それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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時系列は本編99話の後になります。今回は電波が飛んできた結果、色々吹っ飛んだ内容になりました。

イベントは現在、7-2のラスダン中。キラ付けしながら、友軍待ちです。敵空母を枯らすスタイルで、それなりに行けているのですが、あと一歩が出ない……。


それぞれの憂鬱外伝25 マンパワー問題

 2020年上半期に行われた日本による東南アジア攻勢は、最終的に台湾、フィリピンを獲得すると言う大戦果を挙げた。これにより南方の深海棲艦に対する縦深と日本が欲して止まない豊富な資源地帯を手に入れる事となる。

 とはいえこの新領土、今すぐに使える訳ではない。深海棲艦により占領された事により国土は見るも無残に荒れ果てているのだ。そのため日本は、まず最初に復旧作業から始めなければならなかった。

 が、この復旧作業が難題だった。

 普通の災害や戦争であれば、派遣された部隊と現地住民が協力する形で、復興を目指すのだが、今回の相手は未だに謎の存在であり続けている深海棲艦。人類の敵はその認識通り、台湾とフィリピンの住民を文字通り一人残らず皆殺しにしてしまったのだ。そのため従来の方法を採る事が出来ない。

 つまり日本は、単独で台湾とフィリピンを復興させなければならないのだ。

 この事は日本政府を大いに悩ます存在となっていた。

 

 

 

 2021年春。霞が関にある中央省庁の本部が集結しているとある庁舎の一角。そこでは、ある中年の男は憂鬱気な表情を浮かべていた。

 

「どうしたもんかねぇ……」

 

 昨年新設された国土交通省の外局、新領整備庁長官である園田は、山の様な資料を読み漁っている。

 新領整備庁。その名の通り、台湾、フィリピンという新たに獲得した土地(新領)を、再び人が住める地にするために開拓(整備)する事を目的として作られた政府機関だ。現在の日本で、最も活発な政府機関の一つと数えられている。

 しかし、今現在、彼らの前には大きな壁が立ちふさがっていた。

 

「どこもかしこもか……」

 

 部下から上げられてきた書類には、現地に纏わる様々な情報が記載されているのだが、同時にそのどれもが同じような陳情も据えられている。

 本来ならば、組織のトップとして早急に解決しなければならない問題だろう。だがそれが恐ろしい程困難である事も、園田良く理解していた。

 

「マンパワー不足なんて、どうしろっていうんだ」

 

 そのボヤキは、新領整備庁に属している人間であれば全員が全員頷く物であった。

 台湾及びフィリピンの再開拓事業は、日本の将来を決定づける最重要事項である事もあり、物資も資金も優先的に回されている。そのお蔭で現地での開拓の際に物資不足で事業の進行が滞ると言う事態は、航路や補給路でトラブルが無い限り起こらないのだが、問題は現地で働く人間だ。

 ハッキリ言って、広大な地を開拓するための労働力が足りていないのだ。試算では10万単位で開拓民が必要なのだが、現状ではその数に全く届いていない。

 今は選択と集中を駆使して、最重要目的である化石燃料の採掘プラントの再建と、事前調査で再開拓が容易であると判明した地域に重点を絞る事で、何とか事業を回しているのだが、それでも手が足りないのが現状だった。

 

「このまま人手不足が続けば、開拓の遅れは確実か。しかしなぁ……」

 

 勿論、彼らとしても、この状況を良しとしている訳ではない。開拓者への報奨金や必要機材の貸し出しを行っているし、同時に民間に積極的にキャンペーンを行っている。特に民間への宣伝は盛んであり、街の至る所に台湾、フィリピン開拓団を募集するポスターが張られており、

 

「満蒙開拓移民かよ」

 

 と、一部からツッコミが入るレベルだった。

 若干やる気を空回りさせつつも、必死にマンパワー確保に走る新領整備庁。だがそんな彼らの努力は、現時点において未だに実っていなかった。

 

「やっぱり場所が場所だから、誰も行きたがらないんだよな……」

 

