それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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時系列は特に決めていません。

今回は妖精製になったお陰で、色々と強化されることになった兵器についてです。


それぞれの憂鬱外伝55 ある特殊兵器についてのあれこれ

 艦娘用装備の開発。それは艦娘建造に次いで艦娘戦力を向上させる有力な手段と目されている。艦娘の特性上、かつての実艦時代ならばスペースや重量問題などで搭載できないような高性能な装備を搭載する事で、個々の艦娘の戦闘能力を向上させる事が出来るのだ。各国がこれに注目しないはずがなく、提督たちに艦娘の建造と並行して装備の開発を命じるのは当然であった。

 そんな艦娘用装備ではあるが、どのような物が開発出来るかというと、提督が所属していた国家がかつて「開発」「研究」「採用」のいずれかを行ったある程度「海に関わる戦い」にまつわる兵器である。そのため作れるのは多種多様なうえに、場合によっては海外製の兵器すら開発出来る混沌っぷりを発揮する事になるのだが、同時にいささか扱いに困るような兵器も開発されてしまうケースも存在していた。

 

 

 

「出来ちゃったかぁ……」

「出来ちゃいましたねぇ……」

「……」

 

 ある日の伊豆諸島鎮守府に併設されている工廠。周りで妖精たちが慌ただしく艤装や装備の整備を行っている中、鎮守府のトップである秋山と工廠の責任者である明石、そして本日の秘書艦であるサラトガの姿があった。

 

「まあ装備開発はランダムだから、『これ』が出来るのは仕方ないよな」

「開発確率は低いですが、ゼロではありませんからね」

「……そうですね」

 

 工廠内の装備開発区画の片隅に備え付けられたテーブルに鎮座する装備品に、秋山と明石は困ったように、サラトガは硬い表情で見つめていた。

 

「って、サラトガ大丈夫か?」

「えっ?ええ、大丈夫です。ごめんなさい、提督」

「サラトガさんは、実艦時代に『これ』に関連する作戦で被害を受けましたしね」

「あー、やっぱり気分のいい物じゃないか」

「いえ、お気になさらず。それよりも」

 

 サラトガは頭を振るい、改めて目の前の先ほど作られた装備に視線を向けた。

 

「この『桜花』はいかがしますか?」

 

 三人の前に鎮座する特攻兵器「桜花」を前に、彼女は秋山に尋ねた。

 

 開発によって出現する装備は、かつて「開発」「研究」「採用」のいずれかを行った兵器である。そうであるからこそ、開発テーブルの中に大戦末期に開発された「特攻兵器」も含まれているのは当然の帰結なのだ。開発で出現する確率は低いものの、各鎮守府で、桜花や回天、震洋といった特攻兵器が現れる事が度々見られていた。

 

 サラトガの問に、秋山はガシガシと頭を掻く。

 

「これなぁ……。何気に強いんだよな……」

「そうなんですよねぇ……」

 

 頭を悩ませながら呟く秋山と明石。確かに「桜花」はかつての「悪名高い特攻兵器」である。しかし目の前に鎮座するこの装備は、深海棲艦との戦いにおいては「優秀な兵装」でもあるのだ。

 

「以前、呉で桜花の運用実験がありましたね」

「結果は良好。高速で迫る桜花に護衛役の艦娘の対空砲火を上げたらしいけど、それを潜り抜けて目標を粉砕したらしい」

「私たちが持っているようなWW2の兵装じゃあ、桜花の迎撃は困難ですからね。深海棲艦の武装もWW2程度ですから、迎撃はほぼ不可能でしょう」

「で、火力の方も絶大。桜花に乗っかってるのが1200㎏の徹甲爆弾だから装甲が厚い戦艦通用する」

「ちなみに妖精製になったお陰で、駆逐艦みたいな装甲が薄い相手でも、過貫通せずにちゃんと爆発するようになってたりもします」

「ますます強いな」

 

 ここまでであれば、おおよそかつての「桜花」の評価のそれであるとも言えるだろう。だが彼らの目の前にある「桜花」は、かつての「桜花」を上回る利点を有していた。

 

