それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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 この物語では人類が追い詰められていますが、作者は人類に色々とバフを盛っています。(素早い戦時体制への移行、軍艦の攻撃が小さい深海棲艦に当たる、早急に新型の兵器を開発できる等)


海を征く者たち2話 タイムリミット

 日本国東京。法的には首都は存在しないが、事実上日本の首都と位置づけられている大都市。深海棲艦の出現により、往年の活気こそ見られないが、それでも日本の政治、経済の中心地としてその地位を維持している。

 そんな大都市の中を一台のパトカーが走っている。道路は空いており、たまにすれ違うのはトラックぐらいだった。石油資源は発電所や自衛隊に優先的に回されており、民間に放出される分は雀の涙程度。当然値段は恐ろしく高価であり、そのことから人々の移動はバスや電車などの公共交通機関が中心になっている。そのため、今時大通りを走る車と言えば、自衛隊の車両、政府が民間に委託した輸送トラック、そして警察や消防などの政府機関の自動車であった。

 そんなパトカーに秋山と叢雲は後部座席に並んで座っていた。運転席と助手席には制服姿の男性だ。

 

「ホントにこの二人で合っているのか?」

「本人たちもそう言っているし、大丈夫だろ」

 

 二人は県警に所属する警察官だった。後部座席に聞こえないようにコソコソと話していた。話題は勿論後部座席にいる二人だ。

 4月の後半に日本政府から警察や公安に提督及び艦娘の捜索命令が出された。しかしその内容は捜査する側からすれば、頭を抱えるようなものだった。

 

「曖昧過ぎる……」

 

 名前は不明、何人いるかも不明、もしかしたら身体に変化があるかもしれないという、不確定な条件ばかり。確定している条件は提督の近くに突然国籍不明の女性が現れていること。これで対象を見つけてこいと言われた所で、途方に暮れるのは当たり前だった。

 事実、捜査は難航しており、「急に体格が変わった」「最近若返った」「体格だけでなく性格も変わった」「危篤状態だったが急に元気になった」「なんか美人な彼女が出来た」などの噂話を頼りに、提督や艦娘と思われる人物を探す日々である。

 彼ら二人も県内を苦労して探し回った末に、秋山たちを発見できたのだった。

 

「そもそも100㎏以上ある様な荷物を、平気で片手で持てるような奴が人類なわけないだろ」

「……」

 

 彼らが秋山たちを発見した時、叢雲は農作業の最中だったのだが、一袋100㎏はあるであろう肥料の袋を2袋持って悠々と歩いているのを目撃している。そのため彼女が探している対象であることは確信できたのだった。

 

「もしも……だ」

「ん?」

「もしここで暴れられたら、どうすれば良いと思う?」

 

 政府が出した提督と艦娘への強制徴兵だが、別に逮捕するわけではない。以前、趣旨を勘違いした一部の警察官たちが、暴力団への強制捜査と同じように対処しようとして、艦娘と提督に返り討ちにされるという事件があった。その後、事態を知り顔を真っ青にさせた警察上層部の人間による謝罪でなんとか丸く収まったのだが、捜査関係者は探している者たちがどのようなモノなのかを身をもって理解することとなった。

 

「……諦めるしかないんじゃないか?」

「……」

 

 まるで猛獣でも扱っている気分の警官二人をよそに、後部座席の秋山と叢雲は東京の街を眺めていた。

 

「何度か大空襲があったって聞いたけど、思ったより綺麗ね」

「自衛隊がかなり頑張ったらしいぞ」

「へぇ」

 

 東京は深海棲艦の活動が活発化して以来、何度か艦載機隊による大規模な空襲があったのだが、首都防衛のために配備されていた自衛隊の部隊の奮闘により、被害はかなり抑えられていた。現在も所々に空襲による被害の跡が見られるが、大よそ往年の東京の街並みが残されていた。

 

「でも政府からの招集ね。正直今更って話ね」

「最初は散々出撃したいって言ってたくせに」

「う、うるさい!」

 

 二週間程秋山家で過ごした叢雲は、このままこの家族と一緒に暮らしてもいいかとすら考えるようになっていた。彼女にとってそれだけ心地よい時間だったのだ。

 

「それよりあんたはどうなのよ」

「あー、それなぁ」

 

 対する秋山はどこか煮え切らない態度。その様子に叢雲は訝しむ。

 

「何よ、やっぱり行きたくないわけ?」

 

 秋山は提督となり軍事知識を得たとは言っても、元々ただの高校生だ。彼女は戦場に出る事を嫌ってるかもしれないと危惧していた。だが、秋山はそれをあっさり否定する。

 