 この人手不足の原因は、当然の事だが新領整備庁の面々も理解している。

 簡単に言えば、開拓先の立地が悪すぎるのだ。

 現時点で日本の南方方面の支配領域の最先端は台湾とフィリピンなのだが、それは言い換えれば、この二つの地域が深海棲艦との戦いの最前線と言う意味でもある。現地には防衛戦力としてそれなりの軍事力が駐留しているものの、本土の防衛能力と比べれば劣っているのが現状だ。特にフィリピンは激戦を繰り返しており、比較的安全とされていたフィリピン北東部で幾度か空襲を受けている。

 唯でさえ熱帯の厳しい自然と開拓に伴う重労働で危険が多い事業であるのに、深海棲艦の攻撃にも晒されるとなると、多くの人間が嫌厭するのも当然とも言えた。

 また本土から海を隔てた地という事で、今後の戦況次第では本土と開拓地を結ぶ海上航路が深海棲艦に寸断される可能性があり、最悪の場合、過去の住民と同じ運命を辿りかねない、と言う事情も、人手が集まらない原因の一つである。

 そんな土地に進んで開拓に行こうなどと言う者はやはり少ない。実際、新領土の開拓団に手を挙げる人間は、余程の事情がある者が大半である。そして当然の事ながら、そんな程度の規模では、新領土の開拓は難しかった。

 

「そもそもの話、今の日本は労働力がな……」

 

 2013年から早8年。深海棲艦との長きに渡る戦いは、日本を疲弊させていた。深海棲艦との戦いの過程で戦死者及び被害者の数は馬鹿にならない数を叩き出し労働力をすり潰されていた。また艦娘の出現によりそれなりに緩和されているものの、戦時中故に一定の規模のマンパワーを軍事に持っていかれている。

 そのため戦前と比べて民間での労働力は、大幅に目減りしているのだ。勿論、政府もこの事態を重く見ており、労働の効率化や各種作業の機械化による自動化などを推し進めているのだが、それも現時点では限界があった。

 

「政府がもう少し、難民を受け入れてくれたら、まだマシになるかもしれないんだがな……」

 

 現状の日本の対難民政策に真っ向から衝突するようなセリフを、園田は思わず零した。実の所、新領整備庁ではこの様な考えを持つ者は割と多い。

 難民の受け入れに否定的な人間からすれば難民は無駄飯喰らい扱いだろうが、新領整備庁の人間からすれば貴重なマンパワーなのだ。

 外部からは「そんな事をしたら後々面倒事になる」とか、「下手をしたら現地で独立勢力になりかねない」とか色々と言われているが、現在進行形でマンパワー不足で苦労している新領整備庁の人間にしてみれば、些細な問題である。国益も大事だが同時に庁益も大事なのだ。そういう考えに至る当り、彼らも実に官僚であった。

 ともあれ、無い物ねだりをした所でどうしようもない事も良く理解している。そのため今できる次善策をとることにした。

 

「とりあえず、追加で重機を送っておくか。そういえば自研に新しいおもちゃを押し付けてきてたっけか。……それもついでに送っておくか」

 

 

 世間は南方に眠る資源を前に玉虫色の未来を思い描く中、それを実現しようとしている官僚たちは頭を抱えながら己の仕事に取り組んでいた。

 

 

 

 マンパワー不足による労働力不足は、日本を蝕む大問題の一つであるのだが、そう易々と解決できるような問題ではないのもまた事実。

 労働力不足の原因の一つである少子高齢化社会を是正できるような政策を採った所で、上手く行くとは限らないし、仮に政策が上手く回った所で、生まれた子供が労働力として数えられるようになるには約20年掛かる為、将来はともかく今現在の労働力不足の解消にはならない。

 ならばアメリカ系を代表とした難民を受け入れて、それを労働力として使えばいいと言う声もあるのだが、難民受け入れによる様々な国内情勢の不安定化によるリスクは、戦時中と言う事もあり、実行が躊躇われる。

 移民を募ると言う案もあったが、難民よりはマシではあるものの相変わらずリスクは伴うし、そもそもの話、人の往来が制限されている現在で態々日本に移民が来る可能性は低かった。