「で、実物の『桜花』とこの妖精製の『桜花』の最大の違いが――搭乗者が戦死しないって事なんだよなぁ……」

「正確には違うんですけどね」

 

 この「桜花」を操るのが妖精である事。これだけでBaka Bombと呼ばれた人間を誘導装置にした兵器が、一瞬にして優良兵器と化してしまう。何せ妖精は戦死しても復活できるのだ。

「桜花」の場合、陸攻の兵装であるので、「桜花」で戦死した妖精は陸攻の航空基地で復活する事となる。

 ――つまるところ特攻兵器の一番のネックである、パイロットの使い捨てが行われないも同然なのである。

 なおこの特性は他の特攻兵器でも確認させており、特攻兵器を操る妖精の負担の問題を差っ引いても、「優秀な兵器」であるとの評価を下さざるを得なかった。

 

「まあ、桜花自体の射程が短いのと、陸攻に桜花を乗せると速度と運動性が低下するって弱点があるから、滅茶苦茶強いわけじゃないけどな」

「でもかつての大戦の時と違って、今の私たちなら陸攻隊に十分な護衛機を付けられますから、『桜花』を投下出来る機会は多かったりするんですよね」

「で、桜花のパイロットも記憶を持ったまま復活するから、人員が減ることがない処か『桜花』の誘導能力も上がる、と。やっぱり強いな、これ」

「まあ、今風に言えば対艦ミサイルですからね。当然、強いですよ」

 

 「桜花」の評価を下す二人。だがサラトガは二人の説明に首を傾げた。

 

「待って下さい。サラは日本に来て以来色々と勉強しましたが、ここを含めてどの鎮守府も『桜花』を運用していません。そんなに強力な兵装ならなぜ使わないのですか?」

 

 彼女の言葉は事実だった。各鎮守府での地域防衛任務は勿論の事、攻勢においても「桜花」を始めとした特攻兵器が戦場に姿を見せる事はないのだ。

 そしてそんな光景には、当然理由がある。

 

「あー、そこは政治的理由だな。防衛省から特攻兵器運用の全面禁止令が出されてる」

「理由は確か『国民からの理解を得られない』でしたっけ。一番ヤバい欠点は改善したんですけどねぇ」

「説明したところで、うるさくなるのは確定だからなぁ」

 

 戦後教育の賜物のせいなのかは不明ではあるが、日本国民はかつての特攻及びそれに関連する兵器に対する忌避感を有しているのが現状なのだ。いくら実情が違うと言っても、特攻兵器を運用している、と耳にしただけで思考を停止してアレコレと喚く者たちが一定数出現するのは確実である。

 また運用側に関わる事だが、この特攻兵器、妖精側からは余り好まれていなかったりする。

 

“死ぬほど痛いぞ。死なないけど”

 

 呉での特攻兵器の運用テスト後、特攻兵器を操っていた妖精の言葉だ。幾らリスポーン出来るとはいえ、痛い物は痛いのである。極限状態ならともかく、そうでない時に特攻を強いるのは、妖精側の士気が下がるのが目に見えているし、それに連動して艦娘の士気も下がるかもしれないのだ。

そんな国民と軍、両方から出た懸念もあり、日本政府及び防衛省は特攻兵器の所持、運用を全面的に禁止しているのだ。

 

「そうなのですか。なら、この『桜花』は廃棄ですか?」

「いや特攻兵器は破棄するにも、面倒な手続きが必要なんだ。地方総督部に連絡したり、書類の作成をしたり」

「だから鎮守府側からすると、特攻兵器はあまり出てほしくないんですよね」

 

 防衛省は特攻兵器の確実な処分を行うために、現地鎮守府での独自の破棄ではなく、地方隊で回収し、然る後に公的な場で破棄するようにと指示を出していた。

なお所持疑惑が上がった場合、防衛省からの徹底的な捜査が入る規則となっている。伊豆諸島鎮守府の場合、表に出せない大規模な地下施設を建造しているので、痛い腹を探られないためにも、素直に面倒な手続きをしなければならなかった。

 

「まあ、今回は『桜花』だからまだ楽だな。横須賀から回収用の陸攻が来るだけだし」

「『回天』だと防衛省所属の艦娘が来ますからね」

「そうなんですか。では今から連絡を?」

「ああ、執務室に戻ろう。それじゃあ明石、『桜花』の保管を頼む」

「はい」

 

 数刻後、横須賀から来た一式陸攻が鎮守府に到着。手早く書類の確認と『桜花』回収を行い帰還していった事により、伊豆諸島鎮守府で起きたちょっとした面倒事は解決した。

 

 

 

「こちらが今月収集された特攻兵器についての資料です」

「ありがとうございます」

 

 東京、防衛省庁舎の大臣執務室。秘書艦の大淀が差し出した資料の束を、坂田防衛大臣は受け取った。

 

「特攻兵器の産出量は先月よりやや減少傾向でした」

「結局は確率ですからそういうこともあるでしょう。公開分はどうなっています?」

「予定通り、事前告知した上でいつも通り処理しました」

「見学希望者は?」

「民間人からの10名ほど。後、マスコミ関係者もいましたが、顔触れは先月と同じですし、あまり熱心ではなかったようです」

「すでに話題性も何もありませんからね。ほぼ惰性なのでしょう」

 

 各地から収集された特攻兵器だが、「我々は過去の過ちを繰り返さない」との名目を掲げた上で、月に一回、自衛隊により爆破処理されている。本来ならわざわざ爆破する必要などないのだが、特攻兵器の破棄は国民へのアピールの面も大いにあるため、素人目にもわかりやすく、そして派手に行う必要があるとの意見が出た事により、爆破処理という手段が取られていた。

 もっともこの特攻兵器の爆破処理、当初こそ世間で大きく取り上げられていたのだが、毎月やっていたせいで注目度はどんどん下がっていき、今では殆ど気に掛けられていなかったりする。そのため最近では、「普通に妖精か解体した方が手間がかからないし良いのでは?」との声も上がり始めているのだが。ともかく、このような国民へのアピールを行う事より、日本は「特攻兵器を保有しない」という立場を表明している。

 

「一般に公開する資料の方は?」

「すでに作成済みです。矛盾は見受けられないとの事です」

 

とはいえこれは、

 

「結構。流石にあそこまでやっておいて事実を漏らす訳にはいきませんからね」

「あんなことをしておいて、特攻兵器を保管している事が漏洩したら大変です」

 

飽くまで、表向きの話であった。

実の所、一部の特攻兵器は秘密裏に各地方総督部に一定数を保管している。防衛省としても最大のデメリットが消え去った事により一躍優良兵器と化したかつての特攻兵器群を、完全に使用禁止にするには惜しかったのだ。

 

「情報漏洩の対策はきっちりと行ってください。発覚したら確実に碌なことにならないですから」

「艦娘用の兵器は、かつてのモノと全くの別物ですけどね」

「それが事実であっても、世間が受け入れるかどうかは別問題ですからね。そういう面倒事に対応するのも、政治の一つですよ」

 

 特攻兵器を保管しているとはいえ、この情報が世間に漏れれば日本政府及び防衛省に大きなダメージを受ける事は確実である。そのためこの事実はレベルの高い軍事機密に指定されていた。

 

「しかしそこまで手間を掛けて特攻兵器を保有しておく理由が、もしもの時の保険、というのも、勿体なく感じますね。結局使わず仕舞いで労力が無駄になるかもしれませんのに」

「保険なんてそんなものですよ。ましてや特攻兵器が使われるのは本土決戦です。そんなもの起らないに越したことはありません」

 

 書類を改ざんし、機密指定にまでされている日本による特攻兵器の保持だが、その目的自体は「本土決戦時の戦力」という、理由としては割とありきたりなものであった。もしもの時は、各地方隊が保管している各種特攻兵器を各鎮守府に配布し、それらを用いて深海棲艦を迎え撃つ算段である。もちろん、そんな事態にならない方が良いのだが。

 

「ともかく、今後も特攻兵器の収集を続けて下さい」

「かしこまりました」

 

 こうして日本は秘密裏にもしもの時に備えて準備を続けていく事となる。

 

 




まあ特攻兵器なんて、世間を考えたら大っぴらに使えないよねって……
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