それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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時系列は本編99話と最終話の間辺りです。


それぞれの憂鬱外伝12 亡国たちの憂鬱

 新規領土の獲得が新規提督の獲得となる事が判明した事により、世界は帝国主義に回帰した。艦娘を保有する国々は、「難民保護」や「現地での人権問題の解決」など現代らしいお題目を掲げつつ、己の軍事力を持って、崩壊し無政府状態となった地へ侵攻を開始。そして「現地民保護」や「深海棲艦からの防衛の代行」、「一時的な保護」を名目に、侵略した地を自国領土に編入していった。

 話だけ聞けば本当に21世紀なのか? と首を傾げたくなるような世界情勢であるが、この各国の行動に対して、声高に批判する者は殆ど居なかった。艦娘保有国の国民の多くは、政府の行動を肯定し、更なる領土拡大を叫んだのだ。

 国民の視点で見れば、艦娘が出現した事で持ち直したとはいえ、深海棲艦との戦いは苦戦を強いられているし、食料やエネルギー、生活物資などあらゆるモノが戦前と比べて不足しているのだ。そんな大問題をある程度ではあるが解決出来る手段が領土拡大政策である以上、多くの国民からすれば歓迎出来ることなのだ。

 こうして国民の歓迎の声の下、艦娘保有国は「狩る側」となった。では政府が崩壊していたり、艦娘を持っていない「狩られる側」はどうなのか? 

実の所「狩られる側」の処遇についてはパターンは幾つかあったりする。

 

 

 

 2021年5月、アルジェリアの主要港の一つであるオランでは、フリゲートを旗艦としたタンカーの船団が出港していた。船団の周囲には護衛として艦娘たちが展開しており、深海棲艦の襲撃に備えて油断なく警戒している。

 

「クソっ……」

 

 その様な光景を、波止場で苦々し気に見送る男たちがいた。その格好からオラン港の港湾施設の作業員である事が見て取れる。

 

「火事場泥棒がっ」

「何が救援だ。アルジェリアの資源に目が眩んだだけだろうが!」

「てめぇらなんて、クーデターで滅んでいれば良かったんだ!」

 

 口々に船団に罵倒を浴びせる男たち。彼らは元アルジェリア人、現アルジェリア系フランス人だった。今のアルジェリアでは、彼らの様にフランスに対して反感を持つ者は非情に多い。

 深海棲艦による攻撃と政府機関崩壊による混乱によりボロボロなアルジェリアの地だが、その復興は遅々として進んでいなかった。フランス政府はアルジェリアを碌に支援するつもりは無く、建物もインフラも主要なモノ以外はボロボロのまま放置され、治安も最低限、衛生状況も劣悪で、多くの人々は満足な食料も得られない。

 そんな状況にも関わらず、フランス政府はアルジェリアの地に眠る地下資源に夢中だった。彼らは油田やガス田を最優先で復旧させ、手に入れた資源をせっせてフランス本土に運び込んでいるのだ。

 この様な光景を見せられては、アルジェリア人に今を満足しろと言う方が無茶である。当初こそフランスは現地民から一定の支持を得られていたのだが、この状況にアルジェリアの人々は着々と不満を募らせていた。

 

「おい、あれ見ろよ」

「あん? ああ、あれか……」

 

 一通り憂さ晴らしの罵倒を終え、男たちが再び作業に戻ろうと歩いている途中で、フェンスで仕切られた港湾の外に、大勢の人々が集まっているのを発見した。

 

「食料と薬を!」

「アルジェリアの資源を搾取するな!」

「早急な復興を!」

 

 人々はそう叫びながら、プラカードを掲げ行進していた。

 当然の事だが、多くの人々はこの無い内尽くしの状況を良しとしていない。状況改善を訴える大規模なデモ活動は毎日の様に続けられていた。デモ活動の末に暴動に発展する事も多い。

 しかしデモ隊が必死に窮状を訴えても、フランス軍もフランス政府も動くことは無かった。そもそもフランス政府のアルジェリアに対する方針が、「資源地帯としての活用」であるため、現地民については二の次なのは当然の事であった。数年前のクーデター騒ぎでアルジェリア復興に回せる金が無い、という事情もあるのだが。

