それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》 作:とらんらん
「そちらの提案に乗った場合、フランスにどんなメリットがある?」
《ふむ、そんな事か。――フランスの国体護持》
「……どういう事だ?」
《今回の騒動で、フランスは軍だけでなく核すら持ちだした。この事に我が国含め各国とも怒り狂っている。ドイツはフランスの解体を叫んでおり、多くの国がそれを支持しているのが現状だ。仮に今後軍事衝突に発展した場合は、確実にフランスはバラバラにされるだろう》
「……つまり今ならまだ間に合うと?」
《クーデター後、EUとの交渉の際には、イギリスはフランスの国体護持を支持する事を約束しよう》
「……」
沈黙が場を支配する。時間にして数分、しかしそれはこの場にいる者たちにとって、永遠とも感じる程に長い物であった。
――ある世界線では、この後ジェミニはフランスを残すためにクーデターを起こす決断を下した。だが、この世界線では――
「失礼します!」
静寂が講堂の扉が乱暴に開かれる音によって破られた。同時にジェミニの秘書を務めている男が転がり込む。
「今は会議中――いや待て、何があった」
思わぬ乱入者にジェミニは秘書を追い出そうとしたが、彼の表情を見て即座に考えを改めた。秘書の顔色は傍目から見ても青く、そして憔悴しきっている。
この場にいる全員が乱入者に注目する中、秘書は悲鳴を上げるように叫んだ。
「ストラスプール近郊に展開していた陸軍部隊が、NATO軍との交戦を開始しました!」
『……なに!?』
一瞬の沈黙の後、講堂は騒乱の渦に巻き込まれた。ある者は顔を覆い、ある者は声にもならない悲鳴を上げた。中には気絶した者すらいる。何としてでも避けたかった戦争が始まってしまったのだから、当然の反応かもしれない。
そんな混沌と化した中、ジェミニは壇上の床に座り込み、力なく項垂れていた。
「何もかも遅かった、か……」
《……》
そんな絶望に満ちた呟きを聴いたのは、電話越しのマクドネルだけであった。
2025年7月7日。フランス側からの銃声を切っ掛けに始まったドイツとの国境が目と鼻の先にあるストラスプール近郊での戦闘の知らせを聞いたNATOの欧州連合軍最高司令部の面々は、とうとう始まった戦争――後にフランス戦争と呼称される――にため息を吐きつつも、事前の取り決め通りに事を進めていた。
「大義名分は得た。グングニル作戦を開始する」
グングニル作戦。その概要は実に単純明快だ。フランスを包囲している、陸海空、全てのNATO軍により同時攻撃を行い、フランス軍の防衛能力を飽和させ撃破、勢いをそのままに早期にフランス全土を占領する事を目標とした作戦だった。
最高司令部の号令と共に、戦闘機群がフランス国境線を飛び越えていき、後を追う形で陸上部隊も進撃を開始。海上でも揚陸を狙うNATO艦隊が、一斉にフランス本土に向けて殺到していく。
だが現場の兵士はともかく、現場指揮官から総司令部に詰める面々に至るまで、多くの軍人がこのグングニル作戦については、不安しか抱いていなかった。
「戦争が政治や外交の一環である事は分かっているが、だからと言って無茶なオーダーをしないで欲しいな……」
この司令部に詰めるとある参謀の呟きこそ、今次作戦に不満を覚える軍人の総意であると言っても過言ではなかった。つまるところこのグングニル作戦は、純軍事的観点ではなく、各国の政治的要求によって実行される事になった代物なのだ。
さて、こんな事になった背景であるが、実の所、人類共通の常識的な認識によってもたらされたものであったりする。
「いくらあのフランスが相手だからと言っても、深海棲艦と戦っている真っ最中に人間同士で戦うなど、余りにも馬鹿らしい」