「いや、招集されるのは納得してる。待遇も良いみたいだし」

「じゃあなによ」

 

 ますます分からないと言わんばかりの叢雲に、彼はしばし沈黙するとポツリと呟いた。

 

「……高校、一か月しか行ってない」

「そこ!?」

 

 思わぬ答えに叫ぶ叢雲だが、それを無視して秋山はぼやき続ける。

 

「受験勉強とか頑張ったのになぁ。無駄になってしまった」

「いや、知らないわよ!」

「英語とかかなり苦労したんだぞ?今は提督の知識の中に英語もあったから出来るけど」

「それこそ知らないわよ!」

「叢雲が後一年、いや半年早く来てくれれば、受験しなくて済んだのに……」

「私に当たらないでくれる!?」

 

 そんな車内の前と後ろで全く違う空気を醸し出しながらも、パトカーは目的地である防衛省庁舎へ向かっていった。

 

 

 

「それで、提督及び艦娘の招集状況は?」

 

 首相は口を開く。現在確認できている全ての提督が東京に招集出来たことから、今後の彼らの運用についての会議が開かれていた。

 防衛大臣――元総務大臣だった人物が資料を手に口を開く。総務大臣は艦娘の知識や現職自衛官並の軍事知識を手に入れたことから、その知識を活かすために防衛大臣に就任していのだった。

 

「現在、提督が528人確認されています。また、艦娘も同数となっています」

「主力艦クラスは?」

「戦艦が14、正規空母が12。これは同一艦が何組かいるため、この数となっています」

「初期戦力としてはそれなりか……」

 

 日本近海に現れる深海棲艦の艦隊には、最近では当たり前のように戦艦級や空母級が混じっている。それらへの対応を考えた場合、同等の能力を持つ主力艦クラスが重要になってくる。首相の本音としてはもう少し欲しかったが、それは贅沢というものだろう。

 

「しかし、この数が全て戦力となるわけではありません」

「そうだな」

 

 資料を手に首相は苦笑する。

 528人いる提督だが、性別も年齢も立場もバラバラだ。そうなると当然戦場に出すには問題がある人物もいる。

 例えば現在の防衛大臣のように、組織を運営をしてもらった方が有効な場合。大臣クラスになれるほどの政治能力を持つ者を戦場に出すなど非効率この上ない。彼には艦娘という戦力を理解できるからこそ、彼には防衛大臣として働いてもらわなければならなかった。

 また予想以上に多かったのが子供――それも義務教育すら終わっていないような子供たちだ。提督を対深海棲艦の戦力とするために強制徴兵という強硬な手段に出たが、流石に子供を戦場に送り出すような事は出来なかった。

 そして立場的に問題なのが、皇族であり、それも皇位継承権の順位がかなり高い人物が提督となったことだ。

 

「国民が苦しんでいるのに、自分が後方でのうのうとしている訳にもいかない」

 

 との発言もあり、本人もやる気十分である。

 とはいえ、日本の立場からすると、戦場に立つのは勘弁してもらいたいところである。皇族が自ら戦場に出ることは士気の向上になるだろうが、もし戦死でもしてしまった場合の影響が大きすぎるのだ。それなら後方で活躍してもらった方がいい。その様な理由もあり、現在宮内庁が全力で皇族提督を説得中であった。

 

「防衛大臣、今後の予定は?」

「戦力配分を協議のうえで、全国に配備します。実地試験及び近海の防衛をしつつ戦力増強を図る予定です」

 

 海上自衛隊が壊滅している現在、どの駐屯地も戦力を欲しており、提督たちを一人でも多く引き込もうと、各基地同士で暗闘を繰り広げていた。その調整をするのが防衛大臣であり、現在彼の秘書として活動している大淀も苦労していた。

 

「さて、本題に入ろう」

 

 首相の言葉に、全員が気を引き締める。何せ文字通り日本の未来に関わることなのだ。

 

「資源の輸入先の当ては?」

 

 深海棲艦が出現して以来、日本は食料の増産や資源の備蓄に邁進してきた。太平洋戦争時のシーレーン断絶というトラウマもあったことから、特に反対意見は出なかった。これらの努力のおかげで、多くの国が崩壊した今でも、日本は国としての体裁を整えられている。しかし現在、日本の海上戦力が壊滅したことで日本列島に完全に閉じ込められてしまい、貯蓄を削って生き延びているにすぎなかった。

 そんな絶望的な状況であったが、艦娘の出現という思わぬ形ではあるが海上戦力が補充されたため、護衛船団での資源の輸送が可能になった。次の問題はどこから資源を輸入するかである。

 

