それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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フランスの生存戦略回。


それぞれの憂鬱外伝36 プライドの代償9

「やはりこうなったか」

「最悪の予想が当たってしまいましたね」

「フランス人のやる事だ。これくらいは予想出来ていたさ」

「しかし問題はこれをどうするかです。このまま行けば最悪核戦争ですよ?」

「ここまで来たら、例のプランを使うしかない」

「あの作戦ですか……。上手く行くかどうかギャンブルですよ?」

「時間があればもう少しましなプランを出せたんだがな。与えられた準備期間が短すぎるのがいけない。」

「それについては済まないとは思っている。だが外交的にも時間を掛けられなかった」

「分かっているさ。ともかく例のプランを開始して構わないのだな? 上手く行けば儲けもの程度のモノだから、期待されても困るぞ」

「構わない。やってくれ」

「了解した」

 

 

 

 2025年7月7日。フランス、パリにある現野党政党である人民連合党の本部。議席数においてフランス国内第二位となるほどの規模の政党によく似合う、広く、そして部屋の所々に豪華な意匠が施された政党本部最大の講堂に、多くの人々が集まっていた。

 もっとも多くの人々、と言っても老若男女と言う訳ではない。男女比で言えば男に偏っていたし、年齢についても一番若くても中年であり、参加者の多くが老人と言っても差し支えの無い者たちばかりだ。

もしも彼らを見る者が見れば――特に政治関係に詳しい人間が見れば、思わず目を剥くだろう。なにせフランスにおける非主流派ながらもベテラン議員や大物政治家が、国会でもないのに与野党問わず集結しているのだ。

 

「なんて事になったんだ……」

 

 そんな彼らの顔色は全員が青白いと表現出来るレベルに悪い。もっともそれは当然と言えば、当然だろう。何せ今のフランスは深海棲艦をそっちのけで全世界相手に戦争をする直前にまであるのだ。ある程度冷静な人間であれば、頭を抱えたくなるのは極々普通の事である。

 そんな絶望的な雰囲気に包まれている講堂の最奥に位置する壇上。そこには彼らを呼び出した人物がいた。

 

「……皆さまをお呼びしたのは、他でもない。目の前まで迫っている戦争の回避のための知恵を貸して頂きたい」

 

 そこにいたのは前フランス大統領であるジェミニだ。壇上に立つその姿は、病気により以前より痩せ衰えているにも関わらず、何処か凄みのある雰囲気を醸し出している。

 

「そうは言うがな、ジェミニ君。この状況は中々難物だぞ」

 

 政界の長老と呼ばれる老人たちは、憂いる様にため息を吐く。

 

「議席こそ残っているが、政権交代によって影響力は格段に落ちてしまった。今の我々では碌に身動きがとれん」

「なら与党側なら……」

「すまないが、我々も難しい。主流派、いや『会合』に属する輩が、党の実権を握っているのが現状だ。今の我々が政局に及ぼす影響力は殆どない」

 

 先の大統領選挙後、現与党である独立フランス党では人事が一新され、要職を「会合」メンバーが占めていた。これにより「会合」に属していない者たちの力は、大きく削られていた。

だがジェミニもその事は織り込み済みである。

 

「確かに影響力は無くなったが、各方面へのコネは無くなる訳ではない」

「つまり各自のコネを使って、事を動かそうと言う訳か」

「そのとおり」

 

 政治家と言う職業上、各々があらゆる業界の人間とのコネを有している。大物、ベテランともなれば、そのコネは膨大なモノとなるのだ。それらをフル活用すれば、影響力が激減している状況でも、国を動かせる程度には影響力を出せると考えていた。

 

「とはいえ我々のコネを全て活用した所で、『会合』の牙城と化している国会や政府機関を相手にはどうする事も出来ない。そうなると別アプローチからだな」

「私は軍を期待したい所だ」

 

 ジェミニは国家が保有する最大の暴力装置に期待をしていた。その発言に少なくない者たちが目を細めた。

 

「クーデターでも起こさせる気か?」

「場合によっては」

 

 実際、この国では「将軍達の反乱」と呼ばれるクーデター未遂を起こした実績があるのだ。本来ならば負の実績ではあるが、今回に限っては利点となりえた。だが、現実はそう甘くは無い。

 

「残念だが今の軍の主流は会合派だ。政治機関と違い、非主流派の力はそれなりに残っているが、それでも纏まった戦力を動かせるかどうかは微妙だな」

「それに現在は全軍がNATOと睨み合いをしている真っ最中だ。下手に隙を見せて、敵に攻め込まれる可能性もある」

「そもそもだが、クーデターに応じるかどうかも分からんな」

 

