それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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冬イベが近い。来週の分は書けるかな……。


海を征く者たち3話 提督と艦娘の試験

 防衛省庁舎のある会議室。各海上自衛隊基地の責任者と海上幕僚長に防衛大臣、そして艦娘の大淀が一堂に会していた。防衛大臣によって招集され行われている会議だが、会議室に映し出されている映像に誰もが視線を釘づけにされていた。

 それは23型フリゲート「ボーフォート」に現れた艦娘ウォースパイトが直後に行った海戦だった。ボーフォートが撮影した映像を、イギリスは各国政府に提供していたのだ。

 これまで人類が散々苦戦してきた戦艦級を一撃で葬り、その直後にやや危うい場面もあったが軽巡級と駆逐級2隻を撃破する。その光景は、これまで嫌と言う程深海棲艦と戦ってきた自衛官たちにとって、合成映像か何かかと考えてしまう程の衝撃があった。

 映像が終わり、基地責任者たちが驚愕する中、この中で唯一艦娘である大淀が口を開く。

 

「映像からも分かる様に我々艦娘の能力は深海棲艦に対して有効であることが、ご理解頂けたと思います」

「……こんなものを信じろというのか」

「映像を調べて頂いても構いませんよ?最もこれはイギリスから公式に提供されたものであり、日本政府でも映像を分析して本物であると確認されましたが。それとも今から私が出撃してきましょうか?駆逐艦クラスなら直ぐにでも撃破出来ます」

「……」

 

 自衛官たちは唸り声を上げ、反論できないでいた。ここにいるほとんどの人間が艦娘の能力に懐疑的だったのだが、実際に発生した戦闘映像まで見せられては納得するしかない。防衛大臣や海上幕僚長が目論んだ通りに、だ。

 艦娘という謎の存在に頼るなど、自衛官が納得するはずがない。そう考えた防衛大臣は海上幕僚長と共謀し、その有効性をこれ以上にない形で見せつけて、強制的に認めされるという手段に出た。丁度イギリスから各国政府に戦闘映像が提供されており、この企みは十分に効果が出ていた。内心ほくそ笑みながら海上幕僚長は立ち上がる。

 

「艦隊が壊滅している現状、艦娘及び彼女たちを召喚し運用できる提督は国防の要となる。諸君らには彼女たちの能力を十全に発揮できるようにしてもらいたい」

 

 艦娘という誰も運用したことのない戦力だ。運用には試行錯誤が必要であり、その過程で問題も発生するだろう。それらの問題に対処し運用するには、各基地の責任者の能力が問われることになる。仮に発生するであろう問題に対応できなければ、最悪の場合、国が壊滅しかねない。だが逆に言えばこの重大な案件をこなすことが出来れば、大きな功績とされて出世にも繋がる。まさにピンチはチャンスと言えた。その事を理解した自衛官たちは頷いた。

 

 かくして、海上自衛隊で艦娘を運用することが決定されたのだが、直ぐに次の問題が発生することになる。戦力の配分だ。

 なにせ自衛艦隊は壊滅しており、生き残った護衛艦は比較的安全な呉のドックで修理中。つまり各基地にはロクな戦力が無いのだ。日本の領海を守るという使命を果たすためには出来るだけ多くの艦娘と提督が必要であり、戦力を獲得するために暗闘が繰り広げられることとなる。

 それぞれの主張を要約すると、

 

「首都の防衛は重要だ。またハワイからの深海棲艦の攻勢にも備える必要がある」横須賀。

「修理中で動けない護衛艦を守らなければならない」呉。

「戦力が少なければ沖縄が陥落しかねない」佐世保。

「韓国が壊滅している現在、日本海の守りも必要である」舞鶴

「ロシアと貿易をする可能性があるため、北方の守りも必要である」大湊

 

 このように一人でも多くの戦力を手に入れようと必死だった。更に悪いことに会議が続くにしたがって雰囲気が段々と悪くなってきており、最悪殴り合いにまで発展しかねない空気になっていた。

 

――最悪、私が出ないと。

 

 以前不本意ながらも勃発した乱闘を思い出しながら大淀は拳を握る。首相官邸の時は力加減を間違えて骨折など相手に重傷を負わせてしまったが、お蔭でどのくらい手加減すればいいかが分かった。それに今回の相手は自衛官だ。多少加減を失敗しても大丈夫だろう。そんな物騒な事を考えている大淀だったが、幸いなことに拳を振るう機会は失われた。これまで沈黙を保っていた防衛大臣が立ち上がった。

