それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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時系列は本編最終話辺りです。

今回の話は、結構ゲーム本編に寄っていて、更にある種のゲームをやったことのある人間なら経験したことがある話になります。


それぞれの憂鬱外伝54 艦娘建造の一幕

 伊豆諸島鎮守府には様々な施設があるのだが、工廠は鎮守府における最重要施設の一つと数えられている。艦娘の建造、装備の開発、艤装の整備etc、これらの作業を一手に担っているのが工廠なのだ。

 そんな工廠の一角に特殊な部屋がある。そこはせいぜい八畳程度と狭い部屋であるが、他の場所とは違い工具類が何も置かれておらず、代わりに部屋の真ん中に鋼鉄製の棺のような物が鎮座しているだけの実にシンプルな部屋である。

 そんな工廠の中でもいささか異質な部屋に、秋山の姿があった。彼は緊張した面持ちで目の前の棺を見つめている。

 

「明石」

「はい」

 

 彼の横に控えていた明石は一つ頷くと棺に歩み寄り、棺のロックを解除する。その表情は秋山の雰囲気に中てられたのか真剣そのものだ。

 

「開けます」

「ああ」

 

 金属製の蓋が明石の手によってゆっくりと開かれる。真っ暗だった棺の中を部屋に備え付けられていた照明が照らし、そして棺の中身の正体を暴く。そこにあったものは――竹弓と矢筒、弓道着モチーフの衣装、黒い胸当て、そして「ア」と書かれた前掛け。

 

「……赤城さんですね」

「赤城かぁ……」

 

 二人そろって落胆のため息を吐いた。

 艦娘の建造はランダムだ。資源の投入量を調節することである程度艦種を絞る事も出来るが、それでも最終的には天運に任せる他はない。建造担当の妖精も「建造は降りてくる魂次第だから」との事で、こればかりはどうする事も出来ないらしい。なお艦娘用の装備の開発も似たようなものであったりする。

 

「今回は結構期待できたんですけどねぇ」

「確かに欲しいのは空母だけど、赤城じゃないんだよなぁ」

「これどうします?」

「改修用に回しておいて」

 

 愚痴を言いながら鋼鉄製の棺――艦娘建造用の乾ドッグから、二人は赤城の艤装を事前に持ってきておいた段ボールに移していく。同じ艦娘が同一の鎮守府に建造されることはまずありえない。ランダムの末にすでにいる艦娘が建造されることになった場合は、艤装だけが建造装置に出現する様になっている。

 

「やっぱり中々、新しい艦娘は出ないな」

「最近は補助艦狙いでも出ませんからね。ましてや今回みたいな大型艦狙いだと……」

「だよな」

 

 横須賀にいた頃から建造を続け、順調に艦娘の数を伸ばしていた秋山だったが、最近は中々新たな艦娘を建造出来なくなってきている。そのため伊豆諸島鎮守府の艦娘戦力は伸び悩み始めていた。

 とはいえこの悩みは、古参の提督の共通の問題でもあり、そしてその原因は解決不可能な事象であった。

 

「まあ、そろそろ上限が見えてきているからなぁ」

「この鎮守府に在籍している艦娘は378人ですからね。そりゃダブるってもんですよ」

 

 2023年2月。この時点での最初期に提督になった者の艦娘保有数は平均でおおよそ380名となっていた。日本系提督が建造できる艦娘が約600であることを考えると、建造数ではまだまだ余裕はあるものの、この時期になるとどの鎮守府も目立った戦闘能力を持つ艦娘はおおよそ建造し切っており、後は取りこぼしを拾っていく時期にあった。

 これは戦力増強の面において厄介な事でもある。普通のモノならば設計図を基に作るなり出来るだろうが、艦娘の建造はランダム要素が大いに含まれている。そう易々と求めている艦娘が手に入れる事は出来ないだろう。

 では、どうすればいいのか? 答えは実に簡単だ。

 

「それじゃあ次の建造を始めましょうか」

「そうだな。……なんで現実世界でソシャゲのガチャみたいな事やってるんだろうな」

「そんな事、私に言わないで下さいよ……」

 