 

「今に見てろよ……」

 

 作業員の一人が呟いた。その目には憎悪の感情が渦巻いている。フランス政府の事情など、搾取させる側からすれば知った事ではなかった。

 いくら平和的なデモで訴えても欠片も改善するつもりが無いのならば――、武器を手に取るしかない。したり顔でアルジェリアの守り手と謳いながら、アルジェリアから搾取するフランスなど、唯の侵略者でしかなかった。

 

――三か月後、アルジェリアの軍事基地へ現地民によるテロが発生した。幸いな事に死傷者はゼロであり、テロリストたちも直ぐに逮捕された、と言う小規模なモノであった。

だがこの事件は切っ掛けに過ぎなかった。このテロを皮切りに、アルジェリア各地でフランスに対するテロが頻発する様になっていったのだ。

 またこのアルジェリア人のテロに勇気づけられた者たちがいた。アルジェリアの様に宗主国に搾取され続けていたアフリカ植民地だ。侵略者に対抗しようと各地で武装勢力が次々と誕生し、そいて宗主国に対するテロを敢行していった。

こうしてアフリカ大陸はテロの嵐が吹き荒れる事となった。

 

 

 

 アフリカで混乱の渦が巻き起こりそうな頃、日本国東京都千代田区外務省庁舎では、ある亡国の大使が日本の外務省を相手に、必死の交渉を幾度も繰り広げていた。

 

「無政府状態故に発生した難民は、周辺国に多大な負担を強いる事になっている!」

「ええ、そうですね」

「難民の原因は統一した政府が無い事に起因する。それを解決するには現地で政府機能を復活させる必要がある」

「ええ」

「だからこそ、我々が赴き祖国の復活させなければならないのだ!」

 

 亡命政府のトップとして動いている男は、もはや顔なじみになっている担当官に熱弁する。幾度も繰り返されているこの熱弁に、担当官も素直に頷いた。

 

「ええ、あなた方の熱意はよく分かりました。内閣からも『帰国するならば、喜んで許可する』との通達が出ております。帰国手続きでしたら、この場でも行えますが?」

「いや、無茶を言わないで頂きたい!? 今、我々が帰国した所で再建など不可能だ!」

 

 大使は余りの無茶に叫んだ。今の彼らには金も資源も武力も無いのだ。帰国した所で国民は誰もついてこないだろう。また仮に国民から政府として認められたとしても、今のボロボロの祖国が自力で復活する事はまず不可能だった。

 

「では、どうされるおつもりですか」

「だからだな!」

 

 顔を顰めつつ大使は続ける。その顔は何処か悲壮感すらあった。

 

「日本に我が祖国、大韓民国への支援を要請したい!」

 

 

○大韓民国という国だが、歴史的には艦娘出現前に崩壊した国の一つとして数えられている。軍事面では陸軍国でありながら一定の海軍戦力を保有しており、また立地的に日本が盾になっている事から、軍事力の消耗を抑えられていたりする。

 そんな国が何故崩壊したのかと言われると、主な原因は食料不足だ。

 当時の韓国の食料自給率は20%代前半。自国のみで国民を養うには全く足りない。そのため他国から、具体的には近隣大国である中国から食料を輸入しなければならなかったのだが、海路は深海棲艦に封鎖されておりまず不可能。では大陸の半島国家という事で陸路で輸送すれば良いじゃないか、と言われれると、よりにもよって敵対国家である北朝鮮の存在が陸路を封鎖しているのだ。そのため韓国は大陸の半島国家であるにも関わらず、実質的には島国と同じだった。

 結局、韓国は食料不足からくる情勢不安が悪化していき、最終的に発生した暴動から逃れる形で、当時の政府はアメリカに脱出。実質的に韓国という国は崩壊した。また朝鮮半島自体も、韓国とほぼ同時期に北の敵対国家も崩壊した事で、朝鮮半島は完全に無政府状態となり、それが2021年現在まで続いていた。

 なお、アメリカに逃れていた韓国亡命政府だが、アメリカ崩壊に巻き込まれてしまい消滅の憂き目に遭っており、現時点では駐日韓国大使館が亡命政府として名乗りを挙げている。

 

 

 大使が放った支援という言葉に、日本の担当官は肩を竦めた.