「事前の予測通り、無政府状態か輸出する余裕がない国ばかりですな」

 

 顔を顰めつつ報告する外務大臣。同盟国アメリカは両洋から侵攻する深海棲艦との戦いで資源を輸出する余裕はない。中国はその国土に資源を抱えているが国家の規模の大きさから資源輸入国であり除外。東南アジア諸国は深海棲艦の攻勢によって壊滅状態。そうなると活路は北だが、

 

「ロシアは?」

「ヨーロッパ向けの輸出で手が一杯だそうです」

 

 深海棲艦による航路の封鎖と中東情勢の不安定化によって、ヨーロッパ各国はロシアからの資源の輸入に切り替えていた。冷戦以来目の敵にしていたものの、近場で多くの資源や食料を生産できるのはロシアだけなのだ。ヨーロッパ各国はロシアに土下座する勢いで資源の輸入を申し込んでおり、ロシアとしては笑いが止まらない状況だった。

 そんなロシアだが、国内の資源採掘量的に自国とヨーロッパに輸出する分を賄うのが精一杯であり、少量ならともかく日本が必要とする量までは、すぐには用意できなかった。

 

「……まさか例の計画も考慮する必要があるか?」

 

 首相の言葉に誰もが苦い顔をした。艦娘が出現した直後に、防衛省から内閣に提出されたプランだ。勿論短時間で計画されたものなので、具体的な作戦内容は決まっていないが、最終目標だけは明示されている。

 

 政府機関の崩壊した東南アジアへの進出による、各種資源の確保。

 

 確かに東南アジアの資源地帯を確保できれば、ある程度は国内に余裕が出来る。

 とはいえ、この計画は飽くまで最終手段と位置づけられており、防衛省としても外交で資源が輸入できるのならそれで良いと考えていた。せっかく手に入れた艦娘という戦力は国土防衛に使いたいのだ。また、仮に計画が実行されるとしても南沙諸島の敵拠点の攻略を行わなければならないので軍事的にリスクが大きい。更に軍事関連以外でも、国内世論による反対だけでなく外交的にも問題となる事が予測されていた。防衛省にとって計画こそ建てたが実行したくないという部類のものだった。

 そのため閣僚級等のごく限られた者にしかこの計画は知らされていなかったのだが、八方ふさがりなこの状況では検討せざるを得なかった。

 

「南進論か。まるで太平洋戦争だ」

 

 経済産業大臣が皮肉気に笑う。日本が交易によって資源を入手できなくなり、自身で資源を賄うために東南アジアに進出する。それも第二次世界大戦期の軍艦の化身である艦娘を使ってだ。皮肉でしかなかった。

 とはいえ、ここにいる誰もが進んで実行したいと考えるような計画ではない。足掻くかのように外務大臣は防衛大臣に問いかける。

 

「防衛大臣。艦娘の戦力で中東までの護衛船団は可能ですか?」

 

 現在、中東は民族問題や宗教問題などで地域の情勢が悪化しているが、現地政府が残っている国も多い。また海上航路が封鎖されていて石油資源が売却出来ず持て余しているという事情があるため、もし日本が中東までの航路が確保できれば優先的に石油を輸入できるはずである。

 だが、外務大臣の願いも空しく、防衛大臣は首を横に振る。

 

「無理でしょう。仮に全艦娘を投入しても東南アジアの突破が限界です」

 

 日本から海で中東に行くには、南沙諸島とチャゴス諸島の敵拠点の近くを通る必要があった。そうなれば攻撃を受けることは確実であり、とても中東まで辿り着けないだろうと結論付けられていた。

 

「今は和戦両様で行こう。外務大臣は引き続き資源が輸入できるように各国と交渉。防衛大臣は艦娘戦力の増強と計画の具体案を纏めるんだ」

 

 首相はそう纏めると、経済産業大臣に顔を向ける。

 

「率直に聴きたい。日本は後何年持つ?」

 

 その言葉に誰もが経済産業大臣を見る。この問は日本という国を動かす者たちが知るべき事であるからだ。

 

「今の消費ペースで考えた場合――」

 

 同時に知りたくない事であるが、受け入れなければならない。誰もが息を呑む。

 

「1年半といった所でしょう」

 




久々のダイスロール。
先ずは米、英、日に何人提督がいるかです。判定は1d6×100+1d100で。
アメリカ:625人 イギリス:563人 日本:528人
これは強い(確信)。特にアメリカはその内U.S.A!やり始めるぞ!

ついでに秋山君が東京に行くので、東京の被害を1d100%で。
東京の空襲被害:08%
自衛隊がスゲー頑張ってる!

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