 ――ひたすら回数を重ねるのだ。まさにガチャである。

 なお、この艦娘建造ガチャ、費用は全て国が出しており、提督の財布は全く痛まない実に良心的なガチャである。代わりに日本の命運を背負っているので、代償は大きいのだが。

 

「狙いは?」

「今回も大型艦で」

「はい」

 

 明石は手慣れた手つきで建造装置に資源を入れると、部屋の隅で控えていた妖精に声を掛ける。

 

「それじゃあ妖精さん、お願いします」

“オッケー”

 

 工具のようなものを持った妖精たちが建造装置に飛び込んでいく。その様子を確認すると、明石は装置の扉を閉じた。

 

「これで9回目のチャレンジか」

「そうなりますね。まだ9回目ですし期待値的にはまだ出ないのも仕方ないですよ」

 

 艦娘の建造はランダムではあるが、事前に投入される資源の量を調節することである程度コントロールする事が出来る。投入量が少なければ駆逐艦、多ければ空母や戦艦、といったようにだ。とはいえこれは飽くまでも「ある程度」止まりであるので、最終的に誰が建造されるはランダムである。

 

「それに今回狙っている『信濃』は、大型艦の中でも建造確率が低い艦娘ですし、気長にやりましょう」

「個々の艦娘に建造確率が設定されているっぽいのとか、つくづくガチャだよな」

 

 これまでの艦娘建造で得られた統計から、艦娘の建造確率は均等ではなく、実艦時代の建造時期が古いほど艦娘の建造確率が高い傾向にある事がわかっていた。逆に言えばWW2当時に新鋭艦であった場合、建造できる確率は低いのだ。最近狙っている伊豆諸島鎮守府最後の未着任大型艦である「信濃」は、その来歴的にも建造確率は恐ろしく低かった。

 

「それにしても建造装置が一個だと、効率が悪いですね。建造までに時間もかかりますし」

「特に大型艦の建造だとな。建造に数時間かかるから一日でも2、3回が限界だ」

「一瞬で建造が出来るような装置があれば効率も上がるんですけどねぇ」

「そうだよなぁ」

 

 言ってしまえば、建造は一日回数が制限された単発ガチャなのだ。ソーシャルゲームのそれと違い実質的に回数制限は無いのでいつかは目的の艦娘の建造は出来るだろうが、よっぽど運が良くない限り時間がかかるのはほぼ確実である。

 そのため何とか短期間で目的の艦娘を建造できないか、奮闘する提督は多い。

 

「確率を上げるために建造装置を増やしません? 思い切って9個ぐらい」

「10連ガチャとか、ソシャゲでよく見るやつ……。いや流石に無理だな」

「なんでですか?」

「他所の鎮守府が実際に建造装置の追加を申請したけど却下されたらしい。なんでも後々使わなくなるのが目に見えているからだとさ」

「えぇ……。それじゃあどうしようもないじゃないですか」

 

 とはいえ、真っ先に思い浮かぶ、かつ確実に確立を上げる方法はすでに阻止されてしまっていた。

 余談であるが、件の申請を却下した横須賀地方隊だが、その裏では防衛省すら巻き込んだ論争が行われていたりする。古参提督の新規艦娘建造確率の低下は防衛省でも問題視されており、これを解決するためにも、これまでのように一鎮守府に建造装置一個に限定せず複数個持たせるべきである、との声も上がっていた。もっとも反論として、建造可能艦娘の上限が近づいていることもあり、近い将来増設した建造装置が無駄になってしまう、との意見も出ており、論戦が繰り広げられていたのだ。なお最終的には、日本系艦娘は数が多く可及的速やかに上限まで艦娘を揃える必要性はない、との事で反対派が勝利する事となった。

 ともかく、こうして現実的な手段が潰されてしまった提督たち。そんな彼らが縋ったのは――オカルトじみた手段だった。

 

「いっそ艦内神社の分霊元に参拝してみますか?」

「割とメジャーなやり方が来たな。信濃の艦内神社の分霊元は諏訪大社だったっけ」

「あ、やっぱりメジャーなんですか」

 