 「フランスの未来のために」との理想が掲げられていたとしても、民主的手段で選ばれた政権に対してクーデターを起こしたと言う悪名は付いて回るのだ。純軍事的要素も相まって、非主流派の高級軍人がクーデターに協力してくれるかどうかは未知数だった。

 

「なら現場クラスはどうなんだ? 実際、現場でNATO軍と相対している兵士たちの士気は思ったよりも高くないと聞いたぞ?」

「確かに事実だが、その原因は圧倒的戦力差から来るものだと報告が上がっている。それにEUに対する感情は国民のそれと同じだ」

「つまり我々が訴えた所で意味はないという事か」

「むしろ兵卒がこれでは、仮に高級軍人がクーデターを企てた所で、実行は不可能だろう」

 

 軍事クーデターを企てるのは高級軍人であるが、実際に現場で動くのは兵士たちなのだ。その兵士たちがクーデターに賛同、つまりは現政権を武力によって打破する事に納得させる必要がある。しかしそんな事をこの危機的状況で、それも短期間でまとまった数の賛同者を集める事は不可能だった。

 

「そもそも仮にクーデターが成功した所で、国民が着いてくるとは思えんぞ……」

「……」

 

 フランス国内の国民世論を思い出したのか、講堂のあちらこちらからため息が漏れる。

 EUが提示したウイルス流出の背景とその証拠を、現実のリアリティの無さ、「会合」の息のかかったメディアによる宣伝、そしてEUによる法外な要求により、国民は「フランスを貶めるための言いがかり」と断じており、核戦争が目の前まで迫っている状況にも関わらず、国民の士気は旺盛であり、そして現政権への支持率も高いのだ。仮に現政権を打倒した所で、逆に国民からの反発により動けなくなる可能性は目に見えていた。

 

「せめてEUの要求が緩和されれば、少しは動きやすくなるのだが……」

「それは無理でしょうな」

 

 誰かが漏らした愚痴に、海外とのコネを多く持つ議員がため息を吐いた。

 

「『会合』のやった事は、バイオ兵器による宣戦布告無しの無差別奇襲攻撃です。各国とも国民は勿論、政府高官クラスも激怒しており、要求の緩和に応じる様ではなさそうです」

「だろうな。仮に我が国がその立場だったら、相手が幾ら懇願した所で許す筈がない。いや政府間レベルで落としどころを見つけられたとしても、国民がそれを許さん」

 

 「会合」の仕掛けたテロは各国政府に徹底的な報復を選択させるには十分な動機である。また民間レベルにおいても、各国国民はフランスに対して報復を望んでいるのが現状だ。各国政府もこの声を無視する事は出来ない。

 そうなるとヨーロッパ同時多発テロに遭っていない第三者、つまり日本及びロシアに頼る事になる。

 

「日本とロシアはどうなっている?」

「両国とも我が国及びEU各国に対して、軍を引くように声明を出しています。また同時に仲介をする用意があるとも」

 

 この時、フランスとEUが核戦争をする寸前まで来ているというあんまりな事態に、日露両国とも頭を抱えていた。

 

「お前ら深海棲艦を相手に戦争している時に、人類同士で戦争しようとしているんじゃない」

 

 こんな全くの正論を持って声明を出すと共に、外交ルートを通してフランスとEUを仲介する事を宣言。「なんで俺たちがこんな事をしなきゃならないんだ」と愚痴をこぼしつつも、何とか交渉のテーブルに着くように必死に働きかけている真っ最中なのだ。

 

「この仲介に、今の政府とEUは?」

「スイスで幾度か外交官による交渉が行われているようですが、平行線が続いています。このまま交渉を続けたところで解決は難しいでしょう」

「だろうな……」

 

 残念な事に日露の努力は現時点では、実を結んでいないのが実情だ。真実はともかく公的には頑なに身の潔白を訴えるフランスと、落とし前を付けさせたいEU。そんな両者に妥協点を見つけ出すのは容易ではない。

 

「……分かっていたが、国民も軍も外交も我々が介入出来る余地がないな」

「我々は場末に追いやられた敗残者だ。当然だな」

「だがこのまま手を拱いている訳には……」

 

 一同の脳裏に、全面戦争の末に国土を破壊しつくされたフランスの光景が思い浮かぶ。このまま行けば、その想像が現実のものとなってしまう。

 顔を青くさせながらも、必死に思考を巡らせる一同。そんな時だった。

 

――コトっ、――カラン……

 

 講堂の端から音が響いた。突然の物音にそちらに目を向けると、壇上のすぐそばの通気口に備え付けられていた蓋が床に転がっている。

 

