それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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時系列は特になし。今回は前から感想欄で度々疑問が飛んできていた事についてです。


それぞれの憂鬱外伝58 割りとデリケートだが、かなり重要な事柄についてのあれこれ

 国際防衛研究機関、通称IDRO。

 

深海棲艦出現に伴い国連により設立されたこの組織は、深海棲艦に対する研究目的としている。艦娘出現以降は彼らが扱う対象に艦娘も含まれるようになり、最近では艦娘関連の研究の方に比重が置かれ始めていたりもする。

これだけを聞けば、漫画やアニメで出てくるような世界各国から集められた優秀な頭脳が集結した研究機関、のように思えるだろうが、実態はそんなに甘くはなかったりする。各国から研究者が集まっているのは事実ではあるが、研究者の質は平均レベルであるし、予算面も一応各国から国連を通して資金提供されているものの、十全という程ではない。

 とはいえ、では意味がないのか? と問われた場合、それは否と答えられたりする。研究組織としてはイマイチなIDROではあるが、各国で得られた情報の共有の場としては、優秀な組織であるのだ。

一部の者たちからは、「各国の研究成果を学会で発表して情報を共有すれば良いのでは?」との疑問も呈されることがあるのだが、実の所、これはいささか難しい。各国が深海棲艦と相対し戦闘を続けている以上、研究の過程でどうしても国の軍事機密が絡んできてしまう。研究結果に軍事機密が関わっていた場合、軍事機密の部分はぼかして発表する事になるのだが、学会的にはその研究結果は評価に値しない存在となってしまう。何せ「過程」が不鮮明である以上、正確な評価を下すことが出来ないからだ。

そこで登場するのがIDROである。国連機関、つまり各国の思惑や政治が入り込んでいる組織であるからこそ、政治的背景や軍事機密といった事象に理解している者ばかりが集結している。そのため各国の事情を考慮した上での情報交換が容易になっているのだ。

そのため現在のIDROは「研究機関」というよりも、「各国の情報共有の場」としての側面が強くなっていた。

 

 そんなIDROだが、2020年のある日、本部が置かれているドイツのベルリンの一角で、各国の研究者たちが顔を突き合わして、ある事についての情報共有を行っている真っ最中であった。

 

「いや、これちょっと異常じゃないか?」

「それは確かに分かるが、集計データとして出されているのだから、信じるしかないだろ」

 

 会議室に集まっている研究者たちが真剣な表情で、各々出身国の研究機関から取り寄せた資料を突き合わせているのだが、その顔にはどこか戸惑いと若干の呆れが混じっている。

 

「ここまで一致するとはなぁ」

「このデータは艦娘出現初期から親艦娘国だった日本なら割と納得出来るが、そうでないヨーロッパ各国まで日本と類似した結果になるとは思わなかったぞ」

「正直ここまで似通っていると気味が悪いな。……一応確認するが、データ算出の過程で国家が介入した可能性は?」

「それはないな。このジャンルは軍事機密に掠りもしていないから、誤魔化す必要がない。むしろ国側からすれば、正確に情報を得たいようなタイプだから、厳格に調査が行われている」

「だよなぁ。て事はこれガチかー」

 

 この呟きに周囲の研究者たちは思わず苦笑した。この場にいる全員としても、彼の言葉には大いに頷けるものがあった。

 

「まあ、環境が環境だし、これは仕方ないのでは?」

「それに艦娘は提督に執着する傾向が強い。それを考慮すれば、この結果になるんじゃないか?」

「まあそうなんだけどさ……」

 

 この中で最も若い研究者は改めてタブレットに表示されているデータに目を落とし、何とも言えない気分のまま愚痴をこぼした。

 

「まさか男性提督の8割が艦娘と交際もしくは婚姻関係にあるとは思わなかったぞ」

 

 そう、彼らIDROの面々が今回議題に挙げていたのは、現状の提督と艦娘の人間関係についてである。

 はた目から見れば深海棲艦との戦い無関係のように思えるような今回の調査だが、国家の視点から見れば割と重要な事象であったりする。艦娘は深海棲艦に対抗できる戦力にして新たなる国民であるが、その特殊性故に彼女らの存在、行動が社会にどのような影響を与える事になるのかが全く予測が出来ていないのだ。

もしかしたら艦娘の行動が社会の思わぬところに影響を与えてしまい、それが巡り巡って社会全体に不利益となってしまう可能性もあり得る。そのような事態が起こらないためにも、様々な視点から艦娘を見ていく必要性があったのだ。そのため各国では様々な調査や議論が行われている。一部の研究者からは、これら艦娘に関わる調査及び考察を、「艦娘社会学」と呼称する程である。