この認識はEUのほぼ全ての政府の共通認識であった。今は深海棲艦との生存競争の真っただ中であり、フランスとの戦争、それも核戦争などリソースの浪費どころの話ではないのだ。
とはいえ、戦争が回避できない可能性は大きい。それ故に各国は、仮に戦争になった場合は、出来る限り国力の浪費を出来る限り抑える事を望んでいた。
「フランスと戦争になった際は、フランス本土を早期に占領出来る様にして欲しい」
各国政府要人が思い浮かべたのは、イラク戦争の際のアメリカ軍の軍事作戦だった。ピンポイント爆撃や巡航ミサイルにより、敵の指揮系統を破壊。組織的抵抗が出来なくなったイラクを相手に常に主導権を取った事で、湾岸戦争時よりも少ない兵力で短期間にイラクを制圧してのけたのだ。政治家たちはこの事例を、フランスの地で再現する事を望んでいた。
そんな彼らの思惑を聴いた軍人たちは、乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
「なるほど、完璧な作戦だな。不可能だという点に目をつぶれば」
ハッキリ言って、欧州連合軍最高司令部の面々は、この方法ではフランスの攻略は出来ないと考えていた。
戦前でさえフランスの軍事力は世界でも上位に入る程の実力を有している上に、深海棲艦との戦いと植民地獲得により、軍事力は増大している。イラク戦争の再現のために必須となる指揮系統についても、当然フランス側も警戒しているため、阻止される可能性は高い。また現在のフランス側国境線には重厚な防御陣地が築かれており、政治家たちが望む様な早期の突破は困難であると考えていた。この事から、総司令部では長期戦を主眼とした戦略を練っていた。
早期解決を望む政治側と長期戦を覚悟している軍。世界が核戦争に怯えている裏側で、両者は激論を繰り広げ――そして結局は政治側が勝った。NATO軍は目論見が成功する可能性が低い事を明言し、更に早期攻略が失敗した場合司令部主導の長期戦に移行する事を相手に確約させつつ政治側の要求に従い、最終的に対仏攻略作戦「グングニル作戦」が立案されることなった。
「攻撃開始」
総司令部の命令と共に、各戦線で指揮系統の破壊のために多数の爆撃機が飛び立ち、無数の巡航ミサイルを撃ち込み、そしてそれに合わせる形で各部隊が国境を越えて敵軍に襲い掛かった。
この時、現場の兵士たちは勝ちを確信していたという。今次作戦に参加しているNATO軍の戦力は陸海空ともにフランス軍を大きく上回っている上に、陸上での火力支援担当として艦娘すら参加しているのだ。幾ら防備を固めているとは言え、大火力で纏めて粉砕できる。そう考えていたのだ。だが、そんな兵士たちを待っていたのは――
「歓迎しよう、盛大にな」
フランス側防御陣地からの無数の砲火だった。
突破を試みるNATO軍を相手に巧みな連携で応戦するフランス軍。それは多くの軍人たちが懸念していた光景そのものだった。
この時、フランス軍は健全に機能していたと言っても過言ではなかった。敵の仕掛けて来た指揮系統破壊攻撃に対しては、イラク戦争の戦訓による様々な防衛策によって大した混乱もなくやり過ごした。
戦力差についても防御陣地が大いに役に立った。深海棲艦との戦いが始まって早12年。WW2の軍艦の火力を持つ敵の上陸に対抗するために進化していった防衛陣地の性能は、戦前とは比べ物にならない。また火力についても艦娘戦力の総数はNATO軍に大きく劣るが、防御陣地には艦娘用の艦砲が至る所に備え付けられている為、火力面だけ見ればフランス側が上回っていた。
このフランス軍の強力な防御陣地の前に、NATO陸軍の突破力は完全に殺された。フランス陸上国境線の全てでNATO陸軍は停滞し、「グングニル作戦」はしょっぱなからつまずいてしまう。
