それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》 作:とらんらん
イベントはE-7-3ラスダン中。現在高速統一ルートで長陸奥タッチを狙ったり、金ダコに変えたりと試行錯誤してますが、イマイチ合わず……。とりあえずwikiで見つけた高速軽空母を入れた編成を見つけたので、ちょっとやってみます。それでも駄目なら、低速長陸奥タッチですかね……。
2017年5月の始め、閣僚が提督になった事により、艦娘の有効性を英国に次ぐ速さで認識した日本では、艦娘及び提督の招集を行ったのだが、同時にある方面から艦娘を自国に組み込むべく動き始めていた。
「現時点で艦娘の数は500強か。思ったより少ないな」
艦娘出現以来、毎日の様に行われている閣僚会議の場で、真鍋首相は資料を手にして呟いた。
「提督しろ艦娘にしろ、もう少し増えるでしょうが、これで打ち止めでしょう」
「それでも500と少し程度だ。連合艦隊丸々一つ加わったようなものだが、今の深海棲艦の攻勢の前には若干不安な数だな」
「こればかりは仕方がありません。それに艦娘自体は建造で増やせますので、戦力問題は直ぐに解決出来るでしょう」
「……その、建造っていうのが、説明されてもイマイチ理解できなかったんだが?」
「目に見えない妖精が、特殊な加工をした特定の資材を用いて、謹製の乾ドックの様な装置で艦娘を作るだったか? もう少し分かりやすい説明は無かったのか?」
「妖精ってなんですか? 何時からこの国はファンタジー世界に転移したんですか」
閣僚たちのいささか胡散臭そうな視線が、坂田防衛大臣に集中するが、当の報告書を作成した本人は苦笑するしかない。
「皆さんの気持ちも分かりますが、艦娘については報告書の通りとしか言いようがありません」
「いや、しかしだな……」
「そもそも私も艦娘について全て知っている訳ではないので、『艦娘はこういうものだ』と認識するしかありませんよ。それに我々には艦娘に頼る以外には選択肢はありません」
「……」
坂田の言葉に多くの者が沈黙し、同時に会議室の一部からため息が漏れた。人間サイズにも関わらず旧日本海軍の艦艇と同等の能力を持ち、更に良く分からない理論で超短期間で増える。有効性を見出したからこそ招集を決定したが、改めてその非常識ぶりに、閣僚たちは複雑な感情を抱いてしまう。
「まあいい、ともかく本題に入ろう」
真鍋は一つ息を吐くと、議題を切り出した。
「今後の艦娘運用が上手く行った場合、艦娘の人口が20万を超える事が確定した。そうなると問題になるのは、日本における艦娘の位置づけだ。何せ、今の日本には艦娘に関連する法律が無い」
「確かにどのような立場になるかは決めておいた方が良いな」
艦娘が出現して、一週間強。当然の事であるが日本における艦娘の立ち位置と言うものは曖昧だ。彼女らを日本国籍を持たない人間と見る事も出来るし、その非常識な各種能力を鑑みて未知の生命体とも見る事も出来るのだ。艦娘を国防に活用する事自体は決まっているが、日本が法治国家である以上、何かしらの法律や制度で彼女らの立場を決める必要があった。
「法整備に関して一番楽なのは、艦娘を『器物』と位置づけする事だろうな」
その言い放ったのは、天野外務大臣だった。ギョッとしたように、全員の視線が彼に集中する。
「どう言う事です?」
「現状の法制度的には海自や空自の警備犬に近いな。生物であるが、法的には自衛隊の備品だ。この法例を提督と艦娘に当てはめれば、面倒な法整備を最低限で済ませられる」
「確かに、一刻も早い艦娘の運用を考えれば、その解釈で行けるだろうがな……」
何処か釈然としない物を感じ言いよどむ真鍋。後を継ぐように坂田が口を開いた。
「因みに天野大臣の持論は先程の解釈の通り、という事でよろしいのですか?」
「まさか」
天野は何処かおどけるように肩を竦める。
「奴隷制の様な事をして、艦娘から余計な恨みは買う趣味はないな」
天野の宣言に何処か安堵したように空気が緩んだ。ここにいる閣僚たちは、偶発的にとはいえ全員が艦娘を見た事があるのだ。いくら彼女たちに特異な能力があるとはいえ、見た目も知性も人間のそれと変わりはない事を、彼らは良く理解していた。
「ならば、艦娘は人間と変わらない存在であると解釈するのが良いだろうな」
「ええ、その方がよろしいかと」
真鍋の判断に誰もが頷いた。こうして日本における艦娘への根本的な見解は決まったのだった。
だが艦娘=人間としたことで、また面倒な問題も出て来る事になる。
