それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》 作:とらんらん
今回はある動画を見ていたら、電波が飛んできました。
2020年に領土獲得による提督数増加が確認される以前、艦娘戦力を向上させる方法は限られていた。
一つは建造を行い、艦娘自体の数を増やす事。最も単純でありながら、最も重要なこの方法は、艦娘保有国全てで行われた。数は力であるのだから、当然の事である。
だがこの方法は、各国間で艦娘戦力の差が出る事にもなった。WW2の際に強力な海軍を持っていた国が多くの艦娘を保有できた一方で、WW2時に海軍にあまり力を入れていなかった国や国力的に海軍戦力をそろえられなかった国は建造できる艦娘の絶対数が少ないのだ。そのため艦娘中小国が建造できる艦娘を全て作ってもなお、艦娘戦力が貧弱で自国防衛すらままならない、といったケースもあった。
そんな戦力増強の頭打ちに陥った艦娘中堅国でも、一定レベルでその戦力を底上げできる方法もある。それが艦娘が持つ艤装の更新だ。艦娘の性質からなのか、はたまた艤装の性質からなのかは不明だが、艦娘は兵装を容易に、それも実艦であればまず無茶なような兵装の換装が行える。その特性を利用すれば個々の艦娘の戦闘能力を向上させることが出来るし、それを推し進めれば艦娘戦力の増強にも繋がるのだ。
ではそんな強力な装備が何処にあるのかというと――悲しいかな艦娘大国にあった。WW2時に海軍に力を入れていたということは、当然各種兵装の開発にも力を入れていたのだから、当然の帰結であった。
そんな事情もあり、艦娘中小国は艦娘大国から艦娘用装備を輸入しなければならなかった。南北アメリカ大陸の場合は当然アメリカ合衆国が、ユーラシア大陸の場合は日英が装備の輸出を行っており、各国は少なくない金を払い、必死に装備の更新を行っていた。
だがそんな彼らに転機が訪れた。
2019年10月の欧州各国、ロシア、日本によるアメリカ系艦娘回収作戦の成功と各国へのアメリカ系提督の一定数の分配だ。中小国が世界トップクラスのスペックを持つアメリカ系艦娘及び提督を迎え入れられた事により、艦娘戦力を大幅に増強することができたのだ。
このことは各国の国防に関わる者たちを狂喜乱舞させる大事件であるのだが、同時に国家の財務に関わる者たちも歓喜させる出来事でもあった。
「アメリカ系装備を自作すれば、わざわざ日英から高い艦娘用装備を買わなくて済む!」
アメリカ系艦娘の持つ装備は、当然の事であるが世界でもトップクラスなのだ。そんな意見が飛び出してくるのは当然の事であった。
こうして各国は自国に迎え入れたアメリカ系提督に装備の開発を命ずることになるのだが、そうなると困るのは日本とイギリスだが――だからといって、簡単に諦めるような者たちではない。
「せっかくの商売を捨てるつもりなどサラサラない!」
装備の開発に必要な資材は恐ろしいレベルで少量、製造するのも各鎮守府の妖精なのでコストがかからず、更にサイズが小さいので一度に大量に輸送が可能、深海棲艦に有効なので高額で飛ぶように売れる。こんなボロい商売はないのだ。
こんな事情もあり、装備輸出国だった日英両国は、艦娘中小国に装備を買わせるべく、知恵を絞り始めた。
日本で某航空戦艦による熱烈な売り込みの末に新たなる目玉商品が販売され始めた頃、イギリスのとある鎮守府にも厄介な問題が舞い降りていた。
「さてどうしたものかね……」
英国艦娘研究部長官のパーネルは、顔を顰めつつため息をついていた。そんな彼に本日の秘書艦のネルソンは苦笑しつつ、サイドテーブルにティーポットを置いた。
「随分と苦戦しているようだな」
「それはそうだ。さすがに貿易品の選定なんて専門外だ」
「だろうな」
いつもは整然と整理されている執務机に、所狭しと引っ張り出された資料が置かれているのを見てしまうと、ネルソンとしても頷くしかなかった。
パーネルがここまで頭を悩ませることになった根本的原因は、やはり各国によるアメリカ系提督の獲得からくる貿易不振だった。
「各国からキャンセルの通達が来ているぞ!?」
「ふざけんな!?」
これまで射撃装置やレーダーの輸出で多大な利益を得ていたイギリスだったが、各国がアメリカ系提督を獲得しアメリカ製装備の自国生産が可能になったためにキャンセルが多発。艦娘用装備の輸出事業に大きなダメージを受ける事になってしまったのだ。
「必ずこの落とし前はつけさせてやる……! ……それはともかく、今後の装備輸出事業を見直す必要があるな」
この緊急事態に国際貿易省の面々は各国への復讐を誓いつつ、輸出事業の立て直しを模索し始めた。