更にこの陸上での停滞は、他の戦線にも悪影響を与える。
「これでは突入出来ないな……」
NATO海軍は、陸の惨状に顔を顰めた。
「グングニル作戦」における対仏侵攻はなにも陸上だけではない。陸上部隊の支援として、対地攻撃とフランスの南北両海岸に対する上陸作戦が予定されていたのだ。それに伴って大西洋、地中海の両海には、イギリス及びイタリア海軍を中心に通常艦隊及び艦娘部隊、そして強襲揚陸部隊により編成されたNATO海軍の姿があった。現時点では両艦隊共に緊急出撃したフランス海軍と睨み合っている。
そんな海軍だったが、現在の陸上の戦況を前に動けないでいた。
「陸上部隊が突破してくれないと、仕事が出来ん」
睨み合っているフランス艦隊を排除する事は容易だ。戦力はNATO海軍が上回っているし、諜報部による仕込みもある。NATO海軍の勝利は確実と言っても良い。
だが問題はその後だ。支援する相手がいなければ意味がないのだ。一応揚陸部隊もいるのだが、過去のノルマンティ上陸作戦の時と違い飽くまで陸上部隊の支援のために用意された戦力であるため兵力は少数であり、フランス本土の占領、維持は不可能だった。
結局NATO海軍は数的質的劣勢故に攻めるに攻められないフランス艦隊を相手に、敵海軍戦力の吸引と言う名の睨み合いに従事する事に終始する事になる。
そして「グングニル作戦」が始まって10日後、
「無理だな」
事前の予想通り全く押し込めない戦況を見た欧州連合軍最高司令部は、作戦の中止を決断。陸上部隊はフランス国境線から一時撤退。フランス対NATOの第一ラウンドはフランス側の完勝であった。
余談であるが、開戦から「グングニル作戦」中止までの10日間の間で、両軍とも核が使われる事は無かったりする。NATO側からすれば侵攻先を放射線で汚染するのはナンセンスであるし、フランス側は単純に現状でも相手を撃破出来るので核を使う必要は無かったためである。
「侵略者を追い払ったぞ!」
NATO軍の攻撃を跳ね除けたフランスでは、政府、軍、国民と多くのフランス人の士気は最高潮に達していた。彼らにとってEUは理不尽にフランスの富を奪おうとする蛮族なのだ。そんな輩をフランスから追い出したのだから、歓喜するのは当然である。
そんな歓喜の渦の中にあるフランスであるが、兵站を担う軍人は今回の攻勢を凌げたことに安堵しつつも、何処か不安な表情を浮かべていた。
「思ったより弾薬の消費が激しいな」
「総力戦だったんだ。仕方ない」
「分かってる。だがこれでは長くは持たないぞ」
今回の防衛戦において、事前の予想よりも多くの軍需物資を消費していたのだ。これは敵側が戦力優勢である上に、ほぼ全方位からの攻勢であった故に仕方のない事であるが、この消費量が続くのはマズかった。
フランス本土は対深海棲艦戦を考慮して、武器弾薬共に十分に貯蓄してあるし、軍需物資の生産体制も整っている。だが問題はその軍需物資を作るための原料である。外国からの輸入は不可能であるためアフリカの植民地から資源を輸送しなければならないのだが、NATO地中海艦隊による海上封鎖がされており、輸送は困難であった。
この戦争は長引けばフランスは負ける。その事実に気付いたのはフランスの一部の軍人だけではなかった。
「敵を消耗させろ。日干しにしてやれ」
「グングニル作戦」の失敗にギャアギャアわめく政治家たちの戯言を聞き流しつつ、フランス戦争の主導権を取り戻したNATO総司令部は戦争方針を長期戦に転換。フランスに消耗を強いる戦法を採り始めた。
各戦線では緒戦とは打って変わって、NATO軍が嫌がらせの様に突発的に攻撃する光景が見られるようになった。