 

「支援ですか。生憎と日本も自国を維持するのに精一杯です。支援をするにも、我が国のメリットを示して頂かないと」

「だから、朝鮮半島の難民の封じ込めによる周辺諸国の――」

「繰り返します。『我が国』のメリットを示して下さい」

「……」

 

 担当官の問いに、言葉に詰まる韓国大使。彼も理解している事だが、韓国亡命政府の持つ手札は絶無に近い。

 国家が崩壊した事で、韓国国内にあった利権も同時に消滅。各種技術についても携わっていた人間はまだ生き残っている可能性はあるが、彼らの力を発揮するための施設は崩壊しているだろうから、こちらも手札にはならない。

 ならば朝鮮半島自体に期待するしかないのだが、彼の地の農業生産能力は東南アジアと比べて明らかに低い。まだ希望になりそうなのは半島北側の鉱山資源だが、こちらはロシアが北朝鮮の借金の抵当にしているとの噂もあり、こちらも期待は出来ない。ならば未来を担保にするしかないのだが、

 

「復興後に日本と行われる経済交流と半島内の利権だ。これならば……」

「支援分を回収出来るのが何十年も先になる時点で論外です」

 

 空手形もバッサリと切り捨てられる。

 

「……朝鮮半島に国家が復活する事で、半島に深海棲艦拠点を築かれない様に出来るはずだ」

 

 残るは地政学的なメリット。実際、朝鮮半島に深海棲艦の拠点が築かれれば、日本に危機が訪れる事は明らかであり、半島に国家がある事で防げるだろう。だがそのメリットも、

 

「それは、日本が朝鮮半島を制圧すればいいだけなのでは?」

 

 帝国主義となった世界では消失していた。「新領土を得る=艦娘戦力拡大」の構図があるため、日本からすれば、わざわざ朝鮮半島に艦娘戦力を持たない国家を再建するメリットは無いのだ。

 だが制圧される側からすれば、堪ったものではない。代表は思わず叫んだ。

 

「そんな事をすれば、世界各国から批判されるぞ!」

 

 だがその様な抗議に、担当官は涼しい顔だ。

 

「ヨーロッパ各国からは、日本に早く朝鮮半島を編入して戦力増強をしろとの声が出ていますが?」

「ならばロシアだ! あの国の前科を考えれば朝鮮半島を編入する可能性は十分ある!」

「そちらについても、先方と外交筋で話はついていますのでご安心ください。勿論、相手が相手ですので油断はしませんがね」

 

 世界は深海棲艦との戦いの真っ最中であり、「人類存続」のお題目の下、無政府状態となった地の編入は、歓迎こそしても批判されるような事はまずなかった。艦娘戦力も無く、国土がボロボロ、外交的に手札になるような要素すら持っていない国家の訴えなど、何の意味もなさない。

 

「しかしだな――!」

 

 しかし韓国亡命政府は簡単には諦めない。深海棲艦により国民が絶滅した東南アジア各国とは違い、朝鮮半島には多くの人間が残っているのだ。

――支援さえあれば国家として復活出来る。

この希望があるからこそ、彼らは支援を引き出そうと食い下がっているのだ。

 日本と韓国亡命政府によるテーブル上での戦いは、今後も続いていく。

 

 

 

 2021年、ある日の神奈川県横浜市。神奈川県の県庁所在地として発展しているこの都市の郊外のある一角に、ある博物館があった。建物自体は元々その地に古くからあったものを流用しているが、博物館にするための改築は済んであるので、外見はその古さを感じさせない。

 ある朝。博物館の中を歩くスーツ姿の初老の男の姿があった。彼は展示物を何処か懐かし気に見て回っており、途中でショーケースや展示物に汚れを見つけると自身の手で丁寧に綺麗にしていく。

 彼はその様な作業を幾度も繰り返し一通り終わると、彼は博物館の玄関口まで足を運び、自動ドアの電源を入れた。男がここ1年近く毎日、同じ時刻に繰り返している作業だ。

 