「そうなると現行法に当てはめると、艦娘は無戸籍、若しくは難民……、いや生まれたばかりだから出生児になるのか?」
そう呟いたのは、神山法務大臣だった。この解釈には閣僚たちが困惑し顔を見合わせる。
「え、そう言う事になるのか!?」
「いや待て。そうなると大淀君も出生児な訳で……」
「流石にそれはちょっと……」
「いやしかし、建造=誕生と解釈するとなると……」
「反論が出来ない、……だと?」
騒めく一同。そのいい年をした男たちが動揺する光景に迂闊な呟きに後悔しつつ、再度口を開いた。
「すまん今の発言は撤回する。無戸籍という形で対処させて頂く」
「あ、ああ。よろしく頼む。とりあえず全員落ち着け」
真鍋が場を落ち着かせて、議論を再開させる。
「無戸籍扱いという事は、まずは戸籍を取得させる必要があるな」
「現行法では、取得はいささか面倒な上に時間が掛かるが、当面は特例で取得させるつもりだ。だがこれをいつまでも続ける訳にはいかん」
「ああ、艦娘の日本国籍取得に関する制度を法案に入れておこう」
「頼みます」
「では、戸籍取得後に正式に海上自衛隊編入と言う形でいきましょう」
「……それだと、職業選択の自由を侵害しているとも解釈されかねないが――、まあ公共の福祉を盾にすれば何とかなるか」
今必要な最低限度の概要が決まり、ホッとする一同。勿論議論するべき事はまだまだ残っているが、艦娘を用いた国防と言う要素については、これでクリアしたも同然だった。
しかし――
「む、待てよ?」
ある男が更に厄介なモノに気が付いてしまった。
「坂田大臣、戸籍に記載する艦娘の年齢はどうするつもりだ?」
天野は坂田に向き直ると訊ねた。唐突な質問の意図に、坂田は首を傾げつつも答える。
「見た目から、大よその年齢を割り出して記載する形になるかと思いますが」
「そうなると、いささか問題が出て来るな」
「と、言いますと?」
天野は苦笑しつつ、言い放った。
「下手な年齢の場合、少年兵に関する条約に引っかかるな」
「……あ」
艦娘は大人から子供まで見た目の年齢の幅は広いのだが、艦娘を日本国民として扱うとなった場合、少年兵に関する国際法が問題になって来るのだ。現状の国際法においては、18歳未満の子供は強制的に徴兵されないとされている。その観点で見れば、駆逐艦といった多くの補助艦艇の艦娘が抵触する事になる。
「招集を見た目18歳以上にした場合、国防に悪影響は?」
「大いにありますよ。艦隊のワークホースである補助艦艇が全滅してしまいます。これでは国防どころではありません」
艦娘を日本国民とする事は同時に国内法、国際法に縛られるという事を嫌と言う程実感し、頭を抱える坂田。
「では、どうするかね? 信用で売っている我が国が、まさか法律破りをする訳にも行くまいよ」
「くっ……」
おもちゃを見つけたように笑う天野に煽られつつも、必死に頭を回転させる坂田。そして暫くの沈黙の後、彼は結論に辿り着く。
「――18歳です」
「ん?」
「艦娘は全員18歳以上ということにします!」
何処か振り切った表情で、ハッキリと言い切る坂田。その様子に真鍋が思わずツッコむ。
「落ち着け。流石にそれは無茶だ」
「国際法に抵触しないためには、これしかありません!」
「いや、軍事機密として外部に戦闘の映像を見せなければ大丈夫だろうし、そもそも外国も艦娘を運用するだろうから、そこまで文句は……」
「いえ、日本の信頼のためにも、国際法の順守は続けるべきです!」
が、その程度では坂田は止まらない。彼はツッコミに対して、しっかりと反論していく。
「ふむ、なるほど」
そんな思わぬ答えに笑いつつ、天野は資料を捲る。
「坂田大臣」
「なんですか?」
「そうなるとこの艦娘も18歳なのかね?」
そう言って見せられた写真に、坂田の口元が若干歪む。そこには駆逐艦陽炎の姿があった。
「……18歳です」
「ではこちらは?」
「暁ですか。小――いえ、18で」
「ならばこれは?」
「…………18歳です」
因みに最後に見せられたのは、海防艦択捉である。
「あー、当面は坂田大臣の主張通り18歳という事で行こう。年齢に関する問題は艦娘関連の国際法とかがある程度決まってから、再度議論する事にする」
茶番染みた光景に頭痛を覚えた真鍋が割って入り、結局そういう事になった。
「――と、そんな事があったそうです」
「なるほど」
艦娘が出現して約3年経過したある日、横須賀の一角にとある男女二人組の姿があった。
「つまり今の私は21歳という事になります」
「そうなるな」