彼らが真っ先に行ったのは、軍部への輸出可能な艦娘用装備の大幅拡大の要請だった。これには軍上層部の面々も反対の立場をとったものの、国際貿易省も他の省庁を味方につけて戦いに挑んだことから、最終的に国際貿易省が勝利。まさに日本のそれと全く同じ政治闘争が繰り広げられ、
「で、何を売り込むよ?」
そして日本と全く同じ問題に直面する事になった。国際貿易省の面々もこれまで自国の艦娘用装備をいたことから、一定レベルで装備の知識は有しているものの、新たな輸出品の選定となると、彼らの知識の範疇を超えていたのだ。解決には専門知識を有する者の協力が必要だった。
日本では坂田という防衛大臣でありながら提督という反則じみた人物が協力した事により、事なきを得たのだが――イギリスの場合、日本と違いいささか面倒な事になっていた。
「貴様らが勝手に決めた事だろう? なら勝手にやればいい」
国際貿易省は先の軍部との政治闘争で勝利はした良いが、その過程で強引に事を進めすぎたせいで輸出品の選定で軍部の協力が得られなくなってしまったのだ。
思わぬしっぺ返しに国際貿易省は激怒しつつも独自に選定を開始したが――その工程は遅々として進まなかった。
通常の兵器違い、艦娘用装備を生産できるのは提督配下の妖精だけなのだ。そしてその装備についての各種情報を知っているのは提督であり、その提督は軍の指揮下にある。つまるところ、軍の協力は必要不可欠なのだ。国際貿易省が独自で動いたところで上手くいくはずもなかった。
すったもんだの末、国際貿易省は最終的にマクドネル首相に軍との仲介を要請する事になり、マクドネルはこのお粗末な顛末に頭痛を覚えつつも、これを了承。こうして軍も装備品選定の場に立つことになった。
とはいえ軍としても仲介があったからこそ選定する事になっただけであり、軍上層部も全面協力する気はサラサラない。誰か適当な者に押し付けるつもり満々であり、そして今回生贄にされたのが、国防省の外局である英国艦娘研究部だった。
「押し付けられたとはいえ仕事は仕事だ。余も手伝ってやろう」
「……大丈夫か?」
「任せろ。それで貿易の状況はどうなっているのだ? アメリカ系提督のせいで装備が売れなくなったのは余も知っているが」
「具体的にはレーダー関連のキャンセルが相次いだうえに、売れ筋だったヘッジホッグが全滅したのが国際貿易省が慌てた原因だな」
「ああ、ヘッジホッグは仕方ないな」
これまでイギリスは271型や293型といったレーダー系と、ヘッジホッグやType124などの対潜兵装を主力輸出品として各国に輸出していた。特にヘッジホッグは戦後も運用された英国を代表する兵器ということもあり飛ぶように売れていたのだが、アメリカ系提督もヘッジホッグの生産が出来る事が判明したため、受注が文字通り全滅する事になってしまったのだった。WW2当時アメリカ海軍でも採用されたヘッジホッグが、約80年後に英国に脅威を与える事になるなど誰も思ってもみなかった。
「しかし対潜兵装はそれだけではあるまい? 特にType144Q、Type147、スキッドの組み合わせは強力だ。これならいけるぞ」
「そこは俺も国際貿易省に推薦する予定だ。アメリカ系提督のおかげで艦娘の母数は増えているから十分売れるだろ。問題はレーダー系だな」
「? 性能はイギリス製の方が上ではないのか?」
「確かにイギリス製の方が上だが、アメリカ製レーダーも高性能なのが問題だ。お陰でこれまでのように『大量に売れる』、とまではいかない可能性が高いらしい」
性能こそイギリス製に軍配が上がるだろうが、調達コスト及び調達のための時間を考えると、自国で生産できるアメリカ製が中心になると国際貿易省は予測していた。
なおWW2時アメリカはイギリスから技術供与を受けて、レーダーを開発したとされている。またもや過去のイギリスの行動が、今になって自分たちに不利益を与えていた。
「国際貿易省からの要望は、このレーダーでの減収分を埋められる物を提案だが……」
「なるほど。思いつかない、と」
「そういう事だ」
国際貿易省はこれらレーダーの減収が大きすぎて、対潜兵装の増収分を合わせても埋め合わせが出来ないと見ていた。そのため新たな商品を欲していたのだ。
とはいえ、そんな都合のいい代物がそう簡単に見つかれば苦労はしない。ネルソンは難しい表情を浮かべて腕を組む。
「……残念だが、余も思いつかん」
「だろうな」
「そもそもの話だがこれまで輸出していた兵装がレーダーと対潜に偏っていたということは、逆に言えばそれ以外のジャンルでは売れないという事なのだろう? 今更輸出可能装備を拡充したところで、これまでのように売れるとは思えん」