 正直八方塞がりである。しかしだからと言って、放置する訳にもいかないのもまた事実だった。

 この労働力問題を前に、様々な立場の人間が解決案を捻り出そうとした。政治家、官僚は当然の事、大学教授を始めとした知識人、果てには素人である多くの民間人が議論に参加したと言う。

 そして長きに渡る議論の末、導き出された答えは、

 

「マンパワー不足はどうしようもないから、徹底的に効率化するしかない!」

 

 つまるところ、マンパワーの根本的な解決は当面は無理なので、次善策に走ったと言う訳である。勿論彼らも、幾ら効率化した所で最後には人の手が必要になる事は分かっているのだが、比較的短期間で成果を出すには、日本の技術に賭けるしかなかった。

 

 そんな思惑の元、2020年に新たに設立されたのが、文部科学省外局「自動化研究本部」、通称「自研」だ。

 

「科学技術で日本を救う!」

 

 そんなスローガンの元、結成されたこの外局のやる事は実にシンプル。農業、工業、軍事などあらゆる分野に対する徹底的な自動化の研究である。政府も危機感を持っているため予算は潤沢に用意されている事もあり、自研は官民問わず人材を掻き集め、次々とプロジェクトを発足。作業の自動化を達成するべく邁進していた。

 実例としては、戦前から研究されていたAIを用いたスマート農業の推進や、海自で新造される事になった中型空母の自動化の協力といった所が有名であった。

 なお裏では、資金が潤沢かつ幅広い分野に手を出している事から利権の温床になりかねないとの声は多数上がっているし、危機感に煽られてかそれとも理解不足からか「それは本当に必要なのか?」と言えるような計画が立ち上がったりと、若干の不安要素が見え隠れしているのだが。

 

 そんな今乗りに乗っている自動化研究本部。そして大阪の支局ではたった今新たな二つのプロジェクトが発足しようとしていた。

 

「これにて次世代AI研究プロジェクト及び次世代義肢開発プロジェクトが発足されました。皆さんよろしくお願いします」

 

 司会の短い挨拶と共に、会議室に拍手が巻き起こる。この場にいる者は全てどちらかの計画に参加する事になっている研究者たちと官僚たちであった。

 

「いやー、何とかプロジェクトの始動まで持っていけたな」

「だな。全くプレゼンには苦労したよ」

「おいおい、これからが本番だろ?」

 

 プロジェクト発足に当り自動化研究本部に働きかけていた研究者、官僚たちは、お互いに検討を讃え合っている中、会議室の片隅で痩せた男と小太りの男という二人組がいた。

 

「お互い随分と苦労したもんだな」

「そっちはAI研究なんだから、まだ楽だったでしょ」

 

 小さくため息を吐く痩せた男――次世代AI研究プロジェクト主任の宇津田に、彼の友人で次世代義肢開発プロジェクトの内藤主任はツッコミを入れた。だが宇津田はそれが気に入らなかったようで、小さく鼻を鳴らす。

 

「俺のプロジェクトは、名目はAIの基礎研究だぜ? 自研とは相性が悪すぎる」

「あー、基礎研究は時間が掛かる上に、上手く行くかは未知数だしなぁ」

「官僚連中も基礎研究が必要なのは理解してたが、やっぱり直ぐに成果を出せるものを求めて来るからな。自研内にシンパを作っておかなかったら、承認が遅れてたぜ」

 

 宇津田が責任者として勤め上げるプロジェクトは、未だ発展途上にあるAI技術の基礎研究だ。AIに纏わる様々な事象の研究を目的としている。自動化研究本部が推進している自動化にはAI技術は必須であり、AI技術の発展には基礎研究が必須であった。

 もっとも宇津田の言うように、基礎研究には膨大な資金と時間が掛かる上、成功するかどうかも予想が着かない為、予算を出す側からすれば出来れば遠慮したい分野であるのだが。

 そんな宇津田の愚痴に、内藤も小さく苦笑する。

 