「さて、開館だ」

 

 中年の男――台湾日本関係協会の元駐日代表(実質的な駐日大使)であった「台湾歴史文化博物館」の館長はそう呟いた。

 

 

○台湾の対深海棲艦戦における歴史的な立ち位置は、数多くの「艦娘出現前に崩壊した国」の一つとされている。台湾の食料自給率は80%以上と高いものの、軍事力については強国と言う程ではなく、深海棲艦の猛攻の前にあっと言う間に軍事力はすり潰され、2017年2月に国家として崩壊。当時の政府は台湾から脱出しアメリカに亡命政府を築いた。これが台湾という国としての歴史だ。

 そんな台湾だが、土地としての台湾を見た場合、持ち主が頻繁に入れ替わっている事が特徴だった。台湾(中華民国)、無政府状態、極々短期間ながらも中華人民共和国、深海棲艦、そして日本。彼の地は人類と深海棲艦の都合で、その持ち主を何度も変えていた。

 

 

 午前11時。館長は小学校の課外授業で訪れていた子供たちを前に、ガイドを務めていた。今は食文化についてのパネルや展示品が置かれているコーナーで、説明をしていた。

 

「と、言ったように、当時の台湾では独自の食文化が発展していったんだ。特に外食産業は凄くて、あっちこっちに屋台や軽食屋が並んでいたんだ。君たちが今食べている小籠包も台湾グルメの代表的なものの一つだね」

 

 解説しつつ、館長は事前に用意していた小籠包を子供たちに振る舞う。

 

「どうだい?」

「うん、美味しい!」

「なら良かったよ」

 

 元気よく答える子供たちに、館長も顔も自然と綻ぶ。この国の次の世代を担う子供たちに、今は亡き台湾を伝える事。それがこの博物館の役割だった。

 

 

○幾度も持ち主を変えた台湾だが、その地に住む人間の数は一度全滅している。

 中華人民共和国が艦娘及び提督を目当てに台湾を制圧した頃は、それまで南沙諸島の深海棲艦の目が東南アジアに向いていたため、台湾は占領されずに放置されており、それなりに住民たちは残っていた。

 だが次の台湾の支配者がよりにもよって深海棲艦だった。深海棲艦に支配された地域の人間は皆殺しにされる。それは過去の事例で確定している事であり、そして台湾も例外ではなかった。敵地であるために詳細は解らないが、少なくとも台湾に残されていた人間たちは文字通り全滅した事だけは確かだった。

 2020年、台湾は日本の手により深海棲艦から解放され日本領となった。この日本政府の行動に対して、当時台湾亡命政府の代表として動いていた駐日代表――アメリカに渡っていた正式な亡命政府は、アメリカから飛行機で逃げようとしたのだが、敵に撃墜されて全滅していた――は、抗議したが、返って来た答えは無常なモノだった。

 

「国民が全滅した台湾にあなた方が帰った所で、何の意味もありませんよ」

 

 

 午後4時。閉館間近のこの時間帯に、中国系の男と少女が博物館に訪れた。

 

「こんにちは」

「こんにちはー!」

 

 博物館の職員たちに親し気に挨拶する二人だが、その格好はこの場ではいささか浮いていた。事実、疎らに来ていた他の来館者たちは、思わぬ珍客に注目してる。だが、

 

「やあ、いらっしゃい」

「久しぶりだね」

「最近どうです?」

「お客の入りは、そこそこだね」

 

 彼らを迎え入れる者たちは気にする素振りはない。いや、彼らの素性と功績を知っていれば、場違いな服装であったとしても邪険に出来るはずもなかった。

 親し気に談笑を始める珍客と職員。そんな所に、館内の見回りから返って来た館長がやって来る。

 

「どうした――、おお、王君じゃないか」

「お久振りです。代表」

 

 来客が発したかつての呼び名に、館長は思わず苦笑する。

 

「今は館長だよ。王君、いや王提督」

「あ、失礼しました。館長」

 

 二人の今の立場を呼び合い、そして二人とも笑った。場違いな珍客は、海上自衛隊の制服に身を包んだ、台湾系提督と彼の配下の艦娘だった。

 

 

○日本政府からの返答に、駐日代表は反論する事が出来なかった。国家と言う物は、多数の国民がいるからこそ形成できる人類史上最大の組織なのだ。国民がいなければ政府など何の意味もなさない。

 台湾に台湾国民がいなくなった時点で、台湾亡命政府はその存在価値を喪失していたのだ。

 日本政府からの返答を受けた後、台湾亡命政府の面々は必死に考えた。今の自分達に出来る事は何なのか? 今は亡き台湾のために日本で出来る事は何かないのか?