「全くの同感だ」
ネルソンの持論に、大きく頷くパーネル。今回の仕事にあたり資料を読み漁ったパーネルからすれば、今の状況はどうあがいた所で詰みであった。
「仕方ない。最悪『そんな都合のいいものはない』で押し通すことにしよう」
「随分と投げやりじゃないか。いいのか?」
「構わんよ。元々国際貿易省が無茶を言っているだけだ」
「それもそうだ。……ふむ、提督も疲れただろう。ここはTea Timeにしようじゃないか」
「ああ、そうだな。頼めるか?」
「任せろ」
こうして二人は紅茶を片手にブレイクタイムと洒落込み始めた。とはいえそこで行われる会話はイマイチ仕事の事から離れられず、自然と先ほどの話題の続きとなっていた。
「しかし国際貿易省に先ほどの回答をすると、いろいろと睨まれるのではないか?」
「仮に文句を言ってきたら、きっちりと理詰めで返してやるよ。それでも文句を言うなら、国防省にも声を掛けようじゃないか。政治情勢的に国防省は国際貿易省に恨みがあるから、俺たちに味方してくれるだろう」
「随分とフラストレーションが溜まっているじゃないか」
「こんな無茶な仕事を押し付けられれば、ストレスも溜まるさ」
「それもそうだな」
「もっとも、あそこの官僚たちは、軍事なんて全く分かっていないだろうがな。今回の輸出品騒動の最初期に、『一撃で深海棲艦を倒せるようなものを出してくれ』なんてほざいたって噂もある程だ」
「なんだそれは。そんなものがあれば余が使っている」
あまりの滅茶苦茶具合に呆れつつ、紅茶を口にするネルソン。だがその時、
「……いや待てよ?」
彼女の脳裏を何かが引っ掛かった。
「どうした?」
「ちょっと待ってくれないか?」
パーネルの心配を余所に、ネルソンは本能の赴くままに高速で思考を巡らせる。それは時間にして10秒も満たないだろう。だが彼女はその短期間で
「あれがあったか」
「それ」に辿り着いた。
「Admiral。用途が限定的だが絶大な威力を誇る兵器があった事を思い出したぞ!」
「……そんなものがあるのか?」
「ある! 早速工廠に行くぞ! 確かあそこに残っているはずだ!」
「お、おう」
こうして自信満々のネルソンにパーネルは引っ張られていった。そして――
2020年10月、フィリピン近海のとある小島。日本どころか国家があった時代のフィリピンでも無名だったこの島で、艦娘と深海棲艦による激しい戦いが繰り広げられていた。艦娘たちは海上から小島に上陸しようと押し寄せ、対する深海棲艦は内陸部から敵に砲撃の嵐を浴びせている。戦況は膠着状態だった。
『クソ、思ったよりも抵抗が激しい』
艦隊の指揮を執る岩仲は、苦々しく呟いた。
彼の艦隊はフィリピン司令部の命令により、目の前の小島の攻略を行っている真っ最中であるのだが、厄介なことに島には多数の砲台小鬼をはじめとした強力な防衛戦力を有しており、なかなか上陸出来ないでいた。
「砲台小鬼が事前の情報よりもかなり多いです。これだけの数になると迂闊に近づけない」
岩仲が乗艦している神州丸は、前線から送られてくる情報を冷静に分析する。砲台小鬼は陸上でしか碌に動けない深海棲艦にしてはいささか特殊な敵ではあるが、高火力、重防御を誇る存在だ。今回のような防衛戦では恐ろしいまでに強力な敵であった。
「長引くと、こちらの損害も大きくなります。提督殿、どうしますか?」
『仕方ない。一応持ってきておいたアレを使おう』
「……アレを使うのですか?」
岩仲の決断に、神州丸は僅かながら眉をひそめた。彼女としては提督の指し示すモノは確かに火力こそ高いが動きが直線的過ぎていささか使いにくいので、あまり好みではなかった。
『当たらなくても、敵を混乱させることは出来る。やるぞ』
「了解。前線部隊を一時後退させます」
ところ変わって防衛側の深海棲艦。この小島の防衛の任に当たっている集積地棲姫は、砲撃を継続しつつも後退していく艦娘たちを眺めつつ、小さく鼻を鳴らした。
――ふん、ようやく引いたか。
ここの所、艦娘側の偵察の頻度が多くなっていたので、念のためにこの島の防衛能力を増強しておいたが、今回はそれが功を奏していた。先ほどまでの戦闘で多少の損害は出たものの、艦娘側には自軍以上の損害を叩き込んでいる。ダメージレースの事を考えれば緒戦は深海棲艦側の勝利といった所だろう。
――このまま援軍到達まで守り切るぞ。
敵の戦力は深海棲艦側を上回っているものの、防御に専念していればそれなりに長い時間、島を守り切れる程度には戦力も防御陣地も整えてある。少なくとも援軍到達までは余裕だろうと、集積地棲姫は考えていた。
だが、その時だった。
――……ん?