「僕の方は表向きの目標こそ明確だけど、『マンパワー不足の解決』には関わらないから、そもそも自研に出すに苦労したんだけど」

「あー、義肢じゃなぁ。それで結局、どうしたんだ?」

「身体障碍者用の社会復帰で何とかねじ込んだ。戦災や戦傷で切断レベルの大怪我をした人は多いし」

「身体障碍を高性能義肢より常人と変わらないレベルまで治療して、マンパワーに還元か」

「そういうこと」

 

 この8年による戦争によって、多くの戦死者だけでなく、負傷者も多数生まれているのも事実だった。そのため内藤が名目上掲げた「身体障碍者の社会復帰のための義肢の開発」と言うお題目は、自動化研究本部としても無関係として無視する事は出来なかった。

 

「ま、ともかく予算はもぎ取った。後は研究を進めるだけだな」

「だな。後、自研にも上手く誤魔化さないと」

「ああ、俺たちの大いなる目標のためにな」

 

 ニヤリと不敵に笑う二人。

 彼らには生きている内に絶対に実現させたい大きな目標があるのだ。彼らにとって次世代AI研究も義肢の開発も、本当の目的を達成させるための研究兼カモフラージュに過ぎなかった。

 

「まあ、目標が大きすぎて、達成には時間は掛かりそうだけどね」

「それでもやってやるさ。それにここには、たくさんの同士がいる」

 

 宇津田は視線を前に向ける。そこには両プロジェクトに参加する技術者たちの姿があった。だがその面子は他のプロジェクトのそれに比べて、いささか異様なものがある。

 参加者の多くは20代、30代と研究者にしろ官僚にしろいささか若い面子ばかりであり、4、50代以上のベテランの数はいささか少ない。また彼らは研究ジャンル的には両者はかけ離れているのだが、それにも関わらずこの場にいる面々は一体感を有しているのだ。まるで共通する一つの目標を目指しているかのように、だ。

 そしてそれは事実であった。宇津田と内藤、そしてこの場にいる研究者と官僚たちは、ある目的のために結束していた。

 

「うん、力を合わせて頑張らないとな!」

 

 内藤の言葉に、宇津田は強く頷いた。

 

「ああ、何としてでも作り上げようぜ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メイドロボを!」

 

――まあ、つまりそう言う事である。

 

 彼らの真の目的は漫画やアニメ(R-18を含む)に出て来るような、人間そっくりなロボットを作り出す事なのだ。

 次世代AI研究の名目で人格を宿すAIを研究し、高性能義肢の開発を名目に人間と変わらない動きをする機械の身体を吐くる。そしてこの二つを掛け合わせる事で、自分たちの理想のロボット(メイドロボ)を完成させる予定である。

 また技術者にしろ官僚にしろメンバーが若手ばかりなのも、この真の目的が原因だ。

 

「AIの性格はどうする? やっぱスタンダードに従順な奴か?」

「いや、ここはツンデレだろ」

「ボディはやっぱり、色々と大きいやつを――」

「その気持ちは分かるが、まだ技術が追いつかん。技術蓄積のためにも、まずは小型ボディで試作するべきだな」

「つまりツンデレ金髪ロリのテンプレキャラだな!」

「おい、金髪はどっから来た」

 

 と、会場に目を向ければ、普通の人間が聞けば頭が痛くなるような、色々と痛い会話が繰り広げられている。

この場にいる者たちは青春時代をその手の近年のサブカルチャーに影響され、そして今もなお、その情熱を持っている者たちばかりなのだ。技術者たちは実物を作るために研究をし、そして官僚たちは、プロジェクトが中止にならない様に自動化研究本部の内部でバックアップする事となっている。

 

「俺たちの理想の嫁を作るぞ!」

「おおっ!」

 

 気炎を挙げる宇津田と内藤。

 (ヘンタイ)たちの長きに渡る戦いが、今始まろうとしていた。

 




因みに技術者二人の名前ですが、
AI担当は宇津田独夫、ボディ担当は内藤地平だったりします。元ネタ解る人いるかなぁ……。

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