「なんだ?」

 

 誰かが呟いた。ここは与党からは転落したものの、大手政治政党が保有している講堂だ。当然定期的な手入れはされており、この様な整備不良などあり得ない。多くの者が訝しむ中、不審な出来事は続いていく。

 人々が注目する中、通風孔から何かが飛び出してきた。黒く染められているソレは勢いをそのままに放物線を描き床に落ちる――と思ったら、地面から数十cmの所で浮遊を始め、そのまま壇上に立つジェミニの元に運ばれていき、そしてコトリと足元に置かれたのだ。

 

「……」

 

 余りに現実離れした光景に、言葉を失う面々。そんな中、当然の事であるが間近で体験した事で最も混乱しているジェミニは、足元に置かれているモノの正体に気付いた。

 

「衛星電話?」

 

 黒く塗装されており、形状もトランシーバーによく似ているが、それは確かに衛星電話であった。彼がそれを認識したと同時に、衛生電話から呼び出し音が響き始めた。ジェミニは躊躇いつつも電話を拾うと、通話ボタンを押した。

 

「……誰だ」

《随分と苦労しているようですな、ジェミニ元大統領》

 

 電話越しから聞こえて来た声にジェミニは心当たりがあった。思わず苦々し気に口元が歪む。

 

「こんなオカルトじみた演出をして何の用だ? イギリス首相、マクドネル」

 

 ジェミニの出した名前に、講堂が一時騒がしくなる。何せ現在進行形で対峙している真っ最中な国のトップが、秘密裏に接触してきたのだ。彼らの反応は当然の物であった。勿論、電話越しに相対しているジェミニも、見た目こそ落ち着いて見せているが、心穏やかではない。

 

《随分と連れないじゃないか。よっぽど苦戦しているように見える》

「貴国がスパイに情報を盗ませなければ、このような事にはならなかったのだがね」

《我が国が盗まなくとも、近い内に他国が情報を抜いていただろうさ》

「ふん。……別に雑談をしに来た訳ではないだろう。本題を話せ」

《よろしい》

 

 冗長なマクドネルの話に若干イラつきながらも、ジェミニは先を促し、マクドネルもそれに素直に従った。そして一拍後、彼から爆弾が投下された。

 

《なに、簡単だ。君たちには軍事クーデターを起こしてもらいたい。先程君たちが議論していた様にね》

「……なに、クーデター?」

 

 ジェミニは飛び出してきた単語に、思わず聞き返した。

 

《そうクーデターだ。どうやら君たちは現実が見えているようだ。事を穏便に進めるためにも、君たちにはフランスの政権を奪取してもらいたい。そのためならば、イギリスは協力しようじゃないか》

「……」

 

 黙り込むジェミニ。暫し後、彼の口から零れ出たのは、

 

「貴様、呆けたか?」

 

 ストレートな罵倒だった。

 

《ほう? 随分と言うじゃないか》

「貴様の口ぶりからして、ここでの議論が盗聴されている事は分かった」

《そうだな。妖精たちに協力をしてもらっている》

「なら、我々の側に着くような軍人が、今のフランスにはいない事も聴いたはずだ。それにも関わらず軍事クーデターを薦めて来るなんて、よっぽどの阿呆以外あり得んだろう」

 

 馬鹿にしたように鼻を鳴らすジェミニ。だが、

 

《なるほど》

 

 対するマクドネルの声色は欠片も答えた様子もなかった。

 

《どうやら、君たちの集めた情報には穴があるようだ》

「なに?」

《ハッキリ言おう。フランス国内に君たちの側に着く可能性のある戦力は存在する。それもとびっきり強力な部隊がな》

「……なんだと? 何処の部隊だ」

《フランス海軍艦娘部隊》

 

 思わぬ単語に、ジェミニは目を剥いた。

 

「どう言う事だ?」

《なに、簡単な事だ。艦娘たちは今回の戦争に乗り気ではないらしい。妖精を通して現地のNATO海軍艦娘部隊に亡命の打診が相次いでいる》

「……勝ち馬に乗ろうとしているのか」

《艦娘が奉仕しているのは、国家ではなく提督だ。ましてや自らの都合で提督を暗殺しようとする国家など、従う価値などあると思うか?》

「……」

 

 呆れた様に語るマクドネルに、ジェミニは何も言い返せなかった。電話越しの相手の言っている事は全くの正論であり、フランスを裏切ろうとしている者たちを糾弾する事など出来なかった。

 

《我々が亡命希望者に『クーデターに協力する』事を亡命の条件とさせれば、十分な戦力が用意できるだろう。アメリカで起きた通常部隊と艦娘部隊による戦闘事例を考えれば、多少の艦娘部隊だけでクーデターは可能だ》

