚えてしまう事を危惧していたのだが、色々と面倒になり最短で目的を達成出来る手段に打って出たのだ。

 

「これもこの鎮守府全員の為よ。頑張りなさい」

「仕掛けたお前が言うか!?」

「安心しなさい。さっき『夜戦』したばかりだし、今回相手をするのは一人だけよ?」

「安心する要素がないからな!?」

「あ、因みに先着一名って通信を入れておいたから、誰が来るかは私も分からないわよ?」

「おい!?」

 

 二人がやいのやいのと争っている内に、廊下からドタドタという足音が近づいてくる。そして一拍置いて勢いよく扉が開かれた。部屋に入って来たのは、

 

「駆逐艦朝潮、着任しました!」

「この状況で一番ヤバい奴が来たぞ!?」

 

 ある方向で思いっきり突き抜けている駆逐艦がそこにいた。これには叢雲も苦笑いである。もっとも止める気はさらさらない。

 

「ま、やる事は変わらないわ。朝潮、司令官を艦娘抜きでは生きられない様にしてヤルわよ」

「ええ! では司令官、よろしくお願いします!」

「待て、ホントに待て!?」

 

 その後、この鎮守府での提督と艦娘の関係がどうなったのかは、秋山の口から語られる事は無かったと言う。

 




一応、提督(一人)と艦娘(多数)の関係を円満に維持するための方法のひとつという事で。しかし今回は慣れないモノを書いたせいか、あまり筆が乗らなかったです。

4月12日にミスって一度投稿して、直ぐに削除しました。大変失礼しました。

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