 

「君たちの主張はよく分かりました。それを含めて配属方法を私に一任していただけませんか?」

「防衛大臣。いくらなんでもあなたが独占して配属先を決めるのは――、配属方法?」

「そう。配属方法です」

 

 会議室の全員が防衛大臣に注目する。

 

「まず最善案ですが、現在、提督及び艦娘の能力の試験を行っていますので、この結果を参考に配属先を決める方法です」

 

 幹部候補生学校の卒業生の配属先の決定方法と同じであり、自衛隊では馴染み深い方法だ。自衛官としても納得しやすい。

 

「ならば、それでいいのでは?」

「いえ試験と言ってもどれも簡略化したものです。それだけで実力を測りきれるとは思えません。また、日本に現れた提督の人数は528人。一人一人を吟味して配属先を決める時間はありません」

「では?」

「最善が取れないなら、次善で妥協しましょう。方法は同時に提督の指名を行い、指名が重複した場合は抽選を行っていきます。528人全員を」

 

 その提案に一部の自衛官は気付き、顔色を変える。何しろある業界では毎年行われている指名方法なのだ。ある自衛官は恐る恐る確認する。

 

「防衛大臣。まさかだと思いますが……」

 

 出来ればこの予感が間違いであって欲しいと願う彼だったが、その願いは防衛大臣によって砕かれる。

 

「はい、いわゆるドラフト会議です」

あっさりと放たれるその言葉に、自衛官たちは頭を抱えた。

 

 

 

 秋山は横須賀のとあるホテルのラウンジで、ソファに腰かけつつある資料を眺めていた。資料は自衛隊が行ってきた深海棲艦との交戦記録だ。内容は民間に公表されているものなので、このように公の場で読んでいても問題はない。また彼がいるホテルは政府が提督及び艦娘用に借り受けた場所であり、秋山が行っている行動はこの場においては全く不自然なものではなかった。

 

――予想以上に、マズイ状況だな。

 

 資料にはいかに日本が危機的な状況にあるかが、読み取れた。

 海上自衛隊はこれまでの戦闘により壊滅状態。残った艦の数を考えればまだまだ余裕があるように見えるが、損傷している艦も多く簡単に動かせる状況ではない。艦の補充のため新造艦の建造が急ピッチで行われているが、戦力になるにはまだまだ時間がかかる。そして何より問題なのが、乗員の問題だ。軍艦乗りはその性質上、全員が専門職と言っても過言ではない。そんな軍艦乗りが深海棲艦との戦いでその多くが戦死してしまい、只でさえ人員不足であった海上自衛隊は、深刻な人手不足に陥っていた。仮に新造艦が完成したとしても、艦を操る人員がいなければタダの箱である。ある程度戦えるレベルまで戦力が回復するにはまだまだ時間がかかると予測されていた。

 次に深刻なのは陸上自衛隊だった。現在の日本では深海棲艦による空襲に対する備えとして対空ミサイルを装備した高射特科群の活躍が有名であるが、その性質上敵の航空機からの攻撃を受けることも多く、損耗率も高かった。補充こそ行われているが、敵の空襲の激化と日本が保管している資源の減少の結果、配備数が段々と減少し始めていた。また地対艦ミサイル連隊の被害も増加しており、ジリ貧に陥っていた。

 最後に航空自衛隊だが、こちらにも問題が発生している。深海棲艦の航空機の性能は第二次世界大戦時のそれと同等の性能のため、撃墜されることはまずあり得ないのだが、稀に滑走路を襲撃されることもあり、その影響で徐々にだが機体の損耗が出ていた。また、海上自衛隊が壊滅した影響で出撃回数が激増しており、その影響で機体の稼働率の低下や深刻な乗員の過労が発生していた。機体部品の増産や閉じられていたF-2の生産ラインの再開設、F-15Jの改修プランの立ち上げ、パイロットの育成等、戦力増強が図られているがどこまで効果があるかは未知数だった。

 秋山はこれまで高校生であり、家業の農業や勉強、友人との関係を重視していたため、ここまで情勢が悪化しているとは思いもよらなかった。顔を顰める秋山に、ある人物が近づいてくる。