頷く少年。そんな彼に少女も頷き返す。そして彼女はグッと拳を握り込み、
「ですので、デートの締めにここに入るのも全く問題ありません!」
「いや、良い訳ないからな?」
朝潮の力説に、秋山は全力でツッコミを入れた。因みに彼らの目の前には建物があるのだが、その意匠は何処か城を思わせる物があり、更に入り口には休憩と泊まりの料金表が掲示されている。つまり――ラブ○テルである。
「そんな、ここは設備も道具も充実している上に、特殊なプレイも出来るんですよ!?」
「問題はそっちじゃないからな?」
「え? でも鎮守府では――」
「OK、それ以上は何も言うな」
慌てて朝潮の口を塞ぐ秋山。そう言う事をするような場所の前とはいえ、公共の場で二人の「夜戦」事情を無差別にばら撒く趣味は無い。
「ではなぜ?」
「いや、世間体的にもアウトだからな?」
「? 司令官は18歳ですし、この朝潮は公的には21歳です。ラ○ホに入っても全く問題は無いはずですが。私が艦娘証明書を提示すれば、ここも使えますし」
朝潮の説明もまた事実だ。三年前と同様、現在においても建造された艦娘の公的な年齢は18歳とされている。これは各国が戦況の目まぐるしい変化に対応するので手一杯だったせいで、艦娘に関する国際法の制定の議論が進んでいない事に起因している。
そのため2017年に建造された朝潮の年齢は、見た目は幼いものの公的には21歳と成人扱いであるし、現時点で18歳の秋山もまた公的にも立派に成人である。
だが問題はそこではない。秋山は若干顔を顰めて、言い放つ。
「朝潮――、
大人と見た目小学生が○ブホに揚々と入っていくとか、傍目から見てアウトだろ」
いくら法的に問題ないからと言って、それが世間一般に受け入れられるような事であるかは別問題である。朝潮は法的には21歳ではあるが、見た目も精神年齢もどう見ても18歳未満確定の子供なのだ。実態はともかく外から見れば、小学生をホテルに連れ込もうとしている変態のそれであった。
「流石にこれは、勘弁してくれないか。朝潮と夜戦するのが嫌いな訳じゃないけど、このままだと朝潮にも迷惑が掛かるだろうし」
色々あった末に、艦娘たちと人生を共にする覚悟は決めている秋山ではあるが、この様な形で世間からロリコンのレッテルを張られるのは、流石に御免被るのが本音である。
――余談であるが、秋山と同じような状況の提督はそれなりの数はいるのだが、彼らの多くも、外見が幼い艦娘(海防艦、駆逐艦、一部軽巡、瑞鳳、龍驤といった極一部の軽空母等々。数的には見た目が危ない艦娘が多い)に対しては表向きは清い関係を保っている様に装っていたりする。
「……そこまでおっしゃるのなら、仕方ありません」
秋山の何処か悲壮感すら滲ませた言葉に、朝潮もがっかりしたような表情を浮かべつつも頷いた。彼女としても愛する司令官の切なる願いを無視する事は出来なかった。
そんな彼女の様子に、秋山は若干の罪悪感を抱いた。そのため代案を出す。
「あー、じゃあ近くに公園があるし、代わりにそこに行くか?」
「! はい、あの臨海公園ですね? 私も行ってみたかった場所です!」
「ああ、良かった」
パッっと明るい笑みを浮かべる朝潮を見た秋山は、ホッと息を吐いた。
「じゃあ行こうか」
「はい!」
秋山は朝潮の取ると会話を弾ませつつ二人で歩き出した。距離も近い事もあり、10分程度で目的の臨海公園に到達した。海が一望出来る場所にあり、整備された自然が豊富な公園だ。今は夕方という事もあり、人影は一人も見られない。
「確か移動販売車があるし、何か買っていこうか?」
「いえ、帰る時間も近いですし、直ぐに行きましょう」
「……ん?」
「え?」
思わぬ返事に秋山は違和感を覚え、そして朝潮も不思議そうに首を傾げた。
「休憩するん……だよな?」
「え?」
「……え?」
やはり不思議気に聞き返す朝潮。そんな彼女に秋山は恐る恐る尋ねる。
「……えっと、公園に――いや、公園のどこに行きたいんだ?」
「はい、こちらです!」
朝潮に手を引かれていく少年。二人は整備され海が臨めるベンチ――ではなく、公園内に設置されている林の中に入っていく。その光景に時間が経過すると共に、秋山の不安が増大していく。
そして林の大よそ中心、木々によって歩道路も全く見えないところまで到着し、
「ここでしたら、『野外夜戦』しても誰も見られる心配はありません!」
「余計ヤバくなったぞ!?」
秋山の悲鳴が木霊した。
なお最終的に何とか「夜戦」を断ったと言う。
実は秋山君所の艦娘は、ほぼ全員が秋山君より年上という事実……。