当然ながら今回の提督と艦娘の人間関係の調査も、艦娘社会学の一つに入る事になる。提督と艦娘の人間関係がどうなっていくかなど過去にデータは無いので、収集するに値する情報であるのだ。

そんな背景もあり、艦娘保有国全てで調査が行われる事となったのだが――この度、中々に愉快な結果がもたらされる事となっていた。

 

「日本だけならまだわかるが、艦娘保有国全てでこれなんだから凄いよな」

「てか残り2割はどうなってんだ?」

「おおよそ提督になる前に結婚していた面々だな。極々稀にそれ以外のパターンってところだ」

「ん? って事は男の場合、未婚者が提督になる傾向が強いって事か?」

「いやそうでもない。元々結婚していたが提督になってしばらくして離婚、その後艦娘と交際を始めるってパターンも割とある」

「おおぅ。ちなみに離婚の原因は?」

「一番多いのは『戦死する可能性が高く、配偶者を悲しませないため』となってるな」

「……それ絶対、艦娘との不倫を誤魔化すための言い訳だろ」

「だろうなぁ」

 

 なおこのような戦死を言い訳として離婚するケースは世界各国で見られている。人間の考える事などどの国でも似たようなものである。

 

「話を戻そう。男性提督は艦娘と交際や婚姻している人が多いのは分かったが、相手の内訳は?」

「内訳?」

「正確には艦種だな」

「ああそれか。んー、これを見るに主要国系統は基本的に重巡以上みたいだな」

「って事は、成熟した身体を持った艦娘がそういった対象になるのか」

「まあ健全だな。国別で艦種の差が出たりするのか?」

「艦娘大国の日米英系だと、結構バラつきはあるな。アメリカ系なんかだと、空母系とくっつくやつが多い」

「とは言っても、各々で母数が違うからな。特にアメリカなんかは軽空母まで含めたら滅茶苦茶多いじゃないか。空母系とくっつく奴が多くなるのも自然だろ」

「だな。艦種については国別でみた方が良いな。実際小国系なんかだと、駆逐艦と婚姻するケースも割と多いし」

 

 そんな議論を繰り広げている研究者たちだが、実の所彼らが保有しているデータはいささか間違っていたりする。具体的にはハーレム状態の鎮守府についてだ。提督も艦娘たちも流石に自分たちの関係が世間では一般的ではない事くらい理解しているので、この度の調査アンケートには世間的にも問題視されない容姿を持った誰か一人と交際もしくは婚姻しているという、表向き用の回答がされていた。もしもそういった事情を含めたデータを入手できたとすれば、研究者たちが導き出せる結論は違っていただろう。

 

「後、大国系であっても初期艦とくっつくパターンは多いぞ」

「そこは付き合いの長さの差かねぇ。まあそこまで変じゃないな」

「もっとも、初期艦だからって海防艦や護衛駆逐艦と婚姻しようってやつは少ないみたいだが」

「まあそこはな。……ん、少ない? つまり多少はそういう奴がいるって事か?」

「ああ、いる」

「……中々に剛の者だな、おい」

 

 艦娘の年齢については、未だに国際的な取り決めが行われておらず、各国の裁量に任されているのが現状だ。例えば日本の場合、艦娘はどんな艦種であろうと建造終了時に18歳であるとされている。つまるところ、日本の場合、たとえ見た目が幼い海防艦や護衛駆逐艦が相手でも婚姻は可能である。もっとも世間一般的には「法的に問題ないからって、流石にそれはどうよ?」という反応が返ってくるので、実際にそういったことをする者は殆どいないのだが。

 

「ともかく、だ。男性提督は艦娘とくっついているが殆どってのは良くわかった。そうなってくると、次に気になるのは……二人の間に出来る子供だな」

「政府視点からすると、むしろそっちがメインだろうな」

「人間と艦娘との間に子供が出来たとして、政治方面で見ると子供がその国の国籍を得るのは確実なんだよな?」

「艦娘を国民扱いである以上そうなるな。問題はその子供がどういった能力を持っているかだ」

「そこのところは生物学の範疇になるな。あいつら研究させろってしつこいらしい」

「そのうちやりすぎて艦娘がブチ切れるかもな」

「あり得る」

「えーと、艦娘の要素を受け継いで人間以上の身体能力を得るのか、それとも普通の人間と同じようになるのか。後は成長したら提督になれるのか、ってところか?」

「政府側からすれば、提督化に期待って所だろうな。提督数の上限を伸ばしてくれるならなお良し」

 