「……NATOに靡かなかった艦娘部隊が迎撃に出る可能性がある」

《亡命希望者からの情報では、例のウイルス流出の件については多くの鎮守府で独自調査をしていたらしく、我々の情報公開が真実である事を理解している。仮に妨害があっても、少数程度だろう》

「……クーデターのための最大の問題はほぼ解決されたという事か」

《そう言う事だ。さて、どうするかね?》

 

 ジェミニは暫し考え込み、そして再度口を開く。

 

「一つだけ確認したい」

《なんだね?》

「そちらの提案に乗った場合、フランスにどんなメリットがある?」

《ふむ、そんな事か。――フランスの国体護持》

「……どういう事だ?」

《今回の騒動で、フランスは軍だけでなく核すら持ちだした。この事に我が国含め各国とも怒り狂っている。ドイツはフランスの解体を叫んでおり、多くの国がそれを支持しているのが現状だ。仮に今後軍事衝突に発展した場合は、確実にフランスはバラバラにされるだろう》

「……つまり今ならまだ間に合うと?」

《クーデター後、EUとの交渉の際には、イギリスはフランスの国体護持を支持する事を約束しよう》

「……」

 

 沈黙が場を支配する。時間にして数分、しかしそれはこの場にいる者たちにとって、永遠とも感じる程に長い物であった。そして、

 

「分かった。そちらの提案に乗ろう」

 

 ジェミニは決断した。

 

《よろしい、詳細は追って伝達する。クーデターが上手く行く事を願うよ》

 

 衛星電話が切られる。直後、講堂が騒然となる。

 

「ジェミニ、本気かね!?」

「罠かもしれないんだぞ!」

 

 議員たちから悲鳴のような罵倒が飛ぶが、ジェミニは何処か諦めたように笑った。

 

「折角お膳立てしてくれたんだ。乗るしかあるまい」

「確かに艦娘の力があれば、クーデターは成功するかもしれん。だが問題は国民だ! 絶対についてくるとは思えん! 最悪、革命が起きるぞ!」

「そこは戒厳令でも何でも出して、抑えるしかあるまい」

「そんな事を誰がやるんだ!?」

「当然、私だ」

 

 ジェミニは言い切った。この堂々とした態度に、議員たちも沈黙する。

 

「本気か?」

「本気だとも。残り短い命を使ってフランスが残るのならば、十分おつりがくる。最悪の独裁者にでもなってやる」

「……」

「異論はないな。時間がない。ここにいる全員が共犯者だ。直ぐに準備を始めるぞ」

 

 

 

 2025年7月14日早朝。フランスにおいて革命記念日とされるこの日、厳戒態勢にあるパリに、突如としてセーヌ川を遡上する形で艦娘部隊が上陸。パリに展開していた部隊を排除しつつ、フランス中央省庁及び大統領官邸であるエリゼ宮殿を占領すべく進軍を開始した。

 この事態に統合参謀本部は件の艦娘部隊を反乱分子と認定し、パリの部隊に迎撃を命じつつ、対反乱分子制圧の本命として各地に展開していた一部の艦娘部隊にパリに急行するように命令した。

 だがこの試みは上手く行かなかった。海軍はパリが内陸部にある事から戦力外、空軍は戦場がパリ市内という事もあり市民への誤爆を恐れ実質行動不能。唯一戦える陸軍は各部隊が艦娘相手に必死の抵抗したものの、千を超える数の艦娘部隊を相手には如何ともしがたく、パリに展開した部隊は逆に鎮圧される始末。そして唯一の希望であった艦娘部隊の方も、NATO側に通じていたために突如としてボイコットを敢行し、パリに艦娘部隊を投入する事が不可能になった。

 こうなってしまうと、後は消化試合だった。艦娘部隊は各省庁を順次制圧していき、正午前には最後まで抵抗していた大統領官邸であるエリゼ宮殿が占領され、政府閣僚も全員拘束された。

 全省庁の制圧が確認された後、今回のクーデターの首謀者であるジェミニがエリゼ宮殿に入場すると共に、クーデターによる新政権樹立を宣言。同時にEUに対して自軍の動員の解除及び交渉のテーブルに着く事を通達した。

 EUはフランスからもたらされた通達を予定通り受諾し、それと共にNATOは各フランス国境から離脱していった。

 こうしてフランス危機と呼ばれる一連の軍事的緊張は幕を閉じた。

 




結局、フランスは何とか生き残りました。

ダイス結果の記載を忘れていました。
1d100、70以上でカーニバル()。
結果1d100:41

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