「まあこの程度の攻撃じゃあ突破なんて出来ませんよね」
「それでいいんだよ。撤退する」
「了解」
その攻撃は全てフランス軍の防衛陣地に多少のダメージを与える程度のモノで戦線は完全に停滞していた。だがそれら一連の戦闘は、フランスを蝕んでいく。
全方面で包囲されている今のフランスは、物資を自由に補給できるNATOと違い、本土に蓄えていた貯蓄を切り崩して戦っているのだ。嫌がらせの様な諸々の戦闘は、フランスに残された物資を着実に消耗させていった。
「このままでは近い内に動けなくなるぞ……」
NATOの嫌がらせにより日々消耗していく各種物資を前に、フランス軍上層部及び政府は頭を抱える事となる。戦争が始まって5か月経過した2025年12月の時点で、軍需物資だけでなく石油や石炭を始めとした各種物資も欠乏し始めており、フランスそのものが息切れを起こしていた。
そのため早急に外部から物資を手に入れる必要があったのだが、しかしながらそれは不可能であった。フランスに物資を輸出してくれる国など無いし、植民地からの物資輸送もNATO地中海艦隊により阻まれている。フランス地中海艦隊を用いて地中海のNATO海軍を排除する事も画策しようとしたが、戦力差的にも正面突破は不可能であると却下された。まさに八方塞がりである。
この時、フランスに残された時間が残り少ない事を誰もが理解していた。だからこそ――
「動けなくなる前に打って出るぞ」
彼らは賭けに出た。残存物資が残されている内に攻勢を仕掛け勝利し、それをもってEUとの講和を試みる一撃講和。フランスが生き残るにはこれしかなかった。フランス上層部は覚悟を決め、ある作戦が立案された。
「戦前からの精鋭である第3機甲師団及び深海棲艦大戦以降に創設された2個旅団、それを支援する航空部隊に加えて海軍から抽出した多数の艦娘部隊。この陸海空三軍をもって、ベルギー国境に展開するNATO軍を強襲し撃破。勢いをそのままにベルギーの首都にしてEUの首都であるブリュッセルに侵攻、占拠し、この勝利を持ってEU各国に講和を強いる」
「セルヴァル作戦」と名付けられたこの乾坤一擲の作戦を、フランス政府上層部は即座に了承した。「セルヴァル作戦」にフランスの未来を託したのだった。
2026年1月15日。NATOがアゾレス諸島の深海棲艦にいささか不穏なモノを感じ取ったその時、後にフランスの最初で最後の攻勢と呼ばれる「セルヴァル作戦」がベルギー国境で発令された。
「突っ込め!」
今次戦争で初めて敵軍よりも戦力が上回ったフランス軍が、ベルギー国境に展開していたNATO地上部隊――立地的にベルギー陸軍が主体である――に襲い掛かった。この事態に現地NATO軍の対応は後手に回っていたと言う。
「攻勢だと!?」
「なんで今になって!」
「いいから反撃しろ!」
これまでのフランス戦争では戦力差の事もありフランス軍は常に防衛陣地に籠っており、攻勢に出る事は無かった。この事が現地軍に「フランスは攻勢に出る事は無い」との認識を植え付けていたのだ。
そんな所に今回の攻勢、それも自軍よりも上回る戦力で襲い掛かったのである。現地NATO軍が混乱するのは当然の事であった。
攻守逆転したこの戦闘は、現地NATO軍も粘ろうとしたものの、最終的には大軍を持ってフランス軍が敵部隊を撃破。補給もそこそこに予定通りブリュッセルに向けて進撃を開始した。
この事態に自国を蹂躙される羽目になったベルギー政府は大いに慌てる事となる。ベルギーの戦力は決して強大ではない。展開していた前線部隊が撃破された今、侵攻するフランス軍にぶつけられる二の矢となる纏まった戦力が存在しないのだ。後方に待機していた雑多な戦力で遅滞防御を行い少しでも侵攻を遅らせる事しか出来なかった。