集積地棲姫は海岸に何かが次々と上陸していくのを見つけた。艦娘が放った上陸艇だ。彼女はすぐさまそれに排除しようと命令をしようとしたが、異変に気付いた。通常の上陸艇ならばそこには陸戦対応の妖精の姿があるはずであるが、今回上陸したそれにはほとんど妖精の姿は見られず、代わりに変なモノが載っている。
――……おい、まさか。
上陸艇に載っているもの。それはドラムを二つの巨大な車輪で挟んだ構造であり、更に車輪の枠には何か筒のようなものが引っ付いている。
“点火!”
妖精の掛け声と共に車輪の枠に備え付けられているロケットが点火され、巨大なボビンの群れが防御を固めている深海棲艦たちに向かって突き進んでいく。
そう、この巨大なボビンの正体は、
――パンジャンドラムかよ!?
突如現れた英国の珍兵器に、集積地棲姫は思わずツッコミを入れる。そんな彼女の絶叫を余所にパンジャンドラムの大群は防衛部隊に襲い掛かった。
防衛部隊の主体は砲台小鬼。火力と防御力こそあるものの、機動力は低い。いくらパンジャンドラムに誘導装置がないとはいえ、パンジャンドラムの弾幕をかわし切れるものでない。防衛部隊のあちらこちらで爆発起こる。
――ちょっ、おまっ……退避いいいいいいぃ!?
慌てて部隊に後退の命令を下す集積地棲姫。しかしその直後、彼女の目の前にまでパンジャンドラムの大軍が躍り出て、
――ああああああああああああぁ!?
連鎖する大爆発と共に彼女の意識は吹き飛ばされた。
何がどういう経緯で、フィリピンでパンジャンドラムが登場したのか。それは実に単純だ。
英国の某戦艦がパンジャンドラムを推薦し国際貿易省に採用。後に日本に輸出され運用されるようになった。ただそれだけである。
とはいえ、パンジャンドラムを少しでも知るものであれば、誰もが疑問に思うだろう。
「まともに使えるのか?」
実際、過去の実験ではまともに直進させる事が出来なかったし、地面の起伏のせいで転倒するといった事例もあった。そんな兵器が実践に使えるのか疑問に感じるのは当然だろう。
しかしそんな不安に、
“大丈夫だ。問題ない”
パンジャンドラムを運用する妖精たちは力強く答えていた。
人類がパンジャンドラムを作り運用するのであれば、無理だったのだろう。だが今回運用するのは妖精たちだ。
そう。故障が多いポンポン砲を故障させずに真面に動かし、主脚が弱く着艦で脚が折れる事故が多発していたシーファイアをなんなく運用できる妖精たちである。
つまりパンジャンドラムも妖精の手に掛かれば、直進出来るし、多少の起伏も乗り越えられる、強力な対地兵器と化すのだ。
こうしてイギリスはパンジャンドラムの輸出を開始した。
このセールスだが、結論だけ言うと主に日本で売れる事となる。パンジャンドラムは上陸戦の支援を目的に開発されたのもあり、東南アジア方面での上陸戦が頻発する日本に需要があったのだ。逆にそのコンセプト故に、防衛戦がメインの艦娘中小国には殆ど売れなかったのだが。
そんな事情もあってかパンジャンドラムのセールスは、大ヒットとまではいかないものの、セールスランキングではそこそこの地位につける程度には売れていた。ついでに各国の一部のネット住民は実際に活躍するパンジャンドラムに、大いに歓喜したという。
後にあるネットニュースのインタビューにて、パーネル提督配下のネルソンは当時の事について、
「紅茶を口にしたとき、巨大なボビンが頭を過った」
と、語ったという。
紅茶の香りに誘われた結果がこれだよ!