 

「待たせたわね」

「お帰り」

 

 叢雲は秋山とは向かいのソファに腰かけると軽く息を吐いた。

 

「今日の試験は?」

「海上での航行と砲雷撃試験よ」

「結果は?」

「上々よ。そういうアンタはどうなのよ」

「体力測定に射撃、軍隊格闘の試験。お蔭でかなり疲れたよ」

「ご愁傷さま」

 

 秋山が日本政府により招集され東京に向かってから五日が経ったが、彼らはその間一度も深海棲艦との戦闘は行われていなかった。

 政府は彼らを運用するにあたって、提督や艦娘がどれだけの能力を有しているのかを知る必要があった。防衛大臣から報告はされているが、やはり実際に能力を測る方が効率が良かった。そのため政府は招集した提督たちに対して防衛省庁舎で招集に関する説明を行った後、試験会場のある横須賀の自衛隊基地へ移送。横須賀でデータ収集のための試験が連日行われていた。

 試験内容は、学力だけでなく、軍事に関するものと言ったペーパーテスト。体力測定、軍隊格闘、銃器の扱い、士官クラスの自衛官との図上演習など、多岐に渡るものであり、収集された情報を元に配属先が決められることになっていた。

 

「試験結果はどうなのよ」

「まあ並といった所だな。ペーパーテストや図上演習の時より成績が悪かったし」

「ま、そんなものじゃない?」

 

 提督となった人間は軍事知識を初めとした様々な知識や技術がインストールされるが、向き不向きと言った個性があることが、試験によって判明していた。秋山の場合、射撃や軍隊格闘など身体を動かすような技能は平均レベルではあったが、代わりに戦術、戦略クラスの技能は高い能力を持っていた。

 

「そういう叢雲は身体を動かすタイプは成績いいよな」

「艦娘なんだから当然じゃない」

 

 そして提督と同じく、艦娘の技能においての個性があった。今回の試験で同一艦であっても得意とした技能が異なっていることが判明したのだ。叢雲の場合、戦闘に関する技能は高かった。ただ――

 

「元は艦なのに接近戦が一番得意ってどうなんだ……?」

「う、うるさいわね」

 

 砲撃や雷撃と言った主要な攻撃手段よりも、槍を使った接近戦の方が得意と言う、軍艦の付喪神なのかと疑いたくなるような個性を有していたのだった。彼女自身も若干気にしているようで、いつもより反論の力は弱い。

 

「それより明日はアンタと一緒に模擬戦よね。相手は決まったの?」

 

 翌日は連携試験という名目で、提督と艦娘が一緒に試験を行うことになっていた。試験内容は模擬戦であり、レベルの高い戦闘が見られると政府関係者からは期待されていた。

 

「砲戦が得意な吹雪と、状況判断に秀でた提督だったな」

「砲戦、ね……」

 

 顔を顰める叢雲。接近戦を得意とする叢雲に取って相性が悪い相手だった。彼女は攻撃を回避する技能も高く並の相手なら易々と接近戦に持ち込めるのだが、生憎今回の相手は砲戦の成績は上位に食い込む程の技能の持ち主。回避しながらの接近は困難と見てよかった。また相手の提督も優秀と言って良い成績を収めており、苦戦は必至だった。

 

「それで?私の優秀な司令官様は必勝の作戦を立てているのかしら?」

「いや、お前も考えろよ」

「餅は餅屋って言うじゃない」

「ああ、そう……」

 

 そう言われてしまっては、秋山としては何も言い返せない。

 

「まあ、一応出来てはいるな。ただやるには仕込みが必要だな」

「へえ、聞かせて?」

 

 こうして彼らの模擬戦に向けての作戦会議、そして準備は進んでいった。




今回は秋山と叢雲が試験を受けていたということで、ステータスを決めてみます。ベースはソード・ワールド2.0のキャラクターメイキング。それぞれの項目で2d6を振る形です。
砲撃・雷撃は技、格闘・運動は体、運動・戦術は心の数値をプラスして算出してみました。


叢雲ステータス:SW2.0基準
技8、体11、心4(2d6)
砲撃6、雷撃8、格闘9、運動7、指揮4、戦術8(2d6)
砲14、雷16、格闘20、運動18、指揮8、戦術12 

普通に強キャラが出来てしまった。これ一発振りなんだけど……。
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