そんな涙ぐましい努力をするベルギー軍だったが、後がないフランス軍が慈悲を見せるはずが無い。敵軍を蹴散らし無人の野を行くが如く突き進んでいく。
「行けるぞ!」
この時「セルヴァル作戦」に参加していた将校たちは勝利を確信していた。目標となるブリュッセルは既に目と鼻の先。現地ではベルギー軍が展開しているが、自軍と比べれば雑多なものだ。唯一の懸念であったNATOの援軍も移動中ではあるらしいが、位置的にもフランスによるブリュッセルの占領の方が早い。フランスの勝利はすぐ目の前にあったのだ。
だがその認識は――フラグであった。
「まさかここで反攻に出るとはな」
「全くだ。だがこれはチャンスでもある。あの侵攻軍に大打撃を与えれば、今後の戦争を優位に進められる」
「なら?」
「ああ。予定通りにはならなかったが、例の仕込みを使う事にしよう。各部隊に通達。『時は来た』だ」
2026年1月20日早朝。フランス軍がブリュッセルまで約20㎞の地点まで到達した時、それは唐突に始まった。
「なんだ!?」
部隊の先頭を走っていた装甲車が攻撃を受けて爆散した。それだけであれば戦争ゆえに別に変な事ではなかったであろう。
「敵か!」
「違う、あの砲撃は後ろから飛んできたぞ!?」
「どう言う事だ!?」
「おい、まだ撃ってるぞ! 誰か止めろ!」
「味方から砲撃された」という点を除けば。唐突な味方からの攻撃に全部隊が混乱の渦に叩き込まれる。例外と言えば未だに味方に攻撃を続けている部隊くらいであろう。
「おい何をやってるんだ! 攻撃を辞めろ!」
作戦指揮官が件の部隊に通信を繋げる。だが、返って来たのは無常な言葉だった。
「残念な事にそれは出来ないな」
「なに?」
「我々、艦娘部隊はNATO側に着かせてもらう」
「……なんだと!?」
これこそが英国を中心とした各国の軍諜報部が用意した仕込みであった。戦争開始前ですら多くの在仏提督及び艦娘の亡命を希望する者は多かったのだ。戦争が始まってから既に半年近く経っている現在においては、諜報部の活躍によりほぼ全ての艦娘たちがNATO側に着いていたのだ。
この一斉離反は、フランス全軍にとって致命傷を与える事となる。
まず作戦行動中であったベルギー侵攻軍は、唐突な自軍内側からの攻撃に大混乱に陥った。一部の部隊が艦娘に攻撃を仕掛けるも、WW2の軍艦の性能を持つ艦娘の防御力を前に陸戦兵器では効果が薄い上に、混乱により効率的な攻撃が出来なかったために、碌に抵抗も出来なかったと言う。更にフランス軍の混乱を見たベルギー軍が、今がチャンスと言わんばかりに突入。内と外、両面からの激しい攻撃に耐えられるはずもなく、ベルギー侵攻軍は壊滅的な損害を受けて撤退する羽目になった。
とはいえ彼らは圧倒的劣勢ながらも、交戦出来ただけまだマシだろう。本国の方は余りにも悲惨なモノであった。
空軍は幸いな事に無事だった。任務の関係で艦娘戦力を必要としていなかったため、艦娘の工作を受ける事が無かったのだ。だが陸海は違った。
まず陸であるが、各国境線の防衛陣地では艦娘の一斉離脱の命が下ったと同時に、陣地内に点在していた弾薬庫から突然、そして同時多発的に火の手が上がったのだ。下手人は当然艦娘、正確には妖精たちであった。艦娘たちは弾薬庫から起きた大爆発に混乱する防衛部隊を尻目に、悠々と自陣を離脱。国境線の先に消えていった。
そして海軍であるが、今回の一斉離反により最も被害を受けていた。
開戦以来、敵艦隊と海上でにらみ合いを続けていたフランス艦隊だったが、当然の事であるが、そこには艦娘部隊も多数含まれている。そして艦隊で艦娘戦力が占める割合は、陸のそれよりも圧倒的に多い。そんな艦隊で全ての艦娘が離反するとなるとどうなるだろうか?