 そんな議論が何日も繰り広げられた末に、彼らはある答えに行きついた。

――台湾の復興は不可能だ。ならば台湾と言う国があった証を残そう。

 

 

 午後7時。博物館関係者と台湾系提督、艦娘の姿は、博物館の近くに構えている台湾料理店にあった。この店は料理人が台湾出身であり、故郷の味を楽しめるのだ。博物館職員がこの店の常連になるのはあっと言う間だった。

 博物館の職員と王提督の艦娘が、料理に舌鼓しながら楽し気に談笑している。そんな光景を眺めながら、館長と提督は酒を交わしていた。

 

「博物館の運営はどうです?」

「それなりにやれているよ」

「それは良かった」

「ああ、君たち台湾系提督には感謝しきれない」

「言い過ぎですよ」

「なに、事実さ」

 

 館長の言葉は、本心から出た物だった。

 

 

○方針を決めてからの台湾亡命政府の動きは早かった。亡命政府は日本政府に交渉の終了を伝えると同時に、亡命政府の解散を宣言。元の台湾日本関係協会として、台湾文化保全のための活動の支援、そして活動の拠点となる博物館の設立を申し出た。

 この一連の申し入れに、日本政府は大まかには了承したのだが、「台湾文化の保全のための支援」、特に博物館についてはいささか難色を示した。

 日本は対深海棲艦のための軍事費増大の煽りから、様々な方面の予算が圧迫されている。当然文学や芸術を管轄する文化庁も例外ではない。

 台湾日本関係協会は台湾の歴史や文化についての博物館の設立を目指していたのだが、文化庁からすれば、既存の博物館すら減らされているのに、博物館を新設するなどとてもではないが困難だった。勿論、台湾日本関係協会も簡単には引き下がらず、交渉は続けられたものの交渉は遅々として進まず、博物館設立は頓挫する寸前にあった。

 そんな時に声を挙げたのが、台湾若しくは中国から脱出し、日本に居を置いて活躍していた台湾系提督たちだった。

 

「故郷の文化を消失させてはならない!」

 

 提督たちはそう叫び、台湾日本関係協会の味方に付いたのだ。

 この台湾系提督たちの参戦により流れは一気に台湾日本関係協会に傾く事になる。台湾系提督は軍事的な戦力として見れば弱小ではあるが、日本を守るために戦う勇士なのだ。影響力は一般人の比ではない。台湾系提督たちのキャンペーンは直ぐに効果を現わし、国民世論は博物館設立を是とした。

 多くの味方を得た台湾日本関係協会は、再度文化庁との交渉を開始。幾度もの話し合いが行われたが、主導権は終始台湾側にあった。

そして2020年末。彼らの努力は実を結んだ。多少の制限こそあったが、博物館設立許可を勝ち取ったのだった。

 

 

 午後9時。艦娘に付き添われて帰っていく酔っぱらった提督を見送った後、館長も帰路についていた。彼の自宅は博物館からほど近い一軒家だ。元の居留地である、東京港区の「台北駐日経済文化代表処」は維持費の事もあって引き払っていた。

 

「さて、明日は……、今度は中学校の課外授業だったな」

 

 今後の予定を思い浮かべながら館長は歩みを進める。かつては一国の代表、今は一博物館の館長。傍目から見れば正に没落であるが、彼は祖国のために働けている事に満足していた。

 

「さて、明日も頑張るかね」

 

 今は亡き国家の文化の守り手は、異国の地で小さく笑みを浮かべた。

 




……某国出しちゃったけど、国益重視スタイルを徹底しているから荒れないですよね?

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