 艦内神社の分霊元に建造祈願のために参拝するのは、提督たちが真っ先に飛びつく手段だった。実艦時代に由来がある神社ならば目的の艦娘と巡り合わせてくれるかもしれない。そう考える提督は多く、休日に鎮守府近辺の分社に参拝したり、気合が入った者は本宮まで赴く者もいる。

 

「それじゃあ提督も参拝に行けばいいんじゃないですか」

「いや、当面無理だな」

 

 最もこの方法は秋山では実行しにくかったりもする。

 

「? 何でですか?」

「分社があるのは本土だからなぁ。本土の会議のついでとかならともかく、参拝するためだけに本土まで行くのはちょっと……」

「あー……」

 

 伊豆諸島鎮守府の立地上、本土に行くだけでも相応の時間が掛かるのだ。ためらうのも仕方のない事だった。

 

「それじゃあ、神社でお祓いしてもらう、とかも出来ませんね」

「まあな。……いや、日進辺りなら出来るか?」

「いや、あれってそういう衣装なだけですから、多分出来ませんって」

 

 余談だが艦内神社とは無関係な神社への参拝及びお祓いも、そこそこ行われていたりする。なお伊豆諸島にも神社は流石にあるものの、かつて行われた民間人の強制移住のせいでお祓いをしてくれる神主や巫女はいないのだが。

 

「お祓いとか参拝がダメとなると、何とか物欲センサーの対策をしないといけませんね」

「物欲センサーって……。いや、あってるけどさぁ」

 

 この物欲センサー。ネットスラングではあるが、古参提督内では建造において実際によく使われている言葉である。建造がガチャに近い以上、そんな言葉が取りざたされるのは当然であり、

 

「物欲センサーの対策と言えば、やっぱり有名なのは無心ですね。座禅でも組んでみません?」

「まあ無心にはなれそうだな。後は別の作業をしながら建造するとかか」

「別の艦娘を狙って建造するのもアリですね」

「ウチだったら、まるゆとか? なぜか大型艦狙いで出るけど」

「いいですねぇ。まるゆちゃんの艤装は改修の素材にすると、何故か艤装の調子が良くりますし」

「あれ、何でなんだろうな?」

「さあ?」

 

 そして当然、提督たちの行動も物欲センサーの対策で有名な方法そのものであった。なおこれらは実際に行われている。

 

「ああ、そういえば欲しい艦娘のイラストを描いてみるってのもあるな」

「そんなものもあるんですか」

 

 これは割と少数派ではあるが、絵心のある提督などはイラストを描く者もいたりする。なお長引いた場合、鎮守府に特定の艦娘の絵が溢れてしまう危険性もある。なお実際にそのような事態に陥った鎮守府も存在している。

 

「で、提督は絵とかは……」

「……」

「ああ……」

 

 視線を逸らす秋山に、明石はいろいろと悟った。

 そんな二人がグダグダと雑談を続けていると、

 

“終わったよー”

「えっ?」

「んん?」

 

 建造装置から出てきた妖精に、二人は思わず目を剥いた。建造が始まってからまだ20分も経っていないのだ。それにも関わらず建造が完了したということは――

 

「まさか」

「開けます」

 

 明石は建造装置の上蓋を開く。装置の中にあったのは、「ゆ」の文字が書かれた白いスクール水着。

 

「……外れですけど、ある意味当たりですね」

「……やっぱり日進辺りにお祓いしてもらおう」

 

 ――その後、幾度建造に挑んでも信濃が出る事はなく、秋山は大いに苦しむことになるのだ、これはまた別の話である。

 




秋山、信濃入手までの建造回数:1d100
判定:71

単発ガチャ(実質一日で引ける回数が制限されている)でこの回数は……


ゲーム本編と本作の艦娘取得に関する差異ですが、
1、ゲーム本編と違い海域ドロップは無し
2、代わりに全艦娘が建造可能
3、建造時間はゲーム本編と同じ。ただしバーナーはない。なお建造中は残り時間は表示されない
4、建造ドッグは一鎮守府に一個のみ。増える予定もない
5、通常建造、大型建造の分別は存在しない

となっています。
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