――当然の事であるが裏切られた側は碌な事にならなかった。
艦娘たちがフランス軍の各艦艇に潜り込ませていた妖精たちがCICや機関部など艦の重要施設で、スイッチを切ったりコードを切断したりと、好き勝手に暴れ回ったせいで、大した時間も掛からずに全艦が機能を停止してしまったのだ。
そうなってしまっては唯の人間にはどうする事も出来ない。艦隊の全て乗員がNATO海軍によって捕虜となり、更に折角再建できた艦艇群もその全てが鹵獲される事となる。
余談であるが整備や補給の関係で母港にいた艦艇についても、その多くが艦娘の一斉離反の際に行きがけの駄賃とばかりに破壊されており、フランス海軍は文字通り消滅の憂き目に遭っていた。
「これはチャンスだな」
このフランスの状況に、欧州連合軍最高司令部はニヤリと笑った。「セルヴァル作戦」に参加していた有力な戦力は大打撃を受けており、心もとなかった軍需物資も炎の中に消え、更には海軍艦艇も消滅した。誰が見ても隙だらけであった。
司令部は早速、対仏侵攻作戦「第二次グングニル作戦」の立案を始めたのであるが――、それよりも早く動き出した者たちがいた。
「よくもやってくれたじゃないか。倍にして返してやるよ!」
そんな雄叫びと共にベルギー軍がフランスに逆侵攻を掛けたのだ。
ベルギーは先の「セルヴァル作戦」により軍が大打撃を受けただけでなく、フランス軍によって国土を蹂躙されていたのだ。侵攻して来た敵軍には大きなダメージを与えて敵の目論見を挫く成功していたが、その程度では政府も軍も国民も怒りは収まるはずもない。多くの者たちがフランスに鉄槌を下さんと気炎を挙げていた。
「勝手な事をするなよ」とのNATOの苦言を華麗にスルーして実行されたフランス侵攻だが、事は順当に推移していった。ベルギー本国の防衛戦力を投げ捨てて敢行された攻勢により、「セルヴァル作戦」で損害を受けた上に艦娘の破壊工作によって軍需物資も不足していたフランス軍は劣勢を常に強いられ、数日に及ぶ戦闘の末にベルギー軍が勝利を収めたのだ。
「このままパリまで突っ走れ!」
進軍していくベルギー軍。この状況にNATOもなし崩し的にベルギー軍を威力偵察として利用する事を決め込み、「第二次グングニル作戦」の準備を進めていった。
だが――
《出撃を許可する》
《了解。……奴らに目に物見せてやる》
フランスも唯々黙ってやられるような国ではなかった。
ベルギー軍が国境の街であるルーベーに到達しようとした時、それは起きた。
「軍が撤退したのは知ってたけど、民間人もいないなんてな」
「どうやら住民全員を避難させたようだな。正直拍子抜けだな」
「市街地でゲリラ戦やられるより、ずっと良いだろ」
「それもそうだな。……ん? おいあれ」
遥か上空フランス側から飛来した一機の戦闘機が一発だけミサイルを放つと、まるで逃げるように引き返していった。その光景に多くの者が訝しんだ。そして、
「――え?」
次の瞬間、閃光がベルギー軍を包み込んだ。
2026年2月2日8時15分。フランス空軍は侵攻するベルギー軍に対し、ラファールによる核攻撃を敢行。
作戦は成功。ベルギー軍侵攻部隊は壊滅的な被害を被った末に、撤退した。
前回は核は無粋と言いましたが考えを改めました。やっぱ核保有国なら核を使わないとね!