 また、これ以外に純粋に自国の人口増加的にな意味でも両者の子供は期待されている。ただでさえ先進国は少子高齢化で人口に不安があった所に、深海棲艦との戦いが始まったせいで戦闘、戦災によって多くの人々が亡くなっているのだ。自国の未来のためにも、子供が産まれてくるのは喜ばしい事なのだ。余談だが日本の場合、艦娘出現直後に防衛省から通達されていた『夜戦』の禁止令だが、現在では鎮守府に一定数の艦娘が揃った場合、公序良俗に反しない範囲で「夜戦」が解禁されていたりする。しかし、

 

「だから艦娘保有国は、提督と艦娘が結婚した場合には、積極的に子作りすることを推奨している――はずなんだがなぁ?」

「この結果は予想できなかった……」

 

 研究者たちは難しい表情を浮かべながら、各々のタブレットに表示された資料を眺める。そこに表示されている情報は、これまでと違い異様なまでに少ない。

 

「艦娘が出現してもう3年も経ってるのに、出産例が5件しかないのは、どういう事だよ……」

 

 各国政府や研究者たちが大いに望んでいるにも関わらず、提督と艦娘の子供は、殆ど現れていなかったのだ。

 

「いや、ホントどういう事だよ。あいつ等もヤル事やってんだよな?」

「艦娘自体の情報が未だに謎が多いから、単純に妊娠率が低いって可能性も十分あるが、だからと言ってこれは流石に少なすぎるとも思えるよな」

「正直、避妊推奨とか、中絶を強制してるとか、政府が子供の存在を隠しているって言われた方が、よっぽど信用出来るデータ内容だぞ」

「物語だったら子供を引き離して研究所で徹底的に解析されるってなってそうだな。……でだ、心当たりはあるか?」

 

 流石にあんまりにもあんまりな資料に、政府側の介入を疑う者が多かった。だが他の面々も同様の疑問を持っているが故に、真剣な表情で首を横に振るう。

 

「俺もそれを心配して本国の同僚に探りを入れさせたけど、政府や軍が介入したって記録はないらしい」

「俺の所も同じくだ。後、避妊や中絶云々については、ほぼありえないな。むしろ政府も軍も避妊はするなって公言してやがる」

「そもそも話だが避妊推奨ならともかく、子供を政府が奪おうとするなら艦娘が黙っていない。そんなことをすれば確実に大事件になる」

「どう考えても暴れ回るよな……。それじゃあマスコミ対策とかで発表をしていないだけとかは?」

「その可能性は確かにあるだろうが、それだったら艦娘保有国全で出生率が極端に低いって事はないだろ。仮に政府間で協議して隠匿する事になっているんだったら、今度は逆に出生率がゼロじゃないと可笑しいし」

「そっか。って事は、これマジで純粋に出生率が低いって事になるのか?」

「そうなるな」

「おおぅ……」

 

 あんまりな結論に、思わず天を仰いでしまう研究者一同。余談だが本国の政府上層部の面々も、この結果を目にして頭を抱えた後、艦娘研究の人員に産婦人科医や生殖医療専門医が合流する事になっていたりする。

 とはいえいつまでもこんなことをしている訳にも行かない。このあまりに低い妊娠率を何とかするために、IDROは情報を出し合わなければならないのだ。

 

「とりあえず出産事例があるだけマシと考えよう。成功例の情報を精査すれば共通点くらいはあるはずだ」

「……正直、提督化の例を考えると、共通点がない可能性もあるがな」

「言うなよ……。これまで出産事例があった国とか艦娘の艦種はどうなんだ?」

「えーと、時系列順だとイギリス、アメリカ、スウェーデン、日本、ロシアで一例ずつだな」

「見事にバラバラだな。艦娘大国に集中してるって訳でもなさそうだし……」

「ついでに艦種もバラバラだぞ。軽巡が2例で、戦艦、軽空母、駆逐艦が1例づつだ」

「主力だけじゃなくて、補助艦艇にも出産例があるのか。ホントに共通点がないな」

「待て、ここは艦種じゃなくて、艦娘の容姿について考えよう。軽巡以上の艦種は身体が成長している者ばかりのはずだ」

「なるほど。身体が成長しているから妊娠する確率も高いと。それはあるかもしれないな」

「あーそれなんだが、関係ないかもしれない」

「どういう事だ?」

「軽空母の事例は日本なんだが、身体が小さい奴、それも駆逐艦と同等でな……」

「マジか……」

 

 こんなやり取りが繰り広げられつつ、IDROは世界のためにも働いている。

 

 

 

 ドイツで研究者たちがデータを突き合わせている頃、日本の伊豆諸島鎮守府のある一室でも、各艦種の代表艦娘が真剣な表情で集結している真っ最中であった。

 

「あかんなぁ……」

「そうね。私もここまで苦戦するとは思わなかったわ」

 

 苦々し気な表情を浮かべる龍驤の呟きに、五十鈴も小さくため息を吐きながら同意した。周りを見渡せば他の艦娘たちも同様に頷いている。

 

「私たちはもちろん、提督も頑張ってるのにネ……」

「元々は他の鎮守府出身のサラならもしかしたらとも思いましたけど、ダメでした……」

 

 金剛とサラトガは若干意気消沈気味であった。特にサラトガの場合、この鎮守府に来るまでの背景もあって、いささか提督に依存気味であるためか、一般的に提督Love勢筆頭と目されている金剛以上に落ち込んでいる。

 そんな沈鬱な雰囲気を醸し出している彼女たちから目を背けるように、叢雲は天を仰いだ。

 

「ホント、中々出来ないわね。子供」

 

 奇しくもこの場に集まった艦娘たちを悩ませている問題は、IDROと同じものであった。

 各国政府やIDROでも問題視されている艦娘の低妊娠率は、艦娘の間でも頭を悩ませているのが現状だ。むしろ当事者だからこそ、政府やIDROといった第三者以上に問題視している。そのため多くの艦娘たちは政府が実施している不妊に関する検査については積極的に協力しているし、独自に議論を重ねていたりする。

 

「因みに確認するけどゴムは?」

「当然なしネ。使った事なんてないヨ」

「同じく。私たちの身体の方に問題があるとか?」

「『夜戦』メンバーは、全員検診をしたけど問題はありませんでした」

「なら司令官に要因があったりする?」

「この間、提督向けの健康診断があったで。うちも確認したけど健康そのものやった」

「でしょうね……」

 

 とはいえ、そう簡単に原因がわかれば誰も苦労はしていない。艦娘たちによる独自調査でも低妊娠率の原因、及び解決方法は未だに分かっていない。むしろこの分野に関しては、国家機関の方が研究が進んでいるのが現状だ。

 

「実例があるからこそ、余計につらいですね……」

「そうだネ」

 

 サラトガの言葉には誰もが頷くものがあった。

全く子供が出来ないなら、仕方ない事と諦められるのだが、確率こそ恐ろしく低いが提督と艦娘の間に子供は出来るのだ。下手に希望があるからこそ、それに縋ってしまう。

 

「嘆いていてもしょうがないわ。とりあえずやれることは全部やってみましょ」

 

 どんどんと沈鬱なものになってきている場の空気を前に、叢雲は強引に話を進めた。

 

「うちらが出来る事なんてもう残ってないで?」

「ええそうね。だから今度からは司令官を頑張らせるわ」

「という事は?」

「ええ、『夜戦』の頻度を上げた上で、夜戦メンバーを拡充しましょ」

「あー、それしかないわなぁ」

「そうネー」

 

 叢雲の案に頷く面々。

 実際、確率が低いなら回数を増やすしか手段はないのだ。またどの艦種別で妊娠率が変わってくる可能性も考慮すると、夜戦メンバーのテコ入れも必要なのだ。だがそうなると心配になるのは提督の方だ。

 

「しかし提督が了承するでしょうか? 提督の負担は相当なものになりますよ?」

 

 首を傾げるサラトガ。彼女の懸念もまた的を射ている。具体的には語らないが、現時点でもR-18系ゲームも顔負けの「夜戦」事情である。今以上となると提督にも相応の負担がかかるのは目に見えていた。

 

「司令官には私から説得するわ。私たちが悩んでいる事も知ってるから乗ってくると思うわ。後、体力面だけど……大丈夫じゃない?」

「あー」

「心当たりあるネ」

 

 各々思い当たる節があるのか頷く。秋山の体力面については、まあそういう事である。ちなみにこの傾向は秋山だけではなく、他の提督にも見られていたりする。

 ともかく、伊豆諸島の艦娘たちも愛の結晶のための更なる努力が始まった。

 




そもそも提督と艦娘の間に子供が出来るのか? について1d100でダイスロール。20以上で可能。
結果:47

妊娠率について1d100でダイスロール。高い程色々高い。
結果:01

いや、ここで最低値を引くとは